連載小説
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吸血鬼







「窓からお邪魔するね腺崎くん」

「なっ、えっ!?誰だよお前!!通報するんむぐっ!??」

「ゴメンちょっと静かにしてて。ねぇ私が誰だかわからない?」

「むぐ…………ば、ばけもの……ヒィッ」

「あぁごめんねみっともないよね。飛んできたから翼しまい忘れちゃった」

「俺は夢を見ているのか……?ばけ、ものが俺に何の用なんだ……」

「もう、ばけものじゃないよう!――あ、でもやっぱばけものかも♪
どっちでもいいやーっ。気が付かない腺崎くんが悪いんだし」

「ま、待て!!待ってくれ!!その手のナイフは何だ!?
俺をどうするつもりだっ!?」

「私のことがわからぬ愚か者には天罰を下すぞーなんて」

「ヒィィィ!その目で俺を見ないでくれ…………さ、ささ寒い……心が凍りつきそうだ…………うぅ……」

「ほら早く早くぅー♪早く思い出さないとずっと睨みつけちゃうぞ?
それとも……このタナトスさんで刺すのもいいね!腺崎くんが私をぶっ挿したみたいにさぁ!
私をキズモノにしたみたいに、今度は私が腺崎くんをキズモノにしちゃうかもよ?」

「俺、がお前をキズモノ――はっ!伊脳っ!?お前伊脳なのか!?」

「やっと思い出したんだ腺崎くん。そうだよ、私はあの伊脳リョウコだよ」

「よく見れば顔も似ている……髪形だって同じだ…………体系は違うが……
伊脳お前どうしちまったんだ……?」

「それは自然とわかることだよ。ねぇ腺崎くん、私はキミに聞きたいことが二つほどあるんだ」

「聞きたいこと……?」

「そ、大事なこと。まず一つ目なんだけどね、腺崎くん。私の処女奪っておいて何か言うことないのかな。女子の初めてを奪うって結構重大なことなんだと思うんだけどさ、キミはそれをどう感じているのかな。腺崎くん自身の口から語られるまで私は帰らないよ」

「そ、そんなの俺の勝手だろう。ただ処女膜破って血がでただけ――」

「ねぇきみは自身はどう感じているのかな。それだけ、本当にそれだけなのかな。男子は痛くもないし気持ちいいだけだから何とも思わないと思うけどさ。女子は女子で大変なんだよ。
初めてを捧げるってことは人生において始めて異性を好きになったっていう証拠でもあるし、それがあるかないかで女としての価値がすごい変わると思うんだよね。
それだけ大事なものをさ、好きでもなんでもない男に勝手に奪われるこの気持ちはキミみたいな男には永遠わかりっこなさそうだから言うだけ無駄だと思うけど……どれほど重大なことかわかってる?ねぇ腺崎くん」

「ぅ……わかった、わかったから!!わかったからその目をやめてくれ……お願いだ…………」

「ふふっ♪ガチガチ震えちゃって子供みたい。そんなに寒いのかぁ、血の気も引いて真っ青だよ」

「うぅ…………凍る……冗談抜きで寒ぃ……」

「まぁでも、ばけものになっちゃった今ではもう処女膜だとか気にしても意味ないんだけどね♪このままだと腺崎くんはまたいたいけな女の子を悲しくさせちゃいそうだからちょっと説教をしたかったのさ。
いい?腺崎くん」

「は、はひ……もうこれからは二度と女性と性交をしようとは思いません……許して下さい」

「あっ、そういうわけじゃなくて、セックス自体はヤリまくっちゃって大丈夫だよ。ただ、次からは相思相愛でヤってねって言いたかったの」

「は、はぁ……」

「うんうん♪それじゃあ次にもう一個聞きたいこと。
腺崎くんはさ、死について考えたことある?ちゃんと答えてね」

「死か…………死は……俺は、死後の世界に行っても、多分地獄行きだと思う…………」

「ふふっ♪自覚はあるんだ。
死後の世界ねぇ…………その空想に思いを馳せることはとっても大事なことだね。
でもね、腺崎くん。死後の世界なんて死んだ者しかわからないんだよ。だから私は断言できる、死後なんてものはないんだって。
『人間は「自分の死後に、何が起ころうとしているのか」に思いをはせることが大事である。』
この言葉にもある通りさ、死んだ先のありもしない空想世界を思うより、死んだ後の現実世界のことについて考えるほうがよっぽど現実味に溢れていて意義のあることだと思うんだ。
それにさっきも言ったけど、死後の世界なんてまやかしは信じなくていいよ。実際に死んだ私が言うんだから間違いない」

「死んだ……?冗談はよせよ、死んだなら……こうやって生きてるわけないだろ」

「いいや、私はもう死んでるよ。死にながら動くただのばけもの。それが今の私。
もうそろそろ気がついてもいいんじゃないかな。この翼と目と牙を見ればとっくに人間じゃなくなってるって」

「……し、信じられねぇ……俺は夢を見ているんだそうだそうに違いない」

「夢のほうが都合がいいかもね。だってこれから腺崎くんは死ぬんだから抵抗されなくて済むし♪」

「は……?今なんて」

「そうこれは夢。とてもとても辛い悪夢。だから目が覚めたらとっても清清しい朝が」

「違ぇよ!わかってるよ!これは夢じゃねぇって!!
それでもわからねぇ……俺が死ぬ?意味が……意味がわかんねぇよ!!」

「アハッ、脾山くんと同じこと言ってる♪面白い♪」

「脾山……?まさかお前、脾山を……」

「あーうん、ご明察ってやつかな。
にひひっ♪脾山くんの腕掴んだらさ、こう、雑草の茎みたいにブチッってちぎれちゃってびっくりしたよ。
大丈夫心配しないで、腺崎くんは一瞬で済ませるから」

「ヒ……ヒィッィィ!!!来るなっ!!ば、ばけものがァ!
と、父さん!母さん助けてくれー!!」

「もうみんな死んでるから無駄だよ。
これは夢、痛みも苦しみも何もない。後に残るのは快感の幸せのみ。だから元気に生を捨てちゃおうよ。
さあ、目を見て……私の言うとおりに…………」

「や、やめろぉ……!くそっ、見たくないのに……どうして……目が離せられ……」

「死の死による死のための生命を今こそ全うする時。死んで新たな死合わせを手に入れられたら、それはそれはとても素敵なことだよね」

「やめ……あぁ、あたまが…………まわ、るるるる………」

「赤き眼は狂気の証。紅き血は生命の証。朱き空は幸福の証」

「あか……はきょうき…………きちはせいめ………………こうふく……」

「赤き眼は狂気の証。紅き血は生命の証。朱き空は幸福の証」

「あかきま……はきょうき…………あか……きちはせいめ……あかき……らはこうふく……」

「赤き眼は狂気の証。紅き血は生命の証。朱き空は幸福の証」

「あかきまなこはきょうきのあかし。あかきちはせいめいのあかし。あかきそらはこうふくのあかし」

「赤き眼は狂気の証。紅き血は生命の証。朱き空は幸福の証」

「赤き眼は狂気の証。紅き血は生命の証。朱き空は幸福の証」

「うんっよくできました♪♪
じゃあ腺崎くんは私の処女膜をぶち抜いた人だからなー……こんどは私が腺崎くんの穴をぶち抜こうか!」

「………………」

「はい、直立で立ってね。んしょ、ええとパンツを脱がせてと……
わぁぁ……おチンポ美味しそう♪ん!いやいや、ここでつまみ食いはしちゃダメだよね」

「………………」

「よしお尻の穴はっけーん!ここにナイフを突きつけてと……
いい腺崎くん?これからキミの穴を犯しちゃいます♪私が気持ちよくなれなかった分たくさん気持ちよくなってね。
それじゃいっせーのっせで入れるよ」

「………………」

「いくよー!いっ、せー、のっ…………せ!!」





ドブシャァ!!!





「…………あれ?」

「」

「ピストンするつもりが」

「」

「真っ二つになっちゃった……」

「」

「えへへ……やっぱ私ってドジなのかなぁ」

「」

「ま、いっか。どうせ後で死なす予定だったし結果オーライってやつかな。
血も一口貰っちゃおっと……んん美味しっ♪」

「」

「しかしやっぱり眼の力は使っちゃダメだなぁ。楽だけど何も反応なくなっちゃうつまんないや」

「あっ、しかも髄ヶ崎さんの情報聞くの忘れてたし……もう、こんなところでドジっ子アピールしてどうするの私!」

「後で別の人に聞いてもいっかぁ」

「……よし!次は誰にしようかな。腺崎くんまた後で会おうね」













「アハハハっ!!腰田くん面白い!ホラホラ早く食べないと死んじゃうよ〜?それとも死にたいのかな?」

「んむ゛ぅ!!ん゛ん゛ん゛ぅ!」

「生ゴミ食べ漁ってすっごい汚いよ!あはは気持ち悪い♪
でも仕方ないよね腰田くん、キミが一番生ゴミを多く作り出してたんだからそれを処分するのも腰田くんの役割だよ」

「……ぁお゛えっっ!!ゲホッ、コホッ……」

「食べ物の恨みっていうのは何より恐ろしいものなんだよ。
考えてもみなよ。今まで腰田くんが捨ててきた私の弁当ひとつひとつがどれくらい飢餓に苦しむ人々を助けられたと思う?多分百人は下らないと思うな。
言い換えればキミは百人以上の人々を見殺しにしたって言っても過言じゃないよ」

「……うぅ……おぇっ……」

「私が思うに死に方で一番辛いものは餓死と溺死だと思う。だって苦しいと感じる時間が長いんだもの。それならいっそ一瞬で死ねる事故死とかの方が楽だよね。
腰田くん、死ぬならどうやって死にたい?私的には楽に死なせてあげたいんだけど」

「んぐぅ!?」

「手が止まってるよ」


めきゃ
ゴリゴリ


「があ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

「あ、ゴメン、踏んだはずみに右手砕けちゃった。残りの左手で食べてね」

「うぐぅっ!……なんだってんだよぉ…………」

「私が食べれなかった分のお弁当は腰田くんが食べなきゃ農家のおじさんおばさんがかわいそうでしょ。一生懸命作った作物をさ、無下に捨てられるんだよ。
豚さんや鶏さんの命を無駄にしてるのと同じことなんだよ」

「知るかよ……そんなの知るかよ!!」

「知らないじゃ済まされない。多くの生命、労力を無駄にしてキミは何とも思わないの?」

「俺はやれって言われたからやったんだ!やらないと俺の身が危なくなるから…………
し、仕方なかったんだ!!許してくれ!!悪かった……」

「そんなの私に謝られても意味ないよ。生産者のみんなに謝罪しなきゃ」

「そ、そんな…………」

「ねぇ腰田くん。キミは死を何だと思う?人として、いや、生命ある者として考えを教えてくれないかな。
もう私は死んでるから生者的観点からは考えられなくて」

「それって……どういう」

「ああ、もう食べなくてもいいよ。それよりも早く、腰田くんなりの考えを教えて欲しいな」

「死……死は……必ず避けることのできないもの……とか」

「なるほど面白い考えだね♪
『死への準備をするということは、良い人生を送るということである。
良い人生ほど、死への恐怖は少なく、安らかな死を迎える。
崇高なる行いをやり抜いた人には、もはや死は無いのである。』
死を恐れる腰田くん、ううん、他のみんなも。恐れているということはまだ良い人生を堪能していないということなんだ。
だけど人間っていうのはね、八十歳九十歳くらいのおじいちゃんおばあちゃんになっても良い人生だったと思える人はなかなかいないんだよ。それくらい人生ってものは難しくて、そして面白いものなんだ。
腰田くんももしかしたら良い人生だったって思わないで死ぬのは嫌でしょ?
だから今のうちに一回死んで、もうこれからは死ぬことのない人生を送るようにすればいいと思わない?」

