ハロルドの新たなる旅立ち、そして新たなる剣
Tips・・・ハロルド・カーライル(インキュバス)
27歳男性、ミシェーラと心から結ばれている、種族:インキュバス
主神教団から主神の名のもとに祝福を受けた勇者であり、その実力は誰もが魔王を討てるだろうと疑わぬ強さを持っている・・・無論、彼ですらも魔王には敵うはずもないのだが。
そして魔王を討つ使命の旅の最中、蜃気楼の町ユメハツカにてミシェーラと出会い、短い時の中で深く心を通わせ合い・・・そして結ばれた。
ミシェーラとの度重なる修行と言う名の御奉仕と御褒美によって、彼の勇者の力と子種は日々熱心に・・・心地良く搾り取られ続けている。その事実は今後も彼の表面意識に上ることはない。彼自身の身体が既に魔物の男性・・・インキュバスへと変わり果てていようとも。
Tips・・・ミシェーラ
人間換算で20代半ば ハロルドと心から結ばれている 種族:リリム
蜃気楼の町ユメハツカ唯一の宿屋を営む女主人。最上級の魅力と魔力を持ったリリムであるが故に、勇者ハロルドの存在にいち早く目をつけ、この宿で出会うように因果すらも容易く操って、彼と出会う日を心待ちにしていた。
当初彼女の計画では己の魅力を存分に活かし、一目見るだけで彼を腑抜けの骨抜きにして、そのままこの宿で自分の伴侶として甘やかし続けるはずだった。
しかしハロルドは心を奪われるまでは行ったものの、腑抜けにも骨抜きにもならず踏みとどまって見せた。彼は自身と精魂尽き果てるまでの交わりを経てなお、勇者としての使命を果たしてから自分と添い遂げて見せると誓って見せたのだ。それは決して口先だけでなく、本懐こそ遂げられずとも、実際に自らの元を旅立っても見せたのだ。
彼女にとってそれは驚嘆以外の何物でもなく、彼に心から敬意と愛慕の感情を抱くことになり、計画の大幅な修正が余儀なくされる。
新しい計画・・・それはハロルドを自らの夫として共に手を取り合い歩んでゆくものとなった。
勇者と魔王の夫婦のように、父と母がそうであったように。魔王の娘と結ばれるにふさわしい魔界勇者としてハロルドを鍛えなおし、いつか父と母の居る魔王の城へと・・・結婚の挨拶へ行く旅へと共に出るのだと。
Tips・・・勇者の剣と聖なる鎧
その昔、上質な鉄を下地に主神教団によって祝福を受けた銀を混ぜ込むように打たれた長剣。主神教団の倉庫で後生大事に保管されたまま長い長い時を経て、勇者ハロルドの旅立ちの際に貸し与えられた。書面上も主神教団のれっきとした備品資産であり、その価値は23,000,00ゴールド相当。
その外観は両手でしっかりと握りしめるにふさわしい、堂々とした重みのある白刃の長剣で、その刀身は一切の装飾を排した純粋な銀白色の輝きを今なお放っている。
刀身の中央には、ごく薄く、しかしはっきりと、古代の文字が浮き彫りにされている。現在ではその文字を解読できる者は誰もいないが、それが勇者の剣に秘められた強大な力を示唆する唯一の装飾となっている。
また、聖なる鎧はハロルドが旅の最中に助けたドワーフに礼として譲り受けた逸品であり、こちらはれっきとしたハロルドの所有物である。
なお、その価値は30,000,000ゴールド相当である。
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勇者レベル0、魔界勇者レベル100、状態:心身ともに絶好調
朝日も登りきって暫くたった蜃気楼の町ユメハツカ、今日もこの町は薄桃色の幻惑の霧が立ち込めている。その町の外周を勇者ハロルドは走っていた。これは身体づくりも兼ねたハロルドの修業の一環である。
ただ1つ、通常と違う点があるとしたら・・・その左腕に、お姫様抱っこの恰好でミシェーラを抱きかかえながら、ハロルドは走っていた。
「ふふふ・・・本当に逞しいハロルド様・・・初日はかなり揺さぶられたというのに、もう今は全然揺さぶられませんね」
「はぁっ・・・はあっ・・・当然さっ・・・君を抱えたまま・・・走れるだけじゃ・・・意味がないからな・・・!」
既にハロルドは、ミシェーラを護りながら戦う術を見出していた。
その術は至ってシンプルな帰結にして、理想論の極地のような答え・・・それはミシェーラを左腕で抱きかかえながら、右腕で剣を振るうというものだった。
つまりハロルドはミシェーラをお姫様抱っこしながら相手と激しい剣閃を繰り広げ、自身は勿論ミシェーラにも傷1つさえも付けさせない神業にも等しい技量が求められる。それでもハロルドはそれが実現可能であると、日々の鍛錬を積み重ね続ければ、必ずや己が技として身に付けるとこが出来ると確信していたのだ。
今日まで毎日ミシェーラを抱きかかえたまま、ユメハツカの外周を息が切れるまで走ってみたが、こと今日においては体幹が一切ブレることが無かった。まだミシェーラを抱えたままで剣を振るったわけではなかったが、この修業はひとまずの成果を上げたと言っていいだろう。
「ふふ・・・ハロルド様、もうそろそろ切り上げて宿に戻りましょう?房中術の修行のお時間ですよ?」
「っっ・・・分かっている・・・さ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
ちょうどユメハツカの町の入り口付近でミシェーラがそう提案してきた。仰せのままにとハロルドは進路をユメハツカの町中へと向ける・・・・・・入り口の守衛にオアツイこった!と茶化され言葉を背中に受けながら、愛しの我が家・・・もとい宿へとまっしぐらに駆ける。
程なくして目に見えてきたその宿屋は、町の表通りから少し外れた、小さな石畳の路地の奥に相も変わらずにひっそりと佇んでいた。決して大きくはないが、どっしりとした木造二階建ての建物。屋根は使い込まれた濃い藍色の瓦で覆われていて、もう所々苔むしてはいない、つい先日自分が掃除をしたのだ。
宿の扉の前、ミシェーラが懐から鍵を取り出しカチャリと開錠・・・すかさず宿屋の扉を開き、カランコロンと来客者を知らせるベルが鳴り響く。さほどの間もなく宿のフロント奥からは・・・当然誰も出てはこない。
「いらっしゃいませ、旅のお方・・・ではなくてハロルド様ですね、お帰りなさいませ・・・うふふ、なんちゃってですね」
代わりに耳元のすぐ側で、ハロルドの鼓膜を揺らしたのは愛しきミシェーラの低めの声質ながら、それでいてこもらずに透き通るような響き・・・何度聞こうとも思わずうっとりと聞き惚れてしまう愛しい響きだ。
「1晩32ゴールド・・・3食ついて、夜伽付き・・・だろう?」
「ええ、ハロルド様とは言え、お代はきちんと頂きます・・・なんていつも通り、お代を頂く分の御奉仕にもご期待くださいませ」
左腕で抱きかかえられたままのミシェーラが、ハロルドの胸元にあるポケットから・・・胸板を優しく撫でさする様にしながらゆっくりと小銭入れを取り出し、中からちょうど32ゴールドを取り出した。フロント台の横に置いてある縦長で真っ赤な貯金箱にハロルドが近づいて、ミシェーラが当然のようにその貯金箱の中へと32ゴールドをチャリンと投入する。
右手で貯金箱を軽く持ち上げてみるとずっしりと重い、体感だがもう中身の8割以上は貯金されているような気がした・・・何時しかミシェーラが自分の宿泊費をこの貯金箱に貯めておくようになってから、それだけの歳月が過ぎたことを実感させられる。
「さぁハロルド様、汗を流すためにシャワーを浴びましょう?・・・そして今日は私の手で修行を行いましょう?」
「・・・ミシェーラの手で洗われるの・・・骨身に染みる気持ち良さなんだよな・・・」
「ふむ・・・?胸で挟む方がご希望ですか?私はどちらでも構いませんよ?」
「いや、いいんだミシェーラ・・・覚悟が決まってなかっただけさ」
「では、これ以上ハロルド様の覚悟が揺らがぬうちに、修行を始めてしまいましょう」
他愛のない会話を交し合いながらも脳裏に鮮明によぎってしまうのは至福の泡手淫・・・これからミシェーラの嫋やかな指先で、ユメハツカ石鹸のあの心地良い泡をたっぷりと纏わせながら、じっくりと愛情たっぷりにペニスが洗われてしまう。それは房中術の修行の一環とはいえ当然ペニスを長時間滑り洗いされるわけで、その気持ち良さは先も言った通り筆舌にしがたく、骨身に染みて凄まじい快感なのだ。
