連載小説
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勝負、そして決着
 流浪のギャンブラーは、ある賭場の噂を聞き、その賭場へ招待されるという噂の酒場にやってきていた。

 その賭場とは、オークの群れが形成する賭場。オーク達は酒場の男にどこからか集めてきた財宝と「少しの対価」を賭け合わないかと持ちかける。
 その「少しの対価」とは男達の所有権。男側が負けてしまうと、オークに所有権を奪われ、死ぬまで犯され続けるのだと言う。

 今まで命知らずの男やオークの尻に敷かれたい男が挑むも全て返り討ちにあい、オークの群れを賑やかにさせ続けてしまっていた。

 彼はそのオークの集落の近隣にある人間の村の長より依頼をもらっていた。
 曰く「オーク達が増長して自分の村に危害を加える前に打ち負かしてほしい」と。

「面白いじゃないか」

 流浪のギャンブラー「レッド」はそう一人で呟き、酒を煽っていた。

「そこのお兄さん、ギャンブルに興味ありませんか?」

 柄にも合わない丁寧な姿勢でレッドに接触してきたのは一匹のハイオークであった。「話を持ちかけるのは普通のオーク種だったはず」とレッドは訝しむ。

「オークの賭場の噂を聞いてね、ここで飲んでればやってくるかと思ってな」

 レッドは単刀直入にそう切り出す。お互いの利害が一致しているのだ。面倒な話なんか不要であると考えていた。

「話が早いな。こりゃあ難敵かもな」

 ハイオークは丁寧な姿勢を消し去り、真面目に言い放つ。

(今までの男とは全くオーラが違う…間違い無く手慣れ…しかし、「私達」のイカサマやテクニックの前では奴も無力だろう!必ず、その済ました顔をアヘアヘ言わせてやるからな!)

 ハイオークはそう考え、目の前の男をどう調理しようか考えながら、男にルールを説明し始めた。



「ルールは単純、ポーカーで、お互い5万点ある持ち点をゼロにした方の勝ち。ルールはホールデム。最低掛け金は800。私が賭けるのは財宝、君が賭けるのは『少しの対価』。って事でここにサインをお願いできるかな」
「足りないな」

 その瞬間、ハイオークの目に動揺が見られた。

「一体何が足りないってんだい?!」

 ここまで、幾分紳士的だったハイオークが、素の粗暴な姿を隠さず問い詰めて来る。

「足りないな。ここの契約書に小さく『男の所有権』って書いてあるじゃないか」

 レッドはあくまで冷静に、そう問い詰める。

「俺は今後の人生を賭けるというのに、お前は負けても金しか失わず、今後の人生は何も失わない。それでは足りない」
「足りないって言ったって、私は財宝を賭けるんだぞ!お前は金を一切失う事無くこの賭けができるんだ!当然の対価だろう!」

 ハイオークはそう抗弁する。確かに、釣り合いを考えるならば男側には何も賭ける物がない以上、「所有権」という重いものを賭けるのは必然である。しかし、

「金ならある」

 レッドはそう言い放ち、目の前に袋をどっさり置く。中には金貨や装飾品が沢山入っていて、中身を確認したハイオークもこれには驚きを隠せなかった。

「今まで俺がギャンブルで稼いだ財産だ。これとお前の財宝、そしてお互いの所有権を賭けるって事で良いな」

 ハイオークは動揺する。確かに、自分が負ける要素は殆ど無い。しかし万に一つだけ、負けてしまったとするならば。自分は目の前のギャンブラーの所有物となり、一生彼に奉仕をしないといけない。

「これでいいな、駄目だと言うんなら、俺は別の賭場に行くだけだ。人には奴隷になるのを強いておいて自分が奴隷になる気概の無い人間と賭けても面白くないし、どうせその程度なんだろうからな」
「わ、わかった。それで飲もう。後で後悔して、ギャンギャン泣いたって許してやんねえからな!」

