連載小説
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山中の喉奥
<都市アイビス 南東付近の森林>

 此処は材木加工場隣りの森林地帯。いつもなら、加工場の仕事人たちの声と木を伐採する音しかない場所に、聞き慣れない音が響いていた。

『アーム展開』
ウィィィン ガシッ! ウィィィン ガコォン!
「おし、さっさとあっちに・・・」

 4mもある金属の装甲を持つ巨体の上にラキが搭乗し、その巨体の左右から人の腕とは思えないカニのようなアームが出現。そのアームで伐採された大木を掴み捕り、軽々と持ち上げて運び歩く。

『ディスクレーザー刃照射』
キュィィィィィィィィ
『一刀、両断♪』

 黄緑色の装甲。ベルトを回す車輪だらけで、全体的に三角面のベルトで走行する巨体。左腕の青白い光学刃を纏う円盤が回転し、目の前の大木を斬り倒す。搭乗者はレートだ。

「では、こちらの大木は私だけで運搬します」
「え、あんた1人で?」
「ご心配なく」

 筋肉もりもりの男が金髪の男性の言葉に唖然とした。見た目は普通の体格で少し背が高いだけの男だが、大木を1人で持ち上げて周りを驚愕させる。彼は人でも魔物でもない。異世界から来た万能人型兵器レックスだった。

 彼らが何故、此処で作業しているのかというと、街のために何か貢献したいと頼んだところ、ギルドから丁度人手不足の伐採作業の依頼が来たのだ。

「ぶっちゃけ、暇だったか・・・」
『ラキ、愚痴は禁止です』
「ちっ、聞いてたか・・・」

 この場所はある魔物のコミュニティに近いため、その魔物たちと連携して作業を行っている。その魔物とは・・・。

「えっせ、えっせ」
「はい、そっちに持って行ってね」
「凄いアリさんの数・・・」
『アリって馬鹿にできないくらい力あるよ』
『彼女たち自身も、人間以上の身体能力があるようです』
「いや、人じゃねえ時点で力違うって想像つくだろう」

 彼女たちはジャイアントアントと言われ、下半身はアリのような昆虫の6本足をしている。普段は資源回収や巣の増築工事を行っているが、この付近の彼女たちをまとめる女王が都市アイビスとの交流を決定。そのため、土木作業や建築などの仕事を手伝ってくれるようになり、街を支える頼もしい労働力となった。

 彼女たちも負けじと大木は2人がかりで運搬して、木材加工場に運搬している。一方の男たちは4、5人がかりで運搬していた。

「とは言っても・・・もうすぐ終わるな」
『僕が切ったので最後だしね』
『私もこれで最後と言われました』

 彼らの言う通り、木々の伐採と運搬は思わぬ労働力で効率がよくなり、予想以上に終わるのが早まった。その原因も自身たちだと自覚している。仕事をやり終えた彼らは少し早いが、仕事人たちと昼食を取ることにした。

「「日伸カップヌードル〜」」
「3分経ちました」
「ラキ、お先に!」
「あ、レート!てめぇ!」

 ラキとレートはインスタント食品を食べ始める。無論、レックスは食べられないので時間を計る役をした。そんな彼らに何者かが近づいてくる。

「楽しそうですね?あなたたち」
「「ずるずる、んぐっ!?」」
「お疲れ様です、監督さん」

 やって来たのは、この場所の責任者であるジャイアントアントで通称『監督』と言われている魔物娘だ。他のジャイアントアントと違い、彼女は左腕に黄色の腕章をしている。聞く話によると女王候補の1人だと言われているらしい。

「変わった食べ物だな?」
「ああ、お湯を入れてしばらくしたら食える魔法のめ、痛っ!」

 レックスはラキが余計なこと言う前にデコピンで止める。レートは唖然としながら麺をすすった。

「失礼、ともかく短時間で調理できる携行食品です」
「戦場でステーキなんか焼いてる暇ないもん」
「いてぇ・・・」
「ふふ、確かに便利な食べ物だな。1口頂いてもいいかい?」
「いいよ。はい♪」

