出会い
「僕は動物が好きだ」
「猫も犬も鳥もネズミもウサギも、
みんなすごくかわいいから」
「噛み付かれたら毒がある蛇とか
大きくて踏み潰されてしまいそうな象とか
食べられてしまいそうなライオンとか
そういうのは少しこわいけど…」
「でもワニや蛇だってかわいいし、触れるなら触ってみたい…!」
「もしできるなら仲良くなって、友達になりたい!」
動物好きである彼が、母に何か飼いたいとねだるのは
そう遠い時期ではなかった。
そして彼は母との壮絶な戦い× 話し合い○ をして、ハムスターを2匹飼う事となったのだ。
彼は喜び、その2匹を可愛がっていたが…その時間はあまり長くは続かなかった
少しずつ頭の中にかかる霧が晴れ、目を開く
だが、いつものような目に刺さるような日の光はない
寝返りをうち、時計を見る
「…?」
普段、彼が休日に起きるには早すぎる時間だった。
こんな時間に目が覚めた事を疑問に思ったが、体をおこし伸びをする
「んっんぅぅぅ」
そしてそのまま2段ベットの上で兄が寝ている部屋をあとにし、
階段を下りる
まだ肌寒さを感じる時期だ。
床の冷たさを足の裏で感じていたが、階段を下りた先に
大好きなハムスターのケージが置いてあり、その中の様子を見たい気持ちが彼を足早にさせる。
階段を下り、2匹がケンカをしないよう二つに分けられたケージの様子を覗く
1匹は木でできた小さな家の中で丸まっていた。
もう1匹も同じような家に入っている所は変わらないが、彼は何かに疑問を感じる
「・・・?」
彼はケージの扉を開け、底のない小さな家を持ち上げ、
下から掬うようにハムスターを持ち上げようとする。
冷たかった
何かの病気ではないかと彼は思い、寝ている母をおこした
だが、母に見てもらっても返ってきた答えは彼が期待していた答えではない
「死んでしまった」
6歳になったばかりの彼でも、その言葉は理解できた
どういう意味をもっているのかも…
それから2週間はたった頃、彼は未だショックから立ち直れず、
まともな食事ができなかった。
食べても喉を通らず、吐き出してしまう。
それを見かねた母は、
どこへ行くか伝えぬまま、彼を外へ連れ出し、ある場所へと向かう。
電車に長く揺られ、歩いて向かった場所は、
小さな山の中にある木に囲まれた広場のような場所
そこに建っていた一軒の家だった。
木で出来ているように見えたその家から、男の人が出てきた
「お待ちしてましたよ」
ぼくと母さんは家の中に入り、ソファに座る
男の人も正面のソファに座る
ぼくは自分に関係のない話をすると思っていたので
家の中をキョロキョロと見回していた
母さんは男の人と向かい合い何か話している
「じゃあ早速ですがどういったのがご希望かお聞きしましょう」
「はい、じゃあてっちゃん? お母さんはこの人とお話があるから、お外で…」
「でしたら隣の部屋に皆いますから、そちらでよろしければ」
「よろしいですか?助かります」
男の人がこっちを見た!
油断していたぼくは急いで男の人の方を向く
「ぼうや、わんちゃんは好きかい?」
(…?)
あせったぼくは一瞬、意味がわからず
間があいてしまった、ぼくはゆっくりと頷いた
「そうか、それは良かった。じゃあこっちにおいで」
男の人は立ち上がり、後ろにあったドアを開ける
(…?)
ぼくは立ち上がって男の人が開けたドアの中を見る
その中を覗くと、
(…!!)
部屋を分けるようにはられた、ぼくの身長より、
少し高いくらいの柵の中で、たくさんの犬がこちらを興味深そうに見ていた。
柵の向こうには犬用のおもちゃやタオルがある。大きな犬ばかりだ
ぼくは目を輝かせた
「このドアは開けておくから、ここでわんちゃんを見ているかい?」
(!!、!!)
