閃光の紅白
<都市アイビス 西エリア 正面入り口付近>
街の出入り口では多数の兵士たちが集まり、その中心でニールが指揮をとっていた。彼女たちは侵攻してくる部隊以外に、別の侵入者が出ると予測して街の防衛に出回る。
(レシィ司令官の言う通り、広範囲で兵たちを回したが・・・大丈夫だろうか?)
彼女は先刻のミサイルが発射されたのを見て、ドラグーン隊の作戦が開始されたのだと悟った。遠くの先では、最近聞き慣れた銃撃音が鳴り響いてくる。ニールは隣にいたミノタウロスのベネラに声を掛けた。
「・・・・・・ベネラ」
「はい?」
「向こうの様子を見に行ってくる。その間、ここの指揮は任せたぞ」
「ええっ!? ちょっと、ニール隊長!」
慌てる副隊長の静止を聞かず、彼女は素早く近くの馬に乗り、戦場へ向かう。
(やはり、居ても立っても居られない。あの二人のように、私も魔物娘の性には逆らえないか・・・)
<都市アイビス付近 西側 砂漠地帯>
最早、彼らにとってそれは化け物としか言いようが無かった。遠距離から連続で火を放たれ、剣の切っ先すら通さない光の盾と巨大な剣の刃を持つ巨体。300もいた精鋭の騎士たちは半数以上が叩きのめされ、残った騎士たちは戦意喪失で後退し始める。
『もう終わりか? ちょろいなぁ』
「・・・士気が衰えたか」
(・・・これだけ痛めつければ、しばらくは・・・ん!?)
下がる騎士たちの間から、輝く純白の光弾が複数飛来してきた。それにいち早く気付いたブレードは、すぐに光学盾を展開して防ぐ。光弾は全てブレードの機体を狙って飛び、全てシールドに当たると消滅した。
『ブレード!?』
『おい! 何だ今の!?』
「・・・予想はしていたが・・・やはり居たか」
彼は前面のモニター画面を凝視する。そこには、騎士たちの奥で不気味に笑う人影が映っていた。金色の長髪、赤服に赤いロングコートを着た男。その手には純白に輝く光を纏う長剣が握られている。
『あいつは・・・』
『げっ!? キチガイ勇者!』
「・・・ふん」
教会の勇者という地位を持つ戦士。不消の陽熱“シャグ”と呼ばれる男。以前、都市アイビスを襲撃し、魔物を凌ぐ程の戦闘能力を持つ剣士である。
「邪魔だ。どけっ、貴様ら」
赤き勇者は輝く光剣を振り回して、道行く先の騎士たちを吹き飛ばしていく。彼はブレードの機体から10m離れた地点で立ち止まると、相手に光剣を突き付けた。
「その中に居るのは解っている! 出てこい、ブレード!」
『・・・』
彼の要求の言葉を聞いて、ブレードは無言で機体の前面部分を開き、コックピットから飛び降りる。その様子を見ていたイーグル達だけでなく、トトギス軍の指揮官や騎士たちも驚いた。
『なっ!? ブレード!』
『おまっ、何してんの!?』
「ば、馬鹿な!? あれに人が乗っていただと!?」
「ゴーレムの類じゃないのか!?」
「何故、人が!?」
周りからの声を気にせず、二人は互いに向き合い、鋭く見つめ続けた。
「久しぶりだな、ブレード」
「・・・何しに来た?」
「決まってるだろう? てめえを倒しに来たんだよ!」
「・・・悪いが子どもの遊びに付き合っている暇はない。余所で遊べ」
ドォォォォォン!!
ブレードの言葉が終わると同時に、彼の左側の砂地が何かの衝撃で吹き飛ぶ。微動だにしない彼に対して、シャグは光剣を振り下ろしていた。
「貴様の・・・そのふざけた態度は俺の癪に障る!」
「・・・なら、俺からも言わせて貰う。貴様の自己満足など知ったことか」
「うるせぇ!!」
ブレードの言うことが気に入らないシャグは、自身の右側の腰へ引いた光剣を大きく振って、強烈な横薙ぎで切り裂こうとする。
バチィィィィィィ!!
「!?」
「・・・そっちが黙れ!!」
ブレードはL.B.Hの光学シールドで横薙ぎを受け止め、右腕で相手の顔面へストレートパンチを繰り出した。
「ぶぅ!?」
「・・・ふっ!」
クリーンヒットしてよろめくシャグに、彼は続けて相手の腰目掛けて、左足の前蹴りを当てる。蹴り飛ばされた勇者はすぐに受け身を取って、再び斬り掛かった。ブレードもRAY.EDGEを両手に持って迎え撃つ。
純白の斬撃と青い双刃が弾き合い、激しい閃光が辺りに撒き散らされる。周りで見ていたイーグル達とトトギス軍の騎士たちは呆然となって観戦していた。
『向こうもなかなかの腕だな』
『あいつの剣って、魔法だよな? RAY.EDGEと互角って・・・』
「何だ、あいつ!?」
「不消の陽熱と互角で闘ってるぞ!」
「あの化け物と対等だと!?」
一方のトトギス軍の指揮官は一途の希望である勇者に期待していた。
(もし、奴が勝利したら・・・我々に勝機が回ってくる! 頼む、勝ってくれ!)
