読切小説
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戦いのあと
 暮れなずむ夕陽に照らされる中、男達は緊張した面持ちで待ち受けていた。集落で若い頑健な男達だけが表に出て、他の者は家の中に篭っていた。張り詰めた空気の中で聞こえるのは篝火が発する火音と男達の息遣いだけである。
周囲を急ごしらえの柵で囲ったこの小さな集落は、まさに戦々恐々としていた。男達は待ち受けるものが現れるだろう小高い丘を固唾を呑んで見つめていた。有り合わせの武器を各々が手に持ち、じっと息を凝らした。




 この時に先立つこと半月ほど前、複数の集落の代表者達が集い、ここ最近の不可解な出来事について話し合っていた。近隣のある集落の住民全員がある日、忽然と姿を消したのだ。代表者達は自分たちが持つわずかな情報と現場の状況から、これが魔物の仕業であると断定した。話し合いの結果、まずはそれぞれの集落を防衛し、必要な時は互いに力を合わすことを取り決めた。

代表者の中にジェイクという若い男がいた。彼は年こそまだ若かったが、精悍で責任感が強く人望がある男だった。ジェイクは集落に戻ると皆に集会での内容を伝え、急いで防衛の柵を協力して立てた。さらに彼はいざという時の心構えを住民達に説いた。
彼は付近の集落が力を合わせればこの危機を乗り越えられると信じ、皆にもそう言い聞かせていた。だが、魔物達の侵攻は想像以上に早かった。瞬く間に残っていた集落は姿を消し、最後に残ったのはジェイクの集落だけとなった。

いよいよ次は自分たちの番である。隣の集落が姿を消した翌日、丘にいた見張りが隣の集落があった方角から魔物の群れと思われる影を見た。ジェイクは腹を決め、男達を集めた。
彼らは家庭を持たない若い男達で戦闘経験は皆無だっだ。それでもジェイクを中心に集落を守ろうと団結していた。

臆する心を押し殺して彼らはじっとその時を待った。
そして、ついにそれは訪れた。


「来たぞ!」

ある者が叫んで丘を指差した。
彼の指差した先に小さな人影が見えた。
たちまち男達に緊張が走る。

人影は次々に増え、やがて十数人ほどの数になった。その者達は集落を見下ろす形で横に並んだ。夕日に照らされ、オレンジの色彩を帯びた姿があらわになる。それは人間の女のようであった。

「あれが魔物…、女なのか?」

ジェイクはやや困惑した様子でつぶやいた。

「ジェイク、俺たちどうなっちまうんだ?」

他の男がジェイクに不安そうに聞いた。

「何が来ようとやるしかない。みんなでここを守るんだ!」

ジェイクは弱気な質問者に静かに力強く答えた。

丘に立った魔物達は、全員が屈強な体つきをしていた。浅黒い肌をして自然にウェーブのかかった癖のある髪を風にたなびかせていた。腰と胸以外は露出しており、肌には刺青のような紋様が見えた。見た目はほとんど人と変わりはなかったが、耳の尖った形状が彼女達が人外の存在であることを物語っていた。

彼女達は見晴らしの良い所で歩みを止めると集落を静かに見下ろした。そして男達に視線を走らせた。一人一人を品定めするように見ている。緊張状態にある男達とは対照的に彼女達は悠然としていた。ただ、その息遣いは微かに荒かった。


やがて集団の中心にいた一人の魔物が前に進み出た。彼女は息を吸い込むと地平線まで聞こえそうな轟くような声を出した。

「人間達よ、よく聞け。私達は誇り高き戦士アマゾネスだ。私は族長ゾマの娘アネス。今宵、お前達を我らの一族へ迎えるためにここへ来た。男どもは我らの婿に、女どもは我らの同胞となるのだ」

男達は姿を見せた魔物達の姿とアネスという若いアマゾネスの言葉に困惑したが、このアネスという者に見入っていた。彼女の顔貌にはまだ成人前の未成熟な雰囲気を感じたが、同時にリーダーを勤めていると思しき風格がすでにあった。そして、彼女の堂々たる姿から溢れる覇気に男達は圧倒された。
そのような勢いを感じさせるのはアネスだけではなかった。彼女の後ろに並んでいる他のアマゾネス達も劣らぬ存在感を放っていた。彼女達はまだ若く、成人のアマゾネスと比すれば経験は劣っていた。しかし、彼女達の中に流れる魔物という人外の血が生み出す烈々としたオーラが、男達をすっかり呑み込んでしまっていたのだ。彼女達の佇まいは、自身の存在を見せつけるかのように自信に満ち満ちたものだった。