「まっ、待て!お前は一体何を望んでいるんだ!?お前は何がしたいんだ……」

「私はただ死ぬことの素晴らしさをみんなに知ってもらいたいだけ。
だからまずは手始めにクラス39人を気持ちよく死なせてあげようかなーって思って」

「しょ、正気じゃない……」

「うん、私は冗談は言わないよ」

「俺も……殺されるのか」

「うん、死なせてあげる」

「…………くくくっ」

「??」

「……………………ふ…………ふははっ……ははは!」

「どうしたの?」

「ははっ……はははははっ!!狂ってる、完全に狂ってるよ!何もかも!
どうせ俺はもう何をしても死ぬしかないんだろ?じゃあいいよ、何もかも全部言ってやるよ!
はははははっ!ケケケッ」

「アハハウヘヘイヒヒ!良かった腰田くんはわかってくれるんだ死の素晴らしさを♪パパもママも、脾山くんも腺崎くんも誰も認めてくれないから無理やり死なすしかなかったんだよね」

「クククッ。
初めに言っておくことがあるが……お前は今でも髄ヶ崎のことを親友だと思っているのか?」

「それを私に聞くかな。もちろんかけがえのない大親友だよ。私は髄ヶ先さんの為なら死んだってかまわない。ってもう死んでるんだった」

「お前は狂人だが、髄ヶ崎もまた狂人だよあれは。俺らクラスは髄ヶ崎に支配されてたって言っても過言じゃねぇ。
だってアイツは――」

「それ以上はいい」

「……ん?」

「それ以上は言わなくていいよ。私が直接確かめるから腰田くんが言う必要はない」

「…………そうかよ。んじゃーホラ、さっさと俺を殺せよ。
首をはねるか?心臓を潰すか?脳を壊すか?一思いにやってくれっくっくっく」

「どうして腰田くんはそんなに素直なの?みんなもっと抵抗してたのに」

「どうしてだろうな、俺にもわかんね。ただ、お前といると死への恐怖って言うのかな……躊躇いがどっかにいっちまったみたいだ。死ぬのがどうでもよくなってきやがる。
俺も大概だな」

「ふーん……それは私もよくわかんないなぁ」

「伊脳、お前がわからんなら俺だってわからんさ。なぁ、最期に聞きたいことがあるんだが」

「なぁに?」

「死んだ後って……どうなる」

「それは腰田くんが直接確かめたほうが早いよ」

「なんでもかんでも自分で確かめろってことか。わーったよ。
できるだけ痛みは少なめで頼む」

「うん♪終わったらちょっと血飲むけど気にしないでね。
それじゃぁ――また後で」




ドスッ


「みんな腰田くんみたいに素直だったらもっと楽になるんだけどなぁ」












「あっ、いいっ、そこっ、はぁっ、んんっ!!」

「いいよっ……超気持ちいい……はっ、はぁっ」

「あふっ、あんっ、らって、これ、前より、良くて……んんっ!」

「お前、腰動かしてる、じゃんか……!」

「あ、ん、やぁっ、それでも、なんか、しびれるっ」

「くっ、根元から、搾られる……っ、そ、そろそろイクぞっ……!」

「いいよっ、出して……今日は、外でねっ……ああん!!」

「ああっ……わかった……はぁっ!!だ、出すぞ!!」

「外に出すなんてもったいない。中にびゅーって出しちゃいなよ」

「えっ、なっ、誰だお前!?!?ってああっ、カナエ!何してるっ、足を離せっっ!!」

「やだっ……なにコレぇっ!?足が勝手に動くのぉ!やだ……やだやだやだ!!離して!」

「はっ……がっ……腰が勝手に動くっ…………外にっ……外に出さしてくれよ!!」

「そんな美味しそうな精液を外に出すなんてもったいないよ、今胃くんに肺乃宮さん。
ナカに出しちゃいなよ。今日が危険日なんでしょ?なら尚更だよ♪」

「お、お前の仕業なのかっ!!早くしてくれっ!でないと俺もう……」

「ちょ、ちょっとユウキ!!ア、アンタ早くしてよっ、このままだと中出ししちゃうって!」

「だから出しちゃえばいいのに。どくっ、どくってきっと気持ちいいよ♪
受精して……着床して……妊娠……ふふふっ♪♪どんな子供が生まれるのかな」

「ひっ……ユ、ユウキ!!どうにかして振り解いて!お願い……」

「ごめん無理…………カナエ……もう、出る…………」

「いや…………いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「はぁっ、あう、うくっ……イクっ!!はああああ!!!」


ずびゅっ
ズビュゥゥゥゥッッ
どくんっ
どぷんっ
どくっ……

「ふああぁぁ……やだぁ、ひぐっ、いや……」

「はぁ、はあ……」

「あはっ♪♪おめでとう、元気な子を孕むといいね♪」

「…………何だよお前…………どうしてくれるんだよっっ!!!!」

「私は二人の将来のためを思って妊娠させたんだよ。むしろ感謝されるべきなんだけどなぁ」

「何言ってやがる……俺らまだ学生なんだぞ!!本当に妊娠してたらどうするんだよ!」

「学生辞めればいいじゃん」

「なっ……」

「いやこれから二人は人間を辞めてもらうつもりなんだけどさ。
さしあたって魔物って妊娠し難いから人間のうちに済ませたらどうなるかなって思ったんだよね。まさか今胃くんと肺乃宮さんがそんな関係だとは思わなかったからジャストタイミングで……つい出来心で中出しさせちゃったわけだよ」

「魔物……?一体何のことだよ……というかお前誰だよ!!
なぁ、カナエ、コイツ誰だか心当たりない………………えっ」



ゴトッ



「ひっ…………ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
く、くくくく首がっ……!!!カナエっ!!」

「男だったらインキュバスにしかならないからバリエーションがなくてさ。
女だったら死なせ方によっては違う魔物になると思って、今回は首をはねてみました♪
デュラハンになるかもね」

「あ……ああ…………カナエ……うっ!!!お、おえぇっ……」

「んん♪肺乃宮さんの血も美味しい♪
あれ、というかさっきから私何言ってるんだろう。魔物?妊娠し難い?デュラハン??なにそれ」

「殺し…………この人殺しがぁ!!」

「うわっ、とと、ペーパーナイフってちょっと危ないよ。仮にも私は女子なんだから女子に向かって刃物を振り回すのはダメだと思うな」

「うるさいっ!!お前はカナエを殺したんだ……それだけで十分だっ……」

「ふぅん……もうみんな私のこと一目でわかんないなら聞く必要もないかぁ。説明するくだりも面倒だし」

「何を言っている……?」

「いや、こっちの話だから気にしないで。
ねぇ今胃くんは死についてどう思う?」

「死……?死だと?それを答えてどうなる。カナエをたった今目の前で殺したヤツなんかの言うことを聞くと思っているのか……カナエを、カナエを返しやがれぇ!!」

「よく勘違いされるけど『人間の死亡率は100%』なんだよ。
遅かれ早かれ人間はいずれ必ず死ぬもの。それがいつになるかは誰にもわからない。
それだったら今のうちに死んでしまえば、もう死ぬことはないでしょう?死に怯え恐れることなく、永劫に気ままに過ごすことができるのは素晴らしいことだと思わないかな」

「何だよそれ……たったそれだけの理由で殺されなきゃならなかったのかよ……ふっざけんな!!」

「今胃くんも死についてよくわかってないみたいだから、これから私が死なせてあげるね。一度死を体験したらその考えも変わると思うからさ。だから今は素直に死なされてね」

「殺せるもんなら殺してみやがれ……
お前は殺す…………殺す……殺してやる!!カナエの仇だっ!」

「きゃっ!?ちょ、ちょっとぉ!」




ガキィン!!



「らんほうははへははぁ(乱暴はダメだなぁ)」

「なっ!?歯だと!」

「ほんははいふ、わらひのにふらへはら(こんなナイフ、私のに比べたら)」



ギギギギ……
バキン!!



「ぺっ、ぺっ……ただの鉄くずと同じだよ」

「う、嘘だろ……ステンレス製だぞ……」

「今胃くん。キミは肺乃宮さんのことを愛してる?」

「あ、当たり前だろ……なんだよ、脅しか……お前みたいな化け物に脅されなくたって俺はカナエを愛し続ける」

「それじゃあ、肺乃宮さんが人間でなくなっても愛し続けることができる?」

「カナエらしさが少しでも残っているならな」

「…………うんっ♪合格だね。これでキミたちは永遠に愛し続けることが約束されました。いつ如何なる時でも互いに性に塗れて快楽を求め続ける素敵な交わりを行なえるよう心から願ってる♪」

「な、なんなんだ唐突に……カナエは死んだんだぞ、もう、戻ってこないんだ……
お前のせいだ、カナエを返せよ……」

「それは違うよ。肺乃宮さんは死の先に行ったの。死を超えて新たな自分として生まれ変わるんだ。その新たに生まれ変わった肺乃宮さんに再び対等に合うとすれば」

「合うとすれば……?」

「……キミも死の先に行かなくちゃねっ!!!」



ズシュッ!



