連載小説
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前編
公園と道路を隔てる金網にガシャンと背中をぶつける。ジジ、という街灯の切れかける音と、荒い呼吸だけが夜の町に響く。

自分の考えが甘かった。何度か夜に出歩いても大丈夫だったという経験は、しかしその次も大丈夫、という未来の担保になるわけでは決してなかった。
街でちらほらと見かける魔物娘には必ず連れ合いの男がいて、皆それぞれに幸せそうな顔をしている。だからといって、見ず知らずの女性に襲われるのをよしとするような倫理観を佐伯良助(サエキ リョウスケ)は持ちあわせていなかった。
それに、あの目だ。暗闇に赤く光り、こちらを捕食の対象として見ているような、あの目。あの目つきで追われてしまって逃げ出さない奴はそういないのではないだろうか。しかし。

「追いかけっこは、お〜しまい♪」

高く、甘い声の主の言うとおり、もう逃げ場はなさそうだ。捕食者は悠々と空を浮かびながら、こちらに近づいてくる。
瞬間、自分の後ろで消えていた街灯がパッと点灯し、先ほどまで黒いシルエットだった彼女の姿を詳らかにする。
少女と言っていいような見かけだが、その小さな体には似つかわしくないほどの存在感をひしひしと感じる。その青くなめらかな肌は、黒い革の服によって最低限しか隠されていない。腰から生えた翼と尻尾は、街灯と月の明かりに照らされて艶々と黒く、嗜虐的な喜びを抑えきれないかのように蠢いている。
そこで良助は気づく、黒い部分はそれだけではない、人間の白目に当たる部分、そこが今いるこの時、夜のように黒い。良助はそれを不気味には思わなかった、それよりも、その瞳が情欲に爛々と染まっている事のほうが、今は問題である。
明らかになった姿を見つめるその視線に気づき、少女はくすりと笑う。

「舐めるように見ちゃって……えっち」
「え、あ、ご、ごめんなさい」

くねりと動き、冗談めかして胸を両手で隠す彼女の言葉に良助は反射的に謝ってしまう。
が、彼女はにいと顔を歪ませて、ぱたぱたと羽を動かしながらさらにこちらに近づいてくる。

「だーめ、許してあげない」
「なっ」

ほぼ二人の距離がゼロになる、両手を膝につけ、空中で中腰のような体勢を取った少女は、吐息のかかるくらいにまで顔を近づけて言った。

「エッチな目で見た責任とって?私のものになってもらうから」

今から逃げることはほぼ不可能といっていいだろう。脳をじくじくと犯すような声にぞわりと肌を粟立てながら、良助が「お……」と声を出す。「お?」と小首を傾げながら、少女が続きを促す。

「お?」
「お……」
「うん」

長くためらった後、良助が言ったその言葉は。

「お友達からなら……」

という、なんとも日和ったものだった。

◆ ◆ ◆

スーパーから帰る道すがら、明るく日に照らされている公園を良助は複雑な心境で見つめていた。

昼間の公園は遊具で遊ぶ子供たちや、赤ちゃんをベビーカーに乗せて井戸端話に興じるお母さん方で賑わっている。その平穏な風景を見ると、昨夜の出来事が夢か何かであったかのように良助には思えた。
右手を顔の高さまで掲げてまじまじと見つめる。金網にぶつけてできたはずの切り傷が今やすっかり治っている事も、その感覚を助長していた。

「よく無事に帰ってこれたな……」

どこか他人事のように良助は呟く。

昨日の夜、良助の言った先延ばしの言葉を少女はあっさりと却下した。

『だめ。お友達じゃ満足できない』
『いや、まずはお互いのことをよく知ってからでも、遅くはないというか、ねえ?』
『名前はエウリカ・ニジェルカ。種族はデビル。好きな色は紺色。好きな男性のタイプはあなた』