「恐れることはない。お前たちを傷つけたりなどしない。無駄な抵抗はやめ、おとなしく服従した方が賢明だぞ」

アネスの低く落ち着いた声が響く。

男達は互いに顔を見合わせた。どういうことだと皆が混乱していた。ジェイクはただ一人状況を理解しようとしていた。今まで消えた集落には争ったような形跡はあるのに、死体はおろか血痕すらもほとんど残っていなかったという話を彼は聞いていた。それらの情報とアネスの話を聞いて、彼は考えを巡らせていた。

アネス達は丸腰だった。また、彼女達からは殺気といったものを感じない。ただ、アマゾネスが纏う空気から彼女達が圧倒的な強者であることは明らかだった。


住む世界が違うのだと男達は悟った。彼女達は生まれながらの戦士だ。それに比べて自分たちは、所詮は戦いを知らない田舎の農民に過ぎないのだと。
そして、自分たちに待ち受ける運命が瞬間的に彼らの前に閃いた。彼らは狼狽し体が震えた。それでも視線を彼女達から離すことはできなかった。


丘の女戦士達に視線を奪われていると、次第に男達は奇妙な感覚を覚えた。自分たちの中に別の感情が漂い始めているのだ。その感情は彼らの心にひっそりと染み渡っていき、次第に認識せざるを得なくなった。


それは何か期待や羨望、さらには劣情のようなものだった。男達は自分達の心の動きを感じとり、戦慄した。にわかには理解し難い心の揺らぎは、だんだんと大きくなっていき、もはや拒否できないものになっていった。

遠目でもわかるアマゾネス達の恵まれた体格と隆々とした筋肉。夕陽に照らされ映える褐色の肌。野生的な風貌と男達を見つめるどこか熱を帯びた視線。そして、アネスが放った”婿”という言葉。それらと対峙するうちに男達は切ない気持ちを抱き始めていたのだ。彼らはいずれも女をまだ知らなかった。


男達の士気は大いに下がっていた。皆、自分たちが戦おうとしていたことすら忘れかけていた。女戦士達をただ呆けたように見つめていた。
ジェイクもまた同様の状態に陥りかけていた。しかし、彼は周囲の空気を敏感に感じ取り、自分を奮い立たせ叫んだ。

「みんな、どうした!何を腑抜けているんだ!しっかりするんだ!!」

男達は我に返り、何とか戦意を取り戻した。

「ジェイクの言う通りだ!みんなボサっとするな!!」

ジェイクの掛け声で彼らは鬨をあげた。



彼らの様子を見ていたアネスはジェイクを注視した。

「ほう、ジェイクというのか…。いいな、気に入ったぞ」

アネスは上気した声で一人つぶやいた。アネスはジェイクという男がこの集落の精神的支柱であることを立ち所に察知した。彼女の口元が緩んだ。

「ふふっ、あの男に決めたぞ。おい、お前達!あいつは私の獲物だ!誰も手を出すんじゃないぞ!」

アネスは少しだけ振り返り、他の仲間に呼びかけた。

「ああ、いい男だけどアンタにやるよ。アタシはあっちの男にするよ」

近くにいたアマゾネスが別の男を指差し答えた。彼女達は男達の中からそれぞれ相手を決めていた。

「みんな、相手は決めたか?さあ、行くぞ!!」


 アマゾネス達の進軍が始まった。大股で素早く丘を下った彼女達は集落の防衛柵に近づいていった。

「柵を越えさせるな!」

柵を守ろうと何人かの男達が出てきた。アマゾネス達はそんな男達を尻目に大柄な体からは想像できないほどの跳躍力を見せ、軽々と柵を乗り越えた。柵のそばにいた男達は呆気にとられて、なす術もなく彼女達に取り押さえられた。
残された男達は武器を手に取り、叫びながら女戦士達に挑みかかった。アマゾネス達は何の恐れもなく目当ての男達に向かっていき、彼らの武器を弾き飛ばしたり破壊した。そうして彼らを傷つけないように注意深く組み伏せた。一人で複数の相手をするアマゾネスもいたが、全く苦にする様子はなかった。攻撃が当たっても彼女達は一切怯むこともなく、赤子の手をひねるように男達を圧倒した。



