勇者とスライム
ある日突然のどかな明緑魔界の平穏が脅かされることになる、教団の勇者とその軍勢が『平和をとりもどす』と、なんの罪もない魔物娘たちに襲いかかってきたのだった
「ギャハハハハハ!」
俺は目にうつる家ことごとくに、火炎魔法を撃ち込んでいく
わざと威力は落とし、逃げ惑う下等生物供を眺める
泣き叫ぶサキュバスのガキ、必死に逃げるホルスタウロス
どいつもこいつも、い〜いリアクションでサイコーに楽しい気持ちになる
教会のクソ司祭のやつ、ようやく俺の力を認めやがって、さて初陣だぁ!神に選ばれたこの力をようやく楽しむことができるぜ
「ぎゃはっ!ぎゃは!ぎゃはははぁ!おら!逃げろ!逃げろよぉ!焼け死んじまうぞぉ!」
「うわぁ!」「きゃあー!」「ひいぃっ!」
「ギャハハハハハ!たのしー♪」
俺が獲物をいたぶって楽しんでいると
「やめろぉ!これ以上やるならば成敗してくれる!」
「我が武にて貴様の暴虐を止めてみせよう…」
「堕落させてあげます前にお仕置きが必要ですね!」
「みんなの村を…許せない!!」
と、四匹の下等生物が生意気にも、立ちはだかりやがった
確か、リザードマンと人虎、あとは堕落教とサバトって宗教に入った元人間の裏切りもんだったか?
まぁなんでもいい、無抵抗のクズばかりぶっ潰していくばかりより
ささやかな抵抗をひねり潰すのも快感だぁ♪この俺様の大いなる力さえ振るえればなぁ
なんせ、魔物ってやつは人の生き血を啜って生きる害虫みたいなやつら共らしいからなぁ!どんなにいたぶったりしても誰にも文句をいわれない
ほんと魔物ってサイコー♪
「ギャハハ!下等生物風情が!神に選ばれた勇者であるこの俺様に勝てると思ってるのかぁ?ハッ!いいだろう、俺はなんもしねぇ、なんでもいいから攻撃してきな」
「なっ!!私たちを嘗めているのか?いいだろう、受けてみろ!」
四匹の下等生物どもは一斉に攻撃してくる
「くらえ!アズライトスラッシュ!」
「激技!咆咆弾!!」
「堕ちなさい…闇の裁き!」
「マジカルエポトワリームシャワー!」
ズバババー!バゴォ!!ズババババー!!!
四人の魔物娘による一斉攻撃により辺り一面砂煙が巻き起こる!
「ふぅ、我々の最強の技を叩きこんだのだ、いくら勇者と言えど無事ではいられまい、まぁ殺さないように手加減はしたが……なっ!!?」
砂煙が払われて、そこから勇者はピンピンした様子で現れた
そして、まるで弱者をバカにするようにニヤニヤと嫌らしい笑みで魔物娘たちを眺めている
「ギャハ!今のが最強の攻撃ぃ?弱すぎて可哀想になってくるぜ…ちなみにちゃんと直撃したぜ、避けたり防いだりしてないクリーンヒット!会心の一撃ってやつだぁ!おめでとう!!…だけど…な?わかるだろ?」
「あ、ぁ、嘘…私達の…攻撃が…」
あまりにもかけ離れた力の差に四人は絶望にかられる
リザードマンは武器を取り落とし、魔女は力なく地面に座り込む、ダークプリーストは気丈に振舞っていたがその足は震えていた
そして人虎は
「うぅ、うわぁー!!」
無謀にも勇者に特攻をかけたが
「ギャハハ!遅ぇよ!」
勇者は手から衝撃波を放ち四人を吹き飛ばした
「きゃぁあ!」
村で最高の戦力であった四人が地面に倒れ伏す姿をみて村人は更なる恐怖に陥れられた
「ギャハハハハハァ!俺強ェエェエェエエー!!!」
「うぐぐ…みんな…逃げろ…うぅ」
人虎は皆にそう伝えるが、
「ばーか、そんなつまんねぇ事させるかよ」
ドン!ブゥーン
勇者が地面を思い切り踏み込むと村を覆うようにドーム状の結界が現れる
「ギャハ!これで逃げられねえぞぉ!おとなしく絶望して死ね!下等生物ども」
勇者が手に膨大な魔力を集中させていく
「あぁここで終わりなの…?まだキスもしてないのに…うああああー!」
一人のオークが絶望にうちひしがれ、それが伝染するように他の魔物娘とその夫逹も絶望していった
「ギャハハハハ、いいねぇその表情!はい!いただきましたー!(笑)じゃ、いたぶるのも飽きたし、死ね」
勇者の手から極大の火炎魔法が放たれる
しかし、その時!
ズガォーン
勇者の放った火球をまた別の火球が相殺した
「ハァ!?俺様の楽しみを奪うやつは誰だぁ?出てきやがれ!」
すると空から炎を纏ったドラゴンと男が現れ、勇者と対峙する
「なんだてめぇは?ってまぁ裏切りもんと下等生物なんだろぅがなぁ!!!」
「俺は、魔物娘と人類の希望を守る…魔法使いだ」
「ギャハハハハハ!何が魔法使いだ!魔法使いが勇者に敵うと思ってんのか!?そんなトカゲ連れて強がってんなら残念だったなぁ俺は勇者の中でも最強なんだよ!!」
「ギャハハ!上等!!せいぜいこの俺を楽しませてみやがれ!裏切りもんがぁー!!!」
勇者は男に向かい駆けていった――
――――
――――――――
―――――――――――――――
「ぐはぁ!!」
勇者は地面に這いつくばっって苦悶の表情で魔法使いを睨む
勝負は短時間で一方的に決まった
「ガッハァ!何故だ?何故俺がぁ?神に選ばれた勇者であるこの俺がこんなふざけたやつに負けるんだぁ!」
「お前の様な八つ当たりで戦っているような奴には俺は絶対に負けん」
「!!お前にぃ!何がわかる!クソがぁー!!」
最後の力を振り絞り勇者は魔法使いに襲いかかるが難なくかわされ、魔方陣に囲まれる
「クッ!…ギャハハハハハいいだろう殺してみろ!!
だが俺の神からもらった最大の力を教えてやる“不死”だ!!
いくらここで殺しても絶対に甦り、さらに強くなって
お前も村の連中も皆殺しにしてやる!その時を怯えながら待ってやがれ!
ギャハギャハギャハハハハハ!」
「いいや俺はお前は殺さない」
魔法使いは呪文を唱えると勇者は苦しみだした
「がっ…っあぐぁぁ!なんだぁ!?さ、寒い!テメェ俺に、俺にいったい何をしたぁ!!?」
「お前に誰かがそばにいないと生きていけない呪いをかけた」
「なにぃ!?いったい何でそんなことを…うぐぁ!」
「心配するな魔物娘はお前のような奴でもちゃんと救ってくれる、じゃ、どっかの魔界の奥地に飛ばしてやるからな」
「ハァ!?ちょっ!お前!」
魔法使いは魔力を込めた
ブォン
ドォーーーン!!!
勇者は魔界の奥地に向かってものすごい勢いで飛んで行った―――
〜とある魔界の奥地の森〜
そこには一匹の幼いスライムが楽しそうにお散歩をしていました
「♪〜♪♪〜〜♪♪♪〜」
スライムちゃんは今まで両親や姉妹逹と暮らしていましたが、他の姉妹と比べ外の世界に興味津々! そこで両親姉妹に別れを告げ1人、魔界の森へと旅立っていきました
「♪〜♪♪」
スライムちゃんが機嫌良く歩いていると
ドカーーーーン!!!
「ぴぃ!!!」
近くで何かものすごい大きな音がしました
「な、なにかなぁ?」
スライムちゃんは恐る恐る音のなった方に近づいていきました
すると
「あっ人間さんだぁ♥ 」
そこにはボロボロになった14〜15くらいの人間の男の子が眠っていました
今まで父親しか人間を見たことのなかったスライムちゃんは大喜び!