・・・真面目に修行に励んでいたら・・・の話であるが。
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温度はかなりぬるめ・・・水道水よりかは多少温かい程度のシャワーの湯がハロルドの頭より降り注ぐ、修行で走り込んだ後の少々火照った身体にはこの冷たさがとても心地良い。
「あぁ・・・ハロルド様のお身体・・・本当に何て逞しい・・・まるで磨き抜かれた彫刻のよう・・・広がる肩幅から逆三角形に引き締まった背中、そして腹部を覆う均整の取れた六つの割れた腹筋・・・堪りませんね」
「ははは・・・そんなにベタ褒めにされるとくすぐったいな」
そしてぎゅうっと抱き着いてくる柔らかで温かな温もりの感触もまた、とても心地よい・・・ミシェーラが背後から抱き着くようにして一緒にシャワーを浴びているのだ。むにゅうっっとボリュームたっぷりに押し当てられる柔らかな双丘の感触にヒクヒクとペニスは臨戦態勢、ハロルドの欲望の炎はぬるめの湯を浴びようとも勢いを緩めることなく燃え盛り続けている。
頃合を見たハロルドがシャワーの水を止め、ほんの少しだけ身を離したミシェーラがユメハツカ石鹸を彼女の胸元に3回擦り付ける。
「では、泡立ててまいります・・・んぅっ・・・あぁ・・・良い・・・」
「ああ、頼むミシェーラ・・・おぉぉ・・・気持ち良い・・・」
ぬちゅりぬちゅ・・・ずちゅっぬちゅ・・・ずにゅるる・・・ぬちっぬちゅっ・・・ミシェーラがハロルドの背に胸を強く押し付けながら上下に擦り動かし始める。ゆっくりと石鹸が泡立ちはじめ、互いの肌が擦り合わさる感触がぬめぬめと心地よさを増してゆく様に、2人して深い陶酔の溜息をついてしまう
もう既に、十分以上に泡は立っている。それでもミシェーラはハロルドの背中に胸を擦り付けるのを止めようとしなかった。背中をむっちりと包み込む柔乳肉の至福の感触、コリュコリュと弾力が心地よい乳首が擦り付けられる悦楽、2人揃ってあまりの心地良さに恍惚状態になってしまう。これは房中術における修行の前準備に過ぎないというのに、愛しき人と肌を擦り合わせ続ける事が止められない。
ハロルドもそうだがミシェーラ自身も胸を擦り付ける行為に途方もない快感を得ているようで、だったらこのままもうお互いに・・・今日は修行なんて止めにして、このままずっとこうして愛し合っていようか?・・・だなんて自堕落で甘美すぎる提案まで脳裏をよぎってしまった。そう、思い浮かべてしまったことが裏目に出てしまう・・・言葉にできない至福の心地良さ、その感触はハロルドの意志を惑わせて、理性による合理的な決断から本能に従った直情的な欲求へと移り変ってゆく。
「・・・ミシェーラ、修行は取りやめにして・・・夜伽の時間にしないかい?」
―――――脳裏をよぎっただけ、本気で口にするつもりのなかった言の葉は・・・気がつけば口が勝手にそう言葉を紡いでしまっていた。
「えぇハロルド様・・・!是非そう致しましょう?あぁ・・・その滾ったおちんちん・・・どうぞ私のナカへと遠慮なく・・・」
ミシェーラがパッと喜びの表情に変わり、心から嬉しそうに、こちらに微笑みかけてくる・・・ハロルドは今日もまた、房中術の修行を直前で取りやめて、ミシェーラと愛を交し合うことを望んでしまった。
彼女を護りながらでも戦える強さを求めての修行だと言うのに、これではあまりにも不真面目な提案である・・・だが不思議とハロルドに焦りはなかった。もう既に、自分は十分に強い・・・いつの間にか、過去の自分とは比べ物にならないほどに強くなっていた。
強さはもう十分なのだと・・・根拠は無いがそれだけの力は既に身に付いていたことは確信しているのだ。
お互いの石鹸の泡をサッと洗い流し、ミシェーラが浴室の壁に手を付き、お尻をこちらにぐいっと突き出してくる・・・浴室の壁に取り付けられている鏡越しに、ミシェーラが頬を赤らめながらも、期待を隠しきれない表情でハロルドを待ちわびていた。
天を力強く仰ぎ続けるペニスに手を添えて、シャワーの水滴よりも粘度の高い花園に先端をあてがう。
一瞬の静寂、息を合わせずとも重なる呼吸、ハロルドが腰を少し前に押しやるだけで・・・2人の身体は当然のように1つに重なり合った。
何度突き入れても夢見心地にされてしまう。心地よすぎる淫窟に余すところなく、奥の奥までハロルドの肉棒が包み込まれる。ハロルドの肉棒の形に寸分違わず密着するかのようなミシェーラの膣内・・・そこは突き込んでいるだけでも至福の気持ち良さでハロルドを酔いしれさせてくる。
「あっ・・・うっ・・・動くぞミシェーラ・・・」
「ええ、ハロルド様のお心のままに・・・んぁんっ・・・腰をお振り下さいませ・・・」
このままでは本当に突き込んでいるだけで射精してしまう、グッと歯を食いしばったハロルドが腰を引き抜きにかかる・・・そして亀頭からカリ首を、ふんわりと優しく包み込まれるような肉ヒダが、優しく舐めしゃぶるかのように絡みついてくる・・・暴発を恐れたへっぴり腰の様相だが、これが却って今日のミシェーラには効果的なようで・・・
「うぁぁ・・・はっ・・・うぅ・・・」
「んはぁぁっ・・・ハロルド様・・・きょ・・・今日は・・・そのくらいの速度で・・・腰を・・・んはぁぁっ・・・振っていただけます・・・か・・・?」
「わかっ・・・た・・・このくらいで・・・今日は・・・楽しもう・・・」
ゆったりとした抽挿、だからこそ得られる快楽は上品でほろ甘い・・・互いの熱に酔いしれるにふさわしい最高の美酒になる。浴室の鏡越しに、ミシェーラも同じく甘くうっとりと快楽に酔いしれていることが窺い知れた。
熱くぬかるんだ蜜窟にハロルドは優しく、ゆっくりと、愛情をこめて肉棒を突き入れる。復路で絡みついてきたたっぷりのヒダヒダを今度はかき分けながら最奥を目指す・・・それはハロルドにとっては筆舌にしがたい途方もない快感となる。グングンと下腹部に甘い疼きが広がって、ヒクヒクと精巣が武者震いを繰り返し・・・やがて最奥のコリっとした子宮口の感触に思わず先走りが迸る。
対するミシェーラも途方もない快楽を受け止めていたようだ。口を半開きにして短く小刻みに呼吸を繰り返し、その唇の端からはタラりと涎がこぼれ落ちていることに気が付けていない・・・自分との交わりで、愛しい伴侶が快楽に酔いしれている・・・それは男にとって最高の勝利の美酒である。
「ミシェーラ・・・ペースをあげてゆくぞ・・・」
「うっ・・ああぁ・・・ハロルド様・・・どうぞ・・・貴方の欲望のままに・・・私を・・・抱いてくださいませ・・・」
結局穏やかな抽挿はたったの2度で終わりを告げた。それはテーブルマナーに気を配り、お上品に前菜を頂くのはこれまでと言う事・・・これから先はもうお互いがお互いを激しく心から求め合う場面、後先の事は考えない・・・片っ端からオードブルをかっ食らうような欲望に身を任せた交わりが始まる。
ハロルドはミシェーラの腰回りに手を添えて、その類なまれる体幹と筋力に任せた激しい腰振りを始めた。たちまち浴室内にぱちゅんずちゅんぬぢゅんっばちゅんっ・・・といった肉と肉がぶつかり合うような、湿った重っくるしい音が響き渡る。
「あっっんあっっひあっっはっっハロルド様・・・ハロルドさまぁぁっっ」
「ミシェーラ・・・あぁぁ・・・ミシェーラ・・・」
腰振りの速度は衰えない、激しい抽挿の連続にミシェーラがガクガクと崩れ落ちてしまいそうな足を必死に踏みとどまろうとしている。
「ぁっ・・・がぁぁぁ・・・ミシェーラ・・・ミシェーラぁぁ・・・」
「ハロルド様っっハロルドさまぁぁっっあぁぁぁぁぁ!!!!」
もはや互いに愛しい人の名前を叫び続けることしかできない、すぐそこまで射精感が込み上げていることに気が付いているが腰が止まらない、否・・・止められない。濁流のような快感が脳内を荒れ狂い、下腹部がズクンズクンと発射の準備を秒読み段階まで勝手に進めてしまう・・・その宣告だと言わんばかりにびゅるりと先走り液があふれ出る。
