青年アレックス
「起きろ、アレックス」
「ん?あぁ」
俺は親友のエヴェルと共に魔物討伐の為に馬車で森の中を進んでいたのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。空はすっかり暗くなっている。
「目的地はここでいいのか?」
「いや、この近くなんだが、木が多すぎて馬車が通れないんだ」
という事は、ここからは歩きか。
俺達は馬車を道の脇に停め、薄暗い森の中を歩き出した。
「しかし、こんな所に本当に魔物がいるのか?」
さっきから歩いているが、魔物どころか動物の姿さえ見えない。普通なら小動物の一匹や二匹位いてもいい筈なのに。
そんな事を考えていると、前を歩いていたエヴェルが突然立ち止まった。
「どうした?まだ魔物の姿は見えないが」
「いや、此処で良い」
「え___」
口を開こうとした瞬間、右腕の付け根に激痛が走った。
「オイオイ、俺ごときに腕を切り落とされるなんてお前本当に勇者候補か!?」
歪な笑みを浮かべるエヴェルが再び切りかかって来た。咄嗟に左手で剣を抜き、防御する。
「何故だ!?何故こんな事をする!?」
「決まってるだろ?お前を始末しろと命令されたからだ」
エヴェルの言葉をすぐに理解する事は出来なかった。命令?俺を始末?いったい誰がそんな事を?
「お前、前に相談したよな?魔物を倒すのを躊躇してしまうって」
確かに、人間に近い姿をした彼等を倒すのを時々迷ってしまうと言った事はある。だが、それでも俺は彼等と戦って来たはずだ。
「陛下が言ったんだ、お前みたいな感情を持つヤツは今に魔物共の味方になるとな」
「陛下が俺が人間を裏切ると!?そう仰ったのか!?」
「あくまで可能性だ。だからこそ、今の内に潰しておくんだよ!」
再び襲いかかるエヴェルに俺は身を守る事しか出来ない。少しずつ後ろに後退させられる。
「何故だ!?俺達は___」
「親友?んなの昔の話だ。今のお前はただの邪魔者だよ、俺が出世するのを邪魔するウザイヤツだ」
「俺が?」
「そう、そして人間の敵。国民全員がお前の事を裏切り者って言ってたぞ」
先程まで、親友と思っていた男から発せられた言葉は俺の行動を封じるには充分すぎた。
エヴェルはその隙を突いて俺の腹に蹴りを放った。とっさに体制を整えようとするが、俺の背後には地面が無かった。どうやら崖の前まで誘導されていたらしい。
「じゃあな、アレックス。勇者になるのはこの俺だ」
「エヴェル......」
かつての親友の顔は、優越感に満ち溢れていた。それを最後に背中に走った衝撃で俺は意識を失った。
意識を取り戻すと、俺は先程の森の中にいた。しかし、起き上がる事は出来ない。さっき落ちた時に足を折ったらしい。いや、足だけじゃない。
さっき切り落とされた右腕は勿論、体全体から、血が抜けて行く感覚がある。次第に景色も薄くなって来た。
普通なら此処で走馬灯が浮かぶらしいが、俺には何も起こらない。まるで、俺が今までやって来たこと全てを否定された気分だ。
『お主、やり残した事はあるか?』
突然聞こえた声に驚き、すぐに反応する事は出来なかった。
姿を見ようにも、視界が霞んで上手く見えない。
『それとも、そのまま朽ち果てるのか?』
やり残した事か......何だろうな、人間を守るのはもう出来そうにないし、故郷で静かに暮らすのも裏切り者の俺には無理だ。
___復讐?そうだ、俺の事を否定したあいつら人間に復讐でもしてやろうかな。
『......それで良いのだな』
あぁ、あいつらの吠え面を見れるなら、俺は悪魔に魂を売っても構わない。
『解った。後悔してしてもしらんぞ?』
意識が途切れる寸前に聞こえた声は、妙に幼かった。
「ん?あぁ」
