合言葉は白百合の騎士
「カークス・オルトランドです、特別派遣により参りました」
着任予定の時間10分ほど前にグラン・リンバス王国騎士団の兵舎に駆け込んできたカークスは懐から正式に発行されている王刻割印付きの紹介状を受付に渡す。
宿から兵舎までほとんど巡航速度で走ってきた為その額には軽く汗が浮かんでいるものの乱れた息はほんの数回の深呼吸をするだけで平常時の穏やかさに落ち着いてゆく。日頃から身体を鍛えているからこそできる積み重ねの賜物だった。
―――――凄いねカークス、結構な距離を走ってたのにもう息が整ったんだ!
―――――仕事柄鍛えてなきゃやってられないからな、ヘトヘトな状態でもマトモに戦えなきゃ役たたずさ
受付の団員が紹介状の照合を済ませ、案内されたのは荘厳な調度品の並んだ執務室・・・見たわす限り度の調度品も高級そうなものばかり、ぶしつけながら部屋中を目まぐるしく視界が動く。
「こちらでお待ちください、参謀を呼んでまいります」
そう言って案内してくれた者が去ってからさほどの時も経たずにコツコツという軍靴特有の足音が遠くから聞こえてきて、カークスは佇まいを直した。そのすぐ後に扉が開かれ、中に見覚えのある男が入ってくる。
「やぁ、長旅お疲れ様だねカークス君・・・私が王国騎士団参謀のコーウェンだ・・・初めましてではないな?」
「ええ・・・まさかキャラバン隊の隊長に扮していたとは考えもしませんでしたが」
冷静に返すカークスも内心では驚きを隠せずにいた。これは絶対に偶然では無い、団長の言う裏が読み切れないキナ臭い案件である事をヒシヒシと感じながら促されるままにソファーへと腰掛ける。
思った以上にフカフカで沈み込んだソファーにカークスは一瞬身体を取られながらも鍛え上げた強靭な体幹はブレることなく芯が入ったかのような真っ直ぐさを保ち続けた。
「ほう・・・さすが傭兵団の一番の腕利き・・・よく鍛えられている、生半可な者ではこのソファーに腰掛けた瞬間につんのめってしまうものなのさ」
―――――ソファーに座っただけなのに試していたなんて、何だか油断できないねえ
リリィの感嘆の声に軽く心の声でその通りだと返すと、続けざまに給仕係の団員がお茶の用意を手際よく済ませ、高級そうな茶の香り高い赤がカップに注がれた。
「お茶をどうも、いただきます」
紅茶には詳しくないが1口含むとふわりとなにかの花の香りだろうか?花に抜けてゆく爽やかさが気分を落ち着けてくれるようだった。
―――――いい香りだねぇ・・・カークス、お休みの日に城下町デートってのも悪くないと思わない?
デートの件は無論快諾。給仕係は既に退席しており、部屋には自分と参謀のコーウェンだけ・・・気を引き締め直して、目の前の参謀様へと向き直る。
「改めて先の護衛の任務ご苦労だった、白百合の騎士とまで呼ばれた貴殿がいなければキャラバン隊の被害はもっと大きなものになっていただろう」
「お褒め頂き光栄です、しかしただのキャラバンにしては野盗たちの襲撃が多すぎるように思えます・・・言っては何ですがそれ程までにこの辺りの治安は乱れているのですか?」
「嘆かわしいことだが鈴玉狩りの連中へ資金や武具を流し続けている組織がいるようだ。ただの野盗連中では済まない戦力となっては街の警備兵程度ではなかなか抑えきれぬ。横流しをしているのがどこの誰かは現在調査中・・・しかしいまだに良い方法は入ってきていない」
参謀はそう言いながらも辺りを見渡し、カークスの手元へメモを見せる。
―――――今晩の20時、王国の裏路地にある栄光の雫という酒場まで来てくれ、合言葉は「白百合の騎士」と店主に伝えれば分かる。
メモを一通りみたことを確認した参謀が小さな火の魔法でメモを燃やした。あからさまな内通者の警戒・・・この件の根深さにカークスは内心で溜め息をつく。
「話がそれたな・・・ではカークス・オルトランド君、現時刻より王国騎士団特別門外顧問としての任を命ずる」
「はっ!」
「では明朝9時より貴殿の入団にあたる試験を行う・・・なに、軽く貴殿の腕前を見せてもらうだけだ。楽に構えてくれていい。以上!解散!」
礼をしてからカークスは参謀の執務室を後にする。
―――――私がそこに居たら聞き耳をたてている内通者の気配も分かったかもだけど・・・
―――――たとえ今気配を追えても言い訳ができないからな・・・仕方ないさ
念ずる会話越しにリリィの溜め息まで聞こえてきた。彼女にとっては自らという武具を中々使ってもらえないのは欲求不満なのかもしれない。
