連載小説
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好物に誘われし者達
 砂漠の空に黒い影が二つ。その形は異様であった。翼の生えた人影が足でもう一つの人影を掴んでいるような姿。

「ひぃぃぃやっほおぉぉぉぉぉ!!自分自身で空飛んでるみたいだぜ!」
「・・・相変わらずやかましい奴め」

 掴まれている人物はドラグーン隊の対照コンビ、ラキとブレードだ。彼らを掴んで飛行しているのは、ニールの部下であるブラックハーピーのローラと同じくモコンの二人である。

「あの〜あまり激しく動くと落ちますよ」
「・・・構わん。落としたら放っておけ」

 ラキを掴んでいるモコンに向かって、ブレードは非情な指示をする。それを聞いたラキは彼に対して怒った。

「ブレード、俺を見捨てる気か!?」
「あなた酷い事言うのねぇ」
「・・・・・・見えてきたぞ」

 ブレードの言葉に反応して前方に目をやると、遠くではあるが街が見えてきた。

「あれが今回の目的地だな」
「ええ、商業都市クロツラよ。貿易都市だけど、治安はよくないわ」
「ならず者や反魔物思想の方も居ますのでご注意を」
「・・・この辺でいい。下ろしてくれ」
「ちょ、ブレード!」

 ブレードの発言に驚く3人。彼を掴んでいるローラが尋ねた。

「まだ、限界点まで行ってないが?」
「ここでいいんですか?」
「・・・構わん。後は歩く」

 ブレードの指示で急降下して地上に降り立つ4人。調査後の集合に関して話し合う。

「君らは何処で休むの?」
「この近くに普通の人では発見できない隠れオアシスがある。そこからでも街は見えるから問題ない」
「・・・なら帰りは、この辺りまで戻って来て照明弾を撃って合図をする」
「ショウメイダン?そ、それって何ですか?」

 聞きなれない単語にモコンが質問した。ラキは彼女たちにも解るように説明する。

「ん〜簡単に言えば上空に光る球体を撃ち上げるから、それを見たら来てくれ」
「・・・念のため、二発撃つからそれを目印にしてくれ」
「分かったわ」
「それじゃあ、ご武運を」

 彼女らは話を終えると上空へと飛び去って行った。見送ると同時に二人も街に向かって歩き出す。

「商業都市ってことは、あの市場より賑やかなのかな?」
「・・・下らん輩も居るらしいな・・・絡まれるなよ」
「こっちのセリフでもあるぞ」


<3時間前 戦艦クリプト 司令室>

「・・・ドクター、その商業都市で昨日と同じことをするのか?」
「そう思ってレシィと相談したのだけど・・・」
「安心せい。そこには隠しギルドがあってのぉ。そこから情報を得たほうが効率よいじゃろ」
「か、隠しギルド?」

 その言葉に反応したのはラキだけではなかった。

「・・・隠す必要があるほど、何か危険性があるのか?」
「左様、この街は反魔物領ではないが、魔物でも歩きにくい場所でもある。じゃが、ここでしか輸入されない品物や情報があるので、その収集として諜報的なギルドを潜伏させとる」
「・・・敵対勢力の情報も入るという訳か」
「鋭いのぉ。お主の言う通りじゃ。街の中の探索もよいが、ぬしらは異世界人。それだけでも目立つのは目に見えておる。向こうとはすでに連絡済みじゃ。そこで情報を得るがよかろう」
「それで、そのギルドは何処に行けばあるんだ?」

 ラキがレシィに尋ねると、彼女は腰のポーチから鉄製の手の平サイズの棒を取り出し、二人に渡した。布で継ぎ目が包まれて、さらに細い糸でぐるぐる巻きにされている。

「・・・?」
「何これ?」
「それがあれば、向こうから迎えに来てくれるぞ。お主らの特徴は予め伝えておるから、必ずそれを持っておけ」
「・・・目印か」
「なんか入ってるの?」
「ぬふふふふ、聞きたいか?」
「し、知らぬが仏にしておきます」
「つまらんのぉ・・・あ、別に見えない所に入れても大丈夫じゃ。ただし、絶対に割らんようにな」
(やっぱ気になる・・・)