「えへへっ人間さぁん♥ 」
しかし、スライムちゃんは男の子に近づいて行くと男の子の様子がおかしいことに気がつきました
男の子は体をガタガタと震わせながら涙を流していました
予想外のことにスライムちゃんは慌てます
「どうしたの?どっかいたいの?さむいの?」
スライムちゃんはどうしていいかわからず、その小さな体で男の子を包んであげました
「だいじょうぶ?もうなかないで?よしよし」
するとどうでしょう、男の子の体の震えは止まり表情も穏やかなものになっていきました
「あぁよかった!うーん!人間さんあったか〜い、わたしもなんだかねむたくなっちゃった、おやすみなさい人間さん」
そしてスライムちゃんは男の子と一緒に眠りにつきました
勇者は夢を見ていました
「うぅ寒い寒いよぉ誰かぁそばにいてよぉ」
勇者は呪いによる心の寒さに凍えながらブルブルと震えていました
大きな力は勇者を孤独にしました
他の勇者と比べても強すぎる力、さらに不死という化け物じみた存在は、まわりの人間を遠ざけ、勇者の両親ですら、恐怖の目で勇者を見ていました
一人ぼっちの勇者の心はどんどん荒れていき、いつしか苛立って人を傷つけたり、ものをこわしたり、ますます勇者から人が離れていきます
教団からも他の勇者の様に言うことを聞かない勇者を煙たがっていました
『ねぇあの子よ例の』
『あぁこの間崖から落ちて死んだのに 墓から這い出てきたらしいわよ』
『両親も気味悪がってあの子置いて逃げちゃったんだって』
『そうよねぇ そんなの勇者って言うより』
『化け物じゃない』
「何でだよ、何で誰も僕のそばにいてくれないの?この力があるから?なんでこんな力があるの?うわぁあああ」
勇者が泣いていると、ふと体が温かくなりました
誰かが抱き締めてくれたみたいです
「あぁ…あったかい、あったかいよぉ」
勇者はその温かさに身を任せていきました
………
「ハッ!」
勇者は目をさますと、見渡すと全く知らない森のなかにいました
「そうか、俺はあの魔法使いにやられて…クソがっ!!…ん?」
勇者が目線を下げると、胸元にはそこにはしあわせそうに眠るスライムちゃんがいました
「おっらぁぁ!!!」
勇者は手に魔力を集中させスライムちゃんを力任せに引き剥がし地面に投げ飛ばします
「きゃん!ふみゅ〜人間さん、寝相悪いなぁ」
「下等生物の中でもさらに下等なスライムごときが、俺の寝込みを襲うとはいい度胸じゃねぇか?一滴も残さず蒸発させてやんよ!」
勇者はスライムちゃんに向かって火炎魔法詠唱し始めます
「ぴっ!ぴぃ!なんで?やめてよぅ」
「ハンッ!蒸発しな!」
勇者が火炎を放とうとした瞬間
「がっ!あぅ、ま…また!寒い…力が入らない…うがぁ!」
燃え盛る炎は消え、勇者はまた寒さに震え、その場に倒れこんでしまいました
その姿を見てスライムちゃんは勇者に向かい近づいて行きます
「クッソ!力が…俺が…スライムごときにやられるってか!」
「大丈夫?人間さん?」
スライムちゃんはまた、勇者を優しく包んで上げます
「うっ、畜生!」
しかし、勇者はおかしな事に気づきます
スライムちゃんに包まれた瞬間、寒さが消え力も湧いてきました
「これは…なんだってんだ?」
『誰かがそばにいないと生きていけない呪いをかけた』
勇者は魔法使いの言葉を思い出しました
「はぁ〜ん、なるほどなぁ!誰かがそばにいないとってのは魔物も含まれるってのは忌々しいが、この状態だと力を使えるってか!」
勇者がスライムちゃんをみると、スライムちゃんは勇者に微笑みました
「えへへ〜♥ 」
しかし、勇者はそんなスライムちゃんの喉元に剣をつきつけ
「おい!汚らわしい下等生物!どうやら俺はこの状態じゃなきゃ動けないらしい」
「ぴ!ぴぃ!」
「いいかぁ!殺されたくなかったら、ずっと俺にくっついて絶対離れるんじゃないぞ!わかったな!」
「ぴぃ!……???」
考え中
「…!!!…あい!」
スライムちゃんはいい返事をした
「なんだぁ脅してんのに嬉しそうな顔しやがって!下等生物だから恐怖も感じねぇのか?まあいい、変なマネしても殺すからな!」
「さぁて、あの魔法使いにお礼参りして呪いを解かねえとな、ちっ!ここはどこだぁ?」
勇者とスライムちゃんは魔界の森のど真ん中にいました
あたりは魔界の植物で生い茂り、甘〜い香りが辺りを包んでいます
「おい!下等生物!お前道わかるか!」
とスライムちゃんに尋ねますが
「ふみゅ〜?」
まだ親から離れたばかりのスライムちゃんは道がわかりませんでした
「ちっ使えねえな!適当に行けばどっかつくだろ!それにどっかの魔物の巣で暴れてりゃ、あの魔法使いは絶対やってくるはずだぁ、ギャハハようし、それじゃ行くぞ下等生物!」
「あい!」
そして、二人は手を繋いで魔界の森を歩いていきました
「しかし、なんだぁ?魔界ってのはもっと物騒って聞いてたんだが?」
勇者はずいぶん歩いてきたのに、魔物に一切襲われないことを不思議に思っていました
「魔物も何匹かいたが、まったく襲って来やがらねぇ、しかも俺の強さにビビって逃げたって感じじゃなく、どいつもこいつも俺を見てガッカリした感じだったり、ニヤニヤしながらどっかに行きやがる!イライラするぜ!」
勇者が不審がって歩いていると
ぐぐぅ〜
勇者のお腹の音がなりました
「ちぃ、魔界に来てなんも食べてねえもんなぁ、くそったれ!」
いくら強く不死であろうと、お腹は空きます
お腹が空きすぎても餓死と言うものができないので、空腹で動けなくなった場合永遠に空腹に苦しまなければなりません
勇者はこのような、自分が動けなくなることにとても恐怖を感じていました
「くっ、早く食うもの探さないと」
勇者が歩き出そうとした時
「あいっ!」
スライムちゃんが自分の体の一部を勇者に差し出します
「お腹すいたんでしょ?これ食べて」
しかし勇者は 優しいスライムちゃんに対し
「はぁ!?ふざけるなよ!誰がこんな下等生物の一部なんて食べるかよ!調子にのんな!お前は黙ってくっついてればいいんだ!」
バシッ! ベチャ
勇者はスライムちゃんの手からスライムゼリーをはたき落としました
「うぅ…ぐすんっ」
―スライムちゃんが泣いたその時、
ザワザワ、ザワザワ
魔界の森はざわめき始めました
しばらく歩いていると勇者はきれいな泉を見つけました
「おっ!ラッキー♪ここの水は飲めそうだ、魔界でこんなきれいな水飲めるとはな!」
勇者は泉に走り出します
「ふぃ〜水だけでも助かるぜ」
ゴクゴク ゴパァッ!!
勇者は水を飲んでると急に吹き出しました
「オエッェ!ペッペッ!なんだこりゃ塩水じゃねえか!」
するとどうでしょう、きれいだった泉はみるみるうちに紫色に染まっていきました
「クソッ!やはり魔界は恐ろしいとこだ…余計喉が乾いちまったぜ…ちくしょうがぁ!!!」
勇者はまた食べ物を探して歩いてると 木に果物がなっているのを見つけました
「これ…食えんのかなぁハート型であやしいけど…まぁ背に腹はかえられねぇな」
勇者が果物に手を伸ばすとーーー
シュピピピピン!