 レートはプラスチックのフォークで掬った麺を彼女の口に運ぶ。初めて味わった異世界の加工食品に彼女は驚いた。

「凄く美味しい!芯からあったまりそうなほど味が残る!」
「いててて、そりゃあ、塩が染み込んでるからな。そういやお菓子あるけど食うか?」

 おでこを押さえるラキは胸の内ポケットからチョコレートクッキーを取り出して差し出す。彼女が恐る恐る顔を近づけて匂いを嗅ぐと、慌てて手で顔を押さえる。

「うっ!そ、それは・・・変な匂いがするからダメ」
「え゛っ!?マジで?」
「チョコレートにはアリの嫌う成分が含まれているので食すことはできません」
「そんな〜」
「うぷぷ、ラキ、振られたね」
「うっさいぃ!あむっ!」

 ふてくさるラキは出したお菓子を全部口に頬張った。不意に監督が周りを見渡してため息をつく。不思議に思ったレックスが彼女に尋ねた。

「どうなされましたか?」
「あ、いや。少し人数が少ないなって思って・・・」
「確かに・・・集まった数より反応が少ないですね。一体どちらに?」
「ああ、多分、私たち姉妹の欲を発散しに別の場所に行ったんだろうね」
「「欲を発散?」」
「どういうことでしょうか?」

 レックスの質問に彼女は顔を赤らめながら答えた。

「私たちは働けば働くほど媚薬のフェロモンを撒き散らす。周りの人も自身も例外なくエッチな気分にさせてしまうからね」
「何その男性ホイホイ的な香水。っていうか自分も喰らうのかよ!」
「わぁ―凄い特徴―(棒読み)」
「なるほど・・・その抑制のために」
「そう、此処の男たちの協力で発散させて貰っている。まあ、大抵は夫もちの奴らばかりだけど・・・」

 彼女の説明でラキとレートは目が点になるほど呆気にとられる。それに対してレックスは真剣な表情で聞いていた。

「よろしいのですか?勝手に行動させて」
「まあ、今回は君たちのおかげで早く終わったし・・・無理に我慢させても・・・」
「・・・・・・ゃああああああああ!!」
「「「「!?」」」」

 突然、遠くから女性の悲鳴が聞こえ、4人だけでなく周りの者たちにも緊張が走った。悲鳴のあった方向の茂みから、複数のジャイアントアントと男たちが飛び出してくる。いきなりの事態に監督が逃げてきた彼女たちに駆け寄った。

「何があったの!?」
「向こうでいきなり、見たことない化け物に襲われて!」
「何なんだ!?あいつら!」
「まだ、逃げ遅れた妹たちが!」
「!?」

 逃げてきた彼女たちの言葉を聞いて、すぐさまお互いの顔を見合わせる3人。彼らが一番反応した言葉。それは“見たことない化け物”だった。

「レート!レックス!」
「あいよ、ラキ!」
「了解」
「え、ちょ、ちょっと・・・」

 監督の言葉を聞かずに彼らは動き出す。ラキは『IGUA』に、レートは『THERIZINO』へと乗り込み、レックスは『THERIZINO』の右横にしがみついた。二体の機動兵器は駆動音をあげて現場に向かう。

「此処から東に反応多数」
『飛ばすよ〜』
『さて、久々に腕を動かすか!』


<木材加工場付近 東側の森>

 腕に切り傷を負ったジャイアントアントと、彼女を庇っている肩から血を流す男性が立っていた。彼らの前には4体の異形なる生物が迫っていた。その身体は全て滑らか硬質をして、最大の特徴が鋭利な刃物と化した腕。その内の1体が彼らに近寄り、斬り裂こうと近寄る。

「GAAAAAAA!!」
「ひっ!」
「くっ!」
『まてぇぇぇぇい!そこのサメ面ぁぁぁぁ!』
「GA!?」
「「!?」」

 異形が右腕を振り上げた時、その右腕のある方向の茂みから、謎の声とともに巨大な物体が飛び上がった。異形だけでなく、襲われている2人もその物体を見つめる。その物体は放物線を描くように、2人に襲い掛かる異形に向って落ちた。