 ハイオークはリスクを計算する前に、売られた喧嘩を買ってしまう。最も、目の前の人間を運命の人だと認識している以上は、勝負を避ける選択肢等無いに等しかった。

 2人は、契約書に「負けた陣営は人物、魔物の所有権と財産を勝った陣営に差し出す」という一文を追加して、お互いそこにサインを交わした。



 運命の日。レッドが指定された場所、山奥の集落に入る。そこには、藁葺きの家や木の家等に暮らす沢山のオーク夫婦が事に勤しんでいた。
 オークに蹂躙される男達。響き渡る嬌声。それらを見てもレッドは、

「まあ、ギャンブルだ。負けて命まで取られないだけマシだろう」

 と構えていた。

 木で作られた「オークの賭場」と書かれた家にレッドは入る。酒場で話していたハイオークと、彼女よりは背の低いもう一人のハイオークが出迎える。

「さあ、奥に入って早速始めようじゃないか」

 酒場で話していたハイオークがレッドを奥に誘導する。木でできたテーブルと椅子があり、その隣には同じく木製のベッドがあった。

 テーブルには、3つの椅子が用意されていた。酒場のハイオークは奥の椅子にドカっと座った。もう一人のハイオークは右横の椅子に座り、レッドを手前の椅子に座るよう促した。
 そして左横には、立った人間の背丈程の、長い縄を持った人形が置かれていた。

「自己紹介がまだだったな。私はパコ。ディーラーをやるのがピコだ」

 酒場のハイオーク――パコが自己紹介をし、ピコもよろしくな、と一言添える。この二人は姉妹で、顔もよく似ていた。

「俺はレッドだ」

 レッドは面倒くさげに自分の名を言い捨てた。

「それでレッド。横の人形が何の人形か興味ないか?」
「興味ないな」

 オーク種特有の下卑た笑みを浮かべてそう聞くパコを一蹴するレッド。レッドはパコが何故そう言い出したか、その目的を察知していた。

「まあ、そう言わずに。この人形はだな。敗者を裸にひん剥いた後グルグルとその縄で緊縛してしまうんだ。哀れにも動けなくなった敗者は裸で恥ずかしい姿のまま勝者にこの首輪をつけられるのさ」

 そう言いながらパコは首輪を持ち出す。この首輪はマジックアイテムだろうな、とレッドは内心思う。

「この首輪は主人に絶対服従を誓わせる物で、自分では外せないんだ。どうだい、レッド。お前がそんな恥ずかしい姿で私の目に映って、私とピコにナニをされるだなんて!とても屈辱的だろう?!レッドのそんな情けない姿を見れると思うと今から楽しみで楽しみで仕方が無いのさ!」
「ふふふっ」

 そんなパコの話を聞いたレッドは笑い出す。心底可笑しそうに。パコは内心動揺する。恐怖すら感じていた。いくら魔物だからと言っても、負ければ今後オークの尻に敷かれて外に出られないギャンブル。平常心でいるほうがおかしい。

「何が可笑しい!?」
「考えてもみろ。その脅しが通用するのは、オークが何も失わない場合だ。今回の勝負は違う。負けたらパコ、お前が裸になって緊縛されて俺に忠誠を誓う事になるんだぞ」

 レッドはハイオーク達が自分を動揺させに来ると踏んでいた。敗者が屈辱的な姿になり、オークに忠誠を誓う――この事実のみで、人間は縛られてしまう。
 賭ける対象が大きくなればなるほど、人間は正常な判断能力を失ってしまう。オーク達が長く無敗だったのは、獲物の男達を不親切な契約書で騙した後、当日に契約書に書かれた真の条件を見せつけ、それに動揺した男を優位のオーク達が一気に負かせる。というプロセスを踏んでいるのでは無いかと推察していた。
 これでは、オークの尻に敷かれたい男は勿論のこと、穏やかな嫁を貰いたい男や、暫く結婚する気が無く自由を謳歌したい男も動揺してしまうだろう。

 だからレッドは手を打った。同じ条件を飲ませ、お互い負ければ全てを失うようにした。狩る側であるハイオークを狩られる側にもさせる。そうでなければ、この勝負はハイオーク側の優位で進んでしまう。

