02 運命の出会いの事件
初めての魔物裁判が終わったあと…僕は法廷を後にして一人、事務所に戻っていたんだ。
結果、無罪判決を頂いた……師匠に、この最高の成果を伝えないとっ!!
6月16日 某時刻 絽籐荷法律事務所前
ん……?
事務所の前に…何やら黒い車が一台…停まってるな…
あの場所はうちに用がある来客用の人の駐車場だ…
ってことは、もしかして…師匠に弁護の依頼が来たのかっ!?
師匠はかれこれ5年くらい…一切弁護から離れていたというのに…
珍しいこともあるもんだな
6月16日 某時刻 絽籐荷法律事務所
タイガ「ただいま帰りました、マヨウさん、お客様ですか?」
マヨウ「うわぁっ!?た、タイガ君、いつからそこにいたんだい?」
タイガ「へっ?いや…本当に先ほど、裁判を終えて帰ってきたところですが……どうかしたのですか?」
マヨウ「いや…それならいいんだ、それで、結果はどうだったんだい?」
マヨウさんは僕の姿を見ると、すぐに裁判の結果を聞いてきたんだ
だけど……僕の結果を聞く前に…依頼人の方の話を聞いたほうがいいんじゃないのか……?
??「ん?あぁ、アタシのことなら気にしないでいいよ、もう話も終わったし…」
マヨウさんの来客は、そう答えると僕の方をじっと見てきたんだ
あの耳……あの尻尾……あの目つき…間違いなく魔物娘だな…
確か……形部狸って種族だったはずだ
頭が偉くて、計算も早くて…ビジネス系の会社で大活躍しているってTVで見たなぁ…
いやぁ、ほんとに狸みたいな尻尾しているんだな…少し、感動だよ
マヨウ「ほら、彼女もそう言ってることだし……結果をはなしてくれるかい?」
〈裁判の結果〉
タイガ「魔物裁判の結果は、無罪でした…でも、あんなに緊張した裁判は初めてですよ……状況は自分の不利な方向にすぐに変わるし……検事さんはサバキ検事ってすごい怖い人だったし……」
マヨウ「あれ?優椎検事じゃなかったのかい?それはそれは……でもまぁ、無罪を勝ち取れたならよかったじゃないか。依頼人の笑顔は見られたかな?」
タイガ「はい!!」
マヨウ「ならば、それで全てよしだっ!!今晩はひとつ、割り勘で焼肉にでも行こうかっ!!」
タイガ「やっぱり、こんな時でも割り勘なんですね……?」
マヨウ「当然っ!!私に依頼なんかほとんど舞い込んでこないのに、君に焼肉を奢る余裕なんてないさっ!!」
〈お客さん〉
タイガ「マヨウさん、彼女は依頼人ですか?」
マヨウ「いや、彼女は……」
??「アタシは依頼人じゃないよ、アタシは……」
マヨウ「ちょっと、マコトさんっ!!タイガには、あのことは内緒にしておいてくださいっ!!」
マコト「あぁ、ごめんごめんっ、大丈夫…アタシは口は硬いから…わかった、内緒にしておくよ、さてタイガ君、はじめまして」
タイガ「あっ…こ、これはどうも……逃出 大牙(ニゲダシ・タイガ)と申します」
マコト「アタシは笹江 マコト(ササエ・マコト)職業は……そうだなぁ、人助け……かな?困っている人に、救いの手を差し伸べ、助けてあげる…そんな仕事をしているんだ、以後…よろしく頼むよ?」
救いの手を差し伸べて…助ける……?
医者かな?人を助けるって言う意味では、弁護士と似ていて、好感が持てる
タイガ「はいっ!!いやぁ、マコトさんの職業…弁護士みたいですね!!」
マコト「いやいや、そんな大したモノじゃないさ、おっと…もう夕方も近いか…すまないけれど、もう帰らないと……タイガ君だったね?アタシが困ったときは、弁護してくれよ…なんてね、それではっ!!」
マコトさんはそう言うと、荷物をまとめて帰っていったんだ
……なぜだろう、近いうち、もう一度会う予感がするな……
まぁ、そんな偶然、ありえないよなぁ……
そして僕たちはこのあと、焼肉を食べに行って話に華を咲かせたのち、ぐてんぐてんに酔っ払ったマヨウさんを事務所に連れて帰り…僕は自宅に帰ったのだった……
それから、三ヶ月ほどたった時……事件は起こった
だが、この日もいつものように依頼も来ず、暇を持て余していた僕は事務所でナンプレを解きながら、暇を潰していたんだ
9月27日 午後4:30 絽籐荷法律事務所内
マヨウさんは、一体どこに出かけたんだろうか……
僕は事務所の中でナンプレと格闘していたが、ようやく問題が解けて気持ちがすっきりとした時に、マヨウさんが用事があると言って出かけてから、2時間が経過しようとしていることに気がついたんだ
タイガ「マヨウさん、まさかまたパチンコや競馬に行ったんじゃないだろうな……ゲームの課金アイテム購入資金稼ぎに……」
マヨウさんは、お金の使い方がすっごく特殊で、よく賭け事で負けて困っているのを見かけるんだけど……
そのくせ、ゲームではおかしいぐらいに課金してるんだからなぁ……
他のことは結構きっちりとしているのに、本当にもう……
ピッ……
TV「今日の天気は、晴れ…時々、曇り…ところにより、ケサランパサランが降るところもあるでしょう」
タイガ「ケサランパサランが降る地域は……ふむ、隣町か…これは今晩は別に急いで帰らなくても良さそうだな……」
なんて、TVを見ながら考えていると、事務所の扉が開き、マヨウさんが帰ってきたんだ
マヨウ「いやぁ……もうすっかりコテンパンにされちゃったよ…あそこで帰ってたら、勝ってたんだけどなぁ……」
タイガ「またギャンブルしてたんですか?もう……本当に暇人なんですから…で、その手に持っているカードはなんです?」
マヨウ「ん?魔法のカードだよ?明日のまもむす★スタイルのイベントとガチャに向けての下準備さ!!」
……まったく…この人は……
あっ、ちなみにまもむす★スタイルとは、最近スマホで出てきたゲームアプリで、好みの魔物を育成しながら、愛でたり、戦わせたりする育成バトルゲームなんだけど……
マヨウさんはそのゲームの中で上位ランカーに名前を連ねているぐらいの実力者だ
僕もやってるけど……僕はランキングは下の方で、チマチマと育成を頑張っているかな…
マヨウさんがいうには、課金しないとランカーとしての地位は維持できない…だそうで…でも、それで課金して実生活を苦しめているんだから、少しはこりてくれたらいいんだけどなぁ……
なんだか、いずれ取り返しのつかない課金をしそうで、怖いったらありゃしないよなぁ…
TV「続いてのニュースです……先ほど、カフェ【安らぎ】で暴行事件が発生し、容疑者の一人が逮捕されました」
マヨウ「あれ?安らぎって……僕たちのいる町にあるカフェじゃないか」
本当だ……まさか、こんな近くでそんな事件が起こったなんて……
なんだか、少し怖いなぁ……
TV「被害者はアヌビスの女性で現在、意識不明の重体です、容疑者は笹江 マコト(21)容疑者で、容疑者は容疑を完全に否定しています。容疑者はあす、魔物裁判により、刑が確定する物と見られています…では、次のニュースです」
……えっ…?えぇっ!?
