新妻お稲荷さんの癒し耳かき
「ふあ……」
隣にいるのは、今年結婚したばかりの新妻。住んでいるのは二人の愛の巣である和モダンの新居。そして今日は仕事もない日曜日の朝という、最高の幸せの要素が揃っているというのに、沸き上がってくる眠気のせいで、思わず欠伸をしてしまった。
「幸太(こうた)さん、寝不足ですか?」
「みたい。あんまり、寝つきが良くなくて」
魔物娘の稲荷であり、僕の妻である和香(わか)が、顔に手を添えて、触れてくる。まるで触診するかのように頬を揉み解し、目や瞼をのぞき込み、手のひらで額に触れる。
「疲労とストレスからくる不眠症、でしょうか。最近、お疲れのようですし……」
「あー……、まあ、大型連休に入る前に、色々片付けていけないことが多くて。現場動き回らないといけないし」
そうぼやく。祝日はあまり関係のない業界である建設業だけど、さすがに大型連休は休みだ。というより、配送業者や資材の業者なども休むので、仕事の進めようがないともいう。そうなると、現場監督側としては、少々無理をしてでも、ある程度切りのよいところまで作業を進めておいた上で連休に入りたい。そうやって少しの無理が積み重なっていけば、疲れが溜まるのは当然だ。
「でも、今週乗り切っちゃえば、連休中はのんびりできるし。色々、和香と出かけたいところあるんだ」
「はい、楽しみにしていますね」
こちらの言葉に、嬉しそうに頷いた後、和香は眉を八文字にして、悲しそうな顔をした。
「でも、今からそんなにお疲れだと、せっかくお休みになっても、ちゃんと楽しめないかもしれませんね」
「あー……心配させてごめんね」
さすがに申し訳なくなってしまった。楽しんでほしいから頑張っていたのに、悲しい顔をさせてしまったら本末転倒だ。
どうしよう、と思っていると、なにかを思い付いた様子で、和香がにこりと笑った。
「そうです、いいことを思いつきました」
「うん?」
「ソファに座って、少し待っていてください」
そういって、和香がリビングを出ていく。
言われた通りに待っていると、数分後、和香が、手に巾着袋と蒸したタオルをもって、リビングに戻ってきた。
「耳かきをしましょう」
「耳かき?」
「はい。耳には快感を感じる神経がたくさんあって、そこをかかれると気持ちいいし、リラクゼーション効果もあるんですよ」
「へえ」
いいつつ、机の上に巾着袋と湯気をあげる蒸しタオルを置いて、和香が隣に座る。
「さあ、こちらにどうぞ」
自らのふとももを指し、手招きしてくる和香。少し恥ずかしかったけど、素直に甘えて、彼女のふとももを枕に寝転ぶ。いわゆる膝枕だ。暖かく、柔らかい。その上、後頭部には、いつも閨で揉みしだいている、和香の大きな胸の感触をこれでもかと感じる。
「やわらかい……」
思わず、口からそんな言葉が出てしまう。
そんな僕の心境を知ってか知らずか、和香がにこにこと笑っている気配がした。角度的に巨乳に遮られて、顔は見えなかった。
「まずは、おしぼりで耳を綺麗にしていきますね」
「うん」
適温に温められた蒸しタオルで、耳全体が包まれる。耳の形をなぞるように、丁寧にゆっくりとした手つきで、和香の指が動き、汚れを拭き取っていく。ただそれだけが、思いのほか気持ちが良い。温かなタオルの温度のおかげで、ほっとした気持ちにもなる。
「耳の裏も、ちゃんと洗わないといけませんよ」
「一応、気をつけてはいるんだけど……汚れてる?」
「少し。どうしても、見えないところまではわからないのでしょうね」
タオルで耳を拭う手を止めて、和香が身を屈め、耳元で囁いてくる。
「お風呂で、洗ってさし上げますね」
「……なら、僕も洗ってあげるね」
「はい、お願いします。全身を、たっぷり洗ってくださいまし」
そう頷き合った後、今度は直接和香の細く白い指が、僕の耳に触れる。
「次は、マッサージです。耳にはたくさんツボがありますから」
「こんなに薄いのに?」
「ええ」
指が、耳を優しく掴み、ゆっくりと引っ張る。まるで、ストレッチでもしているかのように、耳全体をほぐしていく。
「自律神経の乱れにきくツボなどがありますし、それに耳の血行を良くすると、全身の血行も良くなって、副交感神経が働きやすくなるんです」
言いつつ、耳の中へ深く指を入れてくる和香。指と指で挟みこみ、擦り合わせるように動かした。
「そうやって、自律神経が整ってくると、不眠症も改善されるんです」
もみもみと、白く細い指が耳をもみほぐす。ほう、とあまりの気持ちよさと心地よさに、息を吐いた。
「気持ちいい……」
「うふふ、お気に召していただけたようですね。耳も、もう真っ赤です」
血行が良くなっているのか、自分でもわかるほど、耳が先ほどより熱くなっている。耳の外側がそうなってくると、今度は耳の中が気になってしまう。
「和香、そろそろ……」