 二人は不振になりながらも鉄の棒をジャケットの内ポケットにしまい、朝飯の卵焼きを食べ始める。

「兄上、この卵焼きは?」
「レックスが用意してくれた朝飯だけど?」
「「美味しいぞ〜」」
「頂きなのじゃ!むう!美味!」

 匂いに我慢できず、レシィはエスタの皿に半分残っていた卵焼きを素早く頬張った。

「あ、レシィ!僕の食べかけを・・・そう言えばレックス。これ、やけに新鮮だけど、まさか貰って来たの?」
「先日、コカトリスという種族の女性から、産みたての卵を譲り受けました。その人自身が産んだ卵らしいです」
「「「「「「え゛!?」」」」」」
「コ、コカトリスの卵じゃと!?」

 その場に居た6人とレシィが驚愕する。

「・・・魔物種族が産んだ卵」
「彼女曰く、無精卵らしいので滅菌加工をして調理致しました」
「お、お主、どうやって、そやつから入手したのじゃ?ハーピー種の卵なぞ、普通手に入らんぞ!」
「暴漢から救助したその女性からお礼に頂いたのですが・・・何か問題が?」
(やっぱりレックス。ひと段落ついたら一度検査する必要があるね)
「お、俺は!産まれるはずの物を食べてしまったのかああああ!」
「落ち着け、ラキ。無精卵だと言っていただろう」

 半ば呆れながらも突っ込むイーグル。


<商業都市クロツラ>

 二人は街の入口を抜けて、大通りに沿って歩き始めた。都市アイビスの市場以上の規模で商店がずらりと続いていた。売り物も様々で職人や業者向けの物、冒険者向けの武具店や道具などがほとんどである。

「いらっしゃあい!いらっしゃあい!」
「そこの方!いい品物がございますよ!」
「当店の自慢の武器を見てくれい!」
「旅に不可欠な道具ならウチが全部揃えております!」
「お兄さん!美味しい物があるぜ!」
「すげえ、呼び込みだな」
「・・・ふん」

 二人は人込みの中を進み続けた。目的のギルドは場所が不明なため、向こうが見つけてくれるまで行くことは出来ない。二人はそれまでの時間の暇潰しに、街を散策することにした。

「といってもどうしようか・・・」
「そこのお兄さん!そんな薄着じゃあ、道歩けないぜ!ウチの店にいい防具あるよ!」
「へ?いやいや、これは・・・」
「・・・無視しろ」
「よう、兄ちゃん達!丸腰じゃあ、すぐに食われちまうぜ!よかったら・・・」
「お気使いどうも、それじゃあ!」
「・・・面倒だな」

 彼らも例外なく客として呼び込まれるが、この世界の物を扱えるはずがない。二人はなるべく無視して避けるようにした。その際、ある視線が自分達に向けられていることに気付く。

「ブレード」
「・・・当たり前だ。服装の時点で気付かれている」
「まあ、異世界から来ましたって言って済むことでもないし・・・」
「・・・言えば余計、面倒になる」
「どうしようか・・・」
「・・・・・・・・・ん?」

 ブレードは付き添いが居ないことに気付き、後方を向いて探した。すると、ある店で何かを買うラキの姿を発見。彼が手にして持ってきたのは肉団子が3つ付いた串焼きだった。

「・・・何してる」
「むぐむぐ、いや、美味しそうだったから・・・あむ!」
「・・・お前、この世界の金、持ってたか?」
「ああ、モコンちゃんがニールから預かったお金と一緒に『よかったら使え』と伝言された。ほれ、ブレードにも渡すぜ」

 ラキは食べながらチャリンと数枚のコインをブレードに渡す。彼は呆れながら溜息を付いた。

「・・・はぁ、お前なぁ、白昼堂々とお金を渡してどうする?」
「んむぅ?むぐむぐ・・・何で?」
「・・・金づると判断されて絡まれるだろうが」
「よう、兄ちゃん達!」
「「・・・・・・」」

 ブレードの言葉通り、ガラの悪そうな筋肉男が二人に話し掛けてきた。見た目は筋肉モリモリで、上半身裸なうえに蛇柄のズボンを履いているハゲ男。

「景気よさそうじゃねえか?どうだ、飲みに行かねえか?」
「・・・知り合いでない者と遊ぶ暇は無い」
「今、知り合ったじゃねえか。いい店知ってるぜ」

 ハゲ男がそう言うと強引にブレードの肩に右手を置く。その時、ブレードはハゲ男の左手の入ったポケットから鳴っている金属音を聞き逃さなかった。それは刃物の鳴る音のように聞こえる。

