No.15 エピローグ
数日後、畳のある和風な室内。
そこには白い着物を着るレンジェの姿があった。彼女はジョロウグモの糸美に、挙式のための白無垢を着せて貰っていたのだ。白く上等な着物はリリムである美しさを際立たせている。
「お似合いですよ、姫さん」
「ありがとうございます♪」
白い後ろ髪は全て後頭部辺りで纏められ、顔の両脇の黒い髪飾りはそのままである。糸美はその状態の頭へ白い綿帽子を被せた。
「これで頭の先からつま先まで真っ白ですね。神さんでも惚れさせること間違いなし!」
「ふふふ♪ でも、私を惚れさせたのはあの人だけです」
「本当に、罪作りな人ですなぁ・・・」
(人であり、人以上に生きた存在です・・・)
「では、そろそろ参りましょうか」
「ええ」
シャインローズのある場所に建てられた神社。ジパングの神を祀る施設であり、白蛇とその夫である斎主が管理している。水神として崇められている“龍”と知り合い、その巫女である“白蛇”の彼女を町へ招いたのだ。
分社であるこの神社は、町のほとんどの結婚式がここで行われることが多く、和装による結婚が主流となっている。
「沢山集まりましたね・・・」
「それはもう“リリム様の結婚式”ですから、こんなめでたいことは滅多に見られませんよ」
正装で参列した人や魔物がレンジェの晴れ姿を見ようと、彼女の周りに集まって来た。その中には見知った顔の人が沢山いる。
「嬢ちゃん、綺麗すぎるじゃねえか・・・あんた達もそう思うだろう?」
「「「姐さんの言う通りです!!」」」
自警団の男達と一緒に居るのは、赤い半被と鉢巻をするウシオニの松。彼女はいつもと変わらない姿で来ていた。
「「レンジェ様、お祝い申し上げます」」
「リトラさん、マニウスさん、ありがとうございます。あら? そちらのお子さんは・・・」
「自分達の子です。ユナ、挨拶しなさい」
リトラは左隣にいた6歳くらいの子どもの背中を優しく押した。その子も短髪でリトラと似た可愛らしい顔を持ち、サキュバスである角、翼、尻尾を生やしている。動き易そうなピンク色のドレスを身に纏い、左手には木剣を握っていた。
「初めまして、お姫様。ユナといいます」
「ユナちゃんね。私はレンジェよ、よろしくね♪」
「はい、よろしくお願いします」
レンジェは行儀よくお辞儀をするユナの頭を撫でる。彼女自身、いつかこんな可愛らしい娘を産みたいと思い願っていた。
「レンジェ様・・・あなた様に仕えられて本当によかった・・・」
「姫様が神々しいです・・・」
「レンジェ殿も遂に婿取り婚ですねぇ・・・」
「領主様、おめでとうございます」
「皆・・・」
セシウは涙を流し、夢乃は目を輝かせ、紺は巫女服姿で微笑んでいた。ヴィーラも丁寧に祝福の言葉を口にする。
沢山の住人達に祝福されながら、彼女はある人影の方へ足を進めた。
それは黒い羽織を着込み、紋付の家紋は“蓮華”が描かれている。下はきっちりとした灰色の縦縞模様の袴を履いていた。それらを身に纏う青年がレンジェの方へ頭を向ける。
「眩しいな・・・」
「白粉(おしろい)は塗っていませんよ♪」
「塗ってるかどうかすら解らん。おっと、扇子を出さねば・・・」
そう言って、シンヤは右手に青い光球を出現させ、扇子を創り上げた。
「では、行こうか」
「はい♪」
社殿に入った二人は斎主の指示で拝礼し、彼のお祓いを受けた。続けて、結婚の報告と祝詞を読み上げられた後、盃を交わす儀式を行った。レンジェは緊張しながらも彼の口付けした盃へ間接キスをする。
「ん・・・」
盃を終えると、白蛇の巫女が二人の前へ来て、指輪を乗せた器を彼女らに差し出した。
「シンヤさん」
「はて・・・神前でこのような儀があったか?」
「こちらの文化と交わっていますから♪」
「なるほど・・・」
納得する青年は指輪を一つ手に取り、レンジェの左手の薬指にそっとはめる。同じように彼女も彼の左手に指輪をはめた。
「これでいいのか?」
「はい♪」
少々、戸惑うシンヤを補助しながら、二人はその後の儀を順調に終えていく。全てが終わった後、二人と参列者たちは披露宴のため、屋敷へと向かった。
