異世界勇者はポンコツ勇者
「パパァッ!!」
「ピリルッ!!よかった、よかった・・・」
「ご、ごめんなさい。中立だから大丈夫と思ってたらいきなり教団がやってきて逃げ遅れちゃって・・・」
「大丈夫だ。こうして無事だったんだから」
「うん、でもごめんなさい・・・ママも、そして、えと、えと・・・」
「あ、キリクです。」
「キ、キリクさんも、ごめんなさい」
「いえ、俺は・・・っと早く行きましょう。まだこの辺りは危険ですし」
「あ、そうですね、すいません」
親子の再開シーンは微笑ましかったがまだここは反魔領の都市の近くだ。積もる話は帰ってからだ。隠しておいた馬車のもとへ向かわないと・・・
・・・・・・・?
・・・変な気配がする。
自分も何となくだが人間と魔物の気配の区別がつくようになってきた。
だがこの気配は?人間に近いようだがでもどこか違う。
・・・嫌な予感がする。派手な脱出をしてしまったから誰かに見られた可能性は十分にある。追っ手の準備が整う前に逃げてしまえばいいかと思っていたが、さすがに早計過ぎたか?
足をとめる。俺のただならぬ雰囲気を感じたのか後ろの親子達も足を止めた。
そして・・・その人物が現れた。
「おやおや、どこの賊かと思えば魔物連れとは。これは逃がすわけにはいけませんね。」
・・・一人?他に気配は一切ない。
町の中にいた騎士達ほど派手ではないが十字架の装飾の目立つ装備を身に着けている、どう見ても反魔側だ。一人ということは・・・相当腕は立つのか。
目の前に現れた脅威に対し、気を引き締めてかかろうとする俺の耳に
「ヒッ・・・」
「お、おい。あの剣・・・まさか・・・」
「あ、あああ・・・」
背後からおびえた声のやりとりが聞こえてくる。彼らを落ちつけようと声をかけようとした俺の耳にその叫びが飛び込んできた。
「ゆ、勇者だぁ!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
え?
勇者って俺のことだよね。あれ、いつ自称じゃないってばれた?ってなんでそんなにおびえて・・・っていや、違うだろ。明らかに目の前の人物に対していってるだろ。じゃあ勇者がなんで反魔のような装備を、そりゃ勇者が反魔、いや、んなあほな。この世界の魔物は人類の敵じゃねえだろ勇者なんて必要ねえだろおいおいおいお・・・
「ふふ、その通り。私は勇者『アレド・フレグナー』・・・汚らわしき魔物とその異教徒共、私の名を地獄に行っても忘れぬことです・・・いや、魔物は地獄にすら行けぬかもしれませんがね・・・」
はい?
何言ってんだこいつキザったらしい話し方して勇者っておいまじか勇者って俺たち殺す気なのか地獄とか言ってるしそうだろ明らかに魔物は人間にしか見えないのに殺すってのか怯えてる相手殺すってのか子供もいるのに殺すってのか異教徒とか言ってるし人間も殺す気なのかせめて人間は助けるとかそういう発想ねえのか罪悪感とか躊躇いとかないのかそれで勇者なのかおいおいおい勇者って普通いや俺はここじゃ自称勇者だし余所者だし確かに俺も元の世界じゃ魔物殺してたけどでもこの世界はいや俺の世界ではいやそのあれ世界勇者魔物魔王自称勇者魔物異世界ゆうs・・・・
「うわああああああああん!!」
泣き声
それは俺を一瞬で正気に戻らせた。
泣き声の主が魔物だとかはどうでもいい。弱者が怯えている。ならば勇者、強者はそれを守る盾にならなければならない。
それだけは確かなんだ。
「む・・・?」
魔物の家族をかばうように立って剣を構える俺の姿をみて目の前の勇者が眉をひそめる。
「ふ、勇者であるこの私に刃向う気ですか。まあいいでしょう。その無謀ともいえる勇気をたたえて名前を聞いてあげましょう。」
「・・・・・・・『キリク・アーランド』・・・自称勇者だ」
「自称・・・?」
・・・・・・・・・・・・・
「ぷっ・・・・クックックッ・・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・
「アハハハハハハ・・・いやいやまさか、そんな名乗りされるとは思いませんでした。おそらく勇者になろうとして結局なれず、でもあきらめきれずに勇者と名乗っていると見ました。やれやれ、現実を見ていない夢見さんですか。そのうえ魔物に手を貸して・・・自称ところかポンコツ勇者と言って・・・」
「よく回る口だな。本物の勇者とやらはおしゃべりだけで今までやってきたのか?」
熱だ。自分の中に熱を感じる。
そんなに前のことでもないのに久しく感じるこの感覚。
俺の世界で魔物と激戦を繰り広げていたときに自分の中にあった熱。
それが、ゆっくりと、自分の中で再点火していく。
「・・・ふん、自称のくせに生意気な口を・・・いいでしょう。先に地獄へと送ってあげます。本物の勇者の力を味わって後悔しながら逝きなさい!ポンコツ勇者がぁ!!」
えらく豪華な装飾が施された剣を振りかぶり、目の前の勇者が襲ってくる。
・・・何の冗談だ?これは。
隙だらけだ。身体能力が一般人と違うのはわかるのだが、その能力に頼りすぎているのか動きに無駄が多すぎる。そのうええらく直線的だ。相手にかわされることを想定していないのか?
