雌豚ブートキャンプ
切っ掛けは夕食の席での何気ない一言だった。
「さくらちゃん、もしかして太った?」
オークのさくらは泣いた。身長180センチメートル、体重90キログラムオーバーの巨体を揺すりながら泣きに泣いた。泣きながら、丼ぶりご飯をお代わりし、ついでとばかりに大皿のおかずを平らげた。そして、引き留めようとする小柄なダーリンを優しく突き飛ばすと夜の町へ消えていった。
距離にして凡そ100メートル。いつしか涙は枯れ果て、空腹と疲れを覚えたさくらは近場の四郎系ラーメンへ雪崩込んだ。
「豚大ですね。ニンニク、入れますか?」
「全マシマシでお願いします」
はひぃふひぃと麺を啜り野菜と肉を喰らうこと計四杯。さくらはえっちらおっちらと帰路に着き、ダーリンにただいまを伝えると一人淋しく眠りに就いた。
「っていうことがあってね!ダーリンったら酷くない!?そういう所も雌豚的には素敵なんだけどさ!」
「あー、そうだね」
時分は昼時。同僚であるオークの媛にそう愚痴を言いながら、さくらは唐揚げトッピング、マヨ増し、温玉ダブル乗せのゴッツ盛りを啜った。啜りに合わせて腹周りの贅肉がプルプルと揺れる。揺れる贅肉を肴に、媛はサラダチキンを囓った。
「おひょ!媛ちゃんの助平!」
「今日日、助平って。それにしても、これがラブハンドルってやつか」
掴み揺すられる腰周りの贅肉の振動に合わせ、太ももがプルプルと震えた。さくらは辱めを受けたという怒りと恥ずかしさにポヨポヨと震えた。
「もー、いくら親友だからってさすがに怒るよ!」
「ごめんて。けど、太ったってのは事実でしょ。ダーリン君と長いことよろしくヤりたいなら、少しは痩せた方が良いんじゃないの?」
突き込んだ人差し指を押し返すモチッとした反発。媛は餅よりかパン生地みたいだなーと思った。
「やっぱり、そうなのかなー」
そう呟きながらさくらは箸を置いた。食事を中断したのではなく、食べ切ったためにだ。
「そりゃ少しはぽっちゃりしてた方がオークっぽいけど、限度ってもんがあるでしょ」
ぽっちゃりを通り越した体型。良く言えばわがままボディ。有り体に言えば肥満体型だ。自分でそう分かっていながらも、さくらは痩せられずにいた。
「そもそも、どんな生活してんのさ」
「えー、普通だと思うよ?まず、起きたら朝勃ちセックスでしょ?朝ご飯を食べて、食後のデザートセックス。身なりを整えたら行ってらっしゃいのフェラチオして、私も出勤。家に帰ったらお風呂と晩ごはんの支度してー、ダーリンが帰って来たらお帰りなさいの即尺イラマチオ。晩ごはんを食べて、食後のデザートセックス。その後、一緒にお風呂でマットプレイしながら洗いっこして、上がったら寝るって感じかなー」
「……ノーコメントで。それにしても、ダーリン君、凄いな」
「でっしょー!なんてったって、私のダーリンだからね!それに毎日いっぱいヤれるように、魔界の食べ物をたくさん使ったスタミナ料理を一緒にいっぱい食べてるの!」
さくらが余りの良妻っぷりに胸を張ると、胸とお腹が揺れた。
「え!?あんたも同じの食べてんの?」
「そうだよー?」
「そりゃ、いくら魔物でも太るって。ダーリン君、現場仕事か何かでバリバリ働いてる上に、貴方のご主人様でしょ?」
「そうだよ?」
「で、あんたはデスクワークのオフィスレディで夜はご主人様に組み敷かれてアヘるだけ。運動量が違うわな」
「……事実だけど酷いよぉ」
ぺしょぺしょと泣き散らすさくらを媛は優しく慰めた。大きな食べ盛りの赤ちゃんをあやす母親の気分である。おー、よしよし。
「栄養管理も大事だけど、運動もしな?」
「うん……すっご!」
慰められながら媛のシャツをめくり上げると、そこには板チョコがあった。バキバキのシックスパック。腹筋の割れ目に指を這わせて上から下へとなぞる。そして、たどり着いたお臍へ指を突っ込むと、うひっ!という叫びの後に拳骨が降ってきた。
「いったーーい!これは助平な腹筋してる媛ちゃんが悪いでしょ!」
「う、うるさい!もう一発いくぞ!」
「キャー!こわ〜い!」
