爛れ
不意に感じた下半身の解放感と、何かがのしかかる重みで衛治は目を覚ました。未だに重たい瞼を擦りながら下半身に目を向ける。そこにいる重みの主は、一年程前から彼の部屋に居座り始めた同居人であり、同じ大学に通う学友、そして恋人でもある真宵(まよい)だ。
スウェットのズボンと下着を脱がされ、昨夜の余韻が残る朝勃ちした肉棒が曝け出される。真宵は肉棒を咥えると、もどかしい程にゆっくりとした抽送を始めた。真宵の唇が、口蓋が、舌が、衛治の肉棒を苛む。熱く、緩い快感に脳を蕩けさせながら、衛治は時計を見た。土曜日の午前10時過ぎ。
ごく僅かな痛みが肉棒に走った。下半身に視線を戻すと、真宵がこちらを不満気に睨み付けている。
「ごめんね」
そう謝りながら真宵の後頭部に手を乗せると、緩やかな抽送が再開された。今日は大学の講義や他の用事がある訳でもない。衛治はその快感を耐えることなく受け入れた。少しづつ、少しづつ高まっていく射精感に、自然と彼女の後頭部を抑える手に力が入る。衛治の限界が近いと分かった真宵は、そうと分かっていながら抽送の速度を上げなかった。むしろ、頭を押さえる手を優しく退けながら、時に咥えた口を離して竿を舐め上げたり、鈴口へ細く熱い息を吹き掛けたりさえした。今にも限界が近い肉棒は、なんの事もない刺激で果てそうなものだ。しかし、どういう訳か衛治は真宵の中か手足による行為でしか果てることが出来なかった。ともすれば加虐的にもとれる遅々とした口婬を衛治はただ受け入れている。これは彼女と交わした約束なのだ。
衛治と真宵が通う大学は所謂、人妖共学のものだ。いつの間にか居座っていた真宵も何かしらの妖怪なのだと衛治は知りながら、精の摂取は口婬のみとし、まぐわう時にはコンドームを付けることを約束させた。それは、安くない学費を捻出してくれている両親への誠意であり、次々と消えていく同期達のなか、自分は必ず卒業するのだという小さな矜持の現れ。真宵はこれを快く受け入れたが、彼女も約束を交わさせた。一つ、毎朝の口婬を受け入れること。一つ、いついかなる時も求めに応じ、まぐわうこと。爛れきった性生活の中に残された、0.01ミリメートルの良心。いつ破れるとも分からない薄氷の上に、2人の暮らしはある。
枝にまとわる蛇の如く肉棒に絡み付く真宵の舌。その舌先が裏筋を、カリ首をちろちろと舐め上げる。
「お願いします、いかせて下さい」
涙交じりの懇願を受け、真宵は抽送を速めた。強く窄められた唇と熱く柔らかな舌が肉棒を扱き、絶頂へと誘う。真宵は口内の奥に吐き出された精液に一瞬顔を顰めるが、それは一瞬で恍惚としたものに変わった。咥えたままの肉棒へ精液を塗り付け、なおもしゃぶりつく。真宵の唾液と衛治の精液とが混ざった潤滑液が舌の動きをより滑らかにする。過敏な亀頭を舌先が撫でると、衛治は再びの絶頂に至った。
真宵は唇を窄めたまま肉棒を口内から引き抜き、尿道に残る僅かな精液も残すまいと鈴口を吸い上げる。口内へ溜まった精液を艶めかしい動きで舌が掻き集め、飴玉を与えられた子供がするように舌で転がし、至上の甘露であるかのようにゆっくり嚥下した。
「ご馳走様」
見せつけるように開かれた口内に精液は残っておらず、滑る唾液のてかりが口内の赤を際立たせている。
衛治はぴりぴりとした気怠い腰の疲れに任せ、このまま二度寝をしたいところであった。しかし、空腹がそれを許さない。怠い体に喝を入れて立ち上がり、下着とズボンを履き直す。
窓を開けてすえた空気を追い出しにかかるが、代わりに入ってくるのは温まり始めた外気だった。それでも何もしないよりは幾分ましであると、衛治は深呼吸を一つする。
「朝ご飯にしましょうか」
遅い朝食の支度をしながら、衛治は真宵を見た。開け放たれた窓の枠にもたれる真宵は、物憂げな表情で煙管を燻らせている。飾り気の無い黒色のタンクトップと、それを持ち上げる豊満ながら張りのある乳房。タンクトップの隙間から垣間見える刺青。少しばかりハーフショーツが食い込んだ丸い臀部と、そこから伸びる足先への緩やかな曲線美。