お互いの絶頂に言葉はなく、されどお互いが全く同じタイミングで快楽の極致へと辿り着いたという事だけは確信できた。
びゅるりびゅるり・・・びゅるるる・・・びゅるるる・・・熱く奥で果てる悦楽にハロルドは深く酔いしれる。しっかりと先端を押し付けながら、ドクンドクンと力強く、ミシェーラの最奥を真っ白に染め上げてゆく。
熱い白濁を叩きつけられ続けたミシェーラの足腰がついに力を失い、その場に崩れ落ちそうになってしまう・・・その前に当然のようにハロルドが支えに入る。
「あっ・・・は・・・うぁぁぁ・・・ハロルドさま・・・ありがとうございます・・・腰に力が・・・入らなくて・・・」
「良いんだミシェーラ・・・続きはベッドでしようか・・・」
息をつく間もなく次の交わりの提案・・・されどこれはお互いにまだまだ欲望の炎が燃え盛っているが故の事。そして互いがまだまだ抱き足りないと意見が一致しているのならば、満足がいくまでお互いを抱くまでの事である。
「はい・・・よろこんで・・・でもハロルド様・・・私は腰が抜けてしまいましたので・・・お部屋までこのまま・・・繋がったままで運んでいただけますか?」
「ははは・・・ああ、これもまた修行・・・だな、君を抱き抱えたまま・・・部屋までたどり着いて見せるさ」
そう言ってハロルドは腰の抜けたミシェーラを軽々と担ぎ上げ、互いが正面から向き合うような格好となる。互いの結合部にかかる圧力が想像以上に増して、ハロルドもミシェーラも息が詰まって数秒間動けない・・・しかしハロルドの強靭な肉体はこの程度に負けはしない。愛しい人の温もりと重さを、ペニスとヴァギナという結合部を中心に抱き抱えたまま浴室を出る。
バスタオルで軽く水気をふき取ったきり、そのバスタオルだけを身に巻きつけるようにして宿の廊下を2人は歩く。他に客が訪れたらどうするのだというスリルは2人にとってもうこの情事を楽しむ最高のスパイスにしかなっていなかった。
結局ハロルドとミシェーラは1階の突き当りの部屋・・・もとはミシェーラの寝室だった部屋へとなだれ込み、そのまま続けざまに3回・・・ハロルドはミシェーラの最奥へと子種を搾り取られてしまうのだった。
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2人が熱い交わりを終えてひとまずの落ち着きを取り戻したのは、たっぷりとお昼をすぎてからのことだった。
そして遅めの腹ごしらえを終えたハロルドとミシェーラは買い物に出かけていた。買い物と言っても目当ては調理に使う各種香辛料・・・しかもハロルドの故郷の特産品であるスパイスをミシェーラはわざわざ取り寄せてくれていたのだ。
「ふむ・・・確かにハロルド様のおっしゃる通り、ピリリと鼻を突くような香辛料の中に確かな爽やかさを感じる瑞々しさがありますね」
「ああ、懐かしいなこの香り・・・このスパイスをたっぷり使って焼き上げる、おふくろのポークチョップが大好物だったんだよ」
ミシェーラが取り寄せていた故郷のスパイスのお代を払い、スパイスだけではなく他にも様々な香辛料の入った大きな紙袋をハロルドが右腕に抱える。
「では今日の夕飯はポークチョップで決まりですね・・・付け合わせはハロルド様のお気に入りのポテトサラダにしましょうね」
「あぁ・・・さっき飯を食ったばかりなのに腹が減ってくるよ・・・夕食がまちどおし・・・・・・・ん?」
ハロルドの強者としてのカンが何かを捉えた。急ぎ2人は店外に出る、やはりどうも町の入口が騒がしいようだ。妙な胸騒ぎ・・・とまでは行かずとも、ハロルドは自分自身が呼ばれているような気がしてならない。
「すまないミシェーラ何故だか呼ばれているような気がしてな・・・ちょっと行ってみないか?」
「ええ、ハロルド様のお心のままに・・・参りましょう?」
また後で取りに来るからと店主にスパイス入りの大袋を託し、ハロルドとミシェーラは一路町の入口へと向かう。入り口付近には小さな人だかりが出来ていたが、その周りからまだ住人が集まりつつある・・・どうやらこの騒ぎは起こってまだ間もないようだ。
―――――おいおいこりゃいったい何の騒ぎだ?
―――――どうも町の傍で男が1人行き倒れていたのを、見張り塔の兵士たちが見つけたらしい。
―――――この男の胸元をよく見てみろ・・・主神教団の紋章だ・・・装備もさほど派手じゃないから差し詰め教団の一兵卒といったところか
人だかりの話を聞く限り、行き倒れの主神教団の兵士1人が担ぎ込まれてきたようだ。町の周りは何時もの事だが幻惑の霧に覆われている、この町の人間ではないだろう彼の目的地はまだ分からないが、行き倒れるまでこの町の近くを彷徨っていたに違いない。
人だかりをかき分けてハロルドは件の兵士を見下ろした。彼は成人になりたてと言った風貌の若い男性で、当然行き倒れるまで彷徨っていたのだから、無精ひげが濃ゆい上に酷くやつれている様子だった。
「ひとまず病院に運び込もう、もう武器や危険物のチェックは済んでいるんだよな?」
「おお、ハロルドさんか!チェックは済んでいる、すまないが病院まで運んでやってくれないか?」
「あぁ、ミシェーラもすまないがそれでいいよな?」
「ふふふ・・・ええ、人助けしてこその勇者ハロルド・・・ですよね?」
当然のことだと何処か誇らしげに返したミシェーラ、しかしその“勇者ハロルド“という響きに件の兵士がわずかながら反応を示した。
「うぁ・・・そこの・・・だれか・・・どうか・・・はろ・・・るど・・・さま・・・に・・・これ・・・てが・・・み・・・わた・・・して・・・」
微かな声なれど、確かにハロルドは聞き届けた。自身を探し求めているその声を・・・震える手で差し出される紙の束をしっかりと受け取った。この勇気ある兵士を死なせてはならない・・・急ぎハロルドは兵士を抱きかかえ、ユメハツカの病院へと走り出すのだった。
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「いやはや・・・・・・命拾いをしました、ありがとうございました・・・ええと・・・私はローランドと申します、貴方のお名前は?」
「ハロルド、ハロルド・カーライル・・・君の探し人本人さ」
あれから7日後、ハロルドは行き倒れていた教団の兵士の見舞いにやってきていた・・・彼は名をローランドといい、消耗が激しかったものの何とか一命をとりとめ、意識を取り戻してからもしばらく安静が続き、今日にしてようやくベッドの上越しながら会話を出来る程度には回復出来たのだ。
「君の運んできた書状の束・・・早速ながら中身を見させてもらったよ、受取人は自分・・・ハロルド・カーライル宛だったからな」
ハロルドは自身が勇者であることを示す証拠たる勇者の割印をローランドに見せる。彼は目を真ん丸に大きく開け広げる。まぁ当然の反応だろう・・・彼は丸2年もの間、自分と言う求め人を探して長い時間を彷徨い続けていたのだから
「その・・・この書状の最初の発行日・・・2年前だったんだな・・・つまり俺が消息を絶ってから丸2年もたっていたようだ・・・俺はずっとユメハツカの町にいたんだ、この霧ではたとえすぐ傍まで来ていてもたどり着けはしなかった・・・手間を掛けさせてすまなかった」
「いえいえ、ハロルド様を前にして言うのは心苦しいのですが、ようやくユメハツカの町に向かったのが最後の行先だと突き止めて・・・それでも長く空振りが続いてしまい、焦りから引き時を見誤った結果の行き倒れ・・・お恥ずかしい限りです」
ローランドを病院へと運び終え、宿へと戻って彼の運んできた全てが自分宛になっていた書状の束を開き、一番古びていた書状の中身を見た瞬間・・・ハロルドは思わず言葉を失ってしまった。なにせ世間一般的にはハロルドがその行方をくらまして、既に2年も月日が流れてしまっていたという・・・まぎれもない事実がそこに記されていたのだから。
そしてその2年前の書状を見た瞬間、本当に今更になってハロルドは思い出した。勇者としての活動を続ける間は定期的に教団に対する活動報告の書状を送るなり、教団の支部などに顔を出して勇者活動期間を更新しなければならないことを。
