受け入れる巣なる都市
あれから数十分でラキやジェミニは彼女たちと打ち解けていた。明るい人柄の彼らだからだ。
一方、他のメンバーはこの世界の常識に驚かされていた。
「魔法という自然にできるエネルギーが存在する世界・・・面白そうだね。レックスにその技術を付けられないかな?」
「今のままでも十分だと思います。ドクター」
「魔物なる種族か・・・しかも全て女性化しているとは・・・」
「・・・ふざけた常識だ」
特に印象強いのは魔物という種族。現に救出した彼女たちが魔物そのものだったので信じざる得ない状況だった。
ニールはデュラハンという首無し騎士で実際、頭を取って見せてくれたのだ。それを見てジェミニが「スゴ―イ」とはしゃぎ喜んでいた。
シャマはダークエルフで肌黒と耳が長いのが特徴の種族。魔法が使えるらしく、水玉をラキの顔面に当てた。ラキの場合、「タオル!誰かタオルを!」と慌てる。
「私たちから見れば、お前たちの存在が不思議に思える」
「そうそう、何もない空から何か降らしてあいつらを蹴散らしてくれたじゃない。あれは何なの?」
「あれは上空で偵察させた無人の飛行体からの攻撃だよ。当てたのはヘルファイヤと言われる筒みたいな爆弾。少し、外したから奴らに致命傷はないと思う」
「エスタ!もうちょっと間をあけて撃てよ!危ねえだろ!」
「君たちが遅いからそうなるのだよ」
「・・・覚えてろ」
「くすっ」
「ぷっはははは」
そうこうしている内に目的地に近づき、レックスが知らせる。
「目標地点まで1キロです」
「早いわね」
シャマがそういうとニールとともにフロントガラスに向かう。続いてラキ、ジェミニ、ブレードも向かう。
外には戦艦よりも広い都市が目の前にあった。奥のほうに城のような大きな建物がそびえ立っている。また、都市に向かって左に荒野、右に森林がある。
「ニール!左の荒野には何もないか?」
「そうだが・・・どうするつもりだ?」
「そこに艦を停泊させる。都市の前だと邪魔になるからな。レックス!操縦は頼むぞ」
「了解。方向転換します」
イーグルの指示で戦艦は荒野に向かって後退した。
「器用な船ね」
「さ―て、どうしようかな?」
「ドクター。艦の左側、市街地から複数の生命反応が多数接近」
レックスの言葉に反応し、ドクターは端末を操作。メインテーブルに戦艦の右側の映像が映る。どうやら防衛しにきた部隊らしく隊列を組み、こちらに向かって来る。ラキがそれを見て少し驚く。
「うひゃあ、多いな。こんなでかい物が来たらビックリするわな。お宅の知り合い?」
「ああ、都市の防衛部隊。私の部下たちでもある」
「ちょうど副隊長のベネラがいますよ」
シャマが指差した人物。それは巨大な斧を持つ牛のような女性だった。ジェミニが目を丸くして見る。
「牛?」
「カウ?」
「・・・それは乳牛だ」
さりげに突っ込むブレード。
「彼女はミノタウロスのベネラ。私の副官でもある」
「なるほど、ギリシャ神話の伝説上の生物まで存在するのか」
「凄いね、この世界。ますます興味が湧いてきた」
イーグルとドクターともに冷静に判断。
「とりあえず、彼女たちを送り届けた方がいいかな?」
「いや、それ以外にしないといけないこともあるぞ」
「へえ、どんなこと?隊長」
「ニール。この都市を統率している責任者に会いたいのだが、案内してもらえないか?」
「ああ、構わない。私も報告でお前たちのことを説明しなければならない。」
「よし、総員集合!」
イーグルの掛け声で集まる隊員たち。
「これから、この都市の責任者と面会しに向かう。目的は今後の判断のために情報提供及び彼女たちの送迎だ。艦には数人残らせる」
