手渡された危機
森林地帯にある山岳付近の上空で、一つの影が凄い速さで飛んでいた。その姿は両手に黒い翼を持ち、鳥のような足の女性。彼女は何かから逃げているのか、必死に羽ばたき続ける。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
「KIIIIIIIIIIIIIIII!!」
「!」
金切り声のような叫びとともに、彼女よりさらに上空から何かが襲い掛かる。それは2m近くもある蛇の身体で、二枚のコウモリのような翼で飛んでいた。そして、巨大な牙だらけの口を大きく開けて、黒鳥の女性に噛みつこうと向かっていく。
「KIAAAAAAAAA!!」
「ひぃ!」
バシュウウウウ!!
「!?」
突如、蛇の異形が彼女に噛みつく寸前で青白い光線が出現し、それは異形の頭を跡形もなく消し飛ばした。羽付き胴体だけとなった異形は煙を上げながら地上へと落下していく。その様子を呆然と見ていた黒鳥の女性は、光が飛んできた方向から別の何かが飛んで来ることに気付いた。それは鉄の馬のような乗り物に乗った黒服の男性で、右手には見たこともない長身の武器が握られている。
「怪我はないか?」
「え、ええ。あなたは?」
「たまたま通りがかった戦闘部隊の隊長だ。他に奴らはいないな?」
「え? は、はい・・・私を追っかけてきたのはあれだけです」
「そうか。では、気を付けて行け」
「あっ、ちょっと・・・」
彼女が呼び止めるも、黒服の男性はあっという間にその場から飛び去っていった。彼は耳に付けられた通信機に話し掛ける。
「ドクター、最後のクアトルを排除した。計25匹」
『流石、イーグル。その辺りの反応は消えたみたいだよ』
「了解した。周囲を見回った後、艦に帰投する」
同時刻、同じ森林地帯の平原。背の低い草むらの地面へ、サメ面の異形が煙を上げて倒れた。
「このリッパーとやら、確かに数が多ければ厄介だが・・・」
「弱いじゃん! あの時はウザかったけど」
ショートソードを構えるリザードマンのリオ。両刃の大剣を構えるアマゾネスのケイ。彼女達は襲い掛かってくるリッパー達を連携で斬り伏せていく。
「「「「GAAAA!!」」」」
「・・・ふっ!」
一方、彼女達と少し離れた別の場所では、多数のリッパーを相手にする傷だらけの戦士ブレードがいた。彼は両手に持った青い光学刃で次々と異形を切り刻んでいく。
「GAAA!?」
「GUOOO!?」
「GIIIII!?」
「・・・ん?」
異形のほとんどを切り倒した後、彼は最後の一体が変化しているのを目にする。それは両腕の刃を赤く発光させて、こちらに向かって刃腕を振り下ろしてきた。
「GAAAAAAA!!」
「・・・!?」
ドォォォン! ジュウウウウウウ・・・
ブレードが咄嗟に右へ避けると、振り下ろされた赤い刃が地面に突き刺さり、煙とともに焼けた臭いが周りに漂う。彼は避けた瞬間、刃腕から異常な熱気を肌で感じ取った。
(・・・発熱した刃か!?)
「師匠!」
「あんた!」
「GAAAAA!!」
「・・・だが・・・」
再び襲い掛かる異形に、ブレードは相手の股座をスライディングで潜り抜ける。その直後、彼は手にしていた光学刃を一本相手に目掛けて放り投げた。投げ付けられた光学刃は、異形の左脇腹に突き刺さる。
「GUOO!?」
「・・・それがどうした!」
彼は刺した光学刃を再度手に取り、そのまま異形の腹を横に切り裂いた。胴を切り裂かれた異形は上半身だけ地面へと落ちていく。致命傷を与えたであろうと確信し、彼は異形に背を向けて立ち去ろうとした。
「・・・ふん」
ガシッ、ジュウウウウウウ・・・
「・・・?」
「GA・・・GAA、HAAA・・・」
「・・・」
後ろから聞こえた苦痛らしき声に、彼は振り向いて先程の異形を見下す。上半身だけになりながらも、ブレードに刃を突き付けようと這いずる異形。その時、彼はあることに気付く。
「・・・!」
(・・・目が赤い?)
彼はその異形の状態に驚いた。それまで見てきた異形者のどれもが、“黄色に輝く発光眼”をしていたからだ。だが、目の前の異形は確かに“赤い発光眼”でこちらを睨み続けている。
「GA、HUUUUUU・・・」
「・・・」
「GAAAA!!」
異形は残る力で赤熱の刃をブレードに突き刺そうとした。その寸前、彼はすでに手にしていたL.B.Hの光弾で異形の頭を撃ち抜く。止めを刺された異形は目の輝きを失い、煙を上げて溶けていく。それを呆然として見つめるブレードに、リオとケイが駆け寄ってきた。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
「あんた! 怪我は!?」
「・・・」
「し、師匠?」
「ど、どうしたんだよ?」
(・・・何か違う)
辺りに漂う熱気によって、意識を失っていた男の視界がぼんやりと映り出す。目の前に映ったのは自身と同じ灰色迷彩の戦闘服を着た兵士たちの倒れた姿。彼は身体のあちこちをぶつけて痛む身体を無理やり起こす。
「ぐぅ・・・うぅぅ・・・」
手元に落ちていたサングラスを掛けて辺りを見回す。すると、彼は乗っていた機体が左側面へ傾いていることに気付いた。左側に付いていた翼は地面に突き刺さるかのように失っている。今では左側面が新たな床となっていた。
「皆! 無事か!?」
彼の呼び掛けで転がり倒れていた4人が起き上がり始めた。それを見て、彼は操縦席のパイロットにも声を掛ける。
「おい、起き・・・」
彼は操縦席のベルトで宙づり状態の兵士に呼びかけても無駄と悟った。何故なら、そのパイロットは血塗れの顔で目を閉じて、息すらしていなかったからだ。仕方なく彼の身に着けていたドックタグを手に取り、他の兵士たちに声を掛ける。
「お前たちは大丈夫か?」
「は、はい・・・」
「なんとか・・・」
「くそぉ・・・リックが・・・」
端末を手にしていた兵士がサングラスの男に尋ねた。
「隊長、ソウは?」
「・・・・・・」
「そんな・・・」
彼は操縦していたパイロットが死亡したことにショックを受ける。そんな彼を無視して隊長は未だにネットで固定されたBOXを確認した。中身が無事であることを確認し、端末を持つ兵士に手渡す。
「隊長、機体の後ろ半分が消えています」
「外が見えるな・・・各自武装をチェックして出るぞ」
「あれ? 俺のM16は?」
「そっちの壁に引っかかってるぞ」
5人はそれぞれアサルトライフルを手にして、機体の失った部分から外へと出ていった。そこは広大な砂漠が広がり、視界には延々と砂の大地しか映らなかった。その上、空は雲一つない青空で、太陽が天高く昇っている。
「此処は一体・・・何処だ?」
「GPSは・・・駄目です。反応がありません」
「壊れてんじゃねえのか?」
「そんなはずは・・・通信は使えるのに・・・」
部下の兵士たちが話し合っている間、隊長は辺りの様子を見回った。墜落した機体の周りには、機体の残骸である装甲があちらこちらに突き刺さっている。ある程度日除けの場所になっているところもあるが、そんなに数はないようだ。
「ベッシー、そこの残骸の影で、引き続き通信ができるかやってみてくれ。その他は周囲を警戒しろ」
「「「「イエッサー!」」」」
隊長の指示でそれぞれ行動する兵士たち。隊長もベッシーとともに日陰に移動した。兵士たちは、何も見当たらない砂漠を見つめ続ける。
「何にもなさそうだが・・・」
「馬鹿、まだ安全圏じゃないことぐらい分かってるだろ?」
「気を引き締めろ」
「そうは言って・・・」
グシュ!!
「「なっ!?」」
「ん、どうし・・・!」
兵士たちの驚きの声に、隊長がその方向を見ると、一人の兵士の頭に1m近くの棘が突き刺さっていた。串刺しとなった兵士は痙攣を起こしてその場に倒れる。
「こ、コマツゥゥゥゥゥ!!」
「敵だぁぁぁぁぁ!!」
「残骸に隠れろ! 早くぅぅ!」
隊長の指示で二人は慌てて残骸に隠れた。隠れてもなお、何処からか多数の棘が飛来くる。隊長が残骸から顔を少し覗かせると、少し離れた距離に複数の異形を発見した。それはサメ面の頭に硬質の身体、両腕に棘のついた刃腕を持つ異形たちである。
「スパイカーだ!」
「野郎ぉぉ! ふざけやがってぇぇ!」
「撃ち殺してやる!」
ダラララッ! ダラララッ! ダラララララッ!
乾いた銃撃音を響かせて、彼らは異形に向けて小銃を撃ち続ける。その間、ベッシーは必至で通信に救援要請を叫び続けた。
「こちら、シャム偵察小隊! 誰か応答してくれ! 誰か! 誰かぁぁぁぁ!!」
「何ですかぁぁぁぁ!? こんな時にぃぃぃぃ!!」
砂漠のど真ん中で一人叫んでいる青年。額にバンダナを巻いた遊撃隊員のラキである。彼は乗っていたチェイサーがいきなり故障してしまい、仕方なく着陸して故障の原因を探っていた。調べた結果、エンジン部分に砂が溜まっていて、それをクリーナースプレーで落とさなければならなかった。
「めんどくせぇな・・・もう・・・」
そう言いながら彼は後部エンジンの下部辺りにスプレーの先を入れて、溜まった砂を吹き飛ばす。そんな時、彼は後ろの方から不穏な気配を感じ取った。首だけをクルッと回して見るが、後方には何も見当たらず、砂一面の大地しか見えない。
(気のせい・・・・・・・・・か・・・よ!?)
