連載小説
[TOP][目次]
砂に埋もれし異物
<砂漠地帯>

 二台のスカイチェイサーが広大な砂漠を高速で飛行していた。果てしなく続いているような砂漠の平原を軽快に飛び進む。やがて二台の目の前にある建造物が見えて来る。それは大きな長方形の石を丁寧に積み上げ、巨大な三角形を表した建造物。

 二台のチェイサーは建造物の手前で停まり、搭乗者が降りた。

「すげ〜ホントにピラミッドだ」
「簡易スキャンによると、高さ約150m横幅約230mの四角錐の形状。周辺に生体反応無し」

 乗っていたのはジェミニの片割れラートと人型万能機械レックスだった。


<3時間前 戦艦クリプト 司令室>

 室内には部隊全員とレシィが集まって話し合っていた。

「凄いね、レシィ。予告通り、情報を仕入れたらしいね」
「うむ、2つほど兄上らにいい情報を見つけて来たのじゃ!」
「・・・どんな情報だ?」
「まず、一つ目。レックス、地図を出して欲しいのぉ」
「了解」

 メインテーブルにこの世界の地図を表示すると、レシィが腰に持っていた地図を取り出す。

「それは?」
「この地図に印した地点にマークを付けるのじゃ」

 彼女が指摘した場所をレックスは光学表示の地図に点滅マークを付ける。その場所は都市アイビスから北方向に位置する、遠く離れた場所だった。地図をしまう彼女にイーグルが尋ねる。

「此処には何が?」
「古に存在した国、その王の墓である遺跡の場所じゃ。確か・・・ピラミッドとか言ったかのぉ」
「「ピラミッド!?」」
「おいおい、此処にもエジプト文化があるのかよ!?」

 双子とラキが驚く中、ブレードが彼女に尋ねた。

「・・・その巨大墓に何がある?」
「古代から存在したとなれば、恐らくその時の物や記録書があるはずじゃ」
「墓荒らししろってか!?」
「黙れラキ。それで、得体の知れない墓に入って調査しろと・・・」
「安心せい。中には管理者である魔物もいるはずじゃ。そ奴に頼めば道案内も苦労せんぞ、竜の隊長よ」
「そこにも魔物が居るって、どんな奴?」
「兄上はアヌビスという者を聞いたことはあるかのぉ?」
「えっ!?」

 質問の答えに唖然とするエスタ。イーグルが目を丸くしながら話す。

「アヌビスは確か、古代エジプト文化の神話に伝わる死者の神の名前。それが実在するのか?」
「簡単に言えばワーウルフの上位種といった方がよいじゃろ。黒い毛並みを持つ女子じゃぞい」
「結局、それも女性化してるじゃねえか。って狼女のさらに上かい!?」
「・・・害はあるのか?」
「まあ、大丈夫じゃ。話し合いは通じるじゃろ。もとより、こやつとはコンタクトを取りたいと思っておったしな」
「ついでかよ・・・」

 レシィのついでの頼みごとに呆れるラキ。落ち着いたエスタがぶんぶんと頭を振り回し、彼女に話し掛ける。

「もう一つの情報は何なの?レシィ」
「おお、そうであった。実はここから南側に商業都市クロツラがあってな。その街なら何か情報があるじゃろ」
「不確定が多すぎるね。上手く入手できるか・・・」
「だが、ここで足踏みするよりはマシだ。早速、派遣するチームを決めるぞ」

 こうして、イーグルの判断により、ピラミッド訪問はレックスとラート、商業都市クロツラにはラキとブレードが向かうことになった。


<砂漠地帯 ピラミッド手前>

 遺跡の入口らしき空洞へと入って行く二人。石壁によって出来た通路が、先が見えなくなるほど長く続いていた。ラートは胸ポケットのライトを付け、レックスは両肩の上部に前後左右に照らす特殊ライトを展開する。

「奥が深そう〜」
「マッピングも万全ですので迷いはしません。そちらの方は?」
「ばっちりだよ。向こうは呑気にコーヒー飲んでる」

 ジェミニが片割れで来ている理由。それは・・・。


<戦艦クリプト 司令室>

「ずずずう、う〜ちょっと苦かったかな」
「レート、ミルクが足りないんじゃないの?」
「そんなことより、レート。ちゃんと通じてるのか?」
「ばっちりだよ、イーグル。今、ピラミッドに入ったところ」
「いやはや、信じられんのぉ。こんなに遠く離れても通じるとは・・・」