屋敷の外で披露宴のごちそうを楽しむ参列者たち。一足早く着替えたシンヤは、この世界に来たときの黒い学生服を着ていた。あの戦いで破けた服だったが、ジョロウグモの糸美によって完全修復された。
(まぁ、正直これに未練はないのだが・・・折角の修繕を無下にする訳には・・・)
「シンヤさ〜ん!」
「?」
彼が呼ばれた方向へ目を向けると、そこにはお色直しを終えたレンジェの姿があった。
鮮やかな花模様が描かれた着物。それはピンク色に染まった色打掛で、先程の白無垢にも負けない優美さがあった。後ろ髪は纏めたままで、金の花かんざしを挿している。
「凄いな・・・これもあのジョロウグモが?」
「はい、糸美さんの自信作だそうです・・・似合います?」
「ああ、とても綺麗だ・・・雪もこれだけ染まれば鮮やかになる。それに・・・」
「それに?」
「君の心を象徴する色でもあるな」
「!」
青年の口にした言葉に彼女は頬を赤らめてしまう。
「た、確かに・・・でも、そこまで欲情していませんよ?」
「そう言ったつもりではないがな・・・・・・あの時もそうだったな」
「あの時?」
「初めて接吻をした後、気絶する前に薄らと・・・君の輝く心がその色に見えた」
「私の・・・心が?」
意外なことで自身の心を見られ、レンジェは恥ずかしくなって胸を押さえる。そんな彼女らに、夢乃や紺が料理を手にして近付いてきた。
「姫様!」
「美味しい料理が冷めちゃいますよ?」
「そうだな・・・行こうか」
「はい♪」
レンジェは差し出されたシンヤの右手を取り、参列者たちの中へと入って行った。
二人のその光景は水晶玉に映されていた。それを眺める二つの視線。薄暗い部屋の中、それらはレンジェとシンヤが映る光景をずっと見つめる。
「以上で、領主様であるレンジェ王女の結婚記録になります」
「・・・」
一つの視線は水晶玉に手を添えていた女性。それはレンジェの補佐役である秘書のヴィーラだった。
「いい娘に育ったわね・・・久しいわ、レンジェ・・・」
もう一人の女性はサキュバスのような影をしていて、その姿がはっきりとは見えない。唯一分かるのは瞳が輝くピンク色をしていることだけである。そして、次にヴィーラが呟いたことで彼女の正体が明らかとなった。
「それにしても・・・“魔王様”このような輩を伴侶にさせてもよろしいのでしょうか?」
「あら? 別にいいじゃない。娘達のほとんどが自由に生活しているんだから♪」
「自由過ぎて疲れますが・・・デルエラ様よりは・・・」
「あの子はちょっとあっち方面が大きく出ちゃったからね・・・」
「あっち方面?」
「気にしなくていいよ♪」
「はぁ・・・」
疑問に思う彼女だったが、あることを思い出し、それに関して話し始める。
「・・・それと、例の襲撃者に関してですが・・・」
「ああ、それね。何か見つけたの?」
「これをご覧ください」
ヴィーラは水晶玉にある光景を映し出した。それは自身がスリップス領で目撃した光の柱である。ピンク色に輝く柱の中で見慣れぬ術式のような文字が浮かんでいた。それを見た魔王は真剣な眼差しで見つめる。
「レンジェ様の話によると、妖が消滅する際に浮かび上がった文字だそうです」
「・・・そう・・・・・・懐かしいわね・・・」
「魔王様? これに見覚えが?」
「・・・ええ、見たことがあるわ・・・・・・とても昔にね・・・」
思いつめるような表情で彼女は語り出した。
「・・・昔のサキュバス達がどんなものだったか知ってる?」
「今と変わらないのでは?」
「全然違うわ。昔のサキュバス達はもっと凶悪なものだった・・・」
「凶悪?」
「・・・精を吸うのは序の口・・・本命はその者の生命を吸収する」
「生命を!?」
自身も知らない情報にヴィーラが声を上げる。
「それこそ前魔王が創り上げた“サキュバス”という魔物なのよ・・・」
「そんな・・・」
「けれども、私はそれに抗った。あの人や人間を守るため、私は前魔王を倒し、今の魔物娘達を創り上げたのよ」
「・・・」
「そんな中、残っていたのでしょうね・・・前のサキュバスというものが・・・」
「まさか・・・この女が!?」
魔王の昔話でヴィーラはある答えに導かれた。
「陰なる存在ねぇ・・・この文字は前魔王の術式でもあるわ。前魔王時代の“サキュバスの魂”と言えば、解り易いかしら?」