ブゥン!
「おぅわ!?」
何かに少し遅れて気付いたラキは、すぐに身体を右側へ逸らして回避した。それは赤い硬質な尻尾で、その先には毒針のようなものがついている。あと少し遅ければ、ラキは背中を串刺しにされていた。
「だ、誰だぁぁぁぁ!?」
「ちっ、逃したか・・・」
「!」
声が響くと同時に、ラキの後ろ側の砂中から褐色肌の女性が現れる。しかし、その下半身はサソリであり、先程の毒針も彼女のものであった。
「まぁた、魔物かよ。って殺す気かぁ!?」
「失礼な。私たち種族のこの毒針に殺傷能力は全くない」
「へ? 殺傷能力がない?」
「そうだ。代わりに媚薬効果はある」
「ふ〜んって、変な薬を打ち込もうとするな!」
「夫探しの際は、これが手っ取り早いと母から教えられた」
「その教育は間違ってる。絶対」
頭が痛くなりながら、ラキはチェイサーのハンドルを操作する。どうやら不調は治ったらしく、正常に稼働し始めた。その様子を不思議そうに見つめるサソリの女性。
「お前、何者だ?」
「人に尋ねる際、まずは自分からじゃないのか?」
「それもそうだが、私たちギルタブリルは夫になるもの以外に名は名乗らない」
「難儀なしきたりだねぇ。めんどくせぇな、俺はラキ。ただの兵士さ」
「兵士? 妙な格好しているな。此処で何している?」
「ああ、この辺に異形者の反応があったから、その捜索しに来たんだよ」
「異形者?」
聞き慣れない言葉に彼女は首を傾げる。ラキはハンドルを操作しながら続けて話した。
「いやね。元々はトトギス王国へ荷物を届けに行く途中で、敵の反応があったから見に行って来いって言われたんだよ。全く、人使いが荒いなぁ」
「他に仲間が居るのか?」
「他の場所からも反応があるからそっちに行った奴と、艦にも残ってる。だぁぁぁぁぁぁ! 敵はいねえし! チェイサーがいきなり不調になるし! おまけにサソリの姉ちゃんに襲われそうになるわ! やってられっか!」
「く、苦労しているようだな?」
サソリの女性は若干彼の態度に引いてしまう。そんな時、ラキの右耳についている無線機から雑音が響き始めた。
『ザザァ・・・・・・・』
「んぅ? どちら様?」
『ザザァ・・・・・・・・・・・・こた・・・・・・・・・・かぁぁ・・・・・・』
「ああぁ? 聞き取れないぞ? もっと元気よく!」
『ザザァ・・・たの・・・・・・・・・ャム・・・たい・・・きゅうえ・・・・・・』
(きゅうえ?・・・きゅうえ・・・救援?・・・まさか・・・)
彼が謎の通信を傍受している最中に、サソリの女性も何かを感じ取っていた。
「向こうの方から何か響いて来る・・・」
「何が?」
「何か、金属が何かが響くような、乾いた音が連続して聞こえる・・・」
「乾いた音・・・」
それを聞いたラキはすぐにチェイサーに跨ってホバリングする。
「姐ちゃん、その方向へ案内できるか?」
「え? あ、ああ、出来るが・・・何があるのだ?」
「行ってみないと解らない。が、俺たちの知るものかもしれない」
「そうか・・・こっちだ」
彼女が走り出すと同時に、ラキもチェイサーで後を追った。
残骸を盾にして兵士たちは必至で異形に向けて銃弾を放つ。一方の異形は狙いを定めず、刃物腕から生える棘を乱射した。砂地や残骸に無数の棘が突き刺さっていく。
「このっ! くたばれ!」
ダラララララ!
「GA!?」
一人の兵士が放つ銃撃が1体のスパイカーの頭部に命中した。煙を上げて溶けていく異形。
「一匹仕留めた!」
「まだ喜ぶな! 見ただけで15、いや、20体以上は居るぞ!」
「喰われてたまるかぁぁぁ!」
隊長の喝と敵の戦力数により、気合いを入れて銃撃を行う兵士二人。隊長は弾切れになったアサルトライフルへ新たな弾倉を詰め込んだ。ベッシーは相変わらず、落ち着かない様子で端末のマイクに声を掛ける。
「こちらシャム偵察小隊! し、至急救援を! 繰り返す! 誰か応答してくれ!」
「ベッシー、落ち着け! やられはしない! 余裕はまだある!」
「し、しかし!」
「いいから呼び続けろ!」
彼らが必死で銃撃を行う中、異形の数体に変化が訪れた。それは刃物腕の左右に三角形の形状が出来上がり、ひし形の硬質盾が出現。さらに刃物の先も伸びて槍に匹敵するほどの長さへ変化した。変化した異形たちは、刃物付き盾腕を手前に構えて銃撃を防いでいく。
「なっ!? 銃弾が防がれてる!?」
「あの野郎! 盾を持ちやがって!」
「怯むな! 盾じゃない部分を狙え!」
諦めず撃ち続ける中、異形の群れの中で新たに砂中から二体の影が現れた。それは2mを超え、灰色の硬質を持つサソリ。不気味に赤く輝く一つ目が彼らを見つめる。
「「BUOOOO!」」
「!?」
「テールカノン!」
「伏せろぉぉぉぉ!!」
ドドォン!! ドゴォォン!!
彼らが身を屈めた瞬間、2体の異形は同時に尻尾から赤い球を発射し、彼らのいる付近へ直撃させた。その内の一つの砲撃が、運悪く一人の兵士が居た残骸に命中し、まともに受けた彼は数メートル先へ吹き飛ばされる。飛ばされた兵士は額から血を流し、ピクリとも動かなくなった。
「ジェイソン!」
「よくもぉぉ!」
「誰か応答を! 誰か!」
『・・・・・・えるか?・・・・・・』
「!?」
『こち・・・ドラグーン隊。返事は・・・るか?』
「ドラグーン隊!?」
<戦艦クリプト 司令室>
中央に光学表示マップが映し出され、それぞれ戦艦や隊員の位置が表示された。加えて複数の通信を受信し、室内にはいくつかの声が繋がるようになる。端末を操作する少年エスタとそれを横から見守るデュラハンのニール。二人はいつも以上の真剣な表情でマップを見つめていた。エスタが端末操作で無人機Dフライを飛ばしていると、アイコンで表示されたイーグルが無線で尋ねてくる。
『ドクター、現状を報告してくれ』
「ラキからの報告によると、連合軍の偵察部隊が異形者と交戦しているらしい」
『連合の偵察部隊だと!?』
「スパイカーとテールカノンに攻撃されて、すでに生存者は3名。間に合うかどうか・・・」
『部隊の位置とそこから一番近いのは?』
「戦艦から西北西を進んだ先、およそ15キロ離れた位置。近いのは通信を傍受したラキだね」
『私とブレード達では遠すぎるな。ラキとDフライに任せるしかない』
「ジェミニはチェイサーで向かったけど、こっちも期待はできないなぁ」
『分かった。ドクターはDフライの操縦を頼む』
イーグルからの通信が切れ、エスタは再びマップに目を向けた。彼は隣でじっとマップを見続けているニールに話し掛ける。
「ごめんね。こっちの仕事の最中に」
「それは問題ない。それより、問題なのは・・・」
「そうだね。複数の異形者の反応があったと思ったら、今度は僕達の同僚がいたなんて・・・」
「人命が関わっている以上、そちらが優先だ」
「ただ、助けられるかが微妙だな・・・」
「何故だ? お前たちの技術なら・・・」
「性能はいいけど、扱う人は普通の人間だよ」
「?」
「技術が優れれば人間が完璧になるとでも思う?」
「・・・・・・」
少年の問いかけにニールは答えられなかった。
一方の偵察部隊は深刻な状況に陥っていた。銃撃が衰え始めたのをきっかけに、異形たちは少しずつ進軍をし始めたからだ。群れの先頭に盾を構えた異形が銃撃を防ぎ、続いて棘を乱射する異形。サソリの異形も盾の異形に護衛されながら砲撃をし続けた。
ドゴォォン!! キンッ! キキンッ!
「くそぉ! 化け物がぁぁ!!」
「こいつを喰らえ!!」
隊長が腰から取り出したスプレー型の破砕手榴弾を放り投げた。見事に進軍してくる異形たちの手前に転がり、数体を吹き飛ばす。これにより、生き残った異形たちは進軍を停止した。
(くそっ! もう手榴弾がない!)
「隊長! あれを!」
「!?」
兵士が指差した方向を見ると、そこに居た刃物腕の異形の1体が痙攣し始める。次の瞬間、それは膨れ上がるように体型が巨体化し、不気味に輝く赤色の目を光らせた。その大きさは4mも超えている。
「グロウ!?」
(こんな時に成長体が出現するとは!)