 レシィはレートの発言に驚きが隠せなかった。イーグルとエスタは当たり前のように話す。

「ジェミニはお互いの五感を共有させることができ、互いに念話も行える。有効距離はまだ確定してないけど、大陸を超えても通じたと記録に残っている」
「あの時の離ればなれは寂しかった。2PALYERのソフトが出来なかったから・・・」
「お前らどんだけ遊んでるんだ?」
「少なくとも、あの頃はまだ自由じゃないと記録に残っているはずだけど・・・」
「エスタ、やめて・・・」
「???」

 レートが過去の記憶を嫌がることにレシィは首をかしげる。その時、レートがいきなり目を丸くして飛び上がった。

「痛!?」
「どうしたのじゃ?」
「落ちた」
「「「え!?」」」
「床が開いて少し高い所に・・・」


<ピラミッド内部>

 通路を進んでいた二人は突然の落とし穴により、少し下の階層に落とされた。尻もちを打ったラートと、ズドンと体重を掛けて無事着地するレックス。

「いたたたたた・・・何だよ今の!?」
「どうやらトラップらしいです。先程の床は音も無く消滅しました」
「どゆこと?」
「レシィ様の使用した転移方法と酷似しているかと・・・」
「じゃあ・・・床だけ転移で消えた訳?そんなの避けれるか!」

 落下した場所は大広間のような部屋らしく、二人のライトでも先が見えないほど暗闇に包まれている。上を見るとトラップの床は元に戻ったらしく、上の階層が見えなくなっていた。此処でレックスが何かを感知し、警戒態勢に入る。

「前方に多数の生体反応らしきものを確認」
「うそ!?敵!?」

 レックスの言葉を聞いて、ラートも右手に『L.B.H』を構える。前方の暗闇からそれは現れた。白い包帯に身を包んだ褐色の女性達。頭含めた所々、露出している。何故か、ラートは鼻を押さえた。

「な、何!?この包帯ビキニガールズ達は!?レート〜!!」


<戦艦クリプト 司令室>

 ラートの見た視界に驚き、レートは周りの者に詳細を伝える。すると、レシィが落ち着きながら説明し始めた。

「ほほう、それは恐らく、マミーじゃな」
「マミーってミイラのことかい?」
「正解じゃ、兄上。マミーはある呪いによって出来た魔物の一種じゃ。包帯は敏感過ぎる肌を直接触れないよう纏っておる。それと常に渇いているため、凶暴じゃぞ」
「何に渇いているの?」
「無論、男の精じゃ」
「ある意味ピンチだな」
「イーグル、何呑気なこと言ってるの!ラート!らしいから逃げて!ラート!」


<ピラミッド内部>

 じりじりと近寄って来るマミー達にラートが後ずさる。レックスは冷静に彼女達と対面で戦闘態勢を維持する。

「これもえっちゃな魔物なのぉ!?」
「魔物ですか。何か詳細は?」
「ええと・・・マミーていって、超敏感なお肌を守るために包帯巻いてるらしいよ!」
「そうですか、では・・・」

 それを聞いたレックスは構えを解いて彼女達に近づく。ラートが不思議に思いながら見ていると、レックスは両手の本体フレームを露出させて電流を放ち始めた。

「レ、レックス?」
「あは♪」
「お、おとこ♪」
「おとこ♪・・・あ?」
バチッ!バチッ!
「はうっ!?」
「ひやっ!?」

 レックスは近づいてきたマミーの露出している肌に、それほど強くない電流の腕で直接触れて気絶させた。次々とマミー達を気絶させるレックス。

「おお、これなら何事も無く終わりそう・・・」
「ラート、後方に二体接近しています」
「え?」
「ああ、ごはん♪」
「じゅる♪」
「うわあああ!?いつの間に!?」

 後ろからやって来た彼女達に驚き、ラートは慌てて『RAY.S.R』を取り出す。


<戦艦クリプト 司令室>

 二人の様子を見てレートは落ち着いて詳細を伝えた。それを聞いてイーグルも安心してコーヒーを飲み始める。

「最初の関門は突破したか」
「レックスもいるから問題ないはず・・・レシィ、情報ありがとう」
「むふふ、兄上♪」
「あ〜もう、ひっつかない!くすぐったいよ!」
「う、なんか、おちっこ臭いような・・・ラート、おもらしした?」
(するわけないだろう!!)


