主神様の小さな声
反魔物領ネーべガルフ。人間の歴史を感じさせる石造りの街は噂通り平穏で美しく、何より魔物の匂いが一切しない。着倒れの街としても有名で、道行く人はそれぞれの好みであろう服を身にまとっているが、そのどれもが清楚さや純潔さを乱していない。街の雰囲気を重んじる、調和の民とでも言おうか。
「もうすぐ着きますが、その前にお昼にいたしましょうか？」
道案内をしてくれているのは、今日訪れることになっている教会のシスターだ。僕より僅かに背が低いがそのすらりとした外観は天が遣わせたエンジェルのようにも見える。このような方に透き通った声でお食事を誘われたとあらば願ってもない話だが――、
「いえ、先に神父様にご挨拶に向かいます。ここの教会は魔物を退け孤児を保護する、すばらしい活動をされている。早くお話を伺いたい」
主神教団の特命布教員として責務を果たさなければならない。という理由と共に、僕が好奇心を抑えられないというもっと強い理由が僕を喋らせる。新魔物領が増えていく中、旧体制で運営を行うネーべガルフ支部。あまり注目されないこの街が実はとても熱心に活動をしていると情報を掴んだのは幸運だった。一部では過激とも称されるが、それは一般に理解が及んでいないからだ。だから僕が実態をこの目で確かめ、この耳で真意を聞き、この手で情報を広め人々に理解を深めてもらうことで、きっとこの支部の素晴らしさは世界中に広まることだろう。そう思うとわくわくする。
「こらっ！ 大人しくしろ！」
「違う！ 違うんだ！ 俺は別に」
通りの先で教団員二人が男を取り押さえている。その周囲にわらわらと人が集まりつつあって、程なくして人込みで見えなくなってしまった。
「アーヒェル様。先を急ぎましょう」
「えっ、でも」
「早く神父様のお話を伺いたい。のでしょう？」
シスターに手を引かれて僕は通りの角を曲がる。背中にワイワイと声が聞こえるが、確かに今から取材することに比べればあれは些細な事件でしかない。しかしなるほどあの光景だけ見ると過激だと思われても仕方がない。でもきっとそうするだけの理由があるのだろう。
「近頃この街は気を張り詰めすぎています。来るときに森がありましたでしょう？ あそこはよく子供が入り込んだまま帰ってこないことがありまして」
「帰ってこない？」自分でも驚くほど真剣な声で尋ねると、彼女は立ち止まり僕の顔を見た。
「はい。あの森は魔物の温床なのです。反魔物領のすぐ隣になんて信じられないかもしれませんが、実際私が世話を見ていた子供たちの何人かも未だ帰ってきません」
悲痛な表情を俯かせる彼女に同情しつつハンカチを取り出して手渡すと、彼女は目に涙が滲んでいたことに気づいていなかったようで驚いた顔を見せてから受け取ってくれた。でも泣き顔を見せるのが恥ずかしいのか返す時は一切こっちを見てはくれなかった。すっと歩き出す彼女はまっすぐ進行方向に目を向けたまま話を続ける。
「すみません。それで、それでですね。森へ出入りする者は私達教団員の許可を受けるように通達したのです。さっきのはおそらく、許可が必要であると知らずに入ろうとした者だったのかと」
なるほど、魔物はその姿を見るだけでも危険な存在。ならば事が起こる前に生息地に人々を近づけさせないようにすればいい。彼女達は人々を正しい方向へ導こうとしているんだ。
「それにしても、白昼堂々街中で取り押さえるなんて」
「確かに多少強引ではありますが、魔物に食い殺されるよりはマシでしょう。それに、情報を伝える手段は文字や言葉だけではありませんよ」
森に近づいた者が乱暴に捉えられる様を見れば、そりゃ森に近づこうとはしなくなる。でも同時に教団の悪い噂も広まってしまう。善し悪しだけど、教団の名よりも人を守ろうとする姿勢は他の支部にも知ってもらうべきかもしれない。
「着きましたね。さぁどうぞ」
いつの間にか目の前にあった大きな扉を開くと、ステンドグラスから取り入れた日光に照らされる講堂が広がっていた。教会自体の造りはよくあるものだ。奥には講壇があり、そのさらに奥の壁には主神教団の印が掲げられている。でもその空間には違和感があった。昼間だというのに誰もいないからかもしれない。きっと誰もいないからこそ、人が立ち入るべきでない神聖な空間だと認識してしまったのだろう。
「神父様は告解の最中のようですね。やはり先にお昼に……」
「そうですか……ではせっかくなので先にお祈りを」
「わかりました。私は支度をしてまいりますので」
シスターが去った後、広くて厳かな講堂に一人残った僕は、その場に跪いて祈りを捧げた。地域によって祈りの捧げ方が違うが、僕はどこへ行っても自分のやり方を貫く。主神様に対する僕なりの、一心なる思いの表現だ。できればネーべガルフ式のお祈りがどんなんものかも見ておきたいが、この街にはしばらくいるつもりだから意識しなくても機会を逃すことはないだろう。