「悪い事は言わねえぜ。ちょっとおごってくりゃあ、痛い思いしなくて済むぜ」
「・・・面倒だな」
「はぁ?なんだって?」
「・・・こうすることが」
ブゥン、バチィィ!
「はがっ!?」

 電撃音が鳴ると同時にハゲ男が痙攣して、白目を剥きながらゆっくり倒れていく。ブレードは『RAY.S.R』を一瞬で展開して、ハゲ男の腕に当てて気絶させたのだ。ラキ以外の周りの人々は何が起きたのか、状況が把握できなかった。

「あ〜あ、やっちゃった。お前を怒らせると怖いからな」
「・・・元はと言えば、お前が原因だ」
「悪かった。次は気を付ける」
「・・・行くぞ」

 倒れたハゲ頭を放置して歩き始める二人。しばらくの間、彼らは注目の的となってしまった。

「少し、目立ったね」
「・・・いまさら言っても遅い。ただでさえ、見慣れない服装の輩と見られている以上・・・!」
「どうした?」

 いきなり、ブレードは歩くのを止めて、ラキと向かい合う。ラキも慌てて立ち止まり、彼に尋ねた。

「・・・ラキ、同じ道を歩いていても仕方ない。次に行くぞ」
「へ?なんで?」
「・・・ついでにさっきの仕置きもする」
「ええ!?ちょっとブレード!?いででででで!!」

 ブレードに無理やり耳を掴まれながら、右横道に連れて行かれるラキ。人気の無い場所にやって来たブレードは、ラキの耳を手放した。だが、ブレードはいつまで経っても何もしないので、不思議に思ったラキが恐る恐る声を掛ける。

「ブレード?・・・」
「・・・こっちなら面倒にならなくて済むだろう」
「はいぃ?」
「・・・少し離れた前方の場所に十字の奴らがいた」
「十字って・・・あっ!あいつらか!」
「・・・音量を下げろ」

 ブレードの言った十字の奴ら。それは以前に交戦した教会という勢力の兵士たちだった。彼はその服装の者たちをいち早く見つけて、彼らに悟られないようラキを連れて衝突を避けたのだ。

「こんなとこにもいるのかよ・・・うざって〜」
「・・・敵の情報を得る最適な場所・・・言ってたことは正しかったな」
「んでも此処からどうする?大通りはあいつらがいるし・・・」
「・・・丁度こちら側にも人通りがある道があった」
「そんじゃあ、そっち行くか」

 大通りの右側に続いている道は、宿を中心とした旅館が多数並んでいた。こちらは人通りが少なく、激しい呼び込みは無いようだ。唯一つを除いて・・・。

「お兄さん、ちょっと寄ってかない♪」
「そこの逞しい方!私と一緒にいいことしませんか?」
「今ならたったの30Gで食事付きの素敵な夜を過ごせま〜す♪」
「なんというピンキッシュ・・・」
「・・・ちっ」

 呼び込みで各旅館の前にいるのは、どれも美人揃いの女性達。露出が多い服を着て色香を漂わせながら男を呼び寄せている。見たところ、普通の女性達ばかりで魔物のような異質はいないようだ。

「俺には刺激が強過ぎる・・・」
「・・・チェリーめ」
「なんだと!?」

 鼻を押さえるラキを馬鹿にするブレード。二人は魅力ある女性達を無視しながら歩いて行く。

「・・・ふん、だが俺も娼婦なぞ・・・」
「お兄、さん♪」
「「???」」

 ブレードに声を掛けてきたのは、他の女性よりも若い10代半ばの少女だった。少し吊り目で、紫色の半袖シャツと半ズボンの姿をしている。彼女はブレードに近寄りながら、彼の腕を掴んだ。

「ちょっと寄ってかない?ウチの店に♪」
「・・・悪いが泊る暇も金も無い」
「ふふ、分かってるよ。私が興味あるのは・・・これよ♪」
「・・・ん?」

 少女が彼のジャケットの内側に右手を入れた。彼女が弄ったものが例の鉄の棒であることに彼は気付く。

「・・・そうか、なら案内を頼む」
「ふふ、素直が一番よ♪」
「え、ええ!?ブレード!?」

 普段の彼とは思えない行動にラキは戸惑う。少女に連れら歩いていたブレードが、立ち止まってラキの方へ向いた。

「・・・何してる?早く来い。なんのためにここに来た?」
「!?」

 ラキも彼の言葉の意味に気付き、二人の後を追い始める。少女が連れてきた場所は一見普通の宿屋。看板には『LEFTOVER』と表記されていた。

 中に入ると数人の茶髪の少女達が従業員としてせっせと動き回っている。そんな中、カウンターには茶色の長髪の女性が眠そうにうずくまっていた。三人がカウンター前にやって来ると、先程の紫服の少女がカウンターの女性に話し掛ける。

