1 初めての魔物裁判
??「タイガ君、そういうわけだから、君に魔物裁判を引き受けてもらいたい」
僕がそういきなり言われたのは、昨日の夜のことだ
僕の名前は逃出 大河(にげだし たいが)、職業は……弁護士…の見習いで、毎日をこの絽籐荷法律事務所(ろとうにほうりつじむしょ)で、頑張って過ごしている
といっても、この事務所の知名度はあまり高くなく……ほとんどの日常をのんびりと過ごすというのが現実だったりするんだけども……
昨晩、1件弁護の依頼がこの事務所に届いたんだ
その依頼の依頼人は絽籐荷さんの親戚の友人の子供らしく、久しぶりの弁護だと喜んでいたのは、まだ覚えてる
あっ、絽籐荷さんっていうのは、僕の上司で本名を絽籐荷 マヨウ(ろとうに まよう)といって、実は一時期はかなり有名な弁護士だったんだ
……最近は、さっぱり噂も流れないけど…
そんなマヨウさんから電話を夜中に受け、僕は何気なくその電話をとったんだ
マヨウ「やぁ、タイガ君、まだ起きてるかい?」
タイガ「はい、どうしたんですか?」
マヨウ「実はね……君に頼みたいことがあるんだ……こんなことを君に頼んでいいか、非常に迷ったのだが……」
タイガ「やだなぁ、師匠の言うことならなんでも聞きますよ、それで、頼みというのは……」
マヨウ「……君に、明日の僕が引き受けていた弁護の依頼を引き継いで欲しいんだ、もう資料もそちらに輸送して、手続きも済ませてるんだけど、肝心の君にそのことを報告するのを忘れていて……」
タイガ「えっ………?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
マヨウ「大丈夫だっ!!君ならできるって!!僕は少し急用ができてね……まぁ、明日の裁判は相手の検事さんも優椎(やさしい)さんっていう人だから君もいい経験になると思うよ?ここは相手の肩を借りるつもりでひとつ、頑張ってきなよっ!!」
マヨウ「っとまぁ、そういうわけで、タイガ君、君に魔物裁判を引き受けてもらいたい」
………そうかぁ、ついに僕も初めての法廷かぁ……
って、んっ?ま・も・の・さ・い・ば・ん……?
え、えぇぇぇぇぇっ!?
タイガ「師匠っ!!そ、その裁判って、魔物裁判なんですかっ!?」
ツー…ツー……
き、切れてる……なんてこった……
師匠はこっちから電話をかけても、絶対に取らないからな……
こうなったら、覚悟をきめてやるしかない……!!
魔物裁判……それは、魔物娘同士のいざこざや、法律違反など色々な魔物娘が起こした事件を取り扱う裁判のことで、歴史は結構新しい
それゆえ、弁護士の中でもなかなかに場数を踏んでから望むことが望ましいと勉強した時に教わったんだけど……そ、そんな裁判にいきなり初心者の僕が行くことになるなんて……
仕方がないっ!!こうなったらとりあえず事件の資料が届いたら必死で勉強して、明日の裁判に備えるしかないっ!!
6月16日 午前9:50分 裁判所控え室
タイガ「やばいぞ……資料が届いたのが開廷一時間前……その後、目を通す暇もなく、車で裁判所に急いできたから……事件の概要が一切わからないぞ…」
??「………あの……」
タイガ「……ん?」
僕は後ろの方で声をかけられ、ゆっくりと後ろを振り向いた
そこには、蟹の下半身に人間の女の子のような上半身の魔物娘……キャンサーの女の子がいたんだ
心なしか、下半身の蟹部分の元気がないように見える
??「あなたが……マヨウさんの……紹介してくれた……弁護士さんですか?」
タイガ「はい、僕がその弁護士です、えっとあなたは…蟹沢 キャスタ(かにさわ きゃすた)さんですね?今日はよろしくお願いします」
キャスタ「はい……私、本当に犯人じゃないんです……でも、スイムちゃん…信じてくれなくて……クロさんまで私のこと……うっ…疑って……ぐすっ…」
タイガ「大丈夫ですっ!!僕に任せてくださいっ!!自分の持てる全てを出して、裁判に臨みますからっ!!」
係官「弁護士、被告人、まもなく裁判が開廷しますので、法廷内にお願いします」
タイガ「は、はいっ!!」
いよいよだ………まぁ、キャスタさんにはああいったけど…僕、初心者だしな…
助けられるように全力は出すけど、もし無理だったとしても……許してくれるよな…?
それに、相手は検事局の検事さんの中で、一番やさしいことで有名な優椎さんだし…………
6月16日 午前10時10分 裁判所第二法廷内
サイバンチョ「それでは、ただいまより魚沼邸お菓子強奪事件の容疑者の裁判をはじめるのじゃ……なお、本日の裁判長はわし、バフォメットが務めるのじゃ、各員、バフォ様と呼ぶようにっ!!」
検事「………検察側、準備完了している」
………えっ?な、なんだ…?あの検事席にいる青い肌の軍服と検事服を混ぜたような服装の女性は……?
あれって確か…デーモン……だよな…種族…
えっ?優椎さんって確か男性だったはずでは……?
バフォ様「弁護側?どうしたのじゃ?」
タイガ「えっ…?あっ!?べ、弁護側、準備完了していますっ!!」
バフォ様「……なんだか、弁護士は緊張しているようじゃのぉ……ふむふむ、ほほぅ、今日が初めての弁護なのか…それは初々しくていいものじゃな。しかし、始めてといえど、全力て弁護に当たるようにっ!!それではサバキ検事、冒頭弁論をお願いするのじゃ」
待ったっ!!
タイガ「ま、待ってくださいっ!!検事は確か……優椎検事だったんじゃないんですかっ!?どうして別の人が……」
うるさいぞ
タイガ「っ!?」
サバキ「ふんっ……別に検事が変わったところで、何も変わりはないであろう?事件の真相と犯人に一点の違いも無い。なぁ、童貞弁護士?」
ざわざわ……ざわざわ……
カンカンっ!!
バフォ様「静粛にっ!!検事、困るぞ?法廷を騒がせるような真似は……いくら今のご時世、21を過ぎても童貞というのが希少価値があるとはいえ……そのようなことを発言するのは控えるようにっ!!」
サバキ「ところでだ……タイガ君は調べたところによると、将来の結婚プランもまだ立っていないという……困ったものだ、実に困ったものだ…未来ある若者が、その未来を自ら捨てるなど……ふっ、だが安心しろ…この私がその未来をもう一度切り開いてやろうではないか……」
タイガ「そ、そんなことは今回の裁判とはなんの関係も……」
うるさいぞ
サバキ「タイガ君にとてもいい話を持ってきた……なぁに、私がいつも、独り身の弁護士にしてあげているお節介というやつだ………君はこの裁判で有罪判決を受けたら、そのまま私の紹介した結婚相談所に連行だ、当然、拒否権は無いぞ?これは契約として執行されると同時に、魔物裁判としては正式なルールだ」
バフォ様「そうじゃな…魔物娘の婚活政策によって定められたルールのひとつじゃ、といっても弁護士君は知らなかったのかな?この魔物裁判は特殊で、男性の独身者の弁護士、または検事が有罪や無罪の結果により、勝敗が決まり、負けた場合……相手の魔物娘のいうことを1つ聞くという……」
そ、そんなルール……聞いてないぞっ!?
なんて裁判だ………魔物裁判、恐ろしいところだ……
サバキ「ふっ…せめてもの情けだ、すぐにタイガ…貴様を救ってやる」
タイガ「け、けっこうです……」
サバキ「………ん?(ニコっ)」
ガチャっ……
タイガ「ひ、ひぃぃぃっ!!じ、銃っ!?法廷にそんなものを持ち込むなんて……」
バフォ様「まぁ、いつもの光景じゃな…検事には特徴的な者たちが多いからのぉ……では、冒頭弁論をお願いするのじゃ」
な……なんてこった……
ぜ、絶対に負けられなくなったぞ……
冒頭弁論
サバキ「事件が起こったのは6月15日の3時頃……被害者が3時のおやつを食べようとしていた時に……それは起こっていた。なんと、被害者の食べようとしていたおやつが何者かによって食されていたのだ、それだけならまだ普通の出来事だったが……こともあろうに、犯人は被害者の旦那の手作りのお菓子を無断ですべて食べたのだっ!!」
バフォ様「な…なんじゃとぉぉぉぉぉっ!?」
ざわざわ…ざわざわ……
……えっ?な、なんでこんなに法廷がざわついているんだ…?
サバキ「これは、とてつもなく魔物道に反した行いであるっ!!私はその事実を、この裁判で完璧に立証してみせよう……それでは最初の証人に来廷して頂こうか……」
サバキ検事がそう言うと、証言台に一人の魔物娘が歩いてきたんだ
服装から考えるに……警官かな…?
サバキ「証人、職業と名前と種族を」
??「はっ!!僕は駆廻 アント(かけまわり あんと)警官をしています!種族はジャイアントアントですっ!!いやぁ、僕、法廷で証言するのって初めてで………」
うるさいぞ
サバキ「アント…私はいつも言っているはずだが……?」
アント「はっ!!証人は速やかに証言を行うべしっ!!駆廻 アントっ!!証言させていただきますっ!!」
こ、これはまた……元気な子だな……
髪型はショートカットで、いかにも元気っ娘って雰囲気が漂ってる
証言…かぁ……師匠が日頃言っていることを実践するなら、証人が間違ったことやおかしなことを言っていたら、その部分を指摘して、ムジュンを突きつければいいんだったな……
そうすれば、最終的には事件の全てが明らかになるって……
そうそう……師匠から送られてきた証拠品にも、今…目を通しておかないとな
証拠品は……次の二つかぁ……
1 食べられたお菓子の箱
見たことが無い柄のお菓子の箱で、中身は空っぽ
2 クロの部屋から出てきたお菓子のカス……
事件の関係者と思われる人物の部屋から出てきたお菓子の包み紙、淡い青色をしている
師匠の書置きで、クロという人物の部屋から採取と書いてあった
………えっ!?この二つなのっ!?
二つともゴミじゃないかっ!!こんなので弁護しろっていうのかっ!?
ダメだ……か、勝てる気が…しねぇ……
証言開始
事件当時の出来事
アント「僕が現場に駆けつけたのは通報があってから40分ぐらい後のことかな」
アント「被害者のスイムさんが部屋に誰も細工できないように見張ってたらしいから、部屋の中に侵入できた人物はいないはずだよ」
アント「それで、いざ部屋の中に突入したら、部屋が泡まみれだったんだよっ!!容疑者の中で泡といえば…イメージできるのはキャンサーだよね!!」
アント「それに、部屋の入口も何かで壊されたような後があったし……キャンサーの下半身の蟹さんだったら、それができてもおかしくないからねっ!」
バフォ様「ふむふむ……なるほどのぅ…確かに、被告人以外の犯行は考えにくいようじゃ……これは、もう判決を……」
待ったっ!!
タイガ「待ってくださいっ!!べ、弁護人の尋問がまだですっ!!」
サバキ「ふんっ……諦めが悪い弁護士だ」
タイガ「そりゃあ、人生かかってますからね……」
尋問開始
アント「僕が現場に駆けつけたのは通報があってから40分ぐらい後のことかな」
待ったっ!!
タイガ「どうして、通報があってから40分もかかったのですか?いくらなんでも遅すぎるような……」
アント「それは仕方ないんです!!だって、僕は……走って来ましたからねっ!!気持ちいい汗をかきながら現場に行くのってすごく気持ちいいんですよっ!!」
サバキ「遅いのは、弁護人の婚期だけのようだ……ふっ、私に全てをゆだね…結婚相談所に行けばよいのだよ…タイガくんはな」
タイガ「ぐっ………」
アント「被害者のスイムさんが部屋に誰も細工できないように見張ってたらしいから、部屋の中に侵入できた人物はいないはずだよ」
待ったっ!!
タイガ「どうしてそう言い切れるのですかっ?もし、見逃していたりしていたら……」
アント「ちっちっち……それがないんだなぁ…だって、スイムさんは扉の前で仁王立ちしていたんだからねっ!!誰も入ることなんて出来やしないんだよっ!!」
サバキ「そもそも、よく話を聞いていればそのようなことを聞くことはないと思うのだがな?タイガ君?」
バフォ様「えっ……?あっ…そ、そうじゃなっ!!もちろん、わしもわかっておったぞっ!!」
タイガ「うぐぅ……」
アント「それで、いざ部屋の中に突入したら、部屋が泡まみれだったんだよっ!!容疑者の中で泡といえば…イメージできるのはキャンサーだよね!!」
待ったっ!!
