読切小説
[TOP]
わし、バフォ様
ぼくは目の前の暗闇をぼぅっと見つめていた。
外では雪が降っている。
どうしたらいいのかわからず、ひざをかかえて途方にくれていた。
あいつらの顔を思い浮かべるだけで、ゆううつな気分になる。
学校には行きたくないけど、ずっとこのままでもいられない。

「うぅ….お母さん…ぼく..」

自分が情けなくて仕方なくて、このままどこかに消えてしまいたい。
だんだん目に涙が浮かんできていた。




「おぉ〜〜い」

ふいに横の方から女の子の声が中にひびいてきた。
突然だったので体がビクッとする。
ぼくに向けて呼んできたみたいだけど、気のせいかな。

「おぉ〜〜い、こっちじゃよぉ〜!聞こえんのかのぉ〜〜!?」

たしかに女の子がぼくを呼んでいる。
ぼくは訳がわからなくて混乱した。
ぼくに話しかける女の子なんて誰もいないはずなのに….。

「こっち向いてたもぉ〜〜!!わしじゃよぉ〜〜!!のぉ〜〜う!!?」

自分を“わし”なんていう子は知らなかったけど、思わず声のする方を向いた。
暗闇の外に頭に変なものをつけた女の子が、こっちをのぞき込んでいた。
雪の降る中、ほっぺを赤くそめている。
ぼくと目が合うと、うれしそうにブンブン手を振った。

「おっ!気づいたかのぉ〜!?そんなとこで何してるんじゃ〜?」

「………」

「わしもそっち行っていいかのぅ〜〜?」

知らない女の子に『いいかのぅ?』と言われても困る。

「じゃ、そっち行くからの〜〜」

「え!?」

返事も待たずに彼女はこちらに向かってきた。
かがみこんで入り口に入ると、ハイハイしてぼくの方へ向かってくる。

「んしょ、んしょ…ひぃ〜狭くてひんやりしとるのぅ〜」

ぼくはただ“ぽかん”と彼女を見つめていた。
彼女はずんずんと進んできて、すぐにぼくのとなりまでやって来た。

「ふぃ〜着いたぞ!」

「……」

「お主、こんな所でガッカリしてメソメソしてどうしたのじゃ?」

「...別に何でもないよ」

「何でもないことないじゃろぅ?あと…すまぬがそのかばん、ちょっとどかしてくれんかの?」

「え?」

彼女はぼくのランドセルを指さした。

「となりに座りたいからのぅ」

「はぁ..」

しょうがなく、自分の左横にあったランドセルを右側に移した。
すると、彼女はぼくのとなりにぴたっとくっついて体育座りした。

「よっこらせっ….ふぅ..それでお主、何かあったのかの?」

「あぁ..まあ、うん….」

「話してくれんかの?」

「え…いやでも…..あの..君はだれなの?」

「あ!そういえば、名乗ってなかったのぉ!すまんの、わしはバフォ様じゃよ」

「バフォ・サマ?外国人?」

暗くて良く見えなかったけど、それでも彼女の顔は日本人ではなさそうだった。

「ちょっと違うのぉ。わしは魔物なのじゃ」

「へ!?魔物!?」

「うむ、魔物じゃ。見たことないかの?」

「学校では違う学年でいるけど、話したのは初めてだよ」

「おお〜そうじゃったか!なら、わしと話せてよかったのぉ!!」

「そうだね..」

話をしながら彼女をよく見ると、頭についていたのはぐるっと曲がっている角だった。
本物みたいだ。

「わしのことは好きに呼んでいいぞ」

「それじゃあ…バフォちゃんって呼んでいいかな?」

「ふむ、かまわんぞ!お主のことも聞かせてくれんかの?」

「うん,,,」


ぼくは素直に自分のことを話した。
ぼくの名前は比野 伸太(ひの しんた)で○○小学校に通っていること。
学校の勉強は全然できなくて、スポーツもダメで“ある二人”にいじめられていること。
それを話すとバフォちゃんは怒りだした。

「いじめじゃと!?それは許せんのじゃ!!それでお主はここにこもっていたわけじゃな!?」

「うん…でも、ぼくもドジでのろまだから、いじめられてもしょうがないのかなって..」

「そんなことはないのじゃ!いじめをするヤツが悪いに決まっているのじゃ!いじめなんてするヤツはトントンチキのスカポンタンじゃ!!」

「え?トントンチキ….何それ?」

「しょーもないヤツってことじゃ!」

「へぇー、ふふっ何かおかしいね」

「うむ!おかしな連中じゃ!」

彼女の言葉がおかしくて笑っていると、ちょっとずつ元気になってきた。
でも、やっぱり学校には行きたくなかった。
今から行ってももう遅刻だし、そうなると先生に怒られてしまう。

「はぁ〜、学校行きたくないよ…。どうしよう….」

「う〜む、そうじゃのぅ…伸太は甘い物は好きかの?」

「うん..好きだけど?」

「そうかの!それじゃ、手を出すのじゃ!」

「え?何で?」

「いいから、ほれほれ!」

「う、うん」

手を差し出すと、彼女は上着のポケットをゴソゴソして何かを取り出した。
キャンディの包み紙だ。
それをぼくの手のひらの上に持って来ると、両端をつまんで引っぱった。
中身が“ぽろり”とぼくの手に落ちてくる。