「はんっ!私は百戦錬磨のハイオークだぞ!ここの族長だってやってるんだ。それにここのオーク達は無敗だ!負けるはずが無いさ!」
「そうかな、どうせ男と勝負するのは初めてだろう」

 これもレッドの推察。噂や依頼人の話ではこの賭けを持ちかけるのは普通のオーク種との事だった。しかし、今回出てきたのは上位種であるハイオークだ。
 結局の所このハイオークが部下の配偶者探しの為、部下と獲物の男で賭けをさせている。そして、自分はこのハイオークのお眼鏡にかなったのだろう。そう推察していた。

 だからこそ、仲間のオーク達とは練習がてら勝負してても、男との勝負は未経験、それも、自分の生涯を賭けた勝負は未経験なのだろう。そう踏んでいた。

「だからなんだってんだ!私は族長だ!部下より強いんだから勝てるんだ!」
「俺がお前の部下やお前自身より強いかもしれないのにか?」

 ムキになって反論してくるパコを見て、レッドは少し呆れていた。賭け事なのだから、ムキになっては駄目だ。感情の昂りは、判断を誤らせてしまう。
 実際、パコ自身も、自分がムキになっている姿が恥ずかしくなる。しかし、横のピコが自分に笑いかけたのを見て、自分達のイカサマに頼れば大丈夫だと思い直す。このイカサマは誰にも咎められていないのだ。確かに契約書には「イカサマがバレたら即敗北」と書かれている訳だが、ディーラーまでグルになっているイカサマなのだ。証拠も無ければバレもしない。
 自分が負けない事に再び自信を抱いたパコは、

「まあ見てなって。ギャフンと言わせてアヘアヘ言わせてやるからな」

 レッドに対して、自信満々の表情を浮かべた。
 そして勝負は始まる…



「Qのスリーカードだ。悪いね」

 序盤はパコが優勢だった。イカサマをするまでも無く優勢。レッドの持ち点を1万点程奪う事に成功していた。

「話しぶりからどんなに強い奴かと思ったが、結構弱いんだな」

 パコの口も平常に戻る。ハイオークらしい、男に対する自信に溢れた口調に。

「いくらなんでも気が早くないか?まだ俺は4万点持っているというのに」

 レッドもそんなパコを軽くいなす。

「そんな悠長な事を言っても、もうレッドと私の点差は2万点だぞ?このままじゃあジリジリと点を失っていくだけさ。そしてレッドは私とピコに裸で服従する事になるだろうな」

 パコはそう挑発しつつ、ピコに目配せをする。これこそがイカサマの合図。

 山場は人為的にもたらされたのだった。



 ホールデムは、各プレイヤーに渡される2枚とプレイヤー共通で使える5枚を組み合わせ、それでできたた役で競い合うルールのポーカーである。

 最初にそのプレイヤーしか見れない2枚。次に共通で使える3枚が中央に、次に中央の1枚、最後に中央の1枚と配られる。カードが配られる度に、持ち点を賭けるチャンスがプレイヤーに与えられる。

 パコは、予定通りの手札が来た事に内心安堵していた。

(私の手札はスペードの8とハートの8。予定通り…これでレッドをギャフンと言わせられる)

 そして子であるパコが最低賭け点の800点、親のレッドがその2分の1である400点を賭けてゲームが始まる。

「コール」

 親のレッドがコール――相手と同額、400点を追加で賭ける。レッドの賭け点はパコと同じく800点になる。

 パコはそれを見て机を指で2回コンコンと叩く。これはチェックと言う合図で、これ以上賭ける気が無いという事。勿論、相手より低い額しか賭けてない場合はコールしないといけない。
 パコ自身は今すぐにでもレイズ――掛け点の上乗せをしたかったのだが、そうしてしまうとレッドは降りてしまう。レッドはこの時点で「どの役もできていない」のだから。