タイガ「そんな先入観だけで決め付けるのは良くないと思いますっ!!もしかしたら……そ、そう…スイムさんが事前に床に洗剤をこぼしていたとか……」
サバキ「そのような事実は無いんだよ、弁護士クン?」
タイガ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?そ、そんな……」
アント「はっ!!事前に聞いてみたところ、そのようなことはしていないと…」
タイガ「…………(ぐぅっ……八方塞がりじゃないか……)」
サバキ「ふっ……まだ足掻くかね?」
アント「それに、部屋の入口も何かで壊されたような跡があったし……キャンサーの下半身の蟹さんだったら、それができてもおかしくないからねっ!」
待ったっ!!
タイガ「何かで壊された跡……?それ、僕…始めて聞く情報なんですけど…」
アント「僕、その扉の写真も撮っていたんです!!ほらっ!!これですっ!」
サバキ「では、検察側はこれを新たな証拠として提出しよう……」
証拠 事故現場の写真
事件の現場の写真で二枚セットになっている
一枚目は部屋の中の写真で、その写真には一面泡に包まれた部屋が写されている 内装は一般家庭の部屋と同じようなもので、机と窓…そして、小さな棚がある程度
二枚目は部屋の入口の写真で、何かで殴りつけられ壊されたような跡がある
バフォ様「ふむふむ……これで、弁護士の尋問は終わったのかの?どうやら、新しい証言も発見もないようじゃ……これにて、判決を……」
サバキ「さて……結婚相談所の資料を取り寄せるか………」
ぐっ……このままだと……このままだと…
何か………何か見落としていることがあるんじゃないのか……?
俺の頭の中に、必死に自分じゃ無いと訴えていたキャスタちゃんの顔が浮かんできた
俺は……力及ばずだったのか……
……いや、待てよ…?
1つ…確信なんて持てないけど1つだけ可能性があるじゃないかっ!!
こうなったら、その可能性を突き詰めて駄々をこねまくるしかないっ!!
今を切り抜けるんだっ!!
異議ありっ!!
バフォ様「な、なんじゃ?急に大きな声を出して……」
タイガ「1つだけ……1つだけ確認させてもらいたいことがあるんですっ!アント刑事っ!!被害者が部屋の前に立っていたから、犯人が部屋に入ることは不可能……間違いないですか?」
アント「もちろんだよ!!だって、部屋の前にいたんだよ?だったら犯人が外から入る事なんてできないじゃないかっ!!」
くらえっ!!
僕はそう言うと、証拠品の一つをバフォ様のほうに向かって投げつけたんだ
その証拠品はバフォ様の魔力に絡め取られ、机の上にひらひらと舞い落ちる…
タイガ「これは、先ほど検察側から提出された事件の証拠品です……現場の写真ですね」
タイガ「この写真の二枚目に注目してください……この扉の絵……壊されているのが見て取れると思います……」
サバキ「それが…何か?」
タイガ「確かに、アント刑事の言っているとおりに被害者のスイムさんが部屋を確認し、事件が発覚した後……刑事がくるまでに部屋の外から入口をつかって入った人物がいるとは考えにくい……ですがっ!!」
タイガ「もし、初めからずっと部屋の中に犯人がいたとしたらどうでしょうか?外で見張っていることは、なんの意味もなくなるじゃないですかっ!!それに、アント刑事は事件の現場まで走って行き、その部屋の中が調べられたのは40分も後のことです」
タイガ「それだけの時間があったら……偽装工作だって可能だっ!!」
ざわざわ……ざわざわ……
パンッ!!
タイガ「ひぃっ!?」
さ、サバキさんが銃を撃ってきたっ!!
えっ…えぇぇっ!?そ、そんなのありなのかよっ!?
サバキ「ふぅっ……弁護士クン…貴様は馬鹿か?私がそれを…被害者に聞かなかったと思うのか?それに、被害者だってそうだ……大切な物を盗られたら犯人が近くにいるんじゃないかと部屋の隅々まで探したはずだ」
サバキ「これが被害者の証言を的確に記したものだ……ここにこう書いてある」
サバキ「部屋の中は隅々まで調べました…天井にも床下にも家具の影にも…人影なんてありませんでしたとな…つまりだ……」
サバキ「タイガ弁護士の推測は…ただの夢物語に過ぎないのだよっ!!」
タイガ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
す、すぐに返されちまった……
いや、待て待て……もしかしたら……この可能性もあるよな……
タイガ「だ、だったら…犯人は部屋の窓から脱出したんですっ!!そして、被害者が部屋を調べ終わったあとに、部屋に窓から戻った……これなら、被害者が部屋を調べた時は、犯人は部屋の中にいないってことになりますっ!!」
サバキ「クックック……ふはははははははっ!!弁護士……この水沼邸が何処に建てられているか…わかるか?海のいわばの上でな…?水辺に住む彼女たちなら、海に落ちても何も問題はないだろうが……あの窓は正面は物凄く狭い岩場…真下はゴツゴツと切り立った崖になっているのだっ!!」
タイガ「な……なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
サバキ「そこから脱出などしようものなら、大怪我は当然なのだよ!!当然、侵入するのも容易くは無い……窓に移れる場所は物凄く狭く、侵入などできないのだ…それこそ、体がスライムだとか、空を飛べたりしたなら別だが……そのような魔物娘の痕跡は現場には無いのだ!」
タイガ「ぐっ………」
サバキ「ふっ……以上だ……」
ぐぅっ………本当に……本当にいないのか……?
事件の関係者のリストとかに……空を飛べたり、スライム系の女の子は……
だが……事件のリストには三人の名前しか記されていなかった……
まずは被害者の 水沼 スイム(みずぬま すいむ)……種族はサハギン
次にその被害者の友人で、事件当時、一緒に遊びにきていた 蛸海 クロ (たこみ くろ)…… 種族はスキュラ
最後に被告人の蟹沢 キャスタ(かにさわ きゃすた)……種族はキャンサー
の三人……
ぐぅっ………空を飛べる魔物も…スライム系の魔物もいない……
第三者の可能性も無い………こ、これじゃあ……もう打つ手が………
その時だった……僕の積んでいた資料の山が崩れ、魔物についての生態が書かれた愛読書…魔物娘図鑑が出てきたんだよ!!
そういえば……各魔物の欄を詳しく見てなかったな……
………っ!!
見つけた……!!
バフォ様「弁護士もいよいよ限界のようじゃのぅ……結婚したらわしからも粗品を贈ってやるでな……」
異議ありっ!!
タイガ「待ってくださいっ!!事件当初…そして事件後……一人だけ窓から出入りできた人物がいますっ!!弁護士側は、その人物こそが……お菓子を食べた犯人だと主張しますっ!!」
サバキ「なっ…!?そんな人物……いるはずが無いっ!!弁護士もついに、やけになったのか?安心しろ……魔物娘と結婚するのはいいぞ…?愛に飢えた貴様には是非ともおすすめしてやりたいぐらいだ……なぁ?」
タイガ「ところが……一人いるんですよ……事件関係者で、唯一一人だけ……窓から侵入や脱出が容易にできた人物がっ!!それは…蛸海 クロさん……被害者の友人の一人ですっ!!」
サバキ「………タイガ、正気でそれを主張するつもりか?もし間違っていたら……わかっているんだろうな…?貴様は無実の者を告発したことになる…この罪は重いぞ…?」
バフォ様「…裁判では証拠が全てじゃ…仮に弁護士がそう主張するとしても…証拠もなければ、疑うこともできんのじゃぞ?ハッタリで言っているのではなかろうな?」
……も、もう1回言ってしまった以上……押し通すしかないっ!!
この小さな…可能性をっ!!
タイガ「はいっ!!大丈夫ですっ!!この魔物図鑑を見てください……ここに、今回の容疑者や被害者などの事件関係者の種族の特徴が書かれています」
サバキ「当然だ……そのような本…今や学校の教本になるほどに世に普及しているではないか!」
タイガ「その本のスキュラの欄をご覧下さい……ここにしっかりと書いているんですよっ!!『一見、入り込めそうにない狹い隙間にも入り込む能力がある』とっ!!」
サバキ「……なっ…なんだとぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
タイガ「つまり……一見事件には関係がなさそうな彼女も…十分怪しいのですっ!!弁護人はクロさんを証人として呼ぶことを申請しますっ!!」
パンッ!!
サバキさんがいきなり腰の拳銃を抜くと、俺の方に銃を向けて撃ってきたんだよっ!!
なんだか…不気味なぐらいに目つきが鋭く…口元は必死に笑みを作ろうとしてて…なんだか怖い……
サバキ「………ふぅっ…あぁ、安心してくれ…この銃の弾は高濃度の魔力が込められているだけだ…当たっても、この場で自慰を始めるぐらいにしかならんさ」
タイガ「それは非常に安心できないんですがっ!?」
サバキ「しかし……まさか、弁護士…ここまで抗ってくるとはな……これはいよいよもって、本気を出さねばならんだろうな……さて、バフォ様…新しい証人を入廷させる前に、検察側でも証言を聞いておきたい…」
バフォ様「そうじゃな…それではただいまから10分の休憩を取ることにするっ!!その後、新しい証人の証言を聞くとするかのぅ……そうと決まれば…おーいっ!!わしのケーキ持ってきて欲しいのじゃーーっ!!」
魔女「かしこまりましたですーーっ!!(…二個食べちゃったけど、いいよね…)」
6月16日 午後1時15分 弁護人控え室
キャスタ「…弁護士さん…今更ですけれど…私の弁護…その…受けてくれて…ありがとうございます……」
タイガ「別に気にしないでくれると、こちらも気が楽かな…?あっ…そうだ…裁判が始まる前に聞きたいことがあるんだ…その…蛸海 クロさんのことなんだけど……」
キャスタ「クロちゃんですか…?…私とはよく一緒にダンスを踊ったりしている、中のいい友達ですっ!!私とクロちゃん…そしてスイムちゃんはよく、一緒に甘いものを食べ歩いていたりしてた……そんな仲でした……最近は、スイムちゃんが先に結婚して、あまり遊ぶこともなくなってきていたんですけれどね………昨日、久しぶりに家に遊びに行ったんです……」
タイガ「へぇ……キャスタちゃんたちは、事件が起こる前とかにも、お菓子のある部屋に行ったりしたの?」
キャスタ「いいえ……その……行ってないです…お菓子はいつも…スイムちゃんが用意…してくれるので………」
タイガ「へぇ……じゃあ…お菓子のある部屋には本来…誰もいってないのか…クロさんの証言がどうなるかが肝って感じだな…こりゃあ……」
係官「弁護士っ!!被告人っ!!そろそろ時間ですっ!!」
いよいよ……事件の犯人かもしれない人物との対決…か……
結果がどうであれ……今の僕にできることはキャスタちゃんの無実を信じて…弁護をするだけだっ!!
6月16日 午後1時25分 裁判所第二法廷内
バフォ様「さて……それでは、審議を再開するかの?サバキ検事、新しい証人を……」
サバキ「では……新しい証人に入廷して頂こう…」
サバキ検事がそう言って、その後アント刑事が一人の人物を呼びに行ったんだ
そうして、アント刑事が連れてきたのは……すごくひらひらした服を身にまとった踊り子……のような姿のスキュラだった
なんというか、肌の露出面積が広すぎて、僕にはとても刺激が強いね
サバキ「では証人……すみやかに名前と職業と種族を……」
??「ふんふ〜ん♪ふんふふ〜ん♪」
サバキ「証人っ!!」
??「へっ?あっ……ごめんごめんっ、いいダンスの振り付けが浮かんじゃって……てへへっ……」
??「あたしの名前は蛸海 クロ 職業はダンサーで種族はスキュラっ!今日は最高の舞いでみんなの目を奪うから、目を離さないでねぇ〜♪」
サバキ「さて……彼女のとても素晴らしい腰の振りは、私も真似したくなるほどだが、それは事件とは関係ないことだ…早速、証言を行ってもらうとしようか?ふふふっ……弁護士は彼女の完璧な踊りで我を奪われないように気をつけないといけないぞ?まぁ、私としては一向に構いはしないのだが……」
クロ「へへっ……弁護士クンにはちょっと刺激が……強いかもねぇ♥」
タイガ「し、し、証言を早くお願いしますっ!!」
証言開始
クロ「あたしはその日はスイムの家で遊んでたんだ〜♪事件があった時間は……確か、部屋で一人…ダンスの練習してたかなぁ?」
クロ「事件があった後、スイムが慌ててあたしとキャスタを呼んだんだぁ…キャスタを責める時のスイムは…すごく怖かったよぉ……」
クロ「まぁ、あたしが犯人なんてありえないのに、疑うなんて……困った弁護士クンだなぁ♪そんな君にはあたしの舞いを見て心を洗い流してもらわないとねっ!!」
以上が、彼女の証言だが………
やっぱり、事件とは関係ないって主張で来るのかぁ……
まずは第一ステップ……ここは問題なく突破できるはずだ…
頑張れよ…僕っ……!!