「うわぁ!きれいだね」

それは赤や青やオレンジなどカラフルな色になっていて、まるで丸い虹を見ているみたいだった。

「そうじゃろ?きれいなだけじゃなくて、とってもおいしいキャンディなのじゃ。なめてみるのじゃ」

「うん」

口の中に入れた途端、甘さと一緒に匂いもたくさんあふれてきた。
リンゴやぶどう、オレンジの果実のような風味が次々と広がってきて、ふんわりとした甘さに口の中が包まれた。
おいしくてぼくは夢中になってなめていた。

いつの間にか、なぜだかぼくはお父さんやお母さんのことを思い出していた。
仕事が休みの日にはぼくと遊んでくれたり、釣りに連れて行ってくれるお父さん。
テストで悪い点数をとると怒ってこわいけど、悲しいときはいつもそばにいてくれたお母さん。
それから今はもう会えない大好きだったおばあちゃんのことや、まだ小さくて楽しかった時のことを思い出した。

すっかり忘れていた、なつかしい思い出が頭の中にどんどんよみがえってきて、気づくとぼくは泣いていた。

バフォちゃんは泣いているぼくの横で、だまって背中をさすってくれていた。
涙が流れていたけど、心が暖かいものに包まれているような感じがして心地いい。
キャンディをなめ終わると、不思議と気持ちがスッとして涙も引いていった。

「気分はどうじゃ?」

「うん、ありがとう。なんか泣いちゃったけど、スッキリしたよ」

「たまには泣くのもいいものじゃ。そのキャンディはのぅ、なめたら幸せな気分になるキャンディなのじゃ。そうじゃ、伸太!外でわしと遊ばないかの?雪遊びをしよう」

「それはいいけど、学校サボって遊んじゃっていいのかな….?」

「大丈夫じゃ!わしに任せるのじゃ!とりあえず、ここから出よう」

バフォちゃんは出口に向かってハイハイして行った。
ぼくも彼女の後に続いて、こもっていた土管から外に出た。
外は晴れわたっていて、広場には雪が積もっていた。

「いい天気じゃのぅ〜!うむ!どうせだったら、みんなで遊んだ方が楽しいのじゃろ?今からわしの友達を呼ぶからの。ちょっと待ってるのじゃ」

「うん」


彼女はポケットからスマホを取り出した。
たぶん子供用スマホだ。
手袋をはずして、丸い指でやりにくそうに操作して電話をかけた。

「もしもし、マジィーかの?わしじゃ。….いきなりですまんが、今からこっちまで来てくれんかの?土管のある広場じゃ、わかるじゃろ?……それが男の子と会ってのぅ。伸太というんじゃが、一緒に遊ぼうと思っての。….うむ、ファミも連れてくるのじゃ。…...,うむ、すぐ来てたも!じゃあの〜、待ってるからの〜」プッ

「これでよしっ….伸太、これからわしの友達が来るのじゃ。それまで二人で遊ぼう!」

「うん、いいよ」


ぼくたちは雪だるまを作ることにした。
二人で雪玉を転がして体をつくる。
広場中を一生懸命に転がして大きくしていった。

「うんしょ、おいしょ!ふっ、ふっ…なかなか大きくなってきたのぅ!」

「うん、体はこれくらいにして次は頭を作ろうか?」

「ふむ….あっ!来たのじゃ!おぉ〜い!」

バフォちゃんが手を振る方を向くと、とんがり帽子をかぶったおかっぱ頭の女の子と、ロングヘアでキラキラした目の女の子が歩いてきた。
帽子の子は手にバケツを持っている。
二人もこちらに手を振り返してかけ寄ってきた。