「じゃあ、僕は残る。代わりにレックスを連れて行って。彼に小型携帯端末を持たせるから、何時でも連絡し合えるよ」
「うむ、ではドクターは此処に。レックスと隊長である私が行こう。あと一人は・・・」
「自分!」
「ブレード」
「だぁ!」
勝手に滑り、倒れるラキ。ジェミニも不満な顔をしている。
「・・・了解」
「それじゃあ、格納デッキに向かうぞ。君たちもついて来てくれ」
「解った」
「ええ」
5人が司令室から退室する。
「・・・まあ、端末通信で此処からを見るしかないね」
「「そんな〜」」
「ナンセンス!」
<格納デッキ>
イーグルたちは三台のスカイチェイサーに跨る。そして、ニールはブレード、シャマはレックスの後ろに乗りこむ。
ニールが格納デッキに置かれた機動兵器に気付く。
「凄い・・・これは一体・・・」
「・・・『G.A.W』(ガウ)だ。作業や戦闘に使う兵器」
ブレードの言う兵器。 『G.A.W』 政府公認の装甲機動兵器。搭乗型の兵器で対大型生命体用に開発された。本来、作業用に使用されていたものを戦闘用に発展させた。
「そんなものまであるのか・・・この船は・・・」
「・・・行くぞ」
『CAUTION。レフトハッチオープン』
ガコオオオオオオオン!!
ハッチが完全に開いたところでイーグルを先頭に飛び出す。速度はあまり出さず、目の前の部隊に徐々に接近。少し手前に三台はホバリングで着陸する。着陸と同時に彼女らは降り、部隊に歩み寄る。
「た、隊長?・・・ニール隊長!?」
「今、戻った。心配かけたな、ベネラ」
「ベネラ!」
「シャマ!あんたも無事だったの!?」
部隊の先頭に居た女性。彼女は二人を見ると安堵を浮かべ、ニールに抱きつく。
「すまない。心配かけて・・・尾行をされてなんとか引き離そうとしたのだが、思った以上に厄介だった」
「でも、無事だったのですね!シャマも・・・よかった・・・」
「ふふ、ありがとう♪」
抱擁を解き、ベネラはイーグルたちを見て、彼女に尋ねる。
「あの・・・彼らは?」
「教会の連中との戦闘で窮地に陥った時、偶然、助けてくれた異世界人だ。彼らがいなければ、私もシャマも無事では済まなかった」
「異世界人!?」
「彼らの服装や所有物を見て、そう判断するしかない。それよりもベネラ」
「はい!?」
「すぐに領主と司令官に報告しに城へ向かう。無論、彼らも面会させる」
「は、はい!」
市街地に向けて歩き出す部隊。それに続いてイーグルたちもついて行く。
都市の街道をゆっくり進むイーグルたち。周りには物珍しく見る市民たちが大勢集まる。だが、彼らは街の風景に驚いていた。
「見えているか?ドクター」
『レックスの目を通じて見えているよ』
「まるで中世の西洋文化を見ているようだ・・・」
「・・・城が見えてきた」
巨大な門を潜り抜け、城の前に辿りつく。此処から徒歩で中に入るため、やむなくチェイサーをその場に置いた。ニールの心遣いで部隊の数人が見張ってくれるらしい。
城内部に入り、今度はニールが案内人。長い通路と幅広い階段を歩き、ある一室に辿りつく。応接室らしく、大きな丸テーブルと複数の椅子が置かれていた。窓を見ると丁度遠くに戦艦クリプトが見える。
「使いの者に連絡したからもうすぐ来るはずだ」
しばらくニールと一緒に待っていると新たに三人が部屋に入って来た。一人が男性。もう二人は女性だ。
男性はタキシードを着た若い青年。女性の一人は貴族のような格好で黒いマントを着けている。もう一人は少女のような姿で背も低く、頭にヤギ角と獣のような手足をしていた。