「っっっ…………!?」

「肺乃宮さんと同じく首をとばしてあげようと思ったんだけど失敗しちゃった、えへへ♪
大丈夫心配しないで。ほら、血が吹き出る、鼓動が小さくなる、肌が冷たくなる、死が近づいてくる。だからキミは死に身を委ねるだけでいいの」

「っぁ……ひっーっ、ぜひゅーっ…………」

「あぁ、声帯も一緒に潰しちゃったかぁ。それも大丈夫、気がつけばなにもかも元通りだから、いや、今よりももっと世界が輝いて見えるから心置きなく死んでいってね」

「…………ぅ…………っ………………………………」

「あぁ……なんて素晴らしい死に様。見ているだけで濡れてきちゃう……
んっ、くっ……はぁん……血も美味しい♪」

「けど、嫉妬しちゃうな。死ぬ前も死んだ後もお互いラブラブになれるのが保障されているなんてちょっと羨ましい。私にはそんな人いなかったもの……
いるとすれば同性だけど髄ヶ崎さんだけ」

「んしょ、んしょ……ふぅ。ふふっ♪二人仲良く死に絶えているのってキレイだね……目覚めたらまず初めにセックスしちゃうんだろうなぁ。
ああやっぱり羨ましい」

「だんだん死なす理由が適当になってるような気がするけど……
まぁいいよね。死んだら何もかもが新しくなるんだし」

「いやぁみんなを死合わせにしてあげるのってすっごい楽しい!もう服なんて血飛沫で真っ赤だよぉ♪
もう何人死なせてあげたんだろう。ひーふーみーよー………………」

「あと二人だ!脛森くんと髄ヶ崎さん!!
うふふふふふまずは脛森くんだね♪待っててね今行くから」










「こんばんはっ♪脛森くん!夜分遅くごめんね」

「そ、その声は、伊脳……か?
こ、ここは十二階だぞ……どうやって窓から」

「細かいことはどうでもいいよ。それよりも、脛森くんに聞きたいことがあるんだ」

「細かくないだろ!不法侵入だぞこれは」

「んもぅ、空気の読めない人は嫌われちゃうよ。
んん……しょ!これで納得したかな、この翼で空を飛んできたんだって」

「……?い、いやぁ完成度の高いコスプレだね。収納可能な点は大きいと思うよ。そうでもして不法侵入する理由を作るってことはよほど追い詰められているというわけか。
そろそろ来る頃だと思っていたさ。ブルーバタフライをよこせと言うんだろ?」

「あぁ、そんなものもあったけ。アレ全然副作用なんて来なかったよ。だってホラ、現に私意識正常だし」

「そん……馬鹿な!?副作用がヤバイというスレはもはや数百と立っているんだぞ!!そんなことがあるわけ……」

「んー、それさ、魔物には効かないとか効果が薄いとかじゃないの?」

「ま……もの……?ふふっ、伊脳、君も随分と面白いジョークを言うものだね。やっぱり正常ではないじゃないか」

「私はいたって正常だよ。みんなが私に追いつけないだけ。
脛森くん。キミはそのブルーバタフライっていうの自作できたりするのかな」

「まぁ製法はスレを見ればいつでもわかるしね。材料さえあれば……って伊脳はまさか僕に作らせるつもりなのかい?
それなら僕はお断りするよ、こんなのがバレたら少年院に直行さ」

「そうなんだ!じゃあ材料さえあれば作ってくれるんだねっ♪」

「いやだから僕は」

「これさえあればみんなもっと自由に性活できると思うんだ。規則や常識に縛られることなく混沌と性交の跋扈する素敵な世界に変わると……脛森くんもそう思うよね!」

「…………伊脳、君のやろうとしていることはもはやテロに近い何かを感じるよ。僕はそのためにブルーバタフライを回してたわけじゃない」

「じゃあ何のために?」

「何のために?そんなの決まってるじゃないか、ただ金が欲しかっただけさ。一度ブルーバタフライの味を知った者は必ずもう一度欲しくなる。だから僕は苦しむ者のために売ってあげるのさ、高額でね!
初回はサービスだとか適当な理由をつけてタダであげたとしても将来的に見積もれば相当儲けになると考えれば安いものなんだよ。
それは伊脳とて例外じゃない」

「あぁ、だからあのとき私に無理やり飲ませたんだ。って言っても飲ませたのは腑次原くんだけどさ」

「そういうこと。だから伊脳ももう一度ブルーバタフライの味を味わいたいから僕のところに来たんだろう?一袋五万円だ、買うかい?」

「それは脛森くんが作ったものじゃないの?」

「言っただろう僕は作れるけど作らないって。ただでさえ高いシロモノを僕は仕入れて、それよりもさらに高い金額で君たちみたいな人に売ることで利益を得ているのさ。
さぁ買うのかい買わないのかい。買わないなら早く出ていってくれないかな、そうじゃないと本当に通報するよ」

「買わない。そんなものがなくたって私は私だもの」

「それじゃ、出ていってもらおうか。正直なところ、今の伊脳は何だか気味が悪い。まるで伊脳じゃないみたいだ」

「脛森くんはまだ私がコスプレしていると思っているの?だとしたらちょっとガッカリだな」

「当然だろう。翼なんか生やして、差し歯も入れて、赤いカラコンも入れてパッドだって入れて……衣装も血飛沫をイメージしている。さながら吸血鬼ってモチーフかな?その完成度の高さは認めるよ」

「……………………そっか。じゃ、もういいや。
ねぇ、脛森くん。キミは死について考えたことはあるかな」

「死ぃ?なんだそりゃ、妙にコスプレ役にハマリきってるな。
チッ……言ったら帰ってくれよな」

「うん」

「死なぁ……死は大事な人と別れるとても悲しい事だと思う。でも、避けては通れない決められたもの……
こんなものでいいのかい?」

「いいね、いいよ脛森くん。濡れそうだよ♪
そう、脛森くんの言うとおり死は生ある者に全て平等に降りかかる宿命のようなもの。生き物は生まれると同時に死も決め付けられるものということだよね。
『死は平等です。
平等であらねばなりません。
どんなに壮烈な死も、どんなに惨めな衰弱死も、自己主張の死も、沈黙の死も、死にもし価値があったら、どんな死の重みも同じでなくてはなりません。』
そう、死は平等なの。私的には死ほど平等なものはこの世には存在しないと思っているな。
生と死は隣り合わせって言葉もあるけどね、つまりそういうことなんだ。
英雄も罪人も賢人も愚者も、死は全て平等で差別なくある。それって素敵なことだよね」

「伊脳、だ、大丈夫か……?本当に副作用でおかしくなってるんじゃ……」

「何度も言わせないで、私は正常だから。そう言うならさ脛森くん、自分で確かめてみればいいしょ」

「お、おいおい冗談はよせよ……一度でも使ったらアウトなんだぞ?そんなもの使うわけが……」

「私だって飲みたくないのに無理やり飲まされたんだよ。それなのに脛森くんは飲みたくないから飲まないだなんて、それじゃ平等じゃないよね。
脛森くんも一度飲んでみればいいんだよ。そしたら副作用なんてないんだって実証できるでしょ?」

「い、伊脳……お前まさかっ」

「本当はこんなつもりじゃなかったんだけどね。脛森くんが私のこと信じてくれないなら試してもらうしかないかなーって思って」

「わかった、わかった!!一袋タダでやろう!い、いや、全部だ!全部タダでくれてやる!!だから……だからっ……」

「や・め・な・い♪平等になるには仕方のないことなんだよ、ありのままを受け入れなきゃ。ドラッグも死も」

「はぅぐ!?か、身体がうごか……な…………やめ……」

「視線にちょっと魔力を込めるだけで身動きを封じれる、意のままに操れる。なんて素敵な力なんだろう!!」

「く…………ぐぐ……ぎぎ…………」

「袋を開けて……取り出して、と。んん〜なんていい匂い♪♪魔物にも効くように改良したらもっと素敵になるんじゃないかな。
さ、脛森くん、お口あ〜んして?」

「あがが…………うぅ……んん゛ー!!」

「泣いたってダメ。私はもっと苦しかったんだから、平等になるには、ね」



ぐぐぐっ



「んう゛う゛……んぐっ……うぇぇ……」

「はい完了♪気分はどうかな」

「最悪の気分だ……口の中に手を突っ込まれるなんて……」

「んふふ、次第に気持ち良くなってくるから我慢しててね」

「うぅ、伊脳、僕がもしおかしくなってきたら迷わず……殺してくれ……もう、生きている意味なんてない……ふふっ」

「うそっ、いいの?やったぁ、腰田くんの時と同じだ!同意がもらえた♪」

「ふふふふっふ…………そうか、さっき腸曽我部から連絡が回ってきたのははこのことだったんだななな……ということは腰田とかはもう……」

「腰田くんだけじゃないよ。腑次原くんも、肺乃宮さんも、脾山くんも、今胃くんも、三臓くんも、窪膣さんも、肝原さんも、腎野くんも、腱持くんも、膵道橋くんも、腥司くんも、肛神くんも、その他クラスメイトみんな。
私が全員死なせてあげた。残すは脛森くんと髄ヶ崎さんだけだね」

「ふっ……ふふふっ…………男は死を前にすると勃起すするといわれているが、ままさしくその通りだったようだ。ふふっ、下半身ががが疼く」

「本当に!?勃起するほど死なされるのが嬉しいなんて……私も嬉しくなっちゃう♪」

「あぁ……頭も霞んできた…………ふひっクスリが効いてきたみたいだははははあーーーーこの勃起もクスリのせいいいいいいいいいいいかもしれないなななははぎも゛ぢい゛ぃ゛ー!」

「アハハッ♪呂律が回ってないよ!
じゃあ、脛森くんの願い通り死なせてあげるね」

「は゛ぁー、は゛ぁー……ハァ、ハァ欲しい欲しい欲しい…………うがああ!!」

「はい、口開けて」

「はっ……ぐっ……」

「そう、そうやって……うん、おとなしくして。さあ、これを飲んで、一滴だけでいいから……」



んぐっ



「ぼぼぼぼくはどうなってししまった……」

「このナイフから溢れる灰色の液飲むとね、すっごいほわほわして気持ちいいんだよ。そんなクスリなんかよりもずっとずっと」

「そそそんなことがあるかかよ…………ぶるるるるるばたふらいのほうががが………………
あ、あれ、ねむたくくく……」

「うん、寝ていいよ。死のエキスを飲んだんだもの眠たくなるのは当然。
不死の灰に嘆くように安らかに眠りなさい。目が覚めたら、またやり直せばいいんだから」

「ふふふへへ…………あぁ、キモチイイナァ…………ぼくは、だれだっけ…………」

「目が覚めたら全部思い出すよ。さぁ瞳を閉じて」

「あぁ…………それなら、いいや…………おやす…………………………」

「おやすみ。またみんなで楽しく過ごせるといいね」

「…………………………」

「キミにはみんなが笑ってすごせる世界の為に頑張ってもらわなきゃいけないんだから。とりあえず今は休んでいて」

「さて、と。これで38人は全員死合わせにしてあげた。残すは髄ヶ崎さんだけかぁ……」

「やっと合える。愛して愛して好きで好きでたまらない私の愛しい髄ヶ崎さん。どろどろに愛してあげるから……ふふ♪待っててね」













―――――





 時刻は深夜。草木も眠る丑三つ時であるこの時に、唯一眠らぬものがひとつある。
 血塗れの短剣と衣服を身に着けた化け物はひとり優雅に夜空を飛ぶ。愛しき者の下へと暗闇を駆ける。
 夜よりも冥い翼をはためかせ。
 血よりも朱い瞳を灯し。
 その者夜の王となりて、日と架を拒み暗がりにて血を啜る。
 闇色貴人は想いを血に乗せ夜空を覆う。
 止めること叶わず、逆らうこと適わず。
 
 

「髄ヶ崎さんのパパにママ、そして弟くんかな。ごちそうさま、美味しかったよ」

 髄ヶ崎亭。

 2階一戸建て建築である住居に彼女、ヴァンパイア・リョウコはいた。もはや衣服は完全に血に染まっており、もとの生地の色は彼方へと消え去ってしまっている。血飛沫を浴び全身が鮮血に染まる姿は言いようのないものであるが不思議と恐ろしさを感じさせることはあまりない。それは恐らく、彼女の地の美しさが上手いように調和し、畏怖を緩和しているのだろうと思いたいものである。それほどに赤く、そして美しかった。
 眼前に横たえる三人の死体を丁寧に川の字に並べさせると、彼女は短剣に付着した三人分の血液を舌で舐め取る。口の中でころころと転がし、唾液と撹拌させ、鉄くさい味を堪能するとごくりと喉ごしよく飲み込む。
 すとんっ、と胃の中に落ちる感覚を味わい、2、3度ぶるると震えると恍惚とした甘い息を漏らし味を酔い痴れる。