 そして、中央に共通のカード3枚が開かれる。その全てがクローバーで、数字はそれぞれ8、4、7となっている。

「来た!」

 平静を装っているが、内心パコは興奮していたのだった。

 パコは知っている。この時点でレッドの役はフラッシュ。同じマークのカードが5枚組み合わさると出来る役。彼はクローバーを2枚持っている事をパコは知っている。勿論、ディーラーのピコがそう仕向けている。
 この後の流れでパコの手札はフルハウス(同じ数字3枚と2枚の組み合わせの役)になる。これはフラッシュより強く、レッドは間違いなく負ける。
 どうあがいても、レッドはパコに勝てない。

 それに、レッドは先程パコに挑発されている。そして、早く勝とうとはやるレッドの元にフラッシュが揃ったのだ。間違い無くレッドは攻めっけを出して、大量の点を賭けて、パコに吐き出す。
 そして負けてしまえば、レッドは自信をなくしてガタガタになり、いずれパコの元に跪く事になるだろう。

 今度はパコから賭ける番だ。親のレッドが先に賭けるのは最初のみで、これ以降、子であるパコが最初に賭ける事になる。

「レイズ、1600」

 今場に出ている額と同程度の点を賭ける。レッドから見ればパコの手札の予想はストレート(連続した数字が5枚並ぶと出来る役)だろう。
 パコの手札に5、6と揃っていればストレートが完成しているし、そうで無くても、2、3、9、10辺りを持っていれば、後一つ何かが来ればストレートが完成する。
 しかし、フラッシュはストレートより強い。負ける心配がない。それに、レッドの手札はAと6。数字勝負になると一番強いエースを持っていればもしパコがフラッシュだったとしても勝てるし、クローバーの6がある事で、相手がストレートフラッシュだという心配もしなくていい。

 要するに、レッドはこの時点で降りるはずが無いのだ。

「レイズ、3200」
(かかった!)

 案の定レッドはパコの掛け金に更に上乗せしてくる。内心パコは喜んでいる。獲物がまんまとかかるのを眺めている気分なのだ。この後自分に蹂躙される哀れな男を嗜虐心を持って見る。
 どうして楽しもうか。奉仕でもさせようか。泣くまで搾り取ってやろうか。パコはそんな事ばかり考えている。この勝負に勝つ事は決まりきっているし、恐らくこの後レッドは勝負にも負ける。再び自分の旗色が悪くなればイカサマをすれば良い。後の楽しい事を考えるのは当然だった。

 パコはコールし、足りない1600点を賭けた。

 そして4枚目が開かれる。4枚目はダイヤの9だった。このカードはお互いの役に何も影響を及ぼさない。

 この時点でパコはスリーカード。最後の5枚目でパコのフルハウスが確定する。

「レイズ、3200」
「レイズ、6400」

 パコのレイズにレッドも応える。絶対に勝つと分かり切った勝負なのだ。パコは強気に構える。

「レイズ、12800」

 レッドは4万点しかない持ち点を割いている。相手の攻めっ気で自分が敵わない事を察して降りる決断ができればレッドは一流の勝負師である。相手の手札を考慮せず、「自分が勝てるはずだ」という幻影を追い求めていたら三流の勝負師である。
 パコはそんな風に考えて、レッドの出方を伺った。

「コール」

 レッドはパコと同額を賭ける決断をした。パコは「まあそうだろうなあ」という、ごく普通の感想を抱いた。

 5枚目が開かれる。スペードの4だった。
 中央の場にあるカードに4が2枚、それに8がある為、パコの手札にある8のペアを合わせてフルハウスの完成である。

(これでフルハウス!この勝負は私の勝ちだ!)

 パコは予定通りであるものの嬉しさを隠せない。しかし、流石はずる賢いハイオーク。戦いが得意なオークらしく、平静を装い相手の出方を見るべくレイズする。

「レイズ、12000」
「オールイン」

 刹那、パコは驚く。レッドのその行動に驚いたと言うより、レッドを高く買っていた自分に対しての驚きだった。
 オールインとは、自分の持ち点全てを賭ける事。レッドは、この勝ち目の無い勝負に自分の運命を投じたのである。

(私はレッドを高く買っていたが…ギャンブラーに必須である危機への嗅覚すら無いとは…)