俺は親友のエヴェルと共に魔物討伐の為に馬車で森の中を進んでいたのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。空はすっかり暗くなっている。
「目的地はここでいいのか?」
「いや、この近くなんだが、木が多すぎて馬車が通れないんだ」
という事は、ここからは歩きか。
俺達は馬車を道の脇に停め、薄暗い森の中を歩き出した。
「しかし、こんな所に本当に魔物がいるのか?」
さっきから歩いているが、魔物どころか動物の姿さえ見えない。普通なら小動物の一匹や二匹位いてもいい筈なのに。
そんな事を考えていると、前を歩いていたエヴェルが突然立ち止まった。
「どうした?まだ魔物の姿は見えないが」
「いや、此処で良い」
「え___」
口を開こうとした瞬間、右腕の付け根に激痛が走った。
「オイオイ、俺ごときに腕を切り落とされるなんてお前本当に勇者候補か!?」
歪な笑みを浮かべるエヴェルが再び切りかかって来た。咄嗟に左手で剣を抜き、防御する。
「何故だ!?何故こんな事をする!?」
「決まってるだろ?お前を始末しろと命令されたからだ」
エヴェルの言葉をすぐに理解する事は出来なかった。命令?俺を始末?いったい誰がそんな事を?
「お前、前に相談したよな?魔物を倒すのを躊躇してしまうって」
確かに、人間に近い姿をした彼等を倒すのを時々迷ってしまうと言った事はある。だが、それでも俺は彼等と戦って来たはずだ。
「陛下が言ったんだ、お前みたいな感情を持つヤツは今に魔物共の味方になるとな」
「陛下が俺が人間を裏切ると!?そう仰ったのか!?」
「あくまで可能性だ。だからこそ、今の内に潰しておくんだよ!」
再び襲いかかるエヴェルに俺は身を守る事しか出来ない。少しずつ後ろに後退させられる。
「何故だ!?俺達は___」
「親友?んなの昔の話だ。今のお前はただの邪魔者だよ、俺が出世するのを邪魔するウザイヤツだ」
「俺が?」
「そう、そして人間の敵。国民全員がお前の事を裏切り者って言ってたぞ」
先程まで、親友と思っていた男から発せられた言葉は俺の行動を封じるには充分すぎた。
エヴェルはその隙を突いて俺の腹に蹴りを放った。とっさに体制を整えようとするが、俺の背後には地面が無かった。どうやら崖の前まで誘導されていたらしい。
「じゃあな、アレックス。勇者になるのはこの俺だ」
「エヴェル......」
かつての親友の顔は、優越感に満ち溢れていた。それを最後に背中に走った衝撃で俺は意識を失った。
意識を取り戻すと、俺は先程の森の中にいた。しかし、起き上がる事は出来ない。さっき落ちた時に足を折ったらしい。いや、足だけじゃない。
さっき切り落とされた右腕は勿論、体全体から、血が抜けて行く感覚がある。次第に景色も薄くなって来た。
普通なら此処で走馬灯が浮かぶらしいが、俺には何も起こらない。まるで、俺が今までやって来たこと全てを否定された気分だ。
『お主、やり残した事はあるか?』
突然聞こえた声に驚き、すぐに反応する事は出来なかった。
姿を見ようにも、視界が霞んで上手く見えない。
『それとも、そのまま朽ち果てるのか?』
やり残した事か......何だろうな、人間を守るのはもう出来そうにないし、故郷で静かに暮らすのも裏切り者の俺には無理だ。
___復讐?そうだ、俺の事を否定したあいつら人間に復讐でもしてやろうかな。
『......それで良いのだな』
あぁ、あいつらの吠え面を見れるなら、俺は悪魔に魂を売っても構わない。
『解った。後悔してしてもしらんぞ?』
意識が途切れる寸前に聞こえた声は、妙に幼かった。
14/08/05 21:49更新 / 水まんじゅう
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