「いやいや、君のお陰で本当に助かったよ・・・今日はそのお礼を言いに来たんだ、君のお陰で、自分が為すべきことを思い出すことが出来た・・・君の勇気のお陰だ・・・是非もっと君とは酒を交えて話をしたいところだが・・・」
傍に控える看護士がもう時間だという顔をしていた。元より無理を言って面会させてもらっているのだ、これ以上の無理を通すつもりはなかった。
「・・・残念ながら面会時間はこれまでのようだ、またおいおい顔を見せるよ・・・それじゃあまた」
病院を後にして、ユメハツカの町を歩くハロルド。もちろん目指す先はミシェーラの営む宿屋。町の表通りから少し外れた、小さな石畳の路地の奥に相も変わらずにひっそりと佇んでいる、決して大きくはないがどっしりとした木造二階建ての建物。屋根は使い込まれた濃い藍色の瓦で覆われていて、2年という歳月をここで過ごしたという実感のない数字が、今更になって妙におかしく感じてしまう。
―――――なんだか・・・今更になって責務から解放されるなんて・・・何とも言えない・・・妙な気持ちだな
ミシェーラとの生活があまりにも心穏やかで、あまりにも幸せ過ぎて、満ち足りた生活過ぎたのだ・・・自分が勇者であることを忘れてしまう程に。修行を重ねてゆく最中で、時間間隔は確かに無くなりつつはあったものの、それでもまさか2年も経過していただなんて・・・ハロルドには全く自覚がなかったのだ。
つい先ほど見せた勇者の割印だって何処に仕舞ったか分からなくなり、ミシェーラと宿の中を散々探し回ってようやく見つけたくらいには自分は勇者である自覚が無くなってしまっていたのだ。
勇者の割印にはハロルド生来の魔力を受け、そのもう片割れの割印が光輝くという仕込みがされている・・・つまり教団側は今も勇者ハロルドは生きていることが分かっていて、それでいてハロルドへ教団直々から近況報告依頼の御触れを出すも反応がなく・・・本人を探せど見つからず、結果として2年も放ったらかしにされているという訳だ。
これでは勇者ハロルドは勇者としての責務を放棄して、その行方をくらましたと言われても文句は言えないだろう。そしてハロルドを勇者としての祝福を授け、旅へと送り出した教団からの最後の文書はこう書いてあった。
―――――勇者ハロルドには失望させられた、この書状を持って勇者としての任を解く。速やかに本国教団本部へと出頭せよ、加えて勇者の剣を速やかに返却せよ、さもなくば指名手配だと。出頭の期限は・・・ちょうど次の満月の夜までだった。
勇者の剣・・・それは確かに国宝と言っていい程に価値ある物・・・これがハロルドが教団へと出頭を命じられ、指名手配までもチラつかされた理由だろう。
宿の扉を開き、カランコロンと来客を知らせるベルが鳴る。ミシェーラは・・・フロント台の横に相も変わらず優雅な立ち姿のまま自分を待っていた。
「お帰りなさいませハロルド様・・・出立の支度は整っております」
しかしミシェーラは何時もの宿の制服たる水色のローブではなく、一見すると質素なウールのケープ姿だった。しかしそのケープの裏地には柔らかなシルクが使われ、首元で結ばれたリボンには銀の留め具が控えめに輝いている。ケープの下には、動きやすいよう仕立てられた、濃紺の長い裾のワンピース。ウエストポーチには救急用の医療品と応急処置用の各種小道具入り。
腰の脇には水筒が吊り下げられていて、それはハロルドが選定した機能性に特化した丈夫で大容量、そして持ち運びで余計な旅の疲れをもたらさないように、細やかな工夫が施されたプロ仕様の水筒だ。
足元には必要最低限の衣服と水と食料の入った大きな荷物が2つ・・・言わずもがな、自分とミシェーラの分の荷物である。
「あぁ、上々だよミシェーラ・・・今から出立すれば、何とか期限の日までに王国まで戻れるだろう」
「ふふふ・・・まさかこのような形でハロルド様と旅に出るなんて・・・想像もしていませんでした」
「まぁな・・・まさか当初の目的地だった魔王の城の目の前にして、最後の町から旅の出発地点へと逆戻りだ」
思いもしなかった形で、勇者ハロルド・・・ではなくハロルドの身を縛る鎖は解き放たれた。正直言って心晴れやかなハロルド、魔王を討つ必要が無いこと自体は、彼もとっくの昔から分かっていたことだった・・・ハロルドは魔王の城までたどり着けたのならば、その真意を尋ね、和平を結べるのではないのかと考えていたのだ。
もう魔王の城など目指す必要などなくなったのだ。ならばミシェーラと共にずっとこの宿で幸せに暮らせるということではないか・・・!とこれだけでお話が終われば苦労はなかったのだが、このままでは主神教団全てを敵に回しての逃亡生活だ。
自分の身一つだけならばまだしも、自分とミシェーラは今後もこの宿で幸せに暮らしてゆきたいのだ・・・だからこそ、2人はハロルドの旅の出発地まで旅をすることを決意した。
教団の要望通り、勇者の剣を返却するために。
「ハロルド様、どうぞこちらをお受け取り下さい・・・貴方の、新しい剣です」
ミシェーラの両の手で捧げ持たれていた物、それは黒く鞣された硬質な木製の鞘に納められた細身の剣だった。鞘は剣のシルエットにぴったりと沿っていて、口金や石突も簡素な金属製で、抜き差しの際に邪魔にならないよう配慮されていた。
細剣をミシェーラから受け取り、2歩下がって鞘から剣を抜き放つ。細剣の刃渡りは約70センチほど、幅が3センチ足らずで重さも想像以上に軽く扱いやすい・・・この輝きは魔界銀で打たれているに違いないだろう、これならばミシェーラを抱きかかえたままでも、残る右手一本で問題なく扱える。
細剣は両刃の造りだが、派手な血抜き溝や複雑な模様は一切なく、ただまっすぐ中ほどまで伸びる一本の線が、その剣身に施された模様だった。
鍔は、指を保護するためのシンプルなクロスガード。華美な彫刻や宝石の埋め込みはなく、柄は手に馴染むよう丁寧に研磨された木製で、滑り止めのための革巻きも最小限。握りやすいようにわずかに膨らみを持たせた形状は、実戦での使いやすさを最優先した結果だろう。
洗練されたシンプルで一切の無駄を削ぎ落とした美しさがそこにはあった。
しかしただ一つの装飾が柄頭にあった。この細剣の唯一の装飾・・・それは艶やかな黒い角、ハロルドに贈られた黒い角飾りの鍵・・・その角飾りをこの細剣に移していたのだった。
勇者の剣は返却するのだから・・・もう使えない。新しい剣の調達に迫られたハロルドに、ミシェーラがなんと私が用意いたしますと言い出して、今日この日になってハロルドの手に渡された一振りだ。
「かなりの業物じゃないか・・・ありがとうミシェーラ・・・これを用意するのは相当高くついたんじゃないのか?」
「はい、僭越ながらハロルド様から受け取っておりましたお代・・・あれを全部使って打ってもらいました・・・しめて約23,000ゴールド・・・腕の良い職人の友達に、お友達価格で打って貰いましたので」
誇らしげに胸を張るミシェーラに思わずハロルドも顔をほころばせる。受け取った細剣を鞘に戻し、腰のベルトに差し込んだ。受け取ったばかりの細剣ながら、驚くほどに身体に良く馴染む・・・とても良い剣をミシェーラに用立ててもらってしまった。
「ありがとうミシェーラ・・・さあ、さっそく出立しようか!」
「はい、目指すはハロルド様の旅の出発地点へ・・・共に、勇者としての責務を果たす、最後の旅へと参りましょう」
勇者ハロルドは勇者ではなくなってしまった・・・が、もうハロルドには関係のない話だ・・・!
魔界勇者ハロルドはもうじゅうぶんにつよい・・・!
メインクエストの目的が「ミシェーラと毎日修行を行う」から「勇者の剣を返却する」に変更されました・・・!
蜃気楼の町ユメハツカの宿屋の主人、ミシェーラが仲間にくわわった・・・!
ハロルドは大切な物、“黒い角飾りの細剣”を手に入れた・・・!
魔界勇者ハロルドのミシェーラへの愛情はこれ以上あがらない・・・!だがしかし、魔界勇者ハロルドは限界を超えてミシェーラへの愛情がさらに上昇した・・・!
魔界勇者ハロルドはミシェーラに言葉にできない程物凄く、心から深く深く彼女を愛し、とても強く、彼女以外の女性など眼中に入らない程に夢中になってしまった・・・!
