連載小説
[TOP][目次]
異世界勇者は盗賊勇者




カポッ・・・カポッ・・・

馬の蹄の音が心地よく響く。
これから危険な場所に赴くというのに実にゆったりした気分だ。やはり魔物の脅威がないというのが大きいのかもしれない。元の世界だったらもうちょっと緊張感をもって手綱を取っているところだ。
ふと後ろを振り返ってみると、馬車に乗っている依頼人の夫妻の緊張した顔が見えた。こちらの視線に気づき、表情が不安なものに変わる。

「あの、何か問題が・・・」

「いえ、別に・・・まだ目的地には遠いしもうちょっとリラックスしてもいいですよ。」

「は、はあ・・・」

少し気は抜けたようだが彼らの顔からは硬さが取れない。まあ無理もないか・・・




ウサギの少女・・・じゃなかった、ワーラビットの妻、フワルと人間の夫、シュケル。
あの決闘が終わった後、初めて彼らの名前(と種族名)を聞くことができた・・・かなり今更だったが。
そしてキョウダン・・・教団についても聞くことができた。彼らにとって当たり前のものについて聞くのは怪しまれかねない行為だが、そこは契約書の時についた『自分の住んでいた場所は外の情報が入ってこない程の僻地』という嘘が役に立った。情勢に詳しくないので今の教団はどのようになってるのか教えてほしい・・・といった具合で・・・・・・なんか自分どんどん嘘がうまくなっていってないだろうか。


彼らから教わったことをまとめると、この世界は主神とかいう存在によって作られ、人間はその神を信仰する主神教というものを信仰しているらしい。そして主神教は魔物を忌むべき、討ち滅ぼすべき敵としており、魔物が人を襲わなくなってもその方針を変えていないとのこと。あの町のように魔物と共に生きることを選んだ場所は親魔物領と呼ばれ、それ以外は反魔物領とよばれているそうだ。
正直ショックが大きかった。てっきり反魔物領や教団は人類全体の一部の過激派、みたいなものと思っていたが、どうやら想像以上に規模が大きいらしい。人類の親魔物側はじわじわと増えていっているようだがそれでも反魔物側はまだまだたくさんいるようだ。
なぜ教団は方針を変えてないのか気にはなったが、怪しまれるかもしれないと思いそれ以上聞かなかった。よく考えてみれば自分は別世界からこの世界にやってきた、いわゆる部外者である。この世界の宗教、歴史にどうこう言う資格はない気がする。
・・・だからといって目の前の困っている人を見捨てることはしない。たとえこの世界では自称でも自分は勇者なのだから・・・。


ちなみに今乗っている馬車は自費でレンタルしたものだ。予想以上に俺がお金を持ってたので依頼人から驚かれたが、「自分の故郷で取れていた宝石が予想以上の高値で売れたから」と嘘をついておいた・・・あれ、嘘のようで嘘でない?
ついでになぜ故郷から出てきたのかも聞かれたが、それについては「いろいろあって・・・」と言葉を濁し、向こうも何かを察してそれ以上聞かなかった・・・もしかして俺の嘘がうまくなったのって架空の故郷を自分の世界に無意識に置き換えちゃってるから?


まあそんなこんなで俺たちは今件の都市、ダレイアスに向かっている。
今まではいたって平和な旅路だったが、もうそろそろ反魔の領域に入りそうだ・・・気を引き締めないと。
思えば今までは人間を魔物から守っていたが今度は魔物を人間から守る立場になるのか・・・変な気分になるが後ろの馬車の中にいるほとんど人間にしか見えない魔物の姿を見ると、人間だの魔物だのどうでもよくなってくる。自分は勇者、強者は弱者を守る資格がある。そこに種族の違いなんて関係ないのだ。
そんなことを思いながら、俺は手綱を握る手に力を込めていた。







ついに反魔物になり始めているという都市、ダレイアスが見えてきた。なかなか大きい都市のようだ。
この大きい都市でどうやって娘を探すのか、魔物のフワルが入るには危険すぎるし数人で探索すると目立ちそうなので最悪自分一人で入って虱潰しに探そうかと思っていた。
だが都市に近づくにつれフワルが娘の場所が分かる気がすると言い出した。ワーラビットにそんな能力があるのかと思ったが、夫のシュケル曰くそんな能力は無いとのこと。魔物の持つ潜在能力か、子供を思う母の奇跡か・・・しかしこれで虱潰しに探さなくてもよくなるかもしれない。
しかし嬉しい誤算、とは言い難かった。それはつまりあの都市の中にフワルが入らなくてはいけないということだ。教団の連中に見つかったら間違いなく命を狙ってくる。魔物であることをなんとかして隠さないといけない。
マントで身を包んで、という手も厳しい。フワルのウサギ部分は耳だけではない。下半身もウサギなのだ。特に特徴的な足がまずい。歩いたら確実にマントの隙間から見えてしまう。
そこで取った苦肉の策が・・・