「おまたせした。どうぞ楽に掛けてくれ。ニールも掛けていいぞ」
「はっ!失礼します」
「失礼します」
「・・・失礼する」
タキシードの男に言われ椅子に腰を掛ける四人。マントの女性から自己紹介し始める。
「ようこそ、都市『アイビス』そして、我がコウノ城へ。 私がその責任者である領主のレギーナ・カーミライト」
「夫のキュラン・カーミライトです。よろしく」
最後に少女が微笑みながら自己紹介した。
「ほほう、なかなか面白そうな者じゃな。司令官のレシィ・エメラドールじゃ」
勿論、彼らも自己紹介する。
「ご丁寧に、強襲部隊隊長のイーグルです」
「・・・隊員のブレード」
「始めまして、同じく隊員のレックスです。それと・・・」
突然、レックスが小型携帯端末をテーブルに置き、操作し始める。
「「「???」」」
「こちらには居ませんが、艦で待機している隊員たちと対話できるようにします。システムオンライン。」
すると、端末から光学表示で映像が出現し、ドクターたちが映る。
『おお、ようやく映ったね。まずはこんにちは』
「「なっ!?」」
「な、なんじゃ!?」
『やっぱり驚くよね。そりゃ異世界から持ってきた技術だし・・・・。とりあえず、僕はエスタ。この部隊の技術者だよ』
『それじゃあ、自分も!遊撃隊員のラキだ!よろ・・ぶぅ!』
『ラキ邪魔!同じくジェミニ・ラート!』
『同じくジェミニ・レート!』
『カメラ小さいんだから暴れないでくれる?』
「騒がしくて楽しそうな奴らじゃな。これがあの巨大船から繋がっておるのか?」
「ふぅ・・・というわけで我々ドラグーン隊は総勢7人で構成されている」
「ぬしらだけなのか?」
『事情があってね・・・まあそれはともかく話しましょうか』
呆気にとられていた領主が落ち着き話し始める。
「そ、そうだな。まず、我が防衛部隊の者たちを助けて頂いたこと。心より感謝する。例え一人として我が民の命は失いたくない」
「いえ、どういたしまして・・・本来は部下の独断を止めようとしたのですが、命令無視する可能性があったので結果、仲間とともに救助させました」
「・・・・・・」
相変わらず、黙り続けるブレード。それを見たニールは少し微笑む。
「そうであったか。その者にも感謝する。さて、次は本題に入りたい」
「ぬしらについてじゃ」
『僕が説明するよ』
エスタが事細かに話し始める。自分たちの世界の状況。任務中の事故。そしてこの世界で体験した今までの出来事を説明した。
話し終わると彼らもニールと同じく唖然としていた。
「凄いね。長生きすると珍しい物見られるね。レギーナ」
「信じられん。・・・だが、その技術や船を見たら信じない訳にもいかない」
「異世界のぉ・・・たまに異世界から訪れたという噂はいくつか耳にしたことはあるのぉ」
「我々からして見れば此処が異世界になります。そして、聞きたいことが一つあります」
「んぅ?なんじゃ?」
「元の世界に帰れる方法は無いでしょうか?」
隊長が一番欲しがっている情報を求めた。しばらくしてレシィから答えがでた。
「申し訳ない。ワシらの持っている技術や魔法では異世界へ送り返す方法は無い。召喚術ならあるのじゃが・・・」
『その逆の方法すら無いという訳だね』
「その通りじゃ」
沈黙する隊員たち。任務に復帰どころか故郷にすら帰れない状況だからだ。
すると見かねた領主の夫キュランが彼らに話し掛けた。
「折角だからこの街に滞在しないかい?」
「「!?」」
『んぅ!?』
『『『えっ!?』』』
イーグルとブレード。そして、通信映像のドクターと三人が驚く。