笹江 マコト……まさか、彼女の名前をもう一度……こんな名前できくことになるなんて、思ってもいなかった……
だが、TVに写っている写真を見ても間違いない……彼女だ
マヨウ「これは……驚いた……まさか、彼女が暴行事件を起こすなんて……」
タイガ「マヨウさんっ!!まだマコトさんが事件を起こしたかなんて、決まっていないじゃないですかっ!!」
マヨウ「それは…そうだね……そうだ、タイガ…君、今から時間あるかな…?」
……えっ…?いや、時間はもう余りに余っていますけれど……
なんで、マヨウさんは僕にそんなことを聞くんだ……?
タイガ「はい、大丈夫ですが………」
マヨウ「じゃあ、今から留置所にいかないかい?マコトさんの話を聞きに行こう、彼女がやったのかどうか……それをね」
タイガ「えっ…!?それって……もしかして、マヨウさん…弁護するのですか!?マコトさんの……」
珍しい……マヨウさんが自分から弁護を受けに行くなんて……
でも、マコトさんはマヨウさんのいわば知り合い……そりゃあ、心配にもなるよね……
そして、マヨウさんは僕の思っていたとおりの答えを返して来てくれたんだ
やっぱり、マヨウさんは僕の信頼できる師匠だっ!!
マヨウ「必要によっては、僕が彼女を弁護しようと思う、タイガは必要な書類も用意しておいてくれるかい?」
タイガ「は……はいっ!!」
9月27日 某時刻 中央留置所
??「あれ…?懐かしい顔だねっ!!久しぶりっ!!」
僕たちが留置所についたとき、留置所の奥の部屋から懐かしい人が歩いてきたんだ
……といっても、親しいなんてことはなく…あの魔物裁判の時に少し話したぐらいの関係なんだけど……ね?
タイガ「あれ…?あなたは確か…アントさん……」
アント「おっ?僕の名前、覚えててくれたんだっ!!うれしいなぁっ!!」
……そういえば、アントさんはここで一体…何をしているんだ……?
見た感じ……何らかの用事があったんだろうとは思うけども……
ちょっと、聞いてみるかなぁ…
〈ここにいる理由〉
タイガ「アントさんは一体、どうしてここにいるのですか?」
アント「えっ?それはもう、事件の証言をもう一度聞いておこうと思って、被告人と話していたんだよ、タイガ君……僕だって刑事だからね?」
タイガ「あっ……す、すみません…」
そう…だよなぁ……
アントさんは刑事なんだから、ここで何をしていても、別におかしくないんだったな……
ところで、事件って…一体なんの事件なんだろう…?
こういったとき、人の好奇心って罪だよなぁって思うね
よっし、聞いてみるか
〈事件のこと〉
タイガ「事件って……一体、なんの事件なんですか?」
アント「あぁっ!!ついさっき、とあるカフェで暴行事件が起こってね、その事件の容疑者……といっても、彼女でほぼ間違いないだろうけど……その容疑者に事件の内容をもう一度問いただしていたんだ。といっても、やっぱり犯行を否定していたけどね」
タイガ「暴行事件……ですか?それって、一体どのような……」
アント「ん?事件が起こったのは2時40分頃……話をしていた被害者と容疑者の間で、口論があって……その口論の結果逆上した容疑者が、被害者の頭を鈍器で殴打し、今もその被害者は意識不明のままだという……」
アント「って、あぁっ!?まだ、タイガ君、被告人から正式な弁護依頼……もらってないんじゃないかっ!!こ、これ以上はダメだよっ!!事件の関係者以外には、事件の内容を伏せておかないといけない決まりがあるからねっ!」
(結構、ペラペラ話してくれたような気もするけどな……)
という言葉を心の中でぐっと飲み込む……
アント「それじゃあ、僕は今から事件のあった現場に行かないといけないんだ、これで失礼するよ!!そうそう……被告人の弁護をするつもりなら、201号室だよっ!!彼女…すごく気難しい性格なのか、弁護してくれるっていう弁護士をことごとくキャンセルしているみたいだから、たぶんタイガくんが行っても無駄だと思うけどねっ!!」
そういうと、アントさんは駆け足で僕たちを後にしたんだ
そのまま、留置所の門から走って出て行くのが見えるぞ……
ま、まさか……事件現場まで走っていったんじゃないだろうな……
いや…さすがに、それはないよな……うん
201号室に面会に訪れると、そこには一人、うんざりとした表情のマコトさんが座っていたんだ
あの様子では……かなりの人が面会にきたみたいだな……
マヨウ「マコトさんこんばんわ…どうですか?調子は……」
マコト「……いいように、見える?最悪だよ、それでなんのようなんだい?」
板越しに見るマコトさんは、なんだか前に会った時とはまったく違う……
そんな印象を受けたんだ
雰囲気が違うのは、彼女が前とは違ってメガネをかけているからというわけでは、どうもなさそうだ……
マヨウ「……唐突で悪いんだけれど、マコトさんは今、だれか弁護についてくれる弁護士はいらっしゃるのですか?もしいないのなら………明日のマコトさんの裁判、私が……」
マコト「……断る」
マコトさんのそっけない返事に、僕は一瞬耳を疑ったんだ
マヨウさんはマコトさんの弁護をすると言っているのに…
一体、どうして断るんだろう…?
僕がそう思いながらことの流れを見守っていると、その答えは僕が思っているよりも早くに訪れたんだ
マヨウ「どうしてですか…?マコトさんっ!!弁護士がいない状態で魔物裁判になったら……有罪は濃厚ですよ!?マコトさんがしていないなら……」
マコト「……アタシは職業柄、色々な人たちを見てきたけど……マヨウさん、今のあんたは何か、信用できない、アタシにはわかるんだ」
マヨウ「なっ……!?何をばかな……」
マコト「マヨウさん…アタシを無罪にしてくれる気……ないでしょ?だって、その目はアタシを疑ってる目だもん」
なっ……!?ま、マヨウさんが……マコトさんを疑っている……?