<ピラミッド内部>

 マミーの大群を全て気絶させた二人は奥へと進み始める。彼女達の大半が下半身から湯気を立たせていた。少し歩くと、この部屋から出る通路の入口を発見し、二人はその先へと進む。

「それにしても凄いところ。正に遺跡でお宝探しをやってるみたい」
「正確には遺跡での調査と管理者との交渉です」
「そうだね・・・ん?」
ズズズ、カチッ

 ラートが踏みつけた床がゆっくり沈むと、スイッチを押したかのような音が小さく響いた。

「これって・・・」
「後方の天井から振動音を感知。ラート、全速で前方に」
「ですよねぇ!」

 彼の叫びとともに後ろの通路にズドンと巨大な丸石が落ちてきた。それは二人に向かってゆっくりと転がり始める。

「ああ、もう!なんでトレジャー映画みたいな玉転がしがああああ!!」
「いいから走って下さい」

 全速力で潰されないよう走る二人。巨大丸石の速度は遅いが、接触すれば間違いなく下敷きにされるだろう。

「わっせ、わっせ、わっせ、わっせ、ああ゛あ゛!?」
「!?」

 前方の通路のつきあたりに強固な壁があり、その中心にある小さな扉が上から閉まろうと降りて来る。今の時点の二人の距離では、閉まる前に通り抜けることは不可能。それを予測したレックスは右腕のプラズマバスターを展開させた。

『出力20%』
「は、早く!」
『照準ロック、ファイヤ』
ズビィィィィン!!  バコォォォォォン!!

 黄色のプラズマ弾が扉を粉々に破壊し、退路が出来上がる。二人は素早く破壊した扉を抜けると巨大丸石が壁に激突して止まった。

ゴォォォォォォォォォン
「はぁ、次は吊り天井だなんてオチ。嫌だからね・・・」
「今のところ、駆動音又は振動音はありません」

 息を整えるラートを待つレックス。此処で彼は、またも何かに気付き、通路先の暗闇を見つめる。奥の方から何者かの足音と杖を突く音が遠くから響いてきた。

「生体反応1。徐々に接近中」
「今度は何!?」

 暗闇から現れたのは褐色の女性。犬のような黒毛の耳、手足、尻尾を持ち、金の装飾品を付けて、同じく金の杖を手に持っている。

「お前達が侵入者か・・・」
「私たちは強襲部隊所属の隊員。そして、私がレックスです」
「お、同じく、ラート!」
「そちらは?」
「ふむ、意外と礼儀を知っているようだ。私はこのピラミッドの守護者。名はイシュタ」
「あなたが例の管理者であるアヌビスですね」
「凄い美人」

 見惚れてしまうラートと冷静に話をするレックス。

「あの〜実はお話が・・・」
「何をしに来たかは解っている」
「では・・・」
「此処に盗みにやって来たのであろう。この盗掘者が・・・」
「え?」「はい?」
「盗みに来たのであればそれ相応の罰を与えよう。覚悟!」
「ええええええ!?違うよおおおお!」
「待って下さい!私たちは・・・」
「問答無用!受けよ!我が呪いを!」
「ひっ!?」「くっ!」

 二人を盗掘者と勘違いして彼女は右手を彼らに向け、得体の知れないパワーをぶつける。必死に身構える二人。

「ひいいい・・・・・・って、あれ?」
「???」
「なん、だと?」

 数十秒経過して、何事も起こらないことに驚く彼女と唖然とする二人。

「ダメージチェック開始・・・・・・外装及びメインボディ、全システムともに正常」
「へ?な、何も無いの?」
「馬鹿な!?私の呪いが・・・マミーの呪いが効かないだと!?」
「なんですか!?そのマミーの呪いって・・・あれ、か、か、か・・・」
「ラート?」
「痒い・・・かゆい、かゆい、かゆい!かゆい!かゆいぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「「!?」」

 突然、ラートは謎の痒みにみまわれ、全身を掻きむしり始めた。それを見たレックスとイシュタは目をパチクリさせる。

「ラート、どうされました!?」
「身体のあちこちがかゆいぃぃぃぃ!」
「な、何故だ?呪いを受けているようだが、何か違うぞ。どうなっている?」
「レックスぅぅぅぅ!なんとかしてぇぇぇぇ!」
「仕方ないですね。ラート、少しの間、我慢して下さい」
バチィィ!
「あびば!?」

 スタンアームにより、ラートを気絶させるレックス。それを見ていたイシュタは呆気にとられる。レックスはそんな彼女に尋ねた。

「イシュタ様、よろしいですか?」
「な、何だ!?」
「私たちの目的はこのピラミッドの管理者であるあなたに、二つほど用件を申し上げにきました。なお、盗掘目的は一切ありません」
「よ、用件だと?・・・どんな用件だ?」