いつまでも続く弾き合いに業を煮やしたシャグは、一旦距離を取って剣を大きく振りかぶり、4つの光弾を飛ばす。飛来した光弾はブレードに襲い掛かるも、彼は左手でL.B.Hを取り出して、展開した光学シールドで全弾を防いだ。
「小賢しい!」
再び相手に向かい、光剣を振り下ろすシャグ。ブレードは斬撃を紙一重でかわし、光学刃を消失した状態の握り拳で顔面を狙った。しかし、それを見切ったシャグは左手で彼の拳を受け止める。
「あま・・・ぐぶっ!?」
余裕の発言を言い終わる前に、彼は左フックをまともに受けてしまう。またも顔への不意打ちによろめく勇者に、ブレードは右足で追い打ちの回し蹴りを頭部に当てた。
「がほっ!!」
転がり倒れたシャグは血反吐を数回吐いて立ち上がる。彼の目には怒りが満ちていた。
「げほっ! げほっ!」
「・・・まだやるか?」
「貴様・・・調子に乗るな!」
「・・・お前と一緒にするな」
「んだと!?」
怒り任せに斬り掛かる勇者。先程より力任せの大振りになるが、動きが雑になってしまう。そんな読みやすい攻撃をブレードは余裕で回避し続ける。
「てめえ、なんでだ!? なんで本気を見せない!?」
「・・・言ったはずだ。ガキに本気を見せてどうする?」
「俺を餓鬼扱いするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ブレードは増々怒り狂うシャグを手玉に取る。その光景を見ていたイーグルの機体の傍らに、馬に乗って来たニールが到着した。彼女は馬から飛び降りて、二人の戦闘を観戦する。
『ん? ニール? 何故、此処に?』
「少し気になってな・・・不消の陽熱が居たのか」
『危ないから少し下がった方がいい』
「心配ない、此処でいい」
ニールがやって来たことに、ラキやブレードだけでなく、怒り狂っていたシャグも気付く。
(アイビスのデュラハン? なら!)
彼は咄嗟に片腕だけで光剣を振り回して、ニールへ向かって光弾を放った。いち早く気付いたニールは剣を抜き、魔力を纏わせて光弾を弾き消す。
「・・・!?」
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
ブレードを無視して飛び上がったシャグは、標的をニールに変えて斬り掛かった。ブレードは慌てて走り向かうが、辿り着く前に彼女は剣を弾かれてしまう。無防備になったニールの顔に剣先が向けられ、その場に居た全員が動きを止めた。
「くっ!」
「・・・何のつもりだ?」
「てめえがいつまでも餓鬼扱いするからだろう! だったら・・・」
そう言うと、シャグは光剣を持ち上げて、向かってニールの右側へ剣を振り下ろす。衝撃とともに彼女の真横が吹き飛んだ。
「代わりにこいつを殺すぞ」
「・・・」
シャグの苛立ちの籠った要求に、ブレードは静かに両手の光学刃を仕舞う。そして、おもむろに背中の実体剣を右手で取り出し、刃を展開させて勇者を睨んだ。その目は今までとは違う強烈な視線を出していた。
(これは・・・森でマガイモノを殲滅させた時と同じ感覚!・・・ブレード・・・)
「・・・」
「ほう、いい気迫だ!」
ようやく相手をする気になったブレードに、歪んだ笑みを浮かべるシャグ。そんな中、イーグルとラキは二人のやり取りをただ見ていることしかできなかった。
『ちょ、本気で“あれ”を人間相手に使う気か!?』
『相手は不死身の戦士だ。それにあいつなら心配ないだろう』
ニールに向けていた光剣を降ろし、赤き勇者はブレードを見つめる。対するブレードは左手でRAY.EDGEを取り出して、実体剣グリードキラーの柄頭へ押し込んだ。
「・・・」
「随分とちっちぇ剣だな? いや・・・さっきの青い刃と同じか?」
「・・・そうさ・・・“敵”を倒すために創られた剣だ」
にやりと笑うシャグが走り出すと、ブレードは剣を両手に持って自身の右側へ剣先を向ける。シャグの光剣が真っ直ぐブレードへ振り下ろされた。
バチイイイイイ!!
強烈な電撃音が辺りへ撒き散らすほど響き、その数秒後、剣を振り上げたブレードの後方へシャグが頭から降り落ちる。周りの者だけでなく、彼自身にも何が起きたのか理解できなかった。
「ぐぅ・・・くっ!」
(何が起きた!? 奴を真っ二つにしようとしたら・・・)
少しよろめきながら立ち上がる勇者に向かって、ブレードがゆっくりと歩いて行く。右手に握られた剣には何も纏われていなかった。
(一瞬だが・・・赤い刃が見えた。こいつ・・・出し惜しみしてるつもりか!?)