エウリカが良助にすり寄り、ほぼ密着した状態で二人は言葉を交わす。矢継ぎ早に自己紹介を終わらせたエウリカに、どうにか話を逸らせないものかと良助も言葉を返す。

『えっと、俺の名前は佐伯良助です。歳は十七歳で好きな食べ物はシチュー。いやあ、シチューのCMでブロッコリー入ったりしてますけど、あれってどうなんですかね?ブロッコリーってどうやってもそんなに美味しくならないから苦手なんですよね。苦手と言えば、古代中国の周の国の王様がこう言ったそうな……』
『いっただっきまーす♪』
『そういっただっきまーす♪バカバカ城燃えてるのにってわー!ちょっと待って!』

ごそごそと股間をまさぐりだしたエウリカの肩を良助はぐっと押す。煩わしげにその手を掴んでどけようとしたエウリカだったが、彼の右手を見て顔色が変わった。

『けが……』
『へ?』

彼女の視線を追うと、自分の右手からぽたぽたと血が滴っていた。追い詰められた時、金網のどこかで切ったのだろうか。傷を自覚した瞬間、じくじくとした痛みを脳が感知する。

『ご、ごめんね。痛いよね』
『あ、いや、そんなに。大丈夫ですよ』
『ごめんね……』

先ほどとは打って変わった彼女の様子に良助が戸惑っていると、エウリカは唇を傷口に近づけた。何を、と思った瞬間に、その傷口が彼女のぬらりとした舌で舐めあげられた。ぞわりとした感触に思わず声をあげる。

『おわっ……』
『はい、治った』

目の前の少女がニコリと微笑む。見ると、先ほどの傷は跡形もなくなっていた。驚いて口をぽかんと開けていると、「いいよ」という声が聞こえた。

『え?』
『お友達から始めるってことで、いいよ。怪我させちゃったお詫び』
『あ、ありがとうございます……』
『うん』
『怪我、治してくれたのも』
『うん』

良助がお礼を言うとエウリカが微笑みながら頷く。こうして、良助とエウリカの妙な友達付き合いが始まった。

「……」

昨日の出来事を思い出しながら、良助は怪我があったはずの右手を見つめていた。
わざと怪我をさせたわけでもないのにあんなにうろたえていた彼女は、きっと悪い魔物ではないのだろう。
そもそも良助は「悪い魔物」という存在に出会ったことがない。友人の彼女や、教師の奥さん、そもそも大都市とは違い魔物娘はこの町には少ないため、触れ合う機会は少なかったが、彼女たちは一様に皆優しく、一途である。

玉に瑕なのは、目当ての男性に見せるその強引さくらいか。

この町では魔物娘のほとんどが男性と番になっている。そのため、良助はその熱烈な様を見ることがなく、その油断が今回の『襲撃』を許したのだが、エウリカは友達付き合いから関係を進めていくことを納得してくれた。
これから色々話していけたらいい、と、良助は彼女に治してもらった右手を見ながら思うのだった。

「……」

『してもらった』のは治療だけではないが。

顔を微かに赤面させながら、あれを友達付き合いと言っていいのかどうか悩む良助の背後に、小さな影が近づく。

「わっ!」
「うわー!」
「きゃー!」

男のあまりの驚きように、驚かせたはずの少女も叫び声をあげる。

良助が振り返ると、涙目で胸を押さえるエウリカがそこにいた。

「もう!ビックリさせないでよ!」
「こっちのセリフですよ……」

そう言いながらエウリカを見て、良助は昨夜との違いに気づく。露出の多い、服と言っていいかも分からない昨日の姿と違い、今日の彼女の服装は紺のPコートに長い臙脂色のスカート、白くもこもことしたファーの帽子というスタイルだった。
「普通の服……」と思わず良助がつぶやくと、彼女はくるりと一回りしてその疑問に答える。

「うん、君以外に肌見られるの嫌だし」
「……」

思わぬ理由に赤面していた良助だったが、彼女の期待に満ちた眼差しを見てハッと我に返る。さっきくるりと回ったのもきっとそのための動きだろう。

「に、似合ってます」
「ふふふ、ありがとう。買い物帰り?」

満足気に笑ったエウリカが、スーパーの袋を見て良助に尋ねる。

「はい、爺ちゃんと二人暮らしなんで、家事は俺が」
「……そっか、偉いね」
「……偉くないですよ」

「ぜーんぜん偉くない」と良助はひとり言のようにつぶやく。その様子が気にはなったが、どう聞いていいのかもわからず、エウリカは別の質問をする。

「でも、なんかぼーっとしてたね、考え事?」
「考え事、っていうか……」
「んん?」

良助の顔がわずかに朱に染まる。小首を傾げていたエウリカだったが、彼の頬が微かに赤面していること、彼が見ていたのが昨日の公園であった事から、ピン、と彼の『考え事』に思い至る。