―――――いざとなったらリリィが頼りだ、許してくれよ。
―――――わかってますよーだ・・・待ち合わせは20時の王の雫って酒場、合言葉は白百合の騎士だったね。
―――――あぁ、場所だけ確かめたら宿で時間まで休もう。
夜の帳が降りた城下町は裏路地といえども人通りも多く活気に溢れていた。その中でも待ち合わせ場所たる王の雫という酒場は裏路地で一番の大きな酒場であり、人と魔物娘の客でごった返す賑やかな場所だった。
「いらっしゃいませ!カウンターで良ければすぐに案内できますが如何なさいますか?」
「ここのマスターに用事があってきた、呼んでくれないか?」
出迎えてくれたハーピーの魔物娘がパタパタと奥へと引っ込み、程なくして髭の似合う長身でダンディな男が現れて、一礼。優雅な佇まいのままで用件を尋ねかけられる。
「私がマスターです、ご要件は?」
「人と待ち合わせをしている、合言葉は白百合の騎士」
「・・・かしこまりました、特別席へご案内します」
再び優雅に礼をするマスターと先程のハーピーの娘さんがこちらですと案内してくれるようだ。案内された先はこの酒場のど真ん中・・・間仕切りが少なく周囲からも賑やかな客同士のお喋りが丸聞こえな席・・・そこに参謀のコーウェンは待っていた。
「やぁカークス殿、御足労すまなかった。この場は私の奢りだからひとまず乾杯をしようか」
既に用意されていた葡萄酒のボトルをグラスへと傾けるのはコボルトの魔物娘・・・コーウェンの隣に座っているということは・・・
「こちらは私の伴侶だ、周りに目を光らせてくれている」
「何から何まで用心深くせねばならぬほどに自体は重いと・・・」
「内緒話をするには一番ここが安全という訳さ・・・」
グラスを受け取って互いに1口、上物な香り高い葡萄酒が鼻に抜けてゆく。
「さて、根が深い話なのだが・・・なるべく手短に話す・・・まずはあのキャラバン隊で妙に付け狙われ続けていたあの馬車の中身なんだが・・・あれは我が国に代々伝わる宝具である勇者の剣が入っていたんだよ」
「勇者の剣・・・ですか・・・?」
「そうだ、我が国にはもう1つの宝具である聖女の杖もあるのだが・・・半年ほど前こちらは別動隊が輸送中に奪取された・・・この情報を弱みにされて我々はプロッツベルのやつらに金と武具を無心され続けている・・・これは極秘の情報だ、他言無用で頼む」
刻印の削り取られた武具、通常手に入らないはずの火矢の存在・・・どこかの軍隊から流れているとは思っていたものの、まさか出所が此処だったとは。
ひとまずこれでカークスはこの妙な案件の知ってはならぬ情報を知らされてしまった形になる。怖気付いて逃げ出そうものならば指名手配される未来が待っているだろう。
「杖を奪取したのは鈴玉狩りの・・・プロッツベルと名乗る連中だ」
「そこまで分かっていながら手出し出来ない理由があると?」
「ああ、その理由が貴公を呼んだ訳にもなる」
コーウェンがグラスを傾けて一息入れ、こちらを向きなおした。
「まず、問題の根っこになる部分・・・今回の聖女の杖奪取事件において汚名を被った者達は主神教団の幹部たちと王国騎士団であることだ。教団としては3か月後に予定されている大願祭の時までにこの汚名を灌ぎたいのだろう」
今一度コーウェンが周囲を見渡し、伴侶のコボルトもコクリと頷いて見せる。
「杖の奪還作戦は必要最小限の戦力・・・かつ勇者と聖女の共同戦線で行う事・・・これが王から発せられた極秘の勅命だ」
「なるほど・・・だから表立って騎士団は動かせず、かといって隠密部隊を動かすわけにもいかないと・・・しかしなぜ教団に汚名が?」
「王国の主神教団の連中は魔を討つ象徴としての勇者を代々教団に多額の寄付をしている貴族連中の中から選出していてな・・・その時の勇者の家系は熱心な教徒、莫大な寄付でもぎ取った勇者としての地位を使って聖女との結婚を図り、より高い地位へと昇り詰める算段だったのだろう・・・すまない話がそれたな」
一息入れるようにお互い葡萄酒を煽る、どうにも話に愚痴のようなものが混ざってしまうところから察するに根が深いどころか多方面からの思惑に彼も癖癖としているのだろう。
「で、もちろん剣など振ったこともないボンクラたちが勇者となった訳なのだが・・・そのツケが回ってきた、聖女の杖の輸送部隊の中にその当時の勇者も随伴していたのだよ・・・」
「それでお飾りの勇者では何もできずにまんまと杖を奪取されてしまったという訳ですね・・・」