「うるあああああああああ!!」
シャグは両手で持った光剣の切っ先を自身の左側へ向けて、歩いてくるブレードを斬り上げようとする。そんな彼の行動すら先読みしていたのか、ブレードは左へ身体を逸らすかのように避けた。そのまますれ違いざまに光学刃を一瞬だけ展開して、無防備になったシャグの右腕を切り落とす。
「ぐっ!?」
片腕を切り落とされても、赤き勇者は残る左腕に力を入れて、横薙ぎを繰り出した。だが、それも簡単に仰け反りでかわされてしまう。一旦、ステップで距離を離したシャグは、片手で柄を握ったままの右腕をくっ付けた。再生能力で元通りになった右腕は、何事も無かったかのように動き出す。
(・・・厄介な再生能力だな)
ブレードは相手の回復を待ちつつ、直立の体勢へと身構えた。
「・・・」
「・・・」
「・・・でぇやああああ!!」
「・・・ふっ!」
バチィィィィィィィィィィィィィィ!!
シャグが勢いをつけて襲い掛かるが、ブレードは赤い光学刃を展開して斬撃を弾き返す。白い光と赤い光がぶつかり、二人の周りの砂が衝撃で飛び散った。互いの刃で弾き合いが続き、さらに激しい閃光が辺りに撒き散らされる。それを見ていた周りの者だけでなく、モニター越しで見ていた戦艦にいる者たちも言葉を失った。
輝く巨大な剣を振り回す二人。そんな中、シャグの方に焦りが募り始めていた。若干だが、自身が力押しされていると感じたからだ。こちらも力任せに剣を振っているにも拘らず、相手は徐々にではあるが確実に押して来ている。彼はそのことに歯を食いしばるほど認めたくなかった。
「・・・ざけんな」
「・・・?」
「ざけんな、ざけんな! ふざけんな!!」
「・・・」
「俺は、俺は強者を倒す勇者だ! 貴様も、貴様も!!」
「・・・倒せるだろうな」
「!」
予想外の言葉に驚くシャグの隙を突いて、ブレードは相手の左肩から右腰まで切り落とした。相手が激しい出血をした瞬間、彼はさらに追い打ちで右腕の残った上半身を左腕で殴り飛ばした。二つに別れて飛ばされた上半身は、少し離れた位置に転がり落ちる。
「「「「!?」」」」
周りに居た騎士たちが青ざめた。不死身の勇者と名高い“不消の陽熱”がいとも簡単に切り倒されたからである。指揮官の方は目の前の現実が受け入れられなかった。頼りにしていた戦士があの様では無理もない。血を流し続ける勇者の元へ、ブレードがゆっくりと歩き寄った。いち早く正気に戻った指揮官は、慌てて騎士たちに指示を出す。
「な・・・なに突っ立っている!? 早く奴を援護しろ!」
「え、ええ!?」
「あんな化け物と戦うのか?」
「あの不消の陽熱を圧倒している奴だぞ!」
「無理だ! あんなのに勝てるわけがない!」
「ええい! この腰抜けどもが・・・」
元から士気が落ちているうえに、先程の激しい戦闘を目の当たりにしては、誰も挑む気が起きなかった。騎士たちが怖気づいている内に、ブレードは血反吐を吐く勇者の前にやってくる。
「がふっ! ぐ・・・ごのっ!」
シャグは苦し紛れに、未だ右手で握っている光剣を横薙ぎで振り回した。しかし、その斬撃はブレードに届かず、彼の光学剣で弾き飛ばされる。最早、為す術もない赤き勇者の目の前に、ブレードは構えず見下ろすように相手を見つめた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・」
「はぁ・・・・・・やれよ・・・」
「・・・何をだ?」
「とどめに決まってんだろう!・・・げほっ! げほっ!」
「・・・」
彼は咳き込む相手を無言で見続けていたが、やがて右手の光学剣を振り上げる。
「「「「!?」」」」
「貴様ら! 早く奴を・・・」
『ちょ、ブレード!?』
『よせ!!』
「ブレード!!」
ズドォォォォォォォォォン!!