「ほっほーう」

そして、にんまりと口の端を吊り上げると、どういう仕組みか、ポン、とコートから翼を生やし、彼の顔の高さまで浮上する。

「エ、エウリカさん?」
「ほうほう、ほーうほうほう」

そして、戸惑う良助にゆっくりと近づくと、彼の耳元に唇を寄せて囁いた。

「思い出しちゃった?昨日のこと……」
「……!」

真っ赤になった良助の顔を見てエウリカはクスクスと笑い、誘惑を開始する。彼女の手のひらが良助の胸板を這いまわり、尻尾が腰にするすると絡みつく。

「ね、昨日みたいに、また、手と口でしてあげよっか」
「なっ」
「この服の下にある私の体、君になら見せてもいいんだよ……?」

昨夜、そのまま引き下がってくれるかと思っていたエウリカだったが、彼女も転んでもただでは起きない魔物娘の一員だった。エウリカは安心しきっていた良助のズボンを瞬く間に引きずり下ろし、「唾つけとかなきゃ」と言って、文字通り彼の精を口で搾ったのである。
「友達こんなことしない!」となぜかカタコトで叫んだ良助だったが、彼女はそれを「現代の若者ならフツーフツー」とのらりくらりと受け流した。
良助は傷を治してもらったという負い目もあり、それから口でもう一発、さらに手で一発と大量に搾り取られてしまった。

エウリカの声に官能を煽られた良助は昨夜の搾精を思い出しごくりと喉を鳴らす。
傷を治してもらった事だけが、彼女の行いを拒めなかった理由では決してない。途中から良助は目の前の悪魔の少女が与える快感の虜になってしまっていた。

このまま「はい」と頷いてしまいたい衝動に駆られる、が。

良助はブンブンと首を横に振る。「友達付き合いから関係を進めていこう」と始めに言い出したのは自分だ。その自分が欲望に流されていては元も子もない。
彼は今まで魔物の倫理観に触れたことがない。つまりは知り合ったばかりの女性とそういった事をするのは当たり前によくない、と考える「人並みの」貞操観念の持ち主だった。
誘惑を断ち切って、彼女を傷つけずにこの場を逃れる言い訳を探す。ハッと自分の手に提げられたスーパーの袋に気づき、ガサッと彼女の前に掲げてみせる。

「あ、鯖、鯖が傷んじゃうから!」
「うん?鯖?」
「家に帰らなきゃなー、なんて……」
「ふーん……」

苦しい言い訳だったか、と思いエウリカの顔を伺っていたが、彼女の顔はにんまりとした笑顔のままだ。良助の乳首のまわりをくりくりといじっていた手を離し、パチンと指を鳴らす。
訝しげな顔をする良助に、袋の中を見ろ、と人差し指をくいくいと下に向ける。
見ると、鯖のパックが大きな氷のブロックの中に凍りづけになっていた。

「……」
「しばらく溶けないから」
「しばらくって……」
「千年」
「千年!?」

しばらくどころではない数字に良助が驚きの声をあげると、エウリカはまさに小悪魔的な笑みで「私にしか溶かせないから」と続けた。人質ならぬ鯖質を取られた形の良助の耳元に再び唇を寄せて囁く。

「返してほしかったらぁ……あそこのトイレで交換しましょ……?」
「交換って……金ですか!?金ならいくらでも払います!だから鯖を返してください!」
「そのお金で鯖買えばいいんじゃないの?」