「その通りだ、教団としても勇者の失態の汚名は返上したい・・・だから教団が用意するであろう新しい勇者と聖女、その共同での奪取作戦を強く推されていてな・・・おかげで奪還作戦に送り込める戦力が必要最小限に縛られてしまっている・・・足の引っ張り合いだよ」
コーウェンが葡萄酒を三度煽り、空になったグラスにコボルトの奥方が葡萄酒を気持ち少なめに注ぐ。流石にこれ以上酒を入れれば真面目な話には持って行きずらいだろう。
「時にカークス殿は異世界より勇者を召喚する秘儀があることをご存じかな?」
「・・・いいえ、聞いたこともありませんが」
「諜報が掴んだ情報によれば近いうちにその儀式を執り行うそうだ・・・なんとも眉唾な話ではあるが、教団の上層部連中の自信満々な態度を見る限りは真実なのだろう・・・召喚される勇者が文字通り勇猛なる者であれば言うことは無い・・・だが何もせずに実力の未知数な者へ失敗の許されぬ奪還作戦を任せられるほど私は図太く無くてな・・・」
大きくため息をついたコーウェンがカークスへと向き直り、深く息を吸い込んだ。おそらく・・・次の一言が彼の本心なのだろう。
「聖女の杖奪還作戦にカークス殿を護衛として同行させたい。ここまでの話でなんとなく察することも多いかと思う、私はこのイヤになる程の思惑と裏での手の回し合いに足の引っ張り合いがもう沢山だ・・・我らの首を絞め続ける杖の奪還だけは失敗したくない、だからこそ貴公が我々にとっての切り札という訳なのだ・・・頼めるか?カークス殿?」
「依頼とあれば全力を尽くす・・・それだけの事ですよ」
「ありがたい・・・!!長くなってしまったが聞いてくれてありがとう、さあ・・・ささやかながら御馳走する・・・楽しんでいってほしい!」
見計らったように料理と追加の酒が運ばれてきた。すきっ腹のカークスはひとまず美味しい料理に酒を楽しみつつ、賑やかな酒場の雰囲気にのまれてゆくのだった。
―――――――――
夜も更けった頃、カークスは宿に千鳥足一歩手前で戻ってきた。
「ただいまリリィ・・・あぁ・・・流石に飲み過ぎたかもしれない・・・」
「はい、カークス水・・・参謀さんだいぶ鬱憤が溜まってたみたいだったね」
受け取った水を一気に飲み干して、一息付けたカークスは頬ズリしてくるリリィを抱きしめ返す。今日一日朝から今まで魔法のパンティ越しに様子は共有できてもこの部屋で独りぼっちだったのだ・・・随分と寂しい思いをさせたなと後悔しつつカークス自身も愛しいパートナーのぬくもりが嬉しく・・・堪らない。
「夜も遅いけど・・・今日一日ほったらかした分のセックス・・・してくれる?」
「もちろんさ・・・そう簡単に寝かせるつもりなんてないぞ?」
ひとりでにカークスの身体へリリィの鎧が装着されてゆく、二人分がすっぽりと収まる鎧の中でリリィの柔らかな身体を抱きしめるとリリィが熱い唇を押し付けてきた。寂しかったのだと啄むキス越しに想いが伝わってくる・・・俺だって君無しで1日過ごすのは非常に、物凄く、欲求不満だったんだと唇越しに想いを返す。
「明日からは君を纏ったまま仕事に行くよ・・・上手いこと正体を隠していてくれよな?」
「え!?いいのカークス・・・そりゃ私も嬉しいけど・・・」
「まぁな・・・俺自身もこのままリリィを脱いだまま仕事をする気が失せた、とはいえ君の防御力に任せた戦い方はしないから・・・そこは許してくれよ?」
「そこまで贅沢は言わないよ!えへへ・・・良かったぁ・・・実はね、まだ一日だけしか留守番してなかったけど私も結構・・・堪えてた」
鎧のままでベッドの上に寝転がる。寂しさを慰め合うかのようにねちっこくリリィとのキスを続けながら、両の手は豊満な彼女の胸をまさぐって欲望を滾らせる。リリィも身じろぎしながらカークスのズボンを脱がせ、シコシコと力を増してゆく肉棒を優しく撫でさすられてカークスは甘い溜息を漏らしてしまう。
はやくリリィのナカに挿れたい・・・すっかり煮えたぎった欲望が左手をリリィの下腹部へ伸ばさせ、花園の潤み具合を確かめようとするが・・・熱くぬかるんだ感触が指先を包んだ。リリィも辛抱堪らないようだ。
「もう準備万端じゃないか・・・」
「んぅん・・・♥寂しかったのにカークスがかっこいいこと言うし・・・明日からは一緒に仕事するって言ってくれたし・・・嬉しかったんだもん!」
「はははは・・・ああ、俺ももう辛抱堪らない・・・挿れるぞ?」