周りの言葉も聞かず、彼は無情に赤き刃が振り下ろされた。彼らの周りに砂埃が舞い上がり、二人の姿が周りから見えなくなる。数秒後、立ち込めた砂埃が消えて、その場の光景を見た全員が目を丸くした。
「・・・」
「・・・・・・貴様・・・」
ブレードの光学剣は、シャグの左側“何も無い場所”へ振り下ろされていた。光学刃はすぐに消失し、実体剣の刃も収められて背中に仕舞う。
「なんの・・・」
「・・・?」
「なんのつもりだ!?」
「・・・」
「情けのつもりか!?」
「・・・」
彼の質問に対し、ブレードは少し間を置いてから答えた。
「・・・俺は戦士ではない。只の兵士だ」
「はぁ?」
「・・・よって、命令されたこと以外はしない」
「兵士だろうが、騎士だろうが戦うことに変わりないだろう!?」
「・・・命令内容は“死傷を出さずに攻撃”人間であるお前たちを戦闘不能にすることだ」
「ふざけ、げほっ! けっ! 俺はもう人間じゃねえよ!」
咳き込むシャグの言葉を気にせず、しゃべり続けるブレード。
「・・・それがどうした。人と一緒に戦うお前も所詮一人の兵士だ」
「!?」
「・・・お前など任務の障害に過ぎん。敵を倒す邪魔をするな」
「俺が、敵だろうが!?」
「・・・ガキは余所で喧嘩しろ」
「この・・・うっ、げほっ! げほっ!」
悪態をつこうとして咳き込む勇者の目の前で、ブレードはRAY.S.Rを右手で取り出した。彼は麻痺性の光学刃を相手の左頬に近づけ、接触する寸前で止める。
「はぁ・・・はぁ・・・一つ聞かせろ」
「・・・何だ?」
「てめえがさっき言った・・・“倒せるだろうな”の意味を・・・」
「・・・・・・」
「げほっ! げほっ!・・・答えろ!」
彼の要求にブレードは静かに答えた。
「・・・俺は兵士だ。命令に従う駒」
「だから?」
「・・・自由気ままに戦うお前とは違う」
「!」
バチィィィ!
「ぐがっ!?」
ブレードが言い終えると同時に、シャグは強烈な電撃を受けて意識を失う。彼は相手の沈黙を確認した後、その場から後ろへ振り向いて立ち去った。それを機にイーグルがトトギス軍へ警告をする。
『これが最後だ! 早々に立ち去れ! これ以上は手加減できないぞ!』
「くっ・・・全軍撤退だ! 負傷者を連れて急げ!」
進軍するどころか、目の前の敵すら倒せない状況に、指揮官は諦めて撤退の指示を出した。歩ける者は怪我をした兵を馬車に乗せ、すぐに西へと向かい始める。その中には切り裂かれ、失神したシャグも騎士によって運ばれる姿もあった。
「作戦は成功したようだな・・・少々不安があったが・・・」
『Dフライをもう一機飛ばしたから、撤収する彼らはこちらで見張るよ』
「了解した」
エスタからの通信をやり取りしていたイーグルは、ふと視線をある方向に向ける。そこでは戦闘を終えて戻って来たブレードが、ニールと対峙して話していた。
「・・・何故、来た?」
「そ、それはだな・・・こちらの様子を見ろと命令されたのだ!」
「・・・本当か?」
「勿論だ!」
「・・・」
彼女の不自然な言葉に、疑問を感じるブレード。その時、彼はあることを思い出した。
(・・・そういや・・・リオが言ってたな・・・なら、試すか・・・)
彼は右手を素早く動かして、ニールの頭を掴み、取り外すかのように左へ傾けた。
パカッ
「!?」
『本当は魔物の性分で伴侶となるお前のことが・・・』
カポッ
「・・・」
「・・・なるほど」
彼女の首が外されて、残った頭無しの身体にある首の断面から彼女の声が響いてくる。ブレードは以前、リザードマンのリオからあることを聞かされていた。デュラハンは首が外れやすく、頭の外れたその首元から本音が出てしまうということである。彼はそれを利用して彼女の本心を確かめたのだ。頭を戻された彼女は、顔を真っ赤にしてしまう。
「っ〜〜〜〜!!」
「・・・はぁ・・・」
「こ、これはだな・・・その、なんというか・・・そ、それより!」
「・・・?」
「いきなり私の頭を外すとは・・・」
「・・・回りくどい話を聞くより早い」
「覚悟はできているのだな?」
「・・・」
彼女がそう言うと、素早い動きでブレードに飛び掛かった。両手で掴もうとしたニールの腕をすり抜けて避けるブレード。何度も掴もうと必死になる彼女だが、ブレードはその全てを回避した。そんな光景を見ていたイーグルはため息をついてしまう。
「全く・・・まぁ、今回はブレードも指示通り動いてくれた。結果は上々だな」
彼は戦艦のエスタとレシィに通信を入れた。
「これより帰投する」
『お疲れさん、隊長』
『それじゃあ、ワシも集めた武具を街まで持っていくとしよう』
「すまない。後は頼んだ」
『ある程度、事が終えたら我が城に来てくれ。私からもお礼がしたい』
「分かった、そうしよう」
領主レギーナの謝意を受けていると、通信でラキの声が聞こえてくる。
『終わった〜! 帰ったら・・・』
「これからやることが多い。休ませんぞ、ラキ」
『のぉ・・・』
街の出入り口では多数の兵士たちが集まり、その中心でニールが指揮をとっていた。彼女たちは侵攻してくる部隊以外に、別の侵入者が出ると予測して街の防衛に出回る。
(レシィ司令官の言う通り、広範囲で兵たちを回したが・・・大丈夫だろうか?)