「この血が髄ヶ崎さんの身体にも流れていると思うと……ゾクゾクしちゃう♪」

 髄ヶ崎の家族構成は四人。父に母、そして髄ヶ崎とその弟。
 1階の居間には父と母と弟の三人分の寝室があり、髄ヶ崎はひとり2階に部屋が設けられている。
 以前からこのことを知っていたリョウコはまず始めに、暗闇に紛れ音もなく侵入すると、この三人をひとりずつ死なせていった。
 一撃目は喉を目掛けて声帯を潰し、二撃目で心臓を一突き。こうすることにより誰にも気付かれることなく息の根を止めることが出来ることをクラスメイトたちへの経験により学んでいた。

ぎし……
みし…………

「随分遅くなっちゃった。もう寝てるかな」

 一歩、また一歩と階段を上る。
 静寂に包まれる屋内は明かりも何も灯されておらず完全な暗闇である。しかし、暗闇でもまるで昼間のように辺りを見回すことのできる眼はしかと開かれており、獲物を一秒たりとも見逃す事はない。
 彼女の視線は髄ヶ崎の部屋のドアしか見ていなかった。
 階段を登り終えドアノブに手をかける。



カチャ……



 鍵はかけられていない。蝶番の軋む音が耳に入る。
 這い猫のように無音で室内に入ると、伊脳自身興奮が高まってきているのがわかるほどに身体が熱くなってくる。
 髄ヶ崎の部屋。髄ヶ崎が学校以外で最も長い時間滞在している場所であるこの部屋は、髄ヶ崎を愛してやまないリョウコにとって刺激的過ぎるというのもだ。この部屋には髄ヶ崎の全てが詰まっていると思うとリョウコ自信もそれを体感してみたい気持ちで一杯になる。
 彼女は深呼吸を何度も繰り返し、自らの肺に髄ヶ崎の部屋の空気を充満させる。赤血球が髄ヶ崎の部屋の酸素を体中へと運び細胞に供給する。そう想像しただけで、まるで自らが妊娠してしまったかのごとく慈愛に満ち足りたようになり、天上の多幸感を味わう。
 そうしてしばらく幸せに身を任せていたいと思っていたが、リョウコはそうすることなく眼前の存在へと視線を向けた。

「まだ、起きてたんだ」
「……単刀直入に聞く。貴女は伊脳リョウコでいいの?」
「そうだよ髄ヶ崎さん。私だよ、親友のリョウコだよ」

 もはや翼を隠すことなく、短剣を隠すことなくありのままの自分の姿を髄ヶ崎に見せ付けるリョウコ。巨大な翼膜の翼は広げると部屋一面を覆いつくしてしまいそうなほどに大きく、そして冥い。
 その様子を見つめる髄ヶ崎はローラー椅子に携帯片手に体育座りで座り込んでいた。上下スウェットでぼさぼさの髪を整えていることから、つい先ほどまでは寝ていたということがうかがえる。
 
「メールのとおりだったってワケね。信じてよかった」
「あ、もしかして私来ること知ってたの?嬉しい♪」
「…………腸曽我部さんから一斉送信でメールが送られてきた。『早く逃げろ、殺される』って……」
「あぁ、そういえば死ぬ間際にメール打ってたなぁ腸曽我部さん。そんなこと送信してたんだ」
「……ねぇリョウコ、あなたおかしいって。辛い事があるなら相談してくれてもいいじゃない、親友でしょ?」

 くくっ、と笑うリョウコ。
 開いた口の隙間からは鋭い牙がその姿を覗かせている。

「髄ヶ崎さん、ちょっと聞いてもいいかな」
「な、なに?」
「大好きな親友だからこそ言いたくなかったんだけど……言うね。
私、クラスのみんなからいじめられてるの」
「……!!そ、それはさっき脾山くんから送られてきた画像を見て理解したわ…………
辛かったでしょ……どう、して……どうしてこんなになるまで黙っていたの……?親友だったらもっと私を頼ってくれてもいいじゃない……私は親友の頼みなら何でも聞くのに」
「親友だから、だよ髄ヶ崎さん。私は貴女を巻き込みたくなかったの」

 暗闇の中でもその牙の白さは際立って目立っていた。逆に白すぎて不気味なくらいに。
 短剣を片手に持ち、リョウコは髄ヶ崎へと近づく。
 短剣からは灰色の液体が滴り落ちている。

「これからは髄ヶ崎さんを頼りにしてもいいんだね」
「うん……うんっ!何でも言ってくれて構わない。だって親友だもんねっ」
「そうだね。それじゃあ…………本当の事を言ってくれないかな」
「!?」

 リョウコの言葉を聞くや否や、髄ヶ崎は椅子から飛び退き目を見開く。
 額には汗の水玉が浮き上がってきているようで、動揺は隠せていない。

「ごめんね髄ヶ崎さん、私本当は全部知ってるんだ」
「ぜ、全部って?」
「全部は全部だよ。私の親友ならもうわかるよね、いや、わかってるよね」
「リョウコ…………あなた何を疑っているの?私がいじめのことを知ったのは本当についさっきなんだってば!私は何も関係ない!」
「あれ、私いじめのことなんて何にも触れていないんだけどな。髄ヶ崎さんがいじめに関係しているとか私言ったっけ?」
「…………ハッ!!」

 思わず口を塞ぐ髄ヶ崎。だがしかし、言ってしまったものはもはや時既に遅しというものである。
 髄ヶ崎の手から携帯電話がするりと落ちるのを見て、リョウコはにやりと黒い笑みをこぼす。

「画鋲を仕掛けたのも、教科書にいたずらしたのも、弁当無駄にしたのも、私を襲わせたのも全部髄ヶ崎さんの命令だったって、もう知ってるんだよ」
「…………」
「どうして?どうして私がいじめられなきゃいけなかったの?親友なのに……親友だと思っていたのに」
「…………」
「脾山くんも腺崎くんも、他のみんなも全員髄ヶ崎さんの係わり合いがあるって言ってた。髄ヶ崎さん、本当の事を言ってくれないかな」
「…………」

 壁際へと追い詰められる髄ヶ崎。彼女はずっとうつむきながら沈黙を守っていた。当然だ、親友からこうも問い詰められてしまっては易々と返答する事が出来ない。
 安易に答えてしまう言葉によっては、今後の行動が決まってしまうのだから。
 髄ヶ崎は必死に言葉を選んでいた。
 選んでいたはずだった。
 しかし、彼女の口からは訂正を装うような言葉とはまるで正反対の言葉が発せられる。

「…………って……」
「ん?」
「アイツら……勝手に裏切りやがって……」
「髄ヶ崎さん」
「アイツら勝手に喋りやがってぇぇー!!クソが!誰にも喋るなって言ってただろうがっ!!私の言う事だけ従ってればよかったものを!」
「あ……ははっ♪やっと髄ヶ崎さんの本音が聞けた♪♪」

 激昂する髄ヶ崎の顔は今までリョウコが見たこともないような、醜悪な人相であった。口調、素振り、人相、それら全てにおいてリョウコの知る髄ヶ崎とはかけ離れており、驚きを隠せない。
 善の皮を被っていた親友のここまで汚らしい本音を聞けるとは思ってもみなかったリョウコは、親友の心の叫びを聞き入るために耳を傾ける。
 
「どうして私がいじめられるぅ〜?テメーが悪いんだよテメーが!!
人前でへらっへらしやがってよぉ、何かあっても全部自分で背負い込みやがる……そういうのはっきり言ってキモいんだよ!!
相談しても『なんでもない』。いじめられても『髄ヶ崎さんが』。あーウザっ、そういうの無理だから。
私はただみんなに信頼される髄ヶ崎さんでいたいんだよ。みんなの中心で光り輝いていたいの。
にもかかわらずアンタだけ、アンタだけが私に何も相談してくれないでひとりで解決しようとするんだから目障りなワケ!!
みんなに犯されたら嫌でも相談してくれると思ったけどやっぱりアンタは相談してくれなかった。
も〜〜そういう自己犠牲の精神ってバカバカしくて腹立つのよ!!
私の言いたいことわかってんの!?このクソが!」

 浴びせられる罵声の数々。心に傷つくこと間違いなしの言葉の数々であるが、逆にリョウコは今まで聞けなかった本音を聞けて嬉しく思っていた。
 彼女、髄ヶ崎ミキは己の可能性を誰よりも信じていたのだ。
 自分がみんなから頼られる存在でありたい、それがどんな相談であろうとも悩みを達成することに幸せを感じることが出来る。例えその過程がどうであろうとも最終的に相談に乗って叶えてあげることが出来ればどんな卑劣なことでも行なう。そういう思想の持ち主であった。
 ある種の自作自演ともいえるそれは、考え方によっては酷く自己中心的で理に適わないものであろう。結果としてひとりの少女を追い詰め、自殺へと追い詰めているのだから、もはやその行為は殺人といっても差し控えない。
 腰田が言うとおり、彼女もまた狂人であったのだ。
 伊脳リョウコが究極の自己犠牲であるとすれば、髄ヶ崎ミキは究極の献身。
 似ているようで異なる二人の思想はもとより反発しあうようになっていたというのも皮肉である。

「アンタをいじめるにあたってクラスメイト全員を買収するのには若干手間がかかったけど、みんな一人一人の相談に乗ってあげれば快く参加してくれたわ。
金だってあげた、身体だって売った、汚れ役だってやった、何でもやった。私に従わない者は盗撮して脅迫すればみんな従ってくれた。
アンタを困らせて親友である私に相談させるためにねぇ!!」
「身体を売ったって……そこまでして髄ヶ崎さんは」
「そうそう、アンタが体育館庫で犯されてた時あるじゃん。私その時何してたと思う?」
「……誰かの相談に乗ってあげてた……とか」
「正解!ウザいくせに察しだけはいいんだから。
三年C組の男子たちがさ、『また俺たちの願い叶えてくださいよー』とか言うもんだから、教室貸切って12Pしてたわ。他人の願いを叶えながらヤるセックスってたまらなくてねぇ」
「髄ヶ崎さんって本当はおしゃべりなんだね」
 
 ケタケタと愉悦に浸りながら笑う髄ヶ崎の姿はとても見ていられるものではなかった。痛々しすぎたのだ。
 リョウコがここまで変わってしまったのはいじめに続くいじめに耐えかね精神が壊れてしまった故の変化である。
 しかし髄ヶ崎はリョウコのそれとは違う。彼女は真性の狂人であったのだ。
 更生の余地などないし、更生したとしてもそれは本当の彼女ではない。
 リョウコは流れそうになる涙をこらえ、力を込めて決心する。
 彼女を救ってあげようと。愛しの親友を助けてあげようと。

「髄ヶ崎さん、あなたは友って……なんだと思う?」
「ハァ?んなもん聞いてどうすんだよ、うっざ」
「お願い答えて。髄ヶ崎さんを信頼してるの」
「信頼……ふん、始めからそう言えば良かったんだよ。
友ねぇ…………友は私に願いを訴えてくれる大切な存在だよ。アンタ以外はね!!」