可愛らしい伴侶にもう一度軽くキスをして、軽く身じろぎしつつ先端が熱い肉窟の入口へと軽く差し当たる。そのまま腰を前に押しやればいともたやすくリリィの花園へ肉棒が食い込み、最奥へとゆっくり飲み込まれてゆく。あるべき物があるべき場所に収まった確信、心地良いリリィの膣内へカークスが収まり切ってからようやく二人は本当の意味で一息つくことができた。
「本当に・・・リリィとセックスだけして過ごしていられたらいいのにな」
「えへへ・・・すっごい幸せな毎日になりそう・・・」
「ああ、ややこしい仕事はさっさと終わらせて、たんまりと特別報酬をもらったら・・・二人で旅行・・・新婚旅行にでも行こうじゃないか」
「っっ!!カークスったら・・・大好き!!!」
熱い抱擁にキス、リリィからの溢れんばかりの愛と思慕を真正面からカークスは受け止めて腰を前後に揺すり始める。鎧の中だからこそ大きく動かせはしなくともリリィの膣内・・・特に奧まで突き込んだ先で蛸壷のように亀頭を締め付ける極上の名器を味わうにはこの程度がちょうどよい。
「あぁ・・・リリィ・・・リリィ・・・」
「あぁんっ・・・♥カークス・・・カークスっ!」
熱くぬかるんだ肉窟がカークスの肉棒に纏わりつき、くちゅくちゅとぬめったヒダがカリや亀頭を擦り立て、危なく暴発しそうになって一休み。
本当に自分はこんなにも可愛らしく、自分をこんなにも想ってくれている伴侶をほったらかして何をしてたのやら・・・堕落した魔の使徒らしくリリィを抱くことだけに専念するべきだと今になって後悔する。
「あうぅ・・・き・・・きもちいいよぉ・・・カークス・・・♥もっと・・・もっと・・・♥」
「随分と蕩けているな・・・くぅう・・・だからか、ナカの具合が・・・堪らない・・・」
じゅぷじゅぷと淫らな水音を立てながらリリィとのセックスに集中しなおす。抽挿を繰り返すたびに下半身から脳髄までが甘ったるく蕩けそうになるほどの快楽に幸せなため息がこぼれてしまう。奥まで押しこんで敏感な亀頭部に子宮口がくちゅくちゅと吸い付くのをまったりと味わい、引き抜く時はヒダがずるずるとカリ首をイジメて、腰が震えるほどの快感をもたらしていた。
もっとこの感触を味わっていたい・・・しかしもうゾワゾワとした射精感の甘い疼きがすぐそこまでやってきている。今更腰を止めることもできない、必死に堪えるも・・・リリィの極上の膣内の感触を前にしては我慢も長続きせず・・・あっという間に限界を迎えてしまった。
「うぐっ・・・リリィ・・・もう・・・」
「いいよ・・・カークス・・・何時でも・・・出して・・・あぁうっ♥」
しっかりと奥底まで肉棒を突き込んで、深く息を吐きながらびゅるりびゅるりとリリィのナカへ・・・ぎゅうぎゅう締め付ける愛しい伴侶の最奥に己が思いの丈を吐き出した。
想い通じ合うセックスにおける至福の極みは今夜呑んだどんな酒よりも甘く・・・身体に染み渡るような幸福をもってカークスを酔いしれさせる。幾度も脈打ち精を吐き出すたびにリリィが歓喜の悲鳴をあげ、お互いを抱きしめ合いながら終わりなき絶頂を後押しするかのように身悶えしあう。
「あぁ・・・♥カークスぅ・・・カークスぅっ♥」
「ぐうぅ・・・リリィ・・・リリィっ・・・」
リリィの鎧の中、二人の喘ぎ声だけが響きあい1つに混ざる。オルガズムに蕩けたリリィへ口づけを交わし、微笑み合う。
まだまだ夫婦の営みは終わらない。力いっぱいお互いを愛し合い足りない・・・気が付けばカークスは再び腰を振り始めていた。
リリィが甘い悲鳴をあげつつ強烈な快楽に流されてしまわぬようにカークスへと力強く抱きしめてくる。さらに熱情が燃え上がる二人の夜はまだまだ終わらない。結局二人が眠りに落ちたのは明け方の少し前、精魂尽き果てるまで交わった後の事だった。
―――――きっと今回も何とかなるさ
まどろみの中でカークスがふと思ったこと。この前向きな気持ちは・・・根拠のない自信などではなかった。様々な陰謀が渦巻く渦中に巻き込まれてしまっていてもリリィと共に戦えるのならば敵はない。白百合の騎士として、今回の仕事もバッチリとこなして見せようじゃないか。
着任予定の時間10分ほど前にグラン・リンバス王国騎士団の兵舎に駆け込んできたカークスは懐から正式に発行されている王刻割印付きの紹介状を受付に渡す。
宿から兵舎までほとんど巡航速度で走ってきた為その額には軽く汗が浮かんでいるものの乱れた息はほんの数回の深呼吸をするだけで平常時の穏やかさに落ち着いてゆく。日頃から身体を鍛えているからこそできる積み重ねの賜物だった。
―――――凄いねカークス、結構な距離を走ってたのにもう息が整ったんだ!