真宵がこの部屋に居座り始めたのはいつからだっただろうか。去年の春頃だった気もするし、それよりも前だったかもしれない。それまで特に接点も無く過ごしていたのだが、ある日を境に歯ブラシが置かれ、衣服も置かれた。ベッドは狭いまま、枕が二つに増えた。真宵の好きな日本酒の銘柄が冷蔵庫に常備され、料理の味付けは彼女好みのものになった。いつの間にか真宵は衛治の全てになっていた。居て当たり前の存在、真宵。大事な存在なはずなのに、出会いの記憶は曖昧なままだ。
「よし、完成」
そんなもやもやとした気持ちを振り払い、出来上がった料理をそれぞれの席へ配膳する。真宵はいつの間にか席に着いていて、衛治を待っていた。
「いただきます」
ご飯、味噌汁、ベーコンエッグ、サラダ。質素ではあるが、真宵はこういった食事を好んで良く食べた。ご飯の硬さ、味噌汁の出汁を変えたかどうか、目玉焼きの黄身の焼け具合、好きなドレッシングの味。他愛のない会話をしながら二人は朝食を食べ進めていく。
「ご馳走様でした」
真宵に食後のお茶を淹れると、衛治はシンクに向かった。窓から聞こえる町の音を聞きながら洗い物をしていると、背中に柔らかなものが当たる。
「洗い物の最中は危ないですよ?」
「減るものでもなし、いいじゃないか」
うなじに感じる呼吸の温かさ、背中に押し付けられた胸の柔らかさ、優しくあるが解くことの出来ない腕の縛め。
右手の人差し指が衛治の胸板の上を彷徨い、左手の手の平がズボンの上から肉棒を撫でた。これまでの付き合いで分かる。本気ではない時の求め方、たんなる戯れ。あるいは何かを誤魔化そうとする時の仕草。
「君はさ、私がなんの妖怪か気にならないのかい?」
努めて飄々とした風を装ってはいるが、声色に僅かな不安が混じっていた。
「……気にはなりますよ。けど、真宵さんが言いたくないなら知らなくてもいいんです」
「優しいんだね」
衛治はその言葉に何かを返すでもなく、黙々と洗い物を続けた。戯れが終わり、縛めが解かれる。背中の寂しさに、衛治は洗い物を止めて振り返った。
「何も用事の無い土曜日だ。長い夜に備えて、また一眠りしようじゃないか」
言い表せない何かから逃げるようにして、真宵は衛治を引き連れて寝室へ戻った。
草木も眠る丑三つ時。真宵と衛治は互いに向き合いながらベッドに腰掛けていた。慣れたベッドの上のはずなのにどこか居心地が悪そうにする真宵を、衛治はじっと見つめている。
「……私はね、ぬらりひょんなんだ」
知っているだろう?という問いに、衛治は頷きを返した。
ぬらりひょん。いつのまにやら人の家に上がり込んでは茶を飲み煙管を燻らせ、まるで自分の家の様にくつろぎ始める妖怪。また、ぬらりひょんに上がり込まれた家の男は、同じ布団で同衾する彼女達の存在に違和感を覚える事ができないどころか、彼女達に抱かれる事が当然の様にすら感じられるという。
「自分の抱いている好意が自然な感情じゃなく、私の力によるものだと分かってがっかりしたかい?」
いつものように飄々とした様子を取り繕ってはいるが、その顔には僅かな陰が見えた。
「……始めこそ、そう感じさせられていたのかもしれません。ですが、がっかりなんてしていません。貴方のことが好きだというこの気持ちに、嘘偽りは無いんですから」
放っておくと煙の様に消えてしまうのではと感じられる真宵の肩を、衛治はしっかりと掴んだ。真宵はかっと朱の差した顔を背け、努めて冷静でいようとした。しかし、想い人に受け入れてもらえた喜び、幾度体を重ねても彼を信じ切れなかった自分の恥ずかしさがそれをさせなかった。
「真宵さん……いえ、真宵」
真宵の頬に当てられた衛治の手が、優しく互いを向き合わせた。火照った頬の熱が手の平を通じて伝播していく。二度、三度と口付けが交わされた。貪り合うものではない、慈しむような淡い口付け。
「……後悔しても知らないよ?」
「ぬらりひょんであろうとなかろうと、後悔なんてありえません」