「コール」

 パコは当然コールする。パコは2万点程の持ち点を残している。対してレッドはこれに負ければ持ち点全てを失い、財産をも失い、レッドはパコの所有物となる。

(まあ拍子抜けしたとは言え気に入っている事には変わりないさ。ヒイヒイ言わせてやろう)

 パコはそう思い、フラッシュであるであろうレッドの手札を見つめる。

「4のフォーカードだ」
「…え?」

 パコはレッドの言っている意味が理解できなかった。確かにピコはレッドにフラッシュを掴ませたはずだ。ピコは優秀なディーラーである。これまで獲物の男達に悟られる事なく、このようなイカサマを成功させ続けてきたのだ。
 今回に限って失敗するはずが無い。慌ててパコはピコの表情を見る。

 ピコは愕然としていた。

 パコはその表情を見て、何かイレギュラーな事が起きたのだと察する。これはレッドの単純な運なのか、それとも自分たちのイカサマをレッドは見抜き、イカサマで返したのか。
 それはわからない。しかし、ピコはイカサマを見破るのが上手い。相手がイカサマをしているかをピコは厳しく見ている。この前だって、卑怯にもイカサマをしていた男が、その時点でピコに見咎められて即裸にされて勝負をしていたオークに犯されていたと言うのに。

「どうした、手札は」
「ふ、フルハウスだっ…」

 パコは悔しげに言う。負けるはずが無いのに。今頃裸でグルグル巻きにされたレッドをじっくりと味わおうとしていたはずなのに。
 なんで負けてしまったのだろう…?

「哀れだな。4が場に2枚ある以上、相手がフォーカードである可能性も考慮しないといけないのに、勇み足で勝ったと信じ切っていたんだろう?」

 レッドはそう評価する。土台無理な話だとパコは心の中で吐き捨てた。

 そもそもフルハウスは相当強い手札である。今回のように相手がフォーカードである可能性はかなり低い。危機への嗅覚がある人間ですら勝負しに行ってしまう。
 それに、今回はイカサマをしていた。相手がフラッシュだとわかっているなら、当然勝負しに行く。
 しかし結果はフォーカード。

「う、うるさい!今回はたまたま運が悪かったんだ。最初は私の方が調子が良かったんだ。そのうち盛り返すさ」
「そうかな、内心『自分は敵わない』と思っているんじゃないか?」

 レッドのこの言葉にパコは激しく動揺してしまう。

(私が、レッドに敵わないだと?)

 そして目の前の現実を見る。自分の持ち点は2万程。対してレッドは8万程。およそ6万点もの大差。
 イカサマをしていたのに負けてしまった。またイカサマをして、似たような事が起こるかもしれないと思うととてもイカサマはできない。
 負けたら自分はレッドの所有物に成り下がってしまう。その命綱は2万点。頼みのイカサマもできない…

(!?」

 ふと、自分の股から液体が溢れた事に気づく。その動揺が表に出てしまう。

「どうしたんだ?」

 レッドはそう問い詰める。先程までパコがしていたような嗜虐的な笑みを浮かべて。

「うるさいっ!とっとと次の勝負!ピコ!」
「はいっ!」

 パコは内心の乱れを隠せないまま次の勝負へと移る事になる。



「レイズ、400」
「っ!?」



 レッドの少額のレイズにも関わらず、顔をしかめながら、カードをピコに返し勝負を降りてしまうパコ。
 勝負が再開しても、パコに運が尽きたかのように、勝ちがパタっと途絶えてしまっていた。

 最も、これは彼女の運だけでは説明がつかない。

 あの負け以降、パコは一切の攻めっ気を無くしていた。本来、二人という少人数でやるポーカーなのだから、そうそう自分や相手が都合よく良い手を持っているはずもない。
 だからこそ、自分に強い手が入っているように誤認させたり、勝てない勝負を避けたり、勝てる勝負をしたりする事で勝利に近づくゲームなのだ。

 しかし、パコはイカサマをして負けたと言う事実から、レッドに底知れぬ恐怖を感じてしまっていた。
 だから、レッドの少額のレイズにも、高額のレイズにも恐れを抱いてしまう。
 相手がどんな手を持っているかわからないのに、相手の手を高めに見積もってしまう。自分がどんどん弱気になってしまう。
 そもそもずっと降りていても、最低掛け金やその半分を失ってしまう。だから、どこかで勝負をしに行かないといけない。それなのに勝負ができない。

(勝てる手が来るまで、来るまでの辛抱だ!)

