砂鉄集めの百足
晴れた青空の上空を高速で飛行する影が二つ。ドラグーン隊のレックスとラートがスカイチェイサーに乗って遥か上空を飛んでいた。
「目標を発見。ラート、停止してください」
「おっけい!」
二人はかなり上空で高度を保ちながらチェイサーを留まらせる。ラートは携帯望遠鏡を取り出し、レックスと一緒に向かっていた先の方向へ目を向けた。
「・・・・・・うわっ、いっぱい」
「かなりの数ですね」
レックスの視界に映ったのは、隊列を成して進軍する兵士たち。それは彼の視界の表示にあるカウント数がすぐに3ケタを超えるほどの数である。やがて、カウントされた数字は4ケタまで表示されていった。
「3250名ですね」
「そんなに居るの!?」
驚きの声を上げるラートを余所に、レックスは進軍する兵士たちを遠くから眺める。
「ある程度の詳細も取れましたので、帰還しましょう」
「あいよ〜」
二人は向きを変えてその場から飛び去った。
<同時刻 戦艦クリプト 司令室>
戦艦の駆動音が響く室内。レックスとラート以外の隊員と、都市アイビスから領主レギーナ、司令官レシィ、防衛隊長ニールが立っていた。彼らは中央のテーブルを囲むようにして、レートに視線を向ける。
「相手の数は3250もいるらしいよ」
レートの言葉に、皆が真剣な表情で考え込んだ。
「非常にまずいな・・・」
先に口を開いたのは領主レギーナだった。続けてレシィとニールもしゃべり出す。
「我が防衛部隊は千人くらい」
「どう見ても分が悪いのぉ・・・」
明らかに不利な状況と判断したイーグルは、あることをニールに尋ねた。
「別の場所から援軍を呼び寄せられないか?」
「残念だが、多くを呼び寄せられない。出来たとしてもギルドの傭兵が数百人程度だ」
「それにじゃ、この様子じゃと、三日後にやって来るじゃろう。それまでに人手を集めるのも無理がある」
「現状で対応するしかないのか・・・厄介な」
彼の言ったことに、レギーナは拳を握りしめる。
「それでも・・・それでも、我が街を滅ぼさせたりはしない」
「同感じゃ」
「今まで守り通してきた街だ。例え剣が折れようと、朽ち果てるまで守って見せる」
彼女含めてレシィとニールも力強く宣言した。それを聞いたドラグーン隊は呟くように口を開く。
「まぁ、本来先に手を出したのは俺とブレードだったし・・・」
「・・・手助けの際に邪魔だからぶっ飛ばした。それだけだ」
「宗教怖いねぇ〜ラート」
『怖いねぇ〜』
「ここまで深く関わった以上、見過ごすわけにはいかない。異論は? ドクター」
「聞かなくても解るでしょ?」
彼らの言葉に領主レギーナは頭を下げてしまう。
「すまない。いくら手を借りたいとは言え、無関係である貴公らに・・・」
「レギーナ殿、頭を上げてくれ。我々は人命の守護を目的として活動している。種族等は関係ない。我々も出来る限り、あなた達や街を防衛しよう」
「本当にすまない・・・」
「ぬしら・・・」
イーグルの答えにレギーナは頭を上げ、レシィも何かを言いたげそうに見回した。エスタは少しため息を吐いて腕を組む。
「でも、どうしようかなぁ・・・イーグル、相手は人間だよ?」
「それは解っている。穏便に済ませたいところだが・・・」
「CXULUBを使って追い返したら?」
「・・・ラキ、光学主砲を人に向けるつもりか?」
「このバカ者が、余計に脅威を植え付けるだけだ」
「それは却下だね」
「人でなし」
『最低野郎』
「酷い!」
ラキ以外の隊員が、彼の考えに非難を浴びせる。その光景に思わずレギーナ達は笑ってしまう。イーグルはいい策は無いか考え込んだ。
(G.A.Wを出してもいいが、大勢だと死傷が出る可能性はある・・・だからと言って、暴動鎮圧用の兵器は小物程度しかない)
「兄上?」
「思考錯誤してるから、話し掛けないで欲しい」
「わ、解ったのじゃ」
エスタも厄介な難題に頭を抱え込む。そんな中、ラキとレートは気楽に話し続けていた。
「3千人かぁ・・・G.A.Wでも乗らねえとキツイぜ」
「スパイスボールじゃあ、足りなさ過ぎ。やっぱり、威嚇射撃で蹴散らす?」
「向こうも兵士だ。威嚇だってばれるぞ?」
「じゃあ、どうしろってんだよ?」
「それを考えろよ!」
「うるさいよ! ラート!」
『帰ったら二人でリンチ決定!』
「このS極とN極が!」
「なんだと!?」『なんだと!?』
相変わらずの光景に、エスタはやれやれと首を振る。
(S極とN極って・・・・・・・・・・・・あっ!)