「あれが前魔王時代のサキュバス!? あんな凶悪なものが・・・」
「恐らく私に世代交代したときに、その娘だけ別世界へ転移したのでしょう・・・可愛そうにねぇ」
「そ、それなら・・・あのシンヤという存在は一体・・・」
もう一つ浮かび上がる疑問に、魔王は素っ気なく答える。
「あの子はあれでしょ? 主神がばら撒いた勇者の力を持つ者よ」
「なっ!?」
「というより・・・勇者の力そのものと言った方がいいかしら?」
「力そのもの・・・・・・だからあのような術を・・・」
「でしょうね・・・それにしても執念深いわねぇ・・・互いに転生し合って、戦い続けるなんて・・・」
「そう、仕組まれていたのでは?」
「さぁてね?」
その質問にとぼけるように呟く魔王。対するヴィーラは追求せず、何も言わなかった。
「それより、ヴィーラ」
「はい?」
「報告ご苦労様♪・・・それと大変だったわね。身体の方は大丈夫?」
「ご心配なく・・・今回の件で純潔は奪われましたが、相手を見つけることが出来ました」
「あら、本当に? おめでとう・・・そうね。私の可愛い娘にも相手ができちゃったし♪」
「はい・・・あの御方にもいい報告が出来そうです」
「ああ、あの娘ね? もう、私どれだけの娘を産んだか、ちょっと忘れちゃうわ」
「・・・実の娘ぐらいちゃんと管理してください」
「てへ♪」
魔王は舌を出して謝る振りをする。ヴィーラはそんな彼女に呆れながらも、水晶玉を懐に入れて帰る準備をした。
「では、魔王様。報告は終わりましたので、これにて失礼します」
「ええ、気を付けて帰ってね。ちなみに・・・このことはあの娘には他言しないように」
「承知しました」
彼女は一礼してから暗い部屋を出て行く。残された魔王は目を閉じ、闇と一体化するように姿が見えなくなった。
(あの女神も一応は仕事してくれたみたいね・・・天使を一人だけ送ったのは知っていたけど・・・)
「・・・レンジェ・・・ゆっくりでいいから染めていきなさい。あなたが望む色へと・・・」
そこには白い着物を着るレンジェの姿があった。彼女はジョロウグモの糸美に、挙式のための白無垢を着せて貰っていたのだ。白く上等な着物はリリムである美しさを際立たせている。
「お似合いですよ、姫さん」
「ありがとうございます♪」
白い後ろ髪は全て後頭部辺りで纏められ、顔の両脇の黒い髪飾りはそのままである。糸美はその状態の頭へ白い綿帽子を被せた。
「これで頭の先からつま先まで真っ白ですね。神さんでも惚れさせること間違いなし!」
「ふふふ♪ でも、私を惚れさせたのはあの人だけです」
「本当に、罪作りな人ですなぁ・・・」
(人であり、人以上に生きた存在です・・・)
「では、そろそろ参りましょうか」
「ええ」
シャインローズのある場所に建てられた神社。ジパングの神を祀る施設であり、白蛇とその夫である斎主が管理している。水神として崇められている“龍”と知り合い、その巫女である“白蛇”の彼女を町へ招いたのだ。
分社であるこの神社は、町のほとんどの結婚式がここで行われることが多く、和装による結婚が主流となっている。
「沢山集まりましたね・・・」
「それはもう“リリム様の結婚式”ですから、こんなめでたいことは滅多に見られませんよ」
正装で参列した人や魔物がレンジェの晴れ姿を見ようと、彼女の周りに集まって来た。その中には見知った顔の人が沢山いる。
「嬢ちゃん、綺麗すぎるじゃねえか・・・あんた達もそう思うだろう?」
「「「姐さんの言う通りです!!」」」
自警団の男達と一緒に居るのは、赤い半被と鉢巻をするウシオニの松。彼女はいつもと変わらない姿で来ていた。
「「レンジェ様、お祝い申し上げます」」
「リトラさん、マニウスさん、ありがとうございます。あら? そちらのお子さんは・・・」
「自分達の子です。ユナ、挨拶しなさい」
リトラは左隣にいた6歳くらいの子どもの背中を優しく押した。その子も短髪でリトラと似た可愛らしい顔を持ち、サキュバスである角、翼、尻尾を生やしている。動き易そうなピンク色のドレスを身に纏い、左手には木剣を握っていた。
「初めまして、お姫様。ユナといいます」
「ユナちゃんね。私はレンジェよ、よろしくね♪」