「このまま放浪させるのも可哀想だし、何より恩人でもあるからね。それぐらいいいだろう?レギーナ」
「うむ、確かに我が民を守ったのなら当然の行いだ」
「だそうじゃ。ぬしらはどうするつもりじゃ?」
『ここはイーグル。隊長である君に任せるよ』
額に手を当て考え込むイーグル。一瞬、戸惑いながらも手を戻した。
「現状で何とかできる訳でも無いしな。お言葉に甘えさせてもよろしいですか?」
「・・・!?」
「無論だ」
「決まりじゃな」
「我が夫としていい考えではないか。褒美は何がいい?」
「そうだな・・・もう少しソフトなスキンシップを・・いだだだだだぁ!!」
「ぷはっ!そんな弱気では私の相手は務まらんぞ」
夫に対してツッコミをいれたらしく、いきなり彼の首に噛みついた。彼女の口元から紅い線が垂れる。
『今のって・・・まさか血を吸ったの!?』
『『でたあああああ!!!』』
ラキがさらに突っ込む。悲鳴を上げるジェミニ。
「そういえばこの世界の常識に疎いんじゃったな。こやつはヴァンパイアでのぉ、百年近く生きておる。ちなみにワシは魔界の覇王なる種族バフォメットじゃ!」
『へえ、ヴァンパイアにバフォメットねぇ。どれも伝説上の生物だね』
『いやいや・・・なに冷静に見てんだよ。血吸われたんだぞ!』
『キュランさ―ん!』
『大丈夫ですか―!?』
映像が騒がしくなる。
「いつものことだから・・・心配しなくていいよ」
「はぁ・・・」
「・・・・・・」
「・・・?」
汗を掻きながら答えるキュランに呆れるイーグル。その横のブレードは不機嫌な顔をしていた。不思議そうに彼を見るニール。
領主は取り出したナプキンで口元を拭くと姿勢を正し咳き込む。
「こほん!では次に滞在場所だが・・・」
「我々の戦艦は生活できる個室もあるので、あの荒野に停泊させて頂けたら助かります」
「便利な船じゃな」
「そうか、この城の部屋を提供させてもよいのだが、それなら構わない。あの荒野は誰も使ってないからな」
『場所はこれで確保できたね』
「ぬしらはこれからどうするつもりじゃ?」
「現状ではどうしようもない。此処を拠点にさせて貰い、帰還する方法を探す」
「・・・・・っ」
隊長の決定に誰にも気付かれないよう舌打ちするブレード。領主が立ち上がる。
「さて、色々と忙しくなるな。もうすぐ日が落ちる。ここまでにしよう。明日はそちらの船に何人か訪問させたい。よろしいか?」
『問題ないよ』
「では、レシィ。部下の一人と明日訪問してくれ」
「まかせるのじゃ♪」
『お迎えはこちらから向かわせるよ。明日の日が昇ったら城の前でお迎えに来させるね』
イーグルたちも立ち上がり、皆揃って部屋から退出する。領主が送ろうとするとイーグルが付け加えて話す。
「帰りは・・・」
「門の前までで結構です。あの乗り物は高度を取ることが容易なので建物も飛び越すことが出来ます」
「おお、是非乗ってみたいのじゃ!」
「明日、お乗せしますよ」
「楽しみにしておるぞ♪」
イーグルの答えにはしゃぐレシィ。その姿はまるで少女のようだ。
門まで送ってもらい、街の上空へ飛び立つイーグルたち。夕日に映る街を眺めながら飛行する。
「綺麗な光景だな・・・」
「・・・隊長」
「どうした?ブレード」
「・・・なぜ、滞在を?」
おもむろに彼が尋ねる。
「戻れる方法が今あるとでも?」
「・・・いえ」
「ならここで情報を集める方が得策。気持ちは分からんでもない。任務は必ず復帰させる」
「・・・はい」
「帰ったら艦内の掃除と整理。それと明日の予定を立てる。それまで休むなよ」
「・・・了解」