真宵の細い指先が衛治の胸を撫でると、彼は耐え難い快感に襲われた。今までのものとは比べられない快楽。夜の支配者たるぬらりひょんの本領、その一端。
真宵が衛治の額を軽く突くと、彼は何も出来ぬまま仰向けに倒れた。快楽の熱に浮かされた頭のままぼうっと天井を見つめていると、視界の端に真宵が映る。どうにかそちらへ頭を向け、うっすらとぼやけた視点を定める。
まず、タンクトップに手が掛かった。たくし上げるようにして脱がれるそれに、乳房が持ち上げられる。その豊満な乳房は窮屈な支えが無くなるとゆさりと揺れ落ち、跳ねた。双丘の頂は硬く勃ち、その存在を痛々しい程に主張する。次に、ハーフショーツに手が掛けられた。秘所と、その触れ合っていた箇所との間に粘液が垂れ、ぷつりと途切れた。幾度も体を重ねてなお、生娘のようにぴたりと閉じた秘所からは愛液が溢れ、真宵の内腿を濡らしている。
真宵は背を向ける形で衛治の顔に跨り、胸板に両手を当てて体重を預けると秘所を擦り付けた。その意図を察した衛治は真宵の脚を抑え、愛液濡れになることも構わずに秘所へむしゃぶりついた。割れ目を舌先でなぞり、押し広げ、音を立てて啜る。咽返るような淫臭を浴びながら、衛治は渇きを覚えた。その渇きを癒すべく秘所をより強く口元に押し当て、舌を肉壺へ差し込む。差し込まれた舌が、ひだの一枚一枚から愛液を掻き取ろうと肉壺の中で蠢く。くぐもった喘ぎの中に嬌声が混じり始めた。衛治は肉壺から舌を抜くと、ぷっくりと膨らんだ陰核に吸い付いた。
「いっ、くぅ……あぁ!」
真宵は弓なりに反らされた体を痙攣させ、潮を吹きながら果てた。しとどに濡れた秘所を衛治の口にあてがったまま前へ倒れると、眼前では肉棒が痛々しい程に怒張しズボンを押し上げていた。
「私だけ気持ち良くなるのも、ね」
取り出された肉棒は先走りで濡れ、普段のそれよりも大きく硬く勃起している。真宵は舌舐めずりをすると、肉棒を一口で咥え込んだ。濃厚な雄の臭いが喉を抜けて鼻腔を満たす。そして、緩やかな抽送が始まった。
真宵の愛液をこれでもかと浴びてなお、衛治の渇きは癒えずにいた。目の前の雌を犯したいという止めどない渇望が渦を巻く。
衛治は真宵の体をしっかりと抱き締めると共々に体を横に向けた。真宵の太ももを枕に、秘所をしゃぶりながら喉へ肉棒を打ち付ける。目の前の雌を犯したい一心から来る粗暴な抽送。亀頭が喉を突く度に聞こえるくぐもった声とは裏腹に、秘所からは愛液が止めどなく流れ、濡れそぼる。高まる射精感から抽送が速まった。真宵は衛治の臀部に手を当てると抽送に合わせて頭を動かす。
衛治は肉棒を一際強く喉奥へ捩じ込むと射精した。直接流し込まれる精液が喉を打ち、獣臭と言えるほどの雄の臭いが脳を焼く。真宵は息つくこと無く喉を鳴らしながら精液を飲み下し、恍惚とした面持ちで肉棒を口から引き抜いた。
「ふぅ……無理矢理というのも、たまには悪くないものだね」
束の間の冷静さを取り戻して謝る衛治を気遣いながら、真宵は悪戯っ子を咎めるかのように肉棒を小さく指でつついた。
真宵は衛治を再び仰向けに寝かせて跨ると、反り返る肉棒の裏筋に秘所を擦り付け始めた。衛治は僅かに残った良心に従ってコンドームを手に取ろうとしたが、ふいに目の前が暗くなる。それは、ぬらりひょんが纏う闇だった。真宵は虚空を彷徨う衛治の手を握り、指を絡めた。絡めた手と指が強く握り返される。
視界が効かないために、衛治の意識は自然と擦り合わされる肉棒へ向けられた。亀頭が肉壺の入り口に触れる度に、このまま腰を突き上げてしまえと本能が猛る。
「ねぇ、今日だけでいいんだ。今日だけは、ありのままの君を感じさせてほしい」
熱を帯びた声色の懇願を受けて衛治は言葉なく頷くことしかできなかった。
肉壺の入り口に肉棒の先端が触れ、ゆっくりと差し込まれていく。柔らかな肉ひだの一つ一つが肉棒を愛撫し、奥へ奥へと誘う。肉棒を根元まで肉壺へ納めると、真宵は衛治の上へ倒れ込んだ。胸板の上で柔らかな双丘が潰れ、形を変える。真宵は衛治の首筋に顔を埋めると腰を動かし始めた。遮るものがない肉棒の形を覚えさせるようなゆっくりとした小刻みの抽送。肉ひだが肉棒全体を優しく愛撫し、亀頭が子宮口をこつこつと叩く。
