シンヤが自身の過去を打ち明けてから次の日。


　シャインローズから少し離れた森林地帯。



バキバキバキ・・・ズゥゥゥゥゥゥゥン・・・

　大木が薙ぎ倒され、静かだった森に不穏な震動音が響いてくる。その音に驚いた小鳥達が一斉に木々より高く飛び上がった。

「オオオオオオオオオオ！！」

　野生の動物とは言い難い雄叫びが響く。それは大木にも匹敵するほどの大きさを持つ巨大な影。遠くから見れば人の形に見える。だが、その身体は無数の紫色の触手が束になって蠢いている。5mを超えるほどの巨体だ。触手巨人は正面の方向へゆっくりと歩を進めていく。

　侵攻するその巨体の行く先に、2つの影が待ち構えていた。漆黒の鎧を着た薄緑の長髪の女性と、下半身が黒毛の蜘蛛足を持つ青緑肌の女性。デュラハンのセシウと、ウシオニの松である。

「デカい・・・」
「あんな化け物初めて見るねぇ・・・“ダイダラボッチ”かい？」
「いや、あれも“妖”が創り上げた触手玉だ」

　彼女たちの後ろからシンヤが説明しながら歩いて来た。

「触手玉ねぇ・・・」
「でたらめな触手だな」
「足止めは頼む。あれほどの大きさだ。それなりの力で生み出されたはず、油断はするな」
「了解！」
「任せな！」

　2人はそう言って、目の前の触手巨人へ走り向かう。

「オオオオオオオオオ！」

　巨人は相手に気付いたらしく、身体中から無数の触手を伸ばしてきた。それらは走り向かって来る彼女たちへと伸ばされていく。

「「はああああああああ！！」」

　セシウは自慢の両刃剣で向かって来る触手を切り落としていった。松の方は纏わりついてくる触手を怪力で引き千切っていく。それぞれ細切れにされていく触手に巨人はだじろいでしまう。

「松！ 今だ！」
「あいよ！」

　松は下半身にある蜘蛛の腹の先端から糸を出し、それを怯む巨人に絡めていく。次第に身動きが取れなくなる巨人。それを見ていたシンヤが右手を青く光らせて、魔法陣を自身の足元に創り上げる。

「これで整った。後はあちらだ」



　一方、シンヤ達の居る場所から少しだけ離れた場所の上空。

「せいっ！ せやっ！」
「ふっ！ はっ！」

　空中を飛行するレンジェと夢乃は、襲い掛かってくる多数の触手を刀剣で切り裂いていく。

「きおおおおおおおおおお！！」

　彼女たちの後方から追いかけてくる物体。それは先程の巨人に匹敵する大きさを持つ巨体。腕の部分が翼のように形作り、足がない代わりに長い尾がある。長い鎌首を持つそれは、まるで“竜”のような存在に見えた。

　この怪物も触手で形成された身体となり、レンジェ達を触手で捕らえようとしている。

「もう少しで到着するわ！ 夢乃！」
「しょ、承知！」

　レンジェ達はこの怪物をある場所へ誘導していた。触手に捕まれないよう剣で薙ぎ払いながら飛ぶ彼女達。その時、束になった触手が彼女達目掛けて襲い掛かる。

「ひっ！」
「氷結の霧よ！」

　レンジェは右手から雪の結晶が舞う霧を発生させ、太い触手を一瞬で凍結させた。彼女が右手をぎゅっと握ると、それに呼応して凍らされた触手が粉々に砕け散る。

ガシャアアアアアアアン！！
「あ、危なかった・・・」
「夢乃、もうすぐよ！ お願いね！」
「囮ならお任せを！」

　サキュバス侍はそう言って、さらに上空へと飛び上がった。触手竜はレンジェを無視して、飛び上がる少女を追いかける。残されたレンジェは詠唱を唱えながら、下方向のある場所に目を向けた。