「それだぁ!」
白衣の少年の叫び声に全員が驚いた。彼はレシィに近寄り、耳元で囁き始める。イーグルは不思議そうに二人を見つめた。
「何を思いついたのだ?」
「・・・どうせロクでもないことだろう」
しばらくして少年の話を聞いたレシィは、はしゃいでいる子どものような笑みを浮かべる。
「それはいい話じゃ!」
「そのためにはちょいとした労働力と特殊な技術が必要だけど・・・期限が明々後日までなら間に合うでしょ?」
「ワシも全力を尽くそうぞ。勿論、他の魔女たちにも協力させる」
「頼りにしてるよ? 覇王バフォメット」
「♪」
二人の話を不思議に思ったイーグルが、白衣の少年へ近づいて話し掛けた。
「ドクター、詳しく聞かせて貰えないか? 思いついたことを・・・」
「いいよ。さぁて・・・忙しくなるから、君たちにも働いてもらうよ」
エスタは組んでいた右手でメガネを整えて、思いついた内容を話し始める。
<三日後 都市アイビス付近 西側 砂漠地帯>
広大な砂漠を行軍し続けたトトギス軍は、遂に街が見える地点までやって来た。その右横には街と同じくらい目立つ巨大な船も見える。彼らは街に攻め込むため、横に広がった千人以上の部隊を二つ並ばせるよう陣形を取った。その後方には精鋭らしき立派な武装をした騎士たちが数百と並んでいる。陣形の周りを馬に乗る伝令兵が走り、精鋭部隊の後方に居る指揮官たちの元へ向かった。
「ヴァービン指揮官! 一般兵の二部隊と騎士団の整列が終わりました!」
「よし・・・」
立派な服装をした男性が前方に居る兵士たちに向かって大声で叫んだ。
「これより、都市アイビスを攻略する! 我々に害を為す魔物は全て倒せ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
彼の言葉で兵士たちは声を上げる。
「一般兵のみ抜刀せよ!」
二列に広がり並ぶ兵士たちが腰の剣を抜いて、剣の切っ先を空に向けて掲げた。その他に槍と盾を持つ兵士は、槍を空に向けて突き上がるかのように掲げる。
「全軍! しんげ・・・」
「ヴァービン指揮官! はぁ、はぁ、ぜ、前方の空より何か来ます!」
「!?」
突然、走って来た伝令兵が息を切らしながら報告した。指揮官が前方の上空に目をやると、街の方から三つの影がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。彼は慌てて兵士に指示を出す。
「第二列! クロスボウ構え!」
彼の掛け声で、前方から二列目の兵士が背中に背負っていたクロスボウを取り出した。彼らは上空から接近してくる三つの影に向けて狙いを定める。しかし、向かって来たそれは、クロスボウで届きそうにない上空を飛んでいた。
「あれは一体?・・・人か?」
前列の兵士たちの手前辺りで留まり浮かぶそれは、四つの尖った羽のような物を背中から生やし、全身のあちこちに緑色の装甲を付けた人のような姿。否、人の形をした巨大な物体であった。
「おお、すっげぇ並んでるな」
『・・・この世界の兵も規律は普通らしいな。思想は馬鹿げてるが・・・』
『二人とも、スピーカーをこちらにリンクさせろ』
三つの影の正体は、ドラグーン隊の主力兵器『ORNITHO』で、両肩部にはGPガトリングを装備。搭乗者は中央にイーグル、その右側にラキ、左側はブレードである。ラキとブレードは手元の操作盤を弄り、自身の機体にあるスピーカーをイーグルへ委ねた。彼は三つの機体のスピーカーを通して、トトギス軍に警告した。
『我々は連合軍所属ドラグーン隊。そこの侵攻しようとする軍隊に告ぐ! 直ちに引き返せ! さもなくば諸君らを迎撃する! これは脅しではない、警告だ!』
突如、現れた人型兵器から響く警告の声に、トトギス軍の兵士たちは狼狽えてしまう。指揮官も戸惑いを見せるが、すぐに冷静な態度で兵士たちに指示を出した。
「我らを妨げる存在は排除しろ! クロスボウ、狙い撃て!」
指揮官の指示を聞いた兵士たちは慌ててクロスボウを構えて撃ち始める。放たれたボルトは人型兵器の足元より下までしか届かず、どの角度から撃っても放物線を描いて外れ落ちていった。
『ふはははは、どうした!? 当たらんぞぉ!』
「・・・無駄なことだ」
『この位置ならば当たらん』
「・・・やるか?」
『引き返さず、こちらに攻撃してきた以上、反撃の理由はできた。ドクター、予定通りアイアンギャザー作戦を開始する』
<戦艦クリプト 司令室>
室内には、椅子に座って端末を操作するエスタと、その右隣で立ち尽くすレギーナが巨大な光学表示画面を眺めていた。
「やはり、避けられぬか・・・」
「想定された行動だし、向こうも“はい、そうですか”と素直に引き下がるつもりはないでしょ?」
「確かにそうだが・・・」
「まぁ、G.A.Wを見て逃げるかなと、期待してたけど・・・作戦を始めようか」
少年は端末を操作して、ある場所の人物に連絡する。
「レシィ、準備はOK?」
<G.A.W格納デッキ>
「勿論なのじゃあ!!」
格納デッキ内の拓けた場所の床に、巨大な魔法陣が描かれていて、その中心に張り切ったレシィが立っていた。さらにその魔法陣の端には、幼女の姿をした魔女たち50人が円になるように並んでいる。彼女たちはレシィの魔力によって魔物化した人間の女性で、彼女の忠実な部下である。
『それじゃあ、例のミサイルを発射するから、作動できるようにしておいてね』
「了解なのじゃ! それ、お前たち! 始めるのじゃ!」
「「「「はいっ!」」」」
右耳に付けた小型無線からの指示を聞いたレシィは、周りの魔女たちに詠唱を唱えさせた。魔法陣が光り始め、レシィは格納デッキの壁に表示されるモニターを見つめる。そこにはイーグル達に攻撃をするトトギス軍が映っていた。無人機Dフライからの映像である。
『レックス、準備は?』
「発射可能です」
『そちらが発射したら、起爆地点までの誘導を開始するよ』
「了解」
戦艦の右隣に立っているレックスは携帯端末を操作して、目の前に設置されたミサイル発射台を作動させた。白く巨大な筒のようなミサイルは高さ8m近くあり、それは横一列に4本並んでいる。
「セーフティ解除。1番から4番、同時発射」
ババババシュウウウウウウウ!!