「伸太さんですね?初めまして、私は魔女のマジィーと申します。よろしくお願いしますね」

おかっぱ頭の女の子がぺこりと頭を下げた。
まじめでやさしそうな優等生タイプって感じだ。

「こちらこそ」


「伸太しゃん!わたしはファミリアのファミでしゅ!よろしくでしゅ!」

となりのロングヘアの子がウインクをして横向きのピースサインをした。
アイドルの決めポーズみたいだ。
何というかアニメの世界から飛び出てきたみたいな子だ。

「うむ。それじゃあ、みんなで雪だるま作るかの!…..と、その前にマジィー、ちょっといいかの?伸太はファミと作っているのじゃ」

「え?うん」

「伸太しゃん、一緒に作るでしゅ!」



2人で雪だるまの顔を作る。

「「わっせ、わっせ..」」


バフォちゃんとマジィーちゃんは隅の方に行き、二人で何か話し込んでいる。

「実はのぅ…………...なのじゃが、何とかできんかの?」

「そういうことでしたか…はい、おまかせください」

マジィーちゃんが電話を取り出してどこかにかける。


二人をよそに、ぼくたちは頭を完成させて体にのせる作業に入っていた。

「「せーのっ….よいしょー!」」

無事に頭をのせることができた。
ぼくはすっかり汗をかいていた。



「あ、もうできてしまったかの!?」

バフォちゃんとマジィーちゃんがこっちにやってきた。

「うん、ちょうどできたところだよ」

「それなら、仕上げにお顔を作ってあげましょう」

マジィーちゃんがバケツの中にあったニンジンとミカンを雪だるまの顔につけて、最後にバケツを頭にのせて完成した。

「中々のもんじゃのー!よし、これも巻いてやるのじゃ」

バフォちゃんは自分に巻いていたマフラーを雪だるまに巻いてあげた。

「わあ!素敵ですね!」

「とっても“ぷりちぃー”でしゅ!」

マジィーちゃんとファミちゃんが歓声を上げた。




それから僕たちは雪合戦や鬼ごっこをして遊んだ。
気づいたらもうお昼ごろになっていて、みんなクタクタになっていた。

「ふぅー疲れたのぅ。そろそろ家でご飯じゃな。伸太も来るかの?」

「え!?ぼくも?」

「せっかくだから、一緒に食べませんか?」

「みんなで食べるとおいしいでしゅ!」

「それじゃあ…お言葉に甘えて」



「伸太は何か得意なことはないのかの?」

バフォちゃんたちと話しながら近所の道を歩く。

「あやとりと射撃が得意だよ。あやとりは自分で新しいのを考えたりもするんだ」

「本当ですか!?私にもあやとり教えてほしいです!」

マジィーちゃが話に食いついてきた。

「うん、いいよ。でも、男の子があやとりなんて変だよね….」

「そんなことないですよ。男とか女とか関係ないです。私はそれがなんであれ、何かが上手な人は尊敬しちゃいます」

「ありがとう、あやとりで初めてほめられたよ」

「射撃が上手なのもかっこいいでしゅ」

「うむ、伸太はいい所がたくさんあるの」

「そ、そうかな..」

普段ほめられることが全然ないものだから、こんなに良く言ってもらえるとすごく照れる。



「そろそろじゃな…..伸太、あれがわしらの家じゃよ」

バフォちゃんが指差す方を見ると、メルヘンのお話に出てくるお菓子の家みたいな赤い三角屋根の建物が見えてきた。
壁は真っ白で窓や家の形とかが全体的に丸っぽい。

「うわぁ、すごくかわいい家だね。わりと近所なのに、こんな家があるなんて全然知らなかったよ」

「最近引っ越してきたのじゃ」

「みんな一緒に住んでるの?」

「うむ、仲良く暮らしているぞ」

「ん?“さばど”?」

表札をみるとバフォちゃんたちの名前の上に“さばと”と書いてあった。

「それは気にしなくてもいいですよ」

マジィーちゃんが答える。

「さあ、中に入りましょう」

「おじゃましまーす」

中はやっぱり洋風で木製の家具が多くて、動物やアニメの人形も置かれていて、壁には
いたるところにバフォちゃんたちの写真が貼られていた。

「では、さっそく料理するのですこしだけ待っていてください」

「今日はカレーでしゅ」

「おお、それは楽しみじゃの!」

マジィーちゃんとファミちゃんがエプロンを付けて料理を始めた。
その間、ぼくはバフォちゃんとリビングで話をした。



「わし、よく知らないのじゃが、学校ってどんなことをするのじゃ?」

「みんなで勉強するんだよ。国語とか算数とか」

「朝からずっと勉強かの?」

「そうだね、お昼過ぎまで勉強するよ。それからクラブ活動とか委員会とかあって、運動会や学芸会なんかもあるんだ」

「盛りだくさんじゃのぅ!わしは勉強はダメじゃが、学校は楽しそうじゃ」

「うん…本当は楽しいけど…でも、ぼくはいじめられているから、今はあんまり楽しくないかな….」

「伸太、心配するでない。これからきっと良くなるのじゃ。わしを信じるのじゃ」

「ありがとう、今日はバフォちゃんに会えてなかったら、どうしたらいいかわからなかったよ」

「困っている者を助けるのは当然じゃ。礼にはおよばんぞ」

バフォちゃんは誇らしげに笑った。





「はーい、出来ましたよー」

料理が終わり、マジィーちゃんがカレーのなべを持ってきた。
ファミちゃんがお皿にご飯をよそう。

「うーん、おいしそうじゃのう!」

バフォちゃんがなべをのぞき込んでにおいをかいでいる。

「伸太、食べよう」

「うん」

「「いただきまーす」」

みんなが席についてカレーを食べ始める。
すこしスパイスがあるけど、辛すぎなくてお店のカレーみたいにおいしい。

「すごくおいしい。料理上手なんだね」

「マジィーは知り合いの中でも料理上手で有名なんでしゅ」