「どぉぉぉすこぉぉぉい!」
ズドォォォォォォォォォォォン!!
「GUYAAA!?」
「せいっ!」

 ラキは搭乗席から身を乗り出し、左手から『L.B.H』を抜いて、自身の左側に居る残りの異形に向けて乱射した。撃たれた3体は慌てて腕を組んで防御する。

「数は4体だけです」
『突撃〜!』
キュラキュラキュラキュラキュラキュラ

 続けて茂みから猛スピードで『THERIZINO』が飛び出し、異形の1体に向けて突進する。まともにその巨体の体当たりを受けた異形は、遠くまで弾き飛ばされて倒れた。それと同時にレックスは機動兵器から飛び降り、両腕のプラズマバスターを展開する。

「リッパー2体 ターゲットロック ファイア」
「「JYAAA!?」」
ズビィズビィィィィン!

 それぞれの腕が異形の1体ずつ狙い、見事に頭部を跡形もなく吹き飛ばした。

 ラキは『IGUA』によって踏みつけられたままの異形が暴れていることに気付き、操縦桿を握り動かす。

「GUOOOO!!」
「しぶといな、なら、秘技!行進スタンプ!」
ズドォォン!ズドォォン!ズドォォン!ズドォォン!
「GI!?GAU!GA!GOA!」

 巨体を支える鋼鉄の足が異形を容赦なく連続で踏み潰す。見た目は足踏みしているかのように見えるが、重量のある鉄の塊でプレスされているようなもの。行進歩数が10歩を超えた辺りで、バキリという鈍い音が鳴り響いた。同時に潰されていた異形が動かなくなる。

 一方、吹き飛ばされた異形はよろめきながら立とうとする。それに向かう巨体が砂煙をあげて走っていった。

『レーザードリル形成』
「そこだぁぁ!」
ズシャアアアアアア!!

 右腕のスパイクの周りにある三つのレーザー放出装置から、青に輝く三角錐の形を形成。回転させて異形の胸目掛けて突き出した。一瞬にして異形の身体から頭部と胸が砕け散る。それを見ていたレックスが周囲をセンサーで確認して、2人に報告した。

「周囲に反応はありません。殲滅した模様です」
『ふい〜すっきり!』
「はぁはははは!たかがリッパー如き、肩慣らしにしかならんわ!」
『ラキ、なんか頭がぶっ飛んでるよ』

 落ち着いたところで、レックスが傷ついた2人に近づいて手当てをする。幸いどちらも軽い怪我だけで済み、大事には至らなかった。

「あ、ありがとう」
「妻や私を救って頂き、ありがとうございました」
「いいってことよ」
『ふふん、これでラートに自慢話ができる!』
「お二人とも、できれば次回からご自宅で行って下さい」
「「は、はい・・・」」
「レックス・・・そこまで言わんでいいだろう」
『ふくくく』

 呆れるラキと笑うレートを無視して、レックスはあることを男性に尋ねた。

「少しだけよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「あの生物が何処から現れたか、ご存知ですか?」
「え―と、そう言えば・・・」
「あなた、ひょっとしてあの山じゃない?」
「ま、まさか、あの山から?」
「あの山?」

 レックスが不思議がると、ジャイアントアントがある方向を指差した。その方向には登れば日が暮れそうなくらい、巨大な山が目の前にあった。

「この山、魔物ではない何かの呻き声が聞こえるとかで、私たちジャイアントアントも近づくのは禁止していたの。この辺りなら大丈夫かなと思っていたのに・・・」
「なるほど・・・」
「それで、あいつらが突然やって来たってわけか」
「その通りです」