「はい、よろしくお願いします」
レンジェは行儀よくお辞儀をするユナの頭を撫でる。彼女自身、いつかこんな可愛らしい娘を産みたいと思い願っていた。
「レンジェ様・・・あなた様に仕えられて本当によかった・・・」
「姫様が神々しいです・・・」
「レンジェ殿も遂に婿取り婚ですねぇ・・・」
「領主様、おめでとうございます」
「皆・・・」
セシウは涙を流し、夢乃は目を輝かせ、紺は巫女服姿で微笑んでいた。ヴィーラも丁寧に祝福の言葉を口にする。
沢山の住人達に祝福されながら、彼女はある人影の方へ足を進めた。
それは黒い羽織を着込み、紋付の家紋は“蓮華”が描かれている。下はきっちりとした灰色の縦縞模様の袴を履いていた。それらを身に纏う青年がレンジェの方へ頭を向ける。
「眩しいな・・・」
「白粉(おしろい)は塗っていませんよ♪」
「塗ってるかどうかすら解らん。おっと、扇子を出さねば・・・」
そう言って、シンヤは右手に青い光球を出現させ、扇子を創り上げた。
「では、行こうか」
「はい♪」
社殿に入った二人は斎主の指示で拝礼し、彼のお祓いを受けた。続けて、結婚の報告と祝詞を読み上げられた後、盃を交わす儀式を行った。レンジェは緊張しながらも彼の口付けした盃へ間接キスをする。
「ん・・・」
盃を終えると、白蛇の巫女が二人の前へ来て、指輪を乗せた器を彼女らに差し出した。
「シンヤさん」
「はて・・・神前でこのような儀があったか?」
「こちらの文化と交わっていますから♪」
「なるほど・・・」
納得する青年は指輪を一つ手に取り、レンジェの左手の薬指にそっとはめる。同じように彼女も彼の左手に指輪をはめた。
「これでいいのか?」
「はい♪」
少々、戸惑うシンヤを補助しながら、二人はその後の儀を順調に終えていく。全てが終わった後、二人と参列者たちは披露宴のため、屋敷へと向かった。
屋敷の外で披露宴のごちそうを楽しむ参列者たち。一足早く着替えたシンヤは、この世界に来たときの黒い学生服を着ていた。あの戦いで破けた服だったが、ジョロウグモの糸美によって完全修復された。
(まぁ、正直これに未練はないのだが・・・折角の修繕を無下にする訳には・・・)
「シンヤさ〜ん!」
「?」
彼が呼ばれた方向へ目を向けると、そこにはお色直しを終えたレンジェの姿があった。
鮮やかな花模様が描かれた着物。それはピンク色に染まった色打掛で、先程の白無垢にも負けない優美さがあった。後ろ髪は纏めたままで、金の花かんざしを挿している。
「凄いな・・・これもあのジョロウグモが?」
「はい、糸美さんの自信作だそうです・・・似合います?」
「ああ、とても綺麗だ・・・雪もこれだけ染まれば鮮やかになる。それに・・・」
「それに?」
「君の心を象徴する色でもあるな」
「!」
青年の口にした言葉に彼女は頬を赤らめてしまう。
「た、確かに・・・でも、そこまで欲情していませんよ?」
「そう言ったつもりではないがな・・・・・・あの時もそうだったな」
「あの時?」
「初めて接吻をした後、気絶する前に薄らと・・・君の輝く心がその色に見えた」
「私の・・・心が?」
意外なことで自身の心を見られ、レンジェは恥ずかしくなって胸を押さえる。そんな彼女らに、夢乃や紺が料理を手にして近付いてきた。
「姫様!」
「美味しい料理が冷めちゃいますよ?」
「そうだな・・・行こうか」
「はい♪」
レンジェは差し出されたシンヤの右手を取り、参列者たちの中へと入って行った。
二人のその光景は水晶玉に映されていた。それを眺める二つの視線。薄暗い部屋の中、それらはレンジェとシンヤが映る光景をずっと見つめる。
「以上で、領主様であるレンジェ王女の結婚記録になります」
「・・・」
一つの視線は水晶玉に手を添えていた女性。それはレンジェの補佐役である秘書のヴィーラだった。
「いい娘に育ったわね・・・久しいわ、レンジェ・・・」
もう一人の女性はサキュバスのような影をしていて、その姿がはっきりとは見えない。唯一分かるのは瞳が輝くピンク色をしていることだけである。そして、次にヴィーラが呟いたことで彼女の正体が明らかとなった。
「それにしても・・・“魔王様”このような輩を伴侶にさせてもよろしいのでしょうか?」