凄まじい煙を上げながら4本のミサイルは上空へと飛び立った。ある程度の高度まで昇ると、今度は高度を保ちながら砂漠の向こうへと飛んで行く。向かう先はトトギス軍が居る場所である。
「誘導開始。目標、ORNITHO付近。起爆設定は・・・これでいけるでしょう」
司令室ではエスタが即座に端末を操作して、放たれたミサイルの行先を調整した。高速で飛行するそれは、空中で待機するイーグル達の機体の元へ真っ直ぐ飛んで行く。
「来たぞ。二人とも、その場を動くな」
『当たらねぇよな?』
『・・・天才だから心配ないのだろう?』
「その通りだ。ドクターを信じろ」
誤射を気にするラキを落ち着かせ、イーグルは冷静な態度で指示を飛ばした。やがて向かってくる4本のミサイルは、3人の乗る機体のそれぞれの間へと別れて飛び向かう。一方のトトギス軍の指揮官は、なかなか攻撃が当たらないことに苛立ちを見せる。
「ええい! 何をやっている!? 早く撃ち落とせ!」
「し、しかし! 相手の位置が・・・」
「ヴァービン指揮官! 前方より、さらに何かが飛んできます!」
「何!?」
彼が慌てて向こう側の空へ目をやると、高速で突っ込んでくる白い物体が見えた。その物体はイーグル達の間を横切る瞬間、それ自体にある変化が訪れる。
『ボン♪』
司令室で見ていたエスタが楽しげに一言呟くと、ミサイルの外皮が4枚に剥がれ落ち、内蔵されていた直径10cmの黒い球体を無数に放散した。それらは全てトトギス軍の兵士たちに向かって降り注がれる。
「なっ!? た、盾を構えろぉぉ!!」
いち早く気付いた一人の兵士の声をきっかけに、兵士たちは自身の持っている盾で降り注ぐ黒球の雨を防いだ。一部の兵士は盾を持っていなかったので、打撲程度の被害があったが、ほとんどの者が盾などで攻撃を防ぐことに成功する。
「な、何なのだ?」
「この黒いのは一体・・・」
「くそぉ・・・腕に当たった・・・いてぇ・・・」
ばら撒かれた黒球は一般兵の部隊全体と精鋭部隊の手前まで降り落ちた。指揮官は先程の攻撃が単なる投石の類だと解釈する。
「たったこれだけか? こけおどしなど通用せぬ!」
この光景を見ていたエスタは、すかさずレシィへ通信を入れた。
「レシィ、やって頂戴」
少年の指示を聞いたレシィが詠唱を唱え始め、魔法陣が黄色に輝き出す。
「術式解放! サンダーセンティピード!」
少女の叫びとともに、ばら撒かれた黒い球がバチバチと火花放電を起こした。やがてそれは治まり、今度はもの凄い勢いで兵士の鉄製の鎧や剣などへ引っ付いた。
「ぐわっ! な、何だこれ!?」
「ひっ、引っ付いて取れない!」
「この! 剥がれろ!」
「おい! てめえ、何くっ付いてやがる!? 俺から離れろ!」
「知らねえよ! この球が引っ付いて、おめえから離れられねえんだよ!」
鎧、剣、槍、弩、盾などに引っ付いた黒い球は、一定距離に入った同じ鉄製武具に引っ付き、2,3人がくっ付き合う事態も巻き起こる。
「なっ、何が起きてる!? 奴らは何をしたのだ!?」
謎の事態に指揮官も混乱してしまう。被害は一般兵全体だけでなく、精鋭部隊の一部にまで被害を受けた。
「はははは! すげえ! どんどんくっ付いていくぜ!」
『・・・マヌケな姿だな』
『ドクター、予定通り上手くいったようだ』
『当然、僕とレシィで考えた作戦だからね』
『マグネットクラスターミサイル』
ミサイル1本に直径10cmの鉄球を800個近く搭載させ、それを目標地点へ絨毯爆撃の如く降らせる兵器。しかし、鉄球は爆発性が無く、代わりにある魔術式が組み込まれている。それを発動させると、電撃によって磁力を帯びた鉄球は強力な磁石へと変貌。それは科学と魔術を組み合わせた非殺傷兵器である。
「ワシと兄上が作り上げた傑作じゃあ!」
『用意するのに時間がギリギリだったけど・・・』
トトギス軍が到着する三日前、ドラグーン隊とレシィとその部下である魔女たちは、この兵器の製造をしていた。まず、鉄球とミサイル本体とその発射台の製造をし、出来上がった鉄球からレシィや魔女たちが魔術式を組み込む作業。製造にはかなりの手間が掛かり、中には魔力が渇望した魔女を助けるため、彼女の供給役の男性が一晩彼女と一緒に寝室から出て来ないという事態も発生した。
『それにしても・・・磁石なんてよく思いついたな? エスタ』
「君のおかげだよ、ラキ」
『へ? 俺?』
「三日前、君があの時、S極とN極なんて言ってくれなかったら思いつかなかった」
『ああ、あれか・・・ってあれで思いついた!?』
素っ頓狂な声を上げるラキを余所に、イーグルは再度トトギス軍へ警告を促す。
(次はハッタリで動かすか・・・ドクターの予想通りになるか?)