―――――仕事柄鍛えてなきゃやってられないからな、ヘトヘトな状態でもマトモに戦えなきゃ役たたずさ
受付の団員が紹介状の照合を済ませ、案内されたのは荘厳な調度品の並んだ執務室・・・見たわす限り度の調度品も高級そうなものばかり、ぶしつけながら部屋中を目まぐるしく視界が動く。
「こちらでお待ちください、参謀を呼んでまいります」
そう言って案内してくれた者が去ってからさほどの時も経たずにコツコツという軍靴特有の足音が遠くから聞こえてきて、カークスは佇まいを直した。そのすぐ後に扉が開かれ、中に見覚えのある男が入ってくる。
「やぁ、長旅お疲れ様だねカークス君・・・私が王国騎士団参謀のコーウェンだ・・・初めましてではないな?」
「ええ・・・まさかキャラバン隊の隊長に扮していたとは考えもしませんでしたが」
冷静に返すカークスも内心では驚きを隠せずにいた。これは絶対に偶然では無い、団長の言う裏が読み切れないキナ臭い案件である事をヒシヒシと感じながら促されるままにソファーへと腰掛ける。
思った以上にフカフカで沈み込んだソファーにカークスは一瞬身体を取られながらも鍛え上げた強靭な体幹はブレることなく芯が入ったかのような真っ直ぐさを保ち続けた。
「ほう・・・さすが傭兵団の一番の腕利き・・・よく鍛えられている、生半可な者ではこのソファーに腰掛けた瞬間につんのめってしまうものなのさ」
―――――ソファーに座っただけなのに試していたなんて、何だか油断できないねえ
リリィの感嘆の声に軽く心の声でその通りだと返すと、続けざまに給仕係の団員がお茶の用意を手際よく済ませ、高級そうな茶の香り高い赤がカップに注がれた。
「お茶をどうも、いただきます」
紅茶には詳しくないが1口含むとふわりとなにかの花の香りだろうか?花に抜けてゆく爽やかさが気分を落ち着けてくれるようだった。
―――――いい香りだねぇ・・・カークス、お休みの日に城下町デートってのも悪くないと思わない?
デートの件は無論快諾。給仕係は既に退席しており、部屋には自分と参謀のコーウェンだけ・・・気を引き締め直して、目の前の参謀様へと向き直る。
「改めて先の護衛の任務ご苦労だった、白百合の騎士とまで呼ばれた貴殿がいなければキャラバン隊の被害はもっと大きなものになっていただろう」
「お褒め頂き光栄です、しかしただのキャラバンにしては野盗たちの襲撃が多すぎるように思えます・・・言っては何ですがそれ程までにこの辺りの治安は乱れているのですか?」
「嘆かわしいことだが鈴玉狩りの連中へ資金や武具を流し続けている組織がいるようだ。ただの野盗連中では済まない戦力となっては街の警備兵程度ではなかなか抑えきれぬ。横流しをしているのがどこの誰かは現在調査中・・・しかしいまだに良い方法は入ってきていない」
参謀はそう言いながらも辺りを見渡し、カークスの手元へメモを見せる。
―――――今晩の20時、王国の裏路地にある栄光の雫という酒場まで来てくれ、合言葉は「白百合の騎士」と店主に伝えれば分かる。
メモを一通りみたことを確認した参謀が小さな火の魔法でメモを燃やした。あからさまな内通者の警戒・・・この件の根深さにカークスは内心で溜め息をつく。
「話がそれたな・・・ではカークス・オルトランド君、現時刻より王国騎士団特別門外顧問としての任を命ずる」
「はっ!」
「では明朝9時より貴殿の入団にあたる試験を行う・・・なに、軽く貴殿の腕前を見せてもらうだけだ。楽に構えてくれていい。以上!解散!」
礼をしてからカークスは参謀の執務室を後にする。
―――――私がそこに居たら聞き耳をたてている内通者の気配も分かったかもだけど・・・
―――――たとえ今気配を追えても言い訳ができないからな・・・仕方ないさ
念ずる会話越しにリリィの溜め息まで聞こえてきた。彼女にとっては自らという武具を中々使ってもらえないのは欲求不満なのかもしれない。
―――――いざとなったらリリィが頼りだ、許してくれよ。
―――――わかってますよーだ・・・待ち合わせは20時の王の雫って酒場、合言葉は白百合の騎士だったね。
―――――あぁ、場所だけ確かめたら宿で時間まで休もう。
夜の帳が降りた城下町は裏路地といえども人通りも多く活気に溢れていた。その中でも待ち合わせ場所たる王の雫という酒場は裏路地で一番の大きな酒場であり、人と魔物娘の客でごった返す賑やかな場所だった。
