連載小説
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レックスの収穫
<戦艦クリプト 研究開発室>

『・・・・・・ブゥン、ピピ』

 人が入れるほど大きいカプセル。内部に居たレックスが突然、目を開けて起動する。

『小型反物質電池動力:正常 メインフレームボディ:正常 リキッドメタルスキン:正常 各種センサー:正常 各武装システム:正常 コミュニティシステム:正常 システムオールグリーン』

 彼の目覚めと共にカプセルの蓋が左右に開く。無機質のベットから上半身を起こし、左側に向く。

「・・・す―」

 すぐ近くにある端末デスクに座ってうつ伏せに寝るエスタが居た。静かに立ち上がり、研究室から退室するレックス。

 数分後、トーストとコーヒーを乗せたトレーを持って研究室に戻って来た。 彼はデスクの右にトレーを置き、エスタを起こす。

「ドクター、間もなく午前6時です。お目覚めを」
「・・・・・・ん、もう朝か・・・早いね」
「今までの記録及び戦闘データの整理。私の整備などで就寝されたのは今日の1時です」
「明らかに寝不足だね・・・でも、興味深い物ばかりで寝るのも惜しかったから・・・」
「あまり、無茶をされないように」

 エスタはトレーのコーヒーを取り、香りを楽しみながらゆっくり飲み始めた。

「いい香りだね」

 少し飲んだ後、端末を起動させて作業を開始するエスタ。レックスは無言で立ち尽くす。
 数分もしない内にエスタに通信が入った。

イーグルからの提案で本日は総員、自由行動との指示である。通信を切り替え、今度はブレードに繋ぎ、今日の指令を伝えた。伝え終えた後、端末を操作する彼をレックスは隣で待機する。作業するエスタからレックスに声が掛かった。

「レックス、昨日の潜入どうだった?」
「初の対人戦闘でしたが、充実な装備なため、特に問題はありませんでした」
「まあ、確かに腕の装備もそれほど使わなくて済んだし・・・とっさの判断で相手に疑われない行動もよかったよ」
「恐縮です」
「ふふ、次も期待しているよ。今の内に艦内の見回りも頼む」
「了解」

 エスタの指示を受けて、レックスは艦内の見回りに向かう。

 物資貯蔵庫の管理状況、R.O.Mメーカー室と機関室の点検へと回り、G.A.W格納デッキに足を運んだ。

 格納デッキに着き、壁に付いている専用端末を操作するレックス。自動整備システムにより全機体に異常は無いようだ。

 次にGP兵器を確認しようと操作する途中、後方に謎のエネルギー反応を感知し、後ろを向き、身構えるレックス。

「???」

 レックスが振り向いた直後、紫色の円陣が出現し、その中央に最近見慣れた少女の姿が現れた。

「おおう、どうやら成功のようじゃ♪」
「あなたは・・・」

 ヤギ角に獣のような手足を持つ少女の姿。
 都市アイビスの司令官レシィ・エメラドールだ。

「幸い私が居ましたので問題は起きませんでしたが、居なければあなたはセキュリティーシステムで除去されてしまうところでした」
「ワシは覇王なるバフォメットの一人。警備の1つや2つで傷一つ付けることなぞ不可能じゃ」
「ですが侵入者は骨一本も残らず消すように設定されています。今回は即座にセキュリティーをオフにしましたが、不用意なことは、ご自重していただきたい」
「まあ、突然の訪問はすまないと思っておる。兄上は何処じゃ?」
「アニウエ?」

 いきなり質問された言葉の意味を今までの記録で検索し始めるレックス。
 そして、該当したある記録を元に彼女へ確認をとった。

「そのアニウエという言葉はドクターエスタに向けられた呼称でしょうか?」
「もちろんじゃ♪」
「・・・」
「それで何処におるのじゃ?」
「申し訳ありませんがドクターは只今、データ整理に忙しく、研究室に籠った状態です。用件がありましたら、私がお伝えします」
「なんとか会うことはできぬか?」

 少し涙目になりながら頼むレシィ。しかし、レックスは丁寧に断りを告げる。

「申し訳ございません。面会は不可能です」
「お、お願いじゃ・・・」
「ですが・・・」
「・・・・・・」

 涙目が増すレシィ。それを見てレックスが悩み始める。

 レックスにとって彼女の行動は理解不能であったが、同時に好奇心のようなものが感情プログラムに現れる。出会って間も無い彼女が何故、ドクターに親しくするのか興味が湧いて来たのだ。