27歳男性、ミシェーラと心から結ばれている、種族:インキュバス
主神教団から主神の名のもとに祝福を受けた勇者であり、その実力は誰もが魔王を討てるだろうと疑わぬ強さを持っている・・・無論、彼ですらも魔王には敵うはずもないのだが。
そして魔王を討つ使命の旅の最中、蜃気楼の町ユメハツカにてミシェーラと出会い、短い時の中で深く心を通わせ合い・・・そして結ばれた。
ミシェーラとの度重なる修行と言う名の御奉仕と御褒美によって、彼の勇者の力と子種は日々熱心に・・・心地良く搾り取られ続けている。その事実は今後も彼の表面意識に上ることはない。彼自身の身体が既に魔物の男性・・・インキュバスへと変わり果てていようとも。
Tips・・・ミシェーラ
人間換算で20代半ば ハロルドと心から結ばれている 種族:リリム
蜃気楼の町ユメハツカ唯一の宿屋を営む女主人。最上級の魅力と魔力を持ったリリムであるが故に、勇者ハロルドの存在にいち早く目をつけ、この宿で出会うように因果すらも容易く操って、彼と出会う日を心待ちにしていた。
当初彼女の計画では己の魅力を存分に活かし、一目見るだけで彼を腑抜けの骨抜きにして、そのままこの宿で自分の伴侶として甘やかし続けるはずだった。
しかしハロルドは心を奪われるまでは行ったものの、腑抜けにも骨抜きにもならず踏みとどまって見せた。彼は自身と精魂尽き果てるまでの交わりを経てなお、勇者としての使命を果たしてから自分と添い遂げて見せると誓って見せたのだ。それは決して口先だけでなく、本懐こそ遂げられずとも、実際に自らの元を旅立っても見せたのだ。
彼女にとってそれは驚嘆以外の何物でもなく、彼に心から敬意と愛慕の感情を抱くことになり、計画の大幅な修正が余儀なくされる。
新しい計画・・・それはハロルドを自らの夫として共に手を取り合い歩んでゆくものとなった。
勇者と魔王の夫婦のように、父と母がそうであったように。魔王の娘と結ばれるにふさわしい魔界勇者としてハロルドを鍛えなおし、いつか父と母の居る魔王の城へと・・・結婚の挨拶へ行く旅へと共に出るのだと。
Tips・・・勇者の剣と聖なる鎧
その昔、上質な鉄を下地に主神教団によって祝福を受けた銀を混ぜ込むように打たれた長剣。主神教団の倉庫で後生大事に保管されたまま長い長い時を経て、勇者ハロルドの旅立ちの際に貸し与えられた。書面上も主神教団のれっきとした備品資産であり、その価値は23,000,00ゴールド相当。
その外観は両手でしっかりと握りしめるにふさわしい、堂々とした重みのある白刃の長剣で、その刀身は一切の装飾を排した純粋な銀白色の輝きを今なお放っている。
刀身の中央には、ごく薄く、しかしはっきりと、古代の文字が浮き彫りにされている。現在ではその文字を解読できる者は誰もいないが、それが勇者の剣に秘められた強大な力を示唆する唯一の装飾となっている。
また、聖なる鎧はハロルドが旅の最中に助けたドワーフに礼として譲り受けた逸品であり、こちらはれっきとしたハロルドの所有物である。
なお、その価値は30,000,000ゴールド相当である。
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勇者レベル0、魔界勇者レベル100、状態:心身ともに絶好調
朝日も登りきって暫くたった蜃気楼の町ユメハツカ、今日もこの町は薄桃色の幻惑の霧が立ち込めている。その町の外周を勇者ハロルドは走っていた。これは身体づくりも兼ねたハロルドの修業の一環である。
ただ1つ、通常と違う点があるとしたら・・・その左腕に、お姫様抱っこの恰好でミシェーラを抱きかかえながら、ハロルドは走っていた。
「ふふふ・・・本当に逞しいハロルド様・・・初日はかなり揺さぶられたというのに、もう今は全然揺さぶられませんね」
「はぁっ・・・はあっ・・・当然さっ・・・君を抱えたまま・・・走れるだけじゃ・・・意味がないからな・・・!」
既にハロルドは、ミシェーラを護りながら戦う術を見出していた。
その術は至ってシンプルな帰結にして、理想論の極地のような答え・・・それはミシェーラを左腕で抱きかかえながら、右腕で剣を振るうというものだった。
つまりハロルドはミシェーラをお姫様抱っこしながら相手と激しい剣閃を繰り広げ、自身は勿論ミシェーラにも傷1つさえも付けさせない神業にも等しい技量が求められる。それでもハロルドはそれが実現可能であると、日々の鍛錬を積み重ね続ければ、必ずや己が技として身に付けるとこが出来ると確信していたのだ。
今日まで毎日ミシェーラを抱きかかえたまま、ユメハツカの外周を息が切れるまで走ってみたが、こと今日においては体幹が一切ブレることが無かった。まだミシェーラを抱えたままで剣を振るったわけではなかったが、この修業はひとまずの成果を上げたと言っていいだろう。
「ふふ・・・ハロルド様、もうそろそろ切り上げて宿に戻りましょう?房中術の修行のお時間ですよ?」
「っっ・・・分かっている・・・さ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
ちょうどユメハツカの町の入り口付近でミシェーラがそう提案してきた。仰せのままにとハロルドは進路をユメハツカの町中へと向ける・・・・・・入り口の守衛にオアツイこった!と茶化され言葉を背中に受けながら、愛しの我が家・・・もとい宿へとまっしぐらに駆ける。
程なくして目に見えてきたその宿屋は、町の表通りから少し外れた、小さな石畳の路地の奥に相も変わらずにひっそりと佇んでいた。決して大きくはないが、どっしりとした木造二階建ての建物。屋根は使い込まれた濃い藍色の瓦で覆われていて、もう所々苔むしてはいない、つい先日自分が掃除をしたのだ。
宿の扉の前、ミシェーラが懐から鍵を取り出しカチャリと開錠・・・すかさず宿屋の扉を開き、カランコロンと来客者を知らせるベルが鳴り響く。さほどの間もなく宿のフロント奥からは・・・当然誰も出てはこない。
「いらっしゃいませ、旅のお方・・・ではなくてハロルド様ですね、お帰りなさいませ・・・うふふ、なんちゃってですね」
代わりに耳元のすぐ側で、ハロルドの鼓膜を揺らしたのは愛しきミシェーラの低めの声質ながら、それでいてこもらずに透き通るような響き・・・何度聞こうとも思わずうっとりと聞き惚れてしまう愛しい響きだ。
「1晩32ゴールド・・・3食ついて、夜伽付き・・・だろう?」
「ええ、ハロルド様とは言え、お代はきちんと頂きます・・・なんていつも通り、お代を頂く分の御奉仕にもご期待くださいませ」
左腕で抱きかかえられたままのミシェーラが、ハロルドの胸元にあるポケットから・・・胸板を優しく撫でさする様にしながらゆっくりと小銭入れを取り出し、中からちょうど32ゴールドを取り出した。フロント台の横に置いてある縦長で真っ赤な貯金箱にハロルドが近づいて、ミシェーラが当然のようにその貯金箱の中へと32ゴールドをチャリンと投入する。
右手で貯金箱を軽く持ち上げてみるとずっしりと重い、体感だがもう中身の8割以上は貯金されているような気がした・・・何時しかミシェーラが自分の宿泊費をこの貯金箱に貯めておくようになってから、それだけの歳月が過ぎたことを実感させられる。
「さぁハロルド様、汗を流すためにシャワーを浴びましょう?・・・そして今日は私の手で修行を行いましょう?」
「・・・ミシェーラの手で洗われるの・・・骨身に染みる気持ち良さなんだよな・・・」
「ふむ・・・?胸で挟む方がご希望ですか?私はどちらでも構いませんよ?」
「いや、いいんだミシェーラ・・・覚悟が決まってなかっただけさ」
「では、これ以上ハロルド様の覚悟が揺らがぬうちに、修行を始めてしまいましょう」
他愛のない会話を交し合いながらも脳裏に鮮明によぎってしまうのは至福の泡手淫・・・これからミシェーラの嫋やかな指先で、ユメハツカ石鹸のあの心地良い泡をたっぷりと纏わせながら、じっくりと愛情たっぷりにペニスが洗われてしまう。それは房中術の修行の一環とはいえ当然ペニスを長時間滑り洗いされるわけで、その気持ち良さは先も言った通り筆舌にしがたく、骨身に染みて凄まじい快感なのだ。