「いらっしゃいませ!カウンターで良ければすぐに案内できますが如何なさいますか?」
「ここのマスターに用事があってきた、呼んでくれないか?」
出迎えてくれたハーピーの魔物娘がパタパタと奥へと引っ込み、程なくして髭の似合う長身でダンディな男が現れて、一礼。優雅な佇まいのままで用件を尋ねかけられる。
「私がマスターです、ご要件は?」
「人と待ち合わせをしている、合言葉は白百合の騎士」
「・・・かしこまりました、特別席へご案内します」
再び優雅に礼をするマスターと先程のハーピーの娘さんがこちらですと案内してくれるようだ。案内された先はこの酒場のど真ん中・・・間仕切りが少なく周囲からも賑やかな客同士のお喋りが丸聞こえな席・・・そこに参謀のコーウェンは待っていた。
「やぁカークス殿、御足労すまなかった。この場は私の奢りだからひとまず乾杯をしようか」
既に用意されていた葡萄酒のボトルをグラスへと傾けるのはコボルトの魔物娘・・・コーウェンの隣に座っているということは・・・
「こちらは私の伴侶だ、周りに目を光らせてくれている」
「何から何まで用心深くせねばならぬほどに自体は重いと・・・」
「内緒話をするには一番ここが安全という訳さ・・・」
グラスを受け取って互いに1口、上物な香り高い葡萄酒が鼻に抜けてゆく。
「さて、根が深い話なのだが・・・なるべく手短に話す・・・まずはあのキャラバン隊で妙に付け狙われ続けていたあの馬車の中身なんだが・・・あれは我が国に代々伝わる宝具である勇者の剣が入っていたんだよ」
「勇者の剣・・・ですか・・・?」
「そうだ、我が国にはもう1つの宝具である聖女の杖もあるのだが・・・半年ほど前こちらは別動隊が輸送中に奪取された・・・この情報を弱みにされて我々はプロッツベルのやつらに金と武具を無心され続けている・・・これは極秘の情報だ、他言無用で頼む」
刻印の削り取られた武具、通常手に入らないはずの火矢の存在・・・どこかの軍隊から流れているとは思っていたものの、まさか出所が此処だったとは。
ひとまずこれでカークスはこの妙な案件の知ってはならぬ情報を知らされてしまった形になる。怖気付いて逃げ出そうものならば指名手配される未来が待っているだろう。
「杖を奪取したのは鈴玉狩りの・・・プロッツベルと名乗る連中だ」
「そこまで分かっていながら手出し出来ない理由があると?」
「ああ、その理由が貴公を呼んだ訳にもなる」
コーウェンがグラスを傾けて一息入れ、こちらを向きなおした。
「まず、問題の根っこになる部分・・・今回の聖女の杖奪取事件において汚名を被った者達は主神教団の幹部たちと王国騎士団であることだ。教団としては3か月後に予定されている大願祭の時までにこの汚名を灌ぎたいのだろう」
今一度コーウェンが周囲を見渡し、伴侶のコボルトもコクリと頷いて見せる。
「杖の奪還作戦は必要最小限の戦力・・・かつ勇者と聖女の共同戦線で行う事・・・これが王から発せられた極秘の勅命だ」
「なるほど・・・だから表立って騎士団は動かせず、かといって隠密部隊を動かすわけにもいかないと・・・しかしなぜ教団に汚名が?」
「王国の主神教団の連中は魔を討つ象徴としての勇者を代々教団に多額の寄付をしている貴族連中の中から選出していてな・・・その時の勇者の家系は熱心な教徒、莫大な寄付でもぎ取った勇者としての地位を使って聖女との結婚を図り、より高い地位へと昇り詰める算段だったのだろう・・・すまない話がそれたな」
一息入れるようにお互い葡萄酒を煽る、どうにも話に愚痴のようなものが混ざってしまうところから察するに根が深いどころか多方面からの思惑に彼も癖癖としているのだろう。
「で、もちろん剣など振ったこともないボンクラたちが勇者となった訳なのだが・・・そのツケが回ってきた、聖女の杖の輸送部隊の中にその当時の勇者も随伴していたのだよ・・・」
「それでお飾りの勇者では何もできずにまんまと杖を奪取されてしまったという訳ですね・・・」
「その通りだ、教団としても勇者の失態の汚名は返上したい・・・だから教団が用意するであろう新しい勇者と聖女、その共同での奪取作戦を強く推されていてな・・・おかげで奪還作戦に送り込める戦力が必要最小限に縛られてしまっている・・・足の引っ張り合いだよ」