彼女は先刻のミサイルが発射されたのを見て、ドラグーン隊の作戦が開始されたのだと悟った。遠くの先では、最近聞き慣れた銃撃音が鳴り響いてくる。ニールは隣にいたミノタウロスのベネラに声を掛けた。
「・・・・・・ベネラ」
「はい?」
「向こうの様子を見に行ってくる。その間、ここの指揮は任せたぞ」
「ええっ!? ちょっと、ニール隊長!」
慌てる副隊長の静止を聞かず、彼女は素早く近くの馬に乗り、戦場へ向かう。
(やはり、居ても立っても居られない。あの二人のように、私も魔物娘の性には逆らえないか・・・)
<都市アイビス付近 西側 砂漠地帯>
最早、彼らにとってそれは化け物としか言いようが無かった。遠距離から連続で火を放たれ、剣の切っ先すら通さない光の盾と巨大な剣の刃を持つ巨体。300もいた精鋭の騎士たちは半数以上が叩きのめされ、残った騎士たちは戦意喪失で後退し始める。
『もう終わりか? ちょろいなぁ』
「・・・士気が衰えたか」
(・・・これだけ痛めつければ、しばらくは・・・ん!?)
下がる騎士たちの間から、輝く純白の光弾が複数飛来してきた。それにいち早く気付いたブレードは、すぐに光学盾を展開して防ぐ。光弾は全てブレードの機体を狙って飛び、全てシールドに当たると消滅した。
『ブレード!?』
『おい! 何だ今の!?』
「・・・予想はしていたが・・・やはり居たか」
彼は前面のモニター画面を凝視する。そこには、騎士たちの奥で不気味に笑う人影が映っていた。金色の長髪、赤服に赤いロングコートを着た男。その手には純白に輝く光を纏う長剣が握られている。
『あいつは・・・』
『げっ!? キチガイ勇者!』
「・・・ふん」
教会の勇者という地位を持つ戦士。不消の陽熱“シャグ”と呼ばれる男。以前、都市アイビスを襲撃し、魔物を凌ぐ程の戦闘能力を持つ剣士である。
「邪魔だ。どけっ、貴様ら」
赤き勇者は輝く光剣を振り回して、道行く先の騎士たちを吹き飛ばしていく。彼はブレードの機体から10m離れた地点で立ち止まると、相手に光剣を突き付けた。
「その中に居るのは解っている! 出てこい、ブレード!」
『・・・』
彼の要求の言葉を聞いて、ブレードは無言で機体の前面部分を開き、コックピットから飛び降りる。その様子を見ていたイーグル達だけでなく、トトギス軍の指揮官や騎士たちも驚いた。
『なっ!? ブレード!』
『おまっ、何してんの!?』
「ば、馬鹿な!? あれに人が乗っていただと!?」
「ゴーレムの類じゃないのか!?」
「何故、人が!?」
周りからの声を気にせず、二人は互いに向き合い、鋭く見つめ続けた。
「久しぶりだな、ブレード」
「・・・何しに来た?」
「決まってるだろう? てめえを倒しに来たんだよ!」
「・・・悪いが子どもの遊びに付き合っている暇はない。余所で遊べ」
ドォォォォォン!!
ブレードの言葉が終わると同時に、彼の左側の砂地が何かの衝撃で吹き飛ぶ。微動だにしない彼に対して、シャグは光剣を振り下ろしていた。
「貴様の・・・そのふざけた態度は俺の癪に障る!」
「・・・なら、俺からも言わせて貰う。貴様の自己満足など知ったことか」
「うるせぇ!!」
ブレードの言うことが気に入らないシャグは、自身の右側の腰へ引いた光剣を大きく振って、強烈な横薙ぎで切り裂こうとする。
バチィィィィィィ!!
「!?」
「・・・そっちが黙れ!!」
ブレードはL.B.Hの光学シールドで横薙ぎを受け止め、右腕で相手の顔面へストレートパンチを繰り出した。
「ぶぅ!?」
「・・・ふっ!」
クリーンヒットしてよろめくシャグに、彼は続けて相手の腰目掛けて、左足の前蹴りを当てる。蹴り飛ばされた勇者はすぐに受け身を取って、再び斬り掛かった。ブレードもRAY.EDGEを両手に持って迎え撃つ。
純白の斬撃と青い双刃が弾き合い、激しい閃光が辺りに撒き散らされる。周りで見ていたイーグル達とトトギス軍の騎士たちは呆然となって観戦していた。
『向こうもなかなかの腕だな』
『あいつの剣って、魔法だよな? RAY.EDGEと互角って・・・』
「何だ、あいつ!?」
「不消の陽熱と互角で闘ってるぞ!」
「あの化け物と対等だと!?」
一方のトトギス軍の指揮官は一途の希望である勇者に期待していた。
(もし、奴が勝利したら・・・我々に勝機が回ってくる! 頼む、勝ってくれ!)
