ロリッ娘デビルのビーデちゃん
深夜の屋敷。4人の使用人が厨房室の前で息をひそめていた。
「ベロベロペロペロ…」
部屋の中からは何かを舐めとる音が聞こえる。
「お楽しみ中のようね」
4人の中で先頭にいるメイド服を着た女性が静かにつぷやいた。彼女はメイド長である。
「いい?私が合図したら躊躇せずにすぐにその拘束具を着けるのよ」
メイド長が後ろにいるメイドに静かに耳打ちした。指示を受けた彼女が緊張した面持ちで頷く。手には両手を拘束する腕輪が持たれている。その隣には首輪の拘束具を持った者もいた。どちらにも魔法の紋章が刻まれており、そこには強力な魔法がかけられている。
「失敗は許されないわよ……」
メイド長が厨房のスイングドアをわずかに押して中を伺う。照明が点いていないため室内は暗いが、奥の方で大きな冷蔵庫が開いており、そこだけわずかに明るかった。冷蔵庫の光に照らされた何者かが地べたに座っているのが見える。
「ペロペロペロペロ……うぅぅ〜ん♪」
「今よ!!」
メイド長の声とともに4人が一斉に中に雪崩れ込んだ。
ダダダダダッ
カチッ
照明のスイッチが押され、厨房全体が照らし出された。音の主もはっきりと姿を現す。
「デビッ!?」
その者は目を丸くし顔は驚きに満ちていた。小さなお腹はぽっこり膨らんでいた。
「はぁ〜、またサービス残業か…」
仕事が終わり、僕は家路についていた。電車の駅を降りてトホトボと自宅近くの公園に入る。
「ふぅ〜」
花壇の前のベンチにドサッと腰を下ろして缶コーヒーを飲む。仕事終わりのつかの間の休息だ。
「今月、残業何時間だろ」
意味もなく1人で呟いて星空を見た。少しだけど光る星が見える。こんな風に夜空を見つめるのがすっかりルーティンになっていた。
「綺麗だな」
“……こっち…デ…”
「えっ?」
不意に何か聞こえた気がした。あたりを見回すが夜遅く誰もいない。
「とうとう幻聴まで聞こえたか。こりゃヤバいな」
“……ない…ビ、……来るデ…後ろ……”
「んん?後ろ?」
また聞こえてきた。少女と思われる声が脳内で直接響くような感じだ。かすかだけど後ろと聞こえた。立ち上がり後ろの花壇を覗き込んでみた。近くに木立があり影になっているので暗い。
「う〜ん」
良く目を凝らすと奥の方に何か箱の様な物が見えた。
「あれか?」
もしかしたら音を発するおもちゃでも入っているのかもしれない。花を踏まないように慎重に足を踏み入れて箱に近づくと、それは小さな木箱だった。紋様みたいな装飾が施されている。上は開いており中が見えた。そこには高級感のあるタオルが敷かれていて、体がくるめられている人形が置いてあった。タオルから顔が出ている。
「これは…デビル?」
魔物娘のデビルだ。僕はその存在を良く知っていた。包んでいたタオルから人形を出してみると、それは精巧な出来であることが見てとれた。翼と尻尾が生えており、青白い肌に赤い瞳、そして小柄だけどちょっぴりムチムチしていて何ともハレンチな格好をしていた。
「すごいな、これ」
手に触れると質感も見事な作りようだった。翼や尻尾、肌の部分を触ると実際に生き物に触れているような感触がする。肌の部分はプニプニで気づいたら僕は夢中になって触っていた。
“えっちデ…”
「えっ!?」
また脳内に声が聞こえた。今度はさっきよりもはっきりと聞こえる。しかも僕の行為に対して言っているようだ。
「嘘でしょ」
“…持ってか…デビ”
「持って帰る?」
そう言っているようだった。突然の出来事に僕はビビっていたが、それ以上にこの人形の不思議な魅力に惹かれていた。
「……」
周囲を確認すると僕はサッと人形を鞄に入れて足早に帰った。
(持って帰ったはいいけど、どうしよう……)
帰宅してから人形の声が聞こえない。
やっぱり幻聴だったのだろうか。
「何とか言わないの?」
何となく人形を眺めながら一人呟いてみた。
“ザー…るぶっ…るデ…”
「ん?」
突然あの声がまた聞こえた。
ザーじる……けるデビ
「ザーじる?ザー、じる…汁、ぶっける……むむ!?」
何やら良ろしくないことが頭に浮かんだ。”まさか”である。
「あのー、ザーじるってザー汁?もしかして…ザーメン…だったり?な、なんてね!」
ちなみにこんなことが頭に思い浮かんだのは日頃からそういうことばかりを考えてるからとかではない。断じて違う。だけど、とりあえずこの謎の人形の秘密を解き明かさなくてはいけない。というわけで恐る恐る聞いてみた。
“デビッ!”
元気な声が聞こえた。
「マジか…」
どうやら”まさか”だったらしい。何ということだろう。僕の考えが正しいならこれは中々なことである。でも、ちょっぴり何かを期待する自分もいたりした。
「あ、そ、そっか。うん、とりあえずやってみるよ。お願いされたからね、仕方ないね」
僕は自分に言い聞かせるように呟きながら、トイレに向かった。人形を手にして。
トイレに入るとズボンを下ろして便座を上げて便器に跨った。僕のいつものオナニースタイルである。トイレでやるのは処理が楽だからだ。でも人形をオカズにしたことはない。
(あーもう、やってやる!仕事で疲れてるけど、何かムシャクシャしてるし、やってやる!最近ご無沙汰で溜まってるし!!)
僕は手に握った人形を見た。ツヤツヤとした肌の局所が黒光りした着衣で隠されていてる。足の先には真っ黒のブーツが履かれている。
(…脱がせたりできるのかな)
履かれているブーツをそっと下ろしてみた。中からキレイな足が出てきた。指先までちゃんとついている。僕の呼吸がわずかに荒くなった。
(む、胸は…)
胸の着衣をそっと外すと肌より濃い青色の乳首が見えた。小ぶりだけどささやかな膨らみがある。
(す、す、すごい)
親指で軽く押してみる。小さいけど乳首の突起と胸の弾力をしっかり感じた。
“えっちデビ”
また声が聞こえた。嫌がるわけでなく、むしろ喜んでいるような扇状的な声だった。
「うっ」
何か罪悪感を覚え始めたけど、僕の指は人形の腰に伸びていた。もう止まらなかった。
「あっ」
小さな下着を取ると、太ももの間の大事な部分がむき出しになった。毛は一本も生えてないツルプニの秘所が見えた。
(こ、ここに…)
人形の足を少し開いてみると思いの外しっかりと開いた。
「ふぅ…ふぅ…」
人形のお股を僕のアソコに近づけていく。
「ごくっ」
ぴとっ
人形のお股と僕の亀頭の先端が吸い付くようにくっついた。人形が僕のアソコに股を開いて座っているような状態だ。何という光景だろう。
「はぁ…はぁ…」
人形を少しだけ前後に動かしてみる。人形のお股の肉が僕のアソコに合わせて蠢き、ほんのちょっとだけ先端が中に入っていくような感触がする。すごく背徳的だ。
(これ…ヤバい…)
僕は夢中で人形に自分を擦り付けつつ、竿を自分の手で刺激した。僕のアソコはすでにギンギンになっていた。
「あっ」
始めての感覚と興奮で僕はあっという間に限界を感じた。
“ぶっか…デビ!”
「出るっ!!」
声と同時に勢いよく射精した。人形の股を汚し、体全体に精液が付着する。その様に興奮してさらに精液が溢れ出てくる。
どくどくっ…
「ふぅ…」
少しして絶頂は終わった。
(人形に出しちゃったよ…)
汚された人形を見て呆けていると—
“たくさん出したデビね♪”
ピカッ!
突然、人形から光が放たれた。
「うわっ!?」
目の前に光のシルエットが浮かび始めた。それは少女の形をしているようだった。
“まったく、とんでもないロリコンデビッ!”
光から声がする。
「うえっ!!?」
ドボンっ!
動揺のあまり、僕の手からスルリと人形が落ちて便器の中に落ちた。
“あっ!!何してるデビ!早く拾うデビ!!”
光のシルエットが慌てた口調で命じた。
「えっ!?あっ!!」
狭い個室の中でどたどたした。後ろによろけて頭をドアにぶつける。
ガンっ!
「いたっ!!」
“は、早くするデビ!!ザー汁が消えちゃうデビ!!”