木になった果物全てが急に吹いた風により、遠い空に飛んでいきました
「あっあはははは 何だよこれ……」
勇者はまたまた食べ物を探して歩き始めます その足取りは重くいまにも倒れそうでした
そして、勇者は今度は大きな魔界豚を見つけました
「ギャハハハ! そうだよ!俺はこういう奴をまってたんだよ 血の滴る肉が俺にふさわしい!ギャハー!」
勇者は喜び、凄まじい動きで魔界豚に襲いかかります
「ギャハー!その命もらったぁ!!」
勇者の剣が魔界豚に刺さる瞬間
ゴゴゴゴゴゴゴ
魔界豚の前の地面が突然盛り上がり、土の壁があらわれました
「んなぁ!!!?」
ドカーン!
勇者は止まることができず、そのままの勢いで壁にめり込みます
なんとか壁から抜け出た勇者は地面にへたり込み
「も、もうだめだ……もう動けねぇ…」
勇者は空腹で動けなくなり、仰向けで寝転がりました
すると
「あい!」
スライムちゃんは自分に対してひどい扱いをした勇者に優しく自分の体の一部を分け与えます
「てめぇ、黙ってろと……くそ!もうどうにでもなれ!」
勇者はやけくそになりスライムちゃんからゼリーを奪い取り恐る恐る一口食べました
「う、うまい!!!教団で食べた飯のどれよりもサイコーにうめぇ!!!それだけじゃねぇ!力が…元気が湧いてでる感じっつうか 餓えも渇きも全て満たされるっていうか」
勇者はスライムゼリーの美味しさに感動すら覚えました
「おい!も、もっとよこせ!」
「あい!」
「もっとだ!」
「あい!」
「あぁ!まどろっこしい!!!」
ヂュヂュヂュヂュヂュゥゥゥ〜〜〜〜
勇者はまるでヴァンパイアの様にスライムちゃんの首筋にかぶりつき夢中でゼリーを吸い出しました
「きゃん! えへへ♥ 」
スライムちゃんはがっつく勇者を嬉しそうに抱きしめました
そして、勇者が満腹になった頃
「ハッ!俺としたことがつい夢中で……」
(しかし、スライムってのがこうもうまいものだったとはな…このことが美食を気取る教団の豚共が知ればスライムを狩り尽くしてしまうかもしれねぇな…その前にこいつ等を保護しねぇとな……よくみたらこいつけっこう可愛いよなぁ 顔もタイプだしってナニ考えてんだ俺はぁ!?)
「復讐!復讐だぁ!とりあえず俺をこんな目に遭わした魔法使いに復讐すんだよぉ!」
勇者はブンブン頭を振り立ち上がります
「おい!いくぞ!!下等……」
勇者はそこまでいって黙り込み、そして…
「おい…お前名前は?」
「名前…?」
スライムちゃんの家庭はあまり名前というものにこだわらないお家でした
「ちっ!しょうがねぇな、いいかぁお前は魔物だが特別にこの偉大なる勇者カイト様の奴隷になることを許可してやる!そして、俺様直々に名前をつけてやる!ありがたく思え!!」
「お前の名前はこれから え〜 アイ!アイだ!わかったか!泣いて喜びやがれ!」
「あい!アイ!名前もらったアイ! うれしいな!わーい! カイト好きー」
「馬鹿やろう!様をつけやがれ!まったくしょうがねぇな でへへ」
そして、勇者とスライムちゃんは二人で魔界の森を冒険しました
魔界豚を再び追い回しているうちに触手の森に迷いこみ、粘液をかけられぬるぬにされる勇者、触手を焼き付くそうとする勇者と必死でなだめるスライムちゃん
魔界甲殻虫相手に本気でびびる勇者と飼いたいとせがむスライムちゃん
一つの木の実をわけあう二人
その他にもたくさんの出来事がありました
その日々は勇者とスライムちゃんにとって今までの人生で一番幸せな時間になりました
勇者はどんどんスライムちゃんのことが好きになっていきます
そしてある日
いつものように森をあるいていると見覚えのある所につきました
「ここは…」
そうここは勇者が以前侵攻した魔物の村に続く道でした
勇者は考えます
(魔物ってのは本当に人間を殺す残虐な生き物なのか?こいつは俺に本当の温かさをくれた、同じ人間には逆に冷ややかな感情しか与えられなかったのに…もしかしたら俺はとんでもないことを…俺は…俺は…)
勇者が悩んでいると
ヒュンッ ドスッ!
「ガハァ!」
白く煌びやかな槍が勇者の腹を貫通しました
「くっふっふ やはり裏切っていましたか勇者カイト しかし油断が過ぎましたね こうもあっさりとやれるとは」
空間が歪みそこから高そうな法衣を纏った男と後ろに兵士達があらわれました
どうやら隠密の魔法を使っていたようです
「ぐぅ!クソ司祭がぁいったい何のつもりだぁ」
「決まっていますよ裏切り者の始末ですよ もともとは魔界侵攻の途中でしたがね 魔界侵攻にもっとも邪魔な魔法使いのデータを誰かさんを捨て石にしてとることができましたからねぇ」
「んだとぉ!?だがてめぇこの程度でこの俺をやれると…グハァ」
勇者を貫いた槍は白く光り勇者が槍を引き抜こうとしても一向に抜けません
「カイト!大丈夫!?カイト!あっ!うぅ〜〜」
ジュウー
スライムちゃんもカイトを助けようと槍を掴みますが槍に触れると聖なる光にスライムちゃんの体が焼けてしまいました
「カイト!カイトぉ!」
それでもスライムちゃんは勇者を助けようと槍を掴む手を離しません
「アイ!やめろ!おまえ体が… うぐぅ!」
ドカッ!
司祭は勇者を蹴り倒します
「まったく汚らわしい!この世でもっとも厄介なものを教えてあげましょうか?
それは魔物に寝返った勇者ですよ!おぞましい! 神に愛されながら裏切るとは恥をしりなさい!ふふふ そしてそんな恥知らずに罰を与えるのがその槍
『勇者殺し』ですよ」
「そしてそれに貫かれた勇者はその槍に加護を全て吸い尽くされ」
ズボッ
「グハァ!」
司祭は勇者から槍を抜き出しました
しかし不思議と血は出ません
「そして、その加護の力を私が使わせて頂きます」
ザスッ!
司祭は槍を自分に突き刺しました
槍は宝石となり司祭の胸に埋め込まれた
ゴゴゴゴゴ
司祭の体がまぶしく光出す
「はっ!はははははは!すばらしい! すばらしいぞぉこの力! もともとは魔法使いに使うはずでしたがこちらの方が都合がいい!」
司祭は狂ったように笑い 喜びました
「加護だ!ようやく私は主神様の加護を手に入れたぞ!」
「くふふこの力はやはり私にこそふさわしい… もともと身分も低い品性の欠片もない猿には過ぎた力だったんですよ ずっとその力を狙っていたのですが 一応勇者でしたからねぇ しかしこうして裏切ってくれたおかげでようやく私が力を奪うことができましたよ くふふふはっーはっは!」
「さて、残りカスにも一応慈悲を与えてあげましょうか そこにいる下等生物
そいつを殺しなさい そうすれば命だけは助けてあげましょう
一生私の奴隷としてですがね くふふふふ」
勇者はスライムちゃんに向かって手をかざし
「あう カイトぉ… でもカイトが生きていられるなら…」
ブゥン
スライムちゃんは球状の結界に包まれました
そして勇者とスライムちゃんは徐々に離れていきます
「カイト!なんでぇ?いやだよ!カイト!」
「アイ…おまえだけは絶対に死なせない! 俺に温もりを与えてくれたおまえだけは絶対に!…じゃあな」
ドヒューン!