「はい。では、失礼しますね」
竹でできた耳かき棒を手に持つ和香。ゆっくりと、自分の耳の穴の中に、入ってくる。
「まずは、浅い部分をくすぐっていきますね」
「ん、おお……」
「どうでしょう?」
「気持ちいい……」
軽く、優しく、耳の浅いところをかきあげられる。快感を感じる神経が多くある、といっていたが、確かにその通り、軽くされているだけなのに、とても気持ちがいい。
「とても綺麗ですけれど、細かい耳垢がありますね……とっていきます。痛かったら、言ってください」
「ん、わかった……」
カリカリ、カサカサ、と耳の穴の中で擦れる音が聞こえる。耳垢がかきだされていく。あまりの心地よさに夢心地になっていると、入れられていた耳かき棒が引き抜かれた。
「手前のあたりは終わったので、今度は深いところにいきますね」
「うん」
耳かき棒が、耳穴の中へと、ゆっくりと入れられていく。さっきまでの、カリカリ、カサカサという軽い音とは違い、ガサ、ガサ、という大きな音が鳴り響く。それでも、和香の手つきは変わらず丁寧で優しかった。
耳かき棒を使っているのとは別のほうの手で、頭を撫でられて、さらに頭が蕩けていく。
「どうでしょう?」
「すごく、きもちいい……」
気持ちよすぎて、視界がぼやけてきた。体もぽかぽかと温かい。
「こちら側は、終わりました。逆側もしてしまいますので、頭をこちらに向けていただけますか?」
「ん、うん……あふ……」
言われた通り、体を反転させる。お腹と胸を正面から見る形になるが、もうそれが気にならないほど眠くなってきていた。
もう片方の耳が、また蒸しタオルで温められながら、ゆっくりと拭われていく。
「うあ、あー……あふ……」
眠すぎて、欠伸が止まらない。和香が微笑んだ気配がした。
「このまま眠ってくださって、大丈夫ですよ」
「いや、でも……」
「今日は、幸太さんを疲れを癒すのが目的ですから。眠くなったのであれば、ゆっくり眠ってください」
その言葉と、耳を揉み、頭を撫でくれている和香の手の心地よさに、意識を手放さない努力を放棄することを決意した。
その前に、これだけは、口にしておく、
「…ありがとう。和香さんがお嫁さんで、幸せ者だね、僕は」
「私も、幸太さんが旦那様で幸せですよ。……愛しています」
「……僕も、愛してる」
幸せに満ちた、愛する人の愛の言葉を最後に聞き、僕は意識を手放した。
隣にいるのは、今年結婚したばかりの新妻。住んでいるのは二人の愛の巣である和モダンの新居。そして今日は仕事もない日曜日の朝という、最高の幸せの要素が揃っているというのに、沸き上がってくる眠気のせいで、思わず欠伸をしてしまった。
「幸太(こうた)さん、寝不足ですか?」
「みたい。あんまり、寝つきが良くなくて」
魔物娘の稲荷であり、僕の妻である和香(わか)が、顔に手を添えて、触れてくる。まるで触診するかのように頬を揉み解し、目や瞼をのぞき込み、手のひらで額に触れる。
「疲労とストレスからくる不眠症、でしょうか。最近、お疲れのようですし……」
「あー……、まあ、大型連休に入る前に、色々片付けていけないことが多くて。現場動き回らないといけないし」
そうぼやく。祝日はあまり関係のない業界である建設業だけど、さすがに大型連休は休みだ。というより、配送業者や資材の業者なども休むので、仕事の進めようがないともいう。そうなると、現場監督側としては、少々無理をしてでも、ある程度切りのよいところまで作業を進めておいた上で連休に入りたい。そうやって少しの無理が積み重なっていけば、疲れが溜まるのは当然だ。
「でも、今週乗り切っちゃえば、連休中はのんびりできるし。色々、和香と出かけたいところあるんだ」
「はい、楽しみにしていますね」
こちらの言葉に、嬉しそうに頷いた後、和香は眉を八文字にして、悲しそうな顔をした。
「でも、今からそんなにお疲れだと、せっかくお休みになっても、ちゃんと楽しめないかもしれませんね」
「あー……心配させてごめんね」
さすがに申し訳なくなってしまった。楽しんでほしいから頑張っていたのに、悲しい顔をさせてしまったら本末転倒だ。
どうしよう、と思っていると、なにかを思い付いた様子で、和香がにこりと笑った。
「そうです、いいことを思いつきました」
「うん?」
「ソファに座って、少し待っていてください」
そういって、和香がリビングを出ていく。
言われた通りに待っていると、数分後、和香が、手に巾着袋と蒸したタオルをもって、リビングに戻ってきた。
「耳かきをしましょう」
「耳かき?」
「はい。耳には快感を感じる神経がたくさんあって、そこをかかれると気持ちいいし、リラクゼーション効果もあるんですよ」
「へえ」
いいつつ、机の上に巾着袋と湯気をあげる蒸しタオルを置いて、和香が隣に座る。
「さあ、こちらにどうぞ」