「ワモン、寝ないでね。まだ、勤務中なんだから」
「そうはいっても・・・やっぱり眠いわ」
「娘達に仕事押しつけてる癖に・・・」
「いいじゃない。あら?シマちゃん、その人たちは?」
「予約してたお客よ。エサ付きでね」
「!?」
「エサ付き?」
「・・・」

 少女の言葉にカウンターの女性が反応し、それまで眠たそうにしていた顔が明るい表情へと変わる。

「予約の方!?シマちゃん、奥のスイートルームへお連れして!」
「了解、ワモンも来てよ」
「もちろん♪」
「それじゃあ、部屋へ案内するわ」

 二人は奥の通路に連れて来られると、地下の部屋へと案内される。部屋の中は意外と明るく、一般の客室とは違ったインテリアが飾ってあった。二人は真ん中のテーブルに座らせられ、先程の長髪の女性もやって来る。

「さて、そろそろエサを頂いてもいいかな?」
「俺たち、エサって持ってたっけ?」
「・・・これのことだろう」

 彼女の質問の答えに、ブレードはレシィから預かった鉄の棒をテーブルに置く。ラキも遅れて腰から出して置いた。紫の少女は置かれた二つの棒を手に取り、1つを長髪の女性に手渡す。

「くんくん。ふふ、癖になりそうな匂い。間違いないわ」
「本当に久々ですね。稀にしか来ないのが残念だけど・・・」
「それって匂うやつなの?」
「ああ、そう言えばあなた達は異世界人だったね。これはね・・・」

 ラキの質問に答えるかのように、少女は鉄の棒の包みを解いて行く。戒めが解かれて棒が縦に別れると、中から試験管のような物が出てきた。その容器の中には透明な液体が入っている。彼女達は躊躇いもせず、その容器の蓋を取ると中の液体を飲み干した。

「くぅ〜やっぱり濃厚な汗は美味しい♪」
「いっそのこと牛乳瓶で届けて欲しいわ」
「汗?ま、まさか・・・」
「そう、男の濃厚な汗よ。もっとも普通の人間より強烈な代物だけど」
「・・・そういうことか・・・では、君らは・・・」
「そう、察しの通り、私たちはこの街の隠しギルドの一員で魔物よ」

 そう言うと、少女はハエのような昆虫の姿に変わる。長髪の女性の方は茶色の硬質を持つ虫の姿へと変身した。

「え―と、どちらも虫の魔物ってことですか?」
「そうよ、私はベルゼブブのシマよ」
「デビルバグのワモンよ〜。よろしくね〜」
「・・・見た目はハエとゴキブリの魔物か。だが、嗅覚は侮れなんな」
「そういうこと。噂の戦闘部隊ドラグーンさん」

 ようやく、二人は目的のギルドに辿り着く。同時に驚きの連続を受けるも、ブレードは冷静にしゃべり始める。

「・・・強襲部隊ドラグーンだ。名はブレード」
「同じくラキ。ってことで目的地が此処だったのか」
(レシィのブツを詮索しなくてよかった。男の汗って吐き気がするほどきついからな)
「・・・早速だが、用件の方は」
「ええ、ばっちり調べてきたわ」
「はやっ!」
「でも、依頼された2つに関してはなかなか集まらなかったわ」
「ある遠方の街の近辺でマガイモノらしき生物を倒したという報告はあったけど、異世界に関しては流石に見つからないね〜」
「やっぱ、そう簡単に見つからねえよな」
「・・・」

 調査の結果に不満なブレードを見て、ワモンがある紙を取り出してテーブルに置いた。彼は不思議に思いながらその紙に書かれた文を見る。その様子を見て、シマが話し始めた。

「あなたたち、都市アイビスで誘拐された子ども達を助けたのよね?」
「ああ、そうだけど・・・なんで知ってんの?」
「こちらにも一様、報告はされたの。救助されたのを見計らって、ウチのメンバーがその襲撃された駐屯地を偵察しに行ったのよ」
「へえ、じゃあ奴らが悔しがってる姿を見れたかい?」
「・・・恐らく見れなかったんじゃないのか?」
「え?ブレード?」
「ええ、あなたの言う通りよ」
「どゆこと?」
「・・・こいつを見ろ」