「さすがだね、マジィーちゃんって何でもできそうな感じがするよね」

「いえいえ、それほどのものでもないですよ」

「照れてるでしゅ」

「こ、こらファミ!」

マジィーちゃんが顔を赤くして怒るけど、ファミちゃんはペロッと舌を出していたずら顔だ。



「ひぃー、わしには辛いのじゃ」

バフォちゃんはぼくのとなりで水をごくごく飲んで、ひぃーひぃー言ってる。

「これロンカレーじゃないのかの?」

「はい、今日はジャジャカレーにしてみました」

「何!?ジャジャカレーじゃと!?あれは辛いのじゃ!」

「たまには違うのにしてみようかと…...。一応甘口なんですが..」

「甘口でも辛いのじゃ!ファミ、ハチミツ持ってきてたも」

「はいでしゅ」

ファミちゃんが棚からハチミツのビンを持ってきた。
バフォちゃんがふたを開けてビンをかたむけ、そのままカレーに入れようとする。

「ぬおっ!?」

ところが手がすべって、カレーの上でビンが逆さまになってしまった。
ハチミツがカレーにどっぱりかかる。

「あ〜….」

一瞬、みんな固まる。



「あ、新しいの用意しますね」

マジィーちゃんがビンをどけて、お皿を片付けようとする。

「ためしに一口食べてみるのじゃ」

マジィーちゃんがお皿を持っていく前に、ハチミツまみれのカレーをさっとすくってバフォちゃんが一口食べた。
その途端、


「ふぎゃああああ!!」


バフォちゃんは毛が逆立って、目を見開いたまま固まってしまった。

「バフォ様!!」

「大変でしゅ!!“ぺっ“てするでしゅ!!」

「バフォちゃん、大丈夫!?」

声をかけても固まったままだ。



「えっと、お水飲むでしゅ!」

ファミちゃんが急いで自分のコップを持ってかけ寄ると


「………..うまい..」

口だけ動かしてバフォちゃんがボソッとしゃべった。

「へ?」

「うまいのじゃ!!辛さと甘さが合わさって新しい味になったのじゃ!!これは大発見じゃ!!」

目をかがやかせて、満面の笑みだ。

「ええ….あれがおいしいの?ルーがほとんどハチミツだよ」

「伸太も試してみたらどうじゃ?」

「いや、ぼくはいいよ」

正直、とても食べる気にはならない。
マジィーちゃんとファミちゃんも困わくしている。

「信じられないです…」

「でしゅ….」

ぼくらがあ然としているなか、バフォちゃんはもりもりとカレーを食べ続けた。




ご飯を食べた後はすごろくやトランプ遊びをして過ごした。
どの遊びでも大抵はバフォちゃんが負けた。

「ムキィィー!!またわしが負けたぞ!!なんでじゃ!?」

「バフォしゃまは顔見れば、手札がまるわかりでしゅ」

「ならお面をつけるてやるのじゃ!次は負けんぞ!」

「まあまあ、みんなで遊んで楽しいじゃないですか。あ、そろそろ3時ですね。おやつにしましょうか」


マジィーちゃんは台所の方へ行き、お盆を持って戻ってきた。
上にはどら焼きがのっている。

「おぉ、どら焼きじゃ!毎日の一番の楽しみじゃ!」

お盆がテーブルに置かれると、すぐにバフォちゃんはどら焼きを取ってほおばった。

「ふわぁ、しあわせじゃ….」

さっきまで怒っていたのにこれ以上ないくらい幸せそうな顔をしている。

「(伸太しゃん、どら焼きはバフォしゃまの大好物でしゅ。食べればすぐにごきげんになるでしゅ)」

ファミちゃんがひそひそとぼくに話した。





バフォちゃんたちとの遊びはすごく楽しかったけど、親が心配するので夕方前に家に帰ることにした。

「今日は楽しかったよ。また遊ぼうね」

「もちろんじゃ!伸太、学校はもう心配いらないのじゃ」

「うん….行ってみるよ」

「伸太さん、お家のことも大丈夫ですからね」

「全部OKでしゅ!」

「ありがとう、それじゃあね」


みんなから励まされて元気にはなったけど、やっぱり母さんに何言われるのか怖かった。おそるおそる家に入ると、お母さんはいつも通りで何も言われなかった。
不思議だけど、バフォちゃんの言うとおりだった。





翌日、ぼくは学校に向かっていた。

「おーい、伸太!」

「待てやーい!」

後ろからいやな声がする。
振り返ると会いたくない2人がいた。
ガキ大将のタケヤンと腰ぎんちゃくのネヅ夫だ。

「やい、伸太。おまえ、昨日ズル休みしたろ?」

タケヤンが大きなだみ声で話してきた。

「え!?い、いや….」

(やばい…やっぱりズル休みってばれてるんだ….)

「先生は風邪で休みって言ってたけど、バカは風邪引かないからね」

ネヅ夫がイヤミっぽく話す。

(あれ?風邪で休んだことになっているんだ…)

「それはそうと、昨日新しいバット買ったんだよ。学校終わったら、おまえで振り心地を確かめさせろ」

「ええ!?いやだよ、そんなの」

「あぁん!?何、口答えしてるんだよ!?新しいの買ったら、まず試さなくちゃいけねぇだろ!!」

「悪いこと言わないから、タケヤンの言うことは聞いておいた方がいいよ。タケヤン、ボクも新作のラジコン買ってもらったんだよ。家で遊んでみない?」

「おお、いいな!やろう!」


二人は話しながら、先に学校へ歩いて行った。

(はぁ、やっぱりこうなるのか….)

ぼくはしょんぼりしながら、登校した。





キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
みんな起立してあいさつをする。

「皆さん、おはようございます。今日はホームルームの前に転校生の紹介をします。先生も昨日突然話を聞いたので驚いたのですが、今日から魔物の女の子が3人このクラスに入ります」

クラスがざわつく。

ぼくは胸が高鳴るのを感じた。

(まさか….)