「うう、なんかフワルが捕まってさらわれてるように見える・・・」

大きな袋の中に彼女を入れて自分が持ち運ぶ、というものだった。
自分の筋力は並ではないので重さはそこまで問題ではない。しかしシュケルの言うとおり人さらい・・・魔物さらいのようである。でも見た目をどうこう言っていられないので我慢。
ちなみにシュケルは町の外で待ってもらうことになった。複数で行動すると目立つ、ということもあるが、いざ逃げるとなったとき彼が俺についてこれるとは思えないというのが大きかった。

「うう、フワル・・・心配でたまらないけど・・・」

「私もダーリンと離ればなれになるのは心細いよ・・・で、でも娘を救うためだから・・・」

「・・・必ずかえってきてくれよ、キリクさんも」

「・・・ええ」

彼らのためにも、そしてその娘の為にも失敗は許されない。意を決して俺は目の前の都市に足を運んだ。



都市の規模はさっきまでいた町・・・『カラエス』より少し大きいか、といったぐらいだった。だが何かが決定的に違う・・・空気だ。なにか張りつめた感じがする。活気にあふれていたカラエスと比べると人通りも少なめに見える。主神教とやらは高潔を信条としているらしいが・・・その影響かなにかだろうか。
と、あたりの空気がざわついた。通行人達が何か言っている。

「おい、教団騎士達がここを通るらしいぞ!」

『ヒ・・・ヒィッ!!』

その声が聞こえたらしい。背中の袋から小さい悲鳴が聞こえてきた。

「大丈夫ですから、落ち着いて」

小声でそう伝えると、目立たないように道の脇に身を寄せる。ほどなくして教団の騎士達が道の向こうから歩いてきた。

立派な剣や盾を持ち、きらびやかな鎧に身を包み、あちこちに十字架を思わせる意匠がこらされている。見た目だけなら確かに神聖な騎士、といった感じだ。
だが俺は彼らにいい印象を受けなかった。なんと言えばいいのか・・・驕りのようなものを感じるのだ。騎士なら自分の世界にもたくさんいたが、皆国を、民衆を守るという信念、強い意志を感じたものだ。彼らに比べると目の前の騎士たちにはそれを感じない。見てくれこそ立派だが中身はまるで宝石とガラス玉のような違いを感じてしまう・・・これはさすがに自分の偏見、思い込みによる錯覚だろうか。
だが周りをよく見ると、通りにいた町民たちは皆、彼らを直視しないようにしているようだ。やはり民衆にもよくは思われていないようである。もともと中立なのを無理やり反魔物領に変えられている、という話だし当たり前か。
しかし今の俺の目的はフワルの娘を救出すること。彼らと事を荒立てるなどもってのほか。彼らの目につかぬようやりすごし、俺は背中の袋にこっそりと問いかけた。

「もう大丈夫です。娘さんの場所、まだわかりますか?」

『は、はい・・・おそらく北西のほうに・・・でもまだ距離が・・・』

まだ娘さんのもとにたどり着くのは時間がかかりそうだ。しかし騎士達が巡回しているのを考えるとあまり時間をかけるのはよくないかもしれない・・・仕方ない、目立つ危険もあるが大胆にいこう。

「すみません、大分揺れるかもしれませんけど我慢してください」

『は、はい?????』

背中からの疑問符満載の返答を尻目に俺は呪文を唱える。そして唱え終わると同時に自分の体が独特の浮遊感に包まれるのを感じる・・・よし。

「いきますよ!!」

『え?ひゃああああ!!』

俺は袋をかついだまま近くの建物の屋根に飛び上がる。なるべく周りから死角になる場所から上がったし見られてはいないはず!俺はそのまま屋根の上を駆け抜け、他の家の屋根に飛び移りながら北西に一気に突っ走った。

使ったのはいわゆる重力減少魔法、とでも言おうか。自分にかかる重力を減らし高く跳んだり素早く走れたりできるようになる、という魔法だ。ただ軽くなる分攻撃も軽くなってしまうため戦闘にはあまり向かない。俺は移動用の魔法と割り切って使っている。
背中にいるフワルにまではかけられなかったので彼女の重さはそのままだが移動に支障が出るほどではない。このまま目的地まで突っ走る!!
ただ・・・