『アーヒェル。よくぞここまで来ました』
僕の名前を呼ぶ声が聞こえて、ふっとあたりを見回した。でも周りには誰もいない。
『私は主神。今日あなたをここへ導いたのは、あなたが為すべきことを伝えるためです』
行動中に反響するその声はとても美しく、恐れ多くも人に例えるなら穢れを知らない幼子のように耳に心地いい。僕は姿勢を崩さず、主神様の言葉を待つ。
『私がこうして直接言葉を授けられるのはこのネーベガルフの地のみ。それもあなたのような信仰の強い者にしか授けることができません。あなたは特命布教員。私の言葉を代わってこの街の人々に伝えてはくれないでしょうか』
主神様直々の頼みに恐縮しながらも、それを上回る興奮が僕の中を駆け巡っていた。
『できれば口述の方がいいですね。近いうちに人を集め、そこであなたが私の言葉を伝えるのです。内容についてはまた今夜お伝えしましょう。期待していますよ』
これほどの喜びがあるだろうか。今僕の手は喜びに震え、心臓の音が何度も耳に響く。今でも信じられないが、僕は主神様の声を聴いたんだ。
「アーヒェル様もお聞きになったのですね」
ぎょっとして振り返ると、昼食を持ってきたシスターが嬉しそうに微笑んでいた。興奮しすぎて彼女が入ってくるのに気が付かなかったようだ。重大な使命を負ったのだから気持ちを落ち着けないと。
「そうですか。そんな大切な使命を」
講堂横の小さな部屋で昼食をとりつつ、さっきのことをシスターに話す。黙っているべきかもしれないけどそうもいられない。主神様の声を聴いたことがある彼女なら喋っても構わないだろうと思って話すと、彼女も最初は全く同じ状況だったという。
「その時私は、あなたをここまで案内するよう使命を授かりました。きっと主神様はこの街を拠点に何かを始めようとしているんだと思います。それにしても主神様の口となるなんて、羨ましい限りです」
“主神様の口”その言葉に体が重くなる。興奮が少し収まって事の重大さに気づいた僕の皮膚はじわっと一気に汗が噴き出し、パンをちぎる手が震え始める。でもこの緊張感も主神様が僕に必要だと考えて授けてくださったものに違いない。そう考えるとなんだか乗り越えられる気がした。
「では明日の夜、この街で一番大きな広場に人を集めるよう手配いたしますね。ところで……アーヒェル様はどのような女性がタイプなのですか？」
咀嚼しきれていないパンが喉につっかえる。随分と急な質問に、それも予想もしなかったその内容に息が苦しくなる。いや、パンが詰まってるからなんだけども。少し咳き込みシスターが持ってきてくれたミルクを飲んで九死に一生を得る。
「好きなタイプ、ですか！？」
「はい。将来のことを考えると、アーヒェル様もそういうことを考えるべき時期に入っているかと。人間を殖やせるのは人間だけなのですから」
本当に驚いた。そういう俗な話がまさかこのネーべガルフの教団員から出るとは。しかし神聖な教会で話す話題がこれというのも主神様に悪いし、そうでなくとも答えるのは気恥ずかしい。
「答えられませんか？」
「その、勘弁してください」
「そうですか……でも、私は同じ教団員として、あなたを理解したいと思っています。そのためにも、できるだけあなたのことは教えていただければと思います」
申し訳ない気持ちになりながら、チーズを一齧りしてパンをちぎった。彼女の言うとおりだ。僕はこの支部への理解を広げるために取材に来た。同じ教団員とは言え相手に心を開いてもらうには、僕の方から開く必要がある。特命布教員として反省すべきだ。
「その、好きなタイプと言いますか、活発な子が、いいですね。もし相手がいればですけど」
「相手なら心配ありませんよ。アーヒェル様ならきっとすぐに見つかります」
「そうだといいんですが……」
そううまくいくとは思えない。立場上いろんな土地へ旅することになる僕に付き合ってくれる女性なんているのだろうか。
「活発な子……こう言っては何ですが、少し子供っぽい感じでしょうか」
「そう、ですね。世話を焼くのは好きなので、面倒見がいのある子はいいかもしれませんね」
「なるほど、“子供っぽい”……ピッタリですね」
ピッタリ？ 首をかしげると彼女はじっと僕の目を捉えて続けた。
「すみません。あなたの隣に未来のお嫁さんの姿をイメージしてみたら、つい言葉が漏れてしまいました」
彼女の言葉にはいちいち驚かされる。結局昼食を終えるまで、僕は彼女に根掘り葉掘り聞かれて振り回されっぱなしだった。
夜が来た。神父様は未だに告解を続けている。熱心な信者が多いのはいいことだなんて思いながら、僕はまた主神様の声を聴くべく講堂へと向かった。月のおかげで何とか物の輪郭が捉えられる講堂の中央で僕は跪き、祈りの姿勢をとる。
『アーヒェル、よく来ましたね。あなたにこれから、皆に授けるべき言葉を伝えます。』