シルエットの光がなぜか弱まり始めた。訳も分からず便器の中から人形を拾い上げた。
「わー、汚れちゃった」
ドロッとした精液で汚れた人形をタオルでしっかり拭き取った。
“バカ!何してるデビッ!?ザー汁無くなるデビ!!魔力が……”
「えっ!?」
シルエットが急激に消えていった。それと同時に手に持った人形の光も収まっていく。
“もう一度やるデビッ!!ザーじ…”
ひゅん…
光が完全に消えた。
僕はトイレの中で人形を持ったまま呆然としていた。
「ただいま」
仕事から帰ってきた。家に住んでいるのは僕だけだ。だから、いつもは何も言わないけど今日は言ってみた。
「帰ったよ」
僕はテーブルの上に置かれているあの人形を見た。
昨日、僕は疲労でもう一発やることが出来ずにそのまま寝てしまったのだ。そして、今日もまた残業して帰ってきたのである。
“待ち…れた…ビ、早く…デビ”
「うん」
人形を持ってまた僕はズボンを下ろした。今日は別のオカズも添えた。テープルにセットして準備完了だ。そして、リビングで昨日と同じように行為に及んだ。
———「あっ…」
どぴゅっ!
またも刹那の射精で人形が白く汚された。
ピカッ!
再び人形からあの光が放たれる。そして、空中に光のシルエットも現れた。
“ふぅ〜、やっと戻れるデビッ!!”
ビカーン!
光がひときわ強くなり、思わず目を閉じると手に持っていた人形の感触が消えた。
「あれっ?」
手を見ると人形が無くなっている。
「こっちデビ」
「ふぇ?え、えぇぇっ!!」
声のする方を見ると、光のシルエットだったものが本物のデビルとなっていた。ぷかぷか浮いており腕組みをしている。
「ほっ、本物?」
「本物デビッ!あーちはビーデちゃんデビッ!天才デビッ!!」どんっ!
突如、自称天才ロリっ娘デビルが現れた!
ただ名乗っただけなのにドヤ顔まで決めている。
「い、一体何が起こったの?」
「あーちはあの人形に閉じ込められていたデビ。でも、おめぇーのザー汁のおかげで魔力を取り戻して復活出来たデビッ!」
ヤッホーと部屋をビュンビュンとビーデちゃんと名乗る少女が飛び回る。あまりのことに呆気に取られる僕。
「デビッ!?これは何デビ?」
ビーデちゃんがテーブルの上のある物に目を留めた。
「げっ!それはっ!」
凄まじく動揺していたが、それでも僕の体は瞬時に反応した。それは絶対に人に見られたくない物だからだ。
急いで手を伸ばして回収しようとするが、
サッ
「ふむふむ…」
ビーデちゃんが素早くそれを手に取り中身を読んだ。そして、ニマァーとやらしい笑みを浮かべてこちらを見た。
「おめぇー、始めっからあーちのこと好きだったデビか?」
「うぐっ!!」
彼女が手にしているのはオナニーする時にオカズにしていた薄い本。
“モン娘パラダイス!!ロリッ娘編!!”である。
そして、その中で一番の僕のお気に入りであるデビルのえちえちシーンを開いていたのである。彼女はそれをこれ見よがしにこちらにぶらんぶらんと見せつけている。
「うっ…うっ…」
急に嗚咽がした。
「あっ、本棚にも一杯あるデビッ!」
ビーデちゃんがピューと本棚へと飛んでいく。マズイ、そっちは非常にマズイ!!
「ダメっ!子供は見ちゃダメ!!」
「ふむふむ…妹、○学生、デビル……全部ロリっ子デビ!なるほど、やっぱりおめぇーは、あーちが見込んだとおりのロリコンデビ。変態ロリコンどーてーデビッ!!度し難いデビッ!!」
ビシッとビーデちゃんが僕を指差さした。そう、本棚にはロリコンの夢が詰まった本がたくさん収められていたのである。
「終わった、トホホ……」
ずっと隠していた秘密がバレた。それと何故か童貞であることもバレた。もう死にたい。
「でも、おめぇーみたいなヤツは大好物デビッ!おめぇーの願い、今叶えてやるデビッ!」
バッ!
「わっ!?」
いきなりその場に押し倒された。彼女が僕の上にまたがると股の下着を脱いだ。そこはさっきの行為の影響か、もうぐっちょりと濡れていた。そして、むき出しになっていた僕のフルチンに何の躊躇もなくあてがった。
「えっ!?ちょ、いきなり!?こ、こ、心の準備が」
「やるデビッ!!」
グチュン!
「おわぁーーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
「あぅぅーーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
「ひゃああーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
「ぬわぁーーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
ロリ穴を抜けると、そこは楽園だった。僕はビーデちゃんにめちゃくちゃに犯された。それはもうすごかった。身体中のあらゆる部分を舐め尽くされ、二人とも身体がドロドロになって、僕の精液を一滴残らず搾り取られた。すごく気持ち良かった……
ジリリリリッ、ジリリリリッ……
目覚まし時計がうるさく鳴り響く。
「う〜ん、うぅ……体重い」
ジリリ、カチッ
目覚ましを止めて時間を確認する。
「んん、今何時……げっ!ヤバっ!!」
「うぅ〜ん、うるさいデビ〜、どうしたデビ?」
隣で眠そうな顔をしたビーデちゃんが布団から顔を出した。昨夜ヤリまくって僕らは二人で仲良く寝落ちしていた。
「大変だっ!完全に遅刻だ!!」
時計を見て愕然とする。
「仕事デビ?休めばいいデビ」
ビーデちゃんがあくびした。
「そういうわけにはいかないよ。無断欠勤はヤバいよ!」
ブーブー
テーブルの上のケータイが鳴る。画面には係長と表示されてる。
「ひ、ひ、ひぃ〜〜係長だぁ!!」
震える手で電話を取った。
「もしもし、あ、おはようございます。……あ、すいません、今起きまして……あっ、その今日体調悪くてですね、……ええ、すみません連絡遅れて……えっ、出てこい?その……あっはい、ですよね、無理ですよね〜。はい、すみません今すぐ—」
「よこすデビ」
ビーデちゃんがケータイを取り上げた。
「あっ、ちょっ」
「もしもし…?あーちはビーデちゃんデビ!天才デビッ!!」どんっ!
「ビーデちゃんダメ!電話返して!」
慌ててケータイを取り上げようとしたけど、ビーデちゃんはフワーと飛んで僕の手から見事にすり抜けていく。
「娘じゃないデビ!お嫁さんデビッ!ダーリンが疲れているのに会社に来いってどういうことデビ!?……何デビ?あーちに話せないデビか?……だから、何で仕事させるデビ?そもそも仕事終わるの遅すぎデビッ!そっちが悪いデビ、とにかく今日は休むデビ!!」
プッ
無慈悲に電話は切られた。
「うそーん!!」
「今日はずっとえちえちできるデビ!堕落しろデビ!!」
「そんなの無茶だよ、会社員っていうのは会社に……って、何してんの!?ちょっ、まっ!!いやあーー!!!」
その日僕は会社を休んだ。そして、めちゃくちゃエッチした。
それからどうなったか、結論から言うと僕は無職の家無しになった。ビーデちゃんとのエッチ三昧と彼女の妨害により欠勤が続いて僕の立場は非常に危うくなっていた。そして、ある時、会社に行こうとする僕とそれを止めようとする彼女との間で諍いが起こって、激昂した彼女の魔法が暴走し大爆発を起こしたのだ。
「デビィィィ〜〜!!!」
ドカァァァンンン!!!
「ぎぃぃやああぁぉぁ!!!」
借家だった家は破壊され大家さんから追い出された。さらに僕は仕事をクビになった。ブラック企業だったので転職は考えていたけど、突然の無職である。しかも、残業代も出ない安月給だったので貯金もろくになかった。とどめに大家さんへの損害賠償で一文なしになった。
「もうおしまいだ。僕の人生は詰んだんだ」
ある日公園でたまたま見つけた謎のロリっ娘人形に言われるがままに射精したら本物のデビルが出てきて、エッチしてたら家壊れて、会社クビになって、お金も無くなった。何て数奇な運命なのだろう。人生夢まぼろしの如くなり……
「ケェセラ〜セラ〜♪」
僕は歌った。だって歌うことしかできないじゃないか。
そんな僕にビーデちゃんは別荘があると言い出し、僕を連れて魔界にワープした。
「ここ?すごい豪邸だね。ビーデちゃんってお金持ちだったの?」
僕たちはとある大豪邸の前に来ていた。どでかい門を通ると今度は立派などでかいドアがある。どっかの貴族か王族でも住んでそうなレベルだ。
「あーちにお金なんて必要ないデビ」
ドンドンドンドンッ!
