ターナー雑貨店の一日・昼
エルンとラーラが営んでいるターナー雑貨店は、新魔物領にあるのもあって、他の雑貨店で扱っている人間が製作した雑貨類だけでなく、たとえばドワーフが作り上げた細工品や、魔界にあるサキュバスの城下街で売られているような魔法アイテムも取り揃えている。
雑貨と一口でいっても、実はその定義はかなり幅広いのだ。だが、そうした多種多様、人も魔も関係ない、いっそ混沌とした品揃えの中でも、特に人気があるのは、店主であるエルンが製作した雑貨類だった。
「私の彼氏、絵を描くのが好きなの。だから画材なんかを入れるのにいいものが欲しいんだけど……」
「なるほど。なら、こういうのはどう?」
そう言って、ラーラは取っ手付きの白い木箱と、いくつかの文具類を手渡した。客であるサキュバスは、それらを興味深そうに観察し始める。
「あ、いいかも。デザインもいいし、便利そう」
「店主と私の共同制作品なの。それと、この筆も、ね」
筆の毛先を指先で弄りつつ、ラーラは声を潜めて話し出した。
「これも、店主特製でね。獣人種の体毛を使ってるの」
「そうなの?」
「ええ。それでね、この柔らかな筆先で、体の気持ちいいところをくすぐられたりするの。そうしたら、気持ちいいんだけど、でもすごくじれったくて、そのせいで、どんどん興奮してきて、もっとすごいことしてほしいって思って……」
「あ、それ、絶対気持ちいいやつ!」
「でしょう?」
ラーラもサキュバスも、同じ悪魔種に分類される種族同士だから気が合うようで、まだ日も高い正午の店内で、猥談に花が咲く。
「……逆に、男側を責めるのも、あり?」
「全然、ありだと思うわ」
「一応言っとくけど、俺はしないからな?」
カウンター越しに聞いていた二人の悪魔の会話に割り込み、そうエルンは釘をさす。ラーラはそんなパートナーに笑い、言った。
「大丈夫よ。私、エルンに好き放題されるほうが好きだから」
「そりゃどーも」
そして、エルンとラーラを尻目に、自らの恋人との愛の交わりを想像したのか、サキュバスは興奮した様子で身震いしている。
「楽しみぃ。これ、ください」
「はい。お買い上げ、ありがとうございます」
購入し、店を出ていくサキュバス。それを見送りつつ、エルンが呟いた。
「……さすがサキュバスだなー。エロ用途の品物を買っていく客、男側のほうが多いのに」
「サキュバスだからね。好きな男と、気持ちよくなりたいって常に考えてる種族だし」
「デーモンも同じようなもんだよな」
「ええ、そうよ」
言いつつ、カウンターに腰かけるラーラ。正午も近く、ちょうど買い物客が途切れていた時間帯だったのもあって、二人は相好を崩して談笑を始める。
「あ、そうだ。さっきの筆もな、改良して柄の部分に植物系の魔物娘の素材を使うのはどうかな、って思ってるんだが」
「試してみる?」
「ラーラで?」
「もちろん。その代わり、最低十回は出してね?」
「お安い御用だ」
エルンはそう言いながら立ち上がり、すれ違いざまに、ショートパンツに包まれたラーラの尻を鷲掴みした。
細すぎず太すぎもしない、ほどよい肉付きと魅惑的な形をしているラーラの尻肉を、エルンの指が揉みしだく。
「んっ」
「あ、悪いんだけど、倉庫から商品とってきておいてくれ。そろそろ昼ごはん作ってくるから」
「ん、ええ、わかったわ、あっ」
好き放題に尻を弄んでから、手を離す。自分を睨みつけるラーラにひらひらと手を振りながら、エルンは室内へと戻っていった。
※
「ばかエルン」
「悪かったって。ラーラの尻見てたら触りたくなったんだよ」
正午、昼食の時間。リビングの椅子に座りながら怒っているラーラの言葉に、昼食を作りながら、悪びれることもなくエルンはそう返す。