それって、もしかしたら本当の犯人はマコトさんだったんじゃないのかって、初めから疑問を持っているって事なのか…!?
そ、そんな馬鹿なっ!!
だ、だって……マヨウさんの弁護方針は『依頼人を最後まで、信じぬくこと』のはずだ!!
僕はその考え方が好きだからこそ、マヨウさんのところに転がり込んだと言っても、嘘にはならないだろう
それを僕に教えてくれたマヨウさんが…依頼人のことを疑うなんて……
それはありえないっ!!ありえない……はずなんだ
マコト「……他の弁護士だってそうだ…まだ、アタシたち魔物を全力で弁護してくれるって弁護士は少ない……」
そう……なのか……?
確かに、弁護士協会の中でも魔物裁判は極めて難しい裁判になることが多いって言われているし……
でも、それって変だよ…なぁ……
だって、弁護士って職業は事件の容疑者のことを全力で弁護する……
だからこその弁護士だと思うんだ
その弁護に、人間も魔物も関係ないよなぁ……
マコト「タイガ……だったっけ?キミ……?」
僕がそのようなことを考えながら、マコトさんをじっとみていると、マコトさんが僕の名前を呼んできたんだ
な、なんの用事だろう……?
タイガ「は、はい、僕が……タイガですけれど……」
マコト「キミだったら、信頼できそうだけど…ね?」
タイガ「えぇっ!?ぼ、僕ですかっ!?い、いきなり!?」
本当にいきなり……何を言っているんだマコトさんはっ!?
僕だったら、信頼できそう……?マヨウさんはダメなのに…?
い、一体……彼女の信頼の基準って……なんなんだろうか…?
マコト「タイガにだったら、アタシ……弁護してもらってもいいよ?だって、君なら信頼できそうだもん」
マコト「でも、最後に決めるのは紛れもなく、キミだから……キミの心が決まったら、アタシに教えてくれるかな?……まぁ、あと20分で面会時間も終わる……今の面会が最終面会だから、もう……これを逃せばアタシは……」
タイガ「……!!」
タイガ「……マヨウさん、僕……マコトさんの弁護を引き受けてもいいでしょうか……?」
マヨウ「……君が?どうしてまた……今回もおそらく、魔物裁判だ……前回のようなドキドキをもう一度味わうことになるんだよ?」
マヨウさんがそう聞いてくる……
確かに、僕だってどうしてなのか……その答えはまだ出ていないようなものだ
だけど……
このままだと、マコトさんは誰の弁護も受けられないまま、絶望にも似た状態で魔物裁判を迎えなくてはいけない……
その結果は……おそらく、最悪の結果になるんだろうなって思ったら……
とても、見捨てることなんて、僕にはできなかったんだ
タイガ「わかっています……僕は、魔物裁判に至ってはまだ…1回しか経験したことがない素人だ…だけど…それでも、助けを求めている人の手を振り払って見捨てることはしたくないんです……」
マヨウ「それが……タイガの決断なんだね?よっしっ!!それじゃあ、頑張って弁護してあげようじゃないかっ!!これで、いいんですね?マコトさん?」
マコト「うん、少なくともあんたよりは信頼できる…それに……アタシ、タイガの事……気に入ったよ、アタシはあんたを信じる……だから……タイガもアタシの事、信じてくれる…?」
タイガ「はいっ!!僕もマコトさんを……最後まで信じますっ!!」
マヨウ「ふぅっ……それじゃあ、私はそろそろ失礼するよ?後は君たち二人で話し合うべきだろうし……あっ、そうそう……マコトさん、ここにサインをお願いします……これにサインをしてくれたら、後は私が弁護の手続きを行っておきますので……」
マヨウさんはそう言うと、マコトさんにサインをもらい……
そして、言葉通り帰っていったんだ
そして、部屋には僕とマコトさんの二人が残った……
そうだ、今のうちに、聞けることは聞いておかないと……
〈事件の事〉
タイガ「マコトさん、それで事件の事なんですが……一体、どんな事件概要になっているのですか?一応、警察の方から事情を聞かれた時に、聞いたのではないかと思って、聞いてみるのですが……」
マコト「……正直、アタシ自身…何があったのかはわからないんだ」
え……?当事者なのに……?
当事者なのに、事件が起こったときに、何があったかわからないって……
それって、一体どういうことなんだろう……?
タイガ「ですが……事件当時、事件現場にいたのでしょう?ここに来る途中に聞いた話では……現行犯逮捕だったとか……」
マコト「店の中はその時、霧ですぐ前も見えない状態だったんだ。当然、アタシとアキの二人はその霧が充満している時も、机から移動はしなかったし……当然、アタシだってそのときは動いていなかったんだ」
マコト「でも……霧が晴れると、向かいの席に座っていたアキが机に倒れ込んでいて、血を流していたんだ!!混乱しているうちに警察が来て……そして、なぜかアタシのカバンの中に血が付着した置物が入れられていて…」
………なるほど……つまり、簡単にまとめると……
事件当時、事件現場には謎の霧が発生していた。
だが、その霧が晴れると前に座っていたはずの被害者が頭から血を流して倒れていた……
そして、カバンの中には凶器に使用されたと思われる置物が入れられていた…
……確かに、怪しいな……第三者目線で見ても……
でもっ!!マコトさんを信じるって決めたんだ
マコトさんが身に覚えがないって言った以上、僕は彼女を信じるつもりだ
つまり……彼女に罪を着せようとした第三者がいる……そういうことだよな…
といっても、このままだとマコトさんは圧倒的に不利……
どうにか、今日中に証拠を見つけて、明日に備えないと……
そうだな……後は何を聞くべきか……
〈被害者のこと〉
タイガ「そういえば、マコトさんは被害者の人とは面識があるんですか?」
マコト「うん…アタシと彼女……狗之里 アキ(イヌノサト・アキ)は同業者なんだ…といっても、勤めている場所も性格も、まったく違うんだけどね」
……そうか……同業者なのか……
ん…?
タイガ「マコトさん、同業者というのはわかったのですが、会社も違うんですよね?どうして、一緒にカフェで向かいの席に座ったりしたのですか?」
マコト「仕事の話があってね……悪いけど、仕事関係の話は追求しないで欲しい…アタシたちは職業柄、信頼がとても大切なんだ……」
き……気になるなぁ……
だが、マコトさんはそれ以上は、何も話してくれるといった感じではなかった
まぁ、人間誰しも…内緒にしておきたいことの一つや二つはあるものだしな…
今調べるべきなのは、事件に関係することだけ……
その一点に集中しないと……
係官「すみませんが、面会終了時間です……本日の面会はこれで終了になりますので、お引取りください」
タイガ「あっ、はい、わかりました……それではマコトさん、明日の裁判でまた、会いましょう」
マコト「うん、アタシ……タイガを信じているから……必ず無罪にしてくれるって……」
タイガ「大丈夫です!!マコトさんは犯人じゃないんでしょう?だったら、無罪になんてなるはずがないんですからっ!!それでは……僕はこれで……」
僕はそう言うと、留置所を後にしたんだ
さぁって……今日の残り時間で、最低でも事件の現場は調べておかないと…
9月27日 午後7時50分 カフェ 安らぎ
??「あぁぁーーーーっ!!」
えっ…!?な、なんだなんだっ!?