 男性の答えに考え込むラキ。しばらくして何か思いついたのか、レックスに目を向けた。

「レックス、先に俺らだけで調査しに向かおうか」
「構いませんが・・・増援を待たなくてよろしいのですか?」
「ラートはエアコンで軽い風邪を引いてるし、ブレードは元気になったけど、リハビリ含めた自主トレ中。エスタは籠りっきりで、イーグルは城へ会談しにいったまま。どう考えても俺らだけでやるしかないだろう?」
「確かに・・・ですが」
『いいじゃん、レックス。ラートたち放っておいて行こうよ!』

 ラキの提案に不安を隠せないレックスだったが、異形者たちの存在が気になるため、仕方なく彼に同意する。

「分かりました」
『行こう、行こう』
「それで、アンタらは自力で帰れるかい?」

 ラキは手当てした2人に安全地帯へ戻れるか尋ねた。

「ええ、大丈夫よ」
「戻ったら街の防衛隊にこのことを伝えておきます」
「助かります」
「気を付けて帰りな」
『おっ先ぃぃぃ!』
「あ、待て!レート!」
「レート、単独行動は危険ですよ」

 土煙をあげて走って行く『THERIZINO』の後を追い、ラキの『IGUA』とレックスも走り出す。


<木材加工場付近 東側の山>

 2体の機動兵器と1体の人型兵器は、山の手前にある巨大な洞窟の入り口を眺めていた。奥から普通の獣とは違う呻き声のような空洞音が響いてくる。搭乗していた2人は降りて真っ暗な洞窟の奥を見つめた。

「レックス、あの刃物野郎はいるか?」
「数は確認できませんが、いることには間違いありません。リッパー特有の鳴き声を集音センサーで確認しました」
「暗くて進みにくそう・・・」

 彼らが突っ立っていると、後ろから足音が近づいてきた。警戒して後方を見ると、見慣れた黒鎧を着たニールが歩いて来る。彼らは警戒を解き、彼女の方へ身体を向けた。

「ニール、何でアンタが此処に?」
「ジャイアントアント達から知らせを聞いてな。お前たちがこの山に向かったと・・・」
「ええ、どうやら異形者が複数、この山の洞窟内部に巣食っている模様です」
「だから〜今から駆除しに行くとこ」

 レートが気楽に答え、それを見たニールは呆れる。

「3人だけで行くのか?」
「ん〜そう思ってたけど、よく考えてみれば武装がちょっと寂しいかも・・・」
「ですが、再度戻るわけにはいきません。出来る限り殲滅した方がよろしいかと・・・」

 ラキとレックスが戸惑っていると、レートがある提案をした。

「それじゃあさ、僕が一旦戦艦に武器を取りに戻るから、ラキとレックスは洞窟を探索したら?」
「レート?」
「その方がよさそうですね」
「なら、私も2人について行こう」
「「えっ?」」

 ニールの同行にラキとレートが目を丸くする。レックスは表情を変えず、彼女に問いかける。

「よろしいのですか?」
「いつもお前たちに助けられている訳にはいかない。私もやれる時はやらせて貰う」
「え―と・・・」
「レート、○○○が仲間に加わったっていうネタはいらんぞ」
「なんで解ったの!?」
「やっぱり言うつもりだったか・・・」
「???」

 謎のやり取りが理解できないニールを余所に、レートは『THERIZINO』の搭乗しようとする。そんな彼を見て、ニールが慌てて声を掛けた。

「待て、レート」
「はいぃ?」
「木材加工場に私の部下がいる。この山付近に誰も立ち入らないよう伝えてほしい」
「了解〜」

 レートは機体に乗り込み、前面装甲閉めてから走り去った。残された3人は装備をチェックしながら洞窟に向かう。

「さ―て、害獣駆除と行きますか!」
「私も修行ついでにやらせてもらおう」
「戦闘モードに移行。敵の捜索及び殲滅を開始」


<山の洞窟内部>

 内部は思ったより明かりがあった。苔の一種と思われる植物の光が、洞窟内部を足もとが確認できるくらい照らしていた。辺りを見回しながら3人は進み歩く。

「凄いな・・・洞窟探検ってワクワクするぜ」
「これほど天然にできたものは私も初めて見る」
「内部構造的にも『G.A.W』ほどの大きさなら問題なく通れるかと・・・」
「でも、あの『IGUA』はGPを付けてないから、乗ってきても意味ねぇし・・・」

