読切小説
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約束の海岸で
ざざぁ…と波が砂浜を撫でる音がする。

ざりっ、ざっざっざっ

足音が僕の後ろで止まる。思わず振り返ろうとするも

「来てくれたんだね。あっ、まだ振り返っちゃダメ」

静止されてしまった。

「もちろん、約束したから」
「ありがとう。大好きだよ、ショウちゃん」
「僕もだよ!!ミナトねぇ!!」









「ミナトねぇと離れるのやだぁ〜!!!!!!」
「泣いたって仕方ないでしょ?ほら湊ちゃんに挨拶しなさい」

小学2年生の頃、祖母の家にお泊まりした時に出会ったのが湊ねぇ
近くに住んでる小学6年生のお姉さん

「ほらショウちゃん、泣かないの。また来年会お?」
「うん…」
「その代わり約束しよっか」
「約束…?」
「また来年会うって約束」
「うん!!」

しかしその約束は果たされなかった。彼女が死んでしまったからだ。
溺れている子供を助けた代わりに自分が死んでしまったみたいだ。

それからと言うもの僕の心にはぽっかりとした穴が空いてしまったようで、無気力で大事な人を作らない、作れない人間が完成した。

しかし彼女が死んでからちょうど10年目の命日。家のポストに不思議な便箋が入っていた。

切手も住所も無く。ただ、「ミナトから、ショウちゃんへ」とだけ書かれた便箋。

中を開けてみるとそこには。

『約束守れなくてごめんね。10日の後午後7時、思い出の海岸で待ってて』

と書かれていた。

そうと決まれば善は急げと僕は気がついたら電車に揺られていた。
もちろん学校はサボったし親や学校から電話がかかってきている。

そんな事どうでもいいが

そうして祖母の家に。急に来たので祖母は目をまん丸にして驚いていたが快く迎え入れてくれた。

「しかし随分と急だねぇ…何かあったのかい?」
「ミナトねぇから手紙が届いたんだ」

そう言うと祖母の表情が曇る

「そうかい、翔」
「何?ばあちゃん」
「お前は湊ちゃんにあったらおそらくこの世界には戻ってこれないだろう。今のうちにお母さんとお父さんに挨拶をしておきなさい」

どう言う事?と言うと祖母は重そうに口を開いた。

「この地域には伝承があってじゃな…海で死んだ人が思い人に手紙を送り、手紙の通り海へ行ってしまうと死人に連れ去られてしまうと言うものじゃ…」
「ばあちゃん…ごめん、それでも僕はミナトねェに会いたい」
「いいんじゃ、お前がその気なら」

そうして10日が経ち。約束の時間に

ざざぁ…と波が砂浜を撫でる音がする。

ざりっ、ざっざっざっ

足音が僕の後ろで止まる。思わず振り返ろうとするも

「来てくれたんだね。あっ、まだ振り返っちゃダメ」

静止されてしまった。

「もちろん、約束したから」
「ありがとう。大好きだよ、ショウちゃん」
「僕もだよ!!ミナトねぇ!!」

その声は死んだミナトねぇを少し大人びさせたような声で…正直エロさすら感じるほどだった。

「ねぇ…ショウちゃん。伝承、知ってるよね」
「うん…」
「多分察してくれてると思うけど…私はもう人間じゃないの」
「うん…」
「それでもショウちゃんは…私を受け入れてくれる…愛してくれる?」
「ミナトねぇならどんな姿形だろうと愛してる!!この気持ちに偽りなんてない!!」

数秒の沈黙と波の音。遅れて涙がし滴る音。

「ありがとうショウちゃん」
「振り向いても…いいかな…」
「うん、いいよ」

振り返り彼女の姿を見る。

「じゃーん、て言っても陸じゃ違いはなんだけどね」
「ミナトねぇ…!!」
「んっ、よしよし。私はどこにも行かないからちょっと力弱めなさい」
「ごめっ…ずっと会いたかったから…」
「そうだよね、じゃあ。ちょっと海に入ろっか」

服を脱ぎ、彼女と海に入る。
9月といってもまだ暑いので水が気持ちいい。

「ねぇ…私と…その…ケッコン…する気ある?」
「うん、もちろん」
「じゃあさ…本格的な式はちゃんとした所でだけど…ここでキスしてほしっ」

互いの唇が重なる。舌も絡めず、ただ重ねるだけ。

「ぷはぁ…ありがとうショウちゃん。大好き♡」
「僕も大好きだよ、ミナトねぇ」
「じゃあ…こっちの世界にバイバイしよっか」
「うん」

どんどんと海の中に潜っていく。不思議と苦しくはない。むしろ快適というか…フツーに息ができる。

彼女の方を見ると

足は魚に、耳の辺りからもヒレのようなものが出ている。これはまるで…

「人魚姫みたいだ」
「うん、正確にはマーメイドっていう魔物になったの」
「それじゃあとりあえず…私のお家いこっか」
「うん」


その後、とある高校生が行方不明になったらしく。まだ見つかっていないため警察は海に自殺したと考え、捜査を打ち切ったという。
24/06/17 03:05更新 / 遥奏多

■作者メッセージ
エロはまだ

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