ビーデちゃんが乱暴にドアを叩く。
「開けるデビィー!早く開けるデビィー!」
……ギイィッ
扉が開いた。中からメイド服の人が出てきた。訝しげな眼差しがこちらに向けられる。
「騒々しいですね。一体どちら…あ、あなたはビーデ様!!お戻りになられたのですか!?」
メイドさんが衝撃を受けた顔をする。
「あーちがあんなのでやられるわけないデビ。アイツに会わせろデビ」
「は、はあ…いきなりのことで私もどうしたらいいのやら…し、少々お時間をいただきたいと申し上げたい所ですが、しかしあなたでは何を言っても無駄でしょうね。お通ししましょう」
何かただならぬ様子だったけど、メイドさんは観念した様子で僕らを案内してくれた。
「ちなみにそちらのお方とはどういったご関係で?」
歩きながらメイドさんがビーデちゃんに聞いてきた。
「ダーリンデビッ♪」
「まあ、なんと!えぇ、えぇ…やはり、貴方は私の理解を越えていらっしゃいますね。もう何が起きようとも驚きませんとも」
「そんなに褒めなくていいデビ」
(これは褒めているのだろうか……)
三人で広い屋敷を歩いて行くと、やがて大きな広間に出た。赤絨毯が敷かれていて、何と室内には噴水まである。シャンデリアが幾つも天井から吊るされており、奥の方に豪華な椅子に座った女性が見えた。
「リリー様、お客様をお連れしました」
メイドさんが奥の女性に声をかけ頭を下げる。
「メイド長、ご苦労様。下がっていいわ。ビーデ、まさか貴方が戻ってくるとはね。ま、何となくこうなりそうな気もしていたけど。二人ともまずはこちらへ来て」
気品のある凛とした声が聞こえた。彼女からは何か高貴な身分であるオーラをビンビン感じる。
「あーちに命令するなデビ!」
ビーデちゃんが腕を組んで不機嫌そうにした。
「あぁもう〜ほんっと面倒くさいわね!用があって来たんでしょ!? それとも仕返しかしら?」
相手も露骨にイラついた。先程の悠然とした雰囲気が一気に崩れる。
「ふんデビッ!」
ビーデちゃんが鼻を鳴らしながらズンズン前に歩いて行った。僕も後に続く。奥の女性に近づいて見ると彼女が相当な美人であることがわかった。陶器のような白い肌にサラサラとした長い白髪を下ろしていて、スラリとした脚を組んで椅子に座っている。
「この人ってもしかしてリリムさん?」
僕はコソッとビーデちゃんに聞いてみた。モン娘好きの僕は彼女にも見覚えがあった。
「そうデビ。リリーっていうデビ」
「すごい美人さんだね」
見たことないほどの美しさに僕は目を奪われていた。その僕の視界に横からニュッとビーデちゃんの顔が現れた。
「おめぇー、なーに鼻の下伸ばしてるデビ?アイツはただの年増デビ」
ビーデちゃんが”じとぉー”と僕の顔を覗き込む。
「はいはい、聞こえてるわよ、貴方たち」
リリーさんが呆れた顔でこちらを見た。
「それで貴方は一体どうやって人形から戻ったのかしら?」
「コイツのザー汁から魔力を得て戻ったデビ」
ありのままの説明である。
「は?何それ?人形の貴方に射精したってこと?信じられないわ」
衝撃的な目を僕に向ける。
「そうデビ。コイツはとてつもない変態ロリコンデビ!!」
「あの、もうちょっと他の言い方ないですか?」
「だけど、あの箱には人間から見えないようにプロテクターをかけておいたはず」
「そんなの知らないデビ。必死にテレパシー飛ばしてたらコイツに伝わったデビ」
「魔力もない人間がテレパシー受け取れるなんて。ロリコンの力?」
リリーさんが信じられないモノを見るかのような目で僕を見た。
「……」
僕は黙った。
「とにかく、あーち達がここへ来たのは—」
ビーデちゃんがここに来るまでの経緯を赤裸々に話した。
「え〜と結局のところ、セックスしまくって、家壊れて、ブラック企業クビになって、お金もないからここに住まわせろと」
僕はうつついたまま、もう顔を上げられなかった。
「デビッ!」
「『デビッ!』じゃないわよ!全くどういう了見よ!何でアンタをここに住まわせなくちゃいけないのよ!?」
「昔からのなじみがお願いしてるデビ!それに元はといえばおめぇーがあーちを人形にしたせいデビ!」
「なじみというかただの腐れ縁じゃない!大体あれだってアンタがさんざん悪さしたのがいけないんでしょ!」
キーキーキーキー!!……
「はぁー、もういいわよ。どうせ何言ってもアンタは引き下がらないだろうし、それにそっちの人は確かに可哀想だものね」
さんざん2人でキーキー言い合った末にリリーさんの方が折れた。
「やっと分かったデビか」
「ただし!タダで住まわせる訳には行かないわ。ここに住む以上、貴方達もこの屋敷の仕事をすること。それが条件よ」
「デビッ!?あーちに働け言うデビか!?」
「ビーデちゃん、住まわせてもらえる以上、僕たちも何かしようよ。僕はやるよ」
「ビィィ〜」
「では、決まりね。2人の部屋は用意させるわ。色々と準備が終わるまで少しだけ待ってね。それと明日からさっそく働いてもらうからね」
「はい、あ、あのー」
「ん、何かしら?」
「ビーデちゃんは一体どうして人形になってたんですか?」
思えば出会った時から気になってたことを聞いてみた。
「ああ、それね。ビーデから聞いてなかったのね。その子とはね、昔からお互いよく知ってた仲なのだけど、ここに自由に出入りしては我が物顔で好き勝手したのよ。この子はそういう子だから、もう諦めてたんだけどね。でも、ほっておいたらどんどん調子に乗っちゃってね」
「ある時、私のベッドでお漏らしまでされて、さすがに懲らしめてやろうと思ったの。それで冷蔵庫にその子の大好きな高級アイスをたっぷり仕込んで、おびき寄せたのよ。そしたら、まんまと釣られて捕まえることは出来たんだけど、それからまた大変だったの。…もう見てもらった方が早そうね」
そう言うとリリーさんが手の平を上に向けた。するとそこに光の大きな球体が現れてその中に映像が映った。今、僕たちがいるこの大広間だ。
“リリー様、ビーデ様を捕らえました”
“デビィィィ!!”
ビーデちゃんが鎖で結ばれた首輪と腕輪をつけられ、4人のメイドに囲まれて広間に入ってきた。連行される犯罪者状態だ。お腹はぽっこりしていて、口の周りにはアイスがべっとりついていた。彼女は奥に座っているリリーさんの前まで連れられた。
“ごきげんようビーデ、顔中アイスまみれね”
“これを解くデビィィ!!”
ビーデちゃんがジタバタしている。
“貴方のことは今まで大目に見てあげていたけど、さすがに私のベッドに勝手に寝て、よだれとオシッコまみれにされたら堪忍袋の緒も切れるわ。貴方にはお仕置きを受けてもらうことにしたの”
“デビィィィ!!”
“話を聞きなさいよ!”
“リリー様!拘束具が!”
ビーデちゃんが体をブンブン動かしていると、拘束具とその鎖にヒビが入り始めた。
“なっ!!相当魔力を込めたはずよ!?”
ビーデちゃんが暴れるほどにヒビが大きくなっていく
“マズイわっ!”
“デビャア!!”
バリンッ!
拘束具が完全に壊れた。
“お仕置きを受けるのはおめぇーデビッ!!”
ビーデちゃんがリリーさんをビシっと指差した。
“くっ、みんな下がって!!”
リリーさんの声に使用人達が一斉に散り散りに逃げて行く。
“デビィッ!!”
“はあああっ!!”
2人が互いに向かって手をかざすと、手から光のビームのようなモノが放たれた。ビーデちゃんからは緑の光、リリーさんからは赤い光が放たれ、光の衝突点からは激しい火花と稲光が巻き起こった。二人の間から稲妻が出て周囲の壁や柱にバチバチ当たりヒビを刻む。
バチバチバチバチッ!!
激しい音が部屋中に響き渡る。魔法バトル初見の僕にも凄まじいエネルギーがぶつかっているのがわかった。
“ビビビビビビッ!!”
“ふんんんっっ!!”
両者拮抗し膠着状態が続いていたが、ビーデちゃんが光をいなし、口からぷぅーと息を吹いた。すると彼女の口からボワっと炎が出てきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
炎はたちまち膨れ上がり、それは何と巨大なビーデちゃんの姿になった。
“何なのよーコレ!?”
リリーさんが炎を見上げて驚愕する。
“ファイヤーデビィィ!!”
ビーデちゃんはキャッキャッしてる。
“デビィィィ!!”
ファイヤービーデちゃんが可愛い咆哮を上げながらリリーさんに頭突きを喰らわそうとした。
「このっ!消えなさい!!」
リリーさんがオーラを放つ手を大きく横に振る。すると斬撃が飛び、ファイヤービーデちゃんの体に亀裂が走った。彼女が後ろに倒れ込む。
バァァーーン!!
巨大な爆炎が起こる。リリーさんはそれをまとめてビーデちゃんの方に吹き飛ばした。
“ビッ!?”
ビーデちゃんが慌てて爆炎を振り払って打ち消す。
“アチチチチチッ!!”
