She caught cold
私の嫁が風邪を引いた。
私とは、つまり一年ほど前にこのアマゾネスの集落に迷い込んだ元・記者たる私であり、嫁とは、私の意思とは関係なく私の妻となったものの、今や私の最愛の人であるアマゾネスの戦士の事である。
あの出来事からもう一年も経つのだと思うと、何だか感慨深い。ファーストインプレッションではクールな感じに見えた彼女が、実際はかなりの能天気だった事に多少のショックを受けたのも今となっては懐かしい。
まぁ最初こそ戸惑いはしたものの、現在は私もすっかりここの住民である。
時折こちらの状況を編集社に送ることで、決して少額とは言えない給与もあるのだが、正直この場所において金銭は役に立っていない。あの雑誌も、国中に名を轟かせるほどに有名になったそうだが……私達には関係のない事である。
それで冒頭の話だが、屈強で頑強なアマゾネスといえども病に遅れを取ることはあるらしく、集落の医者(というか何というか、とにかく医療の心得のある者)の勧めもあり、今日の彼女は我が家で静養中であった。
いつもは騒々しい彼女も、病気の時ばかりは大人しい。これに関しては風邪に感謝しなければなるまい―と思ったのは、まぁ私の心の内に留めておくとしようか。
冷水で満たされた木製の器と、綿を少し厚めに縫った布を持って、私は妻が休むベッドに歩み寄った。
「……気が利くね」
熱で頬を紅潮させた彼女は、横たわったまま若干苦しそうに言った。普段の元気はなく、声は微かにしわがれていた。
私は近くの椅子に座ると冷水で布を濡らし、それを既に彼女の額に乗っていた物と取り替える。彼女は気持ち良さそうに笑みを浮かべ、
「わざわざ悪いな」礼を言ってから、「……病気は嫌いだ。こうして何もできないというのは、どうにも歯痒いんだ」
「あんな超絶薄着で外を走り回っていれば、風邪の一つも引くだろう。むしろ引かない周りがおかしいんだと思うが」
「いや、病に如きに負けるなんてあたしがまだ弱い証拠だよ。お前にも、家事の合間を縫ってこんな事させちゃって。手間がかかるだろうに……」
「病人が余計な事を気にするものじゃない。私には、こうして看病するくらいしか出来る事がないからな」
「でも―」
「それに」
私はやや強い口調で言葉を遮る。
「本当にそう思うのなら、今は休んで早く元気になってほしいんだが」
「……分かった」
彼女は身体にかけているタオルケットを口元のあたりまで引き上げて、瞼を閉じた。もう眠ったのか、そうしようとしているのかは判断できないが、安らかな寝顔である。
それに、仄かに朱に染まる頬や荒い呼吸、乱れた髪など、それらはどことなく夜の営みの様子を連想させて―。
「っと、危ない。……危うく、私の万年筆にインクが供給されるところだった」
全く、我が身ながら病人に欲情してしまうとは何事だ。それは人としての倫理観から外れる所であると言わざるを得ないだろう。例え相手が、自他共に認める妻であろうともだ。
「……ん? 何してるのさ?」
どうやらまだ起きていたらしい彼女が、多少困惑したような視線だけを私に寄越しながら訊く。
当然だ。私とて、自分が寝ている隣で誰かが奇妙な前傾姿勢をとっていたら、最大限訝しげな態度でそう問うだろう。
しかし正直に『貴女に劣情を抱いたからです』と答えられるわけもないので、私は、
「いや、何でもない。ほら早く休め、可及的速やかに休め」
とまくし立て、目の前の病人を強引に眠らせた。彼女は「あ、ああ」と頷き、再度目を閉じたが、
「……寝付けない」
と言ってすぐに上体を起こした。
私は言う。
「寝付けないって、じゃあどうするんだ」
「うーん」
「睡眠の薬でも貰ってこようか」
「いや、いい。またお前の面倒を増やしたくないし……そうだ」
彼女は何かを思いついたらしく、両手を打ち鳴らすと、にこやかな笑顔でそのアイデアを口にした。
「あたしを抱いてくれないか? そしたら、寝れると思う」
「…………」
場に微妙な空気が漂う。
私は恐る恐る、
「それは、エッチOKのサインとかそういう……?」
「バッ……! い、いきなり何言い出してん―」