『いやああああ!何?何がおこってるんですかああああ!!?なんかすごく揺れてえええ!!?ぎゃあ!今回ったああぁぁ!!一回転したあぁぁぁ!!?ど、どうなってるのぉぉぉぉぉぉぉ!!????』

袋に入れられて周りが見えない彼女にはかなりの恐怖体験だったようで・・・。うん、やっぱ無茶だったかも。




「えーっと・・・ここらへん、ですか?」

『ふ、ふぁぁい・・・・近くに娘の、そ、存在を感じま・・・・すぅ・・・』

背中の声が虫の息になりかけているが、とにかく目的地、娘の居場所の近くまで来れたようだ。どうやらここらへんはスラムのようで、あちこちに廃屋、廃墟が見える。身を隠すにはうってつけだ。ここらへんのどこかに娘さんが・・・
とりあえず目の前の廃屋に入ってみる、すると・・・

ガサッ

なにか物音がした。それに気配も・・・も、もしや・・・


「う、うわあああああああああっ!!」


薄暗い中、何かの人影がとびかかってきた。なにやら手に棒切れを持っていたがその動きは洗練されてはいない。軽く受け流して距離を取る。
・・・薄暗いとはいえ、その人影の頭に特徴的な物がついてるのははっきりわかる。おそらくこの子が・・・

『ピ、ピリルッ!?』

さっきの叫び声に反応したらしく、背中の袋が蠢く。

「・・・!今の声は・・・マ、ママ!!」

・・・あ、やばい。これ誤解されるパターンだ。
急いで背中の袋を下して袋の口を開ける。人影と同じ特徴的な耳が飛び出す。

「ピ、ピリルッ!!」

「マ、ママ・・・」

「ピリルッ!ピリルッ!!」

袋から飛び出し娘に抱き着く母親。戸惑いながらも抱き返す娘。
その姿は人間の親子と何も変わらない。
自分の世界で俺達が救い出して再開を果たした親子の姿を思い出し、少し胸が熱くなる。
しかし結局救い出せず再開できなかった親の姿も同時に思い出し、心が負の感情に飲まれそうになり・・・慌ててふりはらう。こんなとこで落ち込む訳にはいかない。

「すみません。感動の再開の所申し訳ないですけど急いで脱出しないと・・・」

「・・・はい、そうですね、すみません」

「ママ、この人は・・・」

「私達の護衛を受けてくれた人よ、ママが袋に入れられてたのも潜入の為仕方なくだから」

「そ、そうだったんだ・・・」

「早く行きましょう、町の外でお父さんも待っている事ですし。あ、ピリルとか言ったっけ?君はこの袋に・・・」

「パパも来てるの!?・・・ってえ、それに入るの?私も?」

用意しておいたもう一つの袋を見てワーラビットの少女が複雑そうな表情をする。・・・うん、ごめん。なんというかごめん。


また再び袋に入るフワルと渋々袋に入るピリル。
その様子を見ながら今後のプランを考える。
今度は背負う袋が二つになる。重さに関してはまだ余裕があったし問題はないが、やはり目立つのが問題だ。特に入口の門。結構人の出入りが多かったのでそれに紛れる形で何とか侵入できたが再び同じようにはいかないだろう。そこまでの道中で教団騎士に目をつけられる可能性もある。
・・・また強引にいこうかな、後は逃げるだけだし一気に・・・



そして俺は二つの袋を背負い、

重力減少魔法をさっきより強めにかけ、

町の塀を飛び越えていた。


・・・これ勇者じゃなくて盗賊じゃね?


ついでにいえば飛び越えている最中背中の二つの袋は仲良く騒いでいました。
やっぱり親子だった・・・。


そんなこんなでどうにか娘を救って脱出。
後は元の町に帰るだけ・・・・


そううまくはいかなかった。


やはり強引過ぎたらしい。
塀を飛び越えている姿を見られてしまっていたのだ。



そう




この世界の「勇者」に・・・
14/07/21 01:09更新 / popopo
戻る 次へ

■作者メッセージ
m(_ _;)m





すいません・・・・ほんとすいません・・・・・・
感想欄で「次回はこの世界の勇者に会う」とか言ってましたけど・・・
そこまでえらく長くなっちゃったので一端切っちゃいました。
次回、次回こそは必ず会うのでぇぇぇぇ!!!!








駄目作者でほんとゴメンorz

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33