彼女が熱さで怯んでいる隙にリリーさんが噴水の方へ手を向けた。
ヒュン、ヒュルル
指揮者がタクトを振るうように軽やかに手首を返すと、噴水から水が噴き出しビーデちゃんを呑み込んだ。
ザバァン!
“ゴブゥ!”
彼女が水の球の中に閉じ込められる。
“おとなくしてなさい !”
リリーさんが空中に浮遊した水の球を制御しようとする。
“ゴボボボボボボボッ!!”
ビーデちゃんが水の中でメチャクチャもがいている。水中でよくあんなに体が動くものだ。リリーさんは必死に抑え込もうとしているが辛そうだ。
“くっ…もたない”
バシャーン!
水の球が破られ、中からビーデちゃんが落ちてきた。
“スゥゥーー……”
彼女が大きく息を吸い込むと—
“デビャアアァァアア!!!”
大絶叫だ。広間中に声が轟く。
ブワァーー、バリバリィーン!
彼女の周りから衝撃波が発生し、窓ガラスが次々と割れていく。もはやサ○ヤ人状態だ。
“なっ!?何してんのよ!?アンタいい加減にしなさいよっ!!”
リリーさんが怒りの攻撃を仕掛け、再び激しい攻防が繰り広げられた。2人の戦いはまるで映画を見ているかのような迫力だった。本当に。
“はぁ…はぁ…”
激しい戦いが長引き、2人に疲労の様子が見えてきた。両者とも肩で息をしている状態だ。そんな中…
“うっ…お腹苦しいデビ”
ビーデちゃんがぽっこりお腹を抑えて苦しそうにした瞬間—
“今よ!!”
メイド長の声と共に示し合わせていたように、隅に避難していた使用人達がバッと飛び出た。ビーデちゃんを取り囲んで素早く拘束具を彼女に着ける。
“何するデビィィ!?”
彼女がジタバタするが、もう力は残っていないようだ。
“はあはあ……、貴方達、よくやってくれたわ!”
リリーさんは服が乱れ髪もボサボサになっている。
“リリー様、ご無事ですか?”
“ええ、大丈夫。ふぅ…ビーデ、よくもこんなに暴れてくれたわね。アンタのおかげで家にあちこち傷はできるし、窓は割れるし、私の髪もひどいし、何もかもメチャクチャよ!!”
“これを解くデビィィィ!!”
“だから話を聞きなさいよ!!というか、中級悪魔に過ぎないアンタにどうしてこんなパワーがあるのよ?”
“ビーデちゃんは天才デビッ!!”どんっ!!
“腹立つけど、魔力だけは本物ね!でも、もう貴方にもお灸を据えないといけないわね。色々考えたけど、貴方にはお人形になってもらうことにしたわ。暴れん坊の貴方にはさぞかし辛いでしょう?しばらく大人しくして反省してなさい。1ヶ月くらいはどうかしら?”
“人形で1ヶ月って何デビー!?いやデビッ!そんなの10分にしろデビ!”
“10分って反省する気ないでしょ!?普通そこは20日とか半月とかそれくらいじゃない!?10分って何よ!?もういいわ!今すぐ人形にして、ここの地下室で幽閉よ!”
“あんな所いやデビ!末代まで呪ってやるデビ!!”
“ロリッ娘が物騒なこと言ってんじゃないわよ!!そうね…確かに貴方の人形が家にあるのも気味が悪いわね。じゃあ、どこか人間界の適当な所にいなさい”
“それなら綺麗な所にしろデビ”
“観念しながら何注文つけてんのよ!!”
“ジィィィィ……”(睨むビーデちゃん)
“もーわかったわよ、お花が咲いているとこにしてあげるわよ”
“たまには様子見ろデビ!”
“はいはい、誰か行かせるわ”
“アイスも食べたいデビ!”
“人形なんだからアイス食べられないでしょ!?”
“確かにそうデビ!”
“いちいち叫ばなくていいわよ!一応、不届き者に悪戯されないようにちゃんとプロテクターもかけてあげるし、命の保証はするから安心しなさい。それじゃ、いくわよ”
“ちょっと待つデビ!やっぱり最後にアイs…”
“ハアァァ!!”
ビビビビビッ!
“デビュューー!!”
リリーさんから魔法をかけられ、ビーデちゃんは僕と出会った時の姿になった。
“ふぅー、何とか終わったわね。それじゃ、この子をどこかお花のある所に置いてきてくれるかしら”
“はい、リリー様”
使用人の1人が人形を抱えて出ていった。
ド派手な回想が終わった。
「……ビーデちゃん、すごかったね」
「ビーデちゃんは天才デビッ!!」どんっ!!
コンコン
ドヤ顔ビーデちゃんの横のドアがノックされた。
「失礼します、お部屋をご用意しました」
部屋の準備をしていた使用人さんが戻ってきた。
「ちょうどいいわ、案内してあげて」
「はい、リリー様」
僕らはそのまま用意された部屋に案内された。そこはふかふかベッドの僕にとっては十分すぎる部屋だった。そして、僕の新しい人生が始まったのである。
「もうすっかり一人前ですね」
「ありがとうございます。メイド長のおかげです」
使用人の制服を着た僕はメイド長と二人でリリーさんの書斎に向かっている。僕とビーデちゃんがこの屋敷に来て1年近くが経とうとしていた。ここでの仕事はメイド長さんが丁寧に教えてくれた。僕の覚えはきっと早くなかったけど、嫌な顔1つせずに指導してくれた。彼女にはとても感謝している。
「あなたは決して容量の良い方ではありませんが、真面目で誠実なお方です。ビーデ様より先にリリー様にお逢いされていればといつも思います」
書斎の前に着くと、メイド長はそう話し残念そうな顔をした。
「そんな、僕なんて……」
「いえ、リリー様も本心ではビーデ様のことを羨んでいらっしゃるのです。お優しい貴方に—」
「貴方たちー、聞こてるわよー。というか早く来てちょうだい!あっ、こら、いい加減にしなさい!!」
「テピーー!!」
ドサドサっ!ガタッ!ゴンっ!
部屋の中から騒がしい音が聞こえてきた。またあの子が悪さしているのだろう。
「リリーさんっ!!」
ガチャっ!
急いで中に入る。
「もうーこの子何とかしてよー!」
「鬼ごっこテピッ♪」
書斎の中に入ると本棚も机の上も荒らされていた。そして、ふかふかのオムツを着けた小さなデビルがピューッと飛び回っていた。
「待ちなさいっ!!」
それを必死に追い回すリリーさん。
「貴方っ、自分の娘なんだから何とかしなさいっ!!」
リリーさんが僕を見て声を上げる。
「はいっ!!ピーテこっち来なさいっ!!」
「パパッ!パパも鬼ごっこやるテピッ!!」
ピュィィィーと彼女が僕の横をすり抜けて部屋を出ていく。体の反分くらいのサイズがある真っ白なオムツがずり落ちて半ケツ状態になっている。
「こらーー!!オムツ落ちるよーー!!」
僕は飛び去る娘を必死に追いかけた。
「ふふふっ、とっても賑やかになりましたね」
廊下を慌ただしく駆けていく親子を見送りメイド長が笑う。
「どうして貴方が笑うのよ。仕事増やされているのよ」
ボサボサ髪になったリリーが疲れ果てた顔でメイド長を見た。
「私も始めは困っておりましたが、もう慣れてしまいました。厄介事が増えましたが、優秀なスタッフも入りましたから」
「確かに彼は頑張り屋さんだと思うわ。でも、あの娘は母親似すぎるわ。あんな名前付けるからよ。ピーテよ!?ピーテ!ビーデの娘でピーテって適当じゃない!!」
「そうは仰いますが、リリー様もピーテお嬢様とお遊びになられている時はとっても楽しそうに見えますよ」
「そうね、何だか親戚の子供ができた気分よ。私のこと”リリーおばさん”って言うのよ、あの子。この私を”おばさん”なんて呼ぶのあの子だけよ。ところで、ビーデはどうしてるの?」
「先程厨房に忍び込み、つまみ食いをしておりました」
「またなのっ!?アイツ、旦那が真面目に働いているから許してあげているけど、そろそろお灸ね。今度はどうしてやろうかしら?」
思案を巡らすリリーを微笑ましくメイド長が見つめる。ビーデが襲撃する時以外は静かだったこの屋敷も、このような騒動が日常茶飯事となった。だが、騒がしい中で屋敷の住人たちには以前より笑顔が増えていた。
「(ビーデ様と旦那様、ありがとうございます。リリー様は今とても生き生きとしていらっしゃいます。そして、願わくば次はこのお方に素敵な殿方を…)」
「貴方、今何考えてたの?」
「な、何でもございません!私は書斎を整理します」