ぼくは激しくうなづくと
男の人は優しそうに微笑んだ
「よし、わかった。じゃあわんちゃんと挨拶するやり方を教えてあげよう」
あいさつ?どういうことだろう…?
男の人は犬の前にしゃがみ、手の甲を上にしてゆっくりと柵から鼻だけ出している一匹の大きな犬に近づける。
「こうやって、わんちゃんをビックリさせないように匂いを嗅がせてあげるんだ。
私の匂いはこんな匂いですよ、って自己紹介をするんだ」
なるほど
ぼくはコクッとうなづき、犬の方を見る
犬の前にしゃがみ、一度深呼吸をする
犬は大きい方なのだろう。しゃがむと少し見上げるぐらいの大きさだ。
でもぼくは恐さなどほとんど感じていない。
面白いことをこれからはじめようとする時のワクワクに似ていた
見せられたように手の甲を上にして、ゆっくりと犬の鼻に近づける
あと少し、あと少し、おどろかせないように…
犬の鼻があと少し進めたらさわる程まで近づけた頃、
犬は首をのばして匂いを嗅いできた。
(…!)
犬がフンフンと匂いを嗅いでいる、少しくすぐったいけど、この犬と友達になりたいという気持ちでどうにかくすぐったさをがまんする
何秒かたった頃、大きな犬は匂いを嗅ぐのをやめ、手の甲をペロペロと舐めはじめた。
(♪)
「うん、もう大丈夫だよ。ゆっくり頭をなでてあげて?」
男の人に言われ、その手を裏返し、ゆっくりと犬の頭に近づける。
フワッ
ナデナデ…
(…♪、♪)
うれしかった、これで友達になれたんだ。
「これでこの子とぼうやは友達だ。
あとは犬が嫌がるような事をしなければ大丈夫。」
ぼくは犬をなでながら男の人を見る
「それじゃ、隣の部屋でぼうやのお母さんと話しをしてくるから、この柵は開けないようにね」
(…)コクコク
ぼくはうなづいて返事をすると、男の人はドアを開けたままにしてとなりの部屋に戻っていった。
何の話しなのか? どうして犬がいるのか?
色々と気になる事はあったけど、たくさんの犬を目の前にしたぼくは…
(…♪♪♪)
他の犬とも友達になることにして、気になることはとりあえず置いておいた
全ての犬に同じことをやり終えた頃、コンコンコンっと叩く音がして後ろを振
り向く。
母さんと男の人がこっちを見ていた。
「てっちゃん、おいで?行きましょう?」
(!?)
もう帰らないといけないのか!? せっかく友達になれたのに…
ぼくは犬の方を見ていると
「あぁ、えーっと…まだ帰るわけじゃないの、この人が見せたい物があるんですって」
(…?)
えっ?帰るんじゃないのか?
ぼくはまた振り向くと、男の人が
あぁそうか、というような顔をしていた
「フフっ そうなんだ、君に見せたい物がある。奥の部屋にあるからお母さんと一緒においで」
男の人がそう言うと、目的の物は別の部屋にあるのか、ドアから見えなくなる。
ぼくはそれぞれの犬に別れをつげるように一回ずつなでて、
部屋をでて男の人を追いかける。
男の人はろうかの前で待っていてくれた、ぼくが来た事を見ると、
ろうかを歩いて奥の部屋に行く
何があるのか…ワクワクのような、ドキドキのような気持ちの中、そう長くないろうかを歩いてたどり着いたのは
ろうかにそのままつながった広い部屋だ
テレビやソファ、まわりは窓になっていて外を見渡せる
そこにもさっきの物ほど大きくないが、十分に大きな柵
中に何人か入って遊べるような広さの四角く囲まれた柵の中にいたのは…
(…!!!、♪)
3匹の小さな子犬、そしてその親であろう1匹の犬だった。
ぼくはすぐに柵へ近づき、しゃがみこんで中をのぞく
子犬たちが近づいてきた! 子犬はテレビでしか見たことない!