ジェイクは手にしている木の棒をアネスに突きつけ牽制した。

「今すぐここから立ち去れ!魔物め!!」

ジェイクは鋭い眼光でアネスを睨みつけた。

「勇ましいな、ジェイク。私のものにしてやる」

「馴れ馴れしく俺の名を呼ぶな!」

「そういきり立つな。お前達を愚弄するつもりなどない」

そう言うとアネスはジェイクとの距離を詰めた。ジェイクが棒を突き出す。アネスは横に交わし棒を掴むと手を捻った。拳ほどの太さのある棒が木の枝ようにミシミシと音を立てあっさり裂けた。
ジェイクは武器を手放し、素手で彼女に向かった。武術を修めてはいなかったが、自身の逞しい肉体を武器に彼は果敢に相手に挑んだ。
彼の渾身の突きをアネスは交わすこともなく、仁王立ちのまま腹部で受け止めた。拳はわずかに体にめり込んだが、アネスは微動だにしなかった。

「いい突きだ。手を痛めなかったか?」

アネスの姿は生徒に稽古をつけてやる師範のようだった。ジェイクは敵との歴然とした力量差にひるむことなく、再び突きを脇腹に喰らわした。結果は変わらなかった。

「腹よりもっと急所を狙ったらどうだ?」

アネスは棒立ちのまま問いかけた。

「クソっ、馬鹿にしやがって!」

ジェイクは体勢を整え、ローキックを繰り出した。彼が蹴りを当てた太ももは大木のようにそり立っていた。それからジェイクは破れかぶれになりながらも攻撃を続けた。だが、アネスは何事もなかったのように直立の姿勢を崩すことはなかった。





「はあ…はあ…、クソっ…」

いくら攻撃を繰り返してもビクともしない相手を前にジェイクは息切れした。膝に手を付き彼はうなだれた。若い勇者は歯を食いしばり己の無力さに打ちひしがれた。
アネスは彼を見下ろし、慈悲深い表情を見せた。

「悪くなかったぞ。もっと急所を狙っても良かったものを。だが、お前のそんな所も気にいったぞ」

「くっ…」

ジェイクは周囲を見た。彼の他に立っている男はもはやいなかった。皆、歴戦の女戦士になす術もなく敗れていた。彼は最期を覚悟した。

「ジェイク、お前とこうして相見えたことを誇りに思う。よく戦った」

優しく励ます母のようなアネスを前にし、ジェイクは童心に帰ったような感覚を覚えた。そんな自分を彼は嫌悪した。彼は最後まで自分の役目を果たそうとしていた。自分が屈服するのは、この集落の最後を意味することを彼は知っていた。男達もアマゾネス達も皆、ジェイクとアネスのやり取りを見守っていた。

アネスは他の者の戦いが終わっていることを確認するとジェイクの前に跪き、彼の目を見つめた。

「ジェイク、私の婿になってくれ。必ず幸せにすると誓う」

直接的で真摯な告白だった。ジェイクは自分を覗き込むアネスの態度に微塵の偽りもないことを認めた。しかし、あまりに唐突だった。

「バカな!いきなりやって来て求婚してくるなんてどうかしてる!他の集落の者達をみんな攫ったのだろう!彼らはどこにいる!?」

「先に言ったではないか。お前達を同胞にすると。他の者達はすでに我らの同胞となり、我らの集落で生きている」

やはりとジェイクは思った。攫われているという予想を彼は持っていた。

「同胞とか言うが、攫って奴隷のように扱っているのではないのか?」

「違う、男も女も我らの仲間として迎え入れている。来れば分かる」

「信じられないな」

「今までの者達もそうだった。だが、我らの成人の儀を見れば考えを改めた。お前達もそうなるだろう」

「成人の儀だと?何だそれは?」

「文字通り我々が成人として認められるための儀式だ。今晩、私とお前が最初にそれを行う。ここいる全員の前でな」

「何をするというんだ?」

ジェイクから問い詰められ、アネスは彼をまっすぐに見据えた。沈む寸前の太陽に照らされた彼女は燃え上がるような色をしていた。

「愛の契りを結ぶのだ。お前達、人間の夫婦と同じように。ジェイク、一目見た時から私はお前に心を奪われた。私たちは本能的に選ぶべき相手が分かるんだ。私の婿はお前以外に考えなれない」