スライムちゃんを包んだ結界は遠くに飛び去っていきました
「さぁ!俺様の最初で最後の護る為の戦いだぁ!! 呪い!今はてめぇひっこんでろ!さぁいくぜぇ!ギャハー!」
「ふん!愚かな みなさん!相手は何の加護もないただのクソガキです 適当になぶり殺してあげなさい!」
「「「うぉーおおおお!」」」
大勢の兵士達が勇者に襲いかかります!
しかし
「がぁああああ!!!!!」
勇者は数にも負けず兵士達を素手で吹き飛ばしていきます
魔法も剣もへったくれもないただの力で兵士達を圧倒します
「なぜ?あいつは加護の消えた残りカスのはずなのになぜ…まさか!?」
勇者の額が光り なぞの文様が浮かび上がります
「あれはまさか禁術? 命をささげるかわりに大いなる力を得るという !不死身なら
まだしも なぜ?なぜだ!?なんであんな下等生物一匹の為に命を賭けられるというんです!? 」
「おおぉーー!!」
勇者はスライムちゃんを守るため必死で戦い続けました
「図に乗るのはやめなさい」
ズガッ
「グハァ」
司祭は勇者を蹴りとばした
司祭の額にも紋様が浮かんでいました
「あなたごときが使えるなら私にも使えると言うことですよ まあ不死でなければ絶対に使いませんがね 条件が一緒ならより優れた私の方が圧倒的に有利、あきらめな…だばらはぁ!!」
勇者は司祭を殴り飛ばしました
「ごちゃごちゃうるせぇ!!加護だの力だのそんなもん諦める理由にもならねぇ!おれはあいつを守る!それだけだ!」
「きっさまぁ〜!私の顔に、私の顔にぃ!!ゆるさぁん!」
司祭は聖なる気を纏い巨大な翼を広げた天使の姿となって勇者に向かっていった
「終わりです!死になさい!」
神々しい光が勇者に向かってくる あのレベルの聖気を浴びれば一瞬で消滅させられるだろう
そんな絶望的な状況で勇者がとった行動は
ブンっ
右ストレート
ただ単につっこんで打ち込んだ拳が司祭の顔面に突き刺さります
「ぶっ!ぐわぁぁあああ!!」
司祭は吹っ飛んでいきました
「なぜ?なぜ私が負ける?神の加護を得た私が負ける?なんで神は私を愛してくれないんだ… なぜ私に加護を与えてくれないんだ!毎日お祈りを欠かさず、勉強も訓練も血反吐を吐くまでしてエリートとまで呼ばれるようになって なんで何の努力もしない奴等ばかりが勇者に選ばれるのか…なんで…」
パキンッ!
司祭の胸に埋め込まれた宝石が割れ、溢れた光りが空に還っていきました
「知るかクソ司祭…自分で考えろ」
「うわぁ!司祭様がやられた!」
「退却!退却ー!」
司祭がやられると兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げていきました
「へっ!これでしばらくはあいつも安全だな…うぐっ!」
「カイト〜 カイトどこ〜!」
スライムちゃんは愛しい人の魔力を便りに勇者の所にたどり着きました
そこには激しい戦いの跡と倒れた勇者がいました
「カイト!!大丈夫!?カイト!」
スライムちゃんは勇者を抱き起こしました
「アイか…ケガないか…?」
「私は大丈夫 カイトは?カイトは大丈夫?」
シュウ〜
勇者の体が徐々に粒子となって消えていきます
「へっ!死体も残らねえってか アイ、おまえといた時間本当に幸せだった ありがとう」
「カイト!やだよぅ 消えないでカイトぉ」
泣き出すスライムちゃんに勇者はそっと頭を撫で
「俺みたいな奴の為に泣くなアイ 俺はおまえの同族を八つ当たりで殺そうとしたクズだ おまえみたいなイイ奴が泣く必要がない」
「そんなの関係ない!世界中のどんな人間やどんな魔物がカイトの事憎んだって 私はカイトの味方だよ!」
「へっ!バカな奴…ありがとなアイ おまえを愛してる…」
ガクッ
勇者は気絶しましたが 粒子化は止まりません
「やだ!やだようカイト!死なないで!うぇーん」
泣きじゃくり勇者にすがるスライムちゃん
しかし、なにか決心したように顔を上げました
「…げる」
「あげる」
「わたしの全部カイトにあげる!だから死なないで!カイト!」
スライムちゃんはカイトにそっと口づけをしたーーー
「うっ…ここは?」
勇者は目を覚ましました そこには先ほどまで戦っていた戦場の跡
「あの世…でもねぇか なんで?俺は生きて…? そうだ…アイ!」
勇者はあたりを見渡し、自分よりも大事なものの存在を探します
「アイ!アイ!どこだぁ!アイ! あ…」
勇者は自分の足下をみました
そこにはアイと同じ色をした水たまりが
「アイ!」
バシャバシャ
勇者は水たまりを見た瞬間なにかを感じ取り 水たまりを何度もすくい上げます
「アイ!アイ!なんでだよ!なんでおまえが俺なんかのために…」
勇者は察しました 禁術を使ったのに生きていること アイの色した水たまり
アイは自分のために命を犠牲にしたということ
「アイ!アイ!なんでだよ!生きていてもおまえがいないんじゃぁ 何の意味もねぇじゃねえか! アイー!アイ!うわああああぁあぁ」
勇者は泣き叫びました
「あいあーい♪カイトー!呼んだー♥」
うにょにょ
、となんとスライムちゃんが勇者の体から湧き出すようにでてきました
「は?ええぇえぇ???!??! つかお前!今俺の中からでてきた?!」
勇者が混乱してると
「どうやらお前はスライムキャリアに似た様な存在にになったみたいだな」
そこにはいつのまにか魔法使いがいました
「てめぇ魔法使い!ここであったが百年目!ぶちのめす!」
「カイト!ケンカはダメ!」
「うぅ!」
「遅れて悪かったな…思っていたよりも教団の軍勢が大規模で他の場所を回っていた
らここにくるのが遅れてしまった」
「しかしお熱いねぇ 俺がかけた呪いは誰かへの愛を自覚した時に解けるようになってたんだが お前達は本当の意味で二人で一人の存在になったみたいだな! 他の魔物娘がうらやましがるぜ まったくどんな魔法も愛の奇跡の前じゃ霞んでしまうな」
「わけがわからねぇ!ちゃんと説明しろ!」
「禁術で消えていく体をスライムちゃんがお前を助けるために自分の全部あげたんだ
簡単に言うとお前の半分はスライムちゃん♪」
「アイ!お前…」
「カイト♥ いつまでもいつまでも一緒 ♥」
スライムちゃんは満面の笑顔を勇者に向けます
「ううっ」
勇者は顔を真っ赤にしました
(しかし、最強だと思ってたのに結局はスライムにやられちまうとはな)
「ふんっ!当たり前だ!そんなことより、おい!腹が減ったぞ 早くお前のゼリーよこせよ!」
「うん!でもぉ♥ わたしにもカイトをちょうだぁい♥もう我慢できないのぉ♥ 」
スライムちゃんはとろけた笑顔で勇者を押し倒し覆い被さりました
「えっ!?わっ!ちょっ!おい!アイ!いつもと様子が違うぞ!おい!魔法使いなんとかしろ!」
「さてと、邪魔者は退散しますか…」
「おい!まて!ちょ…はふぅん!」
「カイト〜 ♥」
「アッーーーーーーーー!!!」
勇者は大いなる力は失いましたが、それよりももっと大事なものを得ました
その後、勇者とスライムちゃんは 勇者が襲った村のみんなに謝り、村の復興に全力で協力しました
最初は白い目で見ていた村人達も勇者とスライムちゃんの一生懸命な姿を見て
いつしか村の一員として認めるようになりました
勇者は加護はなくなりましたが、大事なものを守りたいと自分の力で強くなって
村の守り人となり いつしかみんなからこう呼ばれるようになりました
“スライムナイト”
と
勇者とスライムちゃんはいつまでも仲良く暮らしました
勇者とスライム〜不死の勇者と献身スライム〜
完
「ギャハハハハハ!」
俺は目にうつる家ことごとくに、火炎魔法を撃ち込んでいく
わざと威力は落とし、逃げ惑う下等生物供を眺める
泣き叫ぶサキュバスのガキ、必死に逃げるホルスタウロス
どいつもこいつも、い〜いリアクションでサイコーに楽しい気持ちになる
教会のクソ司祭のやつ、ようやく俺の力を認めやがって、さて初陣だぁ!神に選ばれたこの力をようやく楽しむことができるぜ
「ぎゃはっ!ぎゃは!ぎゃはははぁ!おら!逃げろ!逃げろよぉ!焼け死んじまうぞぉ!」
「うわぁ!」「きゃあー!」「ひいぃっ!」
「ギャハハハハハ!たのしー♪」
俺が獲物をいたぶって楽しんでいると
「やめろぉ!これ以上やるならば成敗してくれる!」
「我が武にて貴様の暴虐を止めてみせよう…」
「堕落させてあげます前にお仕置きが必要ですね!」
「みんなの村を…許せない!!」
と、四匹の下等生物が生意気にも、立ちはだかりやがった
確か、リザードマンと人虎、あとは堕落教とサバトって宗教に入った元人間の裏切りもんだったか?