 ラキの言う通り、『IGUA』は本来、建設機体に武装用の換装装置を付けたもの。今回は作業しかやらないつもりでGP武装は付けずに持って来たので、戦闘用としてはあまり役に立たない。仕方なく、その機体は洞窟前に放置することになった。

「まあ、一様、機体のバックパックに予備の装備があっただけ、マシか・・・」
「レックスの持っている筒のことか?あれは一体・・・」

 彼女が興味を示したそれは、レックスが背中に背負っている緑色の筒状の武器。長さは90cm近くあり、折り畳みの銃のグリップと複雑な装置が付いたスコープが付いている。

「これは『PAIN.SNAKE』(ペインスネーク)と言って66mm誘導炸裂弾を装填することで追尾ロケット弾を発射することができます」
「???」

 頭をひねる彼女にラキが解りやすく説明した。

「要は、爆発する追尾弾を発射できる武器だよ。通称ロケットランチャーとか言われて、どでかい化け物向けに作られた歩兵用の携帯大砲みたいなもん」
「そうなのか?異世界の武器は変わっているな・・・魔女やバフォメットなら杖一本で騎兵どもをけちらせるのだが・・・」
「俺らから見れば、魔法の方がすご過ぎるっつぅの。普通1人で攻撃と防御と回復を使えねぇよ」

 頭を掻きながら答えるラキ。その時、聞き慣れた呻き声に3人に緊張が走る。

「近いぞ」
「早いな、もうかよ」
「ええ、反応多数確認。さらに接近」

 彼らが武器を取り出して戦闘態勢に入ると、奥の方向から多数のリッパーが走ってきた。それを見た彼らはニールを中心とし、散開して迎え撃った。

 レックスは牽制で左腕のプラズマバスターを撃って目標に向かう。先頭を走っていたリッパーの頭に当たり、後方に居たリッパーが慌てて貫通した光弾を左に避けた。レックスはその隙に右腕の掌から青い光学剣を照射し、避けたリッパーの頭を切り裂く。

 ラキは両手の『L.B.H』を乱射しながら突っ込み、銃撃に当たってよろめくリッパーを光学刃でとどめを刺す。左からもう1体に襲われるも、先に気付いて攻撃を避けて反撃の光学刃で切り裂いた。

 ニールは3体のリッパーに囲まれるも、全ての攻撃を先読みして回避。相手に隙が出来た瞬間、腕の付け根を切り裂いてからとどめの一刀両断を与えた。3体目を倒すと、新たなリッパーが向かってくることに気付く。

「はぁぁぁぁ!!ふっ!はあぁ!!」

 彼女は剣の刀身に紫色の光を纏わせて、敵のいる方向に剣を振り下ろした。振り下ろされた剣は地面に当たると、衝撃とともに地を走る紫色の刃が出現した。刃は地面を真っ直ぐ走り、通り道にいたリッパーの身体を真っ二つにする。

「おお!すげぇ!何だそれ!?」
「剣に魔力を籠めて、地を走る斬撃を飛ばした。離れた敵に使う技だ」

 彼女の技に驚くラキ。その彼の横から隠れていたリッパーが現れて、ラキの首を切り落とそうと右腕の刃で横に振る。気付くのが遅かったレックスとニールが声を上げた。

「「ラキィィ!!」」
「GAAAA!!」
「へ?おわっ!?」
ブゥン! グサッ!