「・・・・・・分かりました」
「ふぇ?」
「ドクターのところまでお連れします。ですが、守っていただきたいことが二つあります」
「ほ、本当か!?どんなことじゃ?」
「戦艦内の物に一切触れないようお願いします。艦内のほとんどが戦闘用の物なので触れると誤作動が起き、致命的な事故に繋がります」
「わ、分かったのじゃ。もう一つは?」
「ドクターの作業を邪魔しないようお願いします。少しでも邪魔があった場合、即刻部屋から退去させられます。ご了承を」
「絶対守るから頼むのじゃ!」

 手で涙を拭い、ご機嫌になるレシィ。それを見てレックスは微笑む。


<研究開発室>

 レックスの腕からプラグが出現し、壁の端末に突き刺す。数秒後、端末から案内音声が出てきた。

『コードロック解除。ゲスト一名。入室許可します』
「入るだけで手間がかかるのじゃな」
「入室のコードを所持しているのはドクターと私だけ。ゲストとして入れたのはあなたが初めてです」

 二人が入室するとエスタは端末を操作していた。それでもレックスに気付いたらしく、振り向かないで声を掛ける。

「レックス、おかえり。早かったね」
「ドクター、お客様です」
「兄上、おはようなのじゃ!」
「へぅ!?」

 二人の言った言葉に驚き、手を止めて彼らに顔を向ける。

「レ、レックス?どういうこと?」
「格納デッキでGPの確認中に出現しました。恐らく、昨日、使用された転移方法かと」
「転移魔法陣を帰る際に仕掛けといたのじゃ!」
「そ、そうなんだ・・・ってそうじゃなくて!」

 頭をぶんぶんと振り、否定するエスタ。

「レックス!なんでゲストを入れたの!?特別なことが無い限り、入室させないと言ったはずだよ!しかも異世界の住人だし!」
「ですが、どうしても面会したいと言われましたので条件付きでお連れしました」
「条件!?」
「艦内の物には一切触れない。ドクターの作業を妨害しない。これらを破れば即刻退去してもらうと告げました」
「絶対守るから安心するのじゃ!」
「安心しろって・・・」

 エスタは頭に手を当て悩み始める。しばらくして彼は溜息をつき、二人に話し掛けた。

「分かった。でも、レシィ、条件通りにしてね。ここは他の艦内より特に注意して欲しい物が多いからね」
「もちろんじゃ」
「それとレックス、今後はこんなことが無いように。それとセキュリティーで侵入者は捕捉のみに変更。艦内で死体は見たくないから」
「了解」

 納得して改善点を彼に伝えたエスタは、起床したばかりのジェミニに隊長からの指示を通達する。

 レックスは自身でも理解できない感情が湧き上がっていた。主人であるエスタを困らせ、説得を試みる。その際、困惑しそうな感情が現れ、懲罰があるのでは?と予測までした。しかし、何事もなく処理されるとその感情は無くなり、別に安堵な感情が現れる。

 ジェミニとの話を終えたエスタにレシィが近寄り話し掛ける。

「今日はお主ら何をするつもりじゃ?」
「隊長の指示により街での自由行動。情報収集の活動も含めて」
「お主は?」
「僕は今までの記録の整理だよ。だから出て行かない」
「こやつは行かんのかぇ?」
「えっ?」

 彼だけでなくレックス自身も驚く。本来、助手である彼は重要な指令が無い限り、独断で行動はしない。

「いや、レックスは僕の助手でもあるから・・・」
「ワシにも助手はおるが、別に常時付き添いということは無いぞ」
「いや、それとこれとは・・・」

 彼は異論を言おうとする途中でしゃべらなくなる。レックスは不思議に思い、彼を見ていると数秒後、エスタの口から思いもよらない言葉が出た。

「レックス、君も街を散策してきていいよ」
「ドクター?」
「艦と自分については心配ないよ。それと君自身も貴重な体験になるし、興味深いデータも取れそうだから」
「・・・了解、それでは街に向かい、情報収集を行います」
「気楽に歩き回ってもいいよ」
「気楽に・・・ですか?」

 困惑しながらもレックスは研究室から退室する。

(隊長の指示通り、街を探索してみますか)


<都市アイビス 北エリア>

 艦内を降りて、一番近い市場の区域に辿り着く。活気溢れる市場を歩くレックス。突然、右足が動かなくなる異常に気付く。彼が右足を見ると青いゲル状の物体が右足に纏わりついていた。しばらく、見ているとそれは形が変わり、女性が彼の足にしがみついている姿に変わる。