・・・真面目に修行に励んでいたら・・・の話であるが。
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温度はかなりぬるめ・・・水道水よりかは多少温かい程度のシャワーの湯がハロルドの頭より降り注ぐ、修行で走り込んだ後の少々火照った身体にはこの冷たさがとても心地良い。
「あぁ・・・ハロルド様のお身体・・・本当に何て逞しい・・・まるで磨き抜かれた彫刻のよう・・・広がる肩幅から逆三角形に引き締まった背中、そして腹部を覆う均整の取れた六つの割れた腹筋・・・堪りませんね」
「ははは・・・そんなにベタ褒めにされるとくすぐったいな」
そしてぎゅうっと抱き着いてくる柔らかで温かな温もりの感触もまた、とても心地よい・・・ミシェーラが背後から抱き着くようにして一緒にシャワーを浴びているのだ。むにゅうっっとボリュームたっぷりに押し当てられる柔らかな双丘の感触にヒクヒクとペニスは臨戦態勢、ハロルドの欲望の炎はぬるめの湯を浴びようとも勢いを緩めることなく燃え盛り続けている。
頃合を見たハロルドがシャワーの水を止め、ほんの少しだけ身を離したミシェーラがユメハツカ石鹸を彼女の胸元に3回擦り付ける。
「では、泡立ててまいります・・・んぅっ・・・あぁ・・・良い・・・」
「ああ、頼むミシェーラ・・・おぉぉ・・・気持ち良い・・・」
ぬちゅりぬちゅ・・・ずちゅっぬちゅ・・・ずにゅるる・・・ぬちっぬちゅっ・・・ミシェーラがハロルドの背に胸を強く押し付けながら上下に擦り動かし始める。ゆっくりと石鹸が泡立ちはじめ、互いの肌が擦り合わさる感触がぬめぬめと心地よさを増してゆく様に、2人して深い陶酔の溜息をついてしまう
もう既に、十分以上に泡は立っている。それでもミシェーラはハロルドの背中に胸を擦り付けるのを止めようとしなかった。背中をむっちりと包み込む柔乳肉の至福の感触、コリュコリュと弾力が心地よい乳首が擦り付けられる悦楽、2人揃ってあまりの心地良さに恍惚状態になってしまう。これは房中術における修行の前準備に過ぎないというのに、愛しき人と肌を擦り合わせ続ける事が止められない。
ハロルドもそうだがミシェーラ自身も胸を擦り付ける行為に途方もない快感を得ているようで、だったらこのままもうお互いに・・・今日は修行なんて止めにして、このままずっとこうして愛し合っていようか?・・・だなんて自堕落で甘美すぎる提案まで脳裏をよぎってしまった。そう、思い浮かべてしまったことが裏目に出てしまう・・・言葉にできない至福の心地良さ、その感触はハロルドの意志を惑わせて、理性による合理的な決断から本能に従った直情的な欲求へと移り変ってゆく。
「・・・ミシェーラ、修行は取りやめにして・・・夜伽の時間にしないかい?」
―――――脳裏をよぎっただけ、本気で口にするつもりのなかった言の葉は・・・気がつけば口が勝手にそう言葉を紡いでしまっていた。
「えぇハロルド様・・・!是非そう致しましょう?あぁ・・・その滾ったおちんちん・・・どうぞ私のナカへと遠慮なく・・・」
ミシェーラがパッと喜びの表情に変わり、心から嬉しそうに、こちらに微笑みかけてくる・・・ハロルドは今日もまた、房中術の修行を直前で取りやめて、ミシェーラと愛を交し合うことを望んでしまった。
彼女を護りながらでも戦える強さを求めての修行だと言うのに、これではあまりにも不真面目な提案である・・・だが不思議とハロルドに焦りはなかった。もう既に、自分は十分に強い・・・いつの間にか、過去の自分とは比べ物にならないほどに強くなっていた。
強さはもう十分なのだと・・・根拠は無いがそれだけの力は既に身に付いていたことは確信しているのだ。
お互いの石鹸の泡をサッと洗い流し、ミシェーラが浴室の壁に手を付き、お尻をこちらにぐいっと突き出してくる・・・浴室の壁に取り付けられている鏡越しに、ミシェーラが頬を赤らめながらも、期待を隠しきれない表情でハロルドを待ちわびていた。
天を力強く仰ぎ続けるペニスに手を添えて、シャワーの水滴よりも粘度の高い花園に先端をあてがう。
一瞬の静寂、息を合わせずとも重なる呼吸、ハロルドが腰を少し前に押しやるだけで・・・2人の身体は当然のように1つに重なり合った。
何度突き入れても夢見心地にされてしまう。心地よすぎる淫窟に余すところなく、奥の奥までハロルドの肉棒が包み込まれる。ハロルドの肉棒の形に寸分違わず密着するかのようなミシェーラの膣内・・・そこは突き込んでいるだけでも至福の気持ち良さでハロルドを酔いしれさせてくる。
「あっ・・・うっ・・・動くぞミシェーラ・・・」
「ええ、ハロルド様のお心のままに・・・んぁんっ・・・腰をお振り下さいませ・・・」
このままでは本当に突き込んでいるだけで射精してしまう、グッと歯を食いしばったハロルドが腰を引き抜きにかかる・・・そして亀頭からカリ首を、ふんわりと優しく包み込まれるような肉ヒダが、優しく舐めしゃぶるかのように絡みついてくる・・・暴発を恐れたへっぴり腰の様相だが、これが却って今日のミシェーラには効果的なようで・・・
「うぁぁ・・・はっ・・・うぅ・・・」
「んはぁぁっ・・・ハロルド様・・・きょ・・・今日は・・・そのくらいの速度で・・・腰を・・・んはぁぁっ・・・振っていただけます・・・か・・・?」
「わかっ・・・た・・・このくらいで・・・今日は・・・楽しもう・・・」
ゆったりとした抽挿、だからこそ得られる快楽は上品でほろ甘い・・・互いの熱に酔いしれるにふさわしい最高の美酒になる。浴室の鏡越しに、ミシェーラも同じく甘くうっとりと快楽に酔いしれていることが窺い知れた。
熱くぬかるんだ蜜窟にハロルドは優しく、ゆっくりと、愛情をこめて肉棒を突き入れる。復路で絡みついてきたたっぷりのヒダヒダを今度はかき分けながら最奥を目指す・・・それはハロルドにとっては筆舌にしがたい途方もない快感となる。グングンと下腹部に甘い疼きが広がって、ヒクヒクと精巣が武者震いを繰り返し・・・やがて最奥のコリっとした子宮口の感触に思わず先走りが迸る。
対するミシェーラも途方もない快楽を受け止めていたようだ。口を半開きにして短く小刻みに呼吸を繰り返し、その唇の端からはタラりと涎がこぼれ落ちていることに気が付けていない・・・自分との交わりで、愛しい伴侶が快楽に酔いしれている・・・それは男にとって最高の勝利の美酒である。
「ミシェーラ・・・ペースをあげてゆくぞ・・・」
「うっ・・ああぁ・・・ハロルド様・・・どうぞ・・・貴方の欲望のままに・・・私を・・・抱いてくださいませ・・・」
結局穏やかな抽挿はたったの2度で終わりを告げた。それはテーブルマナーに気を配り、お上品に前菜を頂くのはこれまでと言う事・・・これから先はもうお互いがお互いを激しく心から求め合う場面、後先の事は考えない・・・片っ端からオードブルをかっ食らうような欲望に身を任せた交わりが始まる。
ハロルドはミシェーラの腰回りに手を添えて、その類なまれる体幹と筋力に任せた激しい腰振りを始めた。たちまち浴室内にぱちゅんずちゅんぬぢゅんっばちゅんっ・・・といった肉と肉がぶつかり合うような、湿った重っくるしい音が響き渡る。
「あっっんあっっひあっっはっっハロルド様・・・ハロルドさまぁぁっっ」
「ミシェーラ・・・あぁぁ・・・ミシェーラ・・・」
腰振りの速度は衰えない、激しい抽挿の連続にミシェーラがガクガクと崩れ落ちてしまいそうな足を必死に踏みとどまろうとしている。
「ぁっ・・・がぁぁぁ・・・ミシェーラ・・・ミシェーラぁぁ・・・」
「ハロルド様っっハロルドさまぁぁっっあぁぁぁぁぁ!!!!」
もはや互いに愛しい人の名前を叫び続けることしかできない、すぐそこまで射精感が込み上げていることに気が付いているが腰が止まらない、否・・・止められない。濁流のような快感が脳内を荒れ狂い、下腹部がズクンズクンと発射の準備を秒読み段階まで勝手に進めてしまう・・・その宣告だと言わんばかりにびゅるりと先走り液があふれ出る。
お互いの絶頂に言葉はなく、されどお互いが全く同じタイミングで快楽の極致へと辿り着いたという事だけは確信できた。