僕が店に入ると、いきなり聞き覚えのある声が響いてきたんだ
そして……アントさんが小走りで近づいてきたんだ
アント「まったくっ!!困るよーーっ!!僕は刑事なんだからねっ?配達人じゃないんだから……はい、これっ!!」
タイガ「えっ……あれ?これって…弁護証明書……」
アント「君と一緒にいた人が、僕にこれを君が来たら渡してくれって押し付けて帰ったんだよっ!!もうっ!!君からもひとつ、説教しておいてよっ!!」
タイガ「あっ…はぁ……わかりました……」
マヨウさん……アントさんに預けて行っていたのか……
困った人だなぁ……もぅ……
さて、ここが事件現場か……見た感じ、普通のカフェ……
こんなところで事件が起こっていたなんて、とてもじゃないけど信じられないぐらいに日常感を醸し出しているなぁ……
さてっ!!調査開始と行きますかっ!!
っと、そうだ……アントさんにも他に事件に関係する情報がないか、聞いておかないとな……
〈事件の事〉
タイガ「アントさんっ!!これで一応僕にも事件の情報を教えてくれるんですよね?だって、僕は今、マコトさんの担当弁護士なんだから……」
アント「あぁ、それは無理だよ?情報は自分の足で手に入れないとねっ!!それに、僕たちは検事側だからねっ!!弁護士の君とはライバルだもんねっ!」
タイガ「……うぅっ……」
くそっ……やっぱり、自分で探すしかないのか……?
アント「………………もう、仕方ないなぁ……はい、これ……被害者の事件当時の外傷のデータだよ、これ以上はダメだからねっ!!」
【被害者の外傷のデータ】
よし……忘れないように事件用のカバンに突っ込んで……っと……
さて、これ以上聞いても、アントさんは教えてくれないみたいだし……
ここからは自分で頑張るしか……無いみたいだな……
ふむふむ……今、僕がいるこのテーブルが、事件が起こった瞬間のままの被害者とマコトさんが一緒に座っていたテーブルか……
確かに、事件のまま……かぁ……
何かあればいいけどなぁ……
だが、ひたすらに探し続けても、全く何も見つかる気配はなかったんだ
まぁ……何かあったとしたら、もう警察が手にしてるか……さすがに……
アント「勝手に現場を荒らしちゃダメだよーーー?」
それに、必要以上にアントさんがこちらを気にしているから、踏み込んだ調べ物はできないだろうしなぁ……
ん………?この店…監視カメラが二つも付いているのか……
その映像って、どうにかして見せてもらえないだろうか?
僕は事件があった時間のカメラの情報を見せてもらえないか、このカフェのなかにいる人に訪ねてみたんだ
タイガ「あのー……この店の責任者の人は………いらっしゃいますか?」
だが、僕の予想に反して……その質問に答えを返してくれたのは違う人物だったんだ
僕が責任者を呼ぶとすぐに、アントさんがこっちに近づいてきたんだ
ま、まさか……まさか……また何かあるのか……?
さすがに、店の主人に話を聞くのが捜査妨害とかどうとかは言わない…よな?
アント「タイガ君、この店のマスターは今、警察署で事情聴取中だから、ここにはいないよ?」
タイガ「えっ……?事情聴取…?」
アント「うん、明日の裁判の貴重な証人だからね、今日は事件について聞くことは無理かなぁ……」
タイガ「そ……そんな……」
どうする……?もう八方塞がりだぞ……
これ以上はここで調べることなんて、なさそうだし……
アント「ここのマスターに、何を聞くつもりだったんだい?」
タイガ「あぁ、実は……」
僕は、監視カメラの写真を見せてもらえないだろうかと聞こうとしていた事をアントさんに話したんだ
まぁ、別に無理に隠すことでもないし………
アント「んーー……いいよ、別に?警察の方の調査は終わってるし……はい、このファイルのなかに入っているからね!!ちゃんと明日までに目を通しておくんだよ?」
【監視カメラの写真】
ふむふむ、これは二枚でひとつなのか……
これも、明日の裁判のときに要チェックしておかないとな……
タイガ「しかし……この店のマスターが証人だったんですか……」
アント「いや、他にも一人決定的な証人が……って、こ、これは内緒だったんだっ!!危ない危ない……危うく話してしまうところだった……」
アント「タイガ君っ!!誘導尋問しようとしても、僕には通用しないからねっ!!」
いや……結構自分から話しているような気がするけど………
などと思いながら、他にも証拠がないかを店内を必死に探したが……
それっぽいものは何も見つけることはできなかった
そうこうしているうちに、時間は夜の10時……
僕は、一度事務所のほうに戻ることにしたのだった……
9月27日 10時40分 絽籐荷法律事務所
タイガ「ただいま戻りました……」
マヨウ「おっ……?お疲れ様、どうだったんだい?成果は……」
マヨウさんは机に座ってスマホをいじりながら、僕にそう聞いてきたんだ
僕は、今日の捜索の成果をマヨウさんに話していったんだ
マヨウ「ふむ……証拠は二つか……まぁまぁいい成果じゃないかっ!!」
タイガ「で、ですが……やっぱり、証拠は多い方が……」
マヨウ「確かに、証拠は多いに越したことはない……だけど、別に少なくても……嘆くことじゃないんだよ?だって、見つからなかったわけじゃないじゃないか、それなら……その捜索には意味があったんだよ」
やっぱり、マヨウさんは前向きだな……
確かに、最終的な結果は明日…明日にならないとわからないし……
今、ここで後ろ向きになったって、仕方ないって事だよね……
タイガ「……師匠っ!!明日の裁判……僕、頑張りますっ!!」
マヨウ「うん、それでいいんだよ、だって……君が不安な状態で裁判を受けると、弁護人のほうはさらに不安になってしまうからね?たとえどのようなことがあっても、弁護人を信じて……弁護しないとね」
マヨウ「さて、もう夜も遅いし……明日は、頑張るんだよ?時間がとれたら、応援にも行くから……」
……いよいよ明日……マコトさんの裁判が始まるのか……
まだ、全く何もわからない状況だけど……自分の持てる全ての力を振り絞って……
絶対に無罪を勝ち取って見せるぞ……!!