『今、諸君らにくっ付いている物は、一定時間すると爆発する。簡単に腕や足を跡形もなく吹き飛ばす。そうなりたくなければ、すぐに武器と防具を捨てろ!』
「う、嘘だろ!?」
「やばい! 早く捨てろ!」
「おい! 貴様ら何をしてる!? 自力で何とか引き剥がせ! 武器を捨てるな!」
彼の言い放った言葉に、トトギス軍の兵士は指揮官の言葉も聞かず、慌てて武具を捨て始めた。持っていた武器だけでなく、身に着けていた防具の全ても捨てた兵士たちはその場から後方へ逃げ去る。
「くっ! 腰抜けが・・・」
(だが・・・奴らの言った通りならば・・・全軍の大半が一気に失われる!)
「ええい! 下がれ! 退避しろ!」
やむを得ないと判断した指揮官は、後退の指示を叫んだ。思惑通りに動いたトトギス軍を見て、レシィがにやりと笑う。
「形作るがよい、“無数の足を持つ長き者”よ!」
彼女のその言葉に反応して、放置された武具が一斉にくっ付き合いを始めた。それらはまるで蛇のような胴体を造るかのように繋がり、多数の足のような部分も出来上がる。全てが合体し、完成したそれは巨大なムカデそのものだった。
「これは・・・武具で出来たムカデ? いや・・・」
(雷撃が本体だと言っていたな・・・雷のムカデか)
『魔法すげえな』
『・・・ふん』
巨大な武具ムカデはラキのORNITHOの右側へと移動し、ゆっくりと鎌首を持ち上げて兵士たちを威嚇する。それを機にイーグル達は地上へ着地して、再度警告を与えた。
『繰り返す! 即刻引き返せ! 諸君らの武装は僅かだ。無益な戦いなど考えるな!』
現在のトトギス軍で戦える兵は精鋭部隊の300近くの騎士だけである。武装を取り上げられ、不利な状況に立たされた軍の指揮官は、歯を食いしばって指示を出した。
「精鋭部隊! せめて奴らだけでも倒せ! 相手は巨大だが、数ではこちらが上だ!」
「し、しかし・・・」
「いいから行けえ!!」
ヤケになった指揮官の無茶な指示に、精鋭部隊の騎士たちは長剣を抜き、イーグル達の機体に向かって走り出す。
『やれやれじゃ。では・・・』
「待ってくれ、レシィ司令官」
『ほえ?』
「ここは任せてくれ。ラキ、ブレード」
『あ?』
『・・・』
「死傷を出さず攻撃しろ。これは命令だ」
『無茶な命令すんなよ・・・了解!』
『・・・了解』
ラキとブレードは操作ハンドルを握り締めて、向かって来る騎士たちへゆっくりと機体を歩かせた。先頭の複数の騎士たちが剣を突き出して特攻して来る。二人は左腕の光学シールドを発生させて特攻を防いだ。
「なっ!?」
「光の盾!?」
『吹っ飛べ!』
『・・・邪魔だ!』
二人は左腕の光学盾で騎士たちを掃い飛ばす。
「ぐああ!」
「があっ!」
「がはっ!」
「ひ、怯むな! 続けて攻撃しろ!」
『・・・勇気は認める。だが・・・』
「主神の加護は我らにあり!」
ブレードは斬り掛かって来た騎士の長剣を右腕の実体剣で、ハサミのように動かして受け止めた。
『・・・お前達の教義は最低だ』
「な、剣が!?」
彼は左腕を動かして、攻撃を止められて驚愕する騎士を掴み投げる。
『当てない程度ならいけるでしょ』
一方のラキは、両肩のガトリングで威嚇射撃をし、近づいてきた騎士は光学盾や実体剣で振り払った。次々と、騎士たちは倒されていき、指揮官の顔の焦りの色が濃くなる。
「こ、こんな・・・こんなの聞いていないぞ!」
「ひっでぇ有様だな」
「!?」
不意に聞こえた後方からの声に、指揮官が驚きながら振り向くと、そこには赤服の男が立っていた。
「シャグ! 貴様、今まで何をしていた!?」
「うっせえな! 後ろの馬車で寝てたんだよ! 悪いか?」
「そんなことより! 貴様も教会の誇る戦士であろう!? この状況を何とかしろ!」
喚く指揮官を無視して前に進むシャグ。彼は鋭い目つきであるものを睨みつけた。
(左は違う・・・だが、右は・・・間違いない、あの動き、あいつだ!)