「私もするわ」
2人は書斎に戻った。
リリーに運命の相手が現れるのはしばし後のことであるが、それはまた別の話なのであった。そして、このはちゃめちゃな話もここで幕を閉じるのである。
「ベロベロペロペロ…」
部屋の中からは何かを舐めとる音が聞こえる。
「お楽しみ中のようね」
4人の中で先頭にいるメイド服を着た女性が静かにつぷやいた。彼女はメイド長である。
「いい?私が合図したら躊躇せずにすぐにその拘束具を着けるのよ」
メイド長が後ろにいるメイドに静かに耳打ちした。指示を受けた彼女が緊張した面持ちで頷く。手には両手を拘束する腕輪が持たれている。その隣には首輪の拘束具を持った者もいた。どちらにも魔法の紋章が刻まれており、そこには強力な魔法がかけられている。
「失敗は許されないわよ……」
メイド長が厨房のスイングドアをわずかに押して中を伺う。照明が点いていないため室内は暗いが、奥の方で大きな冷蔵庫が開いており、そこだけわずかに明るかった。冷蔵庫の光に照らされた何者かが地べたに座っているのが見える。
「ペロペロペロペロ……うぅぅ〜ん♪」
「今よ!!」
メイド長の声とともに4人が一斉に中に雪崩れ込んだ。
ダダダダダッ
カチッ
照明のスイッチが押され、厨房全体が照らし出された。音の主もはっきりと姿を現す。
「デビッ!?」
その者は目を丸くし顔は驚きに満ちていた。小さなお腹はぽっこり膨らんでいた。
「はぁ〜、またサービス残業か…」
仕事が終わり、僕は家路についていた。電車の駅を降りてトホトボと自宅近くの公園に入る。
「ふぅ〜」
花壇の前のベンチにドサッと腰を下ろして缶コーヒーを飲む。仕事終わりのつかの間の休息だ。
「今月、残業何時間だろ」
意味もなく1人で呟いて星空を見た。少しだけど光る星が見える。こんな風に夜空を見つめるのがすっかりルーティンになっていた。
「綺麗だな」
“……こっち…デ…”
「えっ?」
不意に何か聞こえた気がした。あたりを見回すが夜遅く誰もいない。
「とうとう幻聴まで聞こえたか。こりゃヤバいな」
“……ない…ビ、……来るデ…後ろ……”
「んん?後ろ?」
また聞こえてきた。少女と思われる声が脳内で直接響くような感じだ。かすかだけど後ろと聞こえた。立ち上がり後ろの花壇を覗き込んでみた。近くに木立があり影になっているので暗い。
「う〜ん」
良く目を凝らすと奥の方に何か箱の様な物が見えた。
「あれか?」
もしかしたら音を発するおもちゃでも入っているのかもしれない。花を踏まないように慎重に足を踏み入れて箱に近づくと、それは小さな木箱だった。紋様みたいな装飾が施されている。上は開いており中が見えた。そこには高級感のあるタオルが敷かれていて、体がくるめられている人形が置いてあった。タオルから顔が出ている。
「これは…デビル?」
魔物娘のデビルだ。僕はその存在を良く知っていた。包んでいたタオルから人形を出してみると、それは精巧な出来であることが見てとれた。翼と尻尾が生えており、青白い肌に赤い瞳、そして小柄だけどちょっぴりムチムチしていて何ともハレンチな格好をしていた。
「すごいな、これ」
手に触れると質感も見事な作りようだった。翼や尻尾、肌の部分を触ると実際に生き物に触れているような感触がする。肌の部分はプニプニで気づいたら僕は夢中になって触っていた。
“えっちデ…”
「えっ!?」
また脳内に声が聞こえた。今度はさっきよりもはっきりと聞こえる。しかも僕の行為に対して言っているようだ。
「嘘でしょ」
“…持ってか…デビ”
「持って帰る?」
そう言っているようだった。突然の出来事に僕はビビっていたが、それ以上にこの人形の不思議な魅力に惹かれていた。
「……」
周囲を確認すると僕はサッと人形を鞄に入れて足早に帰った。
(持って帰ったはいいけど、どうしよう……)
帰宅してから人形の声が聞こえない。
やっぱり幻聴だったのだろうか。
「何とか言わないの?」
何となく人形を眺めながら一人呟いてみた。
“ザー…るぶっ…るデ…”
「ん?」
突然あの声がまた聞こえた。
ザーじる……けるデビ
「ザーじる?ザー、じる…汁、ぶっける……むむ!?」
何やら良ろしくないことが頭に浮かんだ。”まさか”である。
「あのー、ザーじるってザー汁?もしかして…ザーメン…だったり?な、なんてね!」
ちなみにこんなことが頭に思い浮かんだのは日頃からそういうことばかりを考えてるからとかではない。断じて違う。だけど、とりあえずこの謎の人形の秘密を解き明かさなくてはいけない。というわけで恐る恐る聞いてみた。
“デビッ!”
元気な声が聞こえた。
「マジか…」
どうやら”まさか”だったらしい。何ということだろう。僕の考えが正しいならこれは中々なことである。でも、ちょっぴり何かを期待する自分もいたりした。
「あ、そ、そっか。うん、とりあえずやってみるよ。お願いされたからね、仕方ないね」
僕は自分に言い聞かせるように呟きながら、トイレに向かった。人形を手にして。
トイレに入るとズボンを下ろして便座を上げて便器に跨った。僕のいつものオナニースタイルである。トイレでやるのは処理が楽だからだ。でも人形をオカズにしたことはない。
(あーもう、やってやる!仕事で疲れてるけど、何かムシャクシャしてるし、やってやる!最近ご無沙汰で溜まってるし!!)
僕は手に握った人形を見た。ツヤツヤとした肌の局所が黒光りした着衣で隠されていてる。足の先には真っ黒のブーツが履かれている。
(…脱がせたりできるのかな)
履かれているブーツをそっと下ろしてみた。中からキレイな足が出てきた。指先までちゃんとついている。僕の呼吸がわずかに荒くなった。
(む、胸は…)
胸の着衣をそっと外すと肌より濃い青色の乳首が見えた。小ぶりだけどささやかな膨らみがある。
(す、す、すごい)
親指で軽く押してみる。小さいけど乳首の突起と胸の弾力をしっかり感じた。
“えっちデビ”
また声が聞こえた。嫌がるわけでなく、むしろ喜んでいるような扇状的な声だった。
「うっ」
何か罪悪感を覚え始めたけど、僕の指は人形の腰に伸びていた。もう止まらなかった。
「あっ」
小さな下着を取ると、太ももの間の大事な部分がむき出しになった。毛は一本も生えてないツルプニの秘所が見えた。
(こ、ここに…)
人形の足を少し開いてみると思いの外しっかりと開いた。
「ふぅ…ふぅ…」
人形のお股を僕のアソコに近づけていく。
「ごくっ」
ぴとっ
人形のお股と僕の亀頭の先端が吸い付くようにくっついた。人形が僕のアソコに股を開いて座っているような状態だ。何という光景だろう。
「はぁ…はぁ…」
人形を少しだけ前後に動かしてみる。人形のお股の肉が僕のアソコに合わせて蠢き、ほんのちょっとだけ先端が中に入っていくような感触がする。すごく背徳的だ。
(これ…ヤバい…)
僕は夢中で人形に自分を擦り付けつつ、竿を自分の手で刺激した。僕のアソコはすでにギンギンになっていた。
「あっ」
始めての感覚と興奮で僕はあっという間に限界を感じた。
“ぶっか…デビ!”
「出るっ!!」
声と同時に勢いよく射精した。人形の股を汚し、体全体に精液が付着する。その様に興奮してさらに精液が溢れ出てくる。
どくどくっ…
「ふぅ…」
少しして絶頂は終わった。
(人形に出しちゃったよ…)
汚された人形を見て呆けていると—
“たくさん出したデビね♪”
ピカッ!
突然、人形から光が放たれた。
「うわっ!?」
目の前に光のシルエットが浮かび始めた。それは少女の形をしているようだった。
“まったく、とんでもないロリコンデビッ!”
光から声がする。
「うえっ!!?」
ドボンっ!
動揺のあまり、僕の手からスルリと人形が落ちて便器の中に落ちた。
“あっ!!何してるデビ!早く拾うデビ!!”
光のシルエットが慌てた口調で命じた。
「えっ!?あっ!!」
狭い個室の中でどたどたした。後ろによろけて頭をドアにぶつける。
ガンっ!
「いたっ!!」
“は、早くするデビ!!ザー汁が消えちゃうデビ!!”