尋問開始
クロ「あたしはその日はスイムの家で遊んでたんだ〜♪事件があった時間は……確か、部屋で一人…ダンスの練習してたかなぁ?」
待ったっ!!
タイガ「どうして部屋でダンスの練習なんかしていたんですかっ!!しかも一人で……これはどう考えても怪しい……」
うるさいぞ
サバキ「彼女はダンサーだ、彼女の踊りの練習には多大な意味があるのだよ…彼女の蛸足の動きと腰の動きに魅了される者がいたとしたらどうする?」
タイガ「しかしですね?現に事件が起こった時間に一人でいたというのは……」
パンッ!!
タイガ「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっな、なんでもないですぅ……」
サバキ「そう怖がるな……私は貴様を優しく送ってやる……婚活という聖なる戦場へとな……もう諦めろ……」
タイガ「ま、まだ……諦めませんよ…僕は……」
クロ「事件があった後、スイムが慌ててあたしとキャスタを呼んだんだぁ…キャスタを責める時のスイムは…すごく怖かったよぉ……」
待ったっ!!
タイガ「どうして、スイムさんはキャスタさんだけを責めたのでしょうか?クロさんだって、同様に疑われてもおかしくなんてないはずですよ?」
クロ「検事さんたちが言っていた通り、入口の扉が壊されていたのを見たんでしょ?だったら、そう思うのも無理はないと思うなぁ…」
そりゃあ……まぁ、そうか……
クロ「まぁ、あたしが犯人なんてありえないのに、疑うなんて……困った弁護士クンだなぁ♪そんな君にはあたしの舞いを見て心を洗い流してもらわないとねっ!!」
異議ありっ!!
タイガ「残念ですがクロさん……その主張はもう通らないんですっ!!前の証人の時に、窓から入れた可能性があるという事実…これが出てきた地点で犯人なんてありえないなんてことはないのですっ!!」
僕はそう言いながら、現場写真を手に持ち発言する……
決まった……今…僕、最高に弁護士してる……
サバキ「だが……それはあくまで可能性だろう弁護士?それで無実の証人を犯人として決め付けるなど……ふんっ…言語道断だな」
タイガ「ぼ、僕は決めつけてなんか………」
サバキ「ならば、可能性で相手を追い詰める前に証人の無実の声も聞くべきだろう?それとも、弁護士クンは自分が負けなければどうでもいいのかな?」
バフォ様「そうじゃな……ここは、証人の無罪の主張も聞くべきじゃな…タイガ弁護士…証人だって一人の魔物娘じゃ…とうぜん、心がある…決めつけや心無い発言には、わし自らが罰を与えるので、そのつもりでいるのじゃ」
タイガ「………は、はい……」
くぅっ……バフォ様の僕に対する印象が……少し悪くなってしまったみたいだ
サバキ「では、証人……事件のあった時の自分の身の潔白を主張できるかな?」
クロ「ひどい…ひどいよ弁護士クン……無実のあたしをそこまで疑うなんて……こうなったら、全力で身の潔白を主張するよっ!!覚悟しておいてねっ!」
証言開始
クロ「確かに、あたしたちスキュラは岩陰とか、鉄格子とかも楽にするりとくぐり抜けることができるよ?」
クロ「でも、その可能性があるってだけで犯人にされたらたまらないよ!!
キャスタだって、被告人として呼ばれている以上は容疑者だし……
それに、入口の扉は壊されていたんでしょ?
だったら、キャスタが中に入って箱に入ったお菓子を食べたとしか、考えられないよね?」
クロ「だって、私の触手じゃあとても扉なんて壊せないもん……
でも、キャンサーのハサミだったら壊せるよね?だって、あの硬さだし……
殴れば一撃で壊せたんじゃないかな?」
バフォ様「確かに、この証人の言っていることは筋がしっかりと通っておるように聞こえるのじゃが……」
タイガ「しかし……嘘をついている可能性があるかも………」
サバキ「嘘…?嘘だと?なら、せいぜい尋問して見ることだ……私が知る限り、嘘など何一つとして言っていないが……弁護士クンの耳には嘘に聞こえるようだからな?自分で現実を知るのもいいことだろう」
ぐっ…ぐぅっ……
サバキ検事の言っているとおり、本当に何も嘘を言っていないように聞こえる証言だけども………
そ、それでも、尋問しないとダメなんだっ!!
何か……この尋問で何か彼女のミスを見つけてやるっ!!
尋問開始
クロ「確かに、あたしたちスキュラは岩陰とか、鉄格子とかも楽にするりとくぐり抜けることができるよ?」
待ったっ!!
タイガ「認めましたねっ?その事実を…!!つまり、あなたはスイムさんのお菓子のあった部屋の中に……」
クロ「待ってよっ!!たしかにあたしはあの岩場を通れるけど……それって他のスキュラにも言えることなんだよ?」
クロ「スイムちゃんの家は海の上にあるの、他のスキュラが侵入しなかったって言い切れるの?種族だけでそれを言い切るのなら、あたし以外の犯行も当然ありえると思うなぁ〜……それにぃ……」
クロ「でも、その可能性があるってだけで犯人にされたらたまらないよ!!
キャスタだって、被告人として呼ばれている以上は容疑者だし……
それに、入口の扉は壊されていたんでしょ?
だったら、キャスタが中に入って箱に入ったお菓子を食べたとしか、考えられないよね?」
待ったっ!!
タイガ「だから、窓から………」
クロ「もぅっ!!弁護士さん、少ししつこいっ!!じゃあ、あたし…言わせてもらうけれど……もし、あたしが犯人だとして、扉を壊す意味なんてあるの?弁護士さんはあたしが窓から入ったって主張するつもりみたいだけど……」
タイガ「それが……何か問題でも?」
クロ「それ、壊す意味ないよね?」
タイガ「へっ?」
サバキ「くっ……ふふっ…はっはっはっはっ!!そのとおりだ……弁護士クン、追い詰めるつもりが追い詰められてしまったなぁ……」
タイガ「ど、ど、どういうことですか?サバキ検事?」
サバキ「わからないのか?もし、証人が犯人だとしたら、扉など壊さなくても、窓から侵入して、何事もなく窓から出ていけば良いのだからな…!!そのほうが、誰がお菓子を食べたか特定しにくいだろう?」
タイガ「あっ………あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」
サバキ「これはもう……決定的だなぁ?ふふっ……」
クロ「だって、私の触手じゃあとても扉なんて壊せないもん……
でも、キャンサーのハサミだったら壊せるよね?だって、あの硬さだし……
殴れば一撃で壊せたんじゃないかな?」
待った!!
タイガ「やってみなくてはわからないじゃないですかっ!!もしかしたら、その触手…というか、足というか……それを勢いよく叩きつければ、同じ傷がつくかもしれない!!」
サバキ「本気で言っているのか……?弁護士……?」
タイガ「……ははっ…やっぱり、無理ですよね……うん、知ってた…」
クロ「弁護士さんの服だったら壊せるよぉ?ふふっ♪」
サバキ「それはいい提案だな、早速……」
異議ありっ!!
タイガ「バフォ様っ!!この提案は事件とは一切関係無いですよっ!!さすがの僕も、認められませんっ!!」
バフォ様「そうじゃな…少々残念じゃが、意義を認めるのじゃ」
ぐぅっ……だめだ……
一通りの発言全てに揺さぶりをかけてみたけれど………
まったく証言に穴なんて見つからない……
……つまり…彼女は嘘なんて言って無いってことになるのか……
くそっ……このままじゃあ、またキャスタちゃんが犯人という結論に戻ってしまう……
完璧な証言…完璧な………ん?
待てよ?どうしてここまで証言が完璧なんだ…?
クロさんの証言には……本来知っていてはおかしい情報まで含まれてるじゃないか!!
そ、それって……クロさんが犯人だってことにつながるんじゃ……?
サバキ「バフォ様……もう弁護士は限界のようだ……どう考えてもこの証人はこの事件とは無関係…即刻、開放してやるべきだろう…」
待ったっ!!
タイガ「まだ、僕の尋問は終わっていませんっ!!」
サバキ「しかし、いくら時間を伸ばそうとも無駄……」
タイガ「もう、時間を伸ばしたりなんてしませんよ………こちらには完璧な証拠がある……証人の間違いを…指摘してあげますっ!!」
サバキ「完璧…?そこまでいうのなら……見せてもらおうか?だが、その証拠が決定的でなかった場合は………」
カチャリ……
サバキ「貴様はここで公開オナニーショーを始めることになる……さぁ、いえっ!!」
だ、大丈夫だ俺……自分を…信じろっ!!
タイガ「証拠はこれですっ!!」
僕はそう言いながら、師匠から送られてきたお菓子の箱を真ん中に投げたんだ
サバキ「これは……被害者のお菓子が入っていた箱ではないか……」
タイガ「そうです…これはまさしく、事件当時…部屋にあった空き箱ですっ!この柄は、この事件当時の部屋の写真の真ん中のテーブルの上にもしっかりと写っていますが……」
バフォ様「これのどこが決定的な証拠なのじゃ?」
タイガ「バフォ様…この箱を見て…この中にお菓子が入っていると絶対に言い切れるのでしょうか?もしかしたら、お菓子はこの箱のとなりにある袋に入っていたのかもしれません……」
タイガ「それなのに、クロさんははっきりと言ってます……お菓子の箱とっ!、事件が起こったあと、お菓子が置いてあった部屋に入ったのは警察だけ…当然、キャスタさんもクロさんも部屋には入っていないはずです…」
タイガ「この裁判中に、お菓子が箱から出てきたという事実を知っているのはスイムさんと僕たち法廷関係者だけのはずなんですっ!!それ以外の人でこの事実を知っていたなら……それは犯人である事の決定的な証拠となりますっ」
サバキ「ぐっ……!ぐおぉぉぉぉぉっ!?」
タイガ「さぁ、クロさん……どうなんですか?」
クロ「うっ……うぅっ……なんちゃって♥」
クロさんはそう言うと、タコの足を僕の方に勢いよく伸ばしてきたんだよ!
そのまま、絡め取られてしまう僕………
えっ?な、なに?この状況……?