こうして昼休みは過ぎていった。
翌日の昼休み。二人のオークは昨日と同じように談笑しながら昼食の最中。さくらの昼食はクイーン牛丼のクアトロチーズトッピングと、サイドメニューのキムチだ。
「そう言えばさ、昨日話した運動のことだけどなんとかなりそうだよ」
「うえ!?そうなの!?」
「うえって何だよ。……もう少し痩せた方が、ダーリン君はもっと興奮するんじゃないの?」
「……私、頑張るよ!」
チョロいなーと思いながらそれを口に出さない優しさが、まだ媛には残されていたようだ。
「で、あんたに運動教えてくれるのが隣の課の課長、アマゾネスのリリィ」
「媛ちゃん、あのバリキャリアマゾネスと友達なの!?」
この会社において、アマゾネスのリリィはまさに女傑であった。魔界産まれの魔界育ちながら立身出世のため単身で日本へ殴り込みを敢行。爪を隠すつもりが無い有能な鷹は出世街道を爆進し、実力でもって課長の座を奪取。部長昇進も秒読みの中、ゴリマッチョのジムトレーナーを拉致監禁し婿入りさせたという噂もあるが、本人はどこ吹く風である。
「あー、課長になる前からの友達というかジム仲間?あたしもあいつも、旦那を尻に敷くタイプだから馬が合うんだよね。あたしはオークだけど。んで、やっぱ男を尻に敷くことにかんしちゃアマゾネスが一番だと思うわけよ。それに、あいつの裸すごいから。筋肉バキバキのくせにおっぱいも尻もでけーのなんの。ダイエット教えてもらえよ」
「でもさでもさ!そんなに筋肉あるとさ、色々硬そうじゃない?やっぱ私達オークの魅力って、このモチフワボディな——」
「ところがどっこい、あいつのおっぱいと尻は柔らかかった。例えるなら、張りのあるバカでかいマシュマロ。思わず揉みしだいたらガチ目に引っ叩かれて鳴いたけど」
「怖いよぉ……」
「変なことしなけりゃ大丈夫だって。それじゃ、仕事が終わったらこのジムに行くこと!いいね?」
嘘泣きをしながらチラチラと横目で助けを求めてくるさくらに発破を掛けた媛は、畜産家の人ってこんな気分なのかもしれないなー、と思った。
場所は変わり、ここは媛がさくらに場所を教えたジム。プラチナジムと書かれた看板がスポットライトで煌々と照らし出され、その両脇ではダブルバイセップスを決めるオーガとサイドチェストを決めるアマゾネスの彫像が周囲に笑顔を振り撒いている。
「お前が媛の話していたオークか。……なんだそのだらしない体つきは!!」
そのジムの一室に雷鳴が轟いた。
「ひえっ!」
「逃げずに来た事は評価に値する。だが……その締まりのない顔!」
「あぅ……」
「大きいだけで垂れた胸!」
「……」
「弛んだ腹!」
「あっ……イイカモ」
「ダルダルの尻!」
「……あっあっ、罵声いいかも!」
「真面目に聞かんかぁあ!」
「ピギィイイ!」
リリィはさくらの服を捲り上げ、お腹に強烈な平手打ちをかました。ッパァアン!という炸裂音の後にさくらの肢体ポヨヨヨヨ!と震える。
「今日から貴様を立派なオークの戦士に鍛え直す!
血反吐を吐いてもついて来い!分かったか、この豚ァ!」
「はひぃい!雌豚でごめんなさいぃいい!」
それからさくらとって地獄の日々が続いた。
「全ての基礎は体力だ!怠けず走れ!」
「あひぃ……ぷひぃ……」
毎日しこたま走らされ——
「貴様の雄がトロ顔でキス待ちしてると思って体を持ち上げろ!」
「んぎぎぎ!……ん、ん〜!」
「唇だけ突き出すな!しっかり懸垂しろ!」
「ぴゃああん!」
時おり尻や腹をシバかれ——
「おっぱいが邪魔で腕立て伏せができません〜!」
「黙れっ!」
理不尽に晒されながら——
「そうだ!その調子で腰を落とせ!子種を最後の一滴まで搾り尽くすつもりでスクワットだ!」
「はい!ヤッてやります!」
耐えきった。やりきった。さくらは地獄のような雌豚卒業ブートキャンプを完遂したのだ。
「これが……私?」
姿鏡の前でさくらは呟いた。
見よ、この鍛え上げられた肉体を!古代ギリシャの彫刻もかくやと浮き出たカットを!その筋肉に下支えされたハリのあるおっぱいとお尻を!