シルエットの光がなぜか弱まり始めた。訳も分からず便器の中から人形を拾い上げた。
「わー、汚れちゃった」
ドロッとした精液で汚れた人形をタオルでしっかり拭き取った。
“バカ!何してるデビッ!?ザー汁無くなるデビ!!魔力が……”
「えっ!?」
シルエットが急激に消えていった。それと同時に手に持った人形の光も収まっていく。
“もう一度やるデビッ!!ザーじ…”
ひゅん…
光が完全に消えた。
僕はトイレの中で人形を持ったまま呆然としていた。
「ただいま」
仕事から帰ってきた。家に住んでいるのは僕だけだ。だから、いつもは何も言わないけど今日は言ってみた。
「帰ったよ」
僕はテーブルの上に置かれているあの人形を見た。
昨日、僕は疲労でもう一発やることが出来ずにそのまま寝てしまったのだ。そして、今日もまた残業して帰ってきたのである。
“待ち…れた…ビ、早く…デビ”
「うん」
人形を持ってまた僕はズボンを下ろした。今日は別のオカズも添えた。テープルにセットして準備完了だ。そして、リビングで昨日と同じように行為に及んだ。
———「あっ…」
どぴゅっ!
またも刹那の射精で人形が白く汚された。
ピカッ!
再び人形からあの光が放たれる。そして、空中に光のシルエットも現れた。
“ふぅ〜、やっと戻れるデビッ!!”
ビカーン!
光がひときわ強くなり、思わず目を閉じると手に持っていた人形の感触が消えた。
「あれっ?」
手を見ると人形が無くなっている。
「こっちデビ」
「ふぇ?え、えぇぇっ!!」
声のする方を見ると、光のシルエットだったものが本物のデビルとなっていた。ぷかぷか浮いており腕組みをしている。
「ほっ、本物?」
「本物デビッ!あーちはビーデちゃんデビッ!天才デビッ!!」どんっ!
突如、自称天才ロリっ娘デビルが現れた!
ただ名乗っただけなのにドヤ顔まで決めている。
「い、一体何が起こったの?」
「あーちはあの人形に閉じ込められていたデビ。でも、おめぇーのザー汁のおかげで魔力を取り戻して復活出来たデビッ!」
ヤッホーと部屋をビュンビュンとビーデちゃんと名乗る少女が飛び回る。あまりのことに呆気に取られる僕。
「デビッ!?これは何デビ?」
ビーデちゃんがテーブルの上のある物に目を留めた。
「げっ!それはっ!」
凄まじく動揺していたが、それでも僕の体は瞬時に反応した。それは絶対に人に見られたくない物だからだ。
急いで手を伸ばして回収しようとするが、
サッ
「ふむふむ…」
ビーデちゃんが素早くそれを手に取り中身を読んだ。そして、ニマァーとやらしい笑みを浮かべてこちらを見た。
「おめぇー、始めっからあーちのこと好きだったデビか?」
「うぐっ!!」
彼女が手にしているのはオナニーする時にオカズにしていた薄い本。
“モン娘パラダイス!!ロリッ娘編!!”である。
そして、その中で一番の僕のお気に入りであるデビルのえちえちシーンを開いていたのである。彼女はそれをこれ見よがしにこちらにぶらんぶらんと見せつけている。
「うっ…うっ…」
急に嗚咽がした。
「あっ、本棚にも一杯あるデビッ!」
ビーデちゃんがピューと本棚へと飛んでいく。マズイ、そっちは非常にマズイ!!
「ダメっ!子供は見ちゃダメ!!」
「ふむふむ…妹、○学生、デビル……全部ロリっ子デビ!なるほど、やっぱりおめぇーは、あーちが見込んだとおりのロリコンデビ。変態ロリコンどーてーデビッ!!度し難いデビッ!!」
ビシッとビーデちゃんが僕を指差さした。そう、本棚にはロリコンの夢が詰まった本がたくさん収められていたのである。
「終わった、トホホ……」
ずっと隠していた秘密がバレた。それと何故か童貞であることもバレた。もう死にたい。
「でも、おめぇーみたいなヤツは大好物デビッ!おめぇーの願い、今叶えてやるデビッ!」
バッ!
「わっ!?」
いきなりその場に押し倒された。彼女が僕の上にまたがると股の下着を脱いだ。そこはさっきの行為の影響か、もうぐっちょりと濡れていた。そして、むき出しになっていた僕のフルチンに何の躊躇もなくあてがった。
「えっ!?ちょ、いきなり!?こ、こ、心の準備が」
「やるデビッ!!」
グチュン!
「おわぁーーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
「あぅぅーーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
「ひゃああーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
「ぬわぁーーー!!!」
「デビッ♪」
~~~~~~~~
ロリ穴を抜けると、そこは楽園だった。僕はビーデちゃんにめちゃくちゃに犯された。それはもうすごかった。身体中のあらゆる部分を舐め尽くされ、二人とも身体がドロドロになって、僕の精液を一滴残らず搾り取られた。すごく気持ち良かった……
ジリリリリッ、ジリリリリッ……
目覚まし時計がうるさく鳴り響く。
「う〜ん、うぅ……体重い」
ジリリ、カチッ
目覚ましを止めて時間を確認する。
「んん、今何時……げっ!ヤバっ!!」
「うぅ〜ん、うるさいデビ〜、どうしたデビ?」
隣で眠そうな顔をしたビーデちゃんが布団から顔を出した。昨夜ヤリまくって僕らは二人で仲良く寝落ちしていた。
「大変だっ!完全に遅刻だ!!」
時計を見て愕然とする。
「仕事デビ?休めばいいデビ」
ビーデちゃんがあくびした。
「そういうわけにはいかないよ。無断欠勤はヤバいよ!」
ブーブー
テーブルの上のケータイが鳴る。画面には係長と表示されてる。
「ひ、ひ、ひぃ〜〜係長だぁ!!」
震える手で電話を取った。
「もしもし、あ、おはようございます。……あ、すいません、今起きまして……あっ、その今日体調悪くてですね、……ええ、すみません連絡遅れて……えっ、出てこい?その……あっはい、ですよね、無理ですよね〜。はい、すみません今すぐ—」
「よこすデビ」
ビーデちゃんがケータイを取り上げた。
「あっ、ちょっ」
「もしもし…?あーちはビーデちゃんデビ!天才デビッ!!」どんっ!
「ビーデちゃんダメ!電話返して!」
慌ててケータイを取り上げようとしたけど、ビーデちゃんはフワーと飛んで僕の手から見事にすり抜けていく。
「娘じゃないデビ!お嫁さんデビッ!ダーリンが疲れているのに会社に来いってどういうことデビ!?……何デビ?あーちに話せないデビか?……だから、何で仕事させるデビ?そもそも仕事終わるの遅すぎデビッ!そっちが悪いデビ、とにかく今日は休むデビ!!」
プッ
無慈悲に電話は切られた。
「うそーん!!」
「今日はずっとえちえちできるデビ!堕落しろデビ!!」
「そんなの無茶だよ、会社員っていうのは会社に……って、何してんの!?ちょっ、まっ!!いやあーー!!!」
その日僕は会社を休んだ。そして、めちゃくちゃエッチした。
それからどうなったか、結論から言うと僕は無職の家無しになった。ビーデちゃんとのエッチ三昧と彼女の妨害により欠勤が続いて僕の立場は非常に危うくなっていた。そして、ある時、会社に行こうとする僕とそれを止めようとする彼女との間で諍いが起こって、激昂した彼女の魔法が暴走し大爆発を起こしたのだ。
「デビィィィ〜〜!!!」
ドカァァァンンン!!!
「ぎぃぃやああぁぉぁ!!!」
借家だった家は破壊され大家さんから追い出された。さらに僕は仕事をクビになった。ブラック企業だったので転職は考えていたけど、突然の無職である。しかも、残業代も出ない安月給だったので貯金もろくになかった。とどめに大家さんへの損害賠償で一文なしになった。
「もうおしまいだ。僕の人生は詰んだんだ」
ある日公園でたまたま見つけた謎のロリっ娘人形に言われるがままに射精したら本物のデビルが出てきて、エッチしてたら家壊れて、会社クビになって、お金も無くなった。何て数奇な運命なのだろう。人生夢まぼろしの如くなり……
「ケェセラ〜セラ〜♪」
僕は歌った。だって歌うことしかできないじゃないか。
そんな僕にビーデちゃんは別荘があると言い出し、僕を連れて魔界にワープした。
「ここ?すごい豪邸だね。ビーデちゃんってお金持ちだったの?」
僕たちはとある大豪邸の前に来ていた。どでかい門を通ると今度は立派などでかいドアがある。どっかの貴族か王族でも住んでそうなレベルだ。
「あーちにお金なんて必要ないデビ」
ドンドンドンドンッ!