「こちらシャム偵察小隊! ドラグーン隊! まだ到着しないか!?」
『ついさっき連絡があって無人機を飛ばした! 俺ももうすぐそちらに着く! もう少し耐えてくれ!』
「急いでくれ!」
ベッシーがそう言い終えた時、成長した異形がゆっくりと右腕を上げて、残骸目掛けて槍並みの大きさの棘を放った。それは残骸の装甲を貫通し、無線を呼び掛けていたベッシーの左胸辺りを貫く。
ザシュッ!!
「がはっ!?」
「ベッシー!」
「ぐぅぅぅ・・・・・・」
隊長が駆け寄るも、彼は苦痛の呻き声を上げてそのまま動かなくなった。またも部下を失った彼は、歯を食いしばって小銃を異形たちに突き付ける。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ようやく戦闘場所が見える位置までやって来たラキとサソリの女性は、その光景に唖然とした。巨体の異形とその周りで付き従うかのよう攻撃をする異形たち。無慈悲に攻撃をされている生き残りの兵士たちはたったの二人。絶望的な状況である。
「何なんだあいつら? 見たことない化け物だが・・・」
「まずいな・・・でも、行くしか・・・」
「私は何をしたらいい?」
「へ?」
サソリの女性の発言に、ラキは耳を疑った。
「先程襲った詫びだ。手助けしよう」
「いいのか? それに異形者に立ち向かうには・・・」
「砂中へ潜って奴らを不意打ちするぐらいできるぞ」
「でも、あの数じゃあ・・・・・・いや、待てよ」
少し考え込んだラキは彼女にあることを聞く。
「姐ちゃん、砂の中を行き来できるのか?」
「ああ」
「なら、これを持って行け」
ラキは腰の手を回し、スプレー缶型の破砕手榴弾を彼女に2個手渡した。
「これは?」
「横に付いているピンを抜いたら5秒後に爆発する。あそこで砲撃してるサソリの目ん玉をこれで吹き飛ばしてほしい」
「あのサソリもどきだな?」
「それと倒したらすぐに離れろ。後で空から爆弾が落ちてくる。その爆撃に気を付けろよ」
「空から? いや、分かった」
彼女はそう言って砂中へと潜って行く。続いてラキも上空へと上がり、上空から接近して行った。
『シャム小隊! こちらドラグーン隊のラキ! 援護する!』
「来てくれたか!」
無線から聞こえた声に反応し、隊長が上空に目を向ける。そこにはバイクらしき乗り物に乗った男の姿が見えた。
「あれが例の試作兵器か」
ラキは右手にL.B.Hを手に取り、異形たちに向けて光弾を乱射する。
ビビビビビィン!
「GAA!?」
「GUHUOOOO!!」
「「BUMOOO!!」」
巨体の異形が新たな獲物を確認し、サソリの異形に指示を出すかのようにラキへ刃物腕を向けた。それに呼応してサソリの異形は尻尾の孔を上空へ向ける。
「やばっ!?」
ドォン! ドォン!
ラキは向かってくる赤熱弾を高速で飛行して回避した。彼は反撃で光学銃を撃つが、距離が遠すぎてかすり傷程度しか与えられない。しかし、うかつに近寄れば砲撃と棘による射撃で撃ち落とされてしまう。
「くっ! うざってぇ! これじゃあ、まともに当たらねぇよ!」
一方、生き残った隊長と兵士は銃撃を行うが、遂に弾薬を撃ち尽くしてしまった。手元にあった5,56mmライフル弾改はゼロである。隊長はベッシーの遺体から弾倉を取って装填した。
「あれを取るしか・・・」
残る兵士は9mm自動拳銃を手に取って、吹き飛ばされたジェイソンを見る。彼の持っていた小銃にはまだ弾薬が入っていたからだ。彼の行動に予想がついた隊長が慌てて止める。
「よせ! 此処は俺にまか・・・」
「このまま犬死はしたくないです!」
「トグラ! 行くなぁぁ!!」
トグラは拳銃を撃ちながら残骸から飛び出した。彼は吹き飛ばされたジェイソンの元へ行き、アサルトライフルを手に取って撃ち始める。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
ダララララララ!!
「GOGAAA!?」
「GAHUUUU!!」
異形の1体を倒した兵士の存在に、巨体の異形が彼へ向けて腕を上げた。それに付いている槍並みの棘を相手に向けて射出する。棘は兵士の右腹に命中するも、彼は体勢を保ったままで銃撃を続けた。
「ぐうぅぅぅ!!」
「GUHUOOOO!!」
「「「GAAA!!」」」
巨体の異形の唸り声で周りに居たスパイカー達が棘を一斉に発射する。それらは全てトグラへ真っ直ぐ飛んだ。
「へっ、くそがぁ・・・」
ザザザシュ! ザシュ! ザザシュ!
「くっ!・・・・・・馬鹿野郎がぁ!」
部下が棘で刺されていく姿に悪態をついてしまう隊長。一部始終を見ていたラキも左手でハンドルを叩く。
「ちきしょう!」
ひたすらラキのチェイサーを狙い撃とうとする2体のサソリの異形。その内1体の顎付近の地面が盛り上がり、スプレー缶を持った褐色肌の腕が出現する。それは異形の輝く赤色の一つ目に向けて缶を投げつけた。
「BUMO?」
ヒュッ、ドガァァァン!!
缶は異形の一つ目に当たる直前で爆発し、サソリの化け物は頭部を失くして溶け始めた。先程、手榴弾を投げつけた腕の正体は、ラキが出会ったサソリの魔物である。彼女は砂中を上手く潜って、目標の頭部に爆弾を当てたのだ。
「いいぞ! あと1体だ!」
続けてもう1体のサソリの異形も為す術もなく、彼女によって手榴弾を投げつけられる。
ドガァァァン!!
「GUHOO!?」
「な、何が起きている?」
突然の出来事に巨体の異形だけでなく、隊長も戸惑いを隠せなかった。その時、ラキの無線機に通信が入る。
『ラキ、見つけたよ』
「エスタか!? 遅かったじゃないか!」
『一番早く行けるのはDフライしかなかったからね』
「砲台は倒した! デカブツと雑魚を頼む!」
『了解、ヘルファイア、スタンバイ!』
ラキよりも遥か上空に飛んでいる飛行物体。それを確認したラキは無線で警告した。
『爆撃来るぞ! 伏せろ!』
「!」
彼の警告で隊長はすぐに反応して、背中からもたれるように残骸へ身を隠す。
『ロックオン完了! ヘルファイア全弾発射!』
カコンッ バシュウウウウウ・・・
「GUGAAAAAA!!」
バシュ! ザシュ!!
「う゛っ!?」
無人機の翼の下からミサイルが4発放たれた。それは巨体の異形へ一発、小物の異形たちへ三発向かっていく。盾を持つ異形たちは必至構えた。
「GUA・・・」
ドドガアアアアアアアアアアアアアアアン!!
巨大な爆発が起こり、辺りに煙と砂が舞い上がる。しばらくして視界が開けると、全ての異形たちがバラバラに飛び散っていた。どれも煙を上げて溶けていく。そんな中、巨体の異形は両腕と下半身がもげたまま生き延びていた。
「GU・・・・・・GAHU・・・UUUU・・・」
「野郎・・・」
ラキはまだ息のある異形の前で着陸して、両手にL.B.Hを取り出す。彼は最早何もできない異形の頭へ光弾を連射した。
「そらよ!」
ビィン! ビィン! ビィン! ビィン!