「今日をもって貴様は雌豚を卒業する。貴様は真のオークの戦士だ!その誇り胸に、雄を犯してこい!」
「はい!リリィさん!」
さくらは威風堂々と帰路へ着いた。
「カッコいいけど、硬すぎるのはちょっと嫌、かな?」
さくらは泣いた。恥も臆面もなく無くわんわん泣いた。鍛え抜かれた心肺機能によって繰り出された泣き声がわんわんと家中に木霊し、窓ガラスを粉々に砕いた。そして、慰めようとするダーリンの手を優しく振り払うと、さくらは夜の町へ疾走った。
10キロメートルを休みなく風のように疾走り抜けた。いつしか涙は枯れ果て、そう言えば晩ご飯がまだだったなと思い出したさくらは、とぼとぼと帰路へ着いた。
風通しが良くなったリビングで、ダーリンが独りさくらの帰りを待っていた。テーブルの上には焦げていたり盛り付けが汚かったりする料理がある。
「あ、おかえりなさい」
「……ただいま」
「この間、僕が太った?なんて聞いたのが良くなかったよね。ごめんなさい。僕のために頑張ってダイエットしてくれたのに、酷いこと言ってごめんなさい」
「……うん、大丈夫」
「……ありがとう。どんな姿でも、さくらちゃんはさくらちゃんだものね」
「うん」
「美味しいねって嬉しそうに笑うさくらちゃんの顔が見たくて、下手っぴだけど晩ご飯作ってみたんだ。一緒に食べてくれる?」
「うん……あのさ、食べ終わったらさ」
「食べ終わったら?」
「いっぱい仲直りしようね?」
「そうだね」
「っていうことがあってね!ダーリンったら酷くない!?そういう所も雌豚的には素敵なんだけどさ!」
そこには、そんな愚痴を言いながらも、ダーリン特製弁当を幸せそうに頬張るぽっちゃりオークがいた。
雌豚ブートキャンプ、完!!
「さくらちゃん、もしかして太った?」
オークのさくらは泣いた。身長180センチメートル、体重90キログラムオーバーの巨体を揺すりながら泣きに泣いた。泣きながら、丼ぶりご飯をお代わりし、ついでとばかりに大皿のおかずを平らげた。そして、引き留めようとする小柄なダーリンを優しく突き飛ばすと夜の町へ消えていった。
距離にして凡そ100メートル。いつしか涙は枯れ果て、空腹と疲れを覚えたさくらは近場の四郎系ラーメンへ雪崩込んだ。
「豚大ですね。ニンニク、入れますか?」
「全マシマシでお願いします」
はひぃふひぃと麺を啜り野菜と肉を喰らうこと計四杯。さくらはえっちらおっちらと帰路に着き、ダーリンにただいまを伝えると一人淋しく眠りに就いた。
「っていうことがあってね!ダーリンったら酷くない!?そういう所も雌豚的には素敵なんだけどさ!」
「あー、そうだね」
時分は昼時。同僚であるオークの媛にそう愚痴を言いながら、さくらは唐揚げトッピング、マヨ増し、温玉ダブル乗せのゴッツ盛りを啜った。啜りに合わせて腹周りの贅肉がプルプルと揺れる。揺れる贅肉を肴に、媛はサラダチキンを囓った。
「おひょ!媛ちゃんの助平!」
「今日日、助平って。それにしても、これがラブハンドルってやつか」
掴み揺すられる腰周りの贅肉の振動に合わせ、太ももがプルプルと震えた。さくらは辱めを受けたという怒りと恥ずかしさにポヨポヨと震えた。
「もー、いくら親友だからってさすがに怒るよ!」
「ごめんて。けど、太ったってのは事実でしょ。ダーリン君と長いことよろしくヤりたいなら、少しは痩せた方が良いんじゃないの?」
突き込んだ人差し指を押し返すモチッとした反発。媛は餅よりかパン生地みたいだなーと思った。
「やっぱり、そうなのかなー」
そう呟きながらさくらは箸を置いた。食事を中断したのではなく、食べ切ったためにだ。
「そりゃ少しはぽっちゃりしてた方がオークっぽいけど、限度ってもんがあるでしょ」
ぽっちゃりを通り越した体型。良く言えばわがままボディ。有り体に言えば肥満体型だ。自分でそう分かっていながらも、さくらは痩せられずにいた。
「そもそも、どんな生活してんのさ」
「えー、普通だと思うよ?まず、起きたら朝勃ちセックスでしょ?朝ご飯を食べて、食後のデザートセックス。身なりを整えたら行ってらっしゃいのフェラチオして、私も出勤。家に帰ったらお風呂と晩ごはんの支度してー、ダーリンが帰って来たらお帰りなさいの即尺イラマチオ。晩ごはんを食べて、食後のデザートセックス。その後、一緒にお風呂でマットプレイしながら洗いっこして、上がったら寝るって感じかなー」