びゅるりびゅるり・・・びゅるるる・・・びゅるるる・・・熱く奥で果てる悦楽にハロルドは深く酔いしれる。しっかりと先端を押し付けながら、ドクンドクンと力強く、ミシェーラの最奥を真っ白に染め上げてゆく。
熱い白濁を叩きつけられ続けたミシェーラの足腰がついに力を失い、その場に崩れ落ちそうになってしまう・・・その前に当然のようにハロルドが支えに入る。
「あっ・・・は・・・うぁぁぁ・・・ハロルドさま・・・ありがとうございます・・・腰に力が・・・入らなくて・・・」
「良いんだミシェーラ・・・続きはベッドでしようか・・・」
息をつく間もなく次の交わりの提案・・・されどこれはお互いにまだまだ欲望の炎が燃え盛っているが故の事。そして互いがまだまだ抱き足りないと意見が一致しているのならば、満足がいくまでお互いを抱くまでの事である。
「はい・・・よろこんで・・・でもハロルド様・・・私は腰が抜けてしまいましたので・・・お部屋までこのまま・・・繋がったままで運んでいただけますか?」
「ははは・・・ああ、これもまた修行・・・だな、君を抱き抱えたまま・・・部屋までたどり着いて見せるさ」
そう言ってハロルドは腰の抜けたミシェーラを軽々と担ぎ上げ、互いが正面から向き合うような格好となる。互いの結合部にかかる圧力が想像以上に増して、ハロルドもミシェーラも息が詰まって数秒間動けない・・・しかしハロルドの強靭な肉体はこの程度に負けはしない。愛しい人の温もりと重さを、ペニスとヴァギナという結合部を中心に抱き抱えたまま浴室を出る。
バスタオルで軽く水気をふき取ったきり、そのバスタオルだけを身に巻きつけるようにして宿の廊下を2人は歩く。他に客が訪れたらどうするのだというスリルは2人にとってもうこの情事を楽しむ最高のスパイスにしかなっていなかった。
結局ハロルドとミシェーラは1階の突き当りの部屋・・・もとはミシェーラの寝室だった部屋へとなだれ込み、そのまま続けざまに3回・・・ハロルドはミシェーラの最奥へと子種を搾り取られてしまうのだった。
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2人が熱い交わりを終えてひとまずの落ち着きを取り戻したのは、たっぷりとお昼をすぎてからのことだった。
そして遅めの腹ごしらえを終えたハロルドとミシェーラは買い物に出かけていた。買い物と言っても目当ては調理に使う各種香辛料・・・しかもハロルドの故郷の特産品であるスパイスをミシェーラはわざわざ取り寄せてくれていたのだ。
「ふむ・・・確かにハロルド様のおっしゃる通り、ピリリと鼻を突くような香辛料の中に確かな爽やかさを感じる瑞々しさがありますね」
「ああ、懐かしいなこの香り・・・このスパイスをたっぷり使って焼き上げる、おふくろのポークチョップが大好物だったんだよ」
ミシェーラが取り寄せていた故郷のスパイスのお代を払い、スパイスだけではなく他にも様々な香辛料の入った大きな紙袋をハロルドが右腕に抱える。
「では今日の夕飯はポークチョップで決まりですね・・・付け合わせはハロルド様のお気に入りのポテトサラダにしましょうね」
「あぁ・・・さっき飯を食ったばかりなのに腹が減ってくるよ・・・夕食がまちどおし・・・・・・・ん?」
ハロルドの強者としてのカンが何かを捉えた。急ぎ2人は店外に出る、やはりどうも町の入口が騒がしいようだ。妙な胸騒ぎ・・・とまでは行かずとも、ハロルドは自分自身が呼ばれているような気がしてならない。
「すまないミシェーラ何故だか呼ばれているような気がしてな・・・ちょっと行ってみないか?」
「ええ、ハロルド様のお心のままに・・・参りましょう?」
また後で取りに来るからと店主にスパイス入りの大袋を託し、ハロルドとミシェーラは一路町の入口へと向かう。入り口付近には小さな人だかりが出来ていたが、その周りからまだ住人が集まりつつある・・・どうやらこの騒ぎは起こってまだ間もないようだ。
―――――おいおいこりゃいったい何の騒ぎだ?
―――――どうも町の傍で男が1人行き倒れていたのを、見張り塔の兵士たちが見つけたらしい。
―――――この男の胸元をよく見てみろ・・・主神教団の紋章だ・・・装備もさほど派手じゃないから差し詰め教団の一兵卒といったところか
人だかりの話を聞く限り、行き倒れの主神教団の兵士1人が担ぎ込まれてきたようだ。町の周りは何時もの事だが幻惑の霧に覆われている、この町の人間ではないだろう彼の目的地はまだ分からないが、行き倒れるまでこの町の近くを彷徨っていたに違いない。
人だかりをかき分けてハロルドは件の兵士を見下ろした。彼は成人になりたてと言った風貌の若い男性で、当然行き倒れるまで彷徨っていたのだから、無精ひげが濃ゆい上に酷くやつれている様子だった。
「ひとまず病院に運び込もう、もう武器や危険物のチェックは済んでいるんだよな?」
「おお、ハロルドさんか!チェックは済んでいる、すまないが病院まで運んでやってくれないか?」
「あぁ、ミシェーラもすまないがそれでいいよな?」
「ふふふ・・・ええ、人助けしてこその勇者ハロルド・・・ですよね?」
当然のことだと何処か誇らしげに返したミシェーラ、しかしその“勇者ハロルド“という響きに件の兵士がわずかながら反応を示した。
「うぁ・・・そこの・・・だれか・・・どうか・・・はろ・・・るど・・・さま・・・に・・・これ・・・てが・・・み・・・わた・・・して・・・」
微かな声なれど、確かにハロルドは聞き届けた。自身を探し求めているその声を・・・震える手で差し出される紙の束をしっかりと受け取った。この勇気ある兵士を死なせてはならない・・・急ぎハロルドは兵士を抱きかかえ、ユメハツカの病院へと走り出すのだった。
―――――――――――――――
「いやはや・・・・・・命拾いをしました、ありがとうございました・・・ええと・・・私はローランドと申します、貴方のお名前は?」
「ハロルド、ハロルド・カーライル・・・君の探し人本人さ」
あれから7日後、ハロルドは行き倒れていた教団の兵士の見舞いにやってきていた・・・彼は名をローランドといい、消耗が激しかったものの何とか一命をとりとめ、意識を取り戻してからもしばらく安静が続き、今日にしてようやくベッドの上越しながら会話を出来る程度には回復出来たのだ。
「君の運んできた書状の束・・・早速ながら中身を見させてもらったよ、受取人は自分・・・ハロルド・カーライル宛だったからな」
ハロルドは自身が勇者であることを示す証拠たる勇者の割印をローランドに見せる。彼は目を真ん丸に大きく開け広げる。まぁ当然の反応だろう・・・彼は丸2年もの間、自分と言う求め人を探して長い時間を彷徨い続けていたのだから
「その・・・この書状の最初の発行日・・・2年前だったんだな・・・つまり俺が消息を絶ってから丸2年もたっていたようだ・・・俺はずっとユメハツカの町にいたんだ、この霧ではたとえすぐ傍まで来ていてもたどり着けはしなかった・・・手間を掛けさせてすまなかった」
「いえいえ、ハロルド様を前にして言うのは心苦しいのですが、ようやくユメハツカの町に向かったのが最後の行先だと突き止めて・・・それでも長く空振りが続いてしまい、焦りから引き時を見誤った結果の行き倒れ・・・お恥ずかしい限りです」
ローランドを病院へと運び終え、宿へと戻って彼の運んできた全てが自分宛になっていた書状の束を開き、一番古びていた書状の中身を見た瞬間・・・ハロルドは思わず言葉を失ってしまった。なにせ世間一般的にはハロルドがその行方をくらまして、既に2年も月日が流れてしまっていたという・・・まぎれもない事実がそこに記されていたのだから。
そしてその2年前の書状を見た瞬間、本当に今更になってハロルドは思い出した。勇者としての活動を続ける間は定期的に教団に対する活動報告の書状を送るなり、教団の支部などに顔を出して勇者活動期間を更新しなければならないことを。
「いやいや、君のお陰で本当に助かったよ・・・今日はそのお礼を言いに来たんだ、君のお陰で、自分が為すべきことを思い出すことが出来た・・・君の勇気のお陰だ・・・是非もっと君とは酒を交えて話をしたいところだが・・・」