そこで彼女も自分の発言の意味に気付いたようで、
「あ、いやっ、違うぞ!? 今のはその、ぎゅっと抱きしめてほしいとか、ソッチの意味だから………あぁもう、何言ってんだあたしは!?」
あたふたと慌てながら、顔を真っ赤にして弁解する。
私はその様子を見て、呆れの溜息を一つすると、椅子から腰を上げ、
「……これでいいのか?」
ぎゅっ、と包み込むように、愛する人の華奢な身体を抱擁した。
その、突然の私の行為に、
「………ぁ…」
彼女は総ての動作をフリーズさせた。
しばしの静寂の後、私は腕を緩めて離れようとすると、今度はいつの間にかフリーズが解けていた彼女の細い腕が、私をきつく拘束した。
「……苦しいんだが」
「我慢しろ。もう少しだけ、こうさせてくれ」
「……ああ」
私は肯意を示すと、再び腕を彼女の背中に回し、先ほどより力を強めて愛する妻を抱きしめた。
互いが相手の体温、鼓動、生命そのものを感じている中、
「……なぁ」
「何だ?」
密着状態故、意図せずとも彼女の言葉は囁くように私に届いた。逆も然りだろう。
そして、風邪のせいなのか分からないが、彼女は妙に熱っぽく言う。
「キス、して?」
「………風邪って、粘膜同士の接触でも伝染るんじゃなかったか」
「もう……そんな野暮な事言ってないでさ。な、いいだろ?」
「全く、伝染ったら責任取れよ」
私はそんな事を言いながら、一旦抱擁を解いて改めて向き直り、彼女と燃えるように熱い口付けを―。
チュン、チュンと鳥のさえずりが聞こえる中、私は目を覚ました。
隣では、汗や精液その他にまみれて我が愛妻が眠っている。私も似たような状態だろう。
窓の方を見ると、入り込んできた朝日が私の目を眩ませた。
私が覚えている限り、あの後なし崩し的に行為に及んだ私達は結局、夜も寝ずに交わった。どこで寝落ちしてしまったのかは分からないが、この倦怠感から察するに、今回も相当激しかったのだと思われる。
「また、シーツを洗濯しなければ……」
そう呟いた声は、自分でも驚くほどしわがれていた。昨晩の私達は一体どれだけの激闘を繰り広げたのだろう?
とりあえず先に身体を洗ってこようと、私は彼女を起こさないようにベッドから抜け出て……、
「お、おおっと?」
危うく転倒しそうになったが、かろうじてバランスを保った。彼女を踏みそうになったが、ギリギリでそれは回避できた。
が……、なんだか全身がだるいというか、いつもの疲れとは少し違うような
これはまるで、子供の頃、重い風邪にかかった時のような……?
そこまで考えた時、私の意識の糸はぷつんと途切れた。右半身を襲う衝撃の感覚を最後に、思考が闇の中に堕ちていく。
ああ、アマゾネス……なんだか私、とても眠いんだ………。
「う……」
「よかった、起きたみたいだな!」
彼女の元気な声が聞こえて、私は瞼を開いた。心配そうな彼女の顔が、私を覗き込んでいる。
「ぐぅ……」
どうやら私はベッドに横になっているらしい。身体を起こそうとすると、頭と身体に刺すような痛みが走った。
「おい、無理に起きるなよ! とりあえず寝てろって」
「分かった……というか風邪、治ったのか?」
「そうみたいだな。てか、あたしの事はいいから安静にしてろ! ほら、お前の薬もあるぞ!」
「有難う」私は薬を受け取って、「……何で私用の薬があるんだ。ウチはそんな物、常備していないだろう。……何がどうなっているんだ?」
「あ、ああ、それがな―」
彼女から、こうなるまでの経緯を聞いた。
何でも、彼女が眠りから目覚めると、私が部屋の真ん中で倒れていたという。
風邪の症状がすっかり消えてなくなっていた彼女は、私を見つけた時のその格好のままで、医者の元へ走った。そしてここへ呼び、私の診査を行ってもらった結果……
「風邪、だってさ」
「えぇ?」
なんと、激しい粘膜接触の末、風邪は本当に伝染ってしまったらしい。何てことだ。
「薬を飲んでちゃんと休めば、3日くらいで良くなるっつってた」
彼女は軽く言うが、貴女の風邪もそれくらいの症状だと診断されたハズではなかったか。なら何故、もう風邪が治っているのだ?