「こうしていると、君の全部を感じられて、あぅ……幸せ。それに、んぅ!君のあそこ、いつもより大きいのに、さ、ぴったり入って、もう私の体は君専用だって分かるんだ」
真宵は腰を前後左右へ揺らし、円を描くようにくねらせた。肉棒が真宵の中を掻き回し、愛液と先走りとが撹拌されて泡立った体液が結合部から溢れ落ちる。
「んっ、はぁ……本当はもっと乱暴にしたいんだよね?ふふっ、君のことなら全部、んっ、分かるよ。けどね、もう少し君のことを私の中いっぱいで、あふぅ、感じていたいんだ」
真宵は衛治の喉元から口へと接吻の雨を降らせ、口内へ舌を滑り込ませた。口内の隅々までを舐ろうとする真宵の舌に衛治の舌が絡み付き、淫猥な水音と二人の荒い呼吸が部屋に満ちる。
「んちゅ、ふぅ、そこ、いい。うん、そう……私の一番奥、あっあっあっ!だめぇ!そんなにぃ、たくさんこつこつされたら、いっちゃう!いっちゃうから待って!あん!」
逃げようとする真宵の腰を捕まえ、子宮口を小刻みに突く。真宵はいやいやと頭を振って懇願するが聞き入れられず、ただ、だらしなく涎を垂らして喘ぐことしかできなかった。肉壺の締まりがきゅうきゅうと強くなり、限界が近いことを物語る。
「あっあっあっ、んぃい!駄目、だめぇ!ん、んちゅ、ぴちゅ……ぷはっ!くぅ、あっあっあっあっ!い、いく……い、っくぅうう!」
丸めた背中を震わせながら、快楽の波が過ぎ去るのを待つ。脱力した真宵は衛治の首元に顔を埋め、熱い吐息を浴びせた。
「ん、ふぁ……私だけ、先にいっちゃったね。次は一緒に、ね?」
衛治の顔にふぅと息を吹き掛けて視界を遮る闇を払うと、真宵は体を起こした。眩しさに眩む衛治の視界に指先が伸びる。その細くしなやかな指が、頬、首筋、胸板、下腹部を撫でた。
「今度は君をたくさん気持ち良くしてあげる」
真宵は肉壺を締めながら限界まで引き抜くと、一気に腰を打ち付けた。ことさらにゆっくりと見せ付けるように引き抜き、打ち付ける。肉ひだが捕らえた獲物を逃さないとばかりにカリ首へ絡み、亀頭が硬く締まった肉壺の壁をこじ開ける。杭を打つように腰を打ち付る度に、亀頭が子宮口を突き上げた。
「あっ、んっ……ふふっ、今の君の顔、凄いことになっているよ?いっぱい出したい、私のことを、あんっ、孕ませたいって顔をしてる。あっあっ、これ、中がゴリゴリされて、奥にも届いて良い」
どちゅ、ばちゅ、という湿り気を帯びた腰のぶつかり合う音が二人の鼓膜を叩いた。一突き毎に限界が迫り、肥大した亀頭が肉壺を抉る。
「ん、あうっ!もう限界なんだね?うん、分かってる、よ。一緒に、あぐぅ、いっしょにいこう?」
見せ付ける動きから搾り取る動きへと腰遣いが変わった。肉壺が肉棒をきつく締め上げ、時に柔らかく包み込み、少しでも早く、より多く精液を搾り取ろうと蠕動する。
衛治は真宵の腰を掴むと、打ち下ろしに合わせて子宮口を突き上げ続けた。目の前にいる己だけの雌を孕ませたいという獣欲。例え愛の上に成り立つものだとしても、二人のそれは人の形をした獣のまぐわいだった。
「それ、それすごい!あぐっ、うぅっ!駄目、だめだめ!いくっ!いぐぅうう!!」
限界まで引き抜いた肉棒を子宮口へ打ち付けるとともに二人は絶頂を迎えた。自身が溶けて無くなってしまうのではないかという程の強く長い射精。その熱い奔流が真宵の最奥へ注ぎ込まれる。
「はぁ……はぁ……ん、んぁっ、いっぱい、出たね?」
真宵は僅かに膨らんだ下腹部を愛おしげに撫でた。怒張した肉棒は未だに衰えず、栓をするようにぴったりと真宵の中へ納まっている。
「ふぁ……少し、眠くなってしまったね」
真宵が小さく欠伸をすると、衛治は彼女の頭を優しく撫で、乱れた髪を手で梳いた。
「……ありがとう。やっぱり、君は優しい、ね」