まぁなんでもいい、無抵抗のクズばかりぶっ潰していくばかりより
ささやかな抵抗をひねり潰すのも快感だぁ♪この俺様の大いなる力さえ振るえればなぁ
なんせ、魔物ってやつは人の生き血を啜って生きる害虫みたいなやつら共らしいからなぁ!どんなにいたぶったりしても誰にも文句をいわれない
ほんと魔物ってサイコー♪
「ギャハハ!下等生物風情が!神に選ばれた勇者であるこの俺様に勝てると思ってるのかぁ?ハッ!いいだろう、俺はなんもしねぇ、なんでもいいから攻撃してきな」
「なっ!!私たちを嘗めているのか?いいだろう、受けてみろ!」
四匹の下等生物どもは一斉に攻撃してくる
「くらえ!アズライトスラッシュ!」
「激技!咆咆弾!!」
「堕ちなさい…闇の裁き!」
「マジカルエポトワリームシャワー!」
ズバババー!バゴォ!!ズババババー!!!
四人の魔物娘による一斉攻撃により辺り一面砂煙が巻き起こる!
「ふぅ、我々の最強の技を叩きこんだのだ、いくら勇者と言えど無事ではいられまい、まぁ殺さないように手加減はしたが……なっ!!?」
砂煙が払われて、そこから勇者はピンピンした様子で現れた
そして、まるで弱者をバカにするようにニヤニヤと嫌らしい笑みで魔物娘たちを眺めている
「ギャハ!今のが最強の攻撃ぃ?弱すぎて可哀想になってくるぜ…ちなみにちゃんと直撃したぜ、避けたり防いだりしてないクリーンヒット!会心の一撃ってやつだぁ!おめでとう!!…だけど…な?わかるだろ?」
「あ、ぁ、嘘…私達の…攻撃が…」
あまりにもかけ離れた力の差に四人は絶望にかられる
リザードマンは武器を取り落とし、魔女は力なく地面に座り込む、ダークプリーストは気丈に振舞っていたがその足は震えていた
そして人虎は
「うぅ、うわぁー!!」
無謀にも勇者に特攻をかけたが
「ギャハハ!遅ぇよ!」
勇者は手から衝撃波を放ち四人を吹き飛ばした
「きゃぁあ!」
村で最高の戦力であった四人が地面に倒れ伏す姿をみて村人は更なる恐怖に陥れられた
「ギャハハハハハァ!俺強ェエェエェエエー!!!」
「うぐぐ…みんな…逃げろ…うぅ」
人虎は皆にそう伝えるが、
「ばーか、そんなつまんねぇ事させるかよ」
ドン!ブゥーン
勇者が地面を思い切り踏み込むと村を覆うようにドーム状の結界が現れる
「ギャハ!これで逃げられねえぞぉ!おとなしく絶望して死ね!下等生物ども」
勇者が手に膨大な魔力を集中させていく
「あぁここで終わりなの…?まだキスもしてないのに…うああああー!」
一人のオークが絶望にうちひしがれ、それが伝染するように他の魔物娘とその夫逹も絶望していった
「ギャハハハハ、いいねぇその表情!はい!いただきましたー!(笑)じゃ、いたぶるのも飽きたし、死ね」
勇者の手から極大の火炎魔法が放たれる
しかし、その時!
ズガォーン
勇者の放った火球をまた別の火球が相殺した
「ハァ!?俺様の楽しみを奪うやつは誰だぁ?出てきやがれ!」
すると空から炎を纏ったドラゴンと男が現れ、勇者と対峙する
「なんだてめぇは?ってまぁ裏切りもんと下等生物なんだろぅがなぁ!!!」
「俺は、魔物娘と人類の希望を守る…魔法使いだ」
「ギャハハハハハ!何が魔法使いだ!魔法使いが勇者に敵うと思ってんのか!?そんなトカゲ連れて強がってんなら残念だったなぁ俺は勇者の中でも最強なんだよ!!」
「ギャハハ!上等!!せいぜいこの俺を楽しませてみやがれ!裏切りもんがぁー!!!」
勇者は男に向かい駆けていった――
――――
――――――――
―――――――――――――――
「ぐはぁ!!」
勇者は地面に這いつくばっって苦悶の表情で魔法使いを睨む
勝負は短時間で一方的に決まった
「ガッハァ!何故だ?何故俺がぁ?神に選ばれた勇者であるこの俺がこんなふざけたやつに負けるんだぁ!」
「お前の様な八つ当たりで戦っているような奴には俺は絶対に負けん」
「!!お前にぃ!何がわかる!クソがぁー!!」
最後の力を振り絞り勇者は魔法使いに襲いかかるが難なくかわされ、魔方陣に囲まれる
「クッ!…ギャハハハハハいいだろう殺してみろ!!
だが俺の神からもらった最大の力を教えてやる“不死”だ!!
いくらここで殺しても絶対に甦り、さらに強くなって
お前も村の連中も皆殺しにしてやる!その時を怯えながら待ってやがれ!
ギャハギャハギャハハハハハ!」
「いいや俺はお前は殺さない」
魔法使いは呪文を唱えると勇者は苦しみだした
「がっ…っあぐぁぁ!なんだぁ!?さ、寒い!テメェ俺に、俺にいったい何をしたぁ!!?」
「お前に誰かがそばにいないと生きていけない呪いをかけた」
「なにぃ!?いったい何でそんなことを…うぐぁ!」
「心配するな魔物娘はお前のような奴でもちゃんと救ってくれる、じゃ、どっかの魔界の奥地に飛ばしてやるからな」
「ハァ!?ちょっ!お前!」
魔法使いは魔力を込めた
ブォン
ドォーーーン!!!
勇者は魔界の奥地に向かってものすごい勢いで飛んで行った―――
〜とある魔界の奥地の森〜
そこには一匹の幼いスライムが楽しそうにお散歩をしていました
「♪〜♪♪〜〜♪♪♪〜」
スライムちゃんは今まで両親や姉妹逹と暮らしていましたが、他の姉妹と比べ外の世界に興味津々! そこで両親姉妹に別れを告げ1人、魔界の森へと旅立っていきました
「♪〜♪♪」
スライムちゃんが機嫌良く歩いていると
ドカーーーーン!!!
「ぴぃ!!!」
近くで何かものすごい大きな音がしました
「な、なにかなぁ?」
スライムちゃんは恐る恐る音のなった方に近づいていきました
すると
「あっ人間さんだぁ♥ 」
そこにはボロボロになった14〜15くらいの人間の男の子が眠っていました
今まで父親しか人間を見たことのなかったスライムちゃんは大喜び!