それを訊いてみたところ、
「風邪は伝染すと治るって言うだろ?」
との事だった。
つまり、私に伝染ったせい―いや、おかげで、彼女を蝕む病は消え去ったという事らしい。
「何というか……なぁ」
「まぁいいじゃないか、これでお前が風邪を治せば万事解決だろ?」
「……この風邪、結構つらいんだが」
「大丈夫だ!」
その自信はどこからやってくるのか。
彼女は普段通りの溌剌とした笑顔で、その問いの回答を答えた。
「愛さえあれば、何だってできるものさ!」
「愛、ねー……」
その言葉を使い古された陳腐な物と見るか、いつだって変わらない真実と見るか。
それは聞き手次第だが、少なくとも私は―
「……ま、お手柔らかに頼む」
私は言って、微笑んだ。理由は分からないが、自然と微笑んでいた。
彼女もまた満面の笑みで、
「頼まれた! 『責任』、取らせていただきます!」
そして、舌なめずりを一つし、
「じゃあ、まずはシモの看病を……」
「やめなさい。また伝染るだろうが」
「その時はその時って事で、また看病してもらうだけさ。愛の力、でね」
「……本当、勘弁して下さい。マジで」
私とは、つまり一年ほど前にこのアマゾネスの集落に迷い込んだ元・記者たる私であり、嫁とは、私の意思とは関係なく私の妻となったものの、今や私の最愛の人であるアマゾネスの戦士の事である。
あの出来事からもう一年も経つのだと思うと、何だか感慨深い。ファーストインプレッションではクールな感じに見えた彼女が、実際はかなりの能天気だった事に多少のショックを受けたのも今となっては懐かしい。
まぁ最初こそ戸惑いはしたものの、現在は私もすっかりここの住民である。
時折こちらの状況を編集社に送ることで、決して少額とは言えない給与もあるのだが、正直この場所において金銭は役に立っていない。あの雑誌も、国中に名を轟かせるほどに有名になったそうだが……私達には関係のない事である。
それで冒頭の話だが、屈強で頑強なアマゾネスといえども病に遅れを取ることはあるらしく、集落の医者(というか何というか、とにかく医療の心得のある者)の勧めもあり、今日の彼女は我が家で静養中であった。
いつもは騒々しい彼女も、病気の時ばかりは大人しい。これに関しては風邪に感謝しなければなるまい―と思ったのは、まぁ私の心の内に留めておくとしようか。
冷水で満たされた木製の器と、綿を少し厚めに縫った布を持って、私は妻が休むベッドに歩み寄った。
「……気が利くね」
熱で頬を紅潮させた彼女は、横たわったまま若干苦しそうに言った。普段の元気はなく、声は微かにしわがれていた。
私は近くの椅子に座ると冷水で布を濡らし、それを既に彼女の額に乗っていた物と取り替える。彼女は気持ち良さそうに笑みを浮かべ、
「わざわざ悪いな」礼を言ってから、「……病気は嫌いだ。こうして何もできないというのは、どうにも歯痒いんだ」
「あんな超絶薄着で外を走り回っていれば、風邪の一つも引くだろう。むしろ引かない周りがおかしいんだと思うが」
「いや、病に如きに負けるなんてあたしがまだ弱い証拠だよ。お前にも、家事の合間を縫ってこんな事させちゃって。手間がかかるだろうに……」
「病人が余計な事を気にするものじゃない。私には、こうして看病するくらいしか出来る事がないからな」
「でも―」
「それに」
私はやや強い口調で言葉を遮る。
「本当にそう思うのなら、今は休んで早く元気になってほしいんだが」
「……分かった」
彼女は身体にかけているタオルケットを口元のあたりまで引き上げて、瞼を閉じた。もう眠ったのか、そうしようとしているのかは判断できないが、安らかな寝顔である。