胸板に健やかな寝息を受けながら、衛治も欠伸をした。全身に宿った心地良い気怠さに身を任せ、二人は繋がったまま眠りに就いた。
スウェットのズボンと下着を脱がされ、昨夜の余韻が残る朝勃ちした肉棒が曝け出される。真宵は肉棒を咥えると、もどかしい程にゆっくりとした抽送を始めた。真宵の唇が、口蓋が、舌が、衛治の肉棒を苛む。熱く、緩い快感に脳を蕩けさせながら、衛治は時計を見た。土曜日の午前10時過ぎ。
ごく僅かな痛みが肉棒に走った。下半身に視線を戻すと、真宵がこちらを不満気に睨み付けている。
「ごめんね」
そう謝りながら真宵の後頭部に手を乗せると、緩やかな抽送が再開された。今日は大学の講義や他の用事がある訳でもない。衛治はその快感を耐えることなく受け入れた。少しづつ、少しづつ高まっていく射精感に、自然と彼女の後頭部を抑える手に力が入る。衛治の限界が近いと分かった真宵は、そうと分かっていながら抽送の速度を上げなかった。むしろ、頭を押さえる手を優しく退けながら、時に咥えた口を離して竿を舐め上げたり、鈴口へ細く熱い息を吹き掛けたりさえした。今にも限界が近い肉棒は、なんの事もない刺激で果てそうなものだ。しかし、どういう訳か衛治は真宵の中か手足による行為でしか果てることが出来なかった。ともすれば加虐的にもとれる遅々とした口婬を衛治はただ受け入れている。これは彼女と交わした約束なのだ。
衛治と真宵が通う大学は所謂、人妖共学のものだ。いつの間にか居座っていた真宵も何かしらの妖怪なのだと衛治は知りながら、精の摂取は口婬のみとし、まぐわう時にはコンドームを付けることを約束させた。それは、安くない学費を捻出してくれている両親への誠意であり、次々と消えていく同期達のなか、自分は必ず卒業するのだという小さな矜持の現れ。真宵はこれを快く受け入れたが、彼女も約束を交わさせた。一つ、毎朝の口婬を受け入れること。一つ、いついかなる時も求めに応じ、まぐわうこと。爛れきった性生活の中に残された、0.01ミリメートルの良心。いつ破れるとも分からない薄氷の上に、2人の暮らしはある。
枝にまとわる蛇の如く肉棒に絡み付く真宵の舌。その舌先が裏筋を、カリ首をちろちろと舐め上げる。
「お願いします、いかせて下さい」
涙交じりの懇願を受け、真宵は抽送を速めた。強く窄められた唇と熱く柔らかな舌が肉棒を扱き、絶頂へと誘う。真宵は口内の奥に吐き出された精液に一瞬顔を顰めるが、それは一瞬で恍惚としたものに変わった。咥えたままの肉棒へ精液を塗り付け、なおもしゃぶりつく。真宵の唾液と衛治の精液とが混ざった潤滑液が舌の動きをより滑らかにする。過敏な亀頭を舌先が撫でると、衛治は再びの絶頂に至った。
真宵は唇を窄めたまま肉棒を口内から引き抜き、尿道に残る僅かな精液も残すまいと鈴口を吸い上げる。口内へ溜まった精液を艶めかしい動きで舌が掻き集め、飴玉を与えられた子供がするように舌で転がし、至上の甘露であるかのようにゆっくり嚥下した。
「ご馳走様」
見せつけるように開かれた口内に精液は残っておらず、滑る唾液のてかりが口内の赤を際立たせている。
衛治はぴりぴりとした気怠い腰の疲れに任せ、このまま二度寝をしたいところであった。しかし、空腹がそれを許さない。怠い体に喝を入れて立ち上がり、下着とズボンを履き直す。
窓を開けてすえた空気を追い出しにかかるが、代わりに入ってくるのは温まり始めた外気だった。それでも何もしないよりは幾分ましであると、衛治は深呼吸を一つする。
「朝ご飯にしましょうか」
遅い朝食の支度をしながら、衛治は真宵を見た。開け放たれた窓の枠にもたれる真宵は、物憂げな表情で煙管を燻らせている。飾り気の無い黒色のタンクトップと、それを持ち上げる豊満ながら張りのある乳房。タンクトップの隙間から垣間見える刺青。少しばかりハーフショーツが食い込んだ丸い臀部と、そこから伸びる足先への緩やかな曲線美。