（いける！）

　桃色に輝かせる光を纏い、レンジェは触手竜に向かって叫んだ。

「金剛なる氷塊よ！ 数多に集い、その身を堕とせ！」

　彼女がそう叫ぶと、遥か上空から凄い速さで巨大な氷塊が落ちてくる。それは真っ直ぐ触手竜へ向かって落下した。

「ぎおおおおおおおおおお！！」

　氷塊に激突された怪物はそのまま、木々のある地面へと叩き落された。

ズドオオオオオオオオオン・・・
「姫様！」
「狙い通りに落とせました」



「けほっ、けほっ・・・」
「ふぃ〜嬢ちゃんの魔法は過激だねぇ」
「過激な割には、狙いが正確だな」

　シンヤがそう呟き眺める先には、先程の触手巨人が落ちてきた触手竜の下敷きになっている。2体ともあまりの衝撃に耐えきれず、痙攣するぐらいしか動けなかった。彼の元にレンジェと夢乃が舞い降りる。

「シンヤさん」
「よくやってくれた。後は俺が引き受けよう・・・皆、下がっていてくれ」

　青年の指示でその場に居た4人が彼から離れた。彼は十分な位置に退避した彼女たちを確認し、手元の青い光を足元の地面に押し付ける。次第にその光は風船が膨らむかのように大きくなり、それは彼自身を乗せた何かを形作った。

キィィィィィィ・・・
「「「・・・」」」
「これは・・・」

　レンジェ達にとって、それは初めて見るものだった。

　全長は8m、横幅は2，3m、高さ2m半くらいの巨大なもの。前方の部分はガラス張りの窓がいくつかあり、中に人が入れる空間が見える。後方は前方部分より長い、長方形の立方体で出来た鉄製の箱のようなもの。そして、その図体を支える黒い車輪のようなものが、前方に2つと後方に４つあった。

「とっておきを搬送してやろう」
ガァチャチャチャ、ブオオオン！・・・パァァァァァン！！

　大き目の爆音とともに動きだし、それは高らかと威嚇の如く、ラッパのような音を響かせる。それはゆっくりと動き出していき、身動きの取れない怪物たちに向かって行った。その途中でシンヤはそれから飛び降りる。

ドゴオオ！！ ドオオオオン！！

　怪物に激突したそれは、後方の部分から仰け反って倒れた。鉄の箱に圧し掛かられてしまい、その下敷きになる2体の怪物。シンヤはその光景を見ず、その方向へ背を向けて歩く。彼は何気に右手を軽く上げて、指をパチンと弾いた。

キィィィィィ・・・ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン！！

　ぶつかったそれは青い光を輝かせて大爆発を起こす。レンジェ達は身構えて爆風に耐えるが、シンヤは突っ立ったままである。信じがたいその光景にレンジェ達は開いた口が塞がらなかった。4人は青年の元へ走り向かう。

「シンヤさん・・・今のは？」
「ああ、この身体の記憶や通り過ぎた町で見かけたものを参考にした。“トラック”とかいう大量の資材を運搬する車だそうだ」
「あ、あれが、荷車なのですか！？」
「シンヤがいた時代の人間は、かなりの技術を発展させたらしいな。あれ以外にも日常で役立つものが沢山あるそうだ」
（あれほどの大きさを創り出すことにも驚きですが・・・）
「あとは浄化の力を籠めて、運搬させたのは事実だ。依代を囲っていた陰の気は全て消えている」
「あっ！ そうでした！ 急いで！」

　レンジェの掛け声で3人が怪物たちの居た場所へ走った。シンヤも歩いてそちらに向かう。煙が晴れ、浅いクレーターの中心に2つの人影が見えた。それは、片方は緑肌で角が生えた女性。もう片方は、翼と尻尾を生やしたトカゲの鱗を纏う女性。どちらも目を瞑り、仰向けに倒れていた。

「大丈夫ですか！？」
「おい！ 生きているか！？ おい！」
「え―と・・・姫様、まだ息があります！」
「本当！？ 松さん、彼女たちを！」
「アタシの腹の上に乗せな！ すぐに町まで運ぶよ！」

　松の蜘蛛腹の上に、セシウと夢乃が意識のない女性二人を乗せる。蜘蛛糸で固定した後、彼女は蜘蛛足で素早く走り去って行った。

「夢乃、我々もすぐに戻るぞ！」
「承知！ では、姫様、某らはこれにて！」
「あとから向かいます」

　夢乃はセシウを後ろから抱き掴み、そのまま上空へと飛んで行く。残されたレンジェとシンヤは真剣な表情で見つめ合っていた。

「信じられません。魔物の中で力の強いドラゴンやオーガまで操ってしまうなんて・・・」
「それが奴だ。人間はおろか、自分以外の物の怪すら支配しないと気が済まないらしい・・・力のある鬼を手駒にしたときは厄介だった」
「何故そうまでして・・・」
「前にも言ったはずだ。奴は力に敏感だと・・・どれだけ飢えているかはしらんが、そこらの人間を残らず貪る餓鬼そのもの、危険極まりない存在よ」