タイガ「ちょ…こ、これってどういう状況なんですかっ!?」
クロ「ふっふっふ……甘いよ、弁護士さんは……」
うねうね…うねうね……
タイガ「ちょっ!?服の下で触手をうねうねしないでくださいっ!!」
バフォ様「証人っ!!弁護士に性的行為を働くのは後にするのじゃっ!!それで……証人には、先ほど出てきた事実について……何か言いたいことがあるのかのぅ?」
クロ「はい……実はあたし……あの箱を前に見たことがあるんです」
サバキ「なるほど…前に見たことがあるなら、おかしな点は何も無いな…」
タイガ「ま、待ってくださいっ!!クロさん…その話…もっと詳しく証言してくださいっ!!」
うねうね……
タイガ「そ、それと……もうそろそろ開放してください!!」
証言開始
クロ「その箱はね、あたしがダンス教室にかよっている時に、その教室の近くにあるお店で見たんだぁ」
クロ「そのお店は、お菓子専門店でね?黄色と赤色のリボンが巻いてあるのが特徴なんだ、ほらっ!!その箱にもちゃんと二種類のリボンがついてるでしょ?」
クロ「他のお店とは違っていて、特徴的だったから、覚えていたんだよねぇ……
どうかな?これでも、まだあたしを疑うの?弁護士さん?」
バフォ様「ふむふむ……他のお店で見たのか…それなら納得じゃなぁ…」
タイガ「ま、待ってくださいっ!!え、えっと……そのお店の名前はっ!?」
クロ「え?甘味処 かしゅー♥なっつ だけど……」
アント「あそこのようかん美味しいですよねっ!!僕も好きですよっ!!」
バフォ様「そ、そんなに美味しいのかのぅ?ど、どのような味わいなのじゃ?」
アント「あれはそう……疲れた体にじんわりと染み渡るしつこくない甘味が…口の中で舌とからんで……」
バフォ様「じゅるりっ……魔女よっ!!至急買ってくるのじゃぁっ!!今宵の集会のメインにするぞよぉっ!!」
魔女「ごくっ……か、かしこましましたです〜〜!!」
サバキ「さて……先ほど確かめたところ、たしかに……このお菓子の箱は甘味処 かしゅ〜♥なっつの持ち帰り用ギフトセットの箱で間違いないようだな、顧客履歴にも、被害者の購入履歴があったことから、確実な証言と言えるだろう……」
タイガ「な、な、、なんですってぇぇぇぇっ!?」
ま、まさか……本当に見たことがあったなんて……
しかも、事件の起こった現場にあった箱と全く同じもの……だと……
まさか、こんなに一瞬で状況がクルクル変わるなんて……
やっぱり、魔物裁判は恐ろしいところだ……
で、でも……ここで諦めたら……僕には結婚相談所に連行されるという未来が………
たかが結婚相談所と侮るなかれ……今まで、その場所に連れて行かれて、独り身で帰ったものは一人もいないという……
まだ、少しだけ結婚は後回しにしたい僕にとってはとても恐ろしい場所なんだ
なんでも、噂では…過激派と呼ばれる魔物娘たちが大勢勤めているとかどうとか……本当かどうかはわからないし、確かめに行くつもりも……ないんだけどね?
タイガ「じゃ、じゃあ……尋問を始めます!!」
尋問開始
クロ「その箱はね、あたしがダンス教室にかよっている時に、その教室の近くにあるお店で見たんだぁ」
待ったっ!!
タイガ「そのお店に、全く同じ箱があったとして……それが事件当時に中にお菓子が入っていたかは関係者以外、わからないはずですっ!!」
うるさいぞ
サバキ「ふん……弁護士、忘れたのか?この箱はな……ギフトセットの箱なのだ、つまり……これは贈り物をする以外の用途で買うことは無い物なのだよ、無論、100%確実と言えるわけではないが、可能性は極めて高い」
サバキ「さらに、被害者は愛する夫の手作りのお菓子を贈られる前に食べられているのだ……もし、お菓子以外の物がこの箱に入っていた可能性は少ない。無論、証人が意図せずこのお店の箱のことをおもいだして、中にお菓子が入っていたのはこの箱だったと思い込んで発言しても、おかしくないのだよ」
サバキ「むしろおかしいのは、愛を受け入れずに一人寂しい人生を送ろうとしている貴様の方だっ!!タイガっ!!」
タイガ「うっぐっ……そ、それは…事件とは関係ないじゃないですかっ!!」
クロ「じゃあ、次の証言をしますね?」
クロ「そのお店は、お菓子専門店で、黄色と赤色のリボンが巻いてあるのが特徴なんだ、ほらっ!!その箱にもちゃんと二種類のリボンがついてるでしょ?」
待ったっ!!
タイガ「どうして、黄色と赤なんですか?他の色もあったでしょうに……」
クロ「いや……そ、それはあたしに聞かれても……困るなぁ」
タイガ「黒ではダメだったんですかっ!?白ではっ!?華やかなお菓子を際立たせるためには、箱は地味な配色のほうがいいはずですっ!!」
サバキ「…………まだ、これ以上茶番を続けるつもりか弁護士?質問が思い浮かばないなら、無いと言ったらどうだ?見苦しいぞ?もし、これ以上審議に関係のない主張を続けるなら……」
カチャッ……
タイガ「ひぃぃぃぃぃっ……お、穏便に行きましょう?ねっ?」
サバキ「安心しろ…前に言ったが、この武器に殺傷能力はないのだからな?」
………いや、ある意味ではそれ以上に質が悪いような気がするんですけれど…
クロ「他のお店とは違っていて、特徴的だったから、覚えていたんだよねぇ……
どうかな?これでも、まだあたしを疑うの?弁護士さん?」
待ったっ!!
タイガ「他のお店と違っていた……それは、箱がですか?」
クロ「そうだよ?だって、こんな珍しい色のリボンを巻いた箱なんて、そこらにはないからね!」
……どうする?他にも、違っていた部分を聞いたほうがいいのか…?
このまま話が進んでしまうと……審議は終わってしまう……
うん……悩んでいるよりも前に、突き詰めたほうがいいよね……
タイガ「他に……箱のリボン以外で覚えていることはありませんか?」
クロ「他に……うーん…あっ!!そうそう…その箱とセットで売られているお菓子の包み紙…あれも他の店では見ないよねぇ〜なんでも、和紙とかでできているとか……赤と青の二色でしたよ〜」
タイガ「和紙…?和紙っていったい……」
サバキ「ふぅっ……弁護士クンは和紙を知らないのか?ジパング製の紙のことで、上品な贈り物などに使われることが多いと聞く……貴様もジパングの魔物娘と結婚すれば、いつでも見れるぞ?」
タイガ「ぼ、僕はまだ、そのつもりはないので……」
サバキ「そうそう……事件当時、お菓子を包んでいた和紙が証拠品としてこちらにある……これを提出しておこう」
そういうと、サバキ検事は赤色の和紙を提出したんだ
何か、この証拠品に重要な証拠が………うーん……
ぱっと見た感じでも、分かることは次のことぐらいかなぁ……
赤色の包み紙 端にI LOVE SUIM とかかれている
ぐぅぅっ……ただの……包み紙じゃないか……
ここまできて、なんの役にたつかもわからない証拠なんて……
バフォ様「弁護士よ、何か…証人の発言におかしいところは見つかったかのぅ?わしが聞く限りでは、特になかったような気がするのじゃが……」
タイガ「ま、待ってください……まだ、僕は……」
サバキ「諦めろ……弁護士、キミの負けだ…バフォ様っ!!当法定ではこれ以上の審議は必要ないはずだっ!!検事側は即刻判決を要求する!!」
異議ありっ!!
タイガ「ま、待ってくださいっ!!弁護側の尋問はまだ終わってな……」
異議ありだ…
サバキ「それでは、貴様は今すぐに事態を急転させることが出来るのか?先程から貴様は、事件の時にあった箱に気をとらわれているようだが……結局、この事件で重要なのは、犯人はだれかだ…箱ではないっ!!」
サバキ「それに弁護士…貴様はこの証人を犯人として告発した…ならば、そこには然るべき決定的な証拠がなければ話にならん」
サバキ「法廷では証拠が全てなのだ、それは人間の裁判も魔物裁判も、なんら変わりない事実なのだよ!!」
バフォ様「そうじゃな…このままずっとズルズルと証言を引きずるわけにもいかんしのぅ…弁護士よ…次の質問で最後じゃ…その質問をしてもし事態が何も変わらなければ、判決をくだすのでそのつもりでいるのじゃ」
そ、そんな……
くそぅ、もうだめなのか……
僕は…ここまでなのか…
僕がそう思ってしまったときだった……
不意に、証拠品の中にある青い包み紙の隅に何か書かれているのに気がついたんだ
クシャクシャに丸められていて、所見では気がつかなかったけど……
こ……これはっ!?
この瞬間、僕は今現在…突きつけることができる最後の可能性を見つけ出した
本当に綱渡りだけど……もう僕にはこの方法しかないっ!!
タイガ「決定的な証拠……1つだけ…僕の持っている証拠品の中にあるかもしれません……」
サバキ「では見せてもらおうか…?弁護士クンの最後のあがきを」
くらえっ!!
バフォ様「これは……青色のゴミかの?これのどこが決定的な証拠品なのじゃ?」
サバキ「ふっふっふ…あっはっはっはっ!!傑作だ、弁護人の最後のあがきが、このようなゴミだとは…拍子抜けだぞ、これはもう諦めたととっても良いのだな?では、書類はここにある、契約には貴様の魔力を使わせてもらうので、ペンなどがなくても安心していいぞ?」
タイガ「はたして、これはただのゴミなのでしょうか……ねぇ、クロさん?」
クロ「っ……!?な、なに?どこからどう見てもゴミだよね?それ……」
タイガ「このゴミはクロさんの部屋にあった物で、クロさんがこの包み紙の中に入っていた物を食べた証拠でもあります……さて、この青色の包み紙…これって、さっき見せてもらったギフトセットの和紙ですよねっ!?」
サバキ「…なんだと?……たしかに、そのようだが……」
タイガ「つまり、このゴミが実際にあったクロさんの部屋…その状況からクロさんが自分の部屋にお菓子を持ち帰って食べたと……」
異議ありだ
サバキ「この包み紙だけで、そのようなことを言い切ることはできないだろう?たしかに、この証拠品が証人の部屋から出てきているのは認めてもいいが、この包み紙がたまたま別の機会に偶然手に入れていたとするならどうだ?」
クロ「そ、そうだよっ!!あたしはこの包み紙に入っていた羊羹をスイムの家に持って行ってたんだっ!!それで、それを部屋の中で食べてゴミ箱に捨てた…それだけのことだよっ!!」
異議ありっ!!
タイガ「残念ですが……クロさん、それは通用しないんですよ……」
クロ「……えっ…?な、な、なんで?」
タイガ「この包み紙の端にも…とても小さな文字でこう書かれているからです!!『I LOVE SUIM』と!!」
クロ「あわっ……あわわわわわっ……」
異議ありだっ!!
ダンッ!!
サバキ「そんなもの……たまたまその包み紙にはその文字が隅に書かれているだけかも知れないではないかっ!!店で出されている物も全て隅に同じ文字が書かれていたら、何もおかしくはなくなるぞ!!」
タイガ「なら、ここでそれを確認してみればいいのですよ!!バフォ様っ!!先ほど取り寄せたかしゅ〜♥なっつのギフトセットのお菓子を包んでいる和紙の隅を調べてみてくださいっ!!」
クロ「だ、だ……ダメぇえぇぇぇぇぇっ!!」
クロ「はぁっ…はぁっ…ダメなんだから…それだけは……」
クロ「絶対にダメぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
クロさんはそう言うと、いきなり体をめちゃくちゃに揺すり始めたんだよ!
瞬く間に、自分の足でぐるぐるに巻かれてしまうクロさん……
はっ……これが、噂に聞いたことがあるブレイクシーンってやつか…!?
映像で見せられないのが…とても残念だよ…
クロ「むきゅぅぅ……」
バフォ様「うむ……どうやら、何も書いていないようじゃ……弁護人の推理はズバリ、的中したようじゃな…」
タイガ「ということは……キャスタさんは…」
バフォ様「うむ…無罪じゃっ!!さて、クロにはお仕置きとしてしっかりと反省文を書くと同時に、わしの新しいロリ化魔法の実験体になってもらうのじゃっ!!では……これにて閉廷っ!!」
サバキ「……ば…馬鹿な…この私が…?敗北を喫しただと…?……タイガ、貴様の名前…必ず結婚式の新郎の部分に刻ませてやる…覚悟しておくがいい!!」
サバキ検事はそう言うと、颯爽と法定を後にした…そして、僕は静かになった法廷内で大きく息を吸ったんだ……
か、勝てた……時間にすればたかだか二時間ぐらいだったけど……
濃い時間だったなぁ……うん…
キャスタ「あ、あの…弁護士さんっ!!この度は助けていただいて…本当にありがとうございました!!クロちゃん……まさか、クロちゃんがスイムちゃんの旦那さんの手作りのお菓子を食べていたなんて……」
キャスタさんは無罪を勝ち取ったというのに…どこか浮かない顔をしている…
そうか…親友の一人が、自分に罪をなすりつけようとしていた事実があるから…素直に喜べないのかな…?