「えへへっ人間さぁん♥ 」
しかし、スライムちゃんは男の子に近づいて行くと男の子の様子がおかしいことに気がつきました
男の子は体をガタガタと震わせながら涙を流していました
予想外のことにスライムちゃんは慌てます
「どうしたの?どっかいたいの?さむいの?」
スライムちゃんはどうしていいかわからず、その小さな体で男の子を包んであげました
「だいじょうぶ?もうなかないで?よしよし」
するとどうでしょう、男の子の体の震えは止まり表情も穏やかなものになっていきました
「あぁよかった!うーん!人間さんあったか〜い、わたしもなんだかねむたくなっちゃった、おやすみなさい人間さん」
そしてスライムちゃんは男の子と一緒に眠りにつきました
勇者は夢を見ていました
「うぅ寒い寒いよぉ誰かぁそばにいてよぉ」
勇者は呪いによる心の寒さに凍えながらブルブルと震えていました
大きな力は勇者を孤独にしました
他の勇者と比べても強すぎる力、さらに不死という化け物じみた存在は、まわりの人間を遠ざけ、勇者の両親ですら、恐怖の目で勇者を見ていました
一人ぼっちの勇者の心はどんどん荒れていき、いつしか苛立って人を傷つけたり、ものをこわしたり、ますます勇者から人が離れていきます
教団からも他の勇者の様に言うことを聞かない勇者を煙たがっていました
『ねぇあの子よ例の』
『あぁこの間崖から落ちて死んだのに 墓から這い出てきたらしいわよ』
『両親も気味悪がってあの子置いて逃げちゃったんだって』
『そうよねぇ そんなの勇者って言うより』
『化け物じゃない』
「何でだよ、何で誰も僕のそばにいてくれないの?この力があるから?なんでこんな力があるの?うわぁあああ」
勇者が泣いていると、ふと体が温かくなりました
誰かが抱き締めてくれたみたいです
「あぁ…あったかい、あったかいよぉ」
勇者はその温かさに身を任せていきました
………
「ハッ!」
勇者は目をさますと、見渡すと全く知らない森のなかにいました
「そうか、俺はあの魔法使いにやられて…クソがっ!!…ん?」
勇者が目線を下げると、胸元にはそこにはしあわせそうに眠るスライムちゃんがいました
「おっらぁぁ!!!」
勇者は手に魔力を集中させスライムちゃんを力任せに引き剥がし地面に投げ飛ばします
「きゃん!ふみゅ〜人間さん、寝相悪いなぁ」
「下等生物の中でもさらに下等なスライムごときが、俺の寝込みを襲うとはいい度胸じゃねぇか?一滴も残さず蒸発させてやんよ!」
勇者はスライムちゃんに向かって火炎魔法詠唱し始めます
「ぴっ!ぴぃ!なんで?やめてよぅ」
「ハンッ!蒸発しな!」
勇者が火炎を放とうとした瞬間
「がっ!あぅ、ま…また!寒い…力が入らない…うがぁ!」
燃え盛る炎は消え、勇者はまた寒さに震え、その場に倒れこんでしまいました
その姿を見てスライムちゃんは勇者に向かい近づいて行きます
「クッソ!力が…俺が…スライムごときにやられるってか!」
「大丈夫?人間さん?」
スライムちゃんはまた、勇者を優しく包んで上げます
「うっ、畜生!」
しかし、勇者はおかしな事に気づきます
スライムちゃんに包まれた瞬間、寒さが消え力も湧いてきました
「これは…なんだってんだ?」
『誰かがそばにいないと生きていけない呪いをかけた』
勇者は魔法使いの言葉を思い出しました
「はぁ〜ん、なるほどなぁ!誰かがそばにいないとってのは魔物も含まれるってのは忌々しいが、この状態だと力を使えるってか!」
勇者がスライムちゃんをみると、スライムちゃんは勇者に微笑みました
「えへへ〜♥ 」
しかし、勇者はそんなスライムちゃんの喉元に剣をつきつけ
「おい!汚らわしい下等生物!どうやら俺はこの状態じゃなきゃ動けないらしい」
「ぴ!ぴぃ!」
「いいかぁ!殺されたくなかったら、ずっと俺にくっついて絶対離れるんじゃないぞ!わかったな!」
「ぴぃ!……???」
考え中
「…!!!…あい!」
スライムちゃんはいい返事をした
「なんだぁ脅してんのに嬉しそうな顔しやがって!下等生物だから恐怖も感じねぇのか?まあいい、変なマネしても殺すからな!」
「さぁて、あの魔法使いにお礼参りして呪いを解かねえとな、ちっ!ここはどこだぁ?」
勇者とスライムちゃんは魔界の森のど真ん中にいました
あたりは魔界の植物で生い茂り、甘〜い香りが辺りを包んでいます
「おい!下等生物!お前道わかるか!」
とスライムちゃんに尋ねますが
「ふみゅ〜?」
まだ親から離れたばかりのスライムちゃんは道がわかりませんでした
「ちっ使えねえな!適当に行けばどっかつくだろ!それにどっかの魔物の巣で暴れてりゃ、あの魔法使いは絶対やってくるはずだぁ、ギャハハようし、それじゃ行くぞ下等生物!」
「あい!」
そして、二人は手を繋いで魔界の森を歩いていきました
「しかし、なんだぁ?魔界ってのはもっと物騒って聞いてたんだが?」
勇者はずいぶん歩いてきたのに、魔物に一切襲われないことを不思議に思っていました
「魔物も何匹かいたが、まったく襲って来やがらねぇ、しかも俺の強さにビビって逃げたって感じじゃなく、どいつもこいつも俺を見てガッカリした感じだったり、ニヤニヤしながらどっかに行きやがる!イライラするぜ!」
勇者が不審がって歩いていると
ぐぐぅ〜
勇者のお腹の音がなりました
「ちぃ、魔界に来てなんも食べてねえもんなぁ、くそったれ!」
いくら強く不死であろうと、お腹は空きます
お腹が空きすぎても餓死と言うものができないので、空腹で動けなくなった場合永遠に空腹に苦しまなければなりません
勇者はこのような、自分が動けなくなることにとても恐怖を感じていました
「くっ、早く食うもの探さないと」
勇者が歩き出そうとした時
「あいっ!」
スライムちゃんが自分の体の一部を勇者に差し出します
「お腹すいたんでしょ?これ食べて」
しかし勇者は 優しいスライムちゃんに対し
「はぁ!?ふざけるなよ!誰がこんな下等生物の一部なんて食べるかよ!調子にのんな!お前は黙ってくっついてればいいんだ!」
バシッ! ベチャ
勇者はスライムちゃんの手からスライムゼリーをはたき落としました
「うぅ…ぐすんっ」
―スライムちゃんが泣いたその時、
ザワザワ、ザワザワ
魔界の森はざわめき始めました
しばらく歩いていると勇者はきれいな泉を見つけました
「おっ!ラッキー♪ここの水は飲めそうだ、魔界でこんなきれいな水飲めるとはな!」
勇者は泉に走り出します
「ふぃ〜水だけでも助かるぜ」
ゴクゴク ゴパァッ!!
勇者は水を飲んでると急に吹き出しました
「オエッェ!ペッペッ!なんだこりゃ塩水じゃねえか!」
するとどうでしょう、きれいだった泉はみるみるうちに紫色に染まっていきました
「クソッ!やはり魔界は恐ろしいとこだ…余計喉が乾いちまったぜ…ちくしょうがぁ!!!」
勇者はまた食べ物を探して歩いてると 木に果物がなっているのを見つけました
「これ…食えんのかなぁハート型であやしいけど…まぁ背に腹はかえられねぇな」
勇者が果物に手を伸ばすとーーー
シュピピピピン!