 ブレードの指差した紙のある文章にラキは凝視する。

「ええと・・・『教会騎士所属のキューベル騎士団 音信不通のため、数人の騎士を派遣するも駐屯地は崩壊 生き残りはおらず、数個の装備のみ転がっていた』と書いて・・・え、まさか・・・」
「・・・確か、レックスの潜入時にキューベルとかいう名の野郎がいたはずだ。そして、これに書かれている駐屯地は・・・」
「無残に破壊されてたわ」

 ブレードの結論をシマが答えた。その言葉に驚愕するラキ。

「で、でもあの時、最後はヘルファイア一発のはずじゃあ・・・」
「・・・一発だけで駐屯地は崩壊させていない。なら考えられるのは・・・」
「ああ!あの、巨大ダンゴムシ!」

 救出後の異形者との戦闘を思い返す二人。あの時、異形者の不自然な出現に、ドラグーンの全員が疑問に思っていたところだ。ブレードは報告書を手に取り、シマに尋ねた。

「・・・これは教会の報告書か?」
「鋭いわね。ここに来た偵察隊が持っていた報告書を写したものよ」
「・・・諜報の腕は確かなようだ」
「これでも最速を誇るベルゼブブとデビルバグよ。甘く見ないことね」
「私の場合は娘達が広く行動してくれるから助かるの〜」
「娘さん、何人いるんですか?」
「今で16人目を身籠ってます♪」
「え゛!?」

 頬を赤らめながらお腹を擦る彼女を見て、ラキは開いた口が塞がらなくなった。ブレードはそんな彼を見て鼻で笑う。彼はテーブルに報告書を置いて、席から立ち上がった。

「・・・何にせよ、一度あの駐屯地に行く必要があるな」
「もう行くの?」
「一晩どうですか〜?年頃の娘達もサービスで付けますよ〜」
「・・・結構だ。待たせている足がいるのでな。それに・・・」
「「それに?」」「あ?」
「・・・俺達には数え切れないほど待たせている奴らがいる」


<場所不明 城内 会議室>

 空気の重たい室内で30代の2人の男性がテーブルに座り、深刻な表情で語り合っていた。一人は前髪をオールバックにしてデコハゲが目立ち、パイプをふかしている。もう一人はチョビヒゲを生やしたハゲ頭の男。どちらも黒い宗教的な服を着ている。パイプを吸っている男がもう一人にあることを尋ねた。

「ムゥフッ!それで、キビィキ卿・・・貴殿の部隊であるキューベル団の行方は?」
「オッドス卿。そ、それが・・・偵察隊の報告では誰一人見つからなかったと・・・」
「見つからなかった?」
「報告では、廃都全体が崩壊するほど、大規模な攻撃を受けて遺体すら残って・・・」
「何者の仕業だ?ムゥフッ!」
「行方不明になる前に、謎の戦士に魔物討伐を妨害されたとキューベルから報告があった。恐らく、そやつらの仕業ではないかと・・・」

 キビィキ卿が冷や汗を掻きながら答えると、オッドス卿がパイプを吸いながら彼を睨んだ。

「・・・それは一時置いておこう。それより、あの件はどうするつもりだ?」
「あ、あの件とは?」
「我が国のお使い様であるエンジェルの奪還のことだ」
「・・・」

 キビィキ卿の冷や汗がさらに増した。

「ムゥフッ!この件については貴殿のキューベル騎士団が遂行すると言ったのではなかったのか?」
「そ、それが・・・思わぬ邪魔が入り・・・」
「いい訳はいらん。しばらくこの件ついては保留にする」
「は、はい・・・」
「それで・・・ムゥフッ!その敵に関する情報は?」
「はっ!現在、偵察隊から報告が届いたので・・・」
「そいつは強い奴か?」
「「!?」」

 第三者の声に驚く二人。声のあった方へ目を向けると、そこには一人の若い男性が立っていた。金色の長髪をして、赤服でさらに赤いロングコートを羽織り、腰には長剣を携えている。赤服の男は二人に近づき、再度尋ねた。