 まるで腫れ物を見るかのようにリョウコを見下す。髄ヶ崎にとってリョウコの存在はあってはならない"できもの"と同類なのだろう。それほど心の奥底では嫌煙していた。

「そう…………それってとっても悲しいね……
『真の友をもてないのはまったく惨めな孤独である。 友人が無ければ世界は荒野に過ぎない。』
この言葉のとおり私はね、髄ヶ崎さん。高校に入ってから初めてあなたに話しかけてもらってとっても嬉しかったの。あなたといる時間が何よりも……楽しかった。私の世界が見る見るうちに変わっていったんだなぁと思う。
例えそれが仮初の友情だとしても、私はその友情を決して忘れないよ。あなたの口から出た言葉には変わりないんだもの」
「ふん、ハッタリの友情を信じるなんて随分とおめでたい頭をしてるんだねェアンタは!そういうのが気に食わないって言ってんのがまだわからないの!?」
「ううん、わかってるよ。だからこれからはひとりの女としてあなたと会話をする。私の目を見て」

 ぞくっ、と一度髄ヶ崎は身震いした。
 リョウコと目が合った瞬間、全身が凍りついたように凍えたからだ。
 伊脳リョウコの姿をした絶世の怪物である目の前の女性の存在が急に違和感を感じ始めた、そんな瞬間だった。

「ひとりの女としてあなたに最初の相談……いや、お願いをしてもいいかな」
「ふ、ふぅん…………何よ言ってみな」
「私とセックスしてほしいの」

 ぞくぞくっ、と再び髄ヶ崎は身震いした。
 今度は凍えたからではなく、目と目があっただけで震えてしまう。
 視線を捕えて離さないリョウコの赤い瞳は見ているだけで心の底まで見透かされそうになり、全身を四方八方から舐め回されているような錯覚に陥る。
 一度目を反らしても、脳裏にはリョウコの瞳が消えずに残り続けており常に見つめられていると感じてしまう。

「セ、セック、ス?アンタ何言ってるかわかってん」
「私は本気だよ髄ヶ崎さん。私はずっとあなたのことが好きだったの。友情だとかそんな生半可な気持ちじゃない。愛しているの」
「は、はは……レズ、かよ……ばっかじゃないの……誰がアンタみたいなグズとっ……!!……はぅ!!」

 啖呵を切ってみたものの髄ヶ崎の頭の中ではリョウコの言葉が永遠と反響し合い消えることなく鳴り響いていた。
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 頭を掻き毟っても、大声で叫んでみても半ば呪術めいた言葉は頭から離れることは無く、執拗に髄ヶ崎を追い詰める。
 リョウコはひとりベッドに腰掛けると、熱い視線を送りながら手招きして誘い込んでいる。

「んあーーーー!!!!うるさいっ、うるさいうるさいうるさいぃ!!見るな見るなァ!」
「あなたは拒否できない。だってそういう人間なんだもの。
そして私ももう我慢できない。愛して愛してたまらないから」
「黙れっだまれだまれだまれっ!!!あ゛あ゛うっ……!叶えたい……叶えてあげたいっっ……けど!!レズは…………うわあああ!!」

 他人の願いを叶えることを何よりも好む髄ヶ崎は初めてリョウコから発せられた一大の願いを断る事はできなかった。
 消えぬ赤い視線と言葉が頭を多い尽くす。
 それだけで髄ヶ崎の脳はパンク寸前だ。
 目をつぶっても瞼の裏で視線が合う。耳を塞いでも頭の中で鳴り響く言葉。もはやそれは呪いとなんら変わりないものであるのは明らかであった。
 足はがくがくと震え、壁に頭を叩きつける髄ヶ崎。

「大丈夫、怖がらないで。きっとあなたも幸せにしてあげるから」
「うるさい私に話しかけるなァッ!!……うぐ……ぐぎ……」
「そう、幸せ。他人の願いを叶えることでしか快感を感じれないあなたにもっと気持ちいいことを教えてあげる。
虜になってずっと忘れられなくかもね。ずっと、ずうっと……」
「うぅ……願い、叶える…………セックス…………いやだ…………」

 嫌だ嫌だと拒否しながらも髄ヶ崎は虚ろな目をしながらゆっくり、ゆっ……くりと拒みながらもベッドへと足を進ませた。リョウコに誘われるがままに彼女の元へと向かう。
 カタカタと短剣は震えている。





―――――





「きゃっ!?」

 リョウコは髄ヶ崎の手を引くと、勢いよくベッドへと寝かしつける。
 もはやリョウコは頬を上気させ、ギラギラと瞳を赤く輝かせ、息が荒くなっている。もとより理性があるかどうかわからない状態であったが、今この状態を見る限りでは理性が残っているとは到底思えない。
 時折見せる白い牙がその危険性を一層表しているようであった。

「あぁ……愛しの髄ヶ崎さん……とってもかわいい」
「んんぅ……んんぐ!」

 怪物に全身を押さえられ、なおかつ見えざる怪しげな力で拘束されている髄ヶ崎はもがく事もままならず、ただ呻き声を上げるしかできることなどなかった。
 髪がほつれ、服がぐちゃぐちゃになり、浮き上がる玉の汗。リョウコはその姿を見るとじゅるりと舌を一周させ深く吐息を吐く。

「あんなに反抗的だった髄ヶ崎さんがこんなに大人しく……あぁ食べちゃいたい、性的にも飲食的にも」
「く、そぉ……身体が動かない……」
「髄ヶ崎さんが本気で嫌と思っているならとっくに動けるはずだよ。そういうふうにしたんだもの。それができないってことは……つまりそうなんだよね」
「やぁ……そんなの違う、違うよ……はぁうっ」

 ぬめる舌で顔中を舐め回すリョウコ。
 瞳はもはや野生のそれと同じで、目の前の獲物をどうやって食すか、それしか考えていない。
 
「んぁふっ」
「耳気持ちいいんだ。かわいいっ♪」
「んふぅぅ……動けよ……逃げたいよ……」
「あなたは心の奥底では私とセックスすることを望んでいる。
この場から逃げ出したいけど、私に頼まれた以上あなたは私の欲望を叶えなきゃいけないのだから。それは自分が一番わかっているでしょ?」

 幾度となく唇を合わせ、リョウコは相手の口腔へと舌を忍び込ませる。
 自律するもう一つの生き物であるかのように、不規則な運動で口の中を蹂躙すると、拒みながらも惚ける髄ヶ崎の表情を見て思わず絶頂しそうになるのを抑える。
 指と指を絡ませ魔物の本能のままに身を任せるとリョウコは唇を離し、置いてあって短剣を手に取る。

「服が邪魔だね」

 そう言い目にも止まらぬ斬撃を数回往復したと思うと、髄ヶ崎の纏っていた衣服は紙切れ同然にはらりと崩れ落ちた。
 喚きたてる髄ヶ崎を尻目にリョウコは衣服の切れ端を剥ぎ捨てると、ベッドの上で年頃の女子高生の肢体が瑞々しく露になる。

「はぁ、はぁ……きれいだね……おいし、そう」
「やめ、て……って言ってるでしょっ」
「嫌よ嫌よも、好きのうちって言うでしょ……ハァ……ハァ」

 乳房の方に指を伸ばすと柔らかいマシュマロのようなものをつん、つんと指でつつき感触を堪能している。自分の豊満な胸と比べ、何か勝ち誇ったような愉悦の表情をするリョウコ。
 次に乳首をつついてやるとリョウコは不満そうな顔をして言った。

「あれ、乳首は性感帯じゃないの」
「気持ちが高まんないと……フツー感じないよそこ……ってか勝手に触るな……」
「そっかぁ、じゃあさ…………」
「…………ひゃぅん!?!」

 リョウコは顔を降下する。腹を通り過ぎ、腰を通り過ぎ、臍を通り過ぎ……
 髄ヶ崎の太股の間に到達すると、顔を埋めあろうことかいきなり秘部を舐め始めた。
 先ほど口内を蹂躙した時と同じように、始めは優しく近辺を舐めるだけでくすぐりを感じさせる。
 次第に慣れてきてほぐれてくると、舌を出して引いての繰り返しでまるで蛇の舌のようにチロチロと先端を擦るように攻める。

「きれいなおマンコだね……いただきます」
「はぁっ……ふっ……」
「♪♪」

 この絶妙な技に思わず嬌声を上げる髄ヶ崎。その声を聞き逃すわけがなかった。
 髄ヶ崎の両足を抱え込み、まんぐり返しの体勢にさせると眼前には薄桃色の蜜壷が穴を覗かせている。唾液により湿り、淫靡な香りを醸し出す魅惑の穴はリョウコの赤い眼にしかと刻み込まれる。

「んふふ♪ひくひくさせちゃって……」
「や、らぁ…………はなせよ……ぉ……」
「だーめ♪これからもっともっとキモチイイことするんだから♪」

 するりと長くて細い指を突き出すと、素肌に触れるか触れないかくらいの力加減で秘部を弄り始めるリョウコ。
 少しクリトリスを触れてみるだけで、髄ヶ崎の身体は電撃が走ったかのようにびくびくと震えだす。
 口では嫌といいつつも実際は感じてしまっているのは誰が見ても明らかであった。

「あれぇ、髄ヶ崎さん、このねばっこいの何かなぁ?」
「そっ……アンタの唾液でしょ…………」
「クスッ♪私の唾液はサラサラだよ。ほら」
「んっ…………んむうぅっ!?」

 秘部に顔を埋めていると思ったら、その次にはいきなりキスに戻っている。
 口いっぱいに含んだ唾液を無理やり押し込まれ、有無を言わさず飲み込まされる。水っぽい肉と肉の混ざるねちゃねちゃとした水音は聞くだけでもどれほど官能的行為を行なっているか容易に想像できるほどだ。
 実際、この二人の女は今ひどく艶めかしいことをしているのは確かである。

「ふぁ……ぁぁう……」
「どう?私の唾液サラサラでしょ?それじゃ、どうして髄ヶ崎さんのおマンコはねばねばしてるのかなぁ♪♪」
「んやぁ…………やらぁ……み、見ないで」
「恥らう髄ヶ崎さんもかわいい……」

 再び秘部へと頭を移すリョウコ。
 熱い息を吹きかけると一度。
 指で触れると二度。
 舌で舐めると三度。
 びくびくっと震える髄ヶ崎の姿は、先ほど大声で罵倒していた人物と同一とは到底思えない。
 リョウコの願いを断れないという思いもあるが、それよりもヴァンパイアとしての魔物の力が両者に発情という面で作用しているのは間違いないだろう。
 一言一句、身振り素振りに魔力を孕み魅了する魔性の力。それを長い間見続け、挙句の果てに魔物の体液の一部である唾液を幾度となく体内に流されたのだから発情しないわけがなかった。
 そして恐るべきは、リョウコ自身意図してそれらの行為を行なっているわけではないということだ。これらの行動は全てリョウコ自身が無意識に行なっている出来事に過ぎない。
 無意識の行動でさえ反抗的な人間をここまで従順にさせてしまうのだから、魔物の魅力というものは如何に未知数で計り知ることのできないものだということがわかるだろう。
 リョウコは細長い指を濡れる穴へと埋め込む。