ビーデちゃんが乱暴にドアを叩く。
「開けるデビィー!早く開けるデビィー!」
……ギイィッ
扉が開いた。中からメイド服の人が出てきた。訝しげな眼差しがこちらに向けられる。
「騒々しいですね。一体どちら…あ、あなたはビーデ様!!お戻りになられたのですか!?」
メイドさんが衝撃を受けた顔をする。
「あーちがあんなのでやられるわけないデビ。アイツに会わせろデビ」
「は、はあ…いきなりのことで私もどうしたらいいのやら…し、少々お時間をいただきたいと申し上げたい所ですが、しかしあなたでは何を言っても無駄でしょうね。お通ししましょう」
何かただならぬ様子だったけど、メイドさんは観念した様子で僕らを案内してくれた。
「ちなみにそちらのお方とはどういったご関係で?」
歩きながらメイドさんがビーデちゃんに聞いてきた。
「ダーリンデビッ♪」
「まあ、なんと!えぇ、えぇ…やはり、貴方は私の理解を越えていらっしゃいますね。もう何が起きようとも驚きませんとも」
「そんなに褒めなくていいデビ」
(これは褒めているのだろうか……)
三人で広い屋敷を歩いて行くと、やがて大きな広間に出た。赤絨毯が敷かれていて、何と室内には噴水まである。シャンデリアが幾つも天井から吊るされており、奥の方に豪華な椅子に座った女性が見えた。
「リリー様、お客様をお連れしました」
メイドさんが奥の女性に声をかけ頭を下げる。
「メイド長、ご苦労様。下がっていいわ。ビーデ、まさか貴方が戻ってくるとはね。ま、何となくこうなりそうな気もしていたけど。二人ともまずはこちらへ来て」
気品のある凛とした声が聞こえた。彼女からは何か高貴な身分であるオーラをビンビン感じる。
「あーちに命令するなデビ!」
ビーデちゃんが腕を組んで不機嫌そうにした。
「あぁもう〜ほんっと面倒くさいわね!用があって来たんでしょ!? それとも仕返しかしら?」
相手も露骨にイラついた。先程の悠然とした雰囲気が一気に崩れる。
「ふんデビッ!」
ビーデちゃんが鼻を鳴らしながらズンズン前に歩いて行った。僕も後に続く。奥の女性に近づいて見ると彼女が相当な美人であることがわかった。陶器のような白い肌にサラサラとした長い白髪を下ろしていて、スラリとした脚を組んで椅子に座っている。
「この人ってもしかしてリリムさん?」
僕はコソッとビーデちゃんに聞いてみた。モン娘好きの僕は彼女にも見覚えがあった。
「そうデビ。リリーっていうデビ」
「すごい美人さんだね」
見たことないほどの美しさに僕は目を奪われていた。その僕の視界に横からニュッとビーデちゃんの顔が現れた。
「おめぇー、なーに鼻の下伸ばしてるデビ?アイツはただの年増デビ」
ビーデちゃんが”じとぉー”と僕の顔を覗き込む。
「はいはい、聞こえてるわよ、貴方たち」
リリーさんが呆れた顔でこちらを見た。
「それで貴方は一体どうやって人形から戻ったのかしら?」
「コイツのザー汁から魔力を得て戻ったデビ」
ありのままの説明である。
「は?何それ?人形の貴方に射精したってこと?信じられないわ」
衝撃的な目を僕に向ける。
「そうデビ。コイツはとてつもない変態ロリコンデビ!!」
「あの、もうちょっと他の言い方ないですか?」
「だけど、あの箱には人間から見えないようにプロテクターをかけておいたはず」
「そんなの知らないデビ。必死にテレパシー飛ばしてたらコイツに伝わったデビ」
「魔力もない人間がテレパシー受け取れるなんて。ロリコンの力?」
リリーさんが信じられないモノを見るかのような目で僕を見た。
「……」
僕は黙った。
「とにかく、あーち達がここへ来たのは—」
ビーデちゃんがここに来るまでの経緯を赤裸々に話した。
「え〜と結局のところ、セックスしまくって、家壊れて、ブラック企業クビになって、お金もないからここに住まわせろと」
僕はうつついたまま、もう顔を上げられなかった。
「デビッ!」
「『デビッ!』じゃないわよ!全くどういう了見よ!何でアンタをここに住まわせなくちゃいけないのよ!?」
「昔からのなじみがお願いしてるデビ!それに元はといえばおめぇーがあーちを人形にしたせいデビ!」
「なじみというかただの腐れ縁じゃない!大体あれだってアンタがさんざん悪さしたのがいけないんでしょ!」
キーキーキーキー!!……
「はぁー、もういいわよ。どうせ何言ってもアンタは引き下がらないだろうし、それにそっちの人は確かに可哀想だものね」
さんざん2人でキーキー言い合った末にリリーさんの方が折れた。
「やっと分かったデビか」
「ただし!タダで住まわせる訳には行かないわ。ここに住む以上、貴方達もこの屋敷の仕事をすること。それが条件よ」
「デビッ!?あーちに働け言うデビか!?」
「ビーデちゃん、住まわせてもらえる以上、僕たちも何かしようよ。僕はやるよ」
「ビィィ〜」
「では、決まりね。2人の部屋は用意させるわ。色々と準備が終わるまで少しだけ待ってね。それと明日からさっそく働いてもらうからね」
「はい、あ、あのー」
「ん、何かしら?」
「ビーデちゃんは一体どうして人形になってたんですか?」
思えば出会った時から気になってたことを聞いてみた。
「ああ、それね。ビーデから聞いてなかったのね。その子とはね、昔からお互いよく知ってた仲なのだけど、ここに自由に出入りしては我が物顔で好き勝手したのよ。この子はそういう子だから、もう諦めてたんだけどね。でも、ほっておいたらどんどん調子に乗っちゃってね」
「ある時、私のベッドでお漏らしまでされて、さすがに懲らしめてやろうと思ったの。それで冷蔵庫にその子の大好きな高級アイスをたっぷり仕込んで、おびき寄せたのよ。そしたら、まんまと釣られて捕まえることは出来たんだけど、それからまた大変だったの。…もう見てもらった方が早そうね」
そう言うとリリーさんが手の平を上に向けた。するとそこに光の大きな球体が現れてその中に映像が映った。今、僕たちがいるこの大広間だ。
“リリー様、ビーデ様を捕らえました”
“デビィィィ!!”
ビーデちゃんが鎖で結ばれた首輪と腕輪をつけられ、4人のメイドに囲まれて広間に入ってきた。連行される犯罪者状態だ。お腹はぽっこりしていて、口の周りにはアイスがべっとりついていた。彼女は奥に座っているリリーさんの前まで連れられた。
“ごきげんようビーデ、顔中アイスまみれね”
“これを解くデビィィ!!”
ビーデちゃんがジタバタしている。
“貴方のことは今まで大目に見てあげていたけど、さすがに私のベッドに勝手に寝て、よだれとオシッコまみれにされたら堪忍袋の緒も切れるわ。貴方にはお仕置きを受けてもらうことにしたの”
“デビィィィ!!”
“話を聞きなさいよ!”
“リリー様!拘束具が!”
ビーデちゃんが体をブンブン動かしていると、拘束具とその鎖にヒビが入り始めた。
“なっ!!相当魔力を込めたはずよ!?”
ビーデちゃんが暴れるほどにヒビが大きくなっていく
“マズイわっ!”
“デビャア!!”
バリンッ!
拘束具が完全に壊れた。
“お仕置きを受けるのはおめぇーデビッ!!”
ビーデちゃんがリリーさんをビシっと指差した。
“くっ、みんな下がって!!”
リリーさんの声に使用人達が一斉に散り散りに逃げて行く。
“デビィッ!!”
“はあああっ!!”
2人が互いに向かって手をかざすと、手から光のビームのようなモノが放たれた。ビーデちゃんからは緑の光、リリーさんからは赤い光が放たれ、光の衝突点からは激しい火花と稲光が巻き起こった。二人の間から稲妻が出て周囲の壁や柱にバチバチ当たりヒビを刻む。
バチバチバチバチッ!!
激しい音が部屋中に響き渡る。魔法バトル初見の僕にも凄まじいエネルギーがぶつかっているのがわかった。
“ビビビビビビッ!!”
“ふんんんっっ!!”
両者拮抗し膠着状態が続いていたが、ビーデちゃんが光をいなし、口からぷぅーと息を吹いた。すると彼女の口からボワっと炎が出てきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
炎はたちまち膨れ上がり、それは何と巨大なビーデちゃんの姿になった。
“何なのよーコレ!?”
リリーさんが炎を見上げて驚愕する。
“ファイヤーデビィィ!!”
ビーデちゃんはキャッキャッしてる。
“デビィィィ!!”
ファイヤービーデちゃんが可愛い咆哮を上げながらリリーさんに頭突きを喰らわそうとした。
「このっ!消えなさい!!」
リリーさんがオーラを放つ手を大きく横に振る。すると斬撃が飛び、ファイヤービーデちゃんの体に亀裂が走った。彼女が後ろに倒れ込む。
バァァーーン!!
巨大な爆炎が起こる。リリーさんはそれをまとめてビーデちゃんの方に吹き飛ばした。
“ビッ!?”
ビーデちゃんが慌てて爆炎を振り払って打ち消す。
“アチチチチチッ!!”