木になった果物全てが急に吹いた風により、遠い空に飛んでいきました
「あっあはははは 何だよこれ……」
勇者はまたまた食べ物を探して歩き始めます その足取りは重くいまにも倒れそうでした
そして、勇者は今度は大きな魔界豚を見つけました
「ギャハハハ! そうだよ!俺はこういう奴をまってたんだよ 血の滴る肉が俺にふさわしい!ギャハー!」
勇者は喜び、凄まじい動きで魔界豚に襲いかかります
「ギャハー!その命もらったぁ!!」
勇者の剣が魔界豚に刺さる瞬間
ゴゴゴゴゴゴゴ
魔界豚の前の地面が突然盛り上がり、土の壁があらわれました
「んなぁ!!!?」
ドカーン!
勇者は止まることができず、そのままの勢いで壁にめり込みます
なんとか壁から抜け出た勇者は地面にへたり込み
「も、もうだめだ……もう動けねぇ…」
勇者は空腹で動けなくなり、仰向けで寝転がりました
すると
「あい!」
スライムちゃんは自分に対してひどい扱いをした勇者に優しく自分の体の一部を分け与えます
「てめぇ、黙ってろと……くそ!もうどうにでもなれ!」
勇者はやけくそになりスライムちゃんからゼリーを奪い取り恐る恐る一口食べました
「う、うまい!!!教団で食べた飯のどれよりもサイコーにうめぇ!!!それだけじゃねぇ!力が…元気が湧いてでる感じっつうか 餓えも渇きも全て満たされるっていうか」
勇者はスライムゼリーの美味しさに感動すら覚えました
「おい!も、もっとよこせ!」
「あい!」
「もっとだ!」
「あい!」
「あぁ!まどろっこしい!!!」
ヂュヂュヂュヂュヂュゥゥゥ〜〜〜〜
勇者はまるでヴァンパイアの様にスライムちゃんの首筋にかぶりつき夢中でゼリーを吸い出しました
「きゃん! えへへ♥ 」
スライムちゃんはがっつく勇者を嬉しそうに抱きしめました
そして、勇者が満腹になった頃
「ハッ!俺としたことがつい夢中で……」
(しかし、スライムってのがこうもうまいものだったとはな…このことが美食を気取る教団の豚共が知ればスライムを狩り尽くしてしまうかもしれねぇな…その前にこいつ等を保護しねぇとな……よくみたらこいつけっこう可愛いよなぁ 顔もタイプだしってナニ考えてんだ俺はぁ!?)
「復讐!復讐だぁ!とりあえず俺をこんな目に遭わした魔法使いに復讐すんだよぉ!」
勇者はブンブン頭を振り立ち上がります
「おい!いくぞ!!下等……」
勇者はそこまでいって黙り込み、そして…
「おい…お前名前は?」
「名前…?」
スライムちゃんの家庭はあまり名前というものにこだわらないお家でした
「ちっ!しょうがねぇな、いいかぁお前は魔物だが特別にこの偉大なる勇者カイト様の奴隷になることを許可してやる!そして、俺様直々に名前をつけてやる!ありがたく思え!!」
「お前の名前はこれから え〜 アイ!アイだ!わかったか!泣いて喜びやがれ!」
「あい!アイ!名前もらったアイ! うれしいな!わーい! カイト好きー」
「馬鹿やろう!様をつけやがれ!まったくしょうがねぇな でへへ」
そして、勇者とスライムちゃんは二人で魔界の森を冒険しました
魔界豚を再び追い回しているうちに触手の森に迷いこみ、粘液をかけられぬるぬにされる勇者、触手を焼き付くそうとする勇者と必死でなだめるスライムちゃん
魔界甲殻虫相手に本気でびびる勇者と飼いたいとせがむスライムちゃん
一つの木の実をわけあう二人
その他にもたくさんの出来事がありました
その日々は勇者とスライムちゃんにとって今までの人生で一番幸せな時間になりました
勇者はどんどんスライムちゃんのことが好きになっていきます
そしてある日
いつものように森をあるいていると見覚えのある所につきました
「ここは…」
そうここは勇者が以前侵攻した魔物の村に続く道でした
勇者は考えます
(魔物ってのは本当に人間を殺す残虐な生き物なのか?こいつは俺に本当の温かさをくれた、同じ人間には逆に冷ややかな感情しか与えられなかったのに…もしかしたら俺はとんでもないことを…俺は…俺は…)
勇者が悩んでいると
ヒュンッ ドスッ!
「ガハァ!」
白く煌びやかな槍が勇者の腹を貫通しました
「くっふっふ やはり裏切っていましたか勇者カイト しかし油断が過ぎましたね こうもあっさりとやれるとは」
空間が歪みそこから高そうな法衣を纏った男と後ろに兵士達があらわれました
どうやら隠密の魔法を使っていたようです
「ぐぅ!クソ司祭がぁいったい何のつもりだぁ」
「決まっていますよ裏切り者の始末ですよ もともとは魔界侵攻の途中でしたがね 魔界侵攻にもっとも邪魔な魔法使いのデータを誰かさんを捨て石にしてとることができましたからねぇ」
「んだとぉ!?だがてめぇこの程度でこの俺をやれると…グハァ」
勇者を貫いた槍は白く光り勇者が槍を引き抜こうとしても一向に抜けません
「カイト!大丈夫!?カイト!あっ!うぅ〜〜」
ジュウー
スライムちゃんもカイトを助けようと槍を掴みますが槍に触れると聖なる光にスライムちゃんの体が焼けてしまいました
「カイト!カイトぉ!」
それでもスライムちゃんは勇者を助けようと槍を掴む手を離しません
「アイ!やめろ!おまえ体が… うぐぅ!」
ドカッ!
司祭は勇者を蹴り倒します
「まったく汚らわしい!この世でもっとも厄介なものを教えてあげましょうか?
それは魔物に寝返った勇者ですよ!おぞましい! 神に愛されながら裏切るとは恥をしりなさい!ふふふ そしてそんな恥知らずに罰を与えるのがその槍
『勇者殺し』ですよ」
「そしてそれに貫かれた勇者はその槍に加護を全て吸い尽くされ」
ズボッ
「グハァ!」
司祭は勇者から槍を抜き出しました
しかし不思議と血は出ません
「そして、その加護の力を私が使わせて頂きます」
ザスッ!
司祭は槍を自分に突き刺しました
槍は宝石となり司祭の胸に埋め込まれた
ゴゴゴゴゴ
司祭の体がまぶしく光出す
「はっ!はははははは!すばらしい! すばらしいぞぉこの力! もともとは魔法使いに使うはずでしたがこちらの方が都合がいい!」
司祭は狂ったように笑い 喜びました
「加護だ!ようやく私は主神様の加護を手に入れたぞ!」
「くふふこの力はやはり私にこそふさわしい… もともと身分も低い品性の欠片もない猿には過ぎた力だったんですよ ずっとその力を狙っていたのですが 一応勇者でしたからねぇ しかしこうして裏切ってくれたおかげでようやく私が力を奪うことができましたよ くふふふはっーはっは!」
「さて、残りカスにも一応慈悲を与えてあげましょうか そこにいる下等生物
そいつを殺しなさい そうすれば命だけは助けてあげましょう
一生私の奴隷としてですがね くふふふふ」
勇者はスライムちゃんに向かって手をかざし
「あう カイトぉ… でもカイトが生きていられるなら…」
ブゥン
スライムちゃんは球状の結界に包まれました
そして勇者とスライムちゃんは徐々に離れていきます
「カイト!なんでぇ?いやだよ!カイト!」
「アイ…おまえだけは絶対に死なせない! 俺に温もりを与えてくれたおまえだけは絶対に!…じゃあな」
ドヒューン!
スライムちゃんを包んだ結界は遠くに飛び去っていきました
「さぁ!俺様の最初で最後の護る為の戦いだぁ!! 呪い!今はてめぇひっこんでろ!さぁいくぜぇ!ギャハー!」
「ふん!愚かな みなさん!相手は何の加護もないただのクソガキです 適当になぶり殺してあげなさい!」
「「「うぉーおおおお!」」」
大勢の兵士達が勇者に襲いかかります!