「はっ……ああっ!!」
「ほぉら入っちゃった……独りよがりでしかセックスを知らない男と違って女同士ならどこが気持ちいいかわかっちゃうんだから」
「あぅっ、や、やめぅ、んはぁ!」
「Gスポットは初歩的だよね……そう、もっと、もっと感じていいんだよ」
「おかっ……なにっこれ……!?へん、だ……よぉ!」

 クチュ……クチュ……
 クニクニクニクニ
 
 中に入った指は必要にある一部分だけを攻め続ける。
 指を折り曲げ第一関節が丁度前側の膣壁にあたる部分、ややざらついた感触の肉襞。通称Gスポットとも呼ばれる部位をリョウコは執拗に、それでいて激しすぎない程度に愛撫し続ける。
 指の腹で擦り、優しく押し付けるとすぐさま離し、また押し付ける。
 一見何の変哲もないと思われる愛撫であるが、魔物と化したリョウコはどこをどういう風に触ればどう感じるかを全て本能的に熟知していた。
 
「ぁ……ぁああ、ぁあ……ぁ……」
「気持ちいい?気持ちいいよね、だって身体は嘘をつけないから。ほら、こんなに濡らしちゃって……まだ唾液だって言い張る気かな」
「いぅっ……ぅあっ!ぃいぁっ……!」

 愛撫の力を少し強めると髄ヶ崎の嬌声はより一段と大きく跳ね上がる。
 体中に水玉の汗が溜まり、生きも絶え絶えで胸が忙しなく上下を繰り返している。
 目も虚ろのままリョウコを見下ろしてはいるが、はたしてリョウコを見ているという自覚はあるのかどうかは定かではない。

「ほら、ほらほらほらっ、もっと気持ちよくなって!」
「んああぁぁぅぅっ!!!はぁ゛っ、いっ、んぁぅ!はっ、はぁっ……!!」
「イっちゃうの?あんなに拒んでたのにイっちゃうの!?あなたのプライドはそんなものだったの?ねぇ!?♪♪」

グチグチグチグチグチ
ネチャネチャネチャネチャネチャ

 リョウコの指先は快感を感じさせるように魔力を帯び、更に高速に動きを増す。中をかき回すたびに襞が指に絡みつき、きゅうきゅうと締めつけてくる。魔力の力により快感を感じるように膣の中を操作しているのである。
 その目つきはもはや弱者をいたぶる強者、暴君のそれとなんら変わりない。

「や゛らっ……い、いやっ!負けっ…………イぎだぐないっ!!」
「でももう我慢できない。身体はもうイく準備ができてるよ。後はあなたがその気になるだけ」
「ぬ゛いてっ抜いて…………あっ、あっあっ、ぬ……ぬい……あはぁっ!」
「イっていいよっ!!イっちゃったらもう戻ってこれなくなるかもね♪アハッ♪♪でも気持ちよさには勝てない。勝てない勝てない勝てない勝てない勝てない♪」
「ああぁぁぁ……あぁっ!!…………!!」



「はああああぁぁぁぁん!!!!!」




 身体を拘束されているのにもかかわらずその拘束を振り切って一度体を大きく弾ませると――
 彼女は絶頂した。
 続いて余波のように3度、4度と体をバネのように弾ませると、後は長い痙攣が髄ヶ崎の体を走る。
 ひゅー、ひゅーと軽い過呼吸状態に陥っている彼女の目は朦朧としており、自分に降りかかった出来事を整理しきれていないようであった。
 唾液や涙、汗に膣液といった液を全身から放出する彼女のベッドはすでに水浸しになっている。シャワーを浴びたまま体を拭かないでそのままベッドに潜り込んだ、といういい訳が通用するぐらいに濡れている。

「ぁぅ…………はっ…………ひぅ…………」
「イっちゃったね、髄ヶ崎さん。あなたが嫌いで嫌いで大ッ嫌いな私にイかされちゃった。でももう、悔しいだとかそんな気持ちは思わないでしょ♪」
「…………ふぃ……ぅ……はぇ……」
「まだまだこんなの序の口だよ髄ヶ崎さん。だってまだ私が気持ちよくなってないんだもん♪」

 リョウコがそう言うと彼女は自らの真っ赤の衣服も脱ぎ捨て、髄ヶ崎の上へと馬乗りになった。
 巨大な翼は二人を覆い、二人だけの暗黒空間を作り出している。
 すると彼女は側においてあった短剣を手に取ると髄ヶ崎に見せびらかす。鈍く光る切っ先の金属光沢が唯一輝き、灰色の液体が彼女の腹の上に落ちた。
 
「や、やめ……てよ…………なにす、するつもり」
「大丈夫、髄ヶ崎さんは親友だからみんなとは違うようにしてあげる」

 自慢げにそう語るリョウコ。
 彼女の両手に置かれている短剣は、誰も触っていないのにもかかわらず独りでにカタカタと震えだし肉の部分は蠕動運動をし始める。
 その姿のおぞましさは、今の理性の外れたリョウコの姿と合わさってさらに惨憺たるものへと昇華しているようだ。

ドクンッ
ドクンッ
どくっ

「な、なに…………それ……」
「これはね願いを叶えてくれる魔法の道具。髄ヶ崎さんと似たようなものかな」
「そんな、ものと…………一緒にしする、な……私が道具だなんて」
「んーん。これから髄ヶ崎さんは親友でありながら道具になるの。私の欲を発散させる道具に……ね♪」

 リョウコがそう言うと、手の上の短剣は最大まで震え、そして弾けた。
 肉の部分が刀身を埋め尽くしぶちぶちと肉の千切れる不快音を発しながら、リョウコの手の上で醜い形へと姿を変える。
 その短剣だったものは時折金切り声を上げて、まるで生きているかのようにびたん、びたんっ、とのた打ち回る。
 見ていると恐怖の概念と同時に意識まで飛んでいきそうになるほど、見るに耐えない酷いものであった。
 人の手の上で臓器のようなものが金切り声を上げて踊っているのだ、これで気持ち悪いと思わないならそれはもう人ではない。

「おぇ……んぐっ……」
「完成♪やっぱりこれは私の願いを叶えてくれる♪」

 彼女の手に出来上がったもの。
 それは太く長く醜悪な造型をする大人の玩具。
 人間の男性の腕ほどある大きさの双頭ディルドであった。
 血なまぐさい死臭を撒き散らしながら蠢くディルドは、さながら巨大な芋虫のようにグロテスクで吐き気を催す。
 髄ヶ崎はそれを見るや、絶頂して惚けた頭に瞬時に理性が戻ってきた。
 恐ろしいと。気持ち悪いと。
 人間が抱く原始的な恐怖を今この目の前で身をもって体験していたのだ。

「ひぃぃっ!そ、そんな…………」
「はぁぁ……♪♪これで髄ヶ崎さんと私が同時に気持ちよぉくなれる♪」
「む、無理だっ…………無理だよそんなのっ!!」

 リョウコは自らの秘部を指で広げて赤々と湿った肉壷を見せびらかす。
 昨日まで処女であったその場所は、髄ヶ崎のものよりもとても瑞々しくぷっくりと潤っており、外から見ても名器だということがわかる。
 
「まずは先に私が入れるね……♪」

 彼女は手に持った双頭ディルドの片方を自らの入り口にあてがう。彼女の穴よりも倍以上大きなそれは、中に入れるのは到底無理と思えた。
 するとなんということだろうか。ディルドは彼女が力を入れる前に、独りでに穴を探り当て、自律的に中へと入り込んでいったのだ。奥へ奥へと、ディルドは勝手に進んでいく。

「あぁっ……♪♪いいよ……もっと来て……♪」

 そして驚く事に、人間の男性の腕ほどある大きなのものであるのにもかかわらず、リョウコは辛い顔ひとつせず嬉々として異物の侵入を受け入れていた。
 誰がどう見ても裂けるのは間違いない太さであるのにもかかわらず、逆に彼女の膣がディルドを飲み込んでいるかのように。
 カリ首が膣壁を擦り、奥へ奥へと突き進むたびに快感が体中を稲妻のように走る。
 やがてディルドを半分程度入れると、進行は止まった。

「あふぅっ♪すごっ……亀頭が返しみたいになって……動かなぃ……あんっ♪」

 リョウコの股からぶら下がるディルドは、蠢きながら徐々に反り立つように硬直を始める。まるで勃起する男性器と全く同じようだ。
 ただのディルドではなく永続的に蠕動運動を繰り返しているので、入れたままでも快感を感じることが出来る。
 しかし、ヴァンパイアであるリョウコがそれくらいで満足するはずがなかった。今までで一番息を荒げると、硬直したディルドを持ち髄ヶ崎の方向へと向ける。

「さあ、髄ヶ崎さん……一緒に……繋がろう……♪♪」
「い、いやっ…………無理っ、そ、そんなの無理だよぉ!!!裂けるって!」
「私も無理だよ、我慢するのが♪」
「ヒ、ヒィィィ!!や、やめっ…………くそっ、はなせぇ!!」
「ふふっ♪みんなに犯されたときの私と同じだね♪」

 今まで見下されていた分、今度はリョウコが髄ヶ崎を見下す。口からは唾液が垂れ、白い歯の隙間からは舌がぺろりと姿を覗かせている。
 血走った目、いきり立つペニス、身動きのとれぬ状態。
 まさしくこの状態はリョウコが体育館庫で犯されていた状態と同じであった。唯一違うとすれば、ギャラリーがいないということと、犯す側は愛情があるという点であろうか。
 泣き叫び、挿入を拒む髄ヶ崎に、快感のままに愛して犯そうとするリョウコ。
 因果応報という言葉がこれ以上合う場面もそうそうない。

「徐々に入れるのと一気に挿れるのどっちがいい?」
「どっちも、いやだって……!!ね、ねぇもう一度よく考え」
「じゃあ腺崎くんみたいに一気に挿れちゃうね♪大丈夫、今度は間違えないから♪」
「待って!!むりだからっ!そんなの入るわけっ……」

 もはや髄ヶ崎の声などリョウコの耳には届いていない。
 彼女はもう挿れることしか考えていないのだ。今さらどう懇願したところで髄ヶ崎の未来は変わることはない。もう、手遅れだった。
 彼女が謎の骨董商に出会わなければこうはならなかったのかもしれない。
 いや、それ以前にいじめなどしていなければリョウコは現実を悲観しなかったのだ。骨董商に出会うこともなく、自殺もすることがなかった。
 全ての原因は髄ヶ崎にあり、そのけじめをつけるのもまた髄ヶ崎なのである。
 それを今さら理解した髄ヶ崎は手遅れだった。

「じゃあいっせーのっせで挿れるね♪」

「待って……」

「いっ」

「おねがいだからぁ……」

「せー」

「何でもするから……」

「のっ」

「許して……」








































「許さない」



「せっ!!」

ミチ……ミチミチミチミチっ!