「あら? 別にいいじゃない。娘達のほとんどが自由に生活しているんだから♪」
「自由過ぎて疲れますが・・・デルエラ様よりは・・・」
「あの子はちょっとあっち方面が大きく出ちゃったからね・・・」
「あっち方面?」
「気にしなくていいよ♪」
「はぁ・・・」
疑問に思う彼女だったが、あることを思い出し、それに関して話し始める。
「・・・それと、例の襲撃者に関してですが・・・」
「ああ、それね。何か見つけたの?」
「これをご覧ください」
ヴィーラは水晶玉にある光景を映し出した。それは自身がスリップス領で目撃した光の柱である。ピンク色に輝く柱の中で見慣れぬ術式のような文字が浮かんでいた。それを見た魔王は真剣な眼差しで見つめる。
「レンジェ様の話によると、妖が消滅する際に浮かび上がった文字だそうです」
「・・・そう・・・・・・懐かしいわね・・・」
「魔王様? これに見覚えが?」
「・・・ええ、見たことがあるわ・・・・・・とても昔にね・・・」
思いつめるような表情で彼女は語り出した。
「・・・昔のサキュバス達がどんなものだったか知ってる?」
「今と変わらないのでは?」
「全然違うわ。昔のサキュバス達はもっと凶悪なものだった・・・」
「凶悪?」
「・・・精を吸うのは序の口・・・本命はその者の生命を吸収する」
「生命を!?」
自身も知らない情報にヴィーラが声を上げる。
「それこそ前魔王が創り上げた“サキュバス”という魔物なのよ・・・」
「そんな・・・」
「けれども、私はそれに抗った。あの人や人間を守るため、私は前魔王を倒し、今の魔物娘達を創り上げたのよ」
「・・・」
「そんな中、残っていたのでしょうね・・・前のサキュバスというものが・・・」
「まさか・・・この女が!?」
魔王の昔話でヴィーラはある答えに導かれた。
「陰なる存在ねぇ・・・この文字は前魔王の術式でもあるわ。前魔王時代の“サキュバスの魂”と言えば、解り易いかしら?」
「あれが前魔王時代のサキュバス!? あんな凶悪なものが・・・」
「恐らく私に世代交代したときに、その娘だけ別世界へ転移したのでしょう・・・可愛そうにねぇ」
「そ、それなら・・・あのシンヤという存在は一体・・・」
もう一つ浮かび上がる疑問に、魔王は素っ気なく答える。
「あの子はあれでしょ? 主神がばら撒いた勇者の力を持つ者よ」
「なっ!?」
「というより・・・勇者の力そのものと言った方がいいかしら?」
「力そのもの・・・・・・だからあのような術を・・・」
「でしょうね・・・それにしても執念深いわねぇ・・・互いに転生し合って、戦い続けるなんて・・・」
「そう、仕組まれていたのでは?」
「さぁてね?」
その質問にとぼけるように呟く魔王。対するヴィーラは追求せず、何も言わなかった。
「それより、ヴィーラ」
「はい?」
「報告ご苦労様♪・・・それと大変だったわね。身体の方は大丈夫?」
「ご心配なく・・・今回の件で純潔は奪われましたが、相手を見つけることが出来ました」
「あら、本当に? おめでとう・・・そうね。私の可愛い娘にも相手ができちゃったし♪」
「はい・・・あの御方にもいい報告が出来そうです」
「ああ、あの娘ね? もう、私どれだけの娘を産んだか、ちょっと忘れちゃうわ」
「・・・実の娘ぐらいちゃんと管理してください」
「てへ♪」
魔王は舌を出して謝る振りをする。ヴィーラはそんな彼女に呆れながらも、水晶玉を懐に入れて帰る準備をした。
「では、魔王様。報告は終わりましたので、これにて失礼します」
「ええ、気を付けて帰ってね。ちなみに・・・このことはあの娘には他言しないように」
「承知しました」
彼女は一礼してから暗い部屋を出て行く。残された魔王は目を閉じ、闇と一体化するように姿が見えなくなった。
(あの女神も一応は仕事してくれたみたいね・・・天使を一人だけ送ったのは知っていたけど・・・)
「・・・レンジェ・・・ゆっくりでいいから染めていきなさい。あなたが望む色へと・・・」
12/07/28 08:44更新 / 『エックス』
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