呆れ顔で言うエウリカだったが、「そんなのいらないよ」と言って良助の耳を舐める。くちゅりという音が耳に大きく響き、快感が走る。

「欲しいのはぁ……キミ♪」

その声は良助に、逃げられない、と思わせるのに十分な、あまりに蠱惑的なものだった。

◆ ◆ ◆

「んっふっふー」

公園のトイレの個室に良助を座らせたエウリカは、彼の胸に頬をすり寄せ、満足気な吐息を漏らした。対して、抱きつかれるがままにされている良助は「暴走する若者の性……崩壊するモラル……」とぶつぶつと呟いている。その言葉に反応してエウリカがすりすりと顔を動かしながら言う。

「私、君よりずっと年上だもーん。当てはまらないもーん」
「……存じてます」

概して、魔物娘の寿命は人間よりも長い。良助は過去に担任の妻のハーピーと話す機会があった。
どう見ても夫より一回りは若そうな彼女に対して「年の差婚ですねえ」と言うと、奥さんはさらりと「四十も下の旦那をもらうとはねえ」と言って、良助の目を白黒させたのだ。
それ以来、魔物娘に対しては目上の人への態度で接することにしている。

ん、とエウリカが顔を上げる。

「じゃあ、私に対してずっと敬語なのもそのせい?」
「はい、爺ちゃんの教育で、目上の人には敬語で話せって」
「ふうん、そうなんだ……ほら、もっとお姉さんを敬ってもいいよ」

エウリカは帽子を取って頭を傾けた。良助は数拍遅れた後に彼女の要望に気づき、おずおずと彼女の頭を撫でる。銀の髪が揺れ、エウリカがくすぐったそうに目を細める。
良助は頭を撫で続けながらぽつりと呟く。

「お姉さんっていうか、魔物娘の人の平均年齢を考えるとお婆さんかご先祖さまか……」
「<四つ足の獣よ。地平に響く歌よ。蔦の絡まる鳥は火の中に堕ちる。濁りし者が現れ出ては……>」
「一人っ子だからお姉さんに憧れがあるんですよねえ。いやあこんなやばそうな魔法を使えるお姉さんなんて素敵だなあ」

良助が全力でフォローしながら頭を撫でる手つきを早める。地面からせり上がり、鈍い音を立てて開きかけていた禍々しい装飾の扉が煙のように消えた。
むーと、お姉さんとはとても思えない幼い表情でむくれながらエウリカが良助を睨む。

「ちょ〜っと年上への敬意が足りないんじゃない?これは……」

言葉を途中で切ったことで会話に空白が生まれる。

「これは?」良助が続きを聞こうとすると、エウリカの腕がするりと彼の首に回る。
驚く間もなく、エウリカは彼の首元に顔を埋めて深く息を吸う。はあ、と吐かれた吐息は熱く、彼の皮膚を犯す。

「ちょっと……」
「じゅるっ」

我慢ならないというように彼女は良助の首筋を舐めあげる。鎖骨から顎の縁にまで、ぬらぬらとした唾液の線が描かれる。啄むように何度か口づけをし、ようやく首筋から離れた彼女は、良助の額にこつんと自分のおでこを合わせる。
良助の瞳を覗き込みながらエウリカは彼にだけしか聞こえない小さな声で囁く。

「これは、おしおきだね……」

彼女の赤い瞳は今から行われる行為への期待に曇っている。二人の間を包む空気はいつのまにか、直前まで冗談を交わしていたとはとても思えないものに変化していた。

「あ、う」

エウリカの情欲を誘う笑みと、強くなった魔力に飲まれてしまい。良助は声にならない声をあげる。その様子を見て笑うエウリカの頬もまた紅潮していた。名残惜しげに身を起こすと、立ち上がって良助から離れる。
服を一撫ですると、ザァッという砂の流れるような音がした。エウリカの服が瞬く間に、昨日の夜に良助と出会った時のものに変わっている。
現代的な服装から露出の極めて多い「魔界流」の服へと変わり、良助の視線は自然と今まで隠されていた部分へと向かう。柔らかそうな肉で覆われた太もも、少女性を宿す胴長な体の部分にも程よく肉がつきなめらかで、その先には二つの微かな膨らみがあり……。
もう少し視線を上げるとにやにやと笑う少女と目があった。