いつまでも続く弾き合いに業を煮やしたシャグは、一旦距離を取って剣を大きく振りかぶり、4つの光弾を飛ばす。飛来した光弾はブレードに襲い掛かるも、彼は左手でL.B.Hを取り出して、展開した光学シールドで全弾を防いだ。
「小賢しい!」
再び相手に向かい、光剣を振り下ろすシャグ。ブレードは斬撃を紙一重でかわし、光学刃を消失した状態の握り拳で顔面を狙った。しかし、それを見切ったシャグは左手で彼の拳を受け止める。
「あま・・・ぐぶっ!?」
余裕の発言を言い終わる前に、彼は左フックをまともに受けてしまう。またも顔への不意打ちによろめく勇者に、ブレードは右足で追い打ちの回し蹴りを頭部に当てた。
「がほっ!!」
転がり倒れたシャグは血反吐を数回吐いて立ち上がる。彼の目には怒りが満ちていた。
「げほっ! げほっ!」
「・・・まだやるか?」
「貴様・・・調子に乗るな!」
「・・・お前と一緒にするな」
「んだと!?」
怒り任せに斬り掛かる勇者。先程より力任せの大振りになるが、動きが雑になってしまう。そんな読みやすい攻撃をブレードは余裕で回避し続ける。
「てめえ、なんでだ!? なんで本気を見せない!?」
「・・・言ったはずだ。ガキに本気を見せてどうする?」
「俺を餓鬼扱いするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ブレードは増々怒り狂うシャグを手玉に取る。その光景を見ていたイーグルの機体の傍らに、馬に乗って来たニールが到着した。彼女は馬から飛び降りて、二人の戦闘を観戦する。
『ん? ニール? 何故、此処に?』
「少し気になってな・・・不消の陽熱が居たのか」
『危ないから少し下がった方がいい』
「心配ない、此処でいい」
ニールがやって来たことに、ラキやブレードだけでなく、怒り狂っていたシャグも気付く。
(アイビスのデュラハン? なら!)
彼は咄嗟に片腕だけで光剣を振り回して、ニールへ向かって光弾を放った。いち早く気付いたニールは剣を抜き、魔力を纏わせて光弾を弾き消す。
「・・・!?」
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
ブレードを無視して飛び上がったシャグは、標的をニールに変えて斬り掛かった。ブレードは慌てて走り向かうが、辿り着く前に彼女は剣を弾かれてしまう。無防備になったニールの顔に剣先が向けられ、その場に居た全員が動きを止めた。
「くっ!」
「・・・何のつもりだ?」
「てめえがいつまでも餓鬼扱いするからだろう! だったら・・・」
そう言うと、シャグは光剣を持ち上げて、向かってニールの右側へ剣を振り下ろす。衝撃とともに彼女の真横が吹き飛んだ。
「代わりにこいつを殺すぞ」
「・・・」
シャグの苛立ちの籠った要求に、ブレードは静かに両手の光学刃を仕舞う。そして、おもむろに背中の実体剣を右手で取り出し、刃を展開させて勇者を睨んだ。その目は今までとは違う強烈な視線を出していた。
(これは・・・森でマガイモノを殲滅させた時と同じ感覚!・・・ブレード・・・)
「・・・」
「ほう、いい気迫だ!」
ようやく相手をする気になったブレードに、歪んだ笑みを浮かべるシャグ。そんな中、イーグルとラキは二人のやり取りをただ見ていることしかできなかった。
『ちょ、本気で“あれ”を人間相手に使う気か!?』
『相手は不死身の戦士だ。それにあいつなら心配ないだろう』
ニールに向けていた光剣を降ろし、赤き勇者はブレードを見つめる。対するブレードは左手でRAY.EDGEを取り出して、実体剣グリードキラーの柄頭へ押し込んだ。
「・・・」
「随分とちっちぇ剣だな? いや・・・さっきの青い刃と同じか?」
「・・・そうさ・・・“敵”を倒すために創られた剣だ」
にやりと笑うシャグが走り出すと、ブレードは剣を両手に持って自身の右側へ剣先を向ける。シャグの光剣が真っ直ぐブレードへ振り下ろされた。
バチイイイイイ!!
強烈な電撃音が辺りへ撒き散らすほど響き、その数秒後、剣を振り上げたブレードの後方へシャグが頭から降り落ちる。周りの者だけでなく、彼自身にも何が起きたのか理解できなかった。
「ぐぅ・・・くっ!」
(何が起きた!? 奴を真っ二つにしようとしたら・・・)
少しよろめきながら立ち上がる勇者に向かって、ブレードがゆっくりと歩いて行く。右手に握られた剣には何も纏われていなかった。
(一瞬だが・・・赤い刃が見えた。こいつ・・・出し惜しみしてるつもりか!?)