 レックスの発言に平常心が戻るイシュタ。彼は続けて話し始める。

「一つ目。まず、私たちはある都市からの使者としてやってきました。都市アイビスをご存知ですか?」
「ああ、今はヴァンパイアが治めている街だったな」
「その街の司令官があなたと交渉したいとおっしゃっています。ですが、伝達役のラートがこのような状態なので、回復するまで待っていただけますか?」
「そうか・・・分かった。ひとまず、私の執務室に案内しよう」
「分かりました」

 ラートを抱えて、彼女の後に付いて行くレックス。辿り付いた部屋は、古い書物が沢山並び積まれた石室。イシュタは気絶したラートを寝かせるため、小さい絨毯を敷いて寝かせた。

 ある程度落ち着いたところで二人は椅子に座って話し始める。

「それで・・・一つ目は解ったが、二つ目は一体何だ?」
「それについて、まず、私たちのことを詳しく説明します。ご理解とご協力をお願いします」
「出会った時もそうだが、お前は随分と丁寧にしゃべるな」
「そうプログラムされていますから」
「プログラム?」

 レックスが異世界と自分達の今までの経緯を話し、イシュタを納得させると、ようやくラートが目覚めた。

「ん・・・ここは?」
「気が付いたようだな」
「え?ひぃ!」
「落ち着いて下さい、ラート。事情はすでにお話し済みです」
「へ?もう話したの?・・・また、あのかゆみの呪いを掛けられるかと・・・」
「あれはマミー達のように敏感な感覚を与える呪いのはずなのだが・・・異世界人であるお前達には効かないようだ。決して、かゆくさせるほどの生温い呪いでは無い」
「そ、そうなの?・・・よかった・・・」
「それよりもその司令官とやらと通じているらしいな。ほれ、さっさと話せ」
「あ、そうだった・・・レート!交渉開始するよ。レシィの用件を伝えて」
(やっとかい、全く・・・かゆくなったと思ったら、気絶して・・・心配したよ)

 双子を通じてのレシィとイシュタの話し合いが始まる。話の内容は最近、教会勢力が侵攻しつつあるので、お互いに協力と連絡などの段取りを決めるものだった。

 二人のやり取りが終わると、今度はレックスが異世界と異形者に関する資料が無いか彼女に尋ねる。

「ふむ、確かそれらしきものは宝物庫にあったはずだ。着いて来い」
「やた〜!やっと手掛かり見つけた〜!」
(イーグル、やっと見つけたよ〜しくしく)
「まだ、それが私たちの求める物と決まっていませんよ、ラート」

 案内されてやって来た部屋には金細工の装飾品や道具と大きな宝箱などで溢れかえっていた。部屋の片隅には無数の純金のコインが砂山の如く積み置かれていた。

「すげえ、ってか眩し、サングラスは何処?」
「言っておくが、此処の宝物を盗む時はそれ相応の覚悟が必要だぞ」
「こんなの何に使うの?」
「私も彼も戦闘員であるため、目立つような装飾は控えるよう義務付けられています。今のところ、私達に役立つものはございませんが・・・」
「そうか・・・では、例の探しの品はこっちだ」

 イシュタの注意を軽く聞いた二人は、奥にあるホコリだらけの大きな箱に連れてこられる。この箱は他の物と違い、金細工も付いてなく、人が入れそうなくらいのサイズだ。レックスが彼女を見ると「開けていいぞ」と許可を受ける。彼は両手で箱の蓋を持ち上げて箱の横に立て掛けた。三人は箱の中を覗いて入っている物を確かめる。

「うわお」
「これは・・・」
「ある記述によれば、この箱の中の物は約500年前に発見された遺物らしい。しかし、使用用途が解らない物や古過ぎて読めない書物もあった」
「レックス・・・これって・・・」
「検索中」

 レックスは箱の中に入っていた細長い木と鉄で出来た物を取り出す。

「検索終了。古代の白西大陸で作られた初期の銃器『ゲベール銃』に酷似。フリントロックの部分が破損しているため、使用は不可です」
「え゛!?白西大陸の!?」
「な、知っているのか!?それを!?」
「構造は似ていますが、状態が悪いため確信できません。こちらは・・・」

 驚く二人を余所にレックスは古代の銃を置いて、代わりにボロボロになりかけの書物を手に取った。中身も崩れ掛けでとても読める物でもない。

「・・・確かに文章は読めませんね。ですが、文字は・・・」
「レックス!分かるの?」
「信じられん。今まで用途が分からなかった物が・・・」
「これは・・・中黄大陸の華国が使用していた古い漢字に似ていますね。む?」