コーウェンが葡萄酒を三度煽り、空になったグラスにコボルトの奥方が葡萄酒を気持ち少なめに注ぐ。流石にこれ以上酒を入れれば真面目な話には持って行きずらいだろう。
「時にカークス殿は異世界より勇者を召喚する秘儀があることをご存じかな?」
「・・・いいえ、聞いたこともありませんが」
「諜報が掴んだ情報によれば近いうちにその儀式を執り行うそうだ・・・なんとも眉唾な話ではあるが、教団の上層部連中の自信満々な態度を見る限りは真実なのだろう・・・召喚される勇者が文字通り勇猛なる者であれば言うことは無い・・・だが何もせずに実力の未知数な者へ失敗の許されぬ奪還作戦を任せられるほど私は図太く無くてな・・・」
大きくため息をついたコーウェンがカークスへと向き直り、深く息を吸い込んだ。おそらく・・・次の一言が彼の本心なのだろう。
「聖女の杖奪還作戦にカークス殿を護衛として同行させたい。ここまでの話でなんとなく察することも多いかと思う、私はこのイヤになる程の思惑と裏での手の回し合いに足の引っ張り合いがもう沢山だ・・・我らの首を絞め続ける杖の奪還だけは失敗したくない、だからこそ貴公が我々にとっての切り札という訳なのだ・・・頼めるか?カークス殿?」
「依頼とあれば全力を尽くす・・・それだけの事ですよ」
「ありがたい・・・!!長くなってしまったが聞いてくれてありがとう、さあ・・・ささやかながら御馳走する・・・楽しんでいってほしい!」
見計らったように料理と追加の酒が運ばれてきた。すきっ腹のカークスはひとまず美味しい料理に酒を楽しみつつ、賑やかな酒場の雰囲気にのまれてゆくのだった。
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夜も更けった頃、カークスは宿に千鳥足一歩手前で戻ってきた。
「ただいまリリィ・・・あぁ・・・流石に飲み過ぎたかもしれない・・・」
「はい、カークス水・・・参謀さんだいぶ鬱憤が溜まってたみたいだったね」
受け取った水を一気に飲み干して、一息付けたカークスは頬ズリしてくるリリィを抱きしめ返す。今日一日朝から今まで魔法のパンティ越しに様子は共有できてもこの部屋で独りぼっちだったのだ・・・随分と寂しい思いをさせたなと後悔しつつカークス自身も愛しいパートナーのぬくもりが嬉しく・・・堪らない。
「夜も遅いけど・・・今日一日ほったらかした分のセックス・・・してくれる?」
「もちろんさ・・・そう簡単に寝かせるつもりなんてないぞ?」
ひとりでにカークスの身体へリリィの鎧が装着されてゆく、二人分がすっぽりと収まる鎧の中でリリィの柔らかな身体を抱きしめるとリリィが熱い唇を押し付けてきた。寂しかったのだと啄むキス越しに想いが伝わってくる・・・俺だって君無しで1日過ごすのは非常に、物凄く、欲求不満だったんだと唇越しに想いを返す。
「明日からは君を纏ったまま仕事に行くよ・・・上手いこと正体を隠していてくれよな?」
「え!?いいのカークス・・・そりゃ私も嬉しいけど・・・」
「まぁな・・・俺自身もこのままリリィを脱いだまま仕事をする気が失せた、とはいえ君の防御力に任せた戦い方はしないから・・・そこは許してくれよ?」
「そこまで贅沢は言わないよ!えへへ・・・良かったぁ・・・実はね、まだ一日だけしか留守番してなかったけど私も結構・・・堪えてた」
鎧のままでベッドの上に寝転がる。寂しさを慰め合うかのようにねちっこくリリィとのキスを続けながら、両の手は豊満な彼女の胸をまさぐって欲望を滾らせる。リリィも身じろぎしながらカークスのズボンを脱がせ、シコシコと力を増してゆく肉棒を優しく撫でさすられてカークスは甘い溜息を漏らしてしまう。
はやくリリィのナカに挿れたい・・・すっかり煮えたぎった欲望が左手をリリィの下腹部へ伸ばさせ、花園の潤み具合を確かめようとするが・・・熱くぬかるんだ感触が指先を包んだ。リリィも辛抱堪らないようだ。
「もう準備万端じゃないか・・・」
「んぅん・・・♥寂しかったのにカークスがかっこいいこと言うし・・・明日からは一緒に仕事するって言ってくれたし・・・嬉しかったんだもん!」
「はははは・・・ああ、俺ももう辛抱堪らない・・・挿れるぞ?」