真宵がこの部屋に居座り始めたのはいつからだっただろうか。去年の春頃だった気もするし、それよりも前だったかもしれない。それまで特に接点も無く過ごしていたのだが、ある日を境に歯ブラシが置かれ、衣服も置かれた。ベッドは狭いまま、枕が二つに増えた。真宵の好きな日本酒の銘柄が冷蔵庫に常備され、料理の味付けは彼女好みのものになった。いつの間にか真宵は衛治の全てになっていた。居て当たり前の存在、真宵。大事な存在なはずなのに、出会いの記憶は曖昧なままだ。
「よし、完成」
そんなもやもやとした気持ちを振り払い、出来上がった料理をそれぞれの席へ配膳する。真宵はいつの間にか席に着いていて、衛治を待っていた。
「いただきます」
ご飯、味噌汁、ベーコンエッグ、サラダ。質素ではあるが、真宵はこういった食事を好んで良く食べた。ご飯の硬さ、味噌汁の出汁を変えたかどうか、目玉焼きの黄身の焼け具合、好きなドレッシングの味。他愛のない会話をしながら二人は朝食を食べ進めていく。
「ご馳走様でした」
真宵に食後のお茶を淹れると、衛治はシンクに向かった。窓から聞こえる町の音を聞きながら洗い物をしていると、背中に柔らかなものが当たる。
「洗い物の最中は危ないですよ?」
「減るものでもなし、いいじゃないか」
うなじに感じる呼吸の温かさ、背中に押し付けられた胸の柔らかさ、優しくあるが解くことの出来ない腕の縛め。
右手の人差し指が衛治の胸板の上を彷徨い、左手の手の平がズボンの上から肉棒を撫でた。これまでの付き合いで分かる。本気ではない時の求め方、たんなる戯れ。あるいは何かを誤魔化そうとする時の仕草。
「君はさ、私がなんの妖怪か気にならないのかい?」
努めて飄々とした風を装ってはいるが、声色に僅かな不安が混じっていた。
「……気にはなりますよ。けど、真宵さんが言いたくないなら知らなくてもいいんです」
「優しいんだね」
衛治はその言葉に何かを返すでもなく、黙々と洗い物を続けた。戯れが終わり、縛めが解かれる。背中の寂しさに、衛治は洗い物を止めて振り返った。
「何も用事の無い土曜日だ。長い夜に備えて、また一眠りしようじゃないか」
言い表せない何かから逃げるようにして、真宵は衛治を引き連れて寝室へ戻った。
草木も眠る丑三つ時。真宵と衛治は互いに向き合いながらベッドに腰掛けていた。慣れたベッドの上のはずなのにどこか居心地が悪そうにする真宵を、衛治はじっと見つめている。
「……私はね、ぬらりひょんなんだ」
知っているだろう?という問いに、衛治は頷きを返した。
ぬらりひょん。いつのまにやら人の家に上がり込んでは茶を飲み煙管を燻らせ、まるで自分の家の様にくつろぎ始める妖怪。また、ぬらりひょんに上がり込まれた家の男は、同じ布団で同衾する彼女達の存在に違和感を覚える事ができないどころか、彼女達に抱かれる事が当然の様にすら感じられるという。
「自分の抱いている好意が自然な感情じゃなく、私の力によるものだと分かってがっかりしたかい?」
いつものように飄々とした様子を取り繕ってはいるが、その顔には僅かな陰が見えた。
「……始めこそ、そう感じさせられていたのかもしれません。ですが、がっかりなんてしていません。貴方のことが好きだというこの気持ちに、嘘偽りは無いんですから」
放っておくと煙の様に消えてしまうのではと感じられる真宵の肩を、衛治はしっかりと掴んだ。真宵はかっと朱の差した顔を背け、努めて冷静でいようとした。しかし、想い人に受け入れてもらえた喜び、幾度体を重ねても彼を信じ切れなかった自分の恥ずかしさがそれをさせなかった。
「真宵さん……いえ、真宵」
真宵の頬に当てられた衛治の手が、優しく互いを向き合わせた。火照った頬の熱が手の平を通じて伝播していく。二度、三度と口付けが交わされた。貪り合うものではない、慈しむような淡い口付け。
「……後悔しても知らないよ?」
「ぬらりひょんであろうとなかろうと、後悔なんてありえません」
真宵の細い指先が衛治の胸を撫でると、彼は耐え難い快感に襲われた。今までのものとは比べられない快楽。夜の支配者たるぬらりひょんの本領、その一端。