アネスの熱情的な愛の言葉にジェイクは激しく動揺した。そして彼女に対して密かに感じていた浅ましい情欲がふつふつと沸き起こっているのを感じた。

「私と契りを結んでくれ、ジェイク。私を信じてくれ」

ジェイクは敗れた男達の顔を見た。彼らの戦意は完全に失われ、自らの運命に静かに首を差し出そうとしていた。ジェイクはアネスの曇りなきまっすぐな目を信じることにした。

「分かった。あんたを信じよう」

「ありがとう、ジェイク。お前の信頼を絶対に裏切ったりしない。さっそく儀式の準備に取り掛かろう」

一人の怪我人も出すことなく、戦いは一方的に終わった。そして、アマゾネス達は儀式の準備を始めた。





 集落の中央の広場に全ての人々が集められた。男だけでなく、家に篭っていた女たちも集められた。アマゾネス達はそれぞれが選んだ男をそばに置いていた。
陽は完全に沈み、空には三日月が浮かんでいた。広場の真ん中には大きなベッドが運ばれた。その周りを皆が取り囲む形となっている。
ベッドのそばにある大きな篝火に照らされ、炎を宿したようなアネスが立っていた。ベッドにはジェイクが腰掛けていた。アネスは周りを見渡し、神妙な顔をして言った。

「これより、私とジェイクは我が一族の神聖な儀式を行う。これを皆に見てもらうのは、我らの在り方を示し、その素晴らしさを知ってもらいたいからだ。また、此度私がこの儀式を遂行することで、私もついに晴れて成人となる。私はこの儀式で同胞が自らの種族を誇りに思うことを願う。そして我らが夫婦になることを祝してもらいたい」

アネスの高らかな宣言にアマゾネス達は歓声を上げた。集落の者達は、様々に入り乱れた複雑な感情を持って見守っていた。


アネスは振り返りジェイクを静かに見つめた。

「何をするか分かっているな、ジェイク?」

「ああ…」

ジェイクは彼女を見上げて答えた。

「大丈夫だ」

アネスはそう言うと、ジェイクの隣に腰掛けて彼の上衣を脱がせた。あらわになった彼の体を愛おしそうに撫でて、戦いでの疲れを労わった。ジェイクはアネスの大きな手から熱い体温を感じ、穏やかな炎で暖められている感覚がした。
アネスが彼をそっと抱き寄せ、耳元にキスをした。彼はアネスの温もり包まれ、女の胸の感触と体の柔らかさを初めて知った。

体をひとしきり愛撫するとアネスはジェイクをベットに横たえさせた。そして、彼のズボンを脱がせた。すでにそそり立っていた彼の逸物を見て彼女は嘆息を漏らした。彼女はジェイクの足元に跪き、逸物に顔を寄せるとその熱を顔に感じて楽しんだ後、それを咥えた。
厚い唇を窄めて極上の肉を味わうかのように、アネスは目を細めてゆっくりとしゃぶった。ジェイクは初めての感覚に身悶え、陰嚢から急速に精液が込み上げてくるのを感じた。未知の経験にとても耐えられそうになかった。アネスもジェイクの状態を感じ取ったが、慌てずにじっくりと逸物を口でしごいた。
口の中にある肉厚の舌に粘度の高い唾液をまぶされてジェイクの逸物はオイルをまとったようにぬらっとした光沢を帯びた。ジェイクの逸物の根本から先端までアネスは唾液を何度も丹念に塗り重ねた。
アネスの動きはゆったりとしていたが、女の体に浸ったことのないジェイクには十分すぎる刺激だった。彼は口をぱくぱくとして必死に堪えようしたが持ち堪えられず、体を海老反りにしてぶるっと震えて果てた。アネスは突然の射精に驚くこともなく、根本まで彼を咥え込んだまま精液を飲み込んだ。ごくんごくんと彼女の喉が蠢き、ジェイクの精子を飲み込む。長い射精を終えて、ジェイクがぐったりすると、アネスは乳搾りをするように彼のモノを根本から口で搾り取った。時間をかけて彼を引き抜いていき、最後に亀頭にキスをするように口を窄めた。そのまま残った精液を丁寧に吸い取ると、ぷちゅっという音を立てて名残惜しそうに口を離した。
アネスの唾液に包まれたジェイクの逸物からホカホカと湯気が立っているのが篝火に照らされ観衆の目に映った。