結果、無罪判決を頂いた……師匠に、この最高の成果を伝えないとっ!!
6月16日 某時刻 絽籐荷法律事務所前
ん……?
事務所の前に…何やら黒い車が一台…停まってるな…
あの場所はうちに用がある来客用の人の駐車場だ…
ってことは、もしかして…師匠に弁護の依頼が来たのかっ!?
師匠はかれこれ5年くらい…一切弁護から離れていたというのに…
珍しいこともあるもんだな
6月16日 某時刻 絽籐荷法律事務所
タイガ「ただいま帰りました、マヨウさん、お客様ですか?」
マヨウ「うわぁっ!?た、タイガ君、いつからそこにいたんだい?」
タイガ「へっ?いや…本当に先ほど、裁判を終えて帰ってきたところですが……どうかしたのですか?」
マヨウ「いや…それならいいんだ、それで、結果はどうだったんだい?」
マヨウさんは僕の姿を見ると、すぐに裁判の結果を聞いてきたんだ
だけど……僕の結果を聞く前に…依頼人の方の話を聞いたほうがいいんじゃないのか……?
??「ん?あぁ、アタシのことなら気にしないでいいよ、もう話も終わったし…」
マヨウさんの来客は、そう答えると僕の方をじっと見てきたんだ
あの耳……あの尻尾……あの目つき…間違いなく魔物娘だな…
確か……形部狸って種族だったはずだ
頭が偉くて、計算も早くて…ビジネス系の会社で大活躍しているってTVで見たなぁ…
いやぁ、ほんとに狸みたいな尻尾しているんだな…少し、感動だよ
マヨウ「ほら、彼女もそう言ってることだし……結果をはなしてくれるかい?」
〈裁判の結果〉
タイガ「魔物裁判の結果は、無罪でした…でも、あんなに緊張した裁判は初めてですよ……状況は自分の不利な方向にすぐに変わるし……検事さんはサバキ検事ってすごい怖い人だったし……」
マヨウ「あれ?優椎検事じゃなかったのかい?それはそれは……でもまぁ、無罪を勝ち取れたならよかったじゃないか。依頼人の笑顔は見られたかな?」
タイガ「はい!!」
マヨウ「ならば、それで全てよしだっ!!今晩はひとつ、割り勘で焼肉にでも行こうかっ!!」
タイガ「やっぱり、こんな時でも割り勘なんですね……?」
マヨウ「当然っ!!私に依頼なんかほとんど舞い込んでこないのに、君に焼肉を奢る余裕なんてないさっ!!」
〈お客さん〉
タイガ「マヨウさん、彼女は依頼人ですか?」
マヨウ「いや、彼女は……」
??「アタシは依頼人じゃないよ、アタシは……」
マヨウ「ちょっと、マコトさんっ!!タイガには、あのことは内緒にしておいてくださいっ!!」
マコト「あぁ、ごめんごめんっ、大丈夫…アタシは口は硬いから…わかった、内緒にしておくよ、さてタイガ君、はじめまして」
タイガ「あっ…こ、これはどうも……逃出 大牙(ニゲダシ・タイガ)と申します」
マコト「アタシは笹江 マコト(ササエ・マコト)職業は……そうだなぁ、人助け……かな?困っている人に、救いの手を差し伸べ、助けてあげる…そんな仕事をしているんだ、以後…よろしく頼むよ?」
救いの手を差し伸べて…助ける……?
医者かな?人を助けるって言う意味では、弁護士と似ていて、好感が持てる
タイガ「はいっ!!いやぁ、マコトさんの職業…弁護士みたいですね!!」
マコト「いやいや、そんな大したモノじゃないさ、おっと…もう夕方も近いか…すまないけれど、もう帰らないと……タイガ君だったね?アタシが困ったときは、弁護してくれよ…なんてね、それではっ!!」
マコトさんはそう言うと、荷物をまとめて帰っていったんだ
……なぜだろう、近いうち、もう一度会う予感がするな……
まぁ、そんな偶然、ありえないよなぁ……
そして僕たちはこのあと、焼肉を食べに行って話に華を咲かせたのち、ぐてんぐてんに酔っ払ったマヨウさんを事務所に連れて帰り…僕は自宅に帰ったのだった……
それから、三ヶ月ほどたった時……事件は起こった
だが、この日もいつものように依頼も来ず、暇を持て余していた僕は事務所でナンプレを解きながら、暇を潰していたんだ
9月27日 午後4:30 絽籐荷法律事務所内
マヨウさんは、一体どこに出かけたんだろうか……
僕は事務所の中でナンプレと格闘していたが、ようやく問題が解けて気持ちがすっきりとした時に、マヨウさんが用事があると言って出かけてから、2時間が経過しようとしていることに気がついたんだ
タイガ「マヨウさん、まさかまたパチンコや競馬に行ったんじゃないだろうな……ゲームの課金アイテム購入資金稼ぎに……」
マヨウさんは、お金の使い方がすっごく特殊で、よく賭け事で負けて困っているのを見かけるんだけど……
そのくせ、ゲームではおかしいぐらいに課金してるんだからなぁ……
他のことは結構きっちりとしているのに、本当にもう……
ピッ……
TV「今日の天気は、晴れ…時々、曇り…ところにより、ケサランパサランが降るところもあるでしょう」
タイガ「ケサランパサランが降る地域は……ふむ、隣町か…これは今晩は別に急いで帰らなくても良さそうだな……」
なんて、TVを見ながら考えていると、事務所の扉が開き、マヨウさんが帰ってきたんだ
マヨウ「いやぁ……もうすっかりコテンパンにされちゃったよ…あそこで帰ってたら、勝ってたんだけどなぁ……」
タイガ「またギャンブルしてたんですか?もう……本当に暇人なんですから…で、その手に持っているカードはなんです?」
マヨウ「ん?魔法のカードだよ?明日のまもむす★スタイルのイベントとガチャに向けての下準備さ!!」
……まったく…この人は……
あっ、ちなみにまもむす★スタイルとは、最近スマホで出てきたゲームアプリで、好みの魔物を育成しながら、愛でたり、戦わせたりする育成バトルゲームなんだけど……
マヨウさんはそのゲームの中で上位ランカーに名前を連ねているぐらいの実力者だ
僕もやってるけど……僕はランキングは下の方で、チマチマと育成を頑張っているかな…
マヨウさんがいうには、課金しないとランカーとしての地位は維持できない…だそうで…でも、それで課金して実生活を苦しめているんだから、少しはこりてくれたらいいんだけどなぁ……
なんだか、いずれ取り返しのつかない課金をしそうで、怖いったらありゃしないよなぁ…
TV「続いてのニュースです……先ほど、カフェ【安らぎ】で暴行事件が発生し、容疑者の一人が逮捕されました」
マヨウ「あれ?安らぎって……僕たちのいる町にあるカフェじゃないか」
本当だ……まさか、こんな近くでそんな事件が起こったなんて……
なんだか、少し怖いなぁ……
TV「被害者はアヌビスの女性で現在、意識不明の重体です、容疑者は笹江 マコト(21)容疑者で、容疑者は容疑を完全に否定しています。容疑者はあす、魔物裁判により、刑が確定する物と見られています…では、次のニュースです」
……えっ…?えぇっ!?