一方、他のメンバーはこの世界の常識に驚かされていた。
「魔法という自然にできるエネルギーが存在する世界・・・面白そうだね。レックスにその技術を付けられないかな?」
「今のままでも十分だと思います。ドクター」
「魔物なる種族か・・・しかも全て女性化しているとは・・・」
「・・・ふざけた常識だ」
特に印象強いのは魔物という種族。現に救出した彼女たちが魔物そのものだったので信じざる得ない状況だった。
ニールはデュラハンという首無し騎士で実際、頭を取って見せてくれたのだ。それを見てジェミニが「スゴ―イ」とはしゃぎ喜んでいた。
シャマはダークエルフで肌黒と耳が長いのが特徴の種族。魔法が使えるらしく、水玉をラキの顔面に当てた。ラキの場合、「タオル!誰かタオルを!」と慌てる。
「私たちから見れば、お前たちの存在が不思議に思える」
「そうそう、何もない空から何か降らしてあいつらを蹴散らしてくれたじゃない。あれは何なの?」
「あれは上空で偵察させた無人の飛行体からの攻撃だよ。当てたのはヘルファイヤと言われる筒みたいな爆弾。少し、外したから奴らに致命傷はないと思う」
「エスタ!もうちょっと間をあけて撃てよ!危ねえだろ!」
「君たちが遅いからそうなるのだよ」
「・・・覚えてろ」
「くすっ」
「ぷっはははは」
そうこうしている内に目的地に近づき、レックスが知らせる。
「目標地点まで1キロです」
「早いわね」
シャマがそういうとニールとともにフロントガラスに向かう。続いてラキ、ジェミニ、ブレードも向かう。
外には戦艦よりも広い都市が目の前にあった。奥のほうに城のような大きな建物がそびえ立っている。また、都市に向かって左に荒野、右に森林がある。
「ニール!左の荒野には何もないか?」
「そうだが・・・どうするつもりだ?」
「そこに艦を停泊させる。都市の前だと邪魔になるからな。レックス!操縦は頼むぞ」
「了解。方向転換します」
イーグルの指示で戦艦は荒野に向かって後退した。
「器用な船ね」
「さ―て、どうしようかな?」
「ドクター。艦の左側、市街地から複数の生命反応が多数接近」
レックスの言葉に反応し、ドクターは端末を操作。メインテーブルに戦艦の右側の映像が映る。どうやら防衛しにきた部隊らしく隊列を組み、こちらに向かって来る。ラキがそれを見て少し驚く。
「うひゃあ、多いな。こんなでかい物が来たらビックリするわな。お宅の知り合い?」
「ああ、都市の防衛部隊。私の部下たちでもある」
「ちょうど副隊長のベネラがいますよ」
シャマが指差した人物。それは巨大な斧を持つ牛のような女性だった。ジェミニが目を丸くして見る。
「牛?」
「カウ?」
「・・・それは乳牛だ」
さりげに突っ込むブレード。
「彼女はミノタウロスのベネラ。私の副官でもある」
「なるほど、ギリシャ神話の伝説上の生物まで存在するのか」
「凄いね、この世界。ますます興味が湧いてきた」
イーグルとドクターともに冷静に判断。
「とりあえず、彼女たちを送り届けた方がいいかな?」
「いや、それ以外にしないといけないこともあるぞ」
「へえ、どんなこと?隊長」
「ニール。この都市を統率している責任者に会いたいのだが、案内してもらえないか?」
「ああ、構わない。私も報告でお前たちのことを説明しなければならない。」
「よし、総員集合!」
イーグルの掛け声で集まる隊員たち。
「これから、この都市の責任者と面会しに向かう。目的は今後の判断のために情報提供及び彼女たちの送迎だ。艦には数人残らせる」
「じゃあ、僕は残る。代わりにレックスを連れて行って。彼に小型携帯端末を持たせるから、何時でも連絡し合えるよ」