傍に控える看護士がもう時間だという顔をしていた。元より無理を言って面会させてもらっているのだ、これ以上の無理を通すつもりはなかった。
「・・・残念ながら面会時間はこれまでのようだ、またおいおい顔を見せるよ・・・それじゃあまた」
病院を後にして、ユメハツカの町を歩くハロルド。もちろん目指す先はミシェーラの営む宿屋。町の表通りから少し外れた、小さな石畳の路地の奥に相も変わらずにひっそりと佇んでいる、決して大きくはないがどっしりとした木造二階建ての建物。屋根は使い込まれた濃い藍色の瓦で覆われていて、2年という歳月をここで過ごしたという実感のない数字が、今更になって妙におかしく感じてしまう。
―――――なんだか・・・今更になって責務から解放されるなんて・・・何とも言えない・・・妙な気持ちだな
ミシェーラとの生活があまりにも心穏やかで、あまりにも幸せ過ぎて、満ち足りた生活過ぎたのだ・・・自分が勇者であることを忘れてしまう程に。修行を重ねてゆく最中で、時間間隔は確かに無くなりつつはあったものの、それでもまさか2年も経過していただなんて・・・ハロルドには全く自覚がなかったのだ。
つい先ほど見せた勇者の割印だって何処に仕舞ったか分からなくなり、ミシェーラと宿の中を散々探し回ってようやく見つけたくらいには自分は勇者である自覚が無くなってしまっていたのだ。
勇者の割印にはハロルド生来の魔力を受け、そのもう片割れの割印が光輝くという仕込みがされている・・・つまり教団側は今も勇者ハロルドは生きていることが分かっていて、それでいてハロルドへ教団直々から近況報告依頼の御触れを出すも反応がなく・・・本人を探せど見つからず、結果として2年も放ったらかしにされているという訳だ。
これでは勇者ハロルドは勇者としての責務を放棄して、その行方をくらましたと言われても文句は言えないだろう。そしてハロルドを勇者としての祝福を授け、旅へと送り出した教団からの最後の文書はこう書いてあった。
―――――勇者ハロルドには失望させられた、この書状を持って勇者としての任を解く。速やかに本国教団本部へと出頭せよ、加えて勇者の剣を速やかに返却せよ、さもなくば指名手配だと。出頭の期限は・・・ちょうど次の満月の夜までだった。
勇者の剣・・・それは確かに国宝と言っていい程に価値ある物・・・これがハロルドが教団へと出頭を命じられ、指名手配までもチラつかされた理由だろう。
宿の扉を開き、カランコロンと来客を知らせるベルが鳴る。ミシェーラは・・・フロント台の横に相も変わらず優雅な立ち姿のまま自分を待っていた。
「お帰りなさいませハロルド様・・・出立の支度は整っております」
しかしミシェーラは何時もの宿の制服たる水色のローブではなく、一見すると質素なウールのケープ姿だった。しかしそのケープの裏地には柔らかなシルクが使われ、首元で結ばれたリボンには銀の留め具が控えめに輝いている。ケープの下には、動きやすいよう仕立てられた、濃紺の長い裾のワンピース。ウエストポーチには救急用の医療品と応急処置用の各種小道具入り。
腰の脇には水筒が吊り下げられていて、それはハロルドが選定した機能性に特化した丈夫で大容量、そして持ち運びで余計な旅の疲れをもたらさないように、細やかな工夫が施されたプロ仕様の水筒だ。
足元には必要最低限の衣服と水と食料の入った大きな荷物が2つ・・・言わずもがな、自分とミシェーラの分の荷物である。
「あぁ、上々だよミシェーラ・・・今から出立すれば、何とか期限の日までに王国まで戻れるだろう」
「ふふふ・・・まさかこのような形でハロルド様と旅に出るなんて・・・想像もしていませんでした」
「まぁな・・・まさか当初の目的地だった魔王の城の目の前にして、最後の町から旅の出発地点へと逆戻りだ」
思いもしなかった形で、勇者ハロルド・・・ではなくハロルドの身を縛る鎖は解き放たれた。正直言って心晴れやかなハロルド、魔王を討つ必要が無いこと自体は、彼もとっくの昔から分かっていたことだった・・・ハロルドは魔王の城までたどり着けたのならば、その真意を尋ね、和平を結べるのではないのかと考えていたのだ。
もう魔王の城など目指す必要などなくなったのだ。ならばミシェーラと共にずっとこの宿で幸せに暮らせるということではないか・・・!とこれだけでお話が終われば苦労はなかったのだが、このままでは主神教団全てを敵に回しての逃亡生活だ。
自分の身一つだけならばまだしも、自分とミシェーラは今後もこの宿で幸せに暮らしてゆきたいのだ・・・だからこそ、2人はハロルドの旅の出発地まで旅をすることを決意した。
教団の要望通り、勇者の剣を返却するために。
「ハロルド様、どうぞこちらをお受け取り下さい・・・貴方の、新しい剣です」
ミシェーラの両の手で捧げ持たれていた物、それは黒く鞣された硬質な木製の鞘に納められた細身の剣だった。鞘は剣のシルエットにぴったりと沿っていて、口金や石突も簡素な金属製で、抜き差しの際に邪魔にならないよう配慮されていた。
細剣をミシェーラから受け取り、2歩下がって鞘から剣を抜き放つ。細剣の刃渡りは約70センチほど、幅が3センチ足らずで重さも想像以上に軽く扱いやすい・・・この輝きは魔界銀で打たれているに違いないだろう、これならばミシェーラを抱きかかえたままでも、残る右手一本で問題なく扱える。
細剣は両刃の造りだが、派手な血抜き溝や複雑な模様は一切なく、ただまっすぐ中ほどまで伸びる一本の線が、その剣身に施された模様だった。
鍔は、指を保護するためのシンプルなクロスガード。華美な彫刻や宝石の埋め込みはなく、柄は手に馴染むよう丁寧に研磨された木製で、滑り止めのための革巻きも最小限。握りやすいようにわずかに膨らみを持たせた形状は、実戦での使いやすさを最優先した結果だろう。
洗練されたシンプルで一切の無駄を削ぎ落とした美しさがそこにはあった。
しかしただ一つの装飾が柄頭にあった。この細剣の唯一の装飾・・・それは艶やかな黒い角、ハロルドに贈られた黒い角飾りの鍵・・・その角飾りをこの細剣に移していたのだった。
勇者の剣は返却するのだから・・・もう使えない。新しい剣の調達に迫られたハロルドに、ミシェーラがなんと私が用意いたしますと言い出して、今日この日になってハロルドの手に渡された一振りだ。
「かなりの業物じゃないか・・・ありがとうミシェーラ・・・これを用意するのは相当高くついたんじゃないのか?」
「はい、僭越ながらハロルド様から受け取っておりましたお代・・・あれを全部使って打ってもらいました・・・しめて約23,000ゴールド・・・腕の良い職人の友達に、お友達価格で打って貰いましたので」
誇らしげに胸を張るミシェーラに思わずハロルドも顔をほころばせる。受け取った細剣を鞘に戻し、腰のベルトに差し込んだ。受け取ったばかりの細剣ながら、驚くほどに身体に良く馴染む・・・とても良い剣をミシェーラに用立ててもらってしまった。
「ありがとうミシェーラ・・・さあ、さっそく出立しようか!」
「はい、目指すはハロルド様の旅の出発地点へ・・・共に、勇者としての責務を果たす、最後の旅へと参りましょう」
勇者ハロルドは勇者ではなくなってしまった・・・が、もうハロルドには関係のない話だ・・・!
魔界勇者ハロルドはもうじゅうぶんにつよい・・・!
メインクエストの目的が「ミシェーラと毎日修行を行う」から「勇者の剣を返却する」に変更されました・・・!
蜃気楼の町ユメハツカの宿屋の主人、ミシェーラが仲間にくわわった・・・!
ハロルドは大切な物、“黒い角飾りの細剣”を手に入れた・・・!
魔界勇者ハロルドのミシェーラへの愛情はこれ以上あがらない・・・!だがしかし、魔界勇者ハロルドは限界を超えてミシェーラへの愛情がさらに上昇した・・・!
魔界勇者ハロルドはミシェーラに言葉にできない程物凄く、心から深く深く彼女を愛し、とても強く、彼女以外の女性など眼中に入らない程に夢中になってしまった・・・!
25/08/04 08:22更新 / たっぷりとしたクリーム
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