「強い奴が現れたのか?」
「シャ、シャグ!?」
「ムゥフッ!『不消の陽熱』(フショウのヨウネツ)が何の用だ?」
「また、下らねえ話でもしてんのかと思ったら、謎の戦士に邪魔されたって聞いたんだよ。で、そいつはどこにいる?」
「まて、いくら不消の陽熱と言えども、ムゥフッ!勝手なことをされては・・・」
「私が許可しよう。行かせてやるがよい」
「「え!?」」

 黒服の二人が会議室のドアを見ると、白い服を着た50代の男が立っていた。他の者より、少し立派な服装でにこやかな顔が印象に残る男性である。彼はシャグに近づいて黒服の二人に話し掛けた。

「ム、ムゥフッ!コ、コーモレント教皇!?」
「ちっ・・・ジジイもいたのか」
「き、貴様!教皇に向かって何を・・・」
「よい、キィビキ卿よ。それより、先程の戦士に関する情報を」
「は、ははぁ!」

 ハゲ頭の男が慌てて懐から紙を取り出し、内容を読み上げた。

「三日前、キューベル団が見慣れぬ黒服を着た男たちによって、魔物討伐を妨害された。その時、妙な武器や乗り物を所持していたそうだ」
「ムゥフッ!どんなものだ?」
「鉄の馬に乗って空を飛び、手から光る剣を出したらしい。それと何も無い空から燃える火の玉を降らし、危うく部隊が壊滅しかけたと報告がありました」
「下らねえ。魔道士かなんかが居たんじゃねえのか?」

 シャグは呆れ顔で正体を予想した。キビィキ卿は口を歪ませながらさらに読み上げる。

「い、いや、報告では二人しかおらず、詠唱の素振りもしなかったらしい。そして、つい先程、帰還した偵察隊によれば、商業都市クロツラにて、その者達らしき姿が確認されたそうだ」
「商業都市クロツラにそいつらがいるんだな?」
「待ちなさい、シャグ」

 目標がそこに居たと聞いて、すぐに出発しようとするシャグを教皇が静止させる。

「あんだよ?ジジイ」
「恐らくそこには居ないのでは?そうですよね、キビィキ卿」
「え、ええ。私が考えるに、そやつらは都市アイビス付近にいると思われます。現にそやつらはアイビス付近の魔物たちを庇ったのですから・・・」
「じゃあ、都市アイビスにいるんだな?」
「行くのは構わないが、念のため、付き添いの騎士を連れていくがよい」
「ジジイのいつもの奴だろ?分かったよ」

 赤服の男は不機嫌そうに答えて、コートの背中に描かれた白十字を晒しながら退室した。黒服の二人も彼と同じく、面白くなさそうな顔をしていた。

「ムゥフッ!教皇、よろしいのですか?あ奴はこの国で大事な戦力の一人です。勝手に行動させても・・・」
「ほおっほっほっ・・・だが、それでもあ奴は必ず無傷で戻る。少々、こだわりが強いがな。ちなみにオッドス卿」
「はっ!なんでございましょう?」
「パイプを吸い過ぎなのでは?」

 慌ててパイプの火を消し、懐に仕舞いこむデコハゲの男。それでも教皇の顔は微動だにせず、いつもの表情で彼らを見つめる。

「別に枢機卿たる者がパイプを吸おうが、酒を飲もうが、咎めはせぬ。だが、咳き込んでいる様子では、いいこととは思えぬ。己の身体も労わった方がよいぞ」
「ムゥフッ!お言葉ながら、毒と知っていても止められないのが現状でございます。なので、この身体が保てる間、ムゥフッ!教会のために尽力を尽くすつもりです」
「主神の教えに身を捧げるのはよいことだが、無理はせぬように。それと・・・」

 教皇は会議室の窓に目を向けて、しゃべり続ける。

「エンジェル奪還については不問及び、保留ではなく、凍結にさせる」
「!?」
「ム、ムゥフッ!?」

 突然の辞令に二人の枢機卿が目を丸くする。咳き込んだオッドス卿が震えながら尋ねる。

「教皇・・・そ、その、ムゥフッ!」
「理由は詮索するな。その代わり、失態に関しては不問とする。よいな?」
「「ははっ!!」」

 辞令を伝え終わると、教皇は会議室から退室する。廊下を歩く彼は変わらぬ表情で先程の報告を思い返す。

(謎の戦士・・・光る剣・・・あ奴の潤いとなるか、もしくは・・・)
11/08/07 18:28更新 / 『エックス』
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