タイガ「キャスタさん…たしかに、クロさんは友人で、一度罪を犯してしまったのかもしれません……でも、もう二度と会えないわけじゃないんです、彼女が反省したら、またみんなで仲良く遊んだりすればいいじゃないですか」
キャスタ「そうですね……それに…たぶん、クロちゃんは旦那さんができたスイムちゃんに嫉妬したのかも……その気持ちはなんとなく、私もわかります…だって、スイムちゃんはあんなに嬉しそうだったから……」
それから、しばらく僕たちは話し合って……
この事件は幕を閉じたのだった…
そして、事務所に戻った僕を新たな出会いが待っているのを、この時の僕はまだ、知る由もなかったんだ
僕がそういきなり言われたのは、昨日の夜のことだ
僕の名前は逃出 大河(にげだし たいが)、職業は……弁護士…の見習いで、毎日をこの絽籐荷法律事務所(ろとうにほうりつじむしょ)で、頑張って過ごしている
といっても、この事務所の知名度はあまり高くなく……ほとんどの日常をのんびりと過ごすというのが現実だったりするんだけども……
昨晩、1件弁護の依頼がこの事務所に届いたんだ
その依頼の依頼人は絽籐荷さんの親戚の友人の子供らしく、久しぶりの弁護だと喜んでいたのは、まだ覚えてる
あっ、絽籐荷さんっていうのは、僕の上司で本名を絽籐荷 マヨウ(ろとうに まよう)といって、実は一時期はかなり有名な弁護士だったんだ
……最近は、さっぱり噂も流れないけど…
そんなマヨウさんから電話を夜中に受け、僕は何気なくその電話をとったんだ
マヨウ「やぁ、タイガ君、まだ起きてるかい?」
タイガ「はい、どうしたんですか?」
マヨウ「実はね……君に頼みたいことがあるんだ……こんなことを君に頼んでいいか、非常に迷ったのだが……」
タイガ「やだなぁ、師匠の言うことならなんでも聞きますよ、それで、頼みというのは……」
マヨウ「……君に、明日の僕が引き受けていた弁護の依頼を引き継いで欲しいんだ、もう資料もそちらに輸送して、手続きも済ませてるんだけど、肝心の君にそのことを報告するのを忘れていて……」
タイガ「えっ………?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
マヨウ「大丈夫だっ!!君ならできるって!!僕は少し急用ができてね……まぁ、明日の裁判は相手の検事さんも優椎(やさしい)さんっていう人だから君もいい経験になると思うよ?ここは相手の肩を借りるつもりでひとつ、頑張ってきなよっ!!」
マヨウ「っとまぁ、そういうわけで、タイガ君、君に魔物裁判を引き受けてもらいたい」
………そうかぁ、ついに僕も初めての法廷かぁ……
って、んっ?ま・も・の・さ・い・ば・ん……?
え、えぇぇぇぇぇっ!?
タイガ「師匠っ!!そ、その裁判って、魔物裁判なんですかっ!?」
ツー…ツー……
き、切れてる……なんてこった……
師匠はこっちから電話をかけても、絶対に取らないからな……
こうなったら、覚悟をきめてやるしかない……!!
魔物裁判……それは、魔物娘同士のいざこざや、法律違反など色々な魔物娘が起こした事件を取り扱う裁判のことで、歴史は結構新しい
それゆえ、弁護士の中でもなかなかに場数を踏んでから望むことが望ましいと勉強した時に教わったんだけど……そ、そんな裁判にいきなり初心者の僕が行くことになるなんて……
仕方がないっ!!こうなったらとりあえず事件の資料が届いたら必死で勉強して、明日の裁判に備えるしかないっ!!
6月16日 午前9:50分 裁判所控え室
タイガ「やばいぞ……資料が届いたのが開廷一時間前……その後、目を通す暇もなく、車で裁判所に急いできたから……事件の概要が一切わからないぞ…」
??「………あの……」
タイガ「……ん?」
僕は後ろの方で声をかけられ、ゆっくりと後ろを振り向いた
そこには、蟹の下半身に人間の女の子のような上半身の魔物娘……キャンサーの女の子がいたんだ
心なしか、下半身の蟹部分の元気がないように見える
??「あなたが……マヨウさんの……紹介してくれた……弁護士さんですか?」
タイガ「はい、僕がその弁護士です、えっとあなたは…蟹沢 キャスタ(かにさわ きゃすた)さんですね?今日はよろしくお願いします」
キャスタ「はい……私、本当に犯人じゃないんです……でも、スイムちゃん…信じてくれなくて……クロさんまで私のこと……うっ…疑って……ぐすっ…」
タイガ「大丈夫ですっ!!僕に任せてくださいっ!!自分の持てる全てを出して、裁判に臨みますからっ!!」
係官「弁護士、被告人、まもなく裁判が開廷しますので、法廷内にお願いします」
タイガ「は、はいっ!!」
いよいよだ………まぁ、キャスタさんにはああいったけど…僕、初心者だしな…
助けられるように全力は出すけど、もし無理だったとしても……許してくれるよな…?
それに、相手は検事局の検事さんの中で、一番やさしいことで有名な優椎さんだし…………
6月16日 午前10時10分 裁判所第二法廷内
サイバンチョ「それでは、ただいまより魚沼邸お菓子強奪事件の容疑者の裁判をはじめるのじゃ……なお、本日の裁判長はわし、バフォメットが務めるのじゃ、各員、バフォ様と呼ぶようにっ!!」
検事「………検察側、準備完了している」
………えっ?な、なんだ…?あの検事席にいる青い肌の軍服と検事服を混ぜたような服装の女性は……?
あれって確か…デーモン……だよな…種族…
えっ?優椎さんって確か男性だったはずでは……?
バフォ様「弁護側?どうしたのじゃ?」
タイガ「えっ…?あっ!?べ、弁護側、準備完了していますっ!!」
バフォ様「……なんだか、弁護士は緊張しているようじゃのぉ……ふむふむ、ほほぅ、今日が初めての弁護なのか…それは初々しくていいものじゃな。しかし、始めてといえど、全力て弁護に当たるようにっ!!それではサバキ検事、冒頭弁論をお願いするのじゃ」
待ったっ!!
タイガ「ま、待ってくださいっ!!検事は確か……優椎検事だったんじゃないんですかっ!?どうして別の人が……」
うるさいぞ
タイガ「っ!?」
サバキ「ふんっ……別に検事が変わったところで、何も変わりはないであろう?事件の真相と犯人に一点の違いも無い。なぁ、童貞弁護士?」
ざわざわ……ざわざわ……
カンカンっ!!
バフォ様「静粛にっ!!検事、困るぞ?法廷を騒がせるような真似は……いくら今のご時世、21を過ぎても童貞というのが希少価値があるとはいえ……そのようなことを発言するのは控えるようにっ!!」
サバキ「ところでだ……タイガ君は調べたところによると、将来の結婚プランもまだ立っていないという……困ったものだ、実に困ったものだ…未来ある若者が、その未来を自ら捨てるなど……ふっ、だが安心しろ…この私がその未来をもう一度切り開いてやろうではないか……」
タイガ「そ、そんなことは今回の裁判とはなんの関係も……」
うるさいぞ
サバキ「タイガ君にとてもいい話を持ってきた……なぁに、私がいつも、独り身の弁護士にしてあげているお節介というやつだ………君はこの裁判で有罪判決を受けたら、そのまま私の紹介した結婚相談所に連行だ、当然、拒否権は無いぞ?これは契約として執行されると同時に、魔物裁判としては正式なルールだ」
バフォ様「そうじゃな…魔物娘の婚活政策によって定められたルールのひとつじゃ、といっても弁護士君は知らなかったのかな?この魔物裁判は特殊で、男性の独身者の弁護士、または検事が有罪や無罪の結果により、勝敗が決まり、負けた場合……相手の魔物娘のいうことを1つ聞くという……」
そ、そんなルール……聞いてないぞっ!?
なんて裁判だ………魔物裁判、恐ろしいところだ……
サバキ「ふっ…せめてもの情けだ、すぐにタイガ…貴様を救ってやる」
タイガ「け、けっこうです……」
サバキ「………ん?(ニコっ)」
ガチャっ……
タイガ「ひ、ひぃぃぃっ!!じ、銃っ!?法廷にそんなものを持ち込むなんて……」
バフォ様「まぁ、いつもの光景じゃな…検事には特徴的な者たちが多いからのぉ……では、冒頭弁論をお願いするのじゃ」
な……なんてこった……
ぜ、絶対に負けられなくなったぞ……
冒頭弁論
サバキ「事件が起こったのは6月15日の3時頃……被害者が3時のおやつを食べようとしていた時に……それは起こっていた。なんと、被害者の食べようとしていたおやつが何者かによって食されていたのだ、それだけならまだ普通の出来事だったが……こともあろうに、犯人は被害者の旦那の手作りのお菓子を無断ですべて食べたのだっ!!」
バフォ様「な…なんじゃとぉぉぉぉぉっ!?」
ざわざわ…ざわざわ……
……えっ?な、なんでこんなに法廷がざわついているんだ…?
サバキ「これは、とてつもなく魔物道に反した行いであるっ!!私はその事実を、この裁判で完璧に立証してみせよう……それでは最初の証人に来廷して頂こうか……」
サバキ検事がそう言うと、証言台に一人の魔物娘が歩いてきたんだ
服装から考えるに……警官かな…?
サバキ「証人、職業と名前と種族を」
??「はっ!!僕は駆廻 アント(かけまわり あんと)警官をしています!種族はジャイアントアントですっ!!いやぁ、僕、法廷で証言するのって初めてで………」
うるさいぞ
サバキ「アント…私はいつも言っているはずだが……?」
アント「はっ!!証人は速やかに証言を行うべしっ!!駆廻 アントっ!!証言させていただきますっ!!」
こ、これはまた……元気な子だな……
髪型はショートカットで、いかにも元気っ娘って雰囲気が漂ってる
証言…かぁ……師匠が日頃言っていることを実践するなら、証人が間違ったことやおかしなことを言っていたら、その部分を指摘して、ムジュンを突きつければいいんだったな……
そうすれば、最終的には事件の全てが明らかになるって……
そうそう……師匠から送られてきた証拠品にも、今…目を通しておかないとな
証拠品は……次の二つかぁ……
1 食べられたお菓子の箱
見たことが無い柄のお菓子の箱で、中身は空っぽ
2 クロの部屋から出てきたお菓子のカス……
事件の関係者と思われる人物の部屋から出てきたお菓子の包み紙、淡い青色をしている
師匠の書置きで、クロという人物の部屋から採取と書いてあった
………えっ!?この二つなのっ!?
二つともゴミじゃないかっ!!こんなので弁護しろっていうのかっ!?
ダメだ……か、勝てる気が…しねぇ……
証言開始
事件当時の出来事
アント「僕が現場に駆けつけたのは通報があってから40分ぐらい後のことかな」
アント「被害者のスイムさんが部屋に誰も細工できないように見張ってたらしいから、部屋の中に侵入できた人物はいないはずだよ」
アント「それで、いざ部屋の中に突入したら、部屋が泡まみれだったんだよっ!!容疑者の中で泡といえば…イメージできるのはキャンサーだよね!!」
アント「それに、部屋の入口も何かで壊されたような後があったし……キャンサーの下半身の蟹さんだったら、それができてもおかしくないからねっ!」
バフォ様「ふむふむ……なるほどのぅ…確かに、被告人以外の犯行は考えにくいようじゃ……これは、もう判決を……」
待ったっ!!
タイガ「待ってくださいっ!!べ、弁護人の尋問がまだですっ!!」
サバキ「ふんっ……諦めが悪い弁護士だ」
タイガ「そりゃあ、人生かかってますからね……」
尋問開始
アント「僕が現場に駆けつけたのは通報があってから40分ぐらい後のことかな」
待ったっ!!
タイガ「どうして、通報があってから40分もかかったのですか?いくらなんでも遅すぎるような……」
アント「それは仕方ないんです!!だって、僕は……走って来ましたからねっ!!気持ちいい汗をかきながら現場に行くのってすごく気持ちいいんですよっ!!」
サバキ「遅いのは、弁護人の婚期だけのようだ……ふっ、私に全てをゆだね…結婚相談所に行けばよいのだよ…タイガくんはな」
タイガ「ぐっ………」
アント「被害者のスイムさんが部屋に誰も細工できないように見張ってたらしいから、部屋の中に侵入できた人物はいないはずだよ」
待ったっ!!
タイガ「どうしてそう言い切れるのですかっ?もし、見逃していたりしていたら……」
アント「ちっちっち……それがないんだなぁ…だって、スイムさんは扉の前で仁王立ちしていたんだからねっ!!誰も入ることなんて出来やしないんだよっ!!」
サバキ「そもそも、よく話を聞いていればそのようなことを聞くことはないと思うのだがな?タイガ君?」
バフォ様「えっ……?あっ…そ、そうじゃなっ!!もちろん、わしもわかっておったぞっ!!」
タイガ「うぐぅ……」
アント「それで、いざ部屋の中に突入したら、部屋が泡まみれだったんだよっ!!容疑者の中で泡といえば…イメージできるのはキャンサーだよね!!」
待ったっ!!