「どちらさまですか?」
「あ、れ・・・お、にい、さん・・・あせ、ない、の?」
「汗?」

 ゲル状の女性の言葉に考え込むレックス。素早く状況を把握した結果、この者はどうやら彼を人間だと思っているようだ。適切な答えを彼女に伝える。

「申し訳ございません。私は人間ではないため、汗などの分泌液は全くありません」
「そ、う、なの?・・・ご、は、ん・・・ない・・・」

 残念そうに彼の足から離れ、ずるずると引きずりながらゲル状の女性は去って行った。

(変わった種族のようですね。今後の参考に他の種族も分析登録を)

 幸い、彼にとってこの市場には様々な魔物娘たちがいるので対象には困らず、情報収集に向いている状況だった。

 次々とスキャンしてメモリーに保存していくレックス。その対象は猫のような女性や下半身が馬の女性、ネズミの少女たち、巨大な花弁に包まれた女性、箱から上半身を出している少女ときりがないくらい多かった。

 ある程度スキャンし終えた時、何か騒いだ後の話を聞きとる。

「すげえな、さっきの黒服で傷だらけのにいちゃん」
「リザードマンとアマゾネスを軽く弄んでたな」
「さっきのあの黄色に光る剣は一体何だ?」

 話の内容に該当する人物が浮かび上がり、生体センサーで周辺の反応を確認する。すると、高速で移動する反応が2つと隊員の反応が1つを確認した。すぐさま、隊員のもとに向かうレックス。

 目標の反応近くまで来て、曲がり角を右に曲がると隊員の姿を目視する。予想通りの特攻隊員、ブレードだった。

「・・・お前か」
「お困りのようですね。ブレード」

 周辺のセンサーを確認しながら彼に近づく。

「現在、半径20m以内に高速で移動中の生体反応が2つ。内1つがこちらに接近しつつあります」
「・・・ご丁寧にどうも」
「私が囮になりますので、此処から南東に向かって下さい。そちらに市場がありますのでその隙に」
「・・・礼を言う」

 彼はそう言うと脱出ルートに向かって走り出した。見えなくなると同時にレックスはブレードの姿に擬態した。

「見つけたぞ!」

 擬態完了時にトカゲのような女性と遭遇。続けてもう一人褐色の女性。追跡者たちを誘導するため、ブレードとは反対方向に逃走するレックス。彼の擬態に引っかかり、追いかける二人。

「待ちなさい!」
「待て―!逃げるな―!」

 ある程度、距離を離したところで左に曲がるとそこは袋小路だった。彼は立ち止まり、今度はある人物に擬態する。今までの接触記録でこの世界に不自然でない姿。黒い鎧を着た女性、ニールに変身した。やって来た二人は目標がいないことに驚く。

「そんな!?何処に?」
「アタイの夫!何処に隠れた!?」
「おい、そこの女!此処に黒い男が来なかったか?」
「さっき、その壁を登って逃げたぞ」
「壁の向こうだと!?」
「ちきしょう!このままじゃ逃げちまう!」

 二人は壁の向こうへ行くため、周り道して向かう。センサーで二人の位置を確認すると彼は元の姿へと戻った。

「さてと、任務に戻りますか」

 市場に戻るため、歩き出すレックス。そんな彼の集音センサーにある声が入る。

『ひ、い、いや!離して!』

 生体センサーで発声源を確認すると近くで重なっている反応が3つ確認する。すぐに彼は現場に急行する。辿り着いた場所にはロープをもった男が二人と鳥のような少女が一人いた。

「やっと捕まえたぜ」
「へへ、あんたのフェロモンに我慢できなくてね」
「は、離して!」

 彼女の足と翼のような腕にロープがきつく絡み付いている。それを見てレックスは右腕を彼らの方へ向けた。

『ライトウェポン:プラズマバスター展開』

 彼の右腕の上部から銃器が出現し、銃口が輝き始める。

「ん?なんだあいつ?」
「おい、見世物じゃねえ!あっちに・・・」
『出力5% ファイヤ』
ズビィィン!ズビィィン!