　レンジェは“妖”に対し、不気味な違和感をあった。人外でありながら自分以外の全ての人間や人外を貪る存在。それはまるで自分の知っている何かに似ていると感じるが、その何かが思い出せなかった。

「大丈夫か？」
「あ、はい！ ちょっと考え事で・・・」
「そうか、すまない・・・ところで、この先には何がある？」

　シンヤが指差す方向は、シャインローズとは反対方向の西である。レンジェはその方向に何があるのか知っていた。

「反魔物領である“スリップス領”以前、こちらを襲撃した教会の拠点となっている町です」
「あの小僧がいる場所か・・・」
「最近ですが、天使が降臨したという情報があるそうです」
「天使？」
「主神から遣わされた神の使いです。御使いとも言われ、一般的にはエンジェルと呼ばれています」
「ふぅむ・・・」

　シンヤは何かに考え込んでしまう。しばらくして彼はあることをレンジェに尋ねた。

「その町へは行けるのか？」
「容易には行けません。検問を含めた警備はかなり厳重だと聞いています。魔物や親魔物領の人間を近付けさせないために・・・・・・まさか・・・」
「下手に近付くほど愚かではない・・・が、そこへ行ってみる価値はある」
「ですが・・・いるのでしょうか？」
「神の使いと言われるぐらいなら・・・それなりの力があるはず。それに引き寄せられない奴ではない」
「では、一旦屋敷に戻りましょう」





　屋敷の広間。レンジェを中心にシンヤ、ヴィーラ、夢乃が集まっていた。そこへセシウが小走りで寄ってきて、レンジェにあることを報告する。

「レンジェ様、救助したドラゴンとオーガ、共に意識はありませんが、状態が安定したそうです」
「ありがとう、セシウ・・・」
「それと・・・・・・その・・・」
「それ以上は言わない方がいいです」
「は、はい・・・」

　彼女が言い掛けたこと。それは女として穢されたことだろう。レンジェの気配りにセシウは小さく返事をした。片手で眼鏡を整えたヴィーラが青年に質問をする。

「シンヤ様、本気でスリップス領へ潜入するおつもりで？」
「先手を打つためにな。さっきの二人が傀儡として見つかった位置からして、そこへ向かったとみていいだろう」
「しかし・・・反魔物領ですよ？ 人外であれば容赦なく排除される場所へ・・・」
「この屋敷へ容易く潜り込んだ奴だ。それに強い力を持つ者は自分のものにしようとする性格だぞ」
「むぅ・・・」

　深く考え込む吸血鬼の秘書。しばらく考え込んだ後、彼女はある提案を青年に持ちかけた。

「教会内部へ入るためには、それに詳しい御方と同行する必要があります」
「・・・というと？」
「二人の元教会の剣士をお呼びします。明日には到着できるので、それまで準備しておいてください」
「助かる」
「じゃあ、私も準備しなくっちゃ♪」
「レンジェ様も！？」「姫様！？」「領主様！？」
「・・・」

　突然の彼女の発言に3人が声を上げる。シンヤは無表情で彼女の方を見つめていた。

「レンジェ、君まで行く必要は・・・」
「あります。あの方は私の娘たちを弄んだ。その仕返しはしませんと♪」
「し、しかし、領主様の魔力で気付かれることが・・・」
「容姿や魔力の隠匿ぐらいできます」
「そ、それでもレンジェ様の護衛は付けないと！」
「某が護衛に！」
「大勢は控えてくれ」

　シンヤの呟く頼みごとに、セシウと夢乃が互いに火花を散らすような睨み合いをする。

「どっちが護衛に行くか剣で決めようじゃないか？」
「望むところです。某の愛刀が燃えてきた！」
「怪我人を連れて行くつもりはない。もう少し穏便に決めろ」
「「むぅぅぅ！」」
「御二方、こちらのクジで決めてください」

