道路挟んで斜向かい
川郷町役場の南庁舎1階、町議会の委員会を終えた議員たちがぞろぞろと議場を後にする。 今日は土曜日、議会は午前上がりである。 「当真さん、今日はお世話様でした。」 軽トラックの扉を開け、運転席に乗ろうとした当真光太郎議員を小石川加那議員が呼び止めた。 どちらも同期当選の8期目、当真議員は無所属、一方の小石川議員は保守系会派に所属している。 「次はお手柔らかにお願いしますよ?」 「どうでしょうねぇ?」 おどけながら尻尾をくねらせる加那。 保守系会派では珍しい魔物の議員、会議において他の議員の質問を受けるときの威風堂々たる態度と、リリムという種族から付けられたあだ名は『川郷の魔王』。 この二人、つい先程まで言葉のドッジボールを繰り広げていた宿敵同士である。 「これからうちのバカ息子が来るんですよ、やっとこさできた恋人を連れてくるとか。」 「あら、啓介くんにお相手が! うちも恵が彼氏を連れてくるらしくて…啓介くんのようにしっかりした人ならいいんだけど。」 「いやいやとんでもないとんでもない、小石川さんのお嬢さん方が羨ましい! あいつは普段趣味の車ばっかりで…車を何台も持ってて税金は毎年25万超えてるそうですし。」 「そんな事ないですよ、恵は酒、酒、酒で酒屋でもするのかって勢いで買ってるし、夏海もインフルエンサーだのバーチャル投稿だのやってて…頭が痛いこと痛いこと。」 つい先程まで文字通りの死闘を繰り広げていたとは思えないにこやかな談笑、そこに浮かんでいたのは母と父の顔であった。 しかし、この二人……一人息子と次女が恋人同士という事実をまだ知らない。 |
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