「……!」

そこで良助は初めて、自分が無遠慮な視線をぶつけていたことに気付いた。しかし、エウリカは良助に何か言う間も与えず、言葉でさらに彼の興奮を煽る。

「脱がしたかった?」
「そ!……んな、ことは」
「ここは服を置く場所が無いから……また今度ね」
「……」

そう言ってエウリカは再び良助に抱きついた。服の下に篭っていた空気が未だ彼女にまとわりついていたのか、熱気とともに濃く甘い匂いが香る。
厚着をしていた先ほどとは違い、良助の胸板でつぶれる微かな膨らみや、興奮のためかしっとりと汗を纏いはじめた青い肌が否が応にも視界に入ってくる。
わずかに息の荒くなった良助の顔を両手で包みながら、エウリカが尋ねる。

「お姉さんに憧れてたんだ?」
「いや、それは冗談で」

先の冗談を持ちだされ、良助の顔が興奮とは別の意味合いで赤面する。だが、エウリカはその冗談めかした言葉の中に彼の望みを見出したのだろう。目を細めて言う。

「いいよぉ、お姉さんがおちんちん撫で撫でしてあげるね」

そう言うとエウリカは座っている良助の足の間に跪き、ジィ、とチャックを開けた。、小さな手がペニスを取り出す。視覚的な興奮や、幼い少女にしか見えないエウリカの口から淫らな言葉を聞くその背徳感で、すでに良助のそれは硬く反り立っている。
エウリカは「やっぱりおっきい」と、蕩けた表情で少しの間剛直に見入った後、それに手を伸ばす。触れるだけでペニスはびくんと脈打ったが、そこからさらにくりくりと人差し指で亀頭を撫でる。
握った残りの指で時折竿をこすりがら、先端の部分を時計回りにくるくると弄ぶようにくすぐる。

「ほら、ここ優しく撫でられると気持ちいいいでしょ」
「は、あっ……」

ぷつりと出てきた先走り汁をすくいながら、エウリカはそれをにちにちと亀頭全体に塗りつけていく。ぬるぬるになったその部分を指だけでなく、柔らかな手のひらで上下にこすられて、良助の体がビクンと悶える。

「それ、つらっ……!」
「んー?ふふ、敏感すぎちゃう?」

エウレカは手のひらで責めるのをやめ、再び指での愛撫を始める。
だが、それは先程のように人差し指で撫でるだけの単純なものではなくなっていた。
中指と親指で緩くリングが形作られ、上下に動くその輪がカリ首をこする、時折きゅうと狭まるその輪はランダムな快感をペニスに与え、こすれる度に良助から喘ぎ声が漏れる。
人差し指は先ほどと同じく亀頭の鈴口を這いまわり、撫でたり、甘く引っ掻いたり、溢れ出るカウパーのせいでてらてらと濡れている。
そのうち狭い個室にはくちゅくちゅという水音が響くようになっていた。
興奮にのぼせたような顔でエウリカが尋ねる。

「どお?きもちいい?子供みたいなかっこのおねーさんにいいこいいこされて、ちんちんきもちいい?」
「……!!」

あまりにも答えづらい質問に良助は顔を背ける。
しかし、年上である事はわかっていても、幼い少女にしか見えないエウリカが自分の前に跪き、淫らなご奉仕をしている、というその状況を突きつけられ、彼の一物は少し硬さを増す。
それに気付いたエウリカは愉快そうに笑いながらも、さらに彼を追い詰める。

「だーめーだーよー、ちゃんとこっちを見て」

幼い子をたしなめるようなその言葉を聞いた瞬間、良助の顔は自分の意志に反して正面を向いてしまう。手での愛撫を続けながら、半開きになった口をペニスに近づけるエウリカの姿が視界に入る。その口の中からぬらりとした舌がゆっくりと外に出て―

「ちゅるっ」
「は、あ゛っ……!」

カウパーでぐちゅぐちゅと泡立っている亀頭を舐めあげた。痺れるような快感が良助の脳に駆け上がる。
そのままちゅ、ちゅと口づけを続け、唇についた粘液をぺろりと舐めてエウリカが囁く。