笹江 マコト……まさか、彼女の名前をもう一度……こんな名前できくことになるなんて、思ってもいなかった……
だが、TVに写っている写真を見ても間違いない……彼女だ
マヨウ「これは……驚いた……まさか、彼女が暴行事件を起こすなんて……」
タイガ「マヨウさんっ!!まだマコトさんが事件を起こしたかなんて、決まっていないじゃないですかっ!!」
マヨウ「それは…そうだね……そうだ、タイガ…君、今から時間あるかな…?」
……えっ…?いや、時間はもう余りに余っていますけれど……
なんで、マヨウさんは僕にそんなことを聞くんだ……?
タイガ「はい、大丈夫ですが………」
マヨウ「じゃあ、今から留置所にいかないかい?マコトさんの話を聞きに行こう、彼女がやったのかどうか……それをね」
タイガ「えっ…!?それって……もしかして、マヨウさん…弁護するのですか!?マコトさんの……」
珍しい……マヨウさんが自分から弁護を受けに行くなんて……
でも、マコトさんはマヨウさんのいわば知り合い……そりゃあ、心配にもなるよね……
そして、マヨウさんは僕の思っていたとおりの答えを返して来てくれたんだ
やっぱり、マヨウさんは僕の信頼できる師匠だっ!!
マヨウ「必要によっては、僕が彼女を弁護しようと思う、タイガは必要な書類も用意しておいてくれるかい?」
タイガ「は……はいっ!!」
9月27日 某時刻 中央留置所
??「あれ…?懐かしい顔だねっ!!久しぶりっ!!」
僕たちが留置所についたとき、留置所の奥の部屋から懐かしい人が歩いてきたんだ
……といっても、親しいなんてことはなく…あの魔物裁判の時に少し話したぐらいの関係なんだけど……ね?
タイガ「あれ…?あなたは確か…アントさん……」
アント「おっ?僕の名前、覚えててくれたんだっ!!うれしいなぁっ!!」
……そういえば、アントさんはここで一体…何をしているんだ……?
見た感じ……何らかの用事があったんだろうとは思うけども……
ちょっと、聞いてみるかなぁ…
〈ここにいる理由〉
タイガ「アントさんは一体、どうしてここにいるのですか?」
アント「えっ?それはもう、事件の証言をもう一度聞いておこうと思って、被告人と話していたんだよ、タイガ君……僕だって刑事だからね?」
タイガ「あっ……す、すみません…」
そう…だよなぁ……
アントさんは刑事なんだから、ここで何をしていても、別におかしくないんだったな……
ところで、事件って…一体なんの事件なんだろう…?
こういったとき、人の好奇心って罪だよなぁって思うね
よっし、聞いてみるか
〈事件のこと〉
タイガ「事件って……一体、なんの事件なんですか?」
アント「あぁっ!!ついさっき、とあるカフェで暴行事件が起こってね、その事件の容疑者……といっても、彼女でほぼ間違いないだろうけど……その容疑者に事件の内容をもう一度問いただしていたんだ。といっても、やっぱり犯行を否定していたけどね」
タイガ「暴行事件……ですか?それって、一体どのような……」
アント「ん?事件が起こったのは2時40分頃……話をしていた被害者と容疑者の間で、口論があって……その口論の結果逆上した容疑者が、被害者の頭を鈍器で殴打し、今もその被害者は意識不明のままだという……」
アント「って、あぁっ!?まだ、タイガ君、被告人から正式な弁護依頼……もらってないんじゃないかっ!!こ、これ以上はダメだよっ!!事件の関係者以外には、事件の内容を伏せておかないといけない決まりがあるからねっ!」
(結構、ペラペラ話してくれたような気もするけどな……)
という言葉を心の中でぐっと飲み込む……
アント「それじゃあ、僕は今から事件のあった現場に行かないといけないんだ、これで失礼するよ!!そうそう……被告人の弁護をするつもりなら、201号室だよっ!!彼女…すごく気難しい性格なのか、弁護してくれるっていう弁護士をことごとくキャンセルしているみたいだから、たぶんタイガくんが行っても無駄だと思うけどねっ!!」
そういうと、アントさんは駆け足で僕たちを後にしたんだ
そのまま、留置所の門から走って出て行くのが見えるぞ……
ま、まさか……事件現場まで走っていったんじゃないだろうな……
いや…さすがに、それはないよな……うん
201号室に面会に訪れると、そこには一人、うんざりとした表情のマコトさんが座っていたんだ
あの様子では……かなりの人が面会にきたみたいだな……
マヨウ「マコトさんこんばんわ…どうですか?調子は……」
マコト「……いいように、見える?最悪だよ、それでなんのようなんだい?」
板越しに見るマコトさんは、なんだか前に会った時とはまったく違う……
そんな印象を受けたんだ
雰囲気が違うのは、彼女が前とは違ってメガネをかけているからというわけでは、どうもなさそうだ……
マヨウ「……唐突で悪いんだけれど、マコトさんは今、だれか弁護についてくれる弁護士はいらっしゃるのですか?もしいないのなら………明日のマコトさんの裁判、私が……」
マコト「……断る」
マコトさんのそっけない返事に、僕は一瞬耳を疑ったんだ
マヨウさんはマコトさんの弁護をすると言っているのに…
一体、どうして断るんだろう…?
僕がそう思いながらことの流れを見守っていると、その答えは僕が思っているよりも早くに訪れたんだ
マヨウ「どうしてですか…?マコトさんっ!!弁護士がいない状態で魔物裁判になったら……有罪は濃厚ですよ!?マコトさんがしていないなら……」
マコト「……アタシは職業柄、色々な人たちを見てきたけど……マヨウさん、今のあんたは何か、信用できない、アタシにはわかるんだ」
マヨウ「なっ……!?何をばかな……」
マコト「マヨウさん…アタシを無罪にしてくれる気……ないでしょ?だって、その目はアタシを疑ってる目だもん」
なっ……!?ま、マヨウさんが……マコトさんを疑っている……?
それって、もしかしたら本当の犯人はマコトさんだったんじゃないのかって、初めから疑問を持っているって事なのか…!?