タイガ「そんな先入観だけで決め付けるのは良くないと思いますっ!!もしかしたら……そ、そう…スイムさんが事前に床に洗剤をこぼしていたとか……」
サバキ「そのような事実は無いんだよ、弁護士クン?」
タイガ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?そ、そんな……」
アント「はっ!!事前に聞いてみたところ、そのようなことはしていないと…」
タイガ「…………(ぐぅっ……八方塞がりじゃないか……)」
サバキ「ふっ……まだ足掻くかね?」
アント「それに、部屋の入口も何かで壊されたような跡があったし……キャンサーの下半身の蟹さんだったら、それができてもおかしくないからねっ!」
待ったっ!!
タイガ「何かで壊された跡……?それ、僕…始めて聞く情報なんですけど…」
アント「僕、その扉の写真も撮っていたんです!!ほらっ!!これですっ!」
サバキ「では、検察側はこれを新たな証拠として提出しよう……」
証拠 事故現場の写真
事件の現場の写真で二枚セットになっている
一枚目は部屋の中の写真で、その写真には一面泡に包まれた部屋が写されている 内装は一般家庭の部屋と同じようなもので、机と窓…そして、小さな棚がある程度
二枚目は部屋の入口の写真で、何かで殴りつけられ壊されたような跡がある
バフォ様「ふむふむ……これで、弁護士の尋問は終わったのかの?どうやら、新しい証言も発見もないようじゃ……これにて、判決を……」
サバキ「さて……結婚相談所の資料を取り寄せるか………」
ぐっ……このままだと……このままだと…
何か………何か見落としていることがあるんじゃないのか……?
俺の頭の中に、必死に自分じゃ無いと訴えていたキャスタちゃんの顔が浮かんできた
俺は……力及ばずだったのか……
……いや、待てよ…?
1つ…確信なんて持てないけど1つだけ可能性があるじゃないかっ!!
こうなったら、その可能性を突き詰めて駄々をこねまくるしかないっ!!
今を切り抜けるんだっ!!
異議ありっ!!
バフォ様「な、なんじゃ?急に大きな声を出して……」
タイガ「1つだけ……1つだけ確認させてもらいたいことがあるんですっ!アント刑事っ!!被害者が部屋の前に立っていたから、犯人が部屋に入ることは不可能……間違いないですか?」
アント「もちろんだよ!!だって、部屋の前にいたんだよ?だったら犯人が外から入る事なんてできないじゃないかっ!!」
くらえっ!!
僕はそう言うと、証拠品の一つをバフォ様のほうに向かって投げつけたんだ
その証拠品はバフォ様の魔力に絡め取られ、机の上にひらひらと舞い落ちる…
タイガ「これは、先ほど検察側から提出された事件の証拠品です……現場の写真ですね」
タイガ「この写真の二枚目に注目してください……この扉の絵……壊されているのが見て取れると思います……」
サバキ「それが…何か?」
タイガ「確かに、アント刑事の言っているとおりに被害者のスイムさんが部屋を確認し、事件が発覚した後……刑事がくるまでに部屋の外から入口をつかって入った人物がいるとは考えにくい……ですがっ!!」
タイガ「もし、初めからずっと部屋の中に犯人がいたとしたらどうでしょうか?外で見張っていることは、なんの意味もなくなるじゃないですかっ!!それに、アント刑事は事件の現場まで走って行き、その部屋の中が調べられたのは40分も後のことです」
タイガ「それだけの時間があったら……偽装工作だって可能だっ!!」
ざわざわ……ざわざわ……
パンッ!!
タイガ「ひぃっ!?」
さ、サバキさんが銃を撃ってきたっ!!
えっ…えぇぇっ!?そ、そんなのありなのかよっ!?
サバキ「ふぅっ……弁護士クン…貴様は馬鹿か?私がそれを…被害者に聞かなかったと思うのか?それに、被害者だってそうだ……大切な物を盗られたら犯人が近くにいるんじゃないかと部屋の隅々まで探したはずだ」
サバキ「これが被害者の証言を的確に記したものだ……ここにこう書いてある」
サバキ「部屋の中は隅々まで調べました…天井にも床下にも家具の影にも…人影なんてありませんでしたとな…つまりだ……」
サバキ「タイガ弁護士の推測は…ただの夢物語に過ぎないのだよっ!!」
タイガ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
す、すぐに返されちまった……
いや、待て待て……もしかしたら……この可能性もあるよな……
タイガ「だ、だったら…犯人は部屋の窓から脱出したんですっ!!そして、被害者が部屋を調べ終わったあとに、部屋に窓から戻った……これなら、被害者が部屋を調べた時は、犯人は部屋の中にいないってことになりますっ!!」
サバキ「クックック……ふはははははははっ!!弁護士……この水沼邸が何処に建てられているか…わかるか?海のいわばの上でな…?水辺に住む彼女たちなら、海に落ちても何も問題はないだろうが……あの窓は正面は物凄く狭い岩場…真下はゴツゴツと切り立った崖になっているのだっ!!」
タイガ「な……なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
サバキ「そこから脱出などしようものなら、大怪我は当然なのだよ!!当然、侵入するのも容易くは無い……窓に移れる場所は物凄く狭く、侵入などできないのだ…それこそ、体がスライムだとか、空を飛べたりしたなら別だが……そのような魔物娘の痕跡は現場には無いのだ!」
タイガ「ぐっ………」
サバキ「ふっ……以上だ……」
ぐぅっ………本当に……本当にいないのか……?
事件の関係者のリストとかに……空を飛べたり、スライム系の女の子は……
だが……事件のリストには三人の名前しか記されていなかった……
まずは被害者の 水沼 スイム(みずぬま すいむ)……種族はサハギン
次にその被害者の友人で、事件当時、一緒に遊びにきていた 蛸海 クロ (たこみ くろ)…… 種族はスキュラ
最後に被告人の蟹沢 キャスタ(かにさわ きゃすた)……種族はキャンサー
の三人……
ぐぅっ………空を飛べる魔物も…スライム系の魔物もいない……
第三者の可能性も無い………こ、これじゃあ……もう打つ手が………
その時だった……僕の積んでいた資料の山が崩れ、魔物についての生態が書かれた愛読書…魔物娘図鑑が出てきたんだよ!!
そういえば……各魔物の欄を詳しく見てなかったな……
………っ!!
見つけた……!!
バフォ様「弁護士もいよいよ限界のようじゃのぅ……結婚したらわしからも粗品を贈ってやるでな……」
異議ありっ!!
タイガ「待ってくださいっ!!事件当初…そして事件後……一人だけ窓から出入りできた人物がいますっ!!弁護士側は、その人物こそが……お菓子を食べた犯人だと主張しますっ!!」
サバキ「なっ…!?そんな人物……いるはずが無いっ!!弁護士もついに、やけになったのか?安心しろ……魔物娘と結婚するのはいいぞ…?愛に飢えた貴様には是非ともおすすめしてやりたいぐらいだ……なぁ?」
タイガ「ところが……一人いるんですよ……事件関係者で、唯一一人だけ……窓から侵入や脱出が容易にできた人物がっ!!それは…蛸海 クロさん……被害者の友人の一人ですっ!!」
サバキ「………タイガ、正気でそれを主張するつもりか?もし間違っていたら……わかっているんだろうな…?貴様は無実の者を告発したことになる…この罪は重いぞ…?」
バフォ様「…裁判では証拠が全てじゃ…仮に弁護士がそう主張するとしても…証拠もなければ、疑うこともできんのじゃぞ?ハッタリで言っているのではなかろうな?」
……も、もう1回言ってしまった以上……押し通すしかないっ!!
この小さな…可能性をっ!!
タイガ「はいっ!!大丈夫ですっ!!この魔物図鑑を見てください……ここに、今回の容疑者や被害者などの事件関係者の種族の特徴が書かれています」
サバキ「当然だ……そのような本…今や学校の教本になるほどに世に普及しているではないか!」
タイガ「その本のスキュラの欄をご覧下さい……ここにしっかりと書いているんですよっ!!『一見、入り込めそうにない狹い隙間にも入り込む能力がある』とっ!!」
サバキ「……なっ…なんだとぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
タイガ「つまり……一見事件には関係がなさそうな彼女も…十分怪しいのですっ!!弁護人はクロさんを証人として呼ぶことを申請しますっ!!」
パンッ!!
サバキさんがいきなり腰の拳銃を抜くと、俺の方に銃を向けて撃ってきたんだよっ!!
なんだか…不気味なぐらいに目つきが鋭く…口元は必死に笑みを作ろうとしてて…なんだか怖い……
サバキ「………ふぅっ…あぁ、安心してくれ…この銃の弾は高濃度の魔力が込められているだけだ…当たっても、この場で自慰を始めるぐらいにしかならんさ」
タイガ「それは非常に安心できないんですがっ!?」
サバキ「しかし……まさか、弁護士…ここまで抗ってくるとはな……これはいよいよもって、本気を出さねばならんだろうな……さて、バフォ様…新しい証人を入廷させる前に、検察側でも証言を聞いておきたい…」
バフォ様「そうじゃな…それではただいまから10分の休憩を取ることにするっ!!その後、新しい証人の証言を聞くとするかのぅ……そうと決まれば…おーいっ!!わしのケーキ持ってきて欲しいのじゃーーっ!!」
魔女「かしこまりましたですーーっ!!(…二個食べちゃったけど、いいよね…)」
6月16日 午後1時15分 弁護人控え室
キャスタ「…弁護士さん…今更ですけれど…私の弁護…その…受けてくれて…ありがとうございます……」
タイガ「別に気にしないでくれると、こちらも気が楽かな…?あっ…そうだ…裁判が始まる前に聞きたいことがあるんだ…その…蛸海 クロさんのことなんだけど……」
キャスタ「クロちゃんですか…?…私とはよく一緒にダンスを踊ったりしている、中のいい友達ですっ!!私とクロちゃん…そしてスイムちゃんはよく、一緒に甘いものを食べ歩いていたりしてた……そんな仲でした……最近は、スイムちゃんが先に結婚して、あまり遊ぶこともなくなってきていたんですけれどね………昨日、久しぶりに家に遊びに行ったんです……」
タイガ「へぇ……キャスタちゃんたちは、事件が起こる前とかにも、お菓子のある部屋に行ったりしたの?」
キャスタ「いいえ……その……行ってないです…お菓子はいつも…スイムちゃんが用意…してくれるので………」
タイガ「へぇ……じゃあ…お菓子のある部屋には本来…誰もいってないのか…クロさんの証言がどうなるかが肝って感じだな…こりゃあ……」
係官「弁護士っ!!被告人っ!!そろそろ時間ですっ!!」
いよいよ……事件の犯人かもしれない人物との対決…か……
結果がどうであれ……今の僕にできることはキャスタちゃんの無実を信じて…弁護をするだけだっ!!
6月16日 午後1時25分 裁判所第二法廷内
バフォ様「さて……それでは、審議を再開するかの?サバキ検事、新しい証人を……」
サバキ「では……新しい証人に入廷して頂こう…」
サバキ検事がそう言って、その後アント刑事が一人の人物を呼びに行ったんだ
そうして、アント刑事が連れてきたのは……すごくひらひらした服を身にまとった踊り子……のような姿のスキュラだった
なんというか、肌の露出面積が広すぎて、僕にはとても刺激が強いね
サバキ「では証人……すみやかに名前と職業と種族を……」
??「ふんふ〜ん♪ふんふふ〜ん♪」
サバキ「証人っ!!」
??「へっ?あっ……ごめんごめんっ、いいダンスの振り付けが浮かんじゃって……てへへっ……」
??「あたしの名前は蛸海 クロ 職業はダンサーで種族はスキュラっ!今日は最高の舞いでみんなの目を奪うから、目を離さないでねぇ〜♪」
サバキ「さて……彼女のとても素晴らしい腰の振りは、私も真似したくなるほどだが、それは事件とは関係ないことだ…早速、証言を行ってもらうとしようか?ふふふっ……弁護士は彼女の完璧な踊りで我を奪われないように気をつけないといけないぞ?まぁ、私としては一向に構いはしないのだが……」
クロ「へへっ……弁護士クンにはちょっと刺激が……強いかもねぇ♥」
タイガ「し、し、証言を早くお願いしますっ!!」
証言開始
クロ「あたしはその日はスイムの家で遊んでたんだ〜♪事件があった時間は……確か、部屋で一人…ダンスの練習してたかなぁ?」
クロ「事件があった後、スイムが慌ててあたしとキャスタを呼んだんだぁ…キャスタを責める時のスイムは…すごく怖かったよぉ……」
クロ「まぁ、あたしが犯人なんてありえないのに、疑うなんて……困った弁護士クンだなぁ♪そんな君にはあたしの舞いを見て心を洗い流してもらわないとねっ!!」
以上が、彼女の証言だが………
やっぱり、事件とは関係ないって主張で来るのかぁ……
まずは第一ステップ……ここは問題なく突破できるはずだ…
頑張れよ…僕っ……!!