「言ってくれたらお口でしてあげる、私にえっちなことされて、どう?」
「き……」
「うん……♪」

期待するような上目遣いでエウリカが良助を見る。手の愛撫は言葉を出せるようにややゆっくりとしたものに変わっている。
見かけの立場と精神的な立場が逆転しているこの状況に、二人とも倒錯的な興奮を覚えていた。良助がついに屈服する。

「気持ちいいです……」
「……♪」

目を細めて、エウリカがはあ、と口を広げる。じゅるるっという濁った音とともに、良助のペニスがその小さな口に一気に咥え込まれた。

「うああっ、エ、エウリカさ……」
「ちゅぷ、くちゅっ」

先ほどとは比べ物にならないあまりの快感に良助が悶えるが、逃げるな、というようにエウリカの両手が彼の腰にまわされる。
熱いほどの温度を持つ舌が、ピチャピチャと彼の亀頭を舐めまわす。
とくとくと漏れるカウパーを飲み込んでいるのか、喉が動くたび彼女の体がブル、と微かに震える。巧みに頭の位置をずらすと、頬の内壁や上顎、感触の違う肉にペニスがこすりつけられ、舌がそれを追いかける。
エウリカの口はペニスでいっぱいになっていて、息もしにくいはずなのだが、彼女はそれを苦にしていないようだった。むしろ、良助の顔が気持ちよさそうに歪んでいくのを見上げながら、彼女の顔もまた同じ快感を味わっているかのように蕩けていく。
潤んだ目で良助を見つめ、口の端から涎を垂らしながら口淫を続ける彼女だったが、なにかに気づくようにその目が動いた。

そして良助も一拍遅れて気づく。物音がする。トイレに誰かが入ってきたようだ。小声で諌める。

(エウリカさん、やめ……!)

このままでは自分たちの行為が気づかれてしまう、と焦る良助だったが。エウリカはにやにや笑いながら、ちゅる、とペニスから口を離す。
名残惜しげに口づけを繰り返しながらこちらも小声で言う。

(結界、んっ、張ってるから、ちゅっ、大丈夫かも)
(かも、って)
(張ってないかも)
(……!)

口をぱくぱくとさせる良助。対するエウリカは右手で軽く竿をこすり、まるで口紅を塗るかのように唇に亀頭をこすりつける。
思わず声をあげそうになるが、すんでのところで口を引き締めて耐える。

(どっちだろうね?ドキドキしちゃうね……?)
(ドキドキしたくない……)
(ふうん、さっきより大きくなってるけど?)

確かに、自分のペニスは今まで見たこともないくらいに硬く、大きくなっている。その事を自覚しているのか、良助は目の前の悪魔に対して何も言い返せなくなってしまった。
にやにや笑いを崩さず、彼女が言葉を紡ぐ。

(まあ、今から私のお口はふさがるから、後は君しだいかなあ)
(……?)
(すごいのするから、声を出さないようにがんばってね……♪)
「まっ」

止める間もなく、くぷぷ、という音を立てて再び良助のペニスがエウリカの腔内に納まる。
ただ口の中にペニスが入っている。それだけでも手を口に当てて声を出さないようにするのに苦労するほどの快感があった。
しかし、エウリカは腰にまわした両手をぐいと引き寄せ、それとは逆に、顔をさらに良助の股間へと近づける。
自然、彼のペニスは喉の奥へ深く深く飲み込まれ、良助は亀頭がくにゅりと喉奥の肉に触れるのを感じた。

「ぐ、うっ……」

思わず、といった感じで声が漏れる。その声を嬉しそうに聞きながら。エウリカは緩やかに頭を振り始める。
ディープスロート。知識として知ってはいたが、AVの中だけのものと思っていたその行為を自分がされる事になるとは思ってもいなかった。
しかも、外に人がいるこんな状況で、こんな幼い見た目の悪魔に。