「GA・・・・・・・・・・・」
異形の呻き声も途切れ、輝いていた赤い目が灰色へと色を失う。その後すぐに煙を上げて溶けだした。
「ふぅ・・・そうだ! 生存者は!?」
ラキは思い出したかのように生き残りの居る残骸へと走り出す。そこにはあのサソリの女性もやって来ていた。
「大丈・・・!?」
彼がその場で見たものは・・・残骸とともに棘で腹を串刺しにされた兵士の姿だった。サングラス越しでも分かるほど青ざめた表情である。ラキは慎重に近づいて、兵士に声を掛けた。
「そのまま動くな。今、救護の要請を・・・」
「ま、まて・・・」
「?」
「そこの・・・倒れている奴の・・・ボック、スを・・・」
彼は兵士が指差した方向にある鉄製のBOXを拾いに行く。兵士の元へ戻ると、彼は右腕を掴まれてあることを告げられた。
「それを・・・連合、本部に・・・届けろ・・・」
「え?」
「お前、たちが・・・生き残って、くれたのが・・・幸いだ・・・探したぞ・・・」
「俺たちを捜索しに来てくれたのか?」
「上の命、令でな・・・それよりも!・・・それを・・・」
「分かった! 分かった! だからしゃべるなって!」
サングラスの男はしゃべる度に口から血を溢れさせる。非常に危険な状態だった。ラキは急いで無線機に手を伸ばす。
「エスタ、救護の手配を! かなり重症だ! 至急レックスを・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・ごふっ!」
「大至急だ! 時間が・・・」
彼がそう叫んでいる中、兵士はサングラスを右手で取り外し、胸ポケットからロケットペンダントを手に取った。それを開けた中にはブロンドの長髪をした白人女性の写真が飾られていた。彼はそれを名残惜しそうに眺める。
「ネリー・・・君、の元へ・・・行けそ・・・う・・・だ・・・・・・」
「おい! だからしゃべ・・・」
「・・・・・・・・・」
「おい・・・おい、おい! しっかりしろ! おい!」
「・・・・・・・・・」
兵士がしゃべらなくなると同時に、両腕が力なく垂れ下がった。彼の目はすでに目を閉じ、すでに息もない。ラキは彼の最後の姿を見届けてしまい、顔を俯かせた。
「・・・・・・」
「大丈夫か?」
「・・・・・・あぁ・・・」
隣に居たサソリの女性も気まずそうにラキへ声を掛ける。彼女も察して彼の肩に手を置いた。その直後、ラキの通信機にイーグルから通信が入る。
『ラキ、もうすぐで到着する。状況を報告しろ』
「・・・・・・」
『ラキ、状況を・・・生存者は?』
「・・・・・・ゼロだ・・・」
『・・・・・・分かった。その場で待機しろ』
<戦艦クリプト 司令室>
航行を続ける戦艦。その中にある司令室に重い空気が漂う。そんな室内でレックス以外のドラグーン隊と3人の魔物娘が集まっていた。司令室の端末近くの椅子に座るラキは手を組んで俯いている。彼の様子を心配したニールが近づこうとしたが、ブレードに止められた。
「ブレード?」
「・・・そっとしてやれ」
「・・・・・・」
「・・・仲間の死は何度見ても気に入らない。あいつはどう思っているかは知らんが・・・」
「ブレード、そこまでにしろ。ニール、ラキなら心配いらない」
「あぁ・・・」
(だが・・・あの落ち込み方は普通ではない・・・自分を責めているのか?・・・)
彼女がそう考え込んでいると、司令室の自動ドアが開いてレックスが入って来る。
「ドクター、遺体の搬送が終わりました」
「ご苦労様。あれ? 艦への積み込みを手伝ってたサソリのお嬢さんは?」
「ギルタブリルの方でしたら、不穏な砂漠地帯から離れると言って出て行かれました」
「確かにちょっと嫌な感じがするからねぇ・・・」
レックスがニールとすれ違う時、彼女があることを小声で尋ねた。
「私も手伝ってもよかったのだが・・・何故、拒否した?」
「申し訳ございませんが、機密事項のため言えません」
「そうか・・・」
彼女はディラハンとして遺体の弔いをしてあげたい気持ちがあった。しかし、彼らにもルールがあるのだと理解してそれ以上の追及をしなくなる。ここでジェミニ達が端末の上に置かれたBOXへ指を差した。
「それは」
「何?」
「偵察部隊がラキに託したもの。このデータカードが入ってたよ」
エスタがポケットから小さな長方形の物体を右手で取り出し、それをイーグルが続けて聞く。
「中身は見たのか?」
「まだだよ。どうせならみんなの前で上映したいし」
「・・・グロいものだったらどうする?」
「それはそれで面白い反応が見られるかも♪」
ブレードの注意を軽く受け取った少年は、端末の差込口にカードを差し込んだ。中央のテーブルに光学表示の画面が映り出し、灰色の砂嵐のような映像が流れる。その数秒後、いきなり鮮明な映像が映り出した。
「これは・・・アンノウンランドか?」
「アンノウンランド?」
「何だそれ?」
「我々の世界にある砂漠地帯だ。普段は砂嵐によって、視界が見にくい。だが、これは以前の砂嵐より激しくないな」
リオとケイに説明するイーグル。彼は映像の内容に凝視する。どうやら乗り物で上空から地上を撮っている映像のようだ。そんな映像がしばらく続いていると、今度はいきなり場面が変わり、少し遠くの地上へ向けての映像が流れた。
「レックス」
「形状で判断するとリッパーとテールカノンです」
エスタの一言でレックスは瞬時に詳細を呟く。その地上には無数の異形たちが群れを成して進軍する姿があった。映像を撮っているカメラが動き回り、方向を左右へ振る。映し出される地上は異形たちで埋め尽くされていた。映像には兵士たちの慌てふためく声も録音されている。
『何だこれ・・・何なんだこれ!?』
『いくらなんでも多いぞ!』
『おい! 至急本部と連絡しろ!』
『通信が繋がりません!』
『隊長! 撤退しましょう! このままでは・・・』
『引き返せ! 早く!』
次第に異形の群れとの距離を離していき、その後映像が途切れた。その場で見ていた全員がしばらく沈黙してしまう。
「・・・数はどれくらいだ?」
その沈黙をいち早く破ったのはブレードだ。彼の質問にレックスが答える。
「まだ、確定はしていませんが、恐らく4千、いえ、5千以上はいると思われます」
「多分、もっといるよ。あの見回した視界だけでも千なんて一握りくらいに過ぎない」
「・・・千以上」
「ひょっとしたら、あの日の数を超えてるかもねぇ・・・」
「・・・!」
エスタの発言に普段無表情のブレードが目を見開く程動揺の素振りを見せた。その様子を見ていたニール、リオ、ケイも目を見張る。
(あの日を超える? それにブレードのあの動揺・・・)
(師匠のあんな表情初めて見た・・・)
(驚いた顔があんなに可愛らしいとは・・・じゅるり・・・)
約一名持ち前の本能に少し火が付いた。
そんな中、イーグルはニールの方へ顔を向けて話し掛ける。
「すまないな。予定のトトギス王国へ奪取した武具の返却しに行く途中で・・・」
「いや、お前たちにとって重要なことだろう? 部外者である私たちが口を出す理由は無い。気にしないでくれ」
「それでも君達を巻き込んでしまってるが・・・まぁ、それほど問題は・・・」
ビィィィィィィィィ!! ビィィィィィィィィ!! ビィィィィィィィィ!!
「「「「「「「!?」」」」」」」
「「「!?」」」
突然、鳴り響いた警報に全員が驚いた。レックスが慌てて端末を操作する。
「異形者の反応を確認! Dフライ3番機で確認できます!」
「映せ!」
イーグルの一言で光学表示に砂漠を進軍する異形の群れを確認した。それは先程見た映像と似たような光景だった。
「沢山!」
「大勢!」
「・・・さっきの群れより少ないが・・・何処に向かってる?」
「お待ちを・・・・・・・・・確認しました。マップに出します」
レックスの操作で中央の光学表示にマップが映し出される。異形の群れを示す赤く表示された部分は、真っ直ぐある場所へと向かっていた。その先にある存在にニールが驚愕する。
「ちょっと待て! あのマガイモノどもは・・・」
「・・・間違いなくトトギス王国へ向かってる」
「!」
異形たちは砂漠地帯の上から南西へとゆっくり移動していた。その方向には、ドラグーン隊の向かう先である王国がある。この事態に意気消沈していたラキも立ち上がった。
「おい! 今あの国の兵士たちは・・・」
「武器を持ってないねぇ。僕たちが返しに行くところだから・・・」
「だぁ! もう!」
ラキはその場から立ち去ろうとしたが、イーグルに手を掴まれてしまう。
「待て! 何をするつもりだ!?」
「ORNITHOであいつらを蹴散らす!」
「一人で立ち向かうつもりか!? 無謀なことはするな!」
「でも!」
「まずは奴らの戦力を見る。それから奴らを叩き潰すんだ。落ち着いて行動しろ」
「く・・・」
彼の冷静な指示でラキは黙り込む。イーグルはマップを見てレックスに指示を出した。
「レックス、数は把握できるか?」
「現在、カウント中・・・・・・リッパー4863体。クアトル2485体。テールカノンLタイプ65体。Sタイプ184体確認しました。計7597体です」
「ちらほらとスパイカーに変異した個体もいるな。厄介な奴らめ・・・」
「ん?・・・これは・・・・・・新たなエネルギー反応!? 現在確認した異形者の群れとは別の群れを確認!」
「なんだと!?」
レックスの言う通り、マップには新たな赤い反応が光り出す。エスタは凄い速さで端末を操作し、あることを告げた。
「どうやら、Gクラスがいるみたいだね」
「・・・Gだと?」
「二つ目の群れから、さらに北東の場所にも異形者の反応がある。それも巨大な反応だよ」
「その巨大な奴が・・・」
「親玉ってことか!?」
リオとケイの言葉の後、イーグルはすぐさま指示を飛ばす。
「エスタ、レックスとともに戦艦で進軍する異形者を攻撃してくれ」
「「了解」」
「ラキとブレードは私と一緒にGクラスの異形者を殲滅しに向かう。ジェミニはチェイサーで戦艦を護衛しろ。ある程度終えたらGPの供給を頼む」
「「「「了解!」」」」
「我々はどうすればいい?」
ニールの申し出にイーグルは瞬時に答えた。
「ニール達も戦艦の護衛に回って欲しい。レックス、彼女達にGPの使用を許可させる。使い方を指導してやってくれ」
「了解」
「緊急とはいえ、すまない。だが、あの数では君たちの助けも必要だ」
「無論だ。我々にもドラグーン隊から受けた借りがある。返しても返しきれない程の」
「師匠たちのためなら私も手伝う」
「要するにあいつらをぶっ倒せばいいんだろう?」
「ああ、頼んだぞ」
ニール、リオ、ケイの3人も彼らに手を貸すことを了承する。彼らが司令室を出て行く中、一人取り残されたエスタは端末を操作しながら考え込んでいた。
(さぁて・・・これはかなり厄介な出来事かな・・・それにあの映像も気になるし・・・皆ちゃんと生き延びてよね・・・)
「はぁ! はぁ! はぁ!」
「KIIIIIIIIIIIIIIII!!」
「!」
金切り声のような叫びとともに、彼女よりさらに上空から何かが襲い掛かる。それは2m近くもある蛇の身体で、二枚のコウモリのような翼で飛んでいた。そして、巨大な牙だらけの口を大きく開けて、黒鳥の女性に噛みつこうと向かっていく。
「KIAAAAAAAAA!!」
「ひぃ!」
バシュウウウウ!!