　ヴィーラが出した白いクジへ鋭い視線浴びせる二人。そんな彼女たちにため息を吐いてしまうシンヤ。彼はレンジェに話し掛けた。

「さて・・・奴がまだ、動いてなければいいのだが・・・」
「そうですね・・・私の与えた傷はかすったほどですから・・・」
（場合によっては、最悪の展開もあるかもしれん。その対処方法も考慮しておかなければ・・・）





　同日、深夜　スリップス領。


　居城のある個室。そこのベットに腰掛けるメイヤは落ち込んだ表情をしていた。

（謝ってくれた・・・けど・・・）
『必要な時に頼む』
「私は・・・本当に必要とされているのでしょうか？」
『我にとっては必要な存在よ』
「誰！？」

　突如、聞こえた謎の声に彼女は立ち上がって、辺りを見回す。その時、ベットの下から紫色の触手が数本出現し、彼女の手足を絡め捕った。

「えっ！？ きゃあ！」

　身動きが取れず、大の字で宙づりにされてしまうメイヤ。彼女の目の前に赤い五芒星の魔法陣が描かれ、黒い長髪の女が現れる。

「あ、あなた、何者！？」
「ふふふ、我の名など知ったところで意味はない。それより・・・」
「っ！？」
「そなたは他の巫女より優れた力を持っている・・・その力・・・味わわせてもらおう」

　彼女のロングスカートの下から一本の触手がぬらっと現れた。その先端は躊躇なく少女のスカートから下着の中へと入っていき、彼女の股の割れ目に到達する。

「や、やめ・・・」
ズンッ！ ブチブチ・・・
「やああああああ！！ 痛っ！ 痛い！」

　少女のスカートの下から鮮血がポタポタと滴り落ちる。女は少女が痛がるのを無視して触手を上下に動かし始めた。

「いやっ！ いたっ！ やめ、て！ いやああああ！！」
「ふふふ、もっと声を上げてもよいぞ。もっとも声や音など洩らさぬ術を施してあるがな・・・」

　笑みを浮かべる女は、背中から出す2本の触手で少女の胸を曝け出し、その小振りの双丘を乱暴に揉み上げる。

「いや・・・あっ、やぁ！ めて、ああっ！！」
「初めてをあの小僧に捧げるつもりであっただろう？」
「それ、は！ あっ！ やぁ！」
「そなたすら見ない、あの小僧にか？」
「！」

　女の指摘したことに言葉を失うメイヤ。

「何故、そなたに見向きもしないか・・・」
「い、いや、あっ、ああ！ やめて・・・」
「あの小僧が何を求めているか。我がお・・・」
「言わないで！ いやぁぁぁ！！ それ以上は！」

　女は容赦なく言葉と触手で少女を責め続ける。触手の動きが速くなるにつれて、少女の抑圧が決壊寸前だった。

「抑えるな、巫女よ！ さぁ、見せよ！ そなたの本心を！」
「いや！ いや！ いやあああ！！」

　遂に絶頂を迎えたのか、少女の身体がビクンと大きく痙攣し始める。それと同時に触手から白濁液が注がれた。

ドクンッ！ ドクンッ！ ドクンッ！
「あああああああああああああああ！！」
「見えたぞ・・・そなたの負の感情が・・・」

　耐え切れない快感に少女は絶叫を上げた。女はその様子を眺めながら身体中に赤い光を帯びさせる。メイヤは光のある瞳のままぐったりとしていた。意識はまだあったが、精神や身体は限界である。女はすぐ傍まで少女を引き寄せ、片手で相手の顎を掴んだ。

「驚いた・・・まさか、しもべの種を浄化されるとはな・・・」
「・・・」
「気に入った。そなたは他の巫女のようなしもべではなく・・・我が手足にしてくれようぞ」

　彼女はメイヤの唇を奪う。女の喉から丸い何かが蠢き、少女の喉へと送られていった。それまで光のあった瞳が徐々に曇り始め、彼女も操り人形にされてしまう。少女を拘束していた触手が離れると、彼女は呆然と立ち尽くしていた。

「小娘程度の巫女を贄に差し出し、これほど美味な巫女を隠しおって・・・あの輩も使えぬ奴よ・・・」
「・・・」
「我の手足なるメイヤよ。そなたの望みを叶えてやろう・・・」
「はい、ご主人様・・・」