 自分の持ち点が少なくなっているのだから、オールインで勝負に出てもその心許ない持ち点の2倍しか獲得できないのに、パコは勝てる手を待ち続けている。

「そうやって勝負を避け続けていてもいずれ負けてしまうだろうに。もしかして自分から負けに行っているんじゃないか?」
「うっ、うるさいっ///!」

 レッドがそう挑発する。パコはイカサマ等しなくても強かった。決して弱いプレイヤーでは無い。勝つために何をすれば良いかも、賭け事で男を得るオーク集落の長らしく心得ている。
 しかし、それができない。勝つための勝負ができず、負ける為の勝負しかできない。

 どうしてこうなっているのか。彼女の椅子が全てを物語っていた。

 パコの椅子は大洪水を起こしていて、下には水溜りができてしまっている。

 勿論、この水の正体はパコの愛液である。オーク種は、自分より弱い男には強く出るが、自分より強い男には弱く出てしまう種族である。

(わたしはぁっ//、私はレッドに負ける事で興奮するようなっ//哀れなオークでは無いんだぁっ//!私は強い!族長のハイオーク様だ…!)

 そう心の中で言い聞かせていても、彼女の身体は発情し続ける。一体何故か。
 あの負けでパコは、「自分はレッドには敵わないのでは」という疑念が生じる事になる。その疑念により、彼女の身体は「レッド様に捧げる敗北メスオークの無様な身体」となるべく準備を始めてしまっていたのだ。

 そういった本能のせいで、自分が勝とうとしているのか、負けようとしているのかもわからなくなる。横の縄を持った人形や、レッドにスムーズにかけられるように近くに置いた首輪すらも、惨めで無様な自分の為の物だと思えてしまう。
 勿論、パコはまだ負けてはいない。しかし劣勢。だから、一発逆転の為に、平常に戻る為に、ひたすら勝てる手が来るまで勝負を保留し続けてしまう。

 保留している間にも持ち点は減っていき、その事実がパコにのしかかる。そして発情する。悪循環がひたすら続く。
 もはやパコの顔は、誰が見ても発情しきった顔になっている。それに、パコはしょっちゅう太腿をすり合わせていた。
 仕草がもう、「男に負けたオーク」のそれ。強気なパコの見る影はもうない。
 そんなパコに、「勝てる手」が舞い込んでくる。



(Aのペア!これなら勝てる!)

 勝ち目が無いかのように思えたパコに、強い手が舞い降りて来る。
 ハートのエースとダイヤのエース。不思議の国に居るエースのトランパートを描いた2枚に、パコは運命を託す。

(これこそが私の起死回生の手!これが反撃の狼煙!ここから巻き返せれば、レッドを負かせてアヘアヘヒイヒイ言わせるのも夢じゃない!)

 ハイオークは自信を抱く。もっとも、この時点で1万点を割るかどうかまでパコの点は減っていたので、オールインで勝ってもさっきの勝負後の水準に戻るだけであるが。

「コール」

 先に賭ける番だったパコは相手と同額の800点を賭ける。いくら自分が強い手札だとは言え、自分が先に攻めっ気を出してしまえば相手に降りられておしまい。だから、慎重に賭けていかないといけない。しかし、

「オールイン」

 レッドはオールインの決断。オールインとは言っても、負けてもパコの持ち点以上の点は失わない。とは言え、負けてしまえば8万点あった差は6万点まで縮んでしまう。
 レッドが強い手を持っているのでは、そう一瞬パコは考える。しかし、

(とは言えレッドはオールインをした。レッドが強い手を持っているなら、少額のレイズか、もしくはチェックでいいはず。オールインは、弱気の私を下ろす為のブラフ!)