真宵が衛治の額を軽く突くと、彼は何も出来ぬまま仰向けに倒れた。快楽の熱に浮かされた頭のままぼうっと天井を見つめていると、視界の端に真宵が映る。どうにかそちらへ頭を向け、うっすらとぼやけた視点を定める。
まず、タンクトップに手が掛かった。たくし上げるようにして脱がれるそれに、乳房が持ち上げられる。その豊満な乳房は窮屈な支えが無くなるとゆさりと揺れ落ち、跳ねた。双丘の頂は硬く勃ち、その存在を痛々しい程に主張する。次に、ハーフショーツに手が掛けられた。秘所と、その触れ合っていた箇所との間に粘液が垂れ、ぷつりと途切れた。幾度も体を重ねてなお、生娘のようにぴたりと閉じた秘所からは愛液が溢れ、真宵の内腿を濡らしている。
真宵は背を向ける形で衛治の顔に跨り、胸板に両手を当てて体重を預けると秘所を擦り付けた。その意図を察した衛治は真宵の脚を抑え、愛液濡れになることも構わずに秘所へむしゃぶりついた。割れ目を舌先でなぞり、押し広げ、音を立てて啜る。咽返るような淫臭を浴びながら、衛治は渇きを覚えた。その渇きを癒すべく秘所をより強く口元に押し当て、舌を肉壺へ差し込む。差し込まれた舌が、ひだの一枚一枚から愛液を掻き取ろうと肉壺の中で蠢く。くぐもった喘ぎの中に嬌声が混じり始めた。衛治は肉壺から舌を抜くと、ぷっくりと膨らんだ陰核に吸い付いた。
「いっ、くぅ……あぁ!」
真宵は弓なりに反らされた体を痙攣させ、潮を吹きながら果てた。しとどに濡れた秘所を衛治の口にあてがったまま前へ倒れると、眼前では肉棒が痛々しい程に怒張しズボンを押し上げていた。
「私だけ気持ち良くなるのも、ね」
取り出された肉棒は先走りで濡れ、普段のそれよりも大きく硬く勃起している。真宵は舌舐めずりをすると、肉棒を一口で咥え込んだ。濃厚な雄の臭いが喉を抜けて鼻腔を満たす。そして、緩やかな抽送が始まった。
真宵の愛液をこれでもかと浴びてなお、衛治の渇きは癒えずにいた。目の前の雌を犯したいという止めどない渇望が渦を巻く。
衛治は真宵の体をしっかりと抱き締めると共々に体を横に向けた。真宵の太ももを枕に、秘所をしゃぶりながら喉へ肉棒を打ち付ける。目の前の雌を犯したい一心から来る粗暴な抽送。亀頭が喉を突く度に聞こえるくぐもった声とは裏腹に、秘所からは愛液が止めどなく流れ、濡れそぼる。高まる射精感から抽送が速まった。真宵は衛治の臀部に手を当てると抽送に合わせて頭を動かす。
衛治は肉棒を一際強く喉奥へ捩じ込むと射精した。直接流し込まれる精液が喉を打ち、獣臭と言えるほどの雄の臭いが脳を焼く。真宵は息つくこと無く喉を鳴らしながら精液を飲み下し、恍惚とした面持ちで肉棒を口から引き抜いた。
「ふぅ……無理矢理というのも、たまには悪くないものだね」
束の間の冷静さを取り戻して謝る衛治を気遣いながら、真宵は悪戯っ子を咎めるかのように肉棒を小さく指でつついた。
真宵は衛治を再び仰向けに寝かせて跨ると、反り返る肉棒の裏筋に秘所を擦り付け始めた。衛治は僅かに残った良心に従ってコンドームを手に取ろうとしたが、ふいに目の前が暗くなる。それは、ぬらりひょんが纏う闇だった。真宵は虚空を彷徨う衛治の手を握り、指を絡めた。絡めた手と指が強く握り返される。
視界が効かないために、衛治の意識は自然と擦り合わされる肉棒へ向けられた。亀頭が肉壺の入り口に触れる度に、このまま腰を突き上げてしまえと本能が猛る。
「ねぇ、今日だけでいいんだ。今日だけは、ありのままの君を感じさせてほしい」
熱を帯びた声色の懇願を受けて衛治は言葉なく頷くことしかできなかった。
肉壺の入り口に肉棒の先端が触れ、ゆっくりと差し込まれていく。柔らかな肉ひだの一つ一つが肉棒を愛撫し、奥へ奥へと誘う。肉棒を根元まで肉壺へ納めると、真宵は衛治の上へ倒れ込んだ。胸板の上で柔らかな双丘が潰れ、形を変える。真宵は衛治の首筋に顔を埋めると腰を動かし始めた。遮るものがない肉棒の形を覚えさせるようなゆっくりとした小刻みの抽送。肉ひだが肉棒全体を優しく愛撫し、亀頭が子宮口をこつこつと叩く。