尋問開始
クロ「あたしはその日はスイムの家で遊んでたんだ〜♪事件があった時間は……確か、部屋で一人…ダンスの練習してたかなぁ?」
待ったっ!!
タイガ「どうして部屋でダンスの練習なんかしていたんですかっ!!しかも一人で……これはどう考えても怪しい……」
うるさいぞ
サバキ「彼女はダンサーだ、彼女の踊りの練習には多大な意味があるのだよ…彼女の蛸足の動きと腰の動きに魅了される者がいたとしたらどうする?」
タイガ「しかしですね?現に事件が起こった時間に一人でいたというのは……」
パンッ!!
タイガ「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっな、なんでもないですぅ……」
サバキ「そう怖がるな……私は貴様を優しく送ってやる……婚活という聖なる戦場へとな……もう諦めろ……」
タイガ「ま、まだ……諦めませんよ…僕は……」
クロ「事件があった後、スイムが慌ててあたしとキャスタを呼んだんだぁ…キャスタを責める時のスイムは…すごく怖かったよぉ……」
待ったっ!!
タイガ「どうして、スイムさんはキャスタさんだけを責めたのでしょうか?クロさんだって、同様に疑われてもおかしくなんてないはずですよ?」
クロ「検事さんたちが言っていた通り、入口の扉が壊されていたのを見たんでしょ?だったら、そう思うのも無理はないと思うなぁ…」
そりゃあ……まぁ、そうか……
クロ「まぁ、あたしが犯人なんてありえないのに、疑うなんて……困った弁護士クンだなぁ♪そんな君にはあたしの舞いを見て心を洗い流してもらわないとねっ!!」
異議ありっ!!
タイガ「残念ですがクロさん……その主張はもう通らないんですっ!!前の証人の時に、窓から入れた可能性があるという事実…これが出てきた地点で犯人なんてありえないなんてことはないのですっ!!」
僕はそう言いながら、現場写真を手に持ち発言する……
決まった……今…僕、最高に弁護士してる……
サバキ「だが……それはあくまで可能性だろう弁護士?それで無実の証人を犯人として決め付けるなど……ふんっ…言語道断だな」
タイガ「ぼ、僕は決めつけてなんか………」
サバキ「ならば、可能性で相手を追い詰める前に証人の無実の声も聞くべきだろう?それとも、弁護士クンは自分が負けなければどうでもいいのかな?」
バフォ様「そうじゃな……ここは、証人の無罪の主張も聞くべきじゃな…タイガ弁護士…証人だって一人の魔物娘じゃ…とうぜん、心がある…決めつけや心無い発言には、わし自らが罰を与えるので、そのつもりでいるのじゃ」
タイガ「………は、はい……」
くぅっ……バフォ様の僕に対する印象が……少し悪くなってしまったみたいだ
サバキ「では、証人……事件のあった時の自分の身の潔白を主張できるかな?」
クロ「ひどい…ひどいよ弁護士クン……無実のあたしをそこまで疑うなんて……こうなったら、全力で身の潔白を主張するよっ!!覚悟しておいてねっ!」
証言開始
クロ「確かに、あたしたちスキュラは岩陰とか、鉄格子とかも楽にするりとくぐり抜けることができるよ?」
クロ「でも、その可能性があるってだけで犯人にされたらたまらないよ!!
キャスタだって、被告人として呼ばれている以上は容疑者だし……
それに、入口の扉は壊されていたんでしょ?
だったら、キャスタが中に入って箱に入ったお菓子を食べたとしか、考えられないよね?」
クロ「だって、私の触手じゃあとても扉なんて壊せないもん……
でも、キャンサーのハサミだったら壊せるよね?だって、あの硬さだし……
殴れば一撃で壊せたんじゃないかな?」
バフォ様「確かに、この証人の言っていることは筋がしっかりと通っておるように聞こえるのじゃが……」
タイガ「しかし……嘘をついている可能性があるかも………」
サバキ「嘘…?嘘だと?なら、せいぜい尋問して見ることだ……私が知る限り、嘘など何一つとして言っていないが……弁護士クンの耳には嘘に聞こえるようだからな?自分で現実を知るのもいいことだろう」
ぐっ…ぐぅっ……
サバキ検事の言っているとおり、本当に何も嘘を言っていないように聞こえる証言だけども………
そ、それでも、尋問しないとダメなんだっ!!
何か……この尋問で何か彼女のミスを見つけてやるっ!!
尋問開始
クロ「確かに、あたしたちスキュラは岩陰とか、鉄格子とかも楽にするりとくぐり抜けることができるよ?」
待ったっ!!
タイガ「認めましたねっ?その事実を…!!つまり、あなたはスイムさんのお菓子のあった部屋の中に……」
クロ「待ってよっ!!たしかにあたしはあの岩場を通れるけど……それって他のスキュラにも言えることなんだよ?」
クロ「スイムちゃんの家は海の上にあるの、他のスキュラが侵入しなかったって言い切れるの?種族だけでそれを言い切るのなら、あたし以外の犯行も当然ありえると思うなぁ〜……それにぃ……」
クロ「でも、その可能性があるってだけで犯人にされたらたまらないよ!!
キャスタだって、被告人として呼ばれている以上は容疑者だし……
それに、入口の扉は壊されていたんでしょ?
だったら、キャスタが中に入って箱に入ったお菓子を食べたとしか、考えられないよね?」
待ったっ!!
タイガ「だから、窓から………」
クロ「もぅっ!!弁護士さん、少ししつこいっ!!じゃあ、あたし…言わせてもらうけれど……もし、あたしが犯人だとして、扉を壊す意味なんてあるの?弁護士さんはあたしが窓から入ったって主張するつもりみたいだけど……」
タイガ「それが……何か問題でも?」
クロ「それ、壊す意味ないよね?」
タイガ「へっ?」
サバキ「くっ……ふふっ…はっはっはっはっ!!そのとおりだ……弁護士クン、追い詰めるつもりが追い詰められてしまったなぁ……」
タイガ「ど、ど、どういうことですか?サバキ検事?」
サバキ「わからないのか?もし、証人が犯人だとしたら、扉など壊さなくても、窓から侵入して、何事もなく窓から出ていけば良いのだからな…!!そのほうが、誰がお菓子を食べたか特定しにくいだろう?」
タイガ「あっ………あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」
サバキ「これはもう……決定的だなぁ?ふふっ……」
クロ「だって、私の触手じゃあとても扉なんて壊せないもん……
でも、キャンサーのハサミだったら壊せるよね?だって、あの硬さだし……
殴れば一撃で壊せたんじゃないかな?」
待った!!
タイガ「やってみなくてはわからないじゃないですかっ!!もしかしたら、その触手…というか、足というか……それを勢いよく叩きつければ、同じ傷がつくかもしれない!!」
サバキ「本気で言っているのか……?弁護士……?」
タイガ「……ははっ…やっぱり、無理ですよね……うん、知ってた…」
クロ「弁護士さんの服だったら壊せるよぉ?ふふっ♪」
サバキ「それはいい提案だな、早速……」
異議ありっ!!
タイガ「バフォ様っ!!この提案は事件とは一切関係無いですよっ!!さすがの僕も、認められませんっ!!」
バフォ様「そうじゃな…少々残念じゃが、意義を認めるのじゃ」
ぐぅっ……だめだ……
一通りの発言全てに揺さぶりをかけてみたけれど………
まったく証言に穴なんて見つからない……
……つまり…彼女は嘘なんて言って無いってことになるのか……
くそっ……このままじゃあ、またキャスタちゃんが犯人という結論に戻ってしまう……
完璧な証言…完璧な………ん?
待てよ?どうしてここまで証言が完璧なんだ…?
クロさんの証言には……本来知っていてはおかしい情報まで含まれてるじゃないか!!
そ、それって……クロさんが犯人だってことにつながるんじゃ……?
サバキ「バフォ様……もう弁護士は限界のようだ……どう考えてもこの証人はこの事件とは無関係…即刻、開放してやるべきだろう…」
待ったっ!!
タイガ「まだ、僕の尋問は終わっていませんっ!!」
サバキ「しかし、いくら時間を伸ばそうとも無駄……」
タイガ「もう、時間を伸ばしたりなんてしませんよ………こちらには完璧な証拠がある……証人の間違いを…指摘してあげますっ!!」
サバキ「完璧…?そこまでいうのなら……見せてもらおうか?だが、その証拠が決定的でなかった場合は………」
カチャリ……
サバキ「貴様はここで公開オナニーショーを始めることになる……さぁ、いえっ!!」
だ、大丈夫だ俺……自分を…信じろっ!!
タイガ「証拠はこれですっ!!」
僕はそう言いながら、師匠から送られてきたお菓子の箱を真ん中に投げたんだ
サバキ「これは……被害者のお菓子が入っていた箱ではないか……」
タイガ「そうです…これはまさしく、事件当時…部屋にあった空き箱ですっ!この柄は、この事件当時の部屋の写真の真ん中のテーブルの上にもしっかりと写っていますが……」
バフォ様「これのどこが決定的な証拠なのじゃ?」
タイガ「バフォ様…この箱を見て…この中にお菓子が入っていると絶対に言い切れるのでしょうか?もしかしたら、お菓子はこの箱のとなりにある袋に入っていたのかもしれません……」
タイガ「それなのに、クロさんははっきりと言ってます……お菓子の箱とっ!、事件が起こったあと、お菓子が置いてあった部屋に入ったのは警察だけ…当然、キャスタさんもクロさんも部屋には入っていないはずです…」
タイガ「この裁判中に、お菓子が箱から出てきたという事実を知っているのはスイムさんと僕たち法廷関係者だけのはずなんですっ!!それ以外の人でこの事実を知っていたなら……それは犯人である事の決定的な証拠となりますっ」
サバキ「ぐっ……!ぐおぉぉぉぉぉっ!?」
タイガ「さぁ、クロさん……どうなんですか?」
クロ「うっ……うぅっ……なんちゃって♥」
クロさんはそう言うと、タコの足を僕の方に勢いよく伸ばしてきたんだよ!
そのまま、絡め取られてしまう僕………
えっ?な、なに?この状況……?
タイガ「ちょ…こ、これってどういう状況なんですかっ!?」
クロ「ふっふっふ……甘いよ、弁護士さんは……」
うねうね…うねうね……
タイガ「ちょっ!?服の下で触手をうねうねしないでくださいっ!!」
バフォ様「証人っ!!弁護士に性的行為を働くのは後にするのじゃっ!!それで……証人には、先ほど出てきた事実について……何か言いたいことがあるのかのぅ?」
クロ「はい……実はあたし……あの箱を前に見たことがあるんです」
サバキ「なるほど…前に見たことがあるなら、おかしな点は何も無いな…」
タイガ「ま、待ってくださいっ!!クロさん…その話…もっと詳しく証言してくださいっ!!」
うねうね……
タイガ「そ、それと……もうそろそろ開放してください!!」
証言開始
クロ「その箱はね、あたしがダンス教室にかよっている時に、その教室の近くにあるお店で見たんだぁ」
クロ「そのお店は、お菓子専門店でね?黄色と赤色のリボンが巻いてあるのが特徴なんだ、ほらっ!!その箱にもちゃんと二種類のリボンがついてるでしょ?」
クロ「他のお店とは違っていて、特徴的だったから、覚えていたんだよねぇ……
どうかな?これでも、まだあたしを疑うの?弁護士さん?」
バフォ様「ふむふむ……他のお店で見たのか…それなら納得じゃなぁ…」
タイガ「ま、待ってくださいっ!!え、えっと……そのお店の名前はっ!?」
クロ「え?甘味処 かしゅー♥なっつ だけど……」
アント「あそこのようかん美味しいですよねっ!!僕も好きですよっ!!」
バフォ様「そ、そんなに美味しいのかのぅ?ど、どのような味わいなのじゃ?」
アント「あれはそう……疲れた体にじんわりと染み渡るしつこくない甘味が…口の中で舌とからんで……」
バフォ様「じゅるりっ……魔女よっ!!至急買ってくるのじゃぁっ!!今宵の集会のメインにするぞよぉっ!!」
魔女「ごくっ……か、かしこましましたです〜〜!!」
サバキ「さて……先ほど確かめたところ、たしかに……このお菓子の箱は甘味処 かしゅ〜♥なっつの持ち帰り用ギフトセットの箱で間違いないようだな、顧客履歴にも、被害者の購入履歴があったことから、確実な証言と言えるだろう……」
タイガ「な、な、、なんですってぇぇぇぇっ!?」
ま、まさか……本当に見たことがあったなんて……
しかも、事件の起こった現場にあった箱と全く同じもの……だと……
まさか、こんなに一瞬で状況がクルクル変わるなんて……
やっぱり、魔物裁判は恐ろしいところだ……
で、でも……ここで諦めたら……僕には結婚相談所に連行されるという未来が………
たかが結婚相談所と侮るなかれ……今まで、その場所に連れて行かれて、独り身で帰ったものは一人もいないという……
まだ、少しだけ結婚は後回しにしたい僕にとってはとても恐ろしい場所なんだ
なんでも、噂では…過激派と呼ばれる魔物娘たちが大勢勤めているとかどうとか……本当かどうかはわからないし、確かめに行くつもりも……ないんだけどね?