 銃口から黄色く輝くエネルギー弾が発射され、彼らの持っているロープを撃ち切った。少女に絡みついたロープがたるみ落ちる。

「な、何しやがる!?」
「何だ今のは!?」
「!?」

 レックスは腕の銃器をしまいながら彼らに近づく。思わぬ邪魔をされ、怒った一人が腰の棒を取り出し襲い掛かった。

「この野郎!」
「・・・?」

 レックスの頭に目掛けて棒を振り下ろすとカ―ンと金属音が鳴り、男の持っていた棒が無残に折れた。それを見ていたもう一人の男は唖然とする。

「終わりましたか?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「それでは、あなたの・・・」
「ひぃぃぃ!?す、すいませんでした!」
「ちょ、兄貴!」

 レックスがしゃべっている途中で彼の後ろの道へと逃げ出す二人。そんな彼らに何者かが黒いロープを投げて襲い掛かる。

「「なっ!?」」
「!?」

 身体全体に絡みつき身動きが取れず倒れる男達。
 そのロープを縛った者にレックスは見覚えがあった。

「あなたは・・・」
「んふふ♪どうも、レックス」

 褐色肌で耳の長い種族であるダークエルフのシャマだった。彼女は両手の黒いロープで二人を拘束したのだ。後ろには同じ種族の女性が二人いて、拘束した男たちを担ぎ始める。

「通報があってね。不当な若者がいたいけな少女を縄で捕まえようとしているって」
「そうでしたか・・・」
「でも、先に助けが来ていたのは予想外ね。ありがとう」

 彼女はそう言うと男を担いだ彼女らと去って行った。いまだに動けない少女に近づき、手足のロープを解く。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

 手足が自由になり、赤い帽子を被りながらゆっくり立ち上がる少女。その姿はまるでニワトリに近い種族のようだ。

「ああ、で、でもどうしよう・・・あれ落としちゃった・・・」
「どうかされましたか?」
「あ、あの、この・・・箱の中身の」

 彼女が出した箱は人の拳くらいの大きさで、中は横線のような何かを挟める構造になっている。

「中身は一体どんな物ですか?」
「え、えっと・・・その・・・ゆ、指輪です」
「指輪ですか・・・よろしければお探しますよ」
「え!そ、そんな!あなたに悪いです!」
「ですが大事な物でしょう。私が全力で探させていただきます」
「い、いいんですか?見ず知らずの私のために?」
「たった今知り合いましたが、何か問題が?」
「い、いえ、そんなことないです」
「申し遅れました。私はレックスと申します。あなたのお名前は?」
「わ、私はコカトリスのワッコです。よ、よろしく」

 レックスは彼女と一緒に歩いて落とした指輪を探し始める。話を詳しく聞くと、彼女は本来、配達員として速達の郵便物である指輪を届ける予定だった。そんな中、彼女に付き纏う輩が現れて追いかけられる際、弾みで落としてしまったらしい。

「こ、これじゃあ、配達員失格です」
「そうでしたか。では、一刻も早い発見が必要ですね」
「で、でも、走り回ったから、何処で落としたのか・・・あんなに小さい指輪を」
「ご心配なく。全センサーで捜索します」
「ぜ、ゼンセンサー?」

 彼は立ち止まり、全てのセンサーを解放して周囲を探る。すると探知センサーに小さな金属反応を感知した。

「ここから、約25m先の道に小さな反応を確認。」
「え、ええ!?もう見つかったのですか!?」
「目標の可能性あり。行きましょう」

 彼の言う通りにその場所へ向かうと光る小さな物が見えた。近づいてみるとそれは銀色に輝く指輪だった。彼が拾い上げて彼女に見せると驚きの声を上げる。

「す、凄い!間違いないです!受取人のイニシャルが入っています!」
「では、すぐに配達を」
「あ、は、はい!」

 彼女は箱に指輪を入れて姿が消えるかのように走り出す。

「鳥類のロードランナーに酷似。早いですね」

 抜かりなく彼女の特徴をスキャンするレックス。生体センサーによると此処から対して離れていない距離で高速で移動する彼女の反応が止まる。彼はその付近に向かい、様子を窺う。上手く配達できたらしく、彼女と受取人は喜びの笑みを浮かべていた。

 その光景を見て彼は微笑み、任務に戻ろうと足を動かす。その時、高速で急接近する反応に気付き、その方向に目を向けた。目の前にやって来たのは先程のコカトリスの少女だった。

「あ、あの・・・」
「無事に届けられたのであればお礼は結構です」
「い、いえ、その・・・よろしければ、一緒にお食事しませんか?」
「お仕事中なのでは?」
「きょ、今日の配達は、あれでもうありません。ですので・・・」
「困りましたね。私は人間ではないので有機物を食すことはできません」
「え、ええ!?」