「皆さんとは色々違うところもあるとは思いますが、学校のことを教えてあげて仲良くしてください。では、どうぞ入って」

ガラガラ

知っている3人が入ってくる。
ぼくはただ彼女たちを見つめていた。
3人がみんなの前で横に並ぶ。

「それでは、あいさつをお願いできるかな?」

「うむ!」

角の生えた子が一歩前に出た。

「オッホン、わしはバフォ様じゃ。みんなと仲良くなりたいのじゃ。よろしくのっ!」

パチパチパチパチ

次はおかっぱ頭の子だ。

「皆さん、初めまして。私は魔女のマジィーと申します。ふつつか者ですが、今日からよろしくお願いします」

パチパチパチパチ

最後にロングヘアの子が出てきた。

「ファミリアのファミでしゅ!まいねーむ いじゅ ふぁみ!ないしゅ ちゅー みぃーちゅー!」

オォー パチパチパチパチ

突然の英語の自己紹介にクラスがわき立つ。


「(むむっ、今ファミは何と言ったのじゃ?)」

「(英語で『わたしの名前はファミでしゅ!よろしくお願いしましゅ!』と言ったのですよ。セ〇ミストリートを欠かさず見てますから、自然と英語が身に着いたのでしょう)」

「(英語じゃと!?ぐぬぬ…わしより注目を集めおって….)」

「ほぉ、ファミ君は英語ができるのかね?」

「ちょっとだけでしゅ」

「いやいや、大したものだよ。みんなもこれから英語を学ぶことなるのだから、ファミ君を見習いなさい」

ハイ センセイ

拍手を受けるなか、3人が僕と目が合ってこちらに手を振った。
クラス中の視線が一斉に向いてきて、ぼくは下を向いた。


「それでは3人の席だけど….まずバフォ君は….」

「先生、わしは伸太のとなりがいいのじゃ」

「おや、比野君と知り合いなのかね?ちょうど空いていることだし、ではそうしよう」


バフォちゃんがぼくのとなりの席にやってくる。

「また会ったの伸太。驚いたかの?」

「びっくりだよ。ここに転校してくるなんて知らなかったよ」

「ぐっしっし、サプライズってやつじゃ。今日から一緒じゃの」

「うん、よろしくね!バフォちゃん」


マジィーちゃんとファミちゃんはとなり同士でぼくのすぐ後ろの席になった。


「(ふぅー、無事に入学できてよかったですね)」

「(昨日は大変だったでしゅ)」






それは昨日、伸太が“さばと”ハウスから帰った後のこと

「マジィー、わし学校行きたいのじゃ」

「そう言うと思ってましたよ。少々お時間はかかりますが、何とかしま..」

「明日行きたいのじゃ」

「えっ、明日ですか?それはちょっと..急ですね」

「伸太はいじめで苦しんでいるのじゃ。このままほうってはおけないのじゃ」

「それはそうですが….しかし、明日はさすがに厳しいですね….」

「頼む、マジィー!何とかしてたも」

「……..はぁ、わかりました。やるだけやってみます。ファミも手伝ってもらえますか?」

「もちろんでしゅ!」

「そうかの!それじゃすまんが、頼むのじゃ」

「....ですが、バフォ様..」

「ん?」

「私たちも頑張りますが、少々大変なことですので、こちらからもお願いをしたいのですが….」

「何じゃ?」

「どら焼きください」

「くだしゃい」

「なぬ!?」

「バフォ様が隠し持っているどら焼きが欲しいのです。私とファミに1つずつでいいので」

「なな何のことじゃ!?わわわわしは知らんぞ!!」

「ごまかしても無駄です。バフォ様がどら焼きは1日1個のルールを破って、ひそかに何個も食べていることは知っています。そして、それをご自分の机に隠していることも知っています」

「知っていましゅ」

「伸太さんを今日病欠にするために、お母さんの振りして連絡するのも中々大変だったのですよ。そのうえ、明日入学という無理難題も押し付けられるこっちの身にも少しはなっていただきたいものですね」

