序説・青息吐息
男は歩く。
後ろから追い続けてくる魔物。
その二人は今終わりを迎えようとしていた。
男一方的な決断によって。
『いい加減に帰れ。』
『嫌です。』
そしてこの何度目になるか分からない会話。
『ハア…。』
そしてこの何度目になるか分からない溜息。
『もう一度言うぞリミシ、邸に帰れ。』
『何度でも言います、嫌です。』
男の三歩後ろを歩く魔物に男は足を止め振り返る。
『殺すぞ。』
『どうぞ。ユーロ様のお側に居れないのでしたら、この首刎ねられても構いません。』
そう言いながら、目を瞑り御辞儀をするかの様に頭を差し出すキキーモラのリミシ。
『ハァ…。』
男は溜息を吐くとリミシの側に寄り、頬に手を添える。
それに応えるが如く、頭を上げ、濡れた瞳を開ける。
『リミシ、何も一生邸に居ろと言ってる訳じゃない。衣食住にも困らないし、何よりもお前はメイド長だ。邸を抜け出してどうする。』
『私は、私は邸に仕えている訳じゃありません。衣食住が欲しい訳じゃありません。皆の上に立ちたい訳じゃありません。』
そう言いながら添えられた手に自身の手を添えて男を見据える。
『ただ、私はユーロ様のお側に…、隣でなくとも良いのです。貴方様の、ユーロ様の後ろを私に見続けさせて下さい。』
『リミシ…』
お願い致しますと、リミシは男の手に自身の頬を擦り付ける。
懇願の眼差しを見て男はまた、溜息を吐く。
『契約を…するか。』
『えっ…』
そう言うや否や男はリミシを空いた腕で抱き寄せる。
その距離は互いの息がかかる程に。
『ユユ、ユーロ様⁈』
『初めて会った以来か…。』
『は、はい……そうで、ね。』
男はリミシを見て小さく笑う。
『俺、ユーロ・K・リヒターベルマはリミシを守ることを誓う。』
『私、リミシリア・ミューレイは一生涯ユーロ様のお側でお仕えすることを誓います。』
『……一生涯?』
『一生涯、です。』
そう言って笑みを咲かせる彼女の頬を雫が伝う。
男は溜息を吐きながら、また小さく笑うと彼女と契約の口付けを交わした。
初めて出会った頃と同じ場所で。
初めて出会った頃と同じ契約を。
まだ始まったばかりの物語
まだ始まったばかりの幻影
そして終わらなかった二人の関係
そして終わりへ向かうユーロ物語
物語は漸く始まる。
『ニャハッ。』
To be continued.
〜オマケ〜
『おぃ…いい加減にし、ろっ。』
『もっと、もっと深く口付けを…』
『契約の証だ。それ以上の気も何もない。離せ。』
『嫌です。』
『リミシ、お前のその頑固…どうにかならないのか。』
『どうにかしたいのなら、どうにでもしていただいて構いません。』
『ハア…。溜息を止める術はないものか…。』
『でしたら、口付けを…『くどい』あぅ…』
fin
14/02/12 07:00更新 / 風風亭
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