「!?」
突如、蛇の異形が彼女に噛みつく寸前で青白い光線が出現し、それは異形の頭を跡形もなく消し飛ばした。羽付き胴体だけとなった異形は煙を上げながら地上へと落下していく。その様子を呆然と見ていた黒鳥の女性は、光が飛んできた方向から別の何かが飛んで来ることに気付いた。それは鉄の馬のような乗り物に乗った黒服の男性で、右手には見たこともない長身の武器が握られている。
「怪我はないか?」
「え、ええ。あなたは?」
「たまたま通りがかった戦闘部隊の隊長だ。他に奴らはいないな?」
「え? は、はい・・・私を追っかけてきたのはあれだけです」
「そうか。では、気を付けて行け」
「あっ、ちょっと・・・」
彼女が呼び止めるも、黒服の男性はあっという間にその場から飛び去っていった。彼は耳に付けられた通信機に話し掛ける。
「ドクター、最後のクアトルを排除した。計25匹」
『流石、イーグル。その辺りの反応は消えたみたいだよ』
「了解した。周囲を見回った後、艦に帰投する」
同時刻、同じ森林地帯の平原。背の低い草むらの地面へ、サメ面の異形が煙を上げて倒れた。
「このリッパーとやら、確かに数が多ければ厄介だが・・・」
「弱いじゃん! あの時はウザかったけど」
ショートソードを構えるリザードマンのリオ。両刃の大剣を構えるアマゾネスのケイ。彼女達は襲い掛かってくるリッパー達を連携で斬り伏せていく。
「「「「GAAAA!!」」」」
「・・・ふっ!」
一方、彼女達と少し離れた別の場所では、多数のリッパーを相手にする傷だらけの戦士ブレードがいた。彼は両手に持った青い光学刃で次々と異形を切り刻んでいく。
「GAAA!?」
「GUOOO!?」
「GIIIII!?」
「・・・ん?」
異形のほとんどを切り倒した後、彼は最後の一体が変化しているのを目にする。それは両腕の刃を赤く発光させて、こちらに向かって刃腕を振り下ろしてきた。
「GAAAAAAA!!」
「・・・!?」
ドォォォン! ジュウウウウウウ・・・
ブレードが咄嗟に右へ避けると、振り下ろされた赤い刃が地面に突き刺さり、煙とともに焼けた臭いが周りに漂う。彼は避けた瞬間、刃腕から異常な熱気を肌で感じ取った。
(・・・発熱した刃か!?)
「師匠!」
「あんた!」
「GAAAAA!!」
「・・・だが・・・」
再び襲い掛かる異形に、ブレードは相手の股座をスライディングで潜り抜ける。その直後、彼は手にしていた光学刃を一本相手に目掛けて放り投げた。投げ付けられた光学刃は、異形の左脇腹に突き刺さる。
「GUOO!?」
「・・・それがどうした!」
彼は刺した光学刃を再度手に取り、そのまま異形の腹を横に切り裂いた。胴を切り裂かれた異形は上半身だけ地面へと落ちていく。致命傷を与えたであろうと確信し、彼は異形に背を向けて立ち去ろうとした。
「・・・ふん」
ガシッ、ジュウウウウウウ・・・
「・・・?」
「GA・・・GAA、HAAA・・・」
「・・・」
後ろから聞こえた苦痛らしき声に、彼は振り向いて先程の異形を見下す。上半身だけになりながらも、ブレードに刃を突き付けようと這いずる異形。その時、彼はあることに気付く。
「・・・!」
(・・・目が赤い?)
彼はその異形の状態に驚いた。それまで見てきた異形者のどれもが、“黄色に輝く発光眼”をしていたからだ。だが、目の前の異形は確かに“赤い発光眼”でこちらを睨み続けている。
「GA、HUUUUUU・・・」
「・・・」
「GAAAA!!」
異形は残る力で赤熱の刃をブレードに突き刺そうとした。その寸前、彼はすでに手にしていたL.B.Hの光弾で異形の頭を撃ち抜く。止めを刺された異形は目の輝きを失い、煙を上げて溶けていく。それを呆然として見つめるブレードに、リオとケイが駆け寄ってきた。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
「あんた! 怪我は!?」
「・・・」
「し、師匠?」
「ど、どうしたんだよ?」
(・・・何か違う)
辺りに漂う熱気によって、意識を失っていた男の視界がぼんやりと映り出す。目の前に映ったのは自身と同じ灰色迷彩の戦闘服を着た兵士たちの倒れた姿。彼は身体のあちこちをぶつけて痛む身体を無理やり起こす。
「ぐぅ・・・うぅぅ・・・」
手元に落ちていたサングラスを掛けて辺りを見回す。すると、彼は乗っていた機体が左側面へ傾いていることに気付いた。左側に付いていた翼は地面に突き刺さるかのように失っている。今では左側面が新たな床となっていた。
「皆! 無事か!?」
彼の呼び掛けで転がり倒れていた4人が起き上がり始めた。それを見て、彼は操縦席のパイロットにも声を掛ける。
「おい、起き・・・」
彼は操縦席のベルトで宙づり状態の兵士に呼びかけても無駄と悟った。何故なら、そのパイロットは血塗れの顔で目を閉じて、息すらしていなかったからだ。仕方なく彼の身に着けていたドックタグを手に取り、他の兵士たちに声を掛ける。
「お前たちは大丈夫か?」
「は、はい・・・」
「なんとか・・・」
「くそぉ・・・リックが・・・」
端末を手にしていた兵士がサングラスの男に尋ねた。
「隊長、ソウは?」
「・・・・・・」
「そんな・・・」
彼は操縦していたパイロットが死亡したことにショックを受ける。そんな彼を無視して隊長は未だにネットで固定されたBOXを確認した。中身が無事であることを確認し、端末を持つ兵士に手渡す。
「隊長、機体の後ろ半分が消えています」
「外が見えるな・・・各自武装をチェックして出るぞ」
「あれ? 俺のM16は?」
「そっちの壁に引っかかってるぞ」
5人はそれぞれアサルトライフルを手にして、機体の失った部分から外へと出ていった。そこは広大な砂漠が広がり、視界には延々と砂の大地しか映らなかった。その上、空は雲一つない青空で、太陽が天高く昇っている。
「此処は一体・・・何処だ?」
「GPSは・・・駄目です。反応がありません」
「壊れてんじゃねえのか?」
「そんなはずは・・・通信は使えるのに・・・」
部下の兵士たちが話し合っている間、隊長は辺りの様子を見回った。墜落した機体の周りには、機体の残骸である装甲があちらこちらに突き刺さっている。ある程度日除けの場所になっているところもあるが、そんなに数はないようだ。
「ベッシー、そこの残骸の影で、引き続き通信ができるかやってみてくれ。その他は周囲を警戒しろ」
「「「「イエッサー!」」」」
隊長の指示でそれぞれ行動する兵士たち。隊長もベッシーとともに日陰に移動した。兵士たちは、何も見当たらない砂漠を見つめ続ける。
「何にもなさそうだが・・・」
「馬鹿、まだ安全圏じゃないことぐらい分かってるだろ?」
「気を引き締めろ」
「そうは言って・・・」
グシュ!!
「「なっ!?」」
「ん、どうし・・・!」
兵士たちの驚きの声に、隊長がその方向を見ると、一人の兵士の頭に1m近くの棘が突き刺さっていた。串刺しとなった兵士は痙攣を起こしてその場に倒れる。
「こ、コマツゥゥゥゥゥ!!」
「敵だぁぁぁぁぁ!!」
「残骸に隠れろ! 早くぅぅ!」
隊長の指示で二人は慌てて残骸に隠れた。隠れてもなお、何処からか多数の棘が飛来くる。隊長が残骸から顔を少し覗かせると、少し離れた距離に複数の異形を発見した。それはサメ面の頭に硬質の身体、両腕に棘のついた刃腕を持つ異形たちである。
「スパイカーだ!」
「野郎ぉぉ! ふざけやがってぇぇ!」
「撃ち殺してやる!」
ダラララッ! ダラララッ! ダラララララッ!
乾いた銃撃音を響かせて、彼らは異形に向けて小銃を撃ち続ける。その間、ベッシーは必至で通信に救援要請を叫び続けた。
「こちら、シャム偵察小隊! 誰か応答してくれ! 誰か! 誰かぁぁぁぁ!!」
「何ですかぁぁぁぁ!? こんな時にぃぃぃぃ!!」
砂漠のど真ん中で一人叫んでいる青年。額にバンダナを巻いた遊撃隊員のラキである。彼は乗っていたチェイサーがいきなり故障してしまい、仕方なく着陸して故障の原因を探っていた。調べた結果、エンジン部分に砂が溜まっていて、それをクリーナースプレーで落とさなければならなかった。
「めんどくせぇな・・・もう・・・」
そう言いながら彼は後部エンジンの下部辺りにスプレーの先を入れて、溜まった砂を吹き飛ばす。そんな時、彼は後ろの方から不穏な気配を感じ取った。首だけをクルッと回して見るが、後方には何も見当たらず、砂一面の大地しか見えない。
(気のせい・・・・・・・・・か・・・よ!?)