「……ノーコメントで。それにしても、ダーリン君、凄いな」
「でっしょー!なんてったって、私のダーリンだからね!それに毎日いっぱいヤれるように、魔界の食べ物をたくさん使ったスタミナ料理を一緒にいっぱい食べてるの!」
さくらが余りの良妻っぷりに胸を張ると、胸とお腹が揺れた。
「え!?あんたも同じの食べてんの?」
「そうだよー?」
「そりゃ、いくら魔物でも太るって。ダーリン君、現場仕事か何かでバリバリ働いてる上に、貴方のご主人様でしょ?」
「そうだよ?」
「で、あんたはデスクワークのオフィスレディで夜はご主人様に組み敷かれてアヘるだけ。運動量が違うわな」
「……事実だけど酷いよぉ」
ぺしょぺしょと泣き散らすさくらを媛は優しく慰めた。大きな食べ盛りの赤ちゃんをあやす母親の気分である。おー、よしよし。
「栄養管理も大事だけど、運動もしな?」
「うん……すっご!」
慰められながら媛のシャツをめくり上げると、そこには板チョコがあった。バキバキのシックスパック。腹筋の割れ目に指を這わせて上から下へとなぞる。そして、たどり着いたお臍へ指を突っ込むと、うひっ!という叫びの後に拳骨が降ってきた。
「いったーーい!これは助平な腹筋してる媛ちゃんが悪いでしょ!」
「う、うるさい!もう一発いくぞ!」
「キャー!こわ〜い!」
こうして昼休みは過ぎていった。
翌日の昼休み。二人のオークは昨日と同じように談笑しながら昼食の最中。さくらの昼食はクイーン牛丼のクアトロチーズトッピングと、サイドメニューのキムチだ。
「そう言えばさ、昨日話した運動のことだけどなんとかなりそうだよ」
「うえ!?そうなの!?」
「うえって何だよ。……もう少し痩せた方が、ダーリン君はもっと興奮するんじゃないの?」
「……私、頑張るよ!」
チョロいなーと思いながらそれを口に出さない優しさが、まだ媛には残されていたようだ。
「で、あんたに運動教えてくれるのが隣の課の課長、アマゾネスのリリィ」
「媛ちゃん、あのバリキャリアマゾネスと友達なの!?」
この会社において、アマゾネスのリリィはまさに女傑であった。魔界産まれの魔界育ちながら立身出世のため単身で日本へ殴り込みを敢行。爪を隠すつもりが無い有能な鷹は出世街道を爆進し、実力でもって課長の座を奪取。部長昇進も秒読みの中、ゴリマッチョのジムトレーナーを拉致監禁し婿入りさせたという噂もあるが、本人はどこ吹く風である。
「あー、課長になる前からの友達というかジム仲間?あたしもあいつも、旦那を尻に敷くタイプだから馬が合うんだよね。あたしはオークだけど。んで、やっぱ男を尻に敷くことにかんしちゃアマゾネスが一番だと思うわけよ。それに、あいつの裸すごいから。筋肉バキバキのくせにおっぱいも尻もでけーのなんの。ダイエット教えてもらえよ」
「でもさでもさ!そんなに筋肉あるとさ、色々硬そうじゃない?やっぱ私達オークの魅力って、このモチフワボディな——」
「ところがどっこい、あいつのおっぱいと尻は柔らかかった。例えるなら、張りのあるバカでかいマシュマロ。思わず揉みしだいたらガチ目に引っ叩かれて鳴いたけど」
「怖いよぉ……」
「変なことしなけりゃ大丈夫だって。それじゃ、仕事が終わったらこのジムに行くこと!いいね?」
嘘泣きをしながらチラチラと横目で助けを求めてくるさくらに発破を掛けた媛は、畜産家の人ってこんな気分なのかもしれないなー、と思った。
場所は変わり、ここは媛がさくらに場所を教えたジム。プラチナジムと書かれた看板がスポットライトで煌々と照らし出され、その両脇ではダブルバイセップスを決めるオーガとサイドチェストを決めるアマゾネスの彫像が周囲に笑顔を振り撒いている。
「お前が媛の話していたオークか。……なんだそのだらしない体つきは!!」
そのジムの一室に雷鳴が轟いた。
「ひえっ!」
「逃げずに来た事は評価に値する。だが……その締まりのない顔!」
「あぅ……」
「大きいだけで垂れた胸!」
「……」
「弛んだ腹!」
「あっ……イイカモ」
「ダルダルの尻!」
「……あっあっ、罵声いいかも!」
「真面目に聞かんかぁあ!」
「ピギィイイ!」
リリィはさくらの服を捲り上げ、お腹に強烈な平手打ちをかました。ッパァアン!という炸裂音の後にさくらの肢体ポヨヨヨヨ!と震える。
「今日から貴様を立派なオークの戦士に鍛え直す!