それに、仄かに朱に染まる頬や荒い呼吸、乱れた髪など、それらはどことなく夜の営みの様子を連想させて―。
「っと、危ない。……危うく、私の万年筆にインクが供給されるところだった」
全く、我が身ながら病人に欲情してしまうとは何事だ。それは人としての倫理観から外れる所であると言わざるを得ないだろう。例え相手が、自他共に認める妻であろうともだ。
「……ん? 何してるのさ?」
どうやらまだ起きていたらしい彼女が、多少困惑したような視線だけを私に寄越しながら訊く。
当然だ。私とて、自分が寝ている隣で誰かが奇妙な前傾姿勢をとっていたら、最大限訝しげな態度でそう問うだろう。
しかし正直に『貴女に劣情を抱いたからです』と答えられるわけもないので、私は、
「いや、何でもない。ほら早く休め、可及的速やかに休め」
とまくし立て、目の前の病人を強引に眠らせた。彼女は「あ、ああ」と頷き、再度目を閉じたが、
「……寝付けない」
と言ってすぐに上体を起こした。
私は言う。
「寝付けないって、じゃあどうするんだ」
「うーん」
「睡眠の薬でも貰ってこようか」
「いや、いい。またお前の面倒を増やしたくないし……そうだ」
彼女は何かを思いついたらしく、両手を打ち鳴らすと、にこやかな笑顔でそのアイデアを口にした。
「あたしを抱いてくれないか? そしたら、寝れると思う」
「…………」
場に微妙な空気が漂う。
私は恐る恐る、
「それは、エッチOKのサインとかそういう……?」
「バッ……! い、いきなり何言い出してん―」
そこで彼女も自分の発言の意味に気付いたようで、
「あ、いやっ、違うぞ!? 今のはその、ぎゅっと抱きしめてほしいとか、ソッチの意味だから………あぁもう、何言ってんだあたしは!?」
あたふたと慌てながら、顔を真っ赤にして弁解する。
私はその様子を見て、呆れの溜息を一つすると、椅子から腰を上げ、
「……これでいいのか?」
ぎゅっ、と包み込むように、愛する人の華奢な身体を抱擁した。
その、突然の私の行為に、
「………ぁ…」
彼女は総ての動作をフリーズさせた。
しばしの静寂の後、私は腕を緩めて離れようとすると、今度はいつの間にかフリーズが解けていた彼女の細い腕が、私をきつく拘束した。
「……苦しいんだが」
「我慢しろ。もう少しだけ、こうさせてくれ」
「……ああ」
私は肯意を示すと、再び腕を彼女の背中に回し、先ほどより力を強めて愛する妻を抱きしめた。
互いが相手の体温、鼓動、生命そのものを感じている中、
「……なぁ」
「何だ?」
密着状態故、意図せずとも彼女の言葉は囁くように私に届いた。逆も然りだろう。
そして、風邪のせいなのか分からないが、彼女は妙に熱っぽく言う。
「キス、して?」
「………風邪って、粘膜同士の接触でも伝染るんじゃなかったか」
「もう……そんな野暮な事言ってないでさ。な、いいだろ?」
「全く、伝染ったら責任取れよ」
私はそんな事を言いながら、一旦抱擁を解いて改めて向き直り、彼女と燃えるように熱い口付けを―。
チュン、チュンと鳥のさえずりが聞こえる中、私は目を覚ました。
隣では、汗や精液その他にまみれて我が愛妻が眠っている。私も似たような状態だろう。
窓の方を見ると、入り込んできた朝日が私の目を眩ませた。
私が覚えている限り、あの後なし崩し的に行為に及んだ私達は結局、夜も寝ずに交わった。どこで寝落ちしてしまったのかは分からないが、この倦怠感から察するに、今回も相当激しかったのだと思われる。
「また、シーツを洗濯しなければ……」
そう呟いた声は、自分でも驚くほどしわがれていた。昨晩の私達は一体どれだけの激闘を繰り広げたのだろう?