 そう読んだパコは、

「コール」

 そう自信を持って言い放つ。



 カードが出揃っていない時にお互いがオールインした場合、先にお互いの手札を見せてから共通のカードを開いていく。
 という訳で、パコは自信満々にカードを相手に見せる。

「へへっ、エースが2枚!ようやく私にも運が向いてきたというもんだね!」

 再び威勢を取り戻したパコ。このエース2枚を吉兆だと捉えるように、自信満々に言い放つ。
 対してレッドは無表情でカードを開く。スペードの2とクローバーの7。

「なんだ、弱いカードじゃないか。そんなにいつまでも私が降り続けるとでも思ったのか?」

 パコの威勢は元に戻っている。レッドの判断がミスだったと、そう言い放つ。実際にレッドの手は弱いカードである。最強の数字がエースで最弱が2であるポーカー。それに、2と7ではストレートも狙えない。勿論違うマークだからフラッシュも狙えない。

「いや、そう言うわけじゃない。そもそもお前に強い手が入った事は顔を見ればわかるからな」

 パコは再び驚愕する。こういう勝負をしている時に、表情が表に出る事は無いと信じ切っていたのに。それなのに、顔でバレていただなんて。

「それに、発情しきっていただろ?あんな状態じゃ勝てない。勝てる訳が無い。今勝っても、どうせすぐに持ち点がすっからかんになる」

 レッドは確信を持っていた。この勝負で自分が負ける要素は万に一つも無いと。

「だから、ここで負けて勝負を長引かせてもっと発情させてやろうかと思った。その内勝負中に絶頂に達するんじゃないかって感じの顔をしてたからな」

 レッドはそう言い返す。こう挑発しておけば、平常心では無い相手の気を削げるという意味では計算的。しかし、負けかかったメスオークの匂いに釣られてからかいたくなったというのが主な要因である。これにはレッドも自分で気がついていない。いつもは勝ちの最短を目指して余計な事はしないレッド。そう言う点ではレッドも平常心でない。

「それにな、この勝負はなんとなく負けない気がするのさ」
「そんなはずがあるかっ///!」

 レッドの冷静さに比べて、パコは腹立たしげに吐き捨てる。

「でっ、ではっ!札を開けますね!」
 オーク種の癖にどこか弱気なピコが慌てて共通の札を開けようとする。

 最初に3枚の札が開かれる。それぞれ、スペードのA、ダイヤの3、ハートの4。

「ははっ!スリーカードだ。もう勝負は付いたも同然さ!」

 パコがそう言うが、内心、レッドにストレートで逆転される恐怖と期待に支配されていた。

「いくらなんでも気が早すぎる。確かに2と7じゃストレートで勝つ可能性は薄いけどな。場に4枚連続した数字さえ来ればストレートで勝てるんだぞ。この場合は5が来れば勝ちだな」

 自分の勝利条件を口に出して、パコを動揺させにかかるレッド。

「へん、そう簡単に来るかよ!」
(でも、相手はレッド。もしかしたら私が負けて、縛られて、犯されるんじゃ…)

 パコはそんなレッドにまんまと載せられてしまっていた。
 そんなパコの気持ちをよそに、4枚目はダイヤのJが出る。これは二人とも全く関係ないカード。残るカードは5枚目のみ。この時点で勝っているパコの勝率が高まった事を意味している。

「ははっ、運もどうやらこれまでのようだな!」

 はしゃぐパコに対してレッドは冷静。そもそもレッドは負けてもまだ6万点の差を付けているのだから、冷静なのも当然だが。

 そして、5枚目が開かれる。5枚目は、



 ハートの5。



 勝負は付いた。パコの顔は絶望と期待に入り混じった複雑な表情になる。さっきの威勢は影を潜め、もはや言葉すら発せない。そして、横にいた縄を持った人形の目が黄色く光り、パコの方を向く。

「?!」

 今まで哀れな男達にそうして来たように、縄人形はその黄色い目から光をパコに浴びせる。以前この集落に遊びに来たグレムリンが作ってくれたこの人形。当然特殊な人形であり、この光は、着ている服を強制的に脱がす効果を持っていた。