タイガ「じゃ、じゃあ……尋問を始めます!!」
尋問開始
クロ「その箱はね、あたしがダンス教室にかよっている時に、その教室の近くにあるお店で見たんだぁ」
待ったっ!!
タイガ「そのお店に、全く同じ箱があったとして……それが事件当時に中にお菓子が入っていたかは関係者以外、わからないはずですっ!!」
うるさいぞ
サバキ「ふん……弁護士、忘れたのか?この箱はな……ギフトセットの箱なのだ、つまり……これは贈り物をする以外の用途で買うことは無い物なのだよ、無論、100%確実と言えるわけではないが、可能性は極めて高い」
サバキ「さらに、被害者は愛する夫の手作りのお菓子を贈られる前に食べられているのだ……もし、お菓子以外の物がこの箱に入っていた可能性は少ない。無論、証人が意図せずこのお店の箱のことをおもいだして、中にお菓子が入っていたのはこの箱だったと思い込んで発言しても、おかしくないのだよ」
サバキ「むしろおかしいのは、愛を受け入れずに一人寂しい人生を送ろうとしている貴様の方だっ!!タイガっ!!」
タイガ「うっぐっ……そ、それは…事件とは関係ないじゃないですかっ!!」
クロ「じゃあ、次の証言をしますね?」
クロ「そのお店は、お菓子専門店で、黄色と赤色のリボンが巻いてあるのが特徴なんだ、ほらっ!!その箱にもちゃんと二種類のリボンがついてるでしょ?」
待ったっ!!
タイガ「どうして、黄色と赤なんですか?他の色もあったでしょうに……」
クロ「いや……そ、それはあたしに聞かれても……困るなぁ」
タイガ「黒ではダメだったんですかっ!?白ではっ!?華やかなお菓子を際立たせるためには、箱は地味な配色のほうがいいはずですっ!!」
サバキ「…………まだ、これ以上茶番を続けるつもりか弁護士?質問が思い浮かばないなら、無いと言ったらどうだ?見苦しいぞ?もし、これ以上審議に関係のない主張を続けるなら……」
カチャッ……
タイガ「ひぃぃぃぃぃっ……お、穏便に行きましょう?ねっ?」
サバキ「安心しろ…前に言ったが、この武器に殺傷能力はないのだからな?」
………いや、ある意味ではそれ以上に質が悪いような気がするんですけれど…
クロ「他のお店とは違っていて、特徴的だったから、覚えていたんだよねぇ……
どうかな?これでも、まだあたしを疑うの?弁護士さん?」
待ったっ!!
タイガ「他のお店と違っていた……それは、箱がですか?」
クロ「そうだよ?だって、こんな珍しい色のリボンを巻いた箱なんて、そこらにはないからね!」
……どうする?他にも、違っていた部分を聞いたほうがいいのか…?
このまま話が進んでしまうと……審議は終わってしまう……
うん……悩んでいるよりも前に、突き詰めたほうがいいよね……
タイガ「他に……箱のリボン以外で覚えていることはありませんか?」
クロ「他に……うーん…あっ!!そうそう…その箱とセットで売られているお菓子の包み紙…あれも他の店では見ないよねぇ〜なんでも、和紙とかでできているとか……赤と青の二色でしたよ〜」
タイガ「和紙…?和紙っていったい……」
サバキ「ふぅっ……弁護士クンは和紙を知らないのか?ジパング製の紙のことで、上品な贈り物などに使われることが多いと聞く……貴様もジパングの魔物娘と結婚すれば、いつでも見れるぞ?」
タイガ「ぼ、僕はまだ、そのつもりはないので……」
サバキ「そうそう……事件当時、お菓子を包んでいた和紙が証拠品としてこちらにある……これを提出しておこう」
そういうと、サバキ検事は赤色の和紙を提出したんだ
何か、この証拠品に重要な証拠が………うーん……
ぱっと見た感じでも、分かることは次のことぐらいかなぁ……
赤色の包み紙 端にI LOVE SUIM とかかれている
ぐぅぅっ……ただの……包み紙じゃないか……
ここまできて、なんの役にたつかもわからない証拠なんて……
バフォ様「弁護士よ、何か…証人の発言におかしいところは見つかったかのぅ?わしが聞く限りでは、特になかったような気がするのじゃが……」
タイガ「ま、待ってください……まだ、僕は……」
サバキ「諦めろ……弁護士、キミの負けだ…バフォ様っ!!当法定ではこれ以上の審議は必要ないはずだっ!!検事側は即刻判決を要求する!!」
異議ありっ!!
タイガ「ま、待ってくださいっ!!弁護側の尋問はまだ終わってな……」
異議ありだ…
サバキ「それでは、貴様は今すぐに事態を急転させることが出来るのか?先程から貴様は、事件の時にあった箱に気をとらわれているようだが……結局、この事件で重要なのは、犯人はだれかだ…箱ではないっ!!」
サバキ「それに弁護士…貴様はこの証人を犯人として告発した…ならば、そこには然るべき決定的な証拠がなければ話にならん」
サバキ「法廷では証拠が全てなのだ、それは人間の裁判も魔物裁判も、なんら変わりない事実なのだよ!!」
バフォ様「そうじゃな…このままずっとズルズルと証言を引きずるわけにもいかんしのぅ…弁護士よ…次の質問で最後じゃ…その質問をしてもし事態が何も変わらなければ、判決をくだすのでそのつもりでいるのじゃ」
そ、そんな……
くそぅ、もうだめなのか……
僕は…ここまでなのか…
僕がそう思ってしまったときだった……
不意に、証拠品の中にある青い包み紙の隅に何か書かれているのに気がついたんだ
クシャクシャに丸められていて、所見では気がつかなかったけど……
こ……これはっ!?
この瞬間、僕は今現在…突きつけることができる最後の可能性を見つけ出した
本当に綱渡りだけど……もう僕にはこの方法しかないっ!!
タイガ「決定的な証拠……1つだけ…僕の持っている証拠品の中にあるかもしれません……」
サバキ「では見せてもらおうか…?弁護士クンの最後のあがきを」
くらえっ!!
バフォ様「これは……青色のゴミかの?これのどこが決定的な証拠品なのじゃ?」
サバキ「ふっふっふ…あっはっはっはっ!!傑作だ、弁護人の最後のあがきが、このようなゴミだとは…拍子抜けだぞ、これはもう諦めたととっても良いのだな?では、書類はここにある、契約には貴様の魔力を使わせてもらうので、ペンなどがなくても安心していいぞ?」
タイガ「はたして、これはただのゴミなのでしょうか……ねぇ、クロさん?」
クロ「っ……!?な、なに?どこからどう見てもゴミだよね?それ……」
タイガ「このゴミはクロさんの部屋にあった物で、クロさんがこの包み紙の中に入っていた物を食べた証拠でもあります……さて、この青色の包み紙…これって、さっき見せてもらったギフトセットの和紙ですよねっ!?」
サバキ「…なんだと?……たしかに、そのようだが……」
タイガ「つまり、このゴミが実際にあったクロさんの部屋…その状況からクロさんが自分の部屋にお菓子を持ち帰って食べたと……」
異議ありだ
サバキ「この包み紙だけで、そのようなことを言い切ることはできないだろう?たしかに、この証拠品が証人の部屋から出てきているのは認めてもいいが、この包み紙がたまたま別の機会に偶然手に入れていたとするならどうだ?」
クロ「そ、そうだよっ!!あたしはこの包み紙に入っていた羊羹をスイムの家に持って行ってたんだっ!!それで、それを部屋の中で食べてゴミ箱に捨てた…それだけのことだよっ!!」
異議ありっ!!
タイガ「残念ですが……クロさん、それは通用しないんですよ……」
クロ「……えっ…?な、な、なんで?」
タイガ「この包み紙の端にも…とても小さな文字でこう書かれているからです!!『I LOVE SUIM』と!!」
クロ「あわっ……あわわわわわっ……」
異議ありだっ!!
ダンッ!!
サバキ「そんなもの……たまたまその包み紙にはその文字が隅に書かれているだけかも知れないではないかっ!!店で出されている物も全て隅に同じ文字が書かれていたら、何もおかしくはなくなるぞ!!」
タイガ「なら、ここでそれを確認してみればいいのですよ!!バフォ様っ!!先ほど取り寄せたかしゅ〜♥なっつのギフトセットのお菓子を包んでいる和紙の隅を調べてみてくださいっ!!」
クロ「だ、だ……ダメぇえぇぇぇぇぇっ!!」
クロ「はぁっ…はぁっ…ダメなんだから…それだけは……」
クロ「絶対にダメぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
クロさんはそう言うと、いきなり体をめちゃくちゃに揺すり始めたんだよ!
瞬く間に、自分の足でぐるぐるに巻かれてしまうクロさん……
はっ……これが、噂に聞いたことがあるブレイクシーンってやつか…!?
映像で見せられないのが…とても残念だよ…
クロ「むきゅぅぅ……」
バフォ様「うむ……どうやら、何も書いていないようじゃ……弁護人の推理はズバリ、的中したようじゃな…」
タイガ「ということは……キャスタさんは…」
バフォ様「うむ…無罪じゃっ!!さて、クロにはお仕置きとしてしっかりと反省文を書くと同時に、わしの新しいロリ化魔法の実験体になってもらうのじゃっ!!では……これにて閉廷っ!!」
サバキ「……ば…馬鹿な…この私が…?敗北を喫しただと…?……タイガ、貴様の名前…必ず結婚式の新郎の部分に刻ませてやる…覚悟しておくがいい!!」
サバキ検事はそう言うと、颯爽と法定を後にした…そして、僕は静かになった法廷内で大きく息を吸ったんだ……
か、勝てた……時間にすればたかだか二時間ぐらいだったけど……
濃い時間だったなぁ……うん…
キャスタ「あ、あの…弁護士さんっ!!この度は助けていただいて…本当にありがとうございました!!クロちゃん……まさか、クロちゃんがスイムちゃんの旦那さんの手作りのお菓子を食べていたなんて……」
キャスタさんは無罪を勝ち取ったというのに…どこか浮かない顔をしている…
そうか…親友の一人が、自分に罪をなすりつけようとしていた事実があるから…素直に喜べないのかな…?
タイガ「キャスタさん…たしかに、クロさんは友人で、一度罪を犯してしまったのかもしれません……でも、もう二度と会えないわけじゃないんです、彼女が反省したら、またみんなで仲良く遊んだりすればいいじゃないですか」
キャスタ「そうですね……それに…たぶん、クロちゃんは旦那さんができたスイムちゃんに嫉妬したのかも……その気持ちはなんとなく、私もわかります…だって、スイムちゃんはあんなに嬉しそうだったから……」
それから、しばらく僕たちは話し合って……
この事件は幕を閉じたのだった…
そして、事務所に戻った僕を新たな出会いが待っているのを、この時の僕はまだ、知る由もなかったんだ
16/06/09 19:59更新 / デメトリオン mk-D
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