「うむ、ではドクターは此処に。レックスと隊長である私が行こう。あと一人は・・・」
「自分!」
「ブレード」
「だぁ!」
勝手に滑り、倒れるラキ。ジェミニも不満な顔をしている。
「・・・了解」
「それじゃあ、格納デッキに向かうぞ。君たちもついて来てくれ」
「解った」
「ええ」
5人が司令室から退室する。
「・・・まあ、端末通信で此処からを見るしかないね」
「「そんな〜」」
「ナンセンス!」
<格納デッキ>
イーグルたちは三台のスカイチェイサーに跨る。そして、ニールはブレード、シャマはレックスの後ろに乗りこむ。
ニールが格納デッキに置かれた機動兵器に気付く。
「凄い・・・これは一体・・・」
「・・・『G.A.W』(ガウ)だ。作業や戦闘に使う兵器」
ブレードの言う兵器。 『G.A.W』 政府公認の装甲機動兵器。搭乗型の兵器で対大型生命体用に開発された。本来、作業用に使用されていたものを戦闘用に発展させた。
「そんなものまであるのか・・・この船は・・・」
「・・・行くぞ」
『CAUTION。レフトハッチオープン』
ガコオオオオオオオン!!
ハッチが完全に開いたところでイーグルを先頭に飛び出す。速度はあまり出さず、目の前の部隊に徐々に接近。少し手前に三台はホバリングで着陸する。着陸と同時に彼女らは降り、部隊に歩み寄る。
「た、隊長?・・・ニール隊長!?」
「今、戻った。心配かけたな、ベネラ」
「ベネラ!」
「シャマ!あんたも無事だったの!?」
部隊の先頭に居た女性。彼女は二人を見ると安堵を浮かべ、ニールに抱きつく。
「すまない。心配かけて・・・尾行をされてなんとか引き離そうとしたのだが、思った以上に厄介だった」
「でも、無事だったのですね!シャマも・・・よかった・・・」
「ふふ、ありがとう♪」
抱擁を解き、ベネラはイーグルたちを見て、彼女に尋ねる。
「あの・・・彼らは?」
「教会の連中との戦闘で窮地に陥った時、偶然、助けてくれた異世界人だ。彼らがいなければ、私もシャマも無事では済まなかった」
「異世界人!?」
「彼らの服装や所有物を見て、そう判断するしかない。それよりもベネラ」
「はい!?」
「すぐに領主と司令官に報告しに城へ向かう。無論、彼らも面会させる」
「は、はい!」
市街地に向けて歩き出す部隊。それに続いてイーグルたちもついて行く。
都市の街道をゆっくり進むイーグルたち。周りには物珍しく見る市民たちが大勢集まる。だが、彼らは街の風景に驚いていた。
「見えているか?ドクター」
『レックスの目を通じて見えているよ』
「まるで中世の西洋文化を見ているようだ・・・」
「・・・城が見えてきた」
巨大な門を潜り抜け、城の前に辿りつく。此処から徒歩で中に入るため、やむなくチェイサーをその場に置いた。ニールの心遣いで部隊の数人が見張ってくれるらしい。
城内部に入り、今度はニールが案内人。長い通路と幅広い階段を歩き、ある一室に辿りつく。応接室らしく、大きな丸テーブルと複数の椅子が置かれていた。窓を見ると丁度遠くに戦艦クリプトが見える。
「使いの者に連絡したからもうすぐ来るはずだ」
しばらくニールと一緒に待っていると新たに三人が部屋に入って来た。一人が男性。もう二人は女性だ。
男性はタキシードを着た若い青年。女性の一人は貴族のような格好で黒いマントを着けている。もう一人は少女のような姿で背も低く、頭にヤギ角と獣のような手足をしていた。
「おまたせした。どうぞ楽に掛けてくれ。ニールも掛けていいぞ」
「はっ!失礼します」
「失礼します」
「・・・失礼する」