 レックスの発言に驚く彼女。
 彼女からして見れば普通の男性に見えるのだから無理もない。

「そうですね。食べることは出来ませんが、お食事の付き合いでしたら可能です」
「そ、そうですか・・・じゃあ、案内しますね」

 彼女に案内されてある民家にやって来るレックス。ここは彼女の自宅らしい。テーブルの椅子に座らされてしばらく待つと、彼女はコーヒーとビスケットを持って来る。ワッコは彼と対面に座った。

「あ、あの・・・に、人間じゃないのですか?」
「正確には人の手によって創られた戦闘用人型兵器です。我々の世界ではロボット、又はアンドロイドと呼ばれています。」
「せ、世界?ひょ、ひょっとして・・・最近、話題になっている・・・」
「異世界から訪問した部隊。私もそのドラグーン隊の一員です。この世界ではゴーレムという者に類似しているそうです」
「ご、ゴーレムなんですか!?どうみても男にしか・・・」
「この姿は本体に適切な形状として形成されている身体です。言い換えれば借りの姿です」

 そう言いながら彼は右腕を上げて外装の液体金属を変化させながら本体を露出させた。金属のフレームで形成された複雑な機械腕が現れ、彼女はその腕に目を丸くして驚く。腕を戻し下ろすレックス。

「ふえ、す、凄いです・・・」
「本来は行いませんが、ご理解していただくために、本体の一部を露出させました」
「あ、あの時の光は、魔法かと・・・」
「あれも本体に搭載されている武器の一種です」

 レックスが説明すると、彼女は暗い表情で涙目になる。
 それを見て彼は心配して話し掛けた。

「どうされましたか?」
「せ、せっかく、助けてくれた人が、人じゃないって、私、運が悪いなぁ」
「申し訳ございません」
「あ、い、いえ!レックスさんが悪い訳じゃないです!わ、私の運が悪かっただけです」
「ですが・・・」
「わ、私、最近、お婿さんが欲しいなって思っていて、それで憧れていたら、あんな目にあって、そしたら運命の人が現れたって、勝手に勘違いして・・・馬鹿だな、私」
「それは違うと思います」
「え?」

 彼女が自虐することを止めるため、彼は否定の言葉を掛ける。

「誰もが幸福な選択を選べている訳ではありません。幸福もあれば不運もあります。その逆も然り。現にあなたは私に助けられてそして勘違いという不運に見舞われた。でも、その不運もいずれ、別の幸福によって打ち消される筈です」
「レックスさん・・・」
「そんなに気を落とさないで下さい」
「あ、ありがとうございます。私のために、そう言ってくれて」

 手の翼で涙を拭い、にこやかな顔になるワッコ。

 この後、レックスは彼女と話し続ける。ワッコ自身のコカトリスの特徴。彼女が知っている種族の特徴。レックスは元の世界の情報。部隊の簡単な特徴。現在、部隊の最優先任務。

 話している間に時は過ぎ、彼女も軽い昼食を取る。そろそろ戦艦に戻ろうと立ち上がるレックスに彼女は少し待って欲しいと頼んできた。

「ちょ、ちょっと待っていて下さい。す、少しだけ時間が、掛かりますが・・・」

 そう言って彼女は奥の部屋に行って、鍵を閉めて閉じ籠る。数十分後、鍵が開いて出て来ると、彼女は両手で持つぐらい大きな卵を抱えていた。それを清水で洗い、布に包むと彼に差し出した。

「これは・・・」
「わ、私の産んだ卵です。よ、よかったら・・・」
「ですが、あなたの大事な卵なのでは?」
「ま、まだ、番のいない、み、未婚ですから・・・む、無精卵なので、食べても大丈夫です。お、お仲間さんに、食べさせてあげて下さい」

 レックスも少々、戸惑いながらも彼女の卵を受け取った。受け取った彼を見て赤面するワッコ。そんな彼女を見てレックスは微笑みながらお辞儀をした。

「ドクターにいいお土産ができました。ありがとうございます」
「い、いえ・・・こちらこそ、ありがとうございました」
「また、機会があれば寄ってもよろしいですか?」
「え、ええ!?」
「卵目当てではありませんのでご心配なく」
「もう!」

 困るような言葉を掛けながら、レックスはその場を立ち去った。
 歩きながら抱えた卵に目を向けるレックス。

(これほどの大きさとなると5人分以上ありますね。明日の全員分の朝食用に保存しましょう)
11/07/22 13:07更新 / 『エックス』
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