・・・これが・・・この世界の・・・
「俺がポンコツ勇者なら・・・」
剣を構え、その剣に魔力を流し込む。剣に魔力でできた雷がまとわりついていく。
「それに斬られるお前は・・・」
相手の歩調と呼吸のタイミングに合わせ、あっさりと相手の懐に飛び込む。相手の顔が驚愕にゆがみ、ますます隙だらけになる。
「一体・・・」
そのまま俺はがら空きの胴に向かって剣を・・・
「『何』勇者だぁ!!」
一気に薙いだ。
・・・・・・・・・・・
「あ、あの・・・」
戦いは一瞬で終わった。いや、戦いと呼べるものだったのだろうか・・・。
この世界の勇者は
呆れるくらい弱かった。
「そ、その勇者さん、死んじゃったんですか?」
・・・自分を殺そうとしてきた相手を心配するだなんて・・・
そして俺は一つの確証を得ていた。前にリザードマンのフィルネと戦ったとき彼女に殺気が全く無かったこともあわせて・・・
この世界の魔物は
人間を殺せない。
「いえ、生きてますよ。」
剣は振りぬく際に半回転させ、剣の腹の部分を当ててある。斬れてはいないが骨折ぐらいはしてるだろう。
それに剣にまとわせていた雷もかなり弱めにしておいた。せいぜい感電こそするが命を奪うほどでは無いくらいに・・・
正直加減しすぎたかも、と思い警戒を続けていたが倒れた勇者は全く起き上がってくる気配がない。加減の一発で決まってしまったらしい・・・。
弱い、これで勇者なのか。
なんなんだこの世界は。勇者がこんな有様で、魔物は人を殺さない慈悲深すぎる存在・・・。
俺の世界と全く逆だというのか。
・・・いや、俺はまだこの世界のことをほとんどわかっていない。
・・・調べてみようか、この世界のこと・・・
たとえ自分がこの世界で余所者でも、口を出す資格などなくても、
この世界のことを知りたくなってきた・・・
それにしても・・・
「これが・・・勇者・・・」
思わず心の中に渦巻く思いが口に出てしまう。
それが聞こえてしまったのか依頼人の家族も沈黙する。
辺りは勝利の後とは思えないくらい重苦しい雰囲気に包まれていた。
カポッ・・・カポッ・・・
馬車は無事親魔物領に帰り着いた。
魔物の娘も助かり、依頼は完遂。
・・・にもかかわらず・・・
馬車内の空気は重かった。
無論俺のせいである。俺はあれ以来一言もしゃべっていない。
依頼人の夫婦もその娘も俺の沈黙に気押されるように黙ってしまっている。
これじゃいけないと自分も分かっているのだが・・・沈黙が破れない・・・
「あ、あの・・・」
フワルが破ってくれた・・・。ああ、やっぱ自分弱いな、心。
「すいません・・・教団の事を話した時、勇者の事伏せてて・・・」
ああ、そういえば話してなかったな。
おそらく俺を気遣って、だろう。勇者を自称してる者に、本物の勇者がどんなのかを伝えればショックを受けるだろうと・・・
「いえ、大丈夫です。お気遣いなく・・・」
そもそも魔物に敵対している人間もいることは知ってたのに、それに勇者が含まれていると分かっただけであんなに混乱し、こんなに消沈してしまうとは・・・結局自分が『勇者』というものに思い入れが強すぎるだけなのかもしれない・・・いい加減立ち直らないと。
「・・・キリクさん・・・」
今度は夫のシュケルが切り出してきた。
「まだ『自称』勇者と名乗るつもりなのですか?本物の勇者に勝ったのだし、普通に勇者と名乗っても・・・」
「いえ、自分は『自称』・・・あくまで『自称勇者』です。それは変える気はありません。」
この名に関しては、むしろ腹が決まった。この世界に勇者がいるというのなら、余所の世界から来た勇者はどうあがいても『自称』だろう。ならばもう自分から名乗ってやる。この世界の勇者と自分を区別する意味もこめて・・・
俺は
「キリク・アーランド」
『自称』勇者だ・・・
14/08/02 19:08更新 / popopo
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