不気味な笑みを浮かべる彼は、左腰の長剣を抜いた。
「目標を発見。ラート、停止してください」
「おっけい!」
二人はかなり上空で高度を保ちながらチェイサーを留まらせる。ラートは携帯望遠鏡を取り出し、レックスと一緒に向かっていた先の方向へ目を向けた。
「・・・・・・うわっ、いっぱい」
「かなりの数ですね」
レックスの視界に映ったのは、隊列を成して進軍する兵士たち。それは彼の視界の表示にあるカウント数がすぐに3ケタを超えるほどの数である。やがて、カウントされた数字は4ケタまで表示されていった。
「3250名ですね」
「そんなに居るの!?」
驚きの声を上げるラートを余所に、レックスは進軍する兵士たちを遠くから眺める。
「ある程度の詳細も取れましたので、帰還しましょう」
「あいよ〜」
二人は向きを変えてその場から飛び去った。
<同時刻 戦艦クリプト 司令室>
戦艦の駆動音が響く室内。レックスとラート以外の隊員と、都市アイビスから領主レギーナ、司令官レシィ、防衛隊長ニールが立っていた。彼らは中央のテーブルを囲むようにして、レートに視線を向ける。
「相手の数は3250もいるらしいよ」
レートの言葉に、皆が真剣な表情で考え込んだ。
「非常にまずいな・・・」
先に口を開いたのは領主レギーナだった。続けてレシィとニールもしゃべり出す。
「我が防衛部隊は千人くらい」
「どう見ても分が悪いのぉ・・・」
明らかに不利な状況と判断したイーグルは、あることをニールに尋ねた。
「別の場所から援軍を呼び寄せられないか?」
「残念だが、多くを呼び寄せられない。出来たとしてもギルドの傭兵が数百人程度だ」
「それにじゃ、この様子じゃと、三日後にやって来るじゃろう。それまでに人手を集めるのも無理がある」
「現状で対応するしかないのか・・・厄介な」
彼の言ったことに、レギーナは拳を握りしめる。
「それでも・・・それでも、我が街を滅ぼさせたりはしない」
「同感じゃ」
「今まで守り通してきた街だ。例え剣が折れようと、朽ち果てるまで守って見せる」
彼女含めてレシィとニールも力強く宣言した。それを聞いたドラグーン隊は呟くように口を開く。
「まぁ、本来先に手を出したのは俺とブレードだったし・・・」
「・・・手助けの際に邪魔だからぶっ飛ばした。それだけだ」
「宗教怖いねぇ〜ラート」
『怖いねぇ〜』
「ここまで深く関わった以上、見過ごすわけにはいかない。異論は? ドクター」
「聞かなくても解るでしょ?」
彼らの言葉に領主レギーナは頭を下げてしまう。
「すまない。いくら手を借りたいとは言え、無関係である貴公らに・・・」
「レギーナ殿、頭を上げてくれ。我々は人命の守護を目的として活動している。種族等は関係ない。我々も出来る限り、あなた達や街を防衛しよう」
「本当にすまない・・・」
「ぬしら・・・」
イーグルの答えにレギーナは頭を上げ、レシィも何かを言いたげそうに見回した。エスタは少しため息を吐いて腕を組む。
「でも、どうしようかなぁ・・・イーグル、相手は人間だよ?」
「それは解っている。穏便に済ませたいところだが・・・」
「CXULUBを使って追い返したら?」
「・・・ラキ、光学主砲を人に向けるつもりか?」
「このバカ者が、余計に脅威を植え付けるだけだ」
「それは却下だね」
「人でなし」
『最低野郎』
「酷い!」
ラキ以外の隊員が、彼の考えに非難を浴びせる。その光景に思わずレギーナ達は笑ってしまう。イーグルはいい策は無いか考え込んだ。
(G.A.Wを出してもいいが、大勢だと死傷が出る可能性はある・・・だからと言って、暴動鎮圧用の兵器は小物程度しかない)
「兄上?」
「思考錯誤してるから、話し掛けないで欲しい」
「わ、解ったのじゃ」
エスタも厄介な難題に頭を抱え込む。そんな中、ラキとレートは気楽に話し続けていた。
「3千人かぁ・・・G.A.Wでも乗らねえとキツイぜ」
「スパイスボールじゃあ、足りなさ過ぎ。やっぱり、威嚇射撃で蹴散らす?」
「向こうも兵士だ。威嚇だってばれるぞ?」
「じゃあ、どうしろってんだよ?」
「それを考えろよ!」
「うるさいよ! ラート!」
『帰ったら二人でリンチ決定!』
「このS極とN極が!」
「なんだと!?」『なんだと!?』
相変わらずの光景に、エスタはやれやれと首を振る。
(S極とN極って・・・・・・・・・・・・あっ!)