「う、ぐ、ううっ……」

良助から漏れる喘ぎ声を聞き、エウリカはちらりと彼の方を見上げる。「声を我慢しなくていいの?」とでも言いたげなその視線に、はっと良助は再び手で口を塞ぐ、が。

「じゅうううっ」
「ああ゛っ」

吸い上げられるような口の動きで、狭まった頬が竿に触れる。圧迫されたその状態で、こくこくと動くのどの動きに合わせ亀頭が揉まれる。
そのあまりの快感に彼の手はだらしなく垂れ下がってしまう。ぐぷ、ぐぷとエウリカの小さな頭が振られ、その唇からはさきほどより多くの涎がだらだらと垂れ落ち、彼女の青い肌を汚していた。

外からはいまだに物音がする。しかし、人外の快感にみるみる理性を削られた良助には限界が訪れていた。

「で、でるっ……!」
「じゅっ、じゅるっ、んん♪」

しっかりと声を出してしまった事を、しまった、と後悔するよりも先に、その言葉を聞いたエウリカの動きがますます激しくなった。
良助の精液を待ちわびるように舌はぐじゅぐじゅと這いまわり、同時に深いストロークが彼を絶頂に追いやる。

「ああっ」
「ん゛んっ!……んっ…んく…じゅる…」

びくんびくんと脈打つペニスのその動きに合わせて、エウリカの喉も動く、二回、三回、良助自身も驚くほどの精液が出続けているが、彼女はそれをすべて飲み込んで幸せそうな顔をしている。
ようやく射精が終わり、ペニスを引き抜くと、亀頭に残っている白濁を猫のようにぺろぺろと舐めていく。
こくん、と目をつぶってそれを味わいながら体の中に受け入れる。エウリカはぱん、と両手を合わせた。

「ごちそーさまでした」

その破裂音とともに、個室の空気の流れが変わったように良助には思えた。
見ると、彼女は先ほど消したはずのコートとスカートを着込んでいる。

「結界張ってました、恥ずかしい声が聞こえなくてよかったねぇ」

ニコリと笑いかけられた良助はチャックを上げて、なんとか体に力を入れて起き上がる。

「めちゃめちゃ疲れた……」
「なによう。エッチしないだけでもありがたいと思ってくれなきゃ」
「う」

そう言われて良助はうめき声をあげる。
確かに、彼女は自分を無理やり襲ってもいいはずなのだ。
それをしないのは、ひとえに煮え切らない自分のお願いを聞いてくれているから。

申し訳無さそうな顔をする良助の心中を察したのか、エウリカが言う。

「そう思うなら、お願いをひとつ聞いてもらおっかなー」
「お願い、ですか」

周囲に人目がないことを確認しつつトイレから出る。
どんな倒錯的なプレイをさせられるかと戦々恐々としていた良助だったが、彼女の口から出たお願いは意外なものだった。

「君の家に行ってみたいな」
「へ!?」
「『友達』なんだから家に行くくらい普通でしょ?」

そう言ってエウリカは良助の左腕に抱きつく。そう言われては無碍にすることもできず、しばらくの黙考の後、良助は「まあ、大したお構いもできませんけど」と、悪魔の『友達』を家に招待することにした。

「鯖も溶かしてもらわないといけないし」
「まあ、あれは一日放っておいたら普通に溶けるんだけどね」
「は!?」

何気なく放たれたその言葉に良助は驚く。その顔を楽しそうに見上げながら、エウリカは悪びれもせずに言った。

「私中級悪魔だもん。千年凍らせるなんて高等な魔法使えないよ。」
「じゃあ……」
「騙してごめーん♪」

明るくケラケラと笑うその姿に文句を言う気力も失せて、良助はさまざまな思いをこめて「悪魔……」と呟く。
エウリカは「知らなかった?」とまた声を出して笑った。

「あ、じゃあさっきの開くとやばそうな扉を召喚してたのも」
「あれは本当に開くとやばいやつ」
「あっぶない!」

そんな現世離れした会話をしながら、二人は日の落ちかける家路を並んで歩くのだった。
13/12/22 12:16更新 / コモン
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■作者メッセージ
初投稿です。
後編はエロなし、シリアス分多めという申し訳ない感じになるかと思います。

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