 レックスがページをめくっていると、辛うじて見える絵を見つける。彼はすぐさま、その絵をスキャンしてメモリーに保存した。

「レックス?」
「ラート、他の物も調べましょう」
「う、うん」

 二人はイシュタの見守る中、箱の中身全てを調べた。結局、調べて解った物は先程の銃器と古い書物だけ。その他は原型を留めてないものばかりであるため、手掛かりになる物は無かった。

「ガラクタだらけだったね」
「ですが・・・どれも見覚えのあるもの。ここから導き出される結論を言うと・・・」
「異世界から流れてきた物、と言った方がいいか?」
「そう考えられます」

 先にイシュタから結論を言われるレックス。レートは頭を抱え込んでいた。

「ん〜ん?何?レート。へぇ?・・・あい、分かった。え―と、イシュタさん?」
「何だ?」
「レシィがね・・・お金貸してって言ってるんだけど」
「必要な設備の対価として宝物を支払うと言ったが、友でもない者に資金を貸すつもりは無い。とでも言っておけ」
「・・・だそうだよ」
(あ〜今度は、レシィがエスタに泣きついちゃったよ)

 本日の任務を終えて二人は戦艦に帰還することにした。帰り道はイシュタが送ってくれるとのこと。途中の通路で涙目の眼差しを送るマミー達と出会い、ラートが怯えるも、イシュタが睨むことで彼女達は膝まついて大人しくなった。

「この辺一帯の魔物たちは私が統率している。マミー含めたアンデット類やミミック、後はこの近くにギルタブリルの集落と繋がりを持っている」
「ギルタブリルって何?」
「ああ、そうだったな。異世界人には初めて聞くだろう。簡単に言えば、サソリだ。アラクネの一種らしい」
「サソリの魔物ですね。データを新規保存しておきます」
「データ?シンキホゾン?」
「ようするに図鑑みたいに記録しておくってことだよ」
「そうなのか?異世界のゴーレムは変わっているな・・・」

 三人が入口付近に向かうとそこで猫の姿をした女性と出会った。イシュタと同じ褐色肌に金の装飾品を付けている。

「ただいまです!お姉さま!・・・あれ、その人たちは?」
「猫?」
「都市アイビスで確認した猫科の獣人とは若干違いますね」
「・・・いい男♪」
「「???」」

 褐色肌の猫人が目の色を変えて二人を見つめ始める。そして、彼らに向かって声を上げた。

「そこの二人!」
「「はい!?」」
「もんだ、ふぎゃ!?」
「「!?」」

 彼女が何かを言う前に突然、イシュタが彼女の頭を杖で叩く。痛みに堪える彼女にイシュタが少し叱りつけた。

「ニヌル、彼らは客人だ。勝手に犯ろうとするな」
「そ、そんな〜お姉さま〜」
「それに彼らは異世界人だ。お前の呪いは効かないかもしれんぞ」
「ええ!?異世界人!?それに、なんで呪いが・・・」
「現に私のマミーの呪いが効かなかった。違う効果になっただけだが・・・」
「もう、あのかゆみは嫌だ」
「イシュタ様、この方は?」
「ああ、私の側近、スフィンクスのニヌル。他の魔物よりは使える部下だ」
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」

 紹介の仕方に頬を膨らませて怒るニヌル。新たな種族を見て、此処でもレックスは彼女の特徴を確認してメモリーに保存した。

「お姉さまの妹分のニヌルです!よろしければご一緒に・・・」
「残念だが、彼らはもう帰るそうだ」
「そんな〜」
「すみません。またのご機会を」
「しばらく、遺跡探索したくない」

 名残惜しそうに見つめる彼女を振り切ってピラミッドを去る二人。チェイサーに乗って上昇する二人に、イシュタは手を振る。ある程度の高度で加速し、その場を後にした。

「ねえ、レックス」
「はい?」
「さっきのあの本に何が書かれていたの?」
「このシルエットに見覚えは?」

 レックスの右腕から小さな光学表示が映し出され、黒色で描かれた絵が浮かび上がる。

「この形って・・・リッパー!?」
「あの古文書のような物、その中で唯一、興味深いものがこれでした」
「でも、異形者って、昔、居たという記録は・・・」
「我々の世界には一切ありません。ですが、あの古文書に使用された文字、昔の筆記体で書かれている華国の漢字に酷似しています」
「あれは僕らの世界の物でしょ?まさか、異形者って・・・」
「まだ、解りません。確信要素も少な過ぎます」
「ん〜今日はもう疲れたからいいや・・・」

 入手した情報を元に考察しながら、二人は加速して帰路に付く。
11/07/30 23:25更新 / 『エックス』
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33