「エルンは触りたいだけかもしれないけど、私はエルンに触られたら、エッチしたくなるの。仕事中だからできないっていうのに。ひどいお預けよ」
「ごめんって。あと、ラーラに触ったら、俺もしたくなるからな?」
頬を膨らまし、唇を尖らせてそっぽを向き、ラーラはこれ以上ないほどわかりやすく拗ねている。そんなパートナーの様子に、エルンは思わず笑った。
「夜はお前の好きな料理を作ってやるから、機嫌直してくれよ、ラーラ」
「……夜、たっくさん可愛がってくれたら許してあげる」
「ん、わかった」
話しながら料理を作り上げて、テーブルの真ん中の大皿へと盛りつけるエルン。他にも作ったいくつかの料理を並べ、食事を始める。
「……ほんと、器用よね。料理も物作りも」
「センスはないけどな」
料理を味わいながら、ラーラがそう呟き、エルンもテーブル全体を見渡す。大皿への盛り付けは、なんとも適当な盛り付けで、見栄えは悪くはないが良くもなかった。
「でも、ラーラはセンスあるし。お互い補い合う感じでいいだろ」
「ええ、そうね。本当、足して二で割ればちょうどいい感じになるんでしょうけど」
「俺たちの子どもなら上手いこと足して二で割った感じの子になるかもな」
「……そうかもしれないけど、だから、そういうこと言われると、したくなっちゃうんだってば、ねぇ」
「あー、悪かった」
にっこりと笑顔で、エルンの頬を引っ張るラーラ。
そうこうしているうちに食べ終わり、エルンは立ち上がって片付けを始めた。
「食器も洗っとくから、先に戻っておいてくれ」
「ええ。……んっ」
「ん?」
水場で食器を洗おうとしたエルンの背中に、唐突に抱き着くラーラ。
「……ちゅ」
「おっわ」
頬にキスされるエルン。驚いて振り返ると、すでにラーラは、まるで身軽な猫を思わせる動きで離れていた。からかうように、べぇ、と舌を出してから、店へと戻っていく。
「……ちょっと待ってラーラ、おい」
「いや」
食器をすべて片付けて、後を追いかけるエルン。一足先に店先に戻り、開店の看板をだしていたラーラに少し遅れて追いついた。
「あんな可愛いことしといてお前」
「少しはお預けされる私の気持ち、わかったらいいのよ」
それを聞いて、何か言おうとして、客の来訪を告げるドアベルの音に妨害されるエルン。
「ちょっと、恋人に贈る細工品見たいんだ」
「いらっしゃい、こっちにありますよ」
接客していると、またドアベルの音が鳴る。客の入りが多くなってきて、エルンもラーラも、手が離せなくなった。
だが、そんな中でも、少し手が空くたび、仕事の合間合間に、ラーラの肢体を、エルンはじっと見つめる。
「ちょっと、エルン?」
「大丈夫だ。自分の女を鑑賞して、癒されてるだけだから」
「仕事してよ」
「してるから、癒しが欲しいんだよ」
言葉とは裏腹に、エルンの瞳には明らかに欲情の火が灯っており、視線の先も、ラーラの胸や尻に向いていた。
「……ん、エルン」
「見てるだけだ」
言葉通り、エルンは本当に見ているだけだった。しかし、その視線と、それに宿っている欲望の火の熱さに、ラーラはごくり、と熱い生唾を呑みこむ。
しばらくして、ようやく客足が落ち着いてくると、ラーラが、はぁ、と熱のこもった息を吐いた。
「……エルンの視線がいやらしくて、見られてるだけでも、もう興奮してきた」
「ダメじゃねーか」
笑うエルン。見返し、股間に目をやるラーラ。
「……エルンだって大きくなってるけど?」
「お前の体ずっと見てたら、そうなるさ」
お互いに、言葉もなく見つめ合う。どちらかともなく、近づき合って、触れあいそうになる直前で、またドアベルが鳴る。
「……今日、寝られると思わないでね?」
「こっちの台詞だ」