「うるあああああああああ!!」
シャグは両手で持った光剣の切っ先を自身の左側へ向けて、歩いてくるブレードを斬り上げようとする。そんな彼の行動すら先読みしていたのか、ブレードは左へ身体を逸らすかのように避けた。そのまますれ違いざまに光学刃を一瞬だけ展開して、無防備になったシャグの右腕を切り落とす。
「ぐっ!?」
片腕を切り落とされても、赤き勇者は残る左腕に力を入れて、横薙ぎを繰り出した。だが、それも簡単に仰け反りでかわされてしまう。一旦、ステップで距離を離したシャグは、片手で柄を握ったままの右腕をくっ付けた。再生能力で元通りになった右腕は、何事も無かったかのように動き出す。
(・・・厄介な再生能力だな)
ブレードは相手の回復を待ちつつ、直立の体勢へと身構えた。
「・・・」
「・・・」
「・・・でぇやああああ!!」
「・・・ふっ!」
バチィィィィィィィィィィィィィィ!!
シャグが勢いをつけて襲い掛かるが、ブレードは赤い光学刃を展開して斬撃を弾き返す。白い光と赤い光がぶつかり、二人の周りの砂が衝撃で飛び散った。互いの刃で弾き合いが続き、さらに激しい閃光が辺りに撒き散らされる。それを見ていた周りの者だけでなく、モニター越しで見ていた戦艦にいる者たちも言葉を失った。
輝く巨大な剣を振り回す二人。そんな中、シャグの方に焦りが募り始めていた。若干だが、自身が力押しされていると感じたからだ。こちらも力任せに剣を振っているにも拘らず、相手は徐々にではあるが確実に押して来ている。彼はそのことに歯を食いしばるほど認めたくなかった。
「・・・ざけんな」
「・・・?」
「ざけんな、ざけんな! ふざけんな!!」
「・・・」
「俺は、俺は強者を倒す勇者だ! 貴様も、貴様も!!」
「・・・倒せるだろうな」
「!」
予想外の言葉に驚くシャグの隙を突いて、ブレードは相手の左肩から右腰まで切り落とした。相手が激しい出血をした瞬間、彼はさらに追い打ちで右腕の残った上半身を左腕で殴り飛ばした。二つに別れて飛ばされた上半身は、少し離れた位置に転がり落ちる。
「「「「!?」」」」
周りに居た騎士たちが青ざめた。不死身の勇者と名高い“不消の陽熱”がいとも簡単に切り倒されたからである。指揮官の方は目の前の現実が受け入れられなかった。頼りにしていた戦士があの様では無理もない。血を流し続ける勇者の元へ、ブレードがゆっくりと歩き寄った。いち早く正気に戻った指揮官は、慌てて騎士たちに指示を出す。
「な・・・なに突っ立っている!? 早く奴を援護しろ!」
「え、ええ!?」
「あんな化け物と戦うのか?」
「あの不消の陽熱を圧倒している奴だぞ!」
「無理だ! あんなのに勝てるわけがない!」
「ええい! この腰抜けどもが・・・」
元から士気が落ちているうえに、先程の激しい戦闘を目の当たりにしては、誰も挑む気が起きなかった。騎士たちが怖気づいている内に、ブレードは血反吐を吐く勇者の前にやってくる。
「がふっ! ぐ・・・ごのっ!」
シャグは苦し紛れに、未だ右手で握っている光剣を横薙ぎで振り回した。しかし、その斬撃はブレードに届かず、彼の光学剣で弾き飛ばされる。最早、為す術もない赤き勇者の目の前に、ブレードは構えず見下ろすように相手を見つめた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・」
「はぁ・・・・・・やれよ・・・」
「・・・何をだ?」
「とどめに決まってんだろう!・・・げほっ! げほっ!」
「・・・」
彼は咳き込む相手を無言で見続けていたが、やがて右手の光学剣を振り上げる。
「「「「!?」」」」
「貴様ら! 早く奴を・・・」
『ちょ、ブレード!?』
『よせ!!』
「ブレード!!」
ズドォォォォォォォォォン!!