ブゥン!
「おぅわ!?」
何かに少し遅れて気付いたラキは、すぐに身体を右側へ逸らして回避した。それは赤い硬質な尻尾で、その先には毒針のようなものがついている。あと少し遅ければ、ラキは背中を串刺しにされていた。
「だ、誰だぁぁぁぁ!?」
「ちっ、逃したか・・・」
「!」
声が響くと同時に、ラキの後ろ側の砂中から褐色肌の女性が現れる。しかし、その下半身はサソリであり、先程の毒針も彼女のものであった。
「まぁた、魔物かよ。って殺す気かぁ!?」
「失礼な。私たち種族のこの毒針に殺傷能力は全くない」
「へ? 殺傷能力がない?」
「そうだ。代わりに媚薬効果はある」
「ふ〜んって、変な薬を打ち込もうとするな!」
「夫探しの際は、これが手っ取り早いと母から教えられた」
「その教育は間違ってる。絶対」
頭が痛くなりながら、ラキはチェイサーのハンドルを操作する。どうやら不調は治ったらしく、正常に稼働し始めた。その様子を不思議そうに見つめるサソリの女性。
「お前、何者だ?」
「人に尋ねる際、まずは自分からじゃないのか?」
「それもそうだが、私たちギルタブリルは夫になるもの以外に名は名乗らない」
「難儀なしきたりだねぇ。めんどくせぇな、俺はラキ。ただの兵士さ」
「兵士? 妙な格好しているな。此処で何している?」
「ああ、この辺に異形者の反応があったから、その捜索しに来たんだよ」
「異形者?」
聞き慣れない言葉に彼女は首を傾げる。ラキはハンドルを操作しながら続けて話した。
「いやね。元々はトトギス王国へ荷物を届けに行く途中で、敵の反応があったから見に行って来いって言われたんだよ。全く、人使いが荒いなぁ」
「他に仲間が居るのか?」
「他の場所からも反応があるからそっちに行った奴と、艦にも残ってる。だぁぁぁぁぁぁ! 敵はいねえし! チェイサーがいきなり不調になるし! おまけにサソリの姉ちゃんに襲われそうになるわ! やってられっか!」
「く、苦労しているようだな?」
サソリの女性は若干彼の態度に引いてしまう。そんな時、ラキの右耳についている無線機から雑音が響き始めた。
『ザザァ・・・・・・・』
「んぅ? どちら様?」
『ザザァ・・・・・・・・・・・・こた・・・・・・・・・・かぁぁ・・・・・・』
「ああぁ? 聞き取れないぞ? もっと元気よく!」
『ザザァ・・・たの・・・・・・・・・ャム・・・たい・・・きゅうえ・・・・・・』
(きゅうえ?・・・きゅうえ・・・救援?・・・まさか・・・)
彼が謎の通信を傍受している最中に、サソリの女性も何かを感じ取っていた。
「向こうの方から何か響いて来る・・・」
「何が?」
「何か、金属が何かが響くような、乾いた音が連続して聞こえる・・・」
「乾いた音・・・」
それを聞いたラキはすぐにチェイサーに跨ってホバリングする。
「姐ちゃん、その方向へ案内できるか?」
「え? あ、ああ、出来るが・・・何があるのだ?」
「行ってみないと解らない。が、俺たちの知るものかもしれない」
「そうか・・・こっちだ」
彼女が走り出すと同時に、ラキもチェイサーで後を追った。
残骸を盾にして兵士たちは必至で異形に向けて銃弾を放つ。一方の異形は狙いを定めず、刃物腕から生える棘を乱射した。砂地や残骸に無数の棘が突き刺さっていく。
「このっ! くたばれ!」
ダラララララ!
「GA!?」
一人の兵士が放つ銃撃が1体のスパイカーの頭部に命中した。煙を上げて溶けていく異形。
「一匹仕留めた!」
「まだ喜ぶな! 見ただけで15、いや、20体以上は居るぞ!」
「喰われてたまるかぁぁぁ!」
隊長の喝と敵の戦力数により、気合いを入れて銃撃を行う兵士二人。隊長は弾切れになったアサルトライフルへ新たな弾倉を詰め込んだ。ベッシーは相変わらず、落ち着かない様子で端末のマイクに声を掛ける。
「こちらシャム偵察小隊! し、至急救援を! 繰り返す! 誰か応答してくれ!」
「ベッシー、落ち着け! やられはしない! 余裕はまだある!」
「し、しかし!」
「いいから呼び続けろ!」
彼らが必死で銃撃を行う中、異形の数体に変化が訪れた。それは刃物腕の左右に三角形の形状が出来上がり、ひし形の硬質盾が出現。さらに刃物の先も伸びて槍に匹敵するほどの長さへ変化した。変化した異形たちは、刃物付き盾腕を手前に構えて銃撃を防いでいく。
「なっ!? 銃弾が防がれてる!?」
「あの野郎! 盾を持ちやがって!」
「怯むな! 盾じゃない部分を狙え!」
諦めず撃ち続ける中、異形の群れの中で新たに砂中から二体の影が現れた。それは2mを超え、灰色の硬質を持つサソリ。不気味に赤く輝く一つ目が彼らを見つめる。
「「BUOOOO!」」
「!?」
「テールカノン!」
「伏せろぉぉぉぉ!!」
ドドォン!! ドゴォォン!!
彼らが身を屈めた瞬間、2体の異形は同時に尻尾から赤い球を発射し、彼らのいる付近へ直撃させた。その内の一つの砲撃が、運悪く一人の兵士が居た残骸に命中し、まともに受けた彼は数メートル先へ吹き飛ばされる。飛ばされた兵士は額から血を流し、ピクリとも動かなくなった。
「ジェイソン!」
「よくもぉぉ!」
「誰か応答を! 誰か!」
『・・・・・・えるか?・・・・・・』
「!?」
『こち・・・ドラグーン隊。返事は・・・るか?』
「ドラグーン隊!?」
<戦艦クリプト 司令室>
中央に光学表示マップが映し出され、それぞれ戦艦や隊員の位置が表示された。加えて複数の通信を受信し、室内にはいくつかの声が繋がるようになる。端末を操作する少年エスタとそれを横から見守るデュラハンのニール。二人はいつも以上の真剣な表情でマップを見つめていた。エスタが端末操作で無人機Dフライを飛ばしていると、アイコンで表示されたイーグルが無線で尋ねてくる。
『ドクター、現状を報告してくれ』
「ラキからの報告によると、連合軍の偵察部隊が異形者と交戦しているらしい」
『連合の偵察部隊だと!?』
「スパイカーとテールカノンに攻撃されて、すでに生存者は3名。間に合うかどうか・・・」
『部隊の位置とそこから一番近いのは?』
「戦艦から西北西を進んだ先、およそ15キロ離れた位置。近いのは通信を傍受したラキだね」
『私とブレード達では遠すぎるな。ラキとDフライに任せるしかない』
「ジェミニはチェイサーで向かったけど、こっちも期待はできないなぁ」
『分かった。ドクターはDフライの操縦を頼む』
イーグルからの通信が切れ、エスタは再びマップに目を向けた。彼は隣でじっとマップを見続けているニールに話し掛ける。
「ごめんね。こっちの仕事の最中に」
「それは問題ない。それより、問題なのは・・・」
「そうだね。複数の異形者の反応があったと思ったら、今度は僕達の同僚がいたなんて・・・」
「人命が関わっている以上、そちらが優先だ」
「ただ、助けられるかが微妙だな・・・」
「何故だ? お前たちの技術なら・・・」
「性能はいいけど、扱う人は普通の人間だよ」
「?」
「技術が優れれば人間が完璧になるとでも思う?」
「・・・・・・」
少年の問いかけにニールは答えられなかった。
一方の偵察部隊は深刻な状況に陥っていた。銃撃が衰え始めたのをきっかけに、異形たちは少しずつ進軍をし始めたからだ。群れの先頭に盾を構えた異形が銃撃を防ぎ、続いて棘を乱射する異形。サソリの異形も盾の異形に護衛されながら砲撃をし続けた。
ドゴォォン!! キンッ! キキンッ!
「くそぉ! 化け物がぁぁ!!」
「こいつを喰らえ!!」
隊長が腰から取り出したスプレー型の破砕手榴弾を放り投げた。見事に進軍してくる異形たちの手前に転がり、数体を吹き飛ばす。これにより、生き残った異形たちは進軍を停止した。
(くそっ! もう手榴弾がない!)
「隊長! あれを!」
「!?」
兵士が指差した方向を見ると、そこに居た刃物腕の異形の1体が痙攣し始める。次の瞬間、それは膨れ上がるように体型が巨体化し、不気味に輝く赤色の目を光らせた。その大きさは4mも超えている。
「グロウ!?」
(こんな時に成長体が出現するとは!)