そ、そんな馬鹿なっ!!
だ、だって……マヨウさんの弁護方針は『依頼人を最後まで、信じぬくこと』のはずだ!!
僕はその考え方が好きだからこそ、マヨウさんのところに転がり込んだと言っても、嘘にはならないだろう
それを僕に教えてくれたマヨウさんが…依頼人のことを疑うなんて……
それはありえないっ!!ありえない……はずなんだ
マコト「……他の弁護士だってそうだ…まだ、アタシたち魔物を全力で弁護してくれるって弁護士は少ない……」
そう……なのか……?
確かに、弁護士協会の中でも魔物裁判は極めて難しい裁判になることが多いって言われているし……
でも、それって変だよ…なぁ……
だって、弁護士って職業は事件の容疑者のことを全力で弁護する……
だからこその弁護士だと思うんだ
その弁護に、人間も魔物も関係ないよなぁ……
マコト「タイガ……だったっけ?キミ……?」
僕がそのようなことを考えながら、マコトさんをじっとみていると、マコトさんが僕の名前を呼んできたんだ
な、なんの用事だろう……?
タイガ「は、はい、僕が……タイガですけれど……」
マコト「キミだったら、信頼できそうだけど…ね?」
タイガ「えぇっ!?ぼ、僕ですかっ!?い、いきなり!?」
本当にいきなり……何を言っているんだマコトさんはっ!?
僕だったら、信頼できそう……?マヨウさんはダメなのに…?
い、一体……彼女の信頼の基準って……なんなんだろうか…?
マコト「タイガにだったら、アタシ……弁護してもらってもいいよ?だって、君なら信頼できそうだもん」
マコト「でも、最後に決めるのは紛れもなく、キミだから……キミの心が決まったら、アタシに教えてくれるかな?……まぁ、あと20分で面会時間も終わる……今の面会が最終面会だから、もう……これを逃せばアタシは……」
タイガ「……!!」
タイガ「……マヨウさん、僕……マコトさんの弁護を引き受けてもいいでしょうか……?」
マヨウ「……君が?どうしてまた……今回もおそらく、魔物裁判だ……前回のようなドキドキをもう一度味わうことになるんだよ?」
マヨウさんがそう聞いてくる……
確かに、僕だってどうしてなのか……その答えはまだ出ていないようなものだ
だけど……
このままだと、マコトさんは誰の弁護も受けられないまま、絶望にも似た状態で魔物裁判を迎えなくてはいけない……
その結果は……おそらく、最悪の結果になるんだろうなって思ったら……
とても、見捨てることなんて、僕にはできなかったんだ
タイガ「わかっています……僕は、魔物裁判に至ってはまだ…1回しか経験したことがない素人だ…だけど…それでも、助けを求めている人の手を振り払って見捨てることはしたくないんです……」
マヨウ「それが……タイガの決断なんだね?よっしっ!!それじゃあ、頑張って弁護してあげようじゃないかっ!!これで、いいんですね?マコトさん?」
マコト「うん、少なくともあんたよりは信頼できる…それに……アタシ、タイガの事……気に入ったよ、アタシはあんたを信じる……だから……タイガもアタシの事、信じてくれる…?」
タイガ「はいっ!!僕もマコトさんを……最後まで信じますっ!!」
マヨウ「ふぅっ……それじゃあ、私はそろそろ失礼するよ?後は君たち二人で話し合うべきだろうし……あっ、そうそう……マコトさん、ここにサインをお願いします……これにサインをしてくれたら、後は私が弁護の手続きを行っておきますので……」
マヨウさんはそう言うと、マコトさんにサインをもらい……
そして、言葉通り帰っていったんだ
そして、部屋には僕とマコトさんの二人が残った……
そうだ、今のうちに、聞けることは聞いておかないと……
〈事件の事〉
タイガ「マコトさん、それで事件の事なんですが……一体、どんな事件概要になっているのですか?一応、警察の方から事情を聞かれた時に、聞いたのではないかと思って、聞いてみるのですが……」
マコト「……正直、アタシ自身…何があったのかはわからないんだ」
え……?当事者なのに……?
当事者なのに、事件が起こったときに、何があったかわからないって……
それって、一体どういうことなんだろう……?
タイガ「ですが……事件当時、事件現場にいたのでしょう?ここに来る途中に聞いた話では……現行犯逮捕だったとか……」
マコト「店の中はその時、霧ですぐ前も見えない状態だったんだ。当然、アタシとアキの二人はその霧が充満している時も、机から移動はしなかったし……当然、アタシだってそのときは動いていなかったんだ」
マコト「でも……霧が晴れると、向かいの席に座っていたアキが机に倒れ込んでいて、血を流していたんだ!!混乱しているうちに警察が来て……そして、なぜかアタシのカバンの中に血が付着した置物が入れられていて…」
………なるほど……つまり、簡単にまとめると……
事件当時、事件現場には謎の霧が発生していた。
だが、その霧が晴れると前に座っていたはずの被害者が頭から血を流して倒れていた……
そして、カバンの中には凶器に使用されたと思われる置物が入れられていた…
……確かに、怪しいな……第三者目線で見ても……
でもっ!!マコトさんを信じるって決めたんだ
マコトさんが身に覚えがないって言った以上、僕は彼女を信じるつもりだ
つまり……彼女に罪を着せようとした第三者がいる……そういうことだよな…
といっても、このままだとマコトさんは圧倒的に不利……
どうにか、今日中に証拠を見つけて、明日に備えないと……
そうだな……後は何を聞くべきか……
〈被害者のこと〉
タイガ「そういえば、マコトさんは被害者の人とは面識があるんですか?」
マコト「うん…アタシと彼女……狗之里 アキ(イヌノサト・アキ)は同業者なんだ…といっても、勤めている場所も性格も、まったく違うんだけどね」
……そうか……同業者なのか……
ん…?
タイガ「マコトさん、同業者というのはわかったのですが、会社も違うんですよね?どうして、一緒にカフェで向かいの席に座ったりしたのですか?」
マコト「仕事の話があってね……悪いけど、仕事関係の話は追求しないで欲しい…アタシたちは職業柄、信頼がとても大切なんだ……」
き……気になるなぁ……
だが、マコトさんはそれ以上は、何も話してくれるといった感じではなかった
まぁ、人間誰しも…内緒にしておきたいことの一つや二つはあるものだしな…
今調べるべきなのは、事件に関係することだけ……
その一点に集中しないと……
係官「すみませんが、面会終了時間です……本日の面会はこれで終了になりますので、お引取りください」
タイガ「あっ、はい、わかりました……それではマコトさん、明日の裁判でまた、会いましょう」
マコト「うん、アタシ……タイガを信じているから……必ず無罪にしてくれるって……」
タイガ「大丈夫です!!マコトさんは犯人じゃないんでしょう?だったら、無罪になんてなるはずがないんですからっ!!それでは……僕はこれで……」
僕はそう言うと、留置所を後にしたんだ
さぁって……今日の残り時間で、最低でも事件の現場は調べておかないと…
9月27日 午後7時50分 カフェ 安らぎ
??「あぁぁーーーーっ!!」
えっ…!?な、なんだなんだっ!?