離れる間際、互いにだけ聞こえる声で、二人は言った。
雑貨と一口でいっても、実はその定義はかなり幅広いのだ。だが、そうした多種多様、人も魔も関係ない、いっそ混沌とした品揃えの中でも、特に人気があるのは、店主であるエルンが製作した雑貨類だった。
「私の彼氏、絵を描くのが好きなの。だから画材なんかを入れるのにいいものが欲しいんだけど……」
「なるほど。なら、こういうのはどう?」
そう言って、ラーラは取っ手付きの白い木箱と、いくつかの文具類を手渡した。客であるサキュバスは、それらを興味深そうに観察し始める。
「あ、いいかも。デザインもいいし、便利そう」
「店主と私の共同制作品なの。それと、この筆も、ね」
筆の毛先を指先で弄りつつ、ラーラは声を潜めて話し出した。
「これも、店主特製でね。獣人種の体毛を使ってるの」
「そうなの?」
「ええ。それでね、この柔らかな筆先で、体の気持ちいいところをくすぐられたりするの。そうしたら、気持ちいいんだけど、でもすごくじれったくて、そのせいで、どんどん興奮してきて、もっとすごいことしてほしいって思って……」
「あ、それ、絶対気持ちいいやつ!」
「でしょう?」
ラーラもサキュバスも、同じ悪魔種に分類される種族同士だから気が合うようで、まだ日も高い正午の店内で、猥談に花が咲く。
「……逆に、男側を責めるのも、あり?」
「全然、ありだと思うわ」
「一応言っとくけど、俺はしないからな?」
カウンター越しに聞いていた二人の悪魔の会話に割り込み、そうエルンは釘をさす。ラーラはそんなパートナーに笑い、言った。
「大丈夫よ。私、エルンに好き放題されるほうが好きだから」
「そりゃどーも」
そして、エルンとラーラを尻目に、自らの恋人との愛の交わりを想像したのか、サキュバスは興奮した様子で身震いしている。
「楽しみぃ。これ、ください」
「はい。お買い上げ、ありがとうございます」
購入し、店を出ていくサキュバス。それを見送りつつ、エルンが呟いた。
「……さすがサキュバスだなー。エロ用途の品物を買っていく客、男側のほうが多いのに」
「サキュバスだからね。好きな男と、気持ちよくなりたいって常に考えてる種族だし」
「デーモンも同じようなもんだよな」
「ええ、そうよ」
言いつつ、カウンターに腰かけるラーラ。正午も近く、ちょうど買い物客が途切れていた時間帯だったのもあって、二人は相好を崩して談笑を始める。
「あ、そうだ。さっきの筆もな、改良して柄の部分に植物系の魔物娘の素材を使うのはどうかな、って思ってるんだが」
「試してみる?」
「ラーラで?」
「もちろん。その代わり、最低十回は出してね?」
「お安い御用だ」
エルンはそう言いながら立ち上がり、すれ違いざまに、ショートパンツに包まれたラーラの尻を鷲掴みした。
細すぎず太すぎもしない、ほどよい肉付きと魅惑的な形をしているラーラの尻肉を、エルンの指が揉みしだく。
「んっ」
「あ、悪いんだけど、倉庫から商品とってきておいてくれ。そろそろ昼ごはん作ってくるから」
「ん、ええ、わかったわ、あっ」
好き放題に尻を弄んでから、手を離す。自分を睨みつけるラーラにひらひらと手を振りながら、エルンは室内へと戻っていった。
※
「ばかエルン」
「悪かったって。ラーラの尻見てたら触りたくなったんだよ」
正午、昼食の時間。リビングの椅子に座りながら怒っているラーラの言葉に、昼食を作りながら、悪びれることもなくエルンはそう返す。
「エルンは触りたいだけかもしれないけど、私はエルンに触られたら、エッチしたくなるの。仕事中だからできないっていうのに。ひどいお預けよ」
「ごめんって。あと、ラーラに触ったら、俺もしたくなるからな?」