タキシードの男に言われ椅子に腰を掛ける四人。マントの女性から自己紹介し始める。
「ようこそ、都市『アイビス』そして、我がコウノ城へ。 私がその責任者である領主のレギーナ・カーミライト」
「夫のキュラン・カーミライトです。よろしく」
最後に少女が微笑みながら自己紹介した。
「ほほう、なかなか面白そうな者じゃな。司令官のレシィ・エメラドールじゃ」
勿論、彼らも自己紹介する。
「ご丁寧に、強襲部隊隊長のイーグルです」
「・・・隊員のブレード」
「始めまして、同じく隊員のレックスです。それと・・・」
突然、レックスが小型携帯端末をテーブルに置き、操作し始める。
「「「???」」」
「こちらには居ませんが、艦で待機している隊員たちと対話できるようにします。システムオンライン。」
すると、端末から光学表示で映像が出現し、ドクターたちが映る。
『おお、ようやく映ったね。まずはこんにちは』
「「なっ!?」」
「な、なんじゃ!?」
『やっぱり驚くよね。そりゃ異世界から持ってきた技術だし・・・・。とりあえず、僕はエスタ。この部隊の技術者だよ』
『それじゃあ、自分も!遊撃隊員のラキだ!よろ・・ぶぅ!』
『ラキ邪魔!同じくジェミニ・ラート!』
『同じくジェミニ・レート!』
『カメラ小さいんだから暴れないでくれる?』
「騒がしくて楽しそうな奴らじゃな。これがあの巨大船から繋がっておるのか?」
「ふぅ・・・というわけで我々ドラグーン隊は総勢7人で構成されている」
「ぬしらだけなのか?」
『事情があってね・・・まあそれはともかく話しましょうか』
呆気にとられていた領主が落ち着き話し始める。
「そ、そうだな。まず、我が防衛部隊の者たちを助けて頂いたこと。心より感謝する。例え一人として我が民の命は失いたくない」
「いえ、どういたしまして・・・本来は部下の独断を止めようとしたのですが、命令無視する可能性があったので結果、仲間とともに救助させました」
「・・・・・・」
相変わらず、黙り続けるブレード。それを見たニールは少し微笑む。
「そうであったか。その者にも感謝する。さて、次は本題に入りたい」
「ぬしらについてじゃ」
『僕が説明するよ』
エスタが事細かに話し始める。自分たちの世界の状況。任務中の事故。そしてこの世界で体験した今までの出来事を説明した。
話し終わると彼らもニールと同じく唖然としていた。
「凄いね。長生きすると珍しい物見られるね。レギーナ」
「信じられん。・・・だが、その技術や船を見たら信じない訳にもいかない」
「異世界のぉ・・・たまに異世界から訪れたという噂はいくつか耳にしたことはあるのぉ」
「我々からして見れば此処が異世界になります。そして、聞きたいことが一つあります」
「んぅ?なんじゃ?」
「元の世界に帰れる方法は無いでしょうか?」
隊長が一番欲しがっている情報を求めた。しばらくしてレシィから答えがでた。
「申し訳ない。ワシらの持っている技術や魔法では異世界へ送り返す方法は無い。召喚術ならあるのじゃが・・・」
『その逆の方法すら無いという訳だね』
「その通りじゃ」
沈黙する隊員たち。任務に復帰どころか故郷にすら帰れない状況だからだ。
すると見かねた領主の夫キュランが彼らに話し掛けた。
「折角だからこの街に滞在しないかい?」
「「!?」」
『んぅ!?』
『『『えっ!?』』』
イーグルとブレード。そして、通信映像のドクターと三人が驚く。
「このまま放浪させるのも可哀想だし、何より恩人でもあるからね。それぐらいいいだろう?レギーナ」
「うむ、確かに我が民を守ったのなら当然の行いだ」
