連載小説
[TOP][目次]
第1話 青年、異界へ
「ん・・・つつ・・・・・」

腕や足腰など、動かすごとに体のあちこちから感じる痛みを堪えながら、ゆっくりと上半身を持ち上げる一人の青年。
彼が瞼越しに差し込む眩しさにゆっくりと目を開けると、その先に広がるのは広大な草原と、はるか遠くに聳え立つ山脈。

「・・・・・・・・・はい?」

辺りを見渡すと幸い人はいなかったが、最後に目を閉じる直前までに見ていたそれからは余りに場違いな情景に、思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。

「(え?何で俺こんなところに・・・?確か俺はあの時・・・)」

目前の光景の急激な変化に一瞬呆然とするが、すぐさま我に返ると直前までの状況整理に入る。




彼の名は「沢部輝幸(さわべてるゆき)」。諸事情により両親はいない一人者で、目つきの悪さから頻繁に喧嘩を売られるが、普段は非常に大人しく、決して自分からは騒動を起こさないよう過ごしている、至って普通の学生である。
その日彼は丁度大学の授業の一環で行われている研修旅行で、ある外国の空港にいた。この旅行の参加者全員とまでは行かずとも、輝幸を始め何人かは初めての海外旅行に浮かれてバカンス気分だった。
そこで予約していたホテル行きのバスを待ってる間に空港内でいくつかの班に分かれて自由行動をしていたのだが、その間に運悪く空港がテロ組織に襲われたのだ。
どうも以前にこの空港で麻薬の密売を企んでいたらしいが、実行の際持ち込みが発覚したせいで取引は失敗。当然運搬役の売人は捕まり麻薬も押収されており、今回はその報復として空港を襲撃。さらに警察と軍に包囲されたと知るや、突入されるならと言わんばかりに自決を覚悟し、内部各所に設置した爆弾を爆発させた。
この時輝幸達は早急に連絡を取り合ったおかげで全員無事に集合できたが、3階建ての空港の2階から降りようと逃げ道を探してる最中、運悪く爆発で床が崩れ、そのまま全員崩落に巻き込まれてしまう。
普通ならこのまま頭を打って即死するか、最悪満身創痍で瓦礫の下で生き埋めになり、圧死か窒息死を待つことになるのだろうが、この時落ちる途中で全員が光に包まれたような感覚を感じ、輝幸もそのまま意識を失った。

「ある日突然異世界に、なんてネタはラノベか携帯小説だけの話だと思ってたけど、まっさか自分の身に起こる日が来るとはねぇ・・・・・・」

自身の身に起きた出来事に驚き苦笑しながら顔に左手を押し当てると、何やら違和感を感じた。何かと思い手を離してみれば落ちる途中で瓦礫にでもぶつけたのか、その手には血が付着している。再度顔を触ってみれば取り分け左目の違和感は強く、右目を閉じみると視界には暗闇しか映らない。どうやらもう左目に光が射す事はなくなってしまったようだ。

「まぁ手足とか臓器とか、他の箇所に異常は無い様だし、命あってのっても言うから、この位助かった代償って考えれば何とかなるかな・・・。」

苦笑いを浮かべながら手足を動かしたり、体の各所を触って他に異常が無いことを確認し、ポケットから携帯電話を取り出し開くと、案の定画面左上には小さく「圏外」の2文字が。元々そう都合よく使えるとは思っておらず、こうなって当然とは思っていたが、実際それを確認すると途方にくれてしまうのも事実だ。
幸い荷物を詰めたスーツケースは少し離れた所で同様に転がっていたので、拾い上げて付着した草や土砂を払ってから中身を確認する。

「急な雨や洗濯できない時の為に予備も含めた着替えとパジャマ、歯磨きセットに髭剃りと整髪ワックス、それから財布に軽食用の菓子に、体調崩したときのために市販の医薬品や包帯、暇潰し用のゲームと・・・今思うとなんでこんなモン持ってきたんだか・・・」

見つけた途端消毒液を取り出し左目周辺に吹き付け、染みる痛みを堪えながら包帯で周囲を覆う。応急処置を終えティッシュで手を拭ってから再度確認する中、発見したのは1番下に隠すように入れられた数冊の雑誌。その内容は人に対し公表するのは控えたほうがいいだろう如何わしい物、要するに早い話がアダルト雑誌だ。ついでに言ってしまえば、彼の個人的趣味でどれも巨乳モノである。

中に目を通すことなく恥かしげに雑誌を片付け、他の品々も同様に仕舞うと、スーツケースを椅子代わりにして座り今後について考え始める。

「(言葉や金銭とか不安もあるけど、できればどっかの街に行って宿でも取りたいものだな・・・。ってもそもそも、この近くに人住んでんのかね?さっき見た限りじゃ村とか街みたく人の住んでるような場所は見当たらなかったな・・・。だとしたら後ろの方に向かってみるか・・・)」

ひとまず移動する方向を決め再度辺りを見渡すと、やはり前方の草原や山の麓には集落らしき影はなく、後方はそれほど大きくはないだろう規模の森林が存在していた。

「こう言うの扱ってる作品だと、森の中って大体魔物とか何かしら出るんだよなぁ。まあだからってここで感慨に耽ってても、誰かが助けに来てくれるなんて展開は一切ないだろうし」

そうと決まれば善は急げと言わんばかりに輝幸のその後の行動は手早く、早速スーツケースの持ち手を手に取ると引っ張りやすいよう引き伸ばし、森に向かって歩き出した。地面は当然それまで過ごしてきた場所のように舗装されてはいないが、思ったよりも車輪が草や小石に引っかかって前進に苦戦するようなこともなく、その門出を祝福するかのようにすんなりと足を進めることができたのだった。
11/12/30 16:28更新 / ゲオザーグ
戻る 次へ

■作者メッセージ
開始早々魔物娘の「ま」の字もなくて申し訳ありません。
これまで2,3ヶ月ほど構想練るのに使っていたので、肝心の執筆に入ったのがつい昨日今日な状態で・・・
自己満足なお目汚しになるかとは思いますが、今後ともよろしくお願いします。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33