頬を膨らまし、唇を尖らせてそっぽを向き、ラーラはこれ以上ないほどわかりやすく拗ねている。そんなパートナーの様子に、エルンは思わず笑った。
「夜はお前の好きな料理を作ってやるから、機嫌直してくれよ、ラーラ」
「……夜、たっくさん可愛がってくれたら許してあげる」
「ん、わかった」
話しながら料理を作り上げて、テーブルの真ん中の大皿へと盛りつけるエルン。他にも作ったいくつかの料理を並べ、食事を始める。
「……ほんと、器用よね。料理も物作りも」
「センスはないけどな」
料理を味わいながら、ラーラがそう呟き、エルンもテーブル全体を見渡す。大皿への盛り付けは、なんとも適当な盛り付けで、見栄えは悪くはないが良くもなかった。
「でも、ラーラはセンスあるし。お互い補い合う感じでいいだろ」
「ええ、そうね。本当、足して二で割ればちょうどいい感じになるんでしょうけど」
「俺たちの子どもなら上手いこと足して二で割った感じの子になるかもな」
「……そうかもしれないけど、だから、そういうこと言われると、したくなっちゃうんだってば、ねぇ」
「あー、悪かった」
にっこりと笑顔で、エルンの頬を引っ張るラーラ。
そうこうしているうちに食べ終わり、エルンは立ち上がって片付けを始めた。
「食器も洗っとくから、先に戻っておいてくれ」
「ええ。……んっ」
「ん?」
水場で食器を洗おうとしたエルンの背中に、唐突に抱き着くラーラ。
「……ちゅ」
「おっわ」
頬にキスされるエルン。驚いて振り返ると、すでにラーラは、まるで身軽な猫を思わせる動きで離れていた。からかうように、べぇ、と舌を出してから、店へと戻っていく。
「……ちょっと待ってラーラ、おい」
「いや」
食器をすべて片付けて、後を追いかけるエルン。一足先に店先に戻り、開店の看板をだしていたラーラに少し遅れて追いついた。
「あんな可愛いことしといてお前」
「少しはお預けされる私の気持ち、わかったらいいのよ」
それを聞いて、何か言おうとして、客の来訪を告げるドアベルの音に妨害されるエルン。
「ちょっと、恋人に贈る細工品見たいんだ」
「いらっしゃい、こっちにありますよ」
接客していると、またドアベルの音が鳴る。客の入りが多くなってきて、エルンもラーラも、手が離せなくなった。
だが、そんな中でも、少し手が空くたび、仕事の合間合間に、ラーラの肢体を、エルンはじっと見つめる。
「ちょっと、エルン?」
「大丈夫だ。自分の女を鑑賞して、癒されてるだけだから」
「仕事してよ」
「してるから、癒しが欲しいんだよ」
言葉とは裏腹に、エルンの瞳には明らかに欲情の火が灯っており、視線の先も、ラーラの胸や尻に向いていた。
「……ん、エルン」
「見てるだけだ」
言葉通り、エルンは本当に見ているだけだった。しかし、その視線と、それに宿っている欲望の火の熱さに、ラーラはごくり、と熱い生唾を呑みこむ。
しばらくして、ようやく客足が落ち着いてくると、ラーラが、はぁ、と熱のこもった息を吐いた。
「……エルンの視線がいやらしくて、見られてるだけでも、もう興奮してきた」
「ダメじゃねーか」
笑うエルン。見返し、股間に目をやるラーラ。
「……エルンだって大きくなってるけど?」
「お前の体ずっと見てたら、そうなるさ」
お互いに、言葉もなく見つめ合う。どちらかともなく、近づき合って、触れあいそうになる直前で、またドアベルが鳴る。
「……今日、寝られると思わないでね?」
「こっちの台詞だ」
離れる間際、互いにだけ聞こえる声で、二人は言った。
21/03/24 17:41更新 / フォロン・ジクシー
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