周りの言葉も聞かず、彼は無情に赤き刃が振り下ろされた。彼らの周りに砂埃が舞い上がり、二人の姿が周りから見えなくなる。数秒後、立ち込めた砂埃が消えて、その場の光景を見た全員が目を丸くした。
「・・・」
「・・・・・・貴様・・・」
ブレードの光学剣は、シャグの左側“何も無い場所”へ振り下ろされていた。光学刃はすぐに消失し、実体剣の刃も収められて背中に仕舞う。
「なんの・・・」
「・・・?」
「なんのつもりだ!?」
「・・・」
「情けのつもりか!?」
「・・・」
彼の質問に対し、ブレードは少し間を置いてから答えた。
「・・・俺は戦士ではない。只の兵士だ」
「はぁ?」
「・・・よって、命令されたこと以外はしない」
「兵士だろうが、騎士だろうが戦うことに変わりないだろう!?」
「・・・命令内容は“死傷を出さずに攻撃”人間であるお前たちを戦闘不能にすることだ」
「ふざけ、げほっ! けっ! 俺はもう人間じゃねえよ!」
咳き込むシャグの言葉を気にせず、しゃべり続けるブレード。
「・・・それがどうした。人と一緒に戦うお前も所詮一人の兵士だ」
「!?」
「・・・お前など任務の障害に過ぎん。敵を倒す邪魔をするな」
「俺が、敵だろうが!?」
「・・・ガキは余所で喧嘩しろ」
「この・・・うっ、げほっ! げほっ!」
悪態をつこうとして咳き込む勇者の目の前で、ブレードはRAY.S.Rを右手で取り出した。彼は麻痺性の光学刃を相手の左頬に近づけ、接触する寸前で止める。
「はぁ・・・はぁ・・・一つ聞かせろ」
「・・・何だ?」
「てめえがさっき言った・・・“倒せるだろうな”の意味を・・・」
「・・・・・・」
「げほっ! げほっ!・・・答えろ!」
彼の要求にブレードは静かに答えた。
「・・・俺は兵士だ。命令に従う駒」
「だから?」
「・・・自由気ままに戦うお前とは違う」
「!」
バチィィィ!
「ぐがっ!?」
ブレードが言い終えると同時に、シャグは強烈な電撃を受けて意識を失う。彼は相手の沈黙を確認した後、その場から後ろへ振り向いて立ち去った。それを機にイーグルがトトギス軍へ警告をする。
『これが最後だ! 早々に立ち去れ! これ以上は手加減できないぞ!』
「くっ・・・全軍撤退だ! 負傷者を連れて急げ!」
進軍するどころか、目の前の敵すら倒せない状況に、指揮官は諦めて撤退の指示を出した。歩ける者は怪我をした兵を馬車に乗せ、すぐに西へと向かい始める。その中には切り裂かれ、失神したシャグも騎士によって運ばれる姿もあった。
「作戦は成功したようだな・・・少々不安があったが・・・」
『Dフライをもう一機飛ばしたから、撤収する彼らはこちらで見張るよ』
「了解した」
エスタからの通信をやり取りしていたイーグルは、ふと視線をある方向に向ける。そこでは戦闘を終えて戻って来たブレードが、ニールと対峙して話していた。
「・・・何故、来た?」
「そ、それはだな・・・こちらの様子を見ろと命令されたのだ!」
「・・・本当か?」
「勿論だ!」
「・・・」
彼女の不自然な言葉に、疑問を感じるブレード。その時、彼はあることを思い出した。
(・・・そういや・・・リオが言ってたな・・・なら、試すか・・・)
彼は右手を素早く動かして、ニールの頭を掴み、取り外すかのように左へ傾けた。
パカッ
「!?」
『本当は魔物の性分で伴侶となるお前のことが・・・』
カポッ
「・・・」
「・・・なるほど」
彼女の首が外されて、残った頭無しの身体にある首の断面から彼女の声が響いてくる。ブレードは以前、リザードマンのリオからあることを聞かされていた。デュラハンは首が外れやすく、頭の外れたその首元から本音が出てしまうということである。彼はそれを利用して彼女の本心を確かめたのだ。頭を戻された彼女は、顔を真っ赤にしてしまう。
「っ〜〜〜〜!!」
「・・・はぁ・・・」
「こ、これはだな・・・その、なんというか・・・そ、それより!」
「・・・?」
「いきなり私の頭を外すとは・・・」
「・・・回りくどい話を聞くより早い」
「覚悟はできているのだな?」
「・・・」
彼女がそう言うと、素早い動きでブレードに飛び掛かった。両手で掴もうとしたニールの腕をすり抜けて避けるブレード。何度も掴もうと必死になる彼女だが、ブレードはその全てを回避した。そんな光景を見ていたイーグルはため息をついてしまう。
「全く・・・まぁ、今回はブレードも指示通り動いてくれた。結果は上々だな」
彼は戦艦のエスタとレシィに通信を入れた。
「これより帰投する」
『お疲れさん、隊長』
『それじゃあ、ワシも集めた武具を街まで持っていくとしよう』
「すまない。後は頼んだ」
『ある程度、事が終えたら我が城に来てくれ。私からもお礼がしたい』
「分かった、そうしよう」
領主レギーナの謝意を受けていると、通信でラキの声が聞こえてくる。
『終わった〜! 帰ったら・・・』
「これからやることが多い。休ませんぞ、ラキ」
『のぉ・・・』
12/02/26 12:36更新 / 『エックス』
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