「こうしていると、君の全部を感じられて、あぅ……幸せ。それに、んぅ!君のあそこ、いつもより大きいのに、さ、ぴったり入って、もう私の体は君専用だって分かるんだ」
真宵は腰を前後左右へ揺らし、円を描くようにくねらせた。肉棒が真宵の中を掻き回し、愛液と先走りとが撹拌されて泡立った体液が結合部から溢れ落ちる。
「んっ、はぁ……本当はもっと乱暴にしたいんだよね?ふふっ、君のことなら全部、んっ、分かるよ。けどね、もう少し君のことを私の中いっぱいで、あふぅ、感じていたいんだ」
真宵は衛治の喉元から口へと接吻の雨を降らせ、口内へ舌を滑り込ませた。口内の隅々までを舐ろうとする真宵の舌に衛治の舌が絡み付き、淫猥な水音と二人の荒い呼吸が部屋に満ちる。
「んちゅ、ふぅ、そこ、いい。うん、そう……私の一番奥、あっあっあっ!だめぇ!そんなにぃ、たくさんこつこつされたら、いっちゃう!いっちゃうから待って!あん!」
逃げようとする真宵の腰を捕まえ、子宮口を小刻みに突く。真宵はいやいやと頭を振って懇願するが聞き入れられず、ただ、だらしなく涎を垂らして喘ぐことしかできなかった。肉壺の締まりがきゅうきゅうと強くなり、限界が近いことを物語る。
「あっあっあっ、んぃい!駄目、だめぇ!ん、んちゅ、ぴちゅ……ぷはっ!くぅ、あっあっあっあっ!い、いく……い、っくぅうう!」
丸めた背中を震わせながら、快楽の波が過ぎ去るのを待つ。脱力した真宵は衛治の首元に顔を埋め、熱い吐息を浴びせた。
「ん、ふぁ……私だけ、先にいっちゃったね。次は一緒に、ね?」
衛治の顔にふぅと息を吹き掛けて視界を遮る闇を払うと、真宵は体を起こした。眩しさに眩む衛治の視界に指先が伸びる。その細くしなやかな指が、頬、首筋、胸板、下腹部を撫でた。
「今度は君をたくさん気持ち良くしてあげる」
真宵は肉壺を締めながら限界まで引き抜くと、一気に腰を打ち付けた。ことさらにゆっくりと見せ付けるように引き抜き、打ち付ける。肉ひだが捕らえた獲物を逃さないとばかりにカリ首へ絡み、亀頭が硬く締まった肉壺の壁をこじ開ける。杭を打つように腰を打ち付る度に、亀頭が子宮口を突き上げた。
「あっ、んっ……ふふっ、今の君の顔、凄いことになっているよ?いっぱい出したい、私のことを、あんっ、孕ませたいって顔をしてる。あっあっ、これ、中がゴリゴリされて、奥にも届いて良い」
どちゅ、ばちゅ、という湿り気を帯びた腰のぶつかり合う音が二人の鼓膜を叩いた。一突き毎に限界が迫り、肥大した亀頭が肉壺を抉る。
「ん、あうっ!もう限界なんだね?うん、分かってる、よ。一緒に、あぐぅ、いっしょにいこう?」
見せ付ける動きから搾り取る動きへと腰遣いが変わった。肉壺が肉棒をきつく締め上げ、時に柔らかく包み込み、少しでも早く、より多く精液を搾り取ろうと蠕動する。
衛治は真宵の腰を掴むと、打ち下ろしに合わせて子宮口を突き上げ続けた。目の前にいる己だけの雌を孕ませたいという獣欲。例え愛の上に成り立つものだとしても、二人のそれは人の形をした獣のまぐわいだった。
「それ、それすごい!あぐっ、うぅっ!駄目、だめだめ!いくっ!いぐぅうう!!」
限界まで引き抜いた肉棒を子宮口へ打ち付けるとともに二人は絶頂を迎えた。自身が溶けて無くなってしまうのではないかという程の強く長い射精。その熱い奔流が真宵の最奥へ注ぎ込まれる。
「はぁ……はぁ……ん、んぁっ、いっぱい、出たね?」
真宵は僅かに膨らんだ下腹部を愛おしげに撫でた。怒張した肉棒は未だに衰えず、栓をするようにぴったりと真宵の中へ納まっている。
「ふぁ……少し、眠くなってしまったね」
真宵が小さく欠伸をすると、衛治は彼女の頭を優しく撫で、乱れた髪を手で梳いた。
「……ありがとう。やっぱり、君は優しい、ね」
胸板に健やかな寝息を受けながら、衛治も欠伸をした。全身に宿った心地良い気怠さに身を任せ、二人は繋がったまま眠りに就いた。
25/11/19 17:16更新 / 何野某