「ぐぐぐ……..たっ頼む!わしが悪かった!!許してたも!!」

「ええ、許して差し上げますよ、どら焼きをくださるなら」

「う….それは….,うむぅ....」

「バフォしゃま!!」

「ぬわっ!!?」

「伸太しゃんとどら焼きとどっちが大事なんでしゅか!!?」

「そ、それはし、伸太に決まっているじゃろ!」

「なら、何を迷ってるでしゅか!?どら焼きくだしゃい!」

「わ、わかったのじゃ..好きなだけあげるのじゃ..」

「ありがとうございます。さあ、ファミやりますよ!まずは学校関係者を調べ上げましょう!必要であれば、ほかのサバトにも応援要請をしましょう」

「はいでしゅ!」

「トホホ..」


こうしてマジィーとファミの奮闘により、バフォ達の入学は実現したのであった。





授業中の教室

「えぇー、分母が違う分数の足し算の場合は、まず通分を….. ん?こらこら、ファミ君!」

「すぴぃー….すぴぃー..どら……ぐしし..」

「バフォちゃん….今は寝ちゃダメだよ」


算数の授業中、バフォちゃんは机に顔をふせて居眠りしてしまった。
おおきな鼻ちょうちんまでできている。
周りのみんなはクスクス笑っている。

「バフォ様….」

「気持ちよさそうでしゅ..」

後ろでマジィーちゃんとファミちゃんが心配そうにしている。


「バフォ君、まだ授業中なのだがねぇ..。比野君、起こしてあげなさい」

「はい。バフォちゃん、ほら起きなよ」

起こそうとしてバフォちゃんの体をゆすった。


「うぅーん、…(パチン!)ふぉっ!」

鼻ちょうちんが割れて、バフォちゃんが目を覚ました。

「ななな何じゃ!なんじゃ!」

すごくおどろいた顔をしてガタっと立ち上がる。

「ここ、ここはどこじゃ!?わわわしはバフォ様じゃ!!」

「「アハハハハハ」」

クラスが笑い声でつつまれる。
バフォちゃんは目をパチクリさせてあたりを見回している。

「ここは学校だよ。授業中に居眠りしてたんだよ」

「学校?あ..そうじゃった!学校じゃった!あーびっくりしたのじゃ」

「バフォ君、もう少しでお昼休みだから、それまでの辛抱だよ」

「先生、すまないのじゃ。わし、頑張るのじゃ」

それから、バフォちゃんは寝ることはなかったけど、授業が全然わからないみたいでノートに落書きばかりしていた。





給食の時間になって、ぼくはバフォちゃんたちと机をくっつけてご飯を食べていた。

「はぁー、算数の授業全然わからなかったのじゃ」

「ぼくもだよ….マジィーちゃんたちはわかった?」

「ええ、私は一応わかりました」

「わたしもまだ大丈夫でしゅ」

「そっか、二人とも優秀なんだね」

ぼくはため息をつく。

「転校初日に居眠りなんて大したヤツだな」

「今日の授業なんて簡単だったよ。見た目通りおバカなんだね」

見るとタケヤンとネヅ夫がニヤニヤしながらからかってきた。

「なんじゃ、お主ら!ちぃっと眠っておっただけじゃろ!」

「なにが“ちぃっと”だよ。授業の半分くらい寝てただろ。伸太並みに寝るの早かったぜ。ククク、お前ら寝ぼすけコンビだな」

「ムキィィーー!!失礼なヤツらじゃ!!」

バフォちゃんが顔から湯気を出して怒っている。
ぼくはどうしていいかわからず、オロオロしていた。
そんなぼくの横で、マジィーちゃんがタケヤンをじぃーっとにらんだ。


「あなたがタケヤンさんですね?」

「おうよ!おれ様がタケヤンよ!なんか文句あっか!?」

「いえ、文句はありませんが..そのポッコリしたおなかが素敵だなっと思って」

マジィーちゃんが口に手を当ててクスッと笑った。

「あぁん!?お前今なんつった!!?」

「タケヤン、やめなよ。こんな連中と話してるとこっちまでバカが移っちゃうよ」

ネヅ夫がバカにしたような顔でぼくらを見る。
いつもぼくをからかう時の表情だ。

「ネジュ夫しゃん、さっきの授業中、全然問題解けてなかったでしゅね」

ファミちゃんがいじわるっぽい笑みを浮かべてネヅ夫に話しかけた。

「えっ!?」

「しぇんしぇい(先生)が答えがわかる人を聞いても一度も手を上げなかったでしゅ」

「ぼ、ぼくはそんな出しゃばりじゃないだけだよ!」

ネヅ夫が動揺して大声を上げる。

「ノートに何も書いてなかったでしゅ」

「う、うるさいな!なに人のことジロジロ見てんだよ!!」

ネヅ夫がこぶしを振って怒っているけど、ファミちゃんは全然気にしていない

「見えっぱりでかわいいでしゅ」

「かわいいって..ボクは女の子じゃないやい!!」

「くそっ、なんなんだよコイツら。魔物ってヤツはろくでもねえな。もう行こうぜ」

「うん、行こう行こう!」

二人は外に遊びに行った。



「あれがタケヤンとネヅ夫か,,,。話には聞いておったが、本当にしょーもないヤツらじゃったの」

バフォちゃんは腕組みをして鼻をフンと鳴らす。

「でも、マジィーちゃんとファミちゃんすごいね。あの二人をやり込めちゃうなんて」

「男の子なんてみんな単純ですよ。なんてことありません」

「大体みんなカッコつけたいだけでしゅ。ファミはああいうの見ると“かわいい”って思っちゃうでしゅ」

「わしは腹が立ったがの!」

バフォちゃんは怒りが収まらない。

「みんな助けてくれてありがとう。ずっとぼくがやられっぱなしだったから」

「あんなのちっともこわくないですよ。伸太さんはもう一人じゃないです」

「わたしたちがいるでしゅ!」

「わしものっ!」

「うん」

今まであんなにイヤだったタケヤンとネヅ夫があんまり怖くなくなった気がした。





キーンコーンカーンコーン

放課後になってみんな下校を始めた。

「ふぅー疲れたのじゃ。伸太、一緒に帰ろう」

「伸太さんの家は私たちの家までのちょうど途中にあるので、そこまで一緒に行きましょう」

「うん」


学校からバフォちゃんと一緒に話をしながら歩いて行く。
空からは雪がまばらに降っていた。
いつも一人で歩いた帰り道。
話しかけられるとしたら、タケヤンとネヅ夫にからかわれる時くらいだったけど、今はすごく楽しい。