「それだぁ!」
白衣の少年の叫び声に全員が驚いた。彼はレシィに近寄り、耳元で囁き始める。イーグルは不思議そうに二人を見つめた。
「何を思いついたのだ?」
「・・・どうせロクでもないことだろう」
しばらくして少年の話を聞いたレシィは、はしゃいでいる子どものような笑みを浮かべる。
「それはいい話じゃ!」
「そのためにはちょいとした労働力と特殊な技術が必要だけど・・・期限が明々後日までなら間に合うでしょ?」
「ワシも全力を尽くそうぞ。勿論、他の魔女たちにも協力させる」
「頼りにしてるよ? 覇王バフォメット」
「♪」
二人の話を不思議に思ったイーグルが、白衣の少年へ近づいて話し掛けた。
「ドクター、詳しく聞かせて貰えないか? 思いついたことを・・・」
「いいよ。さぁて・・・忙しくなるから、君たちにも働いてもらうよ」
エスタは組んでいた右手でメガネを整えて、思いついた内容を話し始める。
<三日後 都市アイビス付近 西側 砂漠地帯>
広大な砂漠を行軍し続けたトトギス軍は、遂に街が見える地点までやって来た。その右横には街と同じくらい目立つ巨大な船も見える。彼らは街に攻め込むため、横に広がった千人以上の部隊を二つ並ばせるよう陣形を取った。その後方には精鋭らしき立派な武装をした騎士たちが数百と並んでいる。陣形の周りを馬に乗る伝令兵が走り、精鋭部隊の後方に居る指揮官たちの元へ向かった。
「ヴァービン指揮官! 一般兵の二部隊と騎士団の整列が終わりました!」
「よし・・・」
立派な服装をした男性が前方に居る兵士たちに向かって大声で叫んだ。
「これより、都市アイビスを攻略する! 我々に害を為す魔物は全て倒せ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
彼の言葉で兵士たちは声を上げる。
「一般兵のみ抜刀せよ!」
二列に広がり並ぶ兵士たちが腰の剣を抜いて、剣の切っ先を空に向けて掲げた。その他に槍と盾を持つ兵士は、槍を空に向けて突き上がるかのように掲げる。
「全軍! しんげ・・・」
「ヴァービン指揮官! はぁ、はぁ、ぜ、前方の空より何か来ます!」
「!?」
突然、走って来た伝令兵が息を切らしながら報告した。指揮官が前方の上空に目をやると、街の方から三つの影がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。彼は慌てて兵士に指示を出す。
「第二列! クロスボウ構え!」
彼の掛け声で、前方から二列目の兵士が背中に背負っていたクロスボウを取り出した。彼らは上空から接近してくる三つの影に向けて狙いを定める。しかし、向かって来たそれは、クロスボウで届きそうにない上空を飛んでいた。
「あれは一体?・・・人か?」
前列の兵士たちの手前辺りで留まり浮かぶそれは、四つの尖った羽のような物を背中から生やし、全身のあちこちに緑色の装甲を付けた人のような姿。否、人の形をした巨大な物体であった。
「おお、すっげぇ並んでるな」
『・・・この世界の兵も規律は普通らしいな。思想は馬鹿げてるが・・・』
『二人とも、スピーカーをこちらにリンクさせろ』
三つの影の正体は、ドラグーン隊の主力兵器『ORNITHO』で、両肩部にはGPガトリングを装備。搭乗者は中央にイーグル、その右側にラキ、左側はブレードである。ラキとブレードは手元の操作盤を弄り、自身の機体にあるスピーカーをイーグルへ委ねた。彼は三つの機体のスピーカーを通して、トトギス軍に警告した。
『我々は連合軍所属ドラグーン隊。そこの侵攻しようとする軍隊に告ぐ! 直ちに引き返せ! さもなくば諸君らを迎撃する! これは脅しではない、警告だ!』
突如、現れた人型兵器から響く警告の声に、トトギス軍の兵士たちは狼狽えてしまう。指揮官も戸惑いを見せるが、すぐに冷静な態度で兵士たちに指示を出した。
「我らを妨げる存在は排除しろ! クロスボウ、狙い撃て!」
指揮官の指示を聞いた兵士たちは慌ててクロスボウを構えて撃ち始める。放たれたボルトは人型兵器の足元より下までしか届かず、どの角度から撃っても放物線を描いて外れ落ちていった。
『ふはははは、どうした!? 当たらんぞぉ!』
「・・・無駄なことだ」
『この位置ならば当たらん』
「・・・やるか?」
『引き返さず、こちらに攻撃してきた以上、反撃の理由はできた。ドクター、予定通りアイアンギャザー作戦を開始する』
<戦艦クリプト 司令室>
室内には、椅子に座って端末を操作するエスタと、その右隣で立ち尽くすレギーナが巨大な光学表示画面を眺めていた。
「やはり、避けられぬか・・・」
「想定された行動だし、向こうも“はい、そうですか”と素直に引き下がるつもりはないでしょ?」
「確かにそうだが・・・」
「まぁ、G.A.Wを見て逃げるかなと、期待してたけど・・・作戦を始めようか」
少年は端末を操作して、ある場所の人物に連絡する。
「レシィ、準備はOK?」
<G.A.W格納デッキ>
「勿論なのじゃあ!!」
格納デッキ内の拓けた場所の床に、巨大な魔法陣が描かれていて、その中心に張り切ったレシィが立っていた。さらにその魔法陣の端には、幼女の姿をした魔女たち50人が円になるように並んでいる。彼女たちはレシィの魔力によって魔物化した人間の女性で、彼女の忠実な部下である。
『それじゃあ、例のミサイルを発射するから、作動できるようにしておいてね』
「了解なのじゃ! それ、お前たち! 始めるのじゃ!」
「「「「はいっ!」」」」
右耳に付けた小型無線からの指示を聞いたレシィは、周りの魔女たちに詠唱を唱えさせた。魔法陣が光り始め、レシィは格納デッキの壁に表示されるモニターを見つめる。そこにはイーグル達に攻撃をするトトギス軍が映っていた。無人機Dフライからの映像である。
『レックス、準備は?』
「発射可能です」
『そちらが発射したら、起爆地点までの誘導を開始するよ』
「了解」
戦艦の右隣に立っているレックスは携帯端末を操作して、目の前に設置されたミサイル発射台を作動させた。白く巨大な筒のようなミサイルは高さ8m近くあり、それは横一列に4本並んでいる。
「セーフティ解除。1番から4番、同時発射」
ババババシュウウウウウウウ!!