「ひゃあっ///、見るなっ///、みるなぁっ/////!!!」

 一糸まとわぬ姿になったパコはそう叫ぶ。
 ただでさえ露出の高い服だったというのに、パコは自分の乳首を見せる事が恥ずかしいのか、自分のおっぱいを両腕で隠す。それでも腕ではおっぱいを隠しきれず、無理に押し付けた腕からはみ出たおっぱいの肉が零れ落ちていた。
 しかし、そんな些細な防衛もすぐに破られる。人形から出た縄があっという間にパコの腕を後ろに回し、一気に縛り上げたのだ。

「しばられちゃぅぅぅぅぅぅっっっっっっっ//////!!!!!!」

 目にも見えない早業。パコは、「縛られてしまう」と認識し、叫ぶ。それとほぼ同時に人形は彼女を縛ったのである。縄には当然痛くないように、感じてしまうように魔力が施されている。そもそも絶頂に近かったパコ。ひとたまりもなかった。
 叫ぶと同時に絶頂に達し、股からは大量の液体を撒き散らし、ピクピクとその余韻を感じながらも自身のおっぱいが強調されるように縛られ、動きを封じられてしまったパコ。敗北したハイオークにふさわしい、哀れな姿だった。

 そんなパコを、妹でもあるディーラーのピコが見つめる。あれほど「強い男を従えてやる」と自分に言っていたパコが、「強い男を一緒に味わおうな」と語ってくれたパコが、今や男に負かされて、縛られて、絶頂に達し、放心状態で椅子にだらりと座っている。
 負かされてしまった妹を見て複雑な気持ちでいながらも、ディーラーであれど勝負に関係の無い自分。姉とレッドがこの後行うであろう行為の邪魔にならない位置に移動しようとしたのだが、

「あれ?」

 人形の目が元に戻らない。変わらず黄色く光った人形の目が自分を見ている事にピコは気づく。

「えっと…」

 予想外の事態に慌てたピコ。しかし、人形はピコの次の行動の前に容赦無く光を浴びせる。

「きゃっ//」

 パコとは違ってピコは、その大きなおっぱいを隠す真似はしなかった。最も、突然の出来事過ぎて理解できていなかったのだが。
 そして縛られる。姉であるパコと同じように。

「ひゃぁっっっ///」

 ピコは、パコとは違って絶頂に近くは無かった(勿論、パコの余裕の無さを見て少し自分も感じてはいたのだが)為、絶頂せずに済んだ。
 しかし、パコ同様動けないことに変わりはない。

「どうして…?」

 パコは、その縛られた姿のまま、疑問を口に出す。私は関係が無い。そう言いたげだった。

「どうせお前らはどこかでイカサマをしたんだろう。『陣営』と契約書に書いておいて正解だったぜ」
 
 未だに放心状態のパコとは違い、ピコは顔を青くする。
 しかし、レッドのこの推理は実際には違う。

 そもそもパコは、妹であるピコと一緒にレッドを犯し抜くつもりだった。実際、レッドと人形の前でパコは「私とピコに」レッドが犯されると説明していたのだ。
 だから、人形はパコとピコを「陣営」と認識し、いざ彼女らが負けたらその通りに二人を縛り上げた。
 ピコは、姉であるパコと同じ戦利品を求めた代わりに、同じ代償を支払う羽目になったのである。
 最も、ピコがいま縛られなくても族長のパコが負けている以上、勝負に立ち会ったピコもレッドにせがんで犯してもらっていただろう。結果的には同じことだ。

「まあ、やることには変わりないさ」

 レッドはそう言いながら、パコの方へと足を進めていた。
20/06/15 18:18更新 / 千年間熱愛
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■作者メッセージ
 某作品で「格付けが済んでしまった」というような台詞を見て思いついたネタなのですが、当初の予定より遥かに長くなりそうだったので連載で上げる事にしました。

 ホールデムは作者本人は少しオンライン対戦の経験がある程度です。もし頓珍漢な事を書いていたらごめんなさい。

 尚、ここからは敗北ハイオークさんをひたすらレッドくんが味わう話しとなる予定です。

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