彼女が熱さで怯んでいる隙にリリーさんが噴水の方へ手を向けた。
ヒュン、ヒュルル
指揮者がタクトを振るうように軽やかに手首を返すと、噴水から水が噴き出しビーデちゃんを呑み込んだ。
ザバァン!
“ゴブゥ!”
彼女が水の球の中に閉じ込められる。
“おとなくしてなさい !”
リリーさんが空中に浮遊した水の球を制御しようとする。
“ゴボボボボボボボッ!!”
ビーデちゃんが水の中でメチャクチャもがいている。水中でよくあんなに体が動くものだ。リリーさんは必死に抑え込もうとしているが辛そうだ。
“くっ…もたない”
バシャーン!
水の球が破られ、中からビーデちゃんが落ちてきた。
“スゥゥーー……”
彼女が大きく息を吸い込むと—
“デビャアアァァアア!!!”
大絶叫だ。広間中に声が轟く。
ブワァーー、バリバリィーン!
彼女の周りから衝撃波が発生し、窓ガラスが次々と割れていく。もはやサ○ヤ人状態だ。
“なっ!?何してんのよ!?アンタいい加減にしなさいよっ!!”
リリーさんが怒りの攻撃を仕掛け、再び激しい攻防が繰り広げられた。2人の戦いはまるで映画を見ているかのような迫力だった。本当に。
“はぁ…はぁ…”
激しい戦いが長引き、2人に疲労の様子が見えてきた。両者とも肩で息をしている状態だ。そんな中…
“うっ…お腹苦しいデビ”
ビーデちゃんがぽっこりお腹を抑えて苦しそうにした瞬間—
“今よ!!”
メイド長の声と共に示し合わせていたように、隅に避難していた使用人達がバッと飛び出た。ビーデちゃんを取り囲んで素早く拘束具を彼女に着ける。
“何するデビィィ!?”
彼女がジタバタするが、もう力は残っていないようだ。
“はあはあ……、貴方達、よくやってくれたわ!”
リリーさんは服が乱れ髪もボサボサになっている。
“リリー様、ご無事ですか?”
“ええ、大丈夫。ふぅ…ビーデ、よくもこんなに暴れてくれたわね。アンタのおかげで家にあちこち傷はできるし、窓は割れるし、私の髪もひどいし、何もかもメチャクチャよ!!”
“これを解くデビィィィ!!”
“だから話を聞きなさいよ!!というか、中級悪魔に過ぎないアンタにどうしてこんなパワーがあるのよ?”
“ビーデちゃんは天才デビッ!!”どんっ!!
“腹立つけど、魔力だけは本物ね!でも、もう貴方にもお灸を据えないといけないわね。色々考えたけど、貴方にはお人形になってもらうことにしたわ。暴れん坊の貴方にはさぞかし辛いでしょう?しばらく大人しくして反省してなさい。1ヶ月くらいはどうかしら?”
“人形で1ヶ月って何デビー!?いやデビッ!そんなの10分にしろデビ!”
“10分って反省する気ないでしょ!?普通そこは20日とか半月とかそれくらいじゃない!?10分って何よ!?もういいわ!今すぐ人形にして、ここの地下室で幽閉よ!”
“あんな所いやデビ!末代まで呪ってやるデビ!!”
“ロリッ娘が物騒なこと言ってんじゃないわよ!!そうね…確かに貴方の人形が家にあるのも気味が悪いわね。じゃあ、どこか人間界の適当な所にいなさい”
“それなら綺麗な所にしろデビ”
“観念しながら何注文つけてんのよ!!”
“ジィィィィ……”(睨むビーデちゃん)
“もーわかったわよ、お花が咲いているとこにしてあげるわよ”
“たまには様子見ろデビ!”
“はいはい、誰か行かせるわ”
“アイスも食べたいデビ!”
“人形なんだからアイス食べられないでしょ!?”
“確かにそうデビ!”
“いちいち叫ばなくていいわよ!一応、不届き者に悪戯されないようにちゃんとプロテクターもかけてあげるし、命の保証はするから安心しなさい。それじゃ、いくわよ”
“ちょっと待つデビ!やっぱり最後にアイs…”
“ハアァァ!!”
ビビビビビッ!
“デビュューー!!”
リリーさんから魔法をかけられ、ビーデちゃんは僕と出会った時の姿になった。
“ふぅー、何とか終わったわね。それじゃ、この子をどこかお花のある所に置いてきてくれるかしら”
“はい、リリー様”
使用人の1人が人形を抱えて出ていった。
ド派手な回想が終わった。
「……ビーデちゃん、すごかったね」
「ビーデちゃんは天才デビッ!!」どんっ!!
コンコン
ドヤ顔ビーデちゃんの横のドアがノックされた。
「失礼します、お部屋をご用意しました」
部屋の準備をしていた使用人さんが戻ってきた。
「ちょうどいいわ、案内してあげて」
「はい、リリー様」
僕らはそのまま用意された部屋に案内された。そこはふかふかベッドの僕にとっては十分すぎる部屋だった。そして、僕の新しい人生が始まったのである。
「もうすっかり一人前ですね」
「ありがとうございます。メイド長のおかげです」
使用人の制服を着た僕はメイド長と二人でリリーさんの書斎に向かっている。僕とビーデちゃんがこの屋敷に来て1年近くが経とうとしていた。ここでの仕事はメイド長さんが丁寧に教えてくれた。僕の覚えはきっと早くなかったけど、嫌な顔1つせずに指導してくれた。彼女にはとても感謝している。
「あなたは決して容量の良い方ではありませんが、真面目で誠実なお方です。ビーデ様より先にリリー様にお逢いされていればといつも思います」
書斎の前に着くと、メイド長はそう話し残念そうな顔をした。
「そんな、僕なんて……」
「いえ、リリー様も本心ではビーデ様のことを羨んでいらっしゃるのです。お優しい貴方に—」
「貴方たちー、聞こてるわよー。というか早く来てちょうだい!あっ、こら、いい加減にしなさい!!」
「テピーー!!」
ドサドサっ!ガタッ!ゴンっ!
部屋の中から騒がしい音が聞こえてきた。またあの子が悪さしているのだろう。
「リリーさんっ!!」
ガチャっ!
急いで中に入る。
「もうーこの子何とかしてよー!」
「鬼ごっこテピッ♪」
書斎の中に入ると本棚も机の上も荒らされていた。そして、ふかふかのオムツを着けた小さなデビルがピューッと飛び回っていた。
「待ちなさいっ!!」
それを必死に追い回すリリーさん。
「貴方っ、自分の娘なんだから何とかしなさいっ!!」
リリーさんが僕を見て声を上げる。
「はいっ!!ピーテこっち来なさいっ!!」
「パパッ!パパも鬼ごっこやるテピッ!!」
ピュィィィーと彼女が僕の横をすり抜けて部屋を出ていく。体の反分くらいのサイズがある真っ白なオムツがずり落ちて半ケツ状態になっている。
「こらーー!!オムツ落ちるよーー!!」
僕は飛び去る娘を必死に追いかけた。
「ふふふっ、とっても賑やかになりましたね」
廊下を慌ただしく駆けていく親子を見送りメイド長が笑う。
「どうして貴方が笑うのよ。仕事増やされているのよ」
ボサボサ髪になったリリーが疲れ果てた顔でメイド長を見た。
「私も始めは困っておりましたが、もう慣れてしまいました。厄介事が増えましたが、優秀なスタッフも入りましたから」
「確かに彼は頑張り屋さんだと思うわ。でも、あの娘は母親似すぎるわ。あんな名前付けるからよ。ピーテよ!?ピーテ!ビーデの娘でピーテって適当じゃない!!」
「そうは仰いますが、リリー様もピーテお嬢様とお遊びになられている時はとっても楽しそうに見えますよ」
「そうね、何だか親戚の子供ができた気分よ。私のこと”リリーおばさん”って言うのよ、あの子。この私を”おばさん”なんて呼ぶのあの子だけよ。ところで、ビーデはどうしてるの?」
「先程厨房に忍び込み、つまみ食いをしておりました」
「またなのっ!?アイツ、旦那が真面目に働いているから許してあげているけど、そろそろお灸ね。今度はどうしてやろうかしら?」
思案を巡らすリリーを微笑ましくメイド長が見つめる。ビーデが襲撃する時以外は静かだったこの屋敷も、このような騒動が日常茶飯事となった。だが、騒がしい中で屋敷の住人たちには以前より笑顔が増えていた。
「(ビーデ様と旦那様、ありがとうございます。リリー様は今とても生き生きとしていらっしゃいます。そして、願わくば次はこのお方に素敵な殿方を…)」
「貴方、今何考えてたの?」
「な、何でもございません!私は書斎を整理します」
「私もするわ」
2人は書斎に戻った。
リリーに運命の相手が現れるのはしばし後のことであるが、それはまた別の話なのであった。そして、このはちゃめちゃな話もここで幕を閉じるのである。
23/12/27 21:19更新 / 犬派