凄まじい煙を上げながら4本のミサイルは上空へと飛び立った。ある程度の高度まで昇ると、今度は高度を保ちながら砂漠の向こうへと飛んで行く。向かう先はトトギス軍が居る場所である。
「誘導開始。目標、ORNITHO付近。起爆設定は・・・これでいけるでしょう」
司令室ではエスタが即座に端末を操作して、放たれたミサイルの行先を調整した。高速で飛行するそれは、空中で待機するイーグル達の機体の元へ真っ直ぐ飛んで行く。
「来たぞ。二人とも、その場を動くな」
『当たらねぇよな?』
『・・・天才だから心配ないのだろう?』
「その通りだ。ドクターを信じろ」
誤射を気にするラキを落ち着かせ、イーグルは冷静な態度で指示を飛ばした。やがて向かってくる4本のミサイルは、3人の乗る機体のそれぞれの間へと別れて飛び向かう。一方のトトギス軍の指揮官は、なかなか攻撃が当たらないことに苛立ちを見せる。
「ええい! 何をやっている!? 早く撃ち落とせ!」
「し、しかし! 相手の位置が・・・」
「ヴァービン指揮官! 前方より、さらに何かが飛んできます!」
「何!?」
彼が慌てて向こう側の空へ目をやると、高速で突っ込んでくる白い物体が見えた。その物体はイーグル達の間を横切る瞬間、それ自体にある変化が訪れる。
『ボン♪』
司令室で見ていたエスタが楽しげに一言呟くと、ミサイルの外皮が4枚に剥がれ落ち、内蔵されていた直径10cmの黒い球体を無数に放散した。それらは全てトトギス軍の兵士たちに向かって降り注がれる。
「なっ!? た、盾を構えろぉぉ!!」
いち早く気付いた一人の兵士の声をきっかけに、兵士たちは自身の持っている盾で降り注ぐ黒球の雨を防いだ。一部の兵士は盾を持っていなかったので、打撲程度の被害があったが、ほとんどの者が盾などで攻撃を防ぐことに成功する。
「な、何なのだ?」
「この黒いのは一体・・・」
「くそぉ・・・腕に当たった・・・いてぇ・・・」
ばら撒かれた黒球は一般兵の部隊全体と精鋭部隊の手前まで降り落ちた。指揮官は先程の攻撃が単なる投石の類だと解釈する。
「たったこれだけか? こけおどしなど通用せぬ!」
この光景を見ていたエスタは、すかさずレシィへ通信を入れた。
「レシィ、やって頂戴」
少年の指示を聞いたレシィが詠唱を唱え始め、魔法陣が黄色に輝き出す。
「術式解放! サンダーセンティピード!」
少女の叫びとともに、ばら撒かれた黒い球がバチバチと火花放電を起こした。やがてそれは治まり、今度はもの凄い勢いで兵士の鉄製の鎧や剣などへ引っ付いた。
「ぐわっ! な、何だこれ!?」
「ひっ、引っ付いて取れない!」
「この! 剥がれろ!」
「おい! てめえ、何くっ付いてやがる!? 俺から離れろ!」
「知らねえよ! この球が引っ付いて、おめえから離れられねえんだよ!」
鎧、剣、槍、弩、盾などに引っ付いた黒い球は、一定距離に入った同じ鉄製武具に引っ付き、2,3人がくっ付き合う事態も巻き起こる。
「なっ、何が起きてる!? 奴らは何をしたのだ!?」
謎の事態に指揮官も混乱してしまう。被害は一般兵全体だけでなく、精鋭部隊の一部にまで被害を受けた。
「はははは! すげえ! どんどんくっ付いていくぜ!」
『・・・マヌケな姿だな』
『ドクター、予定通り上手くいったようだ』
『当然、僕とレシィで考えた作戦だからね』
『マグネットクラスターミサイル』
ミサイル1本に直径10cmの鉄球を800個近く搭載させ、それを目標地点へ絨毯爆撃の如く降らせる兵器。しかし、鉄球は爆発性が無く、代わりにある魔術式が組み込まれている。それを発動させると、電撃によって磁力を帯びた鉄球は強力な磁石へと変貌。それは科学と魔術を組み合わせた非殺傷兵器である。
「ワシと兄上が作り上げた傑作じゃあ!」
『用意するのに時間がギリギリだったけど・・・』
トトギス軍が到着する三日前、ドラグーン隊とレシィとその部下である魔女たちは、この兵器の製造をしていた。まず、鉄球とミサイル本体とその発射台の製造をし、出来上がった鉄球からレシィや魔女たちが魔術式を組み込む作業。製造にはかなりの手間が掛かり、中には魔力が渇望した魔女を助けるため、彼女の供給役の男性が一晩彼女と一緒に寝室から出て来ないという事態も発生した。
『それにしても・・・磁石なんてよく思いついたな? エスタ』
「君のおかげだよ、ラキ」
『へ? 俺?』
「三日前、君があの時、S極とN極なんて言ってくれなかったら思いつかなかった」
『ああ、あれか・・・ってあれで思いついた!?』
素っ頓狂な声を上げるラキを余所に、イーグルは再度トトギス軍へ警告を促す。
(次はハッタリで動かすか・・・ドクターの予想通りになるか?)