「こちらシャム偵察小隊! ドラグーン隊! まだ到着しないか!?」
『ついさっき連絡があって無人機を飛ばした! 俺ももうすぐそちらに着く! もう少し耐えてくれ!』
「急いでくれ!」
ベッシーがそう言い終えた時、成長した異形がゆっくりと右腕を上げて、残骸目掛けて槍並みの大きさの棘を放った。それは残骸の装甲を貫通し、無線を呼び掛けていたベッシーの左胸辺りを貫く。
ザシュッ!!
「がはっ!?」
「ベッシー!」
「ぐぅぅぅ・・・・・・」
隊長が駆け寄るも、彼は苦痛の呻き声を上げてそのまま動かなくなった。またも部下を失った彼は、歯を食いしばって小銃を異形たちに突き付ける。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ようやく戦闘場所が見える位置までやって来たラキとサソリの女性は、その光景に唖然とした。巨体の異形とその周りで付き従うかのよう攻撃をする異形たち。無慈悲に攻撃をされている生き残りの兵士たちはたったの二人。絶望的な状況である。
「何なんだあいつら? 見たことない化け物だが・・・」
「まずいな・・・でも、行くしか・・・」
「私は何をしたらいい?」
「へ?」
サソリの女性の発言に、ラキは耳を疑った。
「先程襲った詫びだ。手助けしよう」
「いいのか? それに異形者に立ち向かうには・・・」
「砂中へ潜って奴らを不意打ちするぐらいできるぞ」
「でも、あの数じゃあ・・・・・・いや、待てよ」
少し考え込んだラキは彼女にあることを聞く。
「姐ちゃん、砂の中を行き来できるのか?」
「ああ」
「なら、これを持って行け」
ラキは腰の手を回し、スプレー缶型の破砕手榴弾を彼女に2個手渡した。
「これは?」
「横に付いているピンを抜いたら5秒後に爆発する。あそこで砲撃してるサソリの目ん玉をこれで吹き飛ばしてほしい」
「あのサソリもどきだな?」
「それと倒したらすぐに離れろ。後で空から爆弾が落ちてくる。その爆撃に気を付けろよ」
「空から? いや、分かった」
彼女はそう言って砂中へと潜って行く。続いてラキも上空へと上がり、上空から接近して行った。
『シャム小隊! こちらドラグーン隊のラキ! 援護する!』
「来てくれたか!」
無線から聞こえた声に反応し、隊長が上空に目を向ける。そこにはバイクらしき乗り物に乗った男の姿が見えた。
「あれが例の試作兵器か」
ラキは右手にL.B.Hを手に取り、異形たちに向けて光弾を乱射する。
ビビビビビィン!
「GAA!?」
「GUHUOOOO!!」
「「BUMOOO!!」」
巨体の異形が新たな獲物を確認し、サソリの異形に指示を出すかのようにラキへ刃物腕を向けた。それに呼応してサソリの異形は尻尾の孔を上空へ向ける。
「やばっ!?」
ドォン! ドォン!
ラキは向かってくる赤熱弾を高速で飛行して回避した。彼は反撃で光学銃を撃つが、距離が遠すぎてかすり傷程度しか与えられない。しかし、うかつに近寄れば砲撃と棘による射撃で撃ち落とされてしまう。
「くっ! うざってぇ! これじゃあ、まともに当たらねぇよ!」
一方、生き残った隊長と兵士は銃撃を行うが、遂に弾薬を撃ち尽くしてしまった。手元にあった5,56mmライフル弾改はゼロである。隊長はベッシーの遺体から弾倉を取って装填した。
「あれを取るしか・・・」
残る兵士は9mm自動拳銃を手に取って、吹き飛ばされたジェイソンを見る。彼の持っていた小銃にはまだ弾薬が入っていたからだ。彼の行動に予想がついた隊長が慌てて止める。
「よせ! 此処は俺にまか・・・」
「このまま犬死はしたくないです!」
「トグラ! 行くなぁぁ!!」
トグラは拳銃を撃ちながら残骸から飛び出した。彼は吹き飛ばされたジェイソンの元へ行き、アサルトライフルを手に取って撃ち始める。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
ダララララララ!!
「GOGAAA!?」
「GAHUUUU!!」
異形の1体を倒した兵士の存在に、巨体の異形が彼へ向けて腕を上げた。それに付いている槍並みの棘を相手に向けて射出する。棘は兵士の右腹に命中するも、彼は体勢を保ったままで銃撃を続けた。
「ぐうぅぅぅ!!」
「GUHUOOOO!!」
「「「GAAA!!」」」
巨体の異形の唸り声で周りに居たスパイカー達が棘を一斉に発射する。それらは全てトグラへ真っ直ぐ飛んだ。
「へっ、くそがぁ・・・」
ザザザシュ! ザシュ! ザザシュ!
「くっ!・・・・・・馬鹿野郎がぁ!」
部下が棘で刺されていく姿に悪態をついてしまう隊長。一部始終を見ていたラキも左手でハンドルを叩く。
「ちきしょう!」
ひたすらラキのチェイサーを狙い撃とうとする2体のサソリの異形。その内1体の顎付近の地面が盛り上がり、スプレー缶を持った褐色肌の腕が出現する。それは異形の輝く赤色の一つ目に向けて缶を投げつけた。
「BUMO?」
ヒュッ、ドガァァァン!!
缶は異形の一つ目に当たる直前で爆発し、サソリの化け物は頭部を失くして溶け始めた。先程、手榴弾を投げつけた腕の正体は、ラキが出会ったサソリの魔物である。彼女は砂中を上手く潜って、目標の頭部に爆弾を当てたのだ。
「いいぞ! あと1体だ!」
続けてもう1体のサソリの異形も為す術もなく、彼女によって手榴弾を投げつけられる。
ドガァァァン!!
「GUHOO!?」
「な、何が起きている?」
突然の出来事に巨体の異形だけでなく、隊長も戸惑いを隠せなかった。その時、ラキの無線機に通信が入る。
『ラキ、見つけたよ』
「エスタか!? 遅かったじゃないか!」
『一番早く行けるのはDフライしかなかったからね』
「砲台は倒した! デカブツと雑魚を頼む!」
『了解、ヘルファイア、スタンバイ!』
ラキよりも遥か上空に飛んでいる飛行物体。それを確認したラキは無線で警告した。
『爆撃来るぞ! 伏せろ!』
「!」
彼の警告で隊長はすぐに反応して、背中からもたれるように残骸へ身を隠す。
『ロックオン完了! ヘルファイア全弾発射!』
カコンッ バシュウウウウウ・・・
「GUGAAAAAA!!」
バシュ! ザシュ!!
「う゛っ!?」
無人機の翼の下からミサイルが4発放たれた。それは巨体の異形へ一発、小物の異形たちへ三発向かっていく。盾を持つ異形たちは必至構えた。
「GUA・・・」
ドドガアアアアアアアアアアアアアアアン!!
巨大な爆発が起こり、辺りに煙と砂が舞い上がる。しばらくして視界が開けると、全ての異形たちがバラバラに飛び散っていた。どれも煙を上げて溶けていく。そんな中、巨体の異形は両腕と下半身がもげたまま生き延びていた。
「GU・・・・・・GAHU・・・UUUU・・・」
「野郎・・・」
ラキはまだ息のある異形の前で着陸して、両手にL.B.Hを取り出す。彼は最早何もできない異形の頭へ光弾を連射した。
「そらよ!」
ビィン! ビィン! ビィン! ビィン!