　操られた時と変わらぬ素振りでお辞儀をする少女。女は彼女の頭に手を当てて撫で回す。

「“神の使い”・・・その恋敵は我が貰おうぞ・・・」





　翌日の朝、シャインローズの屋敷入口に少数の人影が集まっていた。

　セシウと夢乃がある二人と話し合う。


　一人はショートカットの金髪をした女性。ボーイッシュな雰囲気を持ち、小手と十字架の刻印がある胸当てをしている。彼女は頭に角と、腰の後ろに悪魔羽、尻に先端がハート型の尻尾が付いていた。見た目はサキュバスに似ている。

　もう一人もショートカットの金髪の男性。好青年に見える若々しさで、こちらも同じような武具を付け、首元には赤いバンダナが巻かれている。彼は特に人間とは変わらないようだ。


　そして、二人は左腰に全く同じ装飾の両刃剣が黒い鞘へ納められていた。

　しばらくして、屋敷の方からレンジェとヴィーラ、その後ろからシンヤと紺がやって来る。レンジェの姿を見た金髪の二人は、彼女の前で跪いた。

「「初めてお目にかかります。リリム様」」
「初めまして、この町の領主であるレンジェです。堅苦しい挨拶は結構ですので、通常の接し方でお願いします」
「「はっ！」」

　彼女の要望で二人は立ち上がる。

「ロイヤルローズ王国から参りました、リトラ・サリュートです」
「同じく、夫のマニウス・サリュート」
「リトラさんとマニウスさんですね。よろしくお願いします。それと、私のことはレンジェと呼んでもらっても構いません」
「「はっ！ レンジェ様」」

　自己紹介が済んだ後、ヴィーラが彼女達にあることを確認した。

「御二人共、元教会の剣士と聞いていますが、スリップス領については？」
「自分はある事情で行っていませんが・・・」
「僕はそこへ訪れたことがあります。警備の厳重な城は詳しくないですが、町に関してはお任せください」
「城があるのか？」
「はい。噂では御使い様が降臨されたと言われ、通常の者は入れないそうです」
「・・・」

　質問したシンヤがその答えに深く考え込んでしまう。そんな彼を見て、リトラとマニウスが不思議そうな顔した。

「自分には見たことがない服装ですね」
「彼は・・・ジパング人ですか？」
「今回、例の町へ潜入したいと言った者だ。事情は・・・」
「歩きながらでもしましょう」
「領主様！？」
「その方がすぐに辿り着けますし♪」
「はぁ・・・では、御二人共、領主様をお願いします」
「「はっ！」」

　ため息を吐いたヴィーラの頼みで一行は出発した。





「敵が・・・来る？」

　レグアは自室へやって来たメイヤの言葉に耳を疑う。それはこの町へ向かって来る敵の情報である。彼は目の前の少女に尋ねた。

「何故、敵が来ると分かった？」
「御使い様から告げられました。恐らく、あの男とリリムがこちらへ向かって来ると・・・」
「あいつらが！？」

　敵の正体に彼は椅子から立ち上がるほど驚く。それは三日前に戦ったあのシンヤという男とシャインローズのリリム。恐るべき相手がこの町へ向かって来ることに動揺してしまうレグア。だが、すぐに彼は落ち着きを取り戻し、光剣を手に取る。

「すぐに向かいます。他の騎士たちは？」
「お一人で迎撃せよとのことです」
「一人で？」
「不浄の権化であるリリムが来る。それだけでこの町の清浄な気が乱れてしまいます。私も御使い様の手伝いをしなければなりません」
「・・・」
「これは町の混乱を避けるため、御使い様が提案した指令です」
「！」

　一人で立ち向かえと無茶な任務だが、リリエルから告げられたことと知った彼は闘争心を燃え上がらせた。そんな彼に少女はあることを話す。

「それと勇者様。私の補助魔法だけは受けていきなさいと、御使い様から頼まれております」
「リリエル様が？・・・・・・分かった、頼む」

　彼が了承すると、少女は両手で十字架を持ち、少年の足元へ輝く白い魔法陣を描いた。しばらくして光が治まり、少年の身体に力が溢れ始める。

（これなら・・・あいつに勝てる！）
「ありがとう、メイヤ。リリエル様に必ず成し遂げると伝えてくれ！」
「分かりました」

　少年は少女の横を通り過ぎて部屋から出て行った。



　残された少女が微笑むのを知らずに・・・。

■作者メッセージ
次回：手駒