自らのふとももを指し、手招きしてくる和香。少し恥ずかしかったけど、素直に甘えて、彼女のふとももを枕に寝転ぶ。いわゆる膝枕だ。暖かく、柔らかい。その上、後頭部には、いつも閨で揉みしだいている、和香の大きな胸の感触をこれでもかと感じる。
「やわらかい……」
思わず、口からそんな言葉が出てしまう。
そんな僕の心境を知ってか知らずか、和香がにこにこと笑っている気配がした。角度的に巨乳に遮られて、顔は見えなかった。
「まずは、おしぼりで耳を綺麗にしていきますね」
「うん」
適温に温められた蒸しタオルで、耳全体が包まれる。耳の形をなぞるように、丁寧にゆっくりとした手つきで、和香の指が動き、汚れを拭き取っていく。ただそれだけが、思いのほか気持ちが良い。温かなタオルの温度のおかげで、ほっとした気持ちにもなる。
「耳の裏も、ちゃんと洗わないといけませんよ」
「一応、気をつけてはいるんだけど……汚れてる?」
「少し。どうしても、見えないところまではわからないのでしょうね」
タオルで耳を拭う手を止めて、和香が身を屈め、耳元で囁いてくる。
「お風呂で、洗ってさし上げますね」
「……なら、僕も洗ってあげるね」
「はい、お願いします。全身を、たっぷり洗ってくださいまし」
そう頷き合った後、今度は直接和香の細く白い指が、僕の耳に触れる。
「次は、マッサージです。耳にはたくさんツボがありますから」
「こんなに薄いのに?」
「ええ」
指が、耳を優しく掴み、ゆっくりと引っ張る。まるで、ストレッチでもしているかのように、耳全体をほぐしていく。
「自律神経の乱れにきくツボなどがありますし、それに耳の血行を良くすると、全身の血行も良くなって、副交感神経が働きやすくなるんです」
言いつつ、耳の中へ深く指を入れてくる和香。指と指で挟みこみ、擦り合わせるように動かした。
「そうやって、自律神経が整ってくると、不眠症も改善されるんです」
もみもみと、白く細い指が耳をもみほぐす。ほう、とあまりの気持ちよさと心地よさに、息を吐いた。
「気持ちいい……」
「うふふ、お気に召していただけたようですね。耳も、もう真っ赤です」
血行が良くなっているのか、自分でもわかるほど、耳が先ほどより熱くなっている。耳の外側がそうなってくると、今度は耳の中が気になってしまう。
「和香、そろそろ……」
「はい。では、失礼しますね」
竹でできた耳かき棒を手に持つ和香。ゆっくりと、自分の耳の穴の中に、入ってくる。
「まずは、浅い部分をくすぐっていきますね」
「ん、おお……」
「どうでしょう?」
「気持ちいい……」
軽く、優しく、耳の浅いところをかきあげられる。快感を感じる神経が多くある、といっていたが、確かにその通り、軽くされているだけなのに、とても気持ちがいい。
「とても綺麗ですけれど、細かい耳垢がありますね……とっていきます。痛かったら、言ってください」
「ん、わかった……」
カリカリ、カサカサ、と耳の穴の中で擦れる音が聞こえる。耳垢がかきだされていく。あまりの心地よさに夢心地になっていると、入れられていた耳かき棒が引き抜かれた。
「手前のあたりは終わったので、今度は深いところにいきますね」
「うん」
耳かき棒が、耳穴の中へと、ゆっくりと入れられていく。さっきまでの、カリカリ、カサカサという軽い音とは違い、ガサ、ガサ、という大きな音が鳴り響く。それでも、和香の手つきは変わらず丁寧で優しかった。
耳かき棒を使っているのとは別のほうの手で、頭を撫でられて、さらに頭が蕩けていく。
「どうでしょう?」
「すごく、きもちいい……」
気持ちよすぎて、視界がぼやけてきた。体もぽかぽかと温かい。
「こちら側は、終わりました。逆側もしてしまいますので、頭をこちらに向けていただけますか?」
「ん、うん……あふ……」
言われた通り、体を反転させる。お腹と胸を正面から見る形になるが、もうそれが気にならないほど眠くなってきていた。
もう片方の耳が、また蒸しタオルで温められながら、ゆっくりと拭われていく。
「うあ、あー……あふ……」
眠すぎて、欠伸が止まらない。和香が微笑んだ気配がした。
「このまま眠ってくださって、大丈夫ですよ」
「いや、でも……」
「今日は、幸太さんを疲れを癒すのが目的ですから。眠くなったのであれば、ゆっくり眠ってください」
その言葉と、耳を揉み、頭を撫でくれている和香の手の心地よさに、意識を手放さない努力を放棄することを決意した。
その前に、これだけは、口にしておく、
「…ありがとう。和香さんがお嫁さんで、幸せ者だね、僕は」
「私も、幸太さんが旦那様で幸せですよ。……愛しています」
「……僕も、愛してる」
幸せに満ちた、愛する人の愛の言葉を最後に聞き、僕は意識を手放した。
22/08/14 07:47更新 / フォロン・ジクシー