血反吐を吐いてもついて来い!分かったか、この豚ァ!」
「はひぃい!雌豚でごめんなさいぃいい!」
それからさくらとって地獄の日々が続いた。
「全ての基礎は体力だ!怠けず走れ!」
「あひぃ……ぷひぃ……」
毎日しこたま走らされ——
「貴様の雄がトロ顔でキス待ちしてると思って体を持ち上げろ!」
「んぎぎぎ!……ん、ん〜!」
「唇だけ突き出すな!しっかり懸垂しろ!」
「ぴゃああん!」
時おり尻や腹をシバかれ——
「おっぱいが邪魔で腕立て伏せができません〜!」
「黙れっ!」
理不尽に晒されながら——
「そうだ!その調子で腰を落とせ!子種を最後の一滴まで搾り尽くすつもりでスクワットだ!」
「はい!ヤッてやります!」
耐えきった。やりきった。さくらは地獄のような雌豚卒業ブートキャンプを完遂したのだ。
「これが……私?」
姿鏡の前でさくらは呟いた。
見よ、この鍛え上げられた肉体を!古代ギリシャの彫刻もかくやと浮き出たカットを!その筋肉に下支えされたハリのあるおっぱいとお尻を!
「今日をもって貴様は雌豚を卒業する。貴様は真のオークの戦士だ!その誇り胸に、雄を犯してこい!」
「はい!リリィさん!」
さくらは威風堂々と帰路へ着いた。
「カッコいいけど、硬すぎるのはちょっと嫌、かな?」
さくらは泣いた。恥も臆面もなく無くわんわん泣いた。鍛え抜かれた心肺機能によって繰り出された泣き声がわんわんと家中に木霊し、窓ガラスを粉々に砕いた。そして、慰めようとするダーリンの手を優しく振り払うと、さくらは夜の町へ疾走った。
10キロメートルを休みなく風のように疾走り抜けた。いつしか涙は枯れ果て、そう言えば晩ご飯がまだだったなと思い出したさくらは、とぼとぼと帰路へ着いた。
風通しが良くなったリビングで、ダーリンが独りさくらの帰りを待っていた。テーブルの上には焦げていたり盛り付けが汚かったりする料理がある。
「あ、おかえりなさい」
「……ただいま」
「この間、僕が太った?なんて聞いたのが良くなかったよね。ごめんなさい。僕のために頑張ってダイエットしてくれたのに、酷いこと言ってごめんなさい」
「……うん、大丈夫」
「……ありがとう。どんな姿でも、さくらちゃんはさくらちゃんだものね」
「うん」
「美味しいねって嬉しそうに笑うさくらちゃんの顔が見たくて、下手っぴだけど晩ご飯作ってみたんだ。一緒に食べてくれる?」
「うん……あのさ、食べ終わったらさ」
「食べ終わったら?」
「いっぱい仲直りしようね?」
「そうだね」
「っていうことがあってね!ダーリンったら酷くない!?そういう所も雌豚的には素敵なんだけどさ!」
そこには、そんな愚痴を言いながらも、ダーリン特製弁当を幸せそうに頬張るぽっちゃりオークがいた。
雌豚ブートキャンプ、完!!
25/12/02 17:29更新 / 何野某