とりあえず先に身体を洗ってこようと、私は彼女を起こさないようにベッドから抜け出て……、
「お、おおっと?」
危うく転倒しそうになったが、かろうじてバランスを保った。彼女を踏みそうになったが、ギリギリでそれは回避できた。
が……、なんだか全身がだるいというか、いつもの疲れとは少し違うような
これはまるで、子供の頃、重い風邪にかかった時のような……?
そこまで考えた時、私の意識の糸はぷつんと途切れた。右半身を襲う衝撃の感覚を最後に、思考が闇の中に堕ちていく。
ああ、アマゾネス……なんだか私、とても眠いんだ………。
「う……」
「よかった、起きたみたいだな!」
彼女の元気な声が聞こえて、私は瞼を開いた。心配そうな彼女の顔が、私を覗き込んでいる。
「ぐぅ……」
どうやら私はベッドに横になっているらしい。身体を起こそうとすると、頭と身体に刺すような痛みが走った。
「おい、無理に起きるなよ! とりあえず寝てろって」
「分かった……というか風邪、治ったのか?」
「そうみたいだな。てか、あたしの事はいいから安静にしてろ! ほら、お前の薬もあるぞ!」
「有難う」私は薬を受け取って、「……何で私用の薬があるんだ。ウチはそんな物、常備していないだろう。……何がどうなっているんだ?」
「あ、ああ、それがな―」
彼女から、こうなるまでの経緯を聞いた。
何でも、彼女が眠りから目覚めると、私が部屋の真ん中で倒れていたという。
風邪の症状がすっかり消えてなくなっていた彼女は、私を見つけた時のその格好のままで、医者の元へ走った。そしてここへ呼び、私の診査を行ってもらった結果……
「風邪、だってさ」
「えぇ?」
なんと、激しい粘膜接触の末、風邪は本当に伝染ってしまったらしい。何てことだ。
「薬を飲んでちゃんと休めば、3日くらいで良くなるっつってた」
彼女は軽く言うが、貴女の風邪もそれくらいの症状だと診断されたハズではなかったか。なら何故、もう風邪が治っているのだ?
それを訊いてみたところ、
「風邪は伝染すと治るって言うだろ?」
との事だった。
つまり、私に伝染ったせい―いや、おかげで、彼女を蝕む病は消え去ったという事らしい。
「何というか……なぁ」
「まぁいいじゃないか、これでお前が風邪を治せば万事解決だろ?」
「……この風邪、結構つらいんだが」
「大丈夫だ!」
その自信はどこからやってくるのか。
彼女は普段通りの溌剌とした笑顔で、その問いの回答を答えた。
「愛さえあれば、何だってできるものさ!」
「愛、ねー……」
その言葉を使い古された陳腐な物と見るか、いつだって変わらない真実と見るか。
それは聞き手次第だが、少なくとも私は―
「……ま、お手柔らかに頼む」
私は言って、微笑んだ。理由は分からないが、自然と微笑んでいた。
彼女もまた満面の笑みで、
「頼まれた! 『責任』、取らせていただきます!」
そして、舌なめずりを一つし、
「じゃあ、まずはシモの看病を……」
「やめなさい。また伝染るだろうが」
「その時はその時って事で、また看病してもらうだけさ。愛の力、でね」
「……本当、勘弁して下さい。マジで」
14/03/02 14:47更新 / シフ