「今日の授業、全然わからなかったのじゃ。特に算数はチンプンカンプンじゃった」

バフォちゃんはよっぽど算数が苦手みたいだ。

「バフォ様、1足す3足す6はわかりますか?」

「(えーと….10だよね)」

ぼくは一応計算できた。

「えぇーと..1じゃろ、それで3じゃから…」

両手の指を折りまげてバフォちゃんが計算する。

「で、6は….あ、指が足りないのじゃ。もうわからないのじゃ」

「しょのようしゅだと(その様子だと)、分しゅう(分数)の計しゃん(計算)はできないでしゅね..」

「どうすればいいのじゃ?」

バフォちゃんはしょんぼりしてしまった。

「うーん..そうですね……」

マジィーちゃんが考え込む。

「うぅ〜ん……..あ、そうだ!バフォ様いいこと思いつきましたよ!」

「おっ!何じゃ!?」

「どら焼きを思い浮かべてみてください」

「うむ….」ジュル

「あ、よだれが出てるよ」

バフォちゃんが上を向いてどら焼きの想像をすると、口からよだれがタラタラと落ちてきた。
ファミちゃんがティッシュを取り出し、よだれを拭いてあげる。

「いいですか?どら焼きが1個と3個と6個だったら合計で何個になりますか?」

「10個じゃ!」

「すごい!すぐに計算できたね」

「ぐしし….どら焼きがいっぱいじゃ」

よだれの量が増えて、ファミちゃんはあわてて新しいティッシュをつまみだす。

「それでは6個かける8個は?」

「48個じゃ!」

「2分の1個足す3分の1個は?」

「6分の5個じゃ!」

「ひゃー!ぼく、そんなすぐ分らないよ!」

「わしも不思議じゃ。どら焼きを思い浮かべるとスラスラと計算できるのじゃ」

「これでもう算数はバッチリですね!」

「うむ!助かったぞ!」

「よだれ、やっと止まったでしゅ..」

「(….あれ?じゃあ、わからないのぼくだけ?)」

なんかぼくだけ置いてけぼりになったみたいになった。

「伸太さん」

「へ?」

「伸太さんも一緒に勉強しましょうね。すぐできるようになりますよ」

「あ、ありがとう」

まるで心を読んだかのようにマジィーちゃんがやさしくぼくにほほえんだ。



ぼくらが広場の横に差しかかった時

「そこにいたか!伸太!」

急に後ろからいやな声がした。
朝と同じだ。
振り返るとタケヤンとネヅ夫がこちらに走ってきた。

「朝のこと忘れてねぇだろうな?新しいバットでなぐらせろって話」

「だ、だからいやだって言ったじゃん!」

「お前にきょひ権なんてねぇんだよ!魔物の女なんて連れていい気になってんじゃねぇぞ!!」

「そうだぞ!どうせ、人間の女の子にはモテないから魔物の子に手を出しただけだろ!?」

ネヅ夫がいつものバカにした顔でぼくを見る。

「またお主らか。お主は..」

バフォちゃんがタケヤンを指差した。

「スカポンタンじゃ」

「お、おれ様がスカポンタンだとぉーー!!!」

今度はネヅ夫を指差した。

「で、お主はトントンチキじゃ」

「トントンチキって何だい!!?」

「ちくしょう、こっちがおとなしくしてりゃ、調子に乗りやがって!もう許さねぇぞ!おれは女には手をださねぇ主義だが、お前は魔物だからいいや。覚悟しろ!!」

タケヤンがものすごい形相で鼻を鳴らし、腕まくりをした。

「タケヤンやっちゃえ!!」

「そうかの、そっちがその気ならこっちもやってやるのじゃ」

「ほぉー、このおれ様とやろうってのか?」

「こっちのやり方でやらせてもらうのじゃ。ぐっしっし、いくぞ?」

バフォちゃんが広場にある昨日作った雪だるまの方を向いて手を差し出した。

「ロリデバフォデブゥー」

呪文のような言葉をしゃべると、雪だるまが突然ガタガタと揺れだした。

「なな何だありゃあ!!?」

「うそでしょ!?」

タケヤンとネヅ夫はおどろきのあまり呆然としている。

やがて雪だるまはその場で何度かジャンプしたかと思うと、ぴょんぴょん飛び跳ねてタケヤンの方に向かってきた。

「わわ、こっち来るなー」

タケヤンがおびえながらもパンチを出した。
だけど、こぶしが雪だるまの体にずぽっと入るとそのまま抜けなくなった。

「何だこれ!?雪がしめ付けてくる!」

さらに雪だるまは雪の腕をニョキッと生やすと、タケヤンの体をとらえた。

「うげ!この離せぇー!」

タケヤンが力いっぱいジタバタしても、雪だるまは自分の体を密着させてタケヤンをガッチリと抑え込む。

「わぁー、バケモノだー!!」

ネヅ夫はタケヤンを置いて、一目散に走って逃げていく。

「お主も逃がさんぞ!ロリロリパンパン、ゴクラクヨージョー」

バフォちゃんが口の前に手の平を出して、地面に息をふっと吹きかけるとネヅ夫の足元がこおりついて動けなくなった。