しかし
「がぁああああ!!!!!」
勇者は数にも負けず兵士達を素手で吹き飛ばしていきます
魔法も剣もへったくれもないただの力で兵士達を圧倒します
「なぜ?あいつは加護の消えた残りカスのはずなのになぜ…まさか!?」
勇者の額が光り なぞの文様が浮かび上がります
「あれはまさか禁術? 命をささげるかわりに大いなる力を得るという !不死身なら
まだしも なぜ?なぜだ!?なんであんな下等生物一匹の為に命を賭けられるというんです!? 」
「おおぉーー!!」
勇者はスライムちゃんを守るため必死で戦い続けました
「図に乗るのはやめなさい」
ズガッ
「グハァ」
司祭は勇者を蹴りとばした
司祭の額にも紋様が浮かんでいました
「あなたごときが使えるなら私にも使えると言うことですよ まあ不死でなければ絶対に使いませんがね 条件が一緒ならより優れた私の方が圧倒的に有利、あきらめな…だばらはぁ!!」
勇者は司祭を殴り飛ばしました
「ごちゃごちゃうるせぇ!!加護だの力だのそんなもん諦める理由にもならねぇ!おれはあいつを守る!それだけだ!」
「きっさまぁ〜!私の顔に、私の顔にぃ!!ゆるさぁん!」
司祭は聖なる気を纏い巨大な翼を広げた天使の姿となって勇者に向かっていった
「終わりです!死になさい!」
神々しい光が勇者に向かってくる あのレベルの聖気を浴びれば一瞬で消滅させられるだろう
そんな絶望的な状況で勇者がとった行動は
ブンっ
右ストレート
ただ単につっこんで打ち込んだ拳が司祭の顔面に突き刺さります
「ぶっ!ぐわぁぁあああ!!」
司祭は吹っ飛んでいきました
「なぜ?なぜ私が負ける?神の加護を得た私が負ける?なんで神は私を愛してくれないんだ… なぜ私に加護を与えてくれないんだ!毎日お祈りを欠かさず、勉強も訓練も血反吐を吐くまでしてエリートとまで呼ばれるようになって なんで何の努力もしない奴等ばかりが勇者に選ばれるのか…なんで…」
パキンッ!
司祭の胸に埋め込まれた宝石が割れ、溢れた光りが空に還っていきました
「知るかクソ司祭…自分で考えろ」
「うわぁ!司祭様がやられた!」
「退却!退却ー!」
司祭がやられると兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げていきました
「へっ!これでしばらくはあいつも安全だな…うぐっ!」
「カイト〜 カイトどこ〜!」
スライムちゃんは愛しい人の魔力を便りに勇者の所にたどり着きました
そこには激しい戦いの跡と倒れた勇者がいました
「カイト!!大丈夫!?カイト!」
スライムちゃんは勇者を抱き起こしました
「アイか…ケガないか…?」
「私は大丈夫 カイトは?カイトは大丈夫?」
シュウ〜
勇者の体が徐々に粒子となって消えていきます
「へっ!死体も残らねえってか アイ、おまえといた時間本当に幸せだった ありがとう」
「カイト!やだよぅ 消えないでカイトぉ」
泣き出すスライムちゃんに勇者はそっと頭を撫で
「俺みたいな奴の為に泣くなアイ 俺はおまえの同族を八つ当たりで殺そうとしたクズだ おまえみたいなイイ奴が泣く必要がない」
「そんなの関係ない!世界中のどんな人間やどんな魔物がカイトの事憎んだって 私はカイトの味方だよ!」
「へっ!バカな奴…ありがとなアイ おまえを愛してる…」
ガクッ
勇者は気絶しましたが 粒子化は止まりません
「やだ!やだようカイト!死なないで!うぇーん」
泣きじゃくり勇者にすがるスライムちゃん
しかし、なにか決心したように顔を上げました
「…げる」
「あげる」
「わたしの全部カイトにあげる!だから死なないで!カイト!」
スライムちゃんはカイトにそっと口づけをしたーーー
「うっ…ここは?」
勇者は目を覚ましました そこには先ほどまで戦っていた戦場の跡
「あの世…でもねぇか なんで?俺は生きて…? そうだ…アイ!」
勇者はあたりを見渡し、自分よりも大事なものの存在を探します
「アイ!アイ!どこだぁ!アイ! あ…」
勇者は自分の足下をみました
そこにはアイと同じ色をした水たまりが
「アイ!」
バシャバシャ
勇者は水たまりを見た瞬間なにかを感じ取り 水たまりを何度もすくい上げます
「アイ!アイ!なんでだよ!なんでおまえが俺なんかのために…」
勇者は察しました 禁術を使ったのに生きていること アイの色した水たまり
アイは自分のために命を犠牲にしたということ
「アイ!アイ!なんでだよ!生きていてもおまえがいないんじゃぁ 何の意味もねぇじゃねえか! アイー!アイ!うわああああぁあぁ」
勇者は泣き叫びました
「あいあーい♪カイトー!呼んだー♥」
うにょにょ
、となんとスライムちゃんが勇者の体から湧き出すようにでてきました
「は?ええぇえぇ???!??! つかお前!今俺の中からでてきた?!」
勇者が混乱してると
「どうやらお前はスライムキャリアに似た様な存在にになったみたいだな」
そこにはいつのまにか魔法使いがいました
「てめぇ魔法使い!ここであったが百年目!ぶちのめす!」
「カイト!ケンカはダメ!」
「うぅ!」
「遅れて悪かったな…思っていたよりも教団の軍勢が大規模で他の場所を回っていた
らここにくるのが遅れてしまった」
「しかしお熱いねぇ 俺がかけた呪いは誰かへの愛を自覚した時に解けるようになってたんだが お前達は本当の意味で二人で一人の存在になったみたいだな! 他の魔物娘がうらやましがるぜ まったくどんな魔法も愛の奇跡の前じゃ霞んでしまうな」
「わけがわからねぇ!ちゃんと説明しろ!」
「禁術で消えていく体をスライムちゃんがお前を助けるために自分の全部あげたんだ
簡単に言うとお前の半分はスライムちゃん♪」
「アイ!お前…」
「カイト♥ いつまでもいつまでも一緒 ♥」
スライムちゃんは満面の笑顔を勇者に向けます
「ううっ」
勇者は顔を真っ赤にしました
(しかし、最強だと思ってたのに結局はスライムにやられちまうとはな)
「ふんっ!当たり前だ!そんなことより、おい!腹が減ったぞ 早くお前のゼリーよこせよ!」
「うん!でもぉ♥ わたしにもカイトをちょうだぁい♥もう我慢できないのぉ♥ 」
スライムちゃんはとろけた笑顔で勇者を押し倒し覆い被さりました
「えっ!?わっ!ちょっ!おい!アイ!いつもと様子が違うぞ!おい!魔法使いなんとかしろ!」
「さてと、邪魔者は退散しますか…」
「おい!まて!ちょ…はふぅん!」
「カイト〜 ♥」
「アッーーーーーーーー!!!」
勇者は大いなる力は失いましたが、それよりももっと大事なものを得ました
その後、勇者とスライムちゃんは 勇者が襲った村のみんなに謝り、村の復興に全力で協力しました
最初は白い目で見ていた村人達も勇者とスライムちゃんの一生懸命な姿を見て
いつしか村の一員として認めるようになりました
勇者は加護はなくなりましたが、大事なものを守りたいと自分の力で強くなって
村の守り人となり いつしかみんなからこう呼ばれるようになりました
“スライムナイト”
と
勇者とスライムちゃんはいつまでも仲良く暮らしました
勇者とスライム〜不死の勇者と献身スライム〜
完
13/12/15 13:36更新 / さ