周りで見ている者達は息も漏らさずにその光景を眺めていた。それは淫靡な行為だったが、アネスが言った通り神聖さも帯びているように感じられた。他のアマゾネス達は無意識のうちに自分達の男を抱き寄せていた。男達は抵抗するでもなく、彼女達の体に身を預けた。



アネスは膝立ちになり口の中に残った、どろっとしたジェイクのものを舌で転がしてじっくりと味わった。味わい尽くすと天を仰ぎ、唾液とともにごくんと音を鳴らして盛大に嚥下した。彼女の喉から食道を通り、胃袋まで自分の精液が流れる動きをジェイクは一心に見ていた。月明かりと炎に照らし出された彼女の姿は女神のように神々しかった。アネスは体を流れるジェイクの子種をうっとりと味わった。そうして余韻に浸った後、ジェイクをゆっくりと見下ろした。

「美味だったぞ、ジェイク。天にも昇りそうな気分だ。お前も私を見てくれ」

彼女はベッドの上で身につけていたものを取り払った。彼女の十分な大きさを持った乳房と、まだ誰も迎えていない秘所があらわになる。男達はアネスの野生的な妖艶さを目の当たりにし、衝撃を受けていた。ジェイクもまたこの女神と自分がこれから交わるのだと思うと、彼の生命は昂り、逸物に血潮がたぎるのを感じた。
アネスは力強いジェイクの逸物に跨ると、手を添えてゆっくりと腰を下ろした。彼女の肉のひだが開き、彼を迎え入れていくのがジェイクからよく見えた。ジェイクは徐々に彼のものが先端から柔らかく心地よい温もりに包まれていくのを感じた。そうして根本まで包まれると、体中が離れ難い心地よさで満たされた。

「ああ…」

彼の口から切ない声が漏れ出た。

「ジェイク…」

アネスはジェイクを求めて彼の上に体をかぶせた。互いに抱き合い、心臓の鼓動を感じ合った。先ほど一度射精してなかったなら、自分はもう果てていただろうとジェイクは思った。動いていないのにただ彼女と繋がるだけで、どうしようもなく彼女を求めて抱きしめた。ついさっきまで戦っていたはずの敵の肉体は、今やジェイクの極楽浄土となり、彼は夢中でその肉体を味わった。背中の筋肉の造形を手でなぞり、その形状を隅々まで知り尽くそうとした。体内に溶岩が流れているかのように熱いアネスの体温を自分に移そうと体を密着させた。
あまりに力強い存在に包まれたジェイクは、生物ではなく生命を与えられた雄大な自然の造形物に抱かれているような錯覚に陥っていった。人では全く太刀打ちすることもできない、圧倒的な存在が自分を包んでいるという倒錯的な感覚に彼は興奮を覚えた。


アネスはジェイクの感じている興奮と慕情を己の内に感じ、ジェイクへの抑えきれない愛しさで体が震えた。彼女は人と比べてあまりに並外れた自身の力で、決して彼を傷つけてしまわないように彼を優しく抱き寄せた。彼を全身で求めたいという欲求と彼を壊してしまうのではという恐怖がない混ぜになった。

そうしていると彼女の脳裏に母ゾマが父を抱いている光景が不意に浮かんだ。母は父を毎晩のように抱いていたが、その姿は父にすがり付いているようにアネスの目に映ることがあった。誰よりも勇敢な族長の母ゾマが、父を抱いている時に見せる、何か弱さのようなものの意味をアネスはこの時初めて理解した。母は父を心から愛している。そして、その強い愛から彼を失うことへの恐れが生み出されたのだ。死すらも恐れない母がなぜ時折弱く見えるのか、その長年の疑問の答えが、この儀式で解き明かされた。アネスは深い感慨とともに、この己の弱さを知ることも含めて成人になることなのだと知った。儀式の尊さを身で学び、皆にこれを伝える役目につけたことを光栄に思った。



ジェイクはアネスの加減した抱擁に物足りなさと寂しさを感じ、彼女に素直に要望を伝えた。アネスは少しずつ様子を伺いながら彼の要求に応じた。二人は腰をゆっくり動かし始めた。そうして全神経を集中させるうちに二人の呼吸はぴたりと合い、体の動きは一つの生命となって見事に連動した。二人は自身と互いの限界を把握するようになり、同時に絶頂を迎えるために高めあった。今日出会ったばかりの二人は、阿吽の呼吸で足の爪先から頭頂部まで一心同体となった。
彼らの営みは甘美で芸術的で見ている者たちの時を止めた。皆が二人を永遠に眺めていたいとさえ思った。
営みは徐々に激しく燃え上がり、そして劇的な終わりを迎えた。