必死に足を上げようとしても地面から離れない。

「あ、あ、助けてー!!」

ネヅ夫が泣き叫ぶ。
ぼくは息をのんで立ち尽くしていた。

「ぐしし、二人ともこれで何もできないのぉ」

「やめろぉー、頼むからやめてくれぇー」

「お、お金なら払うから見逃してぇー」

「二人とも伸太をもういじめないと約束するかの?」

「する!するよ!するから、もう勘弁してくれー!!」

「もうやらないよ!新しいラジコンもあげるから許してー!!」

「ふむ、こう言っているがどうするかの?」

バフォちゃんがぼくを見て聞いてきた。
ぼくはタケヤンとネヅ夫を見る。
二人ともすっかりおびえきっている。
ぼくの心には、かわいそうだという気持ち以外何もなかった。

「もういいよ。ぼくをいじめないなら、もう離してあげて」

「そうじゃのぅ。じゃが、ふぅ〜む」

バフォちゃんがタケヤンとネヅ夫を見て、何か考えている。
そして、ちらっとマジィーちゃんとファミちゃんを見た。

「その前に….マジィーとファミはどうかの?」

「“どうかの?”と言いますと?」

バフォちゃんがニヤッとする。

「この二人を“お兄ちゃん”にするというのは?」

「あぁ…それは……。ふふっ、それはいいですね。あのお腹、気になってました」

「ファミもネジュ夫しゃんをかわいがってあげたいでしゅ」

「そうかの。ならば..二人を“お兄ちゃん”にしてしまうのじゃ!!」

「はい!」

「でしゅ!」



マジィーちゃんがタケヤンの方へゆっくり近づいて行く。

「ふふふ..そのお腹“さわさわ”させてください」

マジィーちゃんは両手の指をうねうねと動かす。

「お、おい何するつもりだ!」

「優しくしてあげますよぉ♥」

「おれの腹にさわるんじゃねぇー!!」



「耳にふぅーって息をかけられると気持ちいいでしゅよ」

ファミちゃんは息をふぅーふぅーと吹く仕草を見せながら、ネヅ夫に近寄っている。

「ボ、ボクの耳に汚いものを吹きかけるなー!」

「頭もなでなでしてあげましゅ♥」

「ボクは赤ちゃんじゃなーい!!」



マジィーちゃんとファミちゃんがあやしい笑みを浮かべてそろりそろりと進んでいく。

「ふっふっふっふ」

「しゅしゅしゅしゅ」

「か、母ちゃーーん!!」

「わーー!ママーー!!」




「あとは二人にまかせて、わしらは帰ろうかの」

バフォちゃんが軽い感じで話す。

「う、うん。ひどいことするわけじゃないよね?」

いくらぼくをいじめてたヤツらでも、この状況ではさすがに心配だ。

「大丈夫じゃ。とっても良い体験になるじゃろうな。ぐっしっし」



「うぉぉ〜〜〜〜〜!!」

「ひぇぇ〜〜〜〜〜!!」

二人の悲鳴を背に、ぼくはバフォちゃんと家路についた。





その日から、ぼくの毎日は変化の連続だった。
まず変わったことは、タケヤンとネヅ夫がぼくをいじめなくなったことだ。
特にマジィーちゃんとファミちゃんがそばにいると、二人はすっかりしおらしくなって、何だかもじもじするようになった。
マジィーちゃんとファミちゃんが勉強を教えてくれたおかげでぼくのテストの成績は良くなった。

それから、ぼくの机の引き出しが魔法でバフォちゃんたちの家とつながって、いつでも家を行き来できるようになった。
ある日、いきなりバフォちゃんたちが机から飛び出した時は、ひっくり返るくらいおどろいた。
マジィーちゃんの箒に乗せてもらって夜空を飛ぶこともあったし、バフォちゃんが若返りの薬とかいうのを持ってきたこともあった。お母さんに飲ませると、本当に少し若返ったみたいになってすごくよろこんでいた。

あと、バフォちゃんたちが転校してから、魔物の子の転校生がやたら多くなった。
ファミちゃんが転校生たちに呼びかけて、アイドルグループみたいなのが結成されて、今ではちょくちょく広場でコンサートをやったりもしている。

とにかく、話しきれないくらい色んなことがあって、毎日てんやわんやではあるけど、こんなに楽しいと思える日々は今までなかった。
きっとぼくは今が一番幸せだ。





かくして、バフォ達の転校を皮切りに、サバトの娘たちの転校ラッシュが始まった。
町のあらゆる学校に入り込んだ彼女たちは、気に入った男子生徒たちを次々と“お兄ちゃん”にしていった。
無論、伸太もその対象の一人なのだが、そのことを伸太はまだ知る由もなかったのである。
20/10/02 18:23更新 / 犬派

■作者メッセージ
読んでいただきありがとうございます。
久しぶりにまた書いてみました。
ロリっ子は好きですが、文章書くのはすこぶる難しいです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33