「ふっ……いあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁぁ!!
いだいぃ!!いた、痛いィィ!!!ぐう゛う゛っ……!!」

 今まで終始笑顔だったリョウコは一瞬、ほんの一瞬だけだが真顔に戻り、全ての念を込めた冷酷な一言を告げる。
 絶対零度よりも寒くありとあらゆるものを凍りつくしてしまいそうなほど、冷酷なそれは魔物であったとしてもあまりにも非情たるものであった。
 彼女はまたいつもの顔に戻ると、激痛に耐えかね発狂する髄ヶ崎を尻目にピストンをし始める。

「許さないよ絶対に。あなたが私をっ……はぁ、はっぁ……気持ちよくさせてくれるまでっ……んっ、許さないんだから♪」
「ぬ゛、ぬいて今すぐ抜いてぇぇぇあっぁぁぐ!!はっ゛ー、はっ゛ー!!死ぬっ!!じぬぅぅ!!!」
「あぁん♪そう、その感じっ♪あっ、うん、はっぅ、イイよ、すっごい♪」

 髄ヶ崎の膣は濡れている。受け入れる準備も整っている。本来のセックスならば痛みは生じないはずである。
 しかし、この規格外のディルドを受け入れるにはただの人間である彼女には無理難題というものであった。
 そう、ただの人間なら。

「髄ヶ崎さぁん……はんっ♪私ね、最初は…………あふっ、あなたも死なせてあげようかと、あっ♪思ってたの♪」
「あがががあがが…………裂けるぅ…………もうだめ、ぅう゛ぐぅ゛ぅぅ」
「でもやっぱり……みんなとは、さっ♪違うように……んっ♪したいんだよねっ……親友だからさ♪」
「どうでもいいから抜いでえ!痛い、いたいいたい痛いぃ!!んあ゛ぁーー!」

 髄ヶ崎の言葉を聞いてリョウコは白い牙を卑しく光らせる。

「"どうでもいい"って言ったね、言ったよね。じゃあ……私の仲間になろうかぁ♪♪」

 高速のピストンを続けるリョウコは腰の動きをそのままに、上半身を被せるように下げると口元を髄ヶ崎の首元へと近づけた。
 はぁぁぁ、と息を首に吹きかける。吐息の水蒸気により、素肌が若干湿り気を帯びる。
 彼女ががばりと口を開けると、刃物の如き鋭さをもつ白き牙が姿を現す。鋼鉄をも噛み千切ることのできる強靭な牙。鼠や鮫、鰐なんてものとはまるで次元が違う尖端は今か今かと獲物を待ち構えている。

「髄ヶ崎さん……私たちこれからもずっと親友だよ……永遠にね!♪」



ぐじゅっ!


「なぁぁぁっ……えっ……な、なにぃやってる……あああっ!!」

 リョウコの牙は髄ヶ崎の皮膚をいとも容易く突き破り、表皮、真皮、皮下組織まで貫通する。噛み付く食感は野菜だとか果実を噛り付く感覚に似ている。
 熟れたトマトを噛み付くかのごとくぐじゅるという音を立てると、その噛み口からは鮮血が溢れ出てくる。

「ふぁぁぁ……なに、コレ……」
「んくゅ……んくっ…………んぐっ」

 リョウコは溢れる血を一滴も無駄にしないように啜り始める。
 その行為はまさしく"吸血"そのものであった。
 漿液と血液の混ざりあった生臭い味が、味覚、嗅覚を通り過ぎダイレクトに脳へと行き渡る。脳に渡った信号がこれは甘美なものだと理解するのには刹那の時間があれば十分であった。
 ヴァンパイアの本能に刻み込まれた血への欲求が目覚めた瞬間である。

「んぐっぅ……ぷぁっ、凄い……美味しい……誰よりも美味しい……♪」
「あぅん…………な、んなのぉ、ちからぬけ……るぅ」

 貪欲に啜り、舐め、吸引する。一見すると品のない食事だと思われるが、そう思うのは早計である。
 肉を食らうことなく、生命のエキスたる血液のみを堂々と何の無礼もなく一方的に奪い去るその姿はある種の気品すら感じうることだろう。それがヴァンパイアなのだからという理由があるのかもしれないが、どちらにせよ彼女の吸血という行為は見るものを魅了する不思議な魅力があった。

「飲むだけで感じる……もっと吸いたい、飲みたいっ!」
「うそ……なん、でだろ…………痛くない……気持ちいい……」
「ほんとに……?じゃあ、さらに速くするよ♪吸いながらセックスキモチいい!♪♪」
「へん、だなっ……ぜんぜんっ、痛くない……あはぁ」
 
 再びリョウコはピストンの速度を加速させる。互いの膣が相互に擦れあい、男と女のセックスでは決して感じることの出来ない快感を両者は下半身で感じ取っていた。
 先ほどまで痛い痛いと絶句していた髄ヶ崎はどこへやら、今となっては見る影もなくなりつつある。
 恐怖と痛みに脅えていた瞳は、次第にくぐもった嬌声に意識を回し快感を感じるように下半身へと意識を集中させていた。
 この変化の原因は吸血による魔力の注入であるということはもはや言うまでもない。ヴァンパイアは吸血により失った血液と精の穴埋めに自らの魔力を対象に注入するのである。
 その代償は快楽と魔物化――

「しゃ、しゃいこぅだよ♪おチンポぉこんなにぃ……ピクピクしてるぞぉ……っ♪」
「あははぁ……♪私のじゃないににょにぃ……」
「イイよっ!こう、やって……うんっ、ぞりぞりって♪アアッ、最高ぅ♪」
「んはあぁん♪!吸っていいょ……たくさんしゅっていいよぉ!!」

 互いの女性器から伸びるディルドの肉は伸縮を繰り返し、自律的にポルチオ部を刺激しているようであった。
 ぱちゅんっ、と片方が腰を打ち付けるたびに両者が喘ぎ声を上げ、体を跳ねらせる。
 乳房が躍り、汗が舞い、髪は乱れ、翼の中で肉の宴は繰り広げられる。
 片方は首から血を垂れ流し、もう片方がそれを一心不乱に喰らいつき、桃色の空気が全て覆いつくすのだ。そこには一切の私情などない、理性に任せる原始的な営みのみが存在する。

「おいひぃ……美味ひいよぅ♪じゅいがしゃきさんの血ぃ、しゅきぃ!♪♪」
「もっと吸って……もう全部飲みほひてぃぃからぁっ!!」
「んぅ……んぐっ……あぁん♪♪おマンコもイイっ!こつって!こつって当たってりゅぅ♪」
「クリひゃんもぉ♪びりびりしてるぅ!ああぁぅん!!♪」

 どちらかが何を言ってどちらが感じているのか、それを知りうることはもう出来ない。
 二人が同時に感じて、二人が同時に言葉を発する。それ以上でもそれ以下でもない、それだけなのだ。
 ほぼ限りなくシンクロする二人の快感は、一人で感じるよりも倍、べき乗にと際限なく増え続ける。果てがない。
 
「わらひ、どうなっちゃうのぉ?気持ちよすぎてぇ……かんがえられにゃはぁ♪♪」
「ぷはぁっ♪一緒になるんだよぉ、いっひょ……んあああぅぅ♪にんげん捨てるのぉ!」
「あはーっ♪そうなんらぁ!!もうにんげんだとかぁ……どーでもいいやぁ♪♪」
「ごくっ、こくっ……だよね♪魔物の方がいいよねぇ!」

 こつん、と再び子宮口にディルドの先端がノックするとリョウコの牙は更に奥へと深く刺さりこむ。魔力を帯びた牙が皮下の感覚神経へと直接刺激すると、電気信号だとか、ニューロンだとか、シナプスだとかそれら一切合財を魔物色に染め上げてしまう。
 人間を形作る器官はそのままに、新たに魔物としての本能、倫理、思考などといったものを上書きされているようであった。
 上書きなので元々あったデータは完全に消え去る。バックアップなどないのだから。

「あぁ……あたま白い……ぃ、ほわほわするぅ♪」
「んふふ♪始めはみんな通る道だよ♪」

 ぐちゅ、ぐちゅ、と膣と膣が擦れあう。
 すでに膣口は完全にディルドの大きさを咥えられるようになっており、痛いという単語は知れず消え去っていた。
 互いの膣壁にカリ首が引っかかり、いい塩梅で掻き混ぜられるこの快感は人間の男性相手では決して経験する事は出来ないだろう。そしてこの快感を知ってしまった以上、人間の相手ではもう満足する事も出来ない。

「はぁっ、ああんっ♪いっしょになったらさ、い、いんきゅばす探しに……行こうねぇ♪」
「いん、きゅば、す?…………ふああっ♪」
「そ、う。インキュバス♪このディルドよりももぉっと……気持ちいいんだよ♪!」

 極上の快楽を知ってしまった彼女らは人間の男で満足できない以上、インキュバスを見つけるしかないのだ。
 それは全ての魔物娘における宿命というものである。
 生涯の伴侶を見つけ、肉欲に溺れ、子どもを授かり、子と共に淫に染まる。
 人間ならばおかしいと思うのが普通であるが、ヴァンパイアであるリョウコにとっては淫靡に過ごしたいと思うことこそが普通なのだ。夫のインキュバスと共に日夜セックスに勤しみ、いつ何時でも精液を浴び続けることがなによりも尊重されるべき行為なのである。
 そして髄ヶ崎もまた、その考えに疑問を思わなくなり始めていた。

「んああぁっ♪もう、やばぁい…………浮いちゃうぅ!飛んじゃうぅ!」
「はぁ、ん、もう、イキそう?いいよ……一緒にイこ♪」

 肌は上気して、白い肌がまるで燃えているように朱気を帯びている。快感を従順に受け入れているその目は高まる快楽に涙さえ流していた。艶やかで見ているだけで誘われてしまうような唇は、快感を伝えるだけの器官になっている。
 リョウコは次の瞬間、髄ヶ崎の唇に貪りついた。高まる快感と目の前の快楽を何処にも逃がさないように、ひたすら舌を絡ませようとするその姿は男女のカップルよりも数倍愛らしい。

「あっ、すごっ♪ディルドすごぃ!!何か出そうっ!♪」
「あはぁぁ、にゃにこれぇ♪もうイっちゃ……ふぁぁっ!」

 大好きな親友の見たこともない淫らな姿にリョウコは我慢できるはずも無かった。高まる快感に亀頭のすぐ裏にまで吹き上がってきている液体を感じたリョウコは、最後の抽送と共に彼女の中で果てる。
 時同じく、髄ヶ崎も今まで感じたこともない謎の放出感に襲われ、我慢する術もなく同時に吐き出した。


「「んはああああああああんんっ♪♪♪」」


 堰を切ったかのようにディルドの尖端から溢れ出てくる灰色の液体は二人の胎内を瞬く間に満たす。子宮を満たし、膣を満たし、ごぼり、と接合部からも溢れ出てくると噴出する勢いが弱まる。
 舌を抱くように貪るリョウコは濃厚な唾液を数回交換すると、再び髄ヶ崎の首元に噛み付き、今度は後味を堪能するかのようにおしとやかに血を啜り始める。
 