ベッドの上で振り子のように動いていた二人は、突如、一際大きな喘ぎ声ともに運動をぴたりと止めた。互いの体に自身を埋めこもうとして一際強く結びついた。体が硬直して震え合い、乱れる息が相手の耳に吹きかけられた。脈動する彼は、燃えたぎる彼女の中で熱烈な愛撫を受け、迸る欲望を力の限り撒き散らした。彼女は白いマグマのような粘液を情熱的に受け止めて、自身の最奥に迎え入れた。その神秘的なやり取りは肉体に隠されていたが、周りの者たちには、まざまざと見えていた。ドクンドクンとなる生命の息吹を二人は分かち合った。また、この神秘の先に生命が誕生するという真理を二人で体得した。
どこにそんなに蓄えてあったのかと思うほどのジェイクの精液をアネスは全て受け入れた。自身の中にジェイクを感じ、彼女は陶酔した。
互いの汗で濡れた二人の姿が夜の中で怪しく光った。

婿の生命を自身の体に流し込むことが儀式の終わりを意味していた。儀式は筒がなく、これ以上ないほどに素晴らしい形で終えられた。
だが、それは性の宴の終わりまでは意味しなかった。




あまりに長い精の放出とその受容をやり切り、心から満たされた二人は虚脱感の共有を楽しんだ。やがてそれが落ち着くと、二人は顔を見つめ合い初めての口付けを交わした。これからの人生でどれほどするかわからないこの行為に無我夢中で耽った。
ジェイクは彼女の肉体のように大きく逞しい舌と甘い蜂蜜のような唾液を舐めしゃぶった。柔らかくぷっくらした唇の輪郭を何度も舌でなぞり、腫れるほどに吸い続けた。アネスは求められるがままに彼に唇と舌を預け、彼の口内に唾液を与えてやった。物足りないようなら唾液を溜め込み、数秒嚥下できるくらいの量の蜜液を垂らしてみせた。
口づけの合間に時折短い息継ぎをすると、またすぐに口に吸い付いた。舌と舌の間に唾液の糸の橋ができたら小休止してそれを眺めた。橋が垂れ下がり崩れるとすぐにまたそれを作り直した。


自分と相手の体の境目が分からなくなるほど二人は強く結びつき、強く求めあった。アネスは自身の欲望のため、またジェイクの自尊心を満たしてやるために彼を求めた。人と魔物の間に生物として超えがたい壁を感じて、いささか卑屈な求愛をジェイクがしていることをアネスは感じ取っていた。彼に自信を与えてやるため、彼をいかに求めているかを伝えようとした。初々しい恋人同士がするように求める気持ちの強さを比べ合いもした。
そうして行為に耽る中、ジェイクはアネスの肉体の全ての形状から重み、質感、体温、匂い、体液の味と粘度、性感帯、さらには胎内のあり方まで全てを知り尽くすこととなった。二人はこの一晩で魂まで結びついた生涯の伴侶となった。





 アネスの乳房にしばらく吸い付いた後、ジェイクはふと周りを見た。彼は久方ぶりに自分の置かれていた状況を思い出した。そして、変わり果てた集落の光景を目の当たりにした。

かつて戦っていた戦士達は性行為の真っ最中だった。立ったアマゾネスに赤子のように抱きつき、彼女に抱えられながら腰を動かされている者、アマゾネスの顔に逆向きの肩車の状態でまたがり、自身のものをアマゾネスの口に入れている者、寝台に横たわるアマゾネスの胸を揉みしだきながら夢中で吸う者。さらに人間の夫婦までも公然と淫らな行為に耽っていた。夜はまだ明けず篝火は燃え盛っていた。


ジェイクはその光景を呆然と眺めた。
アネスはジェイクの隣で彼の頭を撫ぜながら、満足げに語りかけた。

「どうだ、私の言う通りになっただろう。ここにいる者は全て我らの同胞だ」

ジェイクはアネスの言葉を聞きながら彼女に身を委ねた。

「明日、私達の集落に行こう。母達も歓迎してくれるはずだ。ジェイク…我が婿よ」

抱き寄せるアネスの腕の中でジェイクは静かに目を閉じた。


25/05/26 22:55更新 / 犬派

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