『今、諸君らにくっ付いている物は、一定時間すると爆発する。簡単に腕や足を跡形もなく吹き飛ばす。そうなりたくなければ、すぐに武器と防具を捨てろ!』
「う、嘘だろ!?」
「やばい! 早く捨てろ!」
「おい! 貴様ら何をしてる!? 自力で何とか引き剥がせ! 武器を捨てるな!」
彼の言い放った言葉に、トトギス軍の兵士は指揮官の言葉も聞かず、慌てて武具を捨て始めた。持っていた武器だけでなく、身に着けていた防具の全ても捨てた兵士たちはその場から後方へ逃げ去る。
「くっ! 腰抜けが・・・」
(だが・・・奴らの言った通りならば・・・全軍の大半が一気に失われる!)
「ええい! 下がれ! 退避しろ!」
やむを得ないと判断した指揮官は、後退の指示を叫んだ。思惑通りに動いたトトギス軍を見て、レシィがにやりと笑う。
「形作るがよい、“無数の足を持つ長き者”よ!」
彼女のその言葉に反応して、放置された武具が一斉にくっ付き合いを始めた。それらはまるで蛇のような胴体を造るかのように繋がり、多数の足のような部分も出来上がる。全てが合体し、完成したそれは巨大なムカデそのものだった。
「これは・・・武具で出来たムカデ? いや・・・」
(雷撃が本体だと言っていたな・・・雷のムカデか)
『魔法すげえな』
『・・・ふん』
巨大な武具ムカデはラキのORNITHOの右側へと移動し、ゆっくりと鎌首を持ち上げて兵士たちを威嚇する。それを機にイーグル達は地上へ着地して、再度警告を与えた。
『繰り返す! 即刻引き返せ! 諸君らの武装は僅かだ。無益な戦いなど考えるな!』
現在のトトギス軍で戦える兵は精鋭部隊の300近くの騎士だけである。武装を取り上げられ、不利な状況に立たされた軍の指揮官は、歯を食いしばって指示を出した。
「精鋭部隊! せめて奴らだけでも倒せ! 相手は巨大だが、数ではこちらが上だ!」
「し、しかし・・・」
「いいから行けえ!!」
ヤケになった指揮官の無茶な指示に、精鋭部隊の騎士たちは長剣を抜き、イーグル達の機体に向かって走り出す。
『やれやれじゃ。では・・・』
「待ってくれ、レシィ司令官」
『ほえ?』
「ここは任せてくれ。ラキ、ブレード」
『あ?』
『・・・』
「死傷を出さず攻撃しろ。これは命令だ」
『無茶な命令すんなよ・・・了解!』
『・・・了解』
ラキとブレードは操作ハンドルを握り締めて、向かって来る騎士たちへゆっくりと機体を歩かせた。先頭の複数の騎士たちが剣を突き出して特攻して来る。二人は左腕の光学シールドを発生させて特攻を防いだ。
「なっ!?」
「光の盾!?」
『吹っ飛べ!』
『・・・邪魔だ!』
二人は左腕の光学盾で騎士たちを掃い飛ばす。
「ぐああ!」
「があっ!」
「がはっ!」
「ひ、怯むな! 続けて攻撃しろ!」
『・・・勇気は認める。だが・・・』
「主神の加護は我らにあり!」
ブレードは斬り掛かって来た騎士の長剣を右腕の実体剣で、ハサミのように動かして受け止めた。
『・・・お前達の教義は最低だ』
「な、剣が!?」
彼は左腕を動かして、攻撃を止められて驚愕する騎士を掴み投げる。
『当てない程度ならいけるでしょ』
一方のラキは、両肩のガトリングで威嚇射撃をし、近づいてきた騎士は光学盾や実体剣で振り払った。次々と、騎士たちは倒されていき、指揮官の顔の焦りの色が濃くなる。
「こ、こんな・・・こんなの聞いていないぞ!」
「ひっでぇ有様だな」
「!?」
不意に聞こえた後方からの声に、指揮官が驚きながら振り向くと、そこには赤服の男が立っていた。
「シャグ! 貴様、今まで何をしていた!?」
「うっせえな! 後ろの馬車で寝てたんだよ! 悪いか?」
「そんなことより! 貴様も教会の誇る戦士であろう!? この状況を何とかしろ!」
喚く指揮官を無視して前に進むシャグ。彼は鋭い目つきであるものを睨みつけた。
(左は違う・・・だが、右は・・・間違いない、あの動き、あいつだ!)
不気味な笑みを浮かべる彼は、左腰の長剣を抜いた。
12/02/05 11:58更新 / 『エックス』
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