 ラキは二人の声に振り向いた瞬間、足もとにあった石を踏み転がして転倒。間一髪でリッパーの攻撃をかわした。リッパーは空振りした片腕を洞窟の壁に突き刺し、身動きが取れなくなる。ラキは転倒した時点で不意打ちに気付き、銃口を敵に向けた。

「居たのかよ!?じゃあな!」
ビィィン!ビィィン!ビィィン!
「GAA!GYA!JA!」

 至近距離からの銃撃を受け、穴だらけのリッパーは力尽きる。埃を掃いながら立ち上がるラキ。

「ふぃ―危なかったぁ」
「よく無事だったな」
「お二人とも、さらに反応を多数確認。ご注意を」
「「!?」」

 レックスの警告通り、洞窟の奥から足音が鳴り響いてくる。改めて自身の得物を構えるラキとニール。

「やれやれ、運動不足にはならないけどよ」
「戦闘部隊の一員なら、やつらとの戦いは喜ぶべきことなのでは?」
「間違っちゃあいねぇけどよ・・・」
「来ます」

 新たなリッパーの集団が出現し、3人はそれらを駆逐しに向かう。


 数十分後、洞窟内部を歩く3人。どうやら敵の出現が治まったらしい。

「いねぇな、あんだけ現れたのに」
「そうだな。妙に静かだ」
「現在、捜索していますが、今のところ、センサーに反応はありません」
「レックス、どれくらいリッパー倒した?」
「本日、最初に遭遇したものと合わせて、27体です」
「そんなに居たのか?この山に・・・」
「おい、何か、ちょっと多すぎやしないか?」

 ラキの疑問にレックスがあることを話し始める。

「今回のケースと酷似している過去の戦闘記録があります」
「やっぱり、あれか?」
「可能性は高いです」
「あ〜ちょっとまずいかも・・・」
「どういうことだ?」

 ニールが尋ねると、ラキの顔が不安な表情になる。

「過去に異形者の生態を解析するため、我々は調査任務を遂行したことがあります」
「そんで、どうやって増殖してるか調べたんだが・・・」

 突然、ラキが話している途中でレックスのセンサーが鳴りだす。

「ピピィ !? 前方に巨大な反応!数は2!」
「え゛っ!?」
「敵か!?」

 3人が警戒して構えると、少し離れた距離の地面が盛り上がる。そして、大きめの刃物腕が飛び出し、地中から4m近くのリッパーが2体出現した。

「げっ!?TYPE『グロウ』じゃねぇか!?」
「グロウ?一体それは・・・」
「成長段階のリッパーです!殲滅優先対象!」
「なんだと!?」
「ああもう!早めに倒すぞ!」
「「GUJYAAAAAAA!!」」

 動きは鈍足に見えるが、『G.A.W』に匹敵するほど体型が大きい。

「私が一体を相手します!お二人はもう一体を!」
「やっぱ、『IGUA』持ってくりゃよかった!」
「しゃべってないで行くぞ!」

 レックスは向かって右の異形に向って走り出す。それに気付いた異形は彼に向かって、両手の刃物腕を同時に振り下ろした。

「耐衝撃システム作動」
ガシッ!!ギギギギギギギ
「GAHAAAAAA!?」

 振り下ろされた刃物腕は、レックスの両手によってそれぞれ掴み止められた。腕を掴まれた異形は身動きが取れなくなる。

「GUOOOOOO!!」
「ええい!ままよ!俺が囮だあああ!!」
「なっ!?馬鹿!突っ込むな!」
「とぉぉぉりやぁぁぁぁ!!」

 もう一体の異形に向って突っ走るラキ。それを見て異形は左腕を振り下ろした。

「おおとぉ!」

 彼は右に転がり避けて、異形の背後に回り込みながら銃撃を開始する。

「GUJIII!!GAAAAAAA!!」
「おらおら!こっちだ!」
「なるほど・・・お前はそう戦うのか」

 ラキに振り向こうと、光弾を背中に受けながら身体を左に回す異形。そんな鈍足すぎる隙を見て、ニールも異形へと走り向かう。

「ふっ!はぁ!!」

 彼女は異形の背中に向かって、ハイジャンプした。がら空きの背中より上の頭と首の間に向かって、魔力を帯びた剣を突き刺す。

グサァァ!!
「GUBAA!?」
「はああああ!!」
ズシャアアアア!!