「ふぅゎ……良かった、すっごくよかったよ……♪」
「ぅぇぁ…………もう、気持ちよすぎてぇ、わけがわからにゃ……ふぅ……」

 ディルドは徐々に萎んでいき、二人の膣から抜けると元の短剣の形に戻った。灰色の液は以前よりも粘り気を増し、元々怪しげであった液体を更に奇怪にさせている。
 一体この短剣は何だったのだろうか。
 そう考えたリョウコであったが、もうそんなものに頼らなくてもかけがえのない大切なものを手に入れたリョウコにとってその問いは無粋なものであった。

 ―なんだっていいや。願いを叶えてくれる素敵な道具。それだけで十分

 そう思うことにした。

「はぁっぅ…………ゴメンねリョウコ……ちょっと眠くなってきちゃった……」
「いいよ寝てて♪それまでずうっと血吸い続けてあげるから♪」

 汗まみれ、汁まみれになった肢体を脱力すると髄ヶ崎は糸が切れたかのように瞳を閉じた。無理もない、元人間、半人間である髄ヶ崎がヴァンパイアの異常な愛撫に精神崩壊しなかっただけでも十分価値のあるものだ。
 リョウコは眠り子をあやすかのように優しく吸血すると、親友はほのかな淡い喘ぎ声を立てて大人しくなった。



 そして親友は眠りにつく。これで伊脳リョウコの願いはひとまず終った。
 
 そして親友が目覚めると――
 
 この世界の終わりが始まる。





―――――





〈こちら中継先の骨倉市からお伝えします。
 時刻は15時を回ったところですが見てくださいこの光景!
 夜です!完全な夜です!分厚い雲が覆っているのでしょうか、太陽の姿はこちらからはうかがうことはできません。
 それに……異常なほど静かです。車ひとつ通ってません。通行人にインタビューをしようとしていたのですが、その通行人すらいないという現状です。一体どうしてしまったのでしょうか。
 あ……ああ……!
 み、見てください皆さん!月が!月が真っ赤です!なんということでしょう!これほど不可解な天候は私共々始めて見る光景でございます。まさに不吉の赤い月。我々はこれからあの赤い月で御月見をしなければならないのでしょうか。これから起こる未曾有の天変地異の徴候とでも言うのでしょうか。
 いやぁ本当に不気味です。昼間なのに真夜中を歩いている感覚に陥ります。
 先日から外部からの連絡を一切遮断したこの骨倉市。我々以外の取材班も以前レポートをしに行ったということなのですが、誰一人帰ってくることはありませんでした。国からの立入規制を特別に許可してもらい我々取材班は今この地に立っております。懸命に皆さんにレポートしていきましょう。
 人口数万人の市が僅か一夜にしてゴーストタウンと化してしまうことなど、日本史上、いえ、世界史上的観点からも非常に珍しいことなのではないでしょうか。
 ヴェスヴィオ火山の噴火により一瞬で滅亡した古代都市ポンペイ。
 史上最悪の原子力事故として記憶に新しいチェルノブイリ原子力発電所事故。
 恐らく今回の事件はそれらに双璧をなすほど大きな事件であるといえるでしょう。
 いずれにせよこの事件の真相をカメラに捉え皆さんにお届けすることが我々取材班の使命です。どうか最後までチャンネルはそのままで!!
 …………ん、何ですかディレクター?え、ビルの上?どこのビルですか?
 …………本当ですね、何か見えます。人……でしょうか。カメラマンさん、ズームお願いできますか。
 ありがとうございます。ええと……どうやら女性のようです。黒マントを着ていて、手にはナイフらしきものを持っているようですね。
 一体何をしているのでしょ…………ちょっと待ってください。あの人……
 ……………………こちらを見ている!?
 みっ、皆さん落ち着いてください!こういうときこそ我々取材班が冷静に取材をしてこそ意味があるのです。ですからおちつ、い……て……
 ……あ…………あぁ…………
 カ、カカカカメラマンささささ……う、うしろ……
 ぎゃああああ!!!
 何だこいつら!?!?
 に、逃げr
 やめろぉ!離s―――――
 ザ、ザザッ――――――――
 ―――――――――――――――― 
 ――――――――――――――――
 ――――――――――――――――
 ――――――――――――
 ――――――――
 ――――〉



〈みんなが私を好きでいてくれる世界。
 もう誰にも嫌われることのない世界。
 いじめの存在しない世界。
 セックスがあれば生きていける世界。
 そんな素晴らしい平等の世界を作るために、私は今日も"みんな"と一生に世界を作ります。
 だから待っててね。後で会うから〉


 ―短剣が彼女をヴァンパイアにさせたのか、彼女がヴァンパイアになる素質があったのか。今となっては知る由もないし、知る必要もない―





※※※





「……素晴らしい。
貴女は私の想像通り、いえ……想像以上の働きをして下さいました。私のほうが頭を下げるべきですよこれは。いえいえ、本当に。
その短剣『嘆きのタナトス』が製造禁止になったのには実はもう一つ理由がありまして……エエ……
というのも使い方によっては世界線をひとつ滅ぼしてしまう可能性があるのです。その滅ぼし方というのも多種多様にあります。疫病を流行らせたり、天変地異を引き起こしたり、世界戦争が勃発したり……まさに『死』を司る恐るべき短剣なのです。
そして貴女はその中でも私が最も望む形で世界線をひとつ壊して下さいました。いくら感謝の言葉を言えども底がつきません。
タナトスは『死』を司る神。神に魅入られた者は死を何よりも尊重し、死こそが世の全てと信じるようになるでしょう。
だから貴女は己の信じるがままに死を振りまき、世界を死へと導こうとしているのです。それはせんなきことでしょう。
貴女はこれからも死の体現者として死を提供し、不死者の楽園を築かなければなりません。それが貴女に与えられた神託なのです。
大丈夫、貴女ならできます。人間の全てに裏切られてなお親友を信じ続けるその慈愛があればきっと素敵な楽園を築くことができるでしょう。
終わりのない真の永遠の園を……
……では私はそろそろ去るとしましょうか。良い世界線ですが私にはいささか死臭が強すぎるようです。
ではまたいずれどこかで会いましょう。そのときはもっと今以上に淫らで素敵な世界になってることを願っております」

17/04/06 18:18更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
今までシリアスなゴーレムだとか、おちゃらけた川柳を書いていた筆者にとってこれが(ほぼ)初となるダークなSSとなりました。いかがだったでしょうか。
倫理的にこれはアリなのか、魔物娘的にこれはアリなのか、試行錯誤を繰り返した結果がこれです。
最終的にやっぱり人を選ぶ作品だと思いますので、こういう魔物娘もあるっちゃあるんだなぁという思いでみてくれたなら幸いです。
なんやかんやで魔物化シリーズも4作が終わりました。これからも魔物化の素晴らしさを世に広めつつ、SSを書き続けていけたらなぁと思っております。
ご愛読ありがとうございました

以下例によって蛇足タイム



蛇足なキャラ紹介
【伊脳リョウコ】
性別:女
種族:人間→ヴァンパイア
職業:高校生→死の救済者
性格:無気力、凡庸→過激、退廃思想、色欲、慈愛
特技:特になし→死なすこと、洗脳、演説、指揮
好きな物:読書、昼寝→死、髄ヶ崎、血、セックス、髄ヶ崎、みんな、髄ヶ崎
嫌いな物:運動→生、いじめ、裏切り
趣味:死、午後の吸血、仏教、輸血学
・極めて凡庸な女子高生であり、髄ヶ崎の一方的な計らいによりクラスメイトからいじめにあう。初めのうちは耐えていたが、いじめのことを親友である髄ヶ崎に知られてしまったショックにより自殺する。
・しかし持っていた「呪われた装備品」によりヴァンパイアへと転生すると、クラスメイトを全員殺害(魔物化)し、最愛の親友髄ヶ崎も同じヴァンパイアへと魔物化させる。
・いじめられたことにより他人に嫌われることを極端に恐れるようになった彼女は、誰も自分のことが嫌いじゃない世界を作るために全ての人間を魔物化させている。南半球はほぼ制圧しているらしい。
・人間の時は気がついていなかったがレズだった。

主な技
●ロシアンルーレットABO(Russian roulette ABO)
相手の血液型を遺伝子型の6種類(AA,AO,BB,BO,OO,AB)のどれかで言い当てる。当たれば相手は死に、外せば自分が死ぬ。(自分は死んでいるので死なない。現実は非情である)
コマンド:→B×6
●翅斑蝙蝠の倍々媒介(Mediated by bat)
「魔界マラリア」を媒介する翅斑蝙蝠を召喚し、対象に感染させる。感染者は男性なら仮死状態になり魔物に襲われるのを待つ。女性ならば一晩で赤血球が全て破裂し死亡、後にアンデッド系として蘇生する。なお「魔界マラリア」は人間のみ感染発症し、一度感染したものは魔物となっても以後永続的にキャリアとなる。
コマンド:↑↓←→AB
●エンドレス・エンドロール(Endless End Roll)
彼女の提唱する「嫌われることのない終わりなき世界」そのもの。全て人類は死ぬことが決定付けられており、また、永遠に死なないことが約束される。
それは楽園のようで最も辛い悲しみの園。
コマンド:パッシブ発動

【髄ヶ崎ミキ】
性別:女
種族:人間→ヴァンパイア
職業:高校生→リョウコの親友兼道具
性格:狡猾、卑劣、偽善、偽り→色欲、従順
特技:恐喝、奉仕、盗撮、献身
好きな物:他人の願いをかなえること。それ以外は全てクズ→セックスバカ
嫌いな物:自分を頼ってくれない者→セックスの気持ちよさを知らない人
趣味:新たな性感の開発、道具として使われること
・リョウコの唯一無二の親友にしていじめの根源。自らを頼りにして欲しいためだけにリョウコを追い詰め、結果的に自殺へと追い込む。自分の思い通りにならないリョウコは彼女のもっとも嫌いとするタイプの人間であった。
・ヴァンパイアとなったリョウコに徹底的に調教され、自らもヴァンパイアとして変化されてしまう。魔物化したおかげで以前の棘のある性格はすっかり消え、色欲と淫乱に塗れた魔物らしい魔物へと変貌した。
・血の繋がりにより封印してきた想いを解き放ち、今では弟と四六時中セックス三昧の性活である。リョウコに呼び出されると駅弁スタイルで出向く徹底ぶり。

【モブの皆さん】
パパ&ママ:インキュバス&グール。若返り、娘の目の前でも何の気なしにセックスしまくっている。もうすぐリョウコの妹ができそう。
脾山くん:インキュバス。リョウコのセフレになるつもりが意外と意気投合。お互い満更でもない様子である。
肺乃宮さん:デュラハン。騎士道精神は持ち合わせていないので常に首は外している。
今胃くん:インキュバス。彼女もとい妻の肺乃宮さんと日夜勤しんでいる。かなりラブラブ。
脛森くん:インキュバス。ブルーバタフライの改良化に成功。魔物の嗜好品として人気爆発中である。
腰田くん:インキュバス。食べ物の大切さを学び改心。ベルゼブブの彼女と一緒に食と性を楽しんでいる。
腺崎くん:インキュバス。アナニーに目覚める。
肝原さん:ゾンビ。相方の肺乃宮がラブラブすぎて羨ましいので絶賛彼氏募集中。
腑次原くん:スケルトン。インキュバスにはならずスケルトンとして転生。女としての人生も楽しんでいるようである。

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