「だそうじゃ。ぬしらはどうするつもりじゃ?」
『ここはイーグル。隊長である君に任せるよ』
額に手を当て考え込むイーグル。一瞬、戸惑いながらも手を戻した。
「現状で何とかできる訳でも無いしな。お言葉に甘えさせてもよろしいですか?」
「・・・!?」
「無論だ」
「決まりじゃな」
「我が夫としていい考えではないか。褒美は何がいい?」
「そうだな・・・もう少しソフトなスキンシップを・・いだだだだだぁ!!」
「ぷはっ!そんな弱気では私の相手は務まらんぞ」
夫に対してツッコミをいれたらしく、いきなり彼の首に噛みついた。彼女の口元から紅い線が垂れる。
『今のって・・・まさか血を吸ったの!?』
『『でたあああああ!!!』』
ラキがさらに突っ込む。悲鳴を上げるジェミニ。
「そういえばこの世界の常識に疎いんじゃったな。こやつはヴァンパイアでのぉ、百年近く生きておる。ちなみにワシは魔界の覇王なる種族バフォメットじゃ!」
『へえ、ヴァンパイアにバフォメットねぇ。どれも伝説上の生物だね』
『いやいや・・・なに冷静に見てんだよ。血吸われたんだぞ!』
『キュランさ―ん!』
『大丈夫ですか―!?』
映像が騒がしくなる。
「いつものことだから・・・心配しなくていいよ」
「はぁ・・・」
「・・・・・・」
「・・・?」
汗を掻きながら答えるキュランに呆れるイーグル。その横のブレードは不機嫌な顔をしていた。不思議そうに彼を見るニール。
領主は取り出したナプキンで口元を拭くと姿勢を正し咳き込む。
「こほん!では次に滞在場所だが・・・」
「我々の戦艦は生活できる個室もあるので、あの荒野に停泊させて頂けたら助かります」
「便利な船じゃな」
「そうか、この城の部屋を提供させてもよいのだが、それなら構わない。あの荒野は誰も使ってないからな」
『場所はこれで確保できたね』
「ぬしらはこれからどうするつもりじゃ?」
「現状ではどうしようもない。此処を拠点にさせて貰い、帰還する方法を探す」
「・・・・・っ」
隊長の決定に誰にも気付かれないよう舌打ちするブレード。領主が立ち上がる。
「さて、色々と忙しくなるな。もうすぐ日が落ちる。ここまでにしよう。明日はそちらの船に何人か訪問させたい。よろしいか?」
『問題ないよ』
「では、レシィ。部下の一人と明日訪問してくれ」
「まかせるのじゃ♪」
『お迎えはこちらから向かわせるよ。明日の日が昇ったら城の前でお迎えに来させるね』
イーグルたちも立ち上がり、皆揃って部屋から退出する。領主が送ろうとするとイーグルが付け加えて話す。
「帰りは・・・」
「門の前までで結構です。あの乗り物は高度を取ることが容易なので建物も飛び越すことが出来ます」
「おお、是非乗ってみたいのじゃ!」
「明日、お乗せしますよ」
「楽しみにしておるぞ♪」
イーグルの答えにはしゃぐレシィ。その姿はまるで少女のようだ。
門まで送ってもらい、街の上空へ飛び立つイーグルたち。夕日に映る街を眺めながら飛行する。
「綺麗な光景だな・・・」
「・・・隊長」
「どうした?ブレード」
「・・・なぜ、滞在を?」
おもむろに彼が尋ねる。
「戻れる方法が今あるとでも?」
「・・・いえ」
「ならここで情報を集める方が得策。気持ちは分からんでもない。任務は必ず復帰させる」
「・・・はい」
「帰ったら艦内の掃除と整理。それと明日の予定を立てる。それまで休むなよ」
「・・・了解」
11/07/06 16:44更新 / 『エックス』
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