「GA・・・・・・・・・・・」
異形の呻き声も途切れ、輝いていた赤い目が灰色へと色を失う。その後すぐに煙を上げて溶けだした。
「ふぅ・・・そうだ! 生存者は!?」
ラキは思い出したかのように生き残りの居る残骸へと走り出す。そこにはあのサソリの女性もやって来ていた。
「大丈・・・!?」
彼がその場で見たものは・・・残骸とともに棘で腹を串刺しにされた兵士の姿だった。サングラス越しでも分かるほど青ざめた表情である。ラキは慎重に近づいて、兵士に声を掛けた。
「そのまま動くな。今、救護の要請を・・・」
「ま、まて・・・」
「?」
「そこの・・・倒れている奴の・・・ボック、スを・・・」
彼は兵士が指差した方向にある鉄製のBOXを拾いに行く。兵士の元へ戻ると、彼は右腕を掴まれてあることを告げられた。
「それを・・・連合、本部に・・・届けろ・・・」
「え?」
「お前、たちが・・・生き残って、くれたのが・・・幸いだ・・・探したぞ・・・」
「俺たちを捜索しに来てくれたのか?」
「上の命、令でな・・・それよりも!・・・それを・・・」
「分かった! 分かった! だからしゃべるなって!」
サングラスの男はしゃべる度に口から血を溢れさせる。非常に危険な状態だった。ラキは急いで無線機に手を伸ばす。
「エスタ、救護の手配を! かなり重症だ! 至急レックスを・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・ごふっ!」
「大至急だ! 時間が・・・」
彼がそう叫んでいる中、兵士はサングラスを右手で取り外し、胸ポケットからロケットペンダントを手に取った。それを開けた中にはブロンドの長髪をした白人女性の写真が飾られていた。彼はそれを名残惜しそうに眺める。
「ネリー・・・君、の元へ・・・行けそ・・・う・・・だ・・・・・・」
「おい! だからしゃべ・・・」
「・・・・・・・・・」
「おい・・・おい、おい! しっかりしろ! おい!」
「・・・・・・・・・」
兵士がしゃべらなくなると同時に、両腕が力なく垂れ下がった。彼の目はすでに目を閉じ、すでに息もない。ラキは彼の最後の姿を見届けてしまい、顔を俯かせた。
「・・・・・・」
「大丈夫か?」
「・・・・・・あぁ・・・」
隣に居たサソリの女性も気まずそうにラキへ声を掛ける。彼女も察して彼の肩に手を置いた。その直後、ラキの通信機にイーグルから通信が入る。
『ラキ、もうすぐで到着する。状況を報告しろ』
「・・・・・・」
『ラキ、状況を・・・生存者は?』
「・・・・・・ゼロだ・・・」
『・・・・・・分かった。その場で待機しろ』
<戦艦クリプト 司令室>
航行を続ける戦艦。その中にある司令室に重い空気が漂う。そんな室内でレックス以外のドラグーン隊と3人の魔物娘が集まっていた。司令室の端末近くの椅子に座るラキは手を組んで俯いている。彼の様子を心配したニールが近づこうとしたが、ブレードに止められた。
「ブレード?」
「・・・そっとしてやれ」
「・・・・・・」
「・・・仲間の死は何度見ても気に入らない。あいつはどう思っているかは知らんが・・・」
「ブレード、そこまでにしろ。ニール、ラキなら心配いらない」
「あぁ・・・」
(だが・・・あの落ち込み方は普通ではない・・・自分を責めているのか?・・・)
彼女がそう考え込んでいると、司令室の自動ドアが開いてレックスが入って来る。
「ドクター、遺体の搬送が終わりました」
「ご苦労様。あれ? 艦への積み込みを手伝ってたサソリのお嬢さんは?」
「ギルタブリルの方でしたら、不穏な砂漠地帯から離れると言って出て行かれました」
「確かにちょっと嫌な感じがするからねぇ・・・」
レックスがニールとすれ違う時、彼女があることを小声で尋ねた。
「私も手伝ってもよかったのだが・・・何故、拒否した?」
「申し訳ございませんが、機密事項のため言えません」
「そうか・・・」
彼女はディラハンとして遺体の弔いをしてあげたい気持ちがあった。しかし、彼らにもルールがあるのだと理解してそれ以上の追及をしなくなる。ここでジェミニ達が端末の上に置かれたBOXへ指を差した。
「それは」
「何?」
「偵察部隊がラキに託したもの。このデータカードが入ってたよ」
エスタがポケットから小さな長方形の物体を右手で取り出し、それをイーグルが続けて聞く。
「中身は見たのか?」
「まだだよ。どうせならみんなの前で上映したいし」
「・・・グロいものだったらどうする?」
「それはそれで面白い反応が見られるかも♪」
ブレードの注意を軽く受け取った少年は、端末の差込口にカードを差し込んだ。中央のテーブルに光学表示の画面が映り出し、灰色の砂嵐のような映像が流れる。その数秒後、いきなり鮮明な映像が映り出した。
「これは・・・アンノウンランドか?」
「アンノウンランド?」
「何だそれ?」
「我々の世界にある砂漠地帯だ。普段は砂嵐によって、視界が見にくい。だが、これは以前の砂嵐より激しくないな」
リオとケイに説明するイーグル。彼は映像の内容に凝視する。どうやら乗り物で上空から地上を撮っている映像のようだ。そんな映像がしばらく続いていると、今度はいきなり場面が変わり、少し遠くの地上へ向けての映像が流れた。
「レックス」
「形状で判断するとリッパーとテールカノンです」
エスタの一言でレックスは瞬時に詳細を呟く。その地上には無数の異形たちが群れを成して進軍する姿があった。映像を撮っているカメラが動き回り、方向を左右へ振る。映し出される地上は異形たちで埋め尽くされていた。映像には兵士たちの慌てふためく声も録音されている。
『何だこれ・・・何なんだこれ!?』
『いくらなんでも多いぞ!』
『おい! 至急本部と連絡しろ!』
『通信が繋がりません!』
『隊長! 撤退しましょう! このままでは・・・』
『引き返せ! 早く!』
次第に異形の群れとの距離を離していき、その後映像が途切れた。その場で見ていた全員がしばらく沈黙してしまう。
「・・・数はどれくらいだ?」
その沈黙をいち早く破ったのはブレードだ。彼の質問にレックスが答える。
「まだ、確定はしていませんが、恐らく4千、いえ、5千以上はいると思われます」
「多分、もっといるよ。あの見回した視界だけでも千なんて一握りくらいに過ぎない」
「・・・千以上」
「ひょっとしたら、あの日の数を超えてるかもねぇ・・・」
「・・・!」
エスタの発言に普段無表情のブレードが目を見開く程動揺の素振りを見せた。その様子を見ていたニール、リオ、ケイも目を見張る。
(あの日を超える? それにブレードのあの動揺・・・)
(師匠のあんな表情初めて見た・・・)
(驚いた顔があんなに可愛らしいとは・・・じゅるり・・・)
約一名持ち前の本能に少し火が付いた。
そんな中、イーグルはニールの方へ顔を向けて話し掛ける。
「すまないな。予定のトトギス王国へ奪取した武具の返却しに行く途中で・・・」
「いや、お前たちにとって重要なことだろう? 部外者である私たちが口を出す理由は無い。気にしないでくれ」
「それでも君達を巻き込んでしまってるが・・・まぁ、それほど問題は・・・」
ビィィィィィィィィ!! ビィィィィィィィィ!! ビィィィィィィィィ!!
「「「「「「「!?」」」」」」」
「「「!?」」」
突然、鳴り響いた警報に全員が驚いた。レックスが慌てて端末を操作する。
「異形者の反応を確認! Dフライ3番機で確認できます!」
「映せ!」
イーグルの一言で光学表示に砂漠を進軍する異形の群れを確認した。それは先程見た映像と似たような光景だった。
「沢山!」
「大勢!」
「・・・さっきの群れより少ないが・・・何処に向かってる?」
「お待ちを・・・・・・・・・確認しました。マップに出します」
レックスの操作で中央の光学表示にマップが映し出される。異形の群れを示す赤く表示された部分は、真っ直ぐある場所へと向かっていた。その先にある存在にニールが驚愕する。
「ちょっと待て! あのマガイモノどもは・・・」
「・・・間違いなくトトギス王国へ向かってる」
「!」
異形たちは砂漠地帯の上から南西へとゆっくり移動していた。その方向には、ドラグーン隊の向かう先である王国がある。この事態に意気消沈していたラキも立ち上がった。
「おい! 今あの国の兵士たちは・・・」
「武器を持ってないねぇ。僕たちが返しに行くところだから・・・」
「だぁ! もう!」
ラキはその場から立ち去ろうとしたが、イーグルに手を掴まれてしまう。
「待て! 何をするつもりだ!?」
「ORNITHOであいつらを蹴散らす!」
「一人で立ち向かうつもりか!? 無謀なことはするな!」
「でも!」
「まずは奴らの戦力を見る。それから奴らを叩き潰すんだ。落ち着いて行動しろ」
「く・・・」
彼の冷静な指示でラキは黙り込む。イーグルはマップを見てレックスに指示を出した。
「レックス、数は把握できるか?」
「現在、カウント中・・・・・・リッパー4863体。クアトル2485体。テールカノンLタイプ65体。Sタイプ184体確認しました。計7597体です」
「ちらほらとスパイカーに変異した個体もいるな。厄介な奴らめ・・・」
「ん?・・・これは・・・・・・新たなエネルギー反応!? 現在確認した異形者の群れとは別の群れを確認!」
「なんだと!?」
レックスの言う通り、マップには新たな赤い反応が光り出す。エスタは凄い速さで端末を操作し、あることを告げた。
「どうやら、Gクラスがいるみたいだね」
「・・・Gだと?」
「二つ目の群れから、さらに北東の場所にも異形者の反応がある。それも巨大な反応だよ」
「その巨大な奴が・・・」
「親玉ってことか!?」
リオとケイの言葉の後、イーグルはすぐさま指示を飛ばす。
「エスタ、レックスとともに戦艦で進軍する異形者を攻撃してくれ」
「「了解」」
「ラキとブレードは私と一緒にGクラスの異形者を殲滅しに向かう。ジェミニはチェイサーで戦艦を護衛しろ。ある程度終えたらGPの供給を頼む」
「「「「了解!」」」」
「我々はどうすればいい?」
ニールの申し出にイーグルは瞬時に答えた。
「ニール達も戦艦の護衛に回って欲しい。レックス、彼女達にGPの使用を許可させる。使い方を指導してやってくれ」
「了解」
「緊急とはいえ、すまない。だが、あの数では君たちの助けも必要だ」
「無論だ。我々にもドラグーン隊から受けた借りがある。返しても返しきれない程の」
「師匠たちのためなら私も手伝う」
「要するにあいつらをぶっ倒せばいいんだろう?」
「ああ、頼んだぞ」
ニール、リオ、ケイの3人も彼らに手を貸すことを了承する。彼らが司令室を出て行く中、一人取り残されたエスタは端末を操作しながら考え込んでいた。
(さぁて・・・これはかなり厄介な出来事かな・・・それにあの映像も気になるし・・・皆ちゃんと生き延びてよね・・・)
12/04/14 19:08更新 / 『エックス』
戻る
次へ