ぼくは指しか入らない大きさの柵の穴に指を入れ子犬を触ろうとする。
(…!)
だけどある事を思い出しすぐに指を引っ込める
これでは匂いを嗅がせられない、指先だけでは何かマズイかもしれない
(…)
そう思いぼくは男の人を見る
「触りたいんだね、でもその前に少し話を聞いてくれるかい?」
(…)コクッ
「この犬はシェットランド・シープドックっという犬種で、羊や牛のいる牧場 で牧用犬として働いている犬種だ。」
ぼくは静かにその話を聞く
「そして、ここが重要!。」
(…)ゴクッ…
「この子犬の中から1匹、君のお家に、
家族として連れて行きたい子を選んでほしい」
(…!?)
家族として…?
どういうことだ?
ぼくは子犬たちを見た
4匹の子犬たちはぼくのことを見ている
まるで、「だれをえらぶの?」 「私?」 「ぼくかな?」と
期待に目を輝かせているようだ。
(……どうしよう…)
ぼくは困ったように母さんの方を見る
「まずはあなたが選んでみなさい、その選んだ子をお家に連れて行けるか相談するからね」
(…)
ぼくは柵の近くにしゃがみ、子犬たちを見る
どの子犬も茶色、黒、そしておなかのあたりが白い毛でおおわれてモコモコとしていて、頭の上に一本の線が縦に書かれているような白い毛が生えている
だが、よく見るとそれぞれ色が違う。
黒が主な色合いになっている子、茶色が多い子、色合いが明るい子、それぞれの個性の色のように分かれている
(…?)
どうしよう…と悩んでいると視界の上の方で
何かが動いているのに気づき顔を上に向ける
「あっ…!」
思わず声が出た視線の先にいたのは、
親である犬と一緒にこちらへ歩いてくる1匹の子犬
茶色と黒がバランスよく色づき、他の子と同じようにモコモコとした子犬
だがこの子犬には、他の子犬にはない特徴があった。
頭の上の白い縦線のような毛がないのだ
この子犬だけ、茶色い色で頭の上をうめていた。
ぼくは男の人の方を向く
「!!、!!」
中に入ってもいいかと伝わるように柵の方を指さす
男の人は、すぐにニコッと笑い、
「中にはいりたいのかい?構わないよ」
と言い、カギになっている棒を引き抜いてくれた
開けられた柵の扉がキイッと音をたて、男の人の手で開けられる
柵の扉を通り、他の子犬をふまないように後からきた目的の子犬へ向かう。
親犬と子犬の正面まできた。
並んでこちらを見ている。
「その犬はこの子犬達の母親だよ」
後ろで男の人の声がした
そっか、お母さんなんだ…
ぼくは犬の前にしゃがみ、
先ほどの友達になるための方法を母犬にするため、手の甲を近づける。
(さっきよりも手のスピードが早かったかも…)
心配になりつつも母犬にそのまま手を近づける
クンクン、と手の匂いを嗅いできてくれた
よかった…
ぼくは手を下げると母犬と目が合う
「…」
……
母犬はじっとぼくの事を見ると、子犬の後ろにまわり、
鼻で トンっと軽く押すように子犬のおしりをつっついたのだ。
子犬はそのままぼくに近づいてくる。
(こっちに来る…)
ぼくは子犬の大きさぐらいに両手を広げて子犬の到着を待った
子犬はぼくの手をフンフンと調べるように匂いを嗅ぐ、
そして、その手の中に子犬が入ってきた
そのままやさしく、ゆっくりとつかみ、抱き上げる。
「…フワフワだね、君」
気づけば、ぼくは笑顔になっていた
これが君との最初の出会い…
13/02/23 21:56更新 / Gruss
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