僕が店に入ると、いきなり聞き覚えのある声が響いてきたんだ
そして……アントさんが小走りで近づいてきたんだ
アント「まったくっ!!困るよーーっ!!僕は刑事なんだからねっ?配達人じゃないんだから……はい、これっ!!」
タイガ「えっ……あれ?これって…弁護証明書……」
アント「君と一緒にいた人が、僕にこれを君が来たら渡してくれって押し付けて帰ったんだよっ!!もうっ!!君からもひとつ、説教しておいてよっ!!」
タイガ「あっ…はぁ……わかりました……」
マヨウさん……アントさんに預けて行っていたのか……
困った人だなぁ……もぅ……
さて、ここが事件現場か……見た感じ、普通のカフェ……
こんなところで事件が起こっていたなんて、とてもじゃないけど信じられないぐらいに日常感を醸し出しているなぁ……
さてっ!!調査開始と行きますかっ!!
っと、そうだ……アントさんにも他に事件に関係する情報がないか、聞いておかないとな……
〈事件の事〉
タイガ「アントさんっ!!これで一応僕にも事件の情報を教えてくれるんですよね?だって、僕は今、マコトさんの担当弁護士なんだから……」
アント「あぁ、それは無理だよ?情報は自分の足で手に入れないとねっ!!それに、僕たちは検事側だからねっ!!弁護士の君とはライバルだもんねっ!」
タイガ「……うぅっ……」
くそっ……やっぱり、自分で探すしかないのか……?
アント「………………もう、仕方ないなぁ……はい、これ……被害者の事件当時の外傷のデータだよ、これ以上はダメだからねっ!!」
【被害者の外傷のデータ】
よし……忘れないように事件用のカバンに突っ込んで……っと……
さて、これ以上聞いても、アントさんは教えてくれないみたいだし……
ここからは自分で頑張るしか……無いみたいだな……
ふむふむ……今、僕がいるこのテーブルが、事件が起こった瞬間のままの被害者とマコトさんが一緒に座っていたテーブルか……
確かに、事件のまま……かぁ……
何かあればいいけどなぁ……
だが、ひたすらに探し続けても、全く何も見つかる気配はなかったんだ
まぁ……何かあったとしたら、もう警察が手にしてるか……さすがに……
アント「勝手に現場を荒らしちゃダメだよーーー?」
それに、必要以上にアントさんがこちらを気にしているから、踏み込んだ調べ物はできないだろうしなぁ……
ん………?この店…監視カメラが二つも付いているのか……
その映像って、どうにかして見せてもらえないだろうか?
僕は事件があった時間のカメラの情報を見せてもらえないか、このカフェのなかにいる人に訪ねてみたんだ
タイガ「あのー……この店の責任者の人は………いらっしゃいますか?」
だが、僕の予想に反して……その質問に答えを返してくれたのは違う人物だったんだ
僕が責任者を呼ぶとすぐに、アントさんがこっちに近づいてきたんだ
ま、まさか……まさか……また何かあるのか……?
さすがに、店の主人に話を聞くのが捜査妨害とかどうとかは言わない…よな?
アント「タイガ君、この店のマスターは今、警察署で事情聴取中だから、ここにはいないよ?」
タイガ「えっ……?事情聴取…?」
アント「うん、明日の裁判の貴重な証人だからね、今日は事件について聞くことは無理かなぁ……」
タイガ「そ……そんな……」
どうする……?もう八方塞がりだぞ……
これ以上はここで調べることなんて、なさそうだし……
アント「ここのマスターに、何を聞くつもりだったんだい?」
タイガ「あぁ、実は……」
僕は、監視カメラの写真を見せてもらえないだろうかと聞こうとしていた事をアントさんに話したんだ
まぁ、別に無理に隠すことでもないし………
アント「んーー……いいよ、別に?警察の方の調査は終わってるし……はい、このファイルのなかに入っているからね!!ちゃんと明日までに目を通しておくんだよ?」
【監視カメラの写真】
ふむふむ、これは二枚でひとつなのか……
これも、明日の裁判のときに要チェックしておかないとな……
タイガ「しかし……この店のマスターが証人だったんですか……」
アント「いや、他にも一人決定的な証人が……って、こ、これは内緒だったんだっ!!危ない危ない……危うく話してしまうところだった……」
アント「タイガ君っ!!誘導尋問しようとしても、僕には通用しないからねっ!!」
いや……結構自分から話しているような気がするけど………
などと思いながら、他にも証拠がないかを店内を必死に探したが……
それっぽいものは何も見つけることはできなかった
そうこうしているうちに、時間は夜の10時……
僕は、一度事務所のほうに戻ることにしたのだった……
9月27日 10時40分 絽籐荷法律事務所
タイガ「ただいま戻りました……」
マヨウ「おっ……?お疲れ様、どうだったんだい?成果は……」
マヨウさんは机に座ってスマホをいじりながら、僕にそう聞いてきたんだ
僕は、今日の捜索の成果をマヨウさんに話していったんだ
マヨウ「ふむ……証拠は二つか……まぁまぁいい成果じゃないかっ!!」
タイガ「で、ですが……やっぱり、証拠は多い方が……」
マヨウ「確かに、証拠は多いに越したことはない……だけど、別に少なくても……嘆くことじゃないんだよ?だって、見つからなかったわけじゃないじゃないか、それなら……その捜索には意味があったんだよ」
やっぱり、マヨウさんは前向きだな……
確かに、最終的な結果は明日…明日にならないとわからないし……
今、ここで後ろ向きになったって、仕方ないって事だよね……
タイガ「……師匠っ!!明日の裁判……僕、頑張りますっ!!」
マヨウ「うん、それでいいんだよ、だって……君が不安な状態で裁判を受けると、弁護人のほうはさらに不安になってしまうからね?たとえどのようなことがあっても、弁護人を信じて……弁護しないとね」
マヨウ「さて、もう夜も遅いし……明日は、頑張るんだよ?時間がとれたら、応援にも行くから……」
……いよいよ明日……マコトさんの裁判が始まるのか……
まだ、全く何もわからない状況だけど……自分の持てる全ての力を振り絞って……
絶対に無罪を勝ち取って見せるぞ……!!
16/07/22 20:18更新 / デメトリオン mk-D
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