 突き刺した剣を異形の頭ごと切り裂き、ニールは力尽きる異形から飛び離れる。その光景を見ていたラキが指を鳴らす。

「ナイス!」

 一方、異形を掴み捕らえているレックスは、両手で異形の刃物腕を握り潰す。

グシャグシャアア!
「GI!?JAAAAAA!!」

 刃物腕の3分の1を失い悶える異形に、彼は背負っていた『PAIN.SNAKE』を構えた。スコープを異形の頭部に狙い向け、装置の表示が音声付きで鳴り響く。

『ピピィ 照準ロック』
「衝撃に備えてください!」
「ちょ、おま!」
「なっ!?」
バシュウウウウ!!

 警告の言葉の後、レックスの構えた砲筒から高速で飛行するロケット弾が射出される。それは、よろめく異形の頭部目掛けて向かい、着弾した瞬間、辺りに衝撃を撒き散らすほど大爆発を起こした。

チュドオオオオオオオン!!
「わああっと!」
「くっ!」

 ラキとニールは腕で顔を隠して爆風を耐える。衝撃が治まると、上半身が全くない異形の身体が煙を上げて溶けだした。

「うぇほっ!えほっ!レックス!もうちょっと考えて撃ってくれよ!」
「お二人の位置なら爆発の範囲から十分離れているので、警告すれば問題ないかと」
「爆風がきっついだろぉ!」
「けほっ、けほっ、それにしても、凄い威力を持つ武器だな」

 周囲を警戒しながらラキとニールは武器をしまい、レックスは『PAIN.SNAKE』にロケット弾を装填する。ここでニールがあることを尋ねた。

「それで、さっきの話の続きだが、奴らの増殖方法は?」
「ああ、話してる最中だったな」
「異形者には稀な個体が存在し、それらが増殖のため、通常の個体より巨大化。それらが一定の大きさまで成長すると、同じ種類の個体を大量に作り上げます」
「それがこいつらなのか?」

 彼女がそう言うと、二人は首を横に振って否定した。

「いや、こいつらはグロウ。簡単に言えば、成長途中のやつらだ」
「ですが、放置すれば確実に増殖可能な個体へと成長します」
「ま、まさか・・・」
ズゥゥゥゥン
「「「!?」」」

 突如、一瞬だけ起きた地鳴りを感じ取り、3人に緊張が走る。

「あ〜戻った方がいいかも・・・」
「現時点の装備で、その方が賢明だと思われます」
「だろうな。私も直感的に危険だと感じた」
「んじゃあ、回れ右して・・・」
・・・・・ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
「「「!?」」」

 今度の地鳴りは長く続き、それによって彼らの足もとの地面が崩れ落ちた。

「おわあああ!?」
「っ!?」
「あああああ!?」

 彼らは崩れた地面で出来た坂を滑り落ちていく。落ちた先には平らな地面があり、彼らそこでは一回転して止まる。

「いてぇ、滑り台・・・」
「かなり落ちたな・・・」
「戻るには少し急斜面過ぎますね」

 3人は立ち上がって辺りを見回す。そこは巨大なドーム内のような空間だった。

「何か・・・こういうところって・・・」
「お前の予想通り、来るかもな」
ズゥゥゥゥウウウウウ!!
「反応を確認。この空間の地面中央から来ます」
「くんなよぉぉぉ!」

 彼らのいる空間の中央の地面からそれは這い出てきた。今まで見たリッパーより巨大で上半身のみさらけ出し、4本の刃物腕がそれぞれ本体から斜めで対称に生えている。腕の骨格は通常とは違い、まるでカニの足のように曲がっていた。

「な、なんて大きさだ!?これは一体・・・」
「体長は恐らく15mは超えています」
「あ〜来て欲しくない奴が来ちまった〜」
「ええ、“クラスGのリッパーキング”で間違いありません」

「GUUUU!!BUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
11/09/03 16:11更新 / 『エックス』
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