可愛らしい伴侶にもう一度軽くキスをして、軽く身じろぎしつつ先端が熱い肉窟の入口へと軽く差し当たる。そのまま腰を前に押しやればいともたやすくリリィの花園へ肉棒が食い込み、最奥へとゆっくり飲み込まれてゆく。あるべき物があるべき場所に収まった確信、心地良いリリィの膣内へカークスが収まり切ってからようやく二人は本当の意味で一息つくことができた。
「本当に・・・リリィとセックスだけして過ごしていられたらいいのにな」
「えへへ・・・すっごい幸せな毎日になりそう・・・」
「ああ、ややこしい仕事はさっさと終わらせて、たんまりと特別報酬をもらったら・・・二人で旅行・・・新婚旅行にでも行こうじゃないか」
「っっ!!カークスったら・・・大好き!!!」
熱い抱擁にキス、リリィからの溢れんばかりの愛と思慕を真正面からカークスは受け止めて腰を前後に揺すり始める。鎧の中だからこそ大きく動かせはしなくともリリィの膣内・・・特に奧まで突き込んだ先で蛸壷のように亀頭を締め付ける極上の名器を味わうにはこの程度がちょうどよい。
「あぁ・・・リリィ・・・リリィ・・・」
「あぁんっ・・・♥カークス・・・カークスっ!」
熱くぬかるんだ肉窟がカークスの肉棒に纏わりつき、くちゅくちゅとぬめったヒダがカリや亀頭を擦り立て、危なく暴発しそうになって一休み。
本当に自分はこんなにも可愛らしく、自分をこんなにも想ってくれている伴侶をほったらかして何をしてたのやら・・・堕落した魔の使徒らしくリリィを抱くことだけに専念するべきだと今になって後悔する。
「あうぅ・・・き・・・きもちいいよぉ・・・カークス・・・♥もっと・・・もっと・・・♥」
「随分と蕩けているな・・・くぅう・・・だからか、ナカの具合が・・・堪らない・・・」
じゅぷじゅぷと淫らな水音を立てながらリリィとのセックスに集中しなおす。抽挿を繰り返すたびに下半身から脳髄までが甘ったるく蕩けそうになるほどの快楽に幸せなため息がこぼれてしまう。奥まで押しこんで敏感な亀頭部に子宮口がくちゅくちゅと吸い付くのをまったりと味わい、引き抜く時はヒダがずるずるとカリ首をイジメて、腰が震えるほどの快感をもたらしていた。
もっとこの感触を味わっていたい・・・しかしもうゾワゾワとした射精感の甘い疼きがすぐそこまでやってきている。今更腰を止めることもできない、必死に堪えるも・・・リリィの極上の膣内の感触を前にしては我慢も長続きせず・・・あっという間に限界を迎えてしまった。
「うぐっ・・・リリィ・・・もう・・・」
「いいよ・・・カークス・・・何時でも・・・出して・・・あぁうっ♥」
しっかりと奥底まで肉棒を突き込んで、深く息を吐きながらびゅるりびゅるりとリリィのナカへ・・・ぎゅうぎゅう締め付ける愛しい伴侶の最奥に己が思いの丈を吐き出した。
想い通じ合うセックスにおける至福の極みは今夜呑んだどんな酒よりも甘く・・・身体に染み渡るような幸福をもってカークスを酔いしれさせる。幾度も脈打ち精を吐き出すたびにリリィが歓喜の悲鳴をあげ、お互いを抱きしめ合いながら終わりなき絶頂を後押しするかのように身悶えしあう。
「あぁ・・・♥カークスぅ・・・カークスぅっ♥」
「ぐうぅ・・・リリィ・・・リリィっ・・・」
リリィの鎧の中、二人の喘ぎ声だけが響きあい1つに混ざる。オルガズムに蕩けたリリィへ口づけを交わし、微笑み合う。
まだまだ夫婦の営みは終わらない。力いっぱいお互いを愛し合い足りない・・・気が付けばカークスは再び腰を振り始めていた。
リリィが甘い悲鳴をあげつつ強烈な快楽に流されてしまわぬようにカークスへと力強く抱きしめてくる。さらに熱情が燃え上がる二人の夜はまだまだ終わらない。結局二人が眠りに落ちたのは明け方の少し前、精魂尽き果てるまで交わった後の事だった。
―――――きっと今回も何とかなるさ
まどろみの中でカークスがふと思ったこと。この前向きな気持ちは・・・根拠のない自信などではなかった。様々な陰謀が渦巻く渦中に巻き込まれてしまっていてもリリィと共に戦えるのならば敵はない。白百合の騎士として、今回の仕事もバッチリとこなして見せようじゃないか。
24/11/12 02:45更新 / たっぷりとしたクリーム
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