主神様の声は昼間と変わらず、純粋無垢な子供のようでかつ凛として厳かに響く。僕は主神様の言葉を一字一句逃さぬよう、神経を研ぎ澄ませた。
『人間にとって魔物という存在がいかに危険か。人々はまだ十分に理解していません。魔王が変わってからというもの、魔物は女性の姿を模し人を襲って繁殖する、魔物娘へと姿を変えました』
それは知っている。僕だっていろんなところを旅してきて、魔物娘に魅了された人々を見てきたし、視野を広く持つために親魔物領にも行ったことがある。犯されそうになったけど。
『人間の男性の精液を糧とする彼女達は、男をさらっては生かさず殺さずの性的な拷問を続けています。例えば近くの森に棲みつく土の精霊、いえ、そのなりぞこないとでも言いましょうか。彼女は自身の泥の体をもってまだ年端もいかない少年に快楽を植え付けました。戦士として鍛錬を積んでいた少年でしたが軟泥の体は力を受け止めてしまい、幼い身体の全身をもてあそぶように愛撫して精通を迎えさせたのです。またある女の子はアルラウネにつかまり、そこで同性への興味を抱いてしまいました。卑劣にも甘い香りで少女を誘い、蔦を小さな胸や太もも、全身に這わせて服をはぎ取り、花びらの中のネバネバとした蜜につけていいように弄んだのです。大の大人が屈してしまうほどの悦楽を、どうして幼気な彼女が耐えられるでしょうか。姉妹には憎悪すべきアルラウネを“お姉さま”と呼ぶ始末。さらに重大なことに、今挙げた二人は両方ともこの施設で私の教えを受けていた子たちなのです』
話を聞きながら、“なんて酷い”と思うと同時に何故か顔が熱くなっていくのを感じた。胸がドキドキして、息を吐く頻度が増えている。
『魔物娘の脅威は現実だけに留まりません。例えば夜、男性の夢の中に理想の女性の姿で現れては精を絞っていく、ナイトメアという種族がいます。非常に執着心の強い彼女達は好みの男性を見つけると毎晩夢の中にあらわれるのです。あなたの夢であれば、やんちゃな女の子があなたの衣服を脱がし、大きくなっているあなたの性器を見て舌なめずりをする。そして悪戯っぽく笑みを浮かべるとその先をペロッと舐めるのです。夢の中はナイトメアの思うがまま。チロチロと舐められ続けた快感があなたの体に蓄積し、程なくして絶頂を迎えてしまうでしょう。噴き出した精液があどけない顔にかかり、それをいちいち指にとって舐めとるのを見せつけながら、あなたのモノが再び固くなるのを観察するのです。そして彼女は動けないあなたに対して、まだ毛も生えていない性器を両手で広げてみせるのです。もぎたての果実のように爽やかながらも愛液はとろりと滴って、淫靡な匂いがあなたの鼻をくすぐって理性を奪っていく。どうです？ 魔物娘が蔓延ると、夢の中でさえ支配されてしまうのです』
恐ろしい内容に身を震わせながら、ふと僕は自分のモノがすっかり固くなっていることに気が付いた。神聖な主神様が言葉を授けてくれていると言うのに、僕は内容に性的興奮を覚えてしまっている。ダメだダメだ！ 真剣に話を聞かなくては。なのに真剣に聞けば聞くほど下の疼きが強くなり、息も上がっていく。ただの布でさえ魔物となって柔らかく相手の体を包み込み、死んだ魔物でさえ蘇ってより貪欲に腰を振る。魔物への理解が深まっていく度に、僕の理性がかき消えていく
『このように、魔物娘は大変危険な存在なのです。話すよりも実際に襲われるのが一番わかりやすくはありますが、それでは本末転倒ですからね。だからあなたにはこうして話を――』
ガタン――講壇の辺りで音が響いた。何だろう？ 僕は股間を抑えながら恐る恐る近づいて覗き見る。そこには、
「ひっ」
すっかり暗がりに慣れた目ではっきりと確認できたその大きな尻尾。ふわふわとした手足の毛並みにぴょこんと出た獣の耳。胸元にはドングリのアクセサリーが成長途中の胸の代わりに存在感を放っている。
そういえば主神様の声が聞こえない。いや、ついさっき聞いたかもしれない。つい目の前で“ひっ”と言ったその声はさっきまでの主神様の声だ。この子が主神様の名を騙って僕に語っていたことは、彼女がいる場所とすっかり青ざめた少女の顔が証明している。
「アーヒェル。元の位置に戻りなひゃい」
主神様だと思っていた声はそういうが、様々な魔物娘の話にじらされた僕はもう限界だった。目の前の少女を引きずり出して尻尾ごと力いっぱいに抱きしめ、自分のモノを股間に押し当てるように腰を振る。しかし少しして服を脱がす必要があることに気づくと、少し理性が戻ってきた。神聖な講堂の、しかも神父様が立つ祭壇で僕は忌むべき魔物娘に獣のように腰を振っている。これはまずい。しかしそんな思いは彼女のとろけ切った顔を見て吹き飛んでしまった。彼女を仰向けに寝かせ下着を脱がすと、アソコから糸を引いている。この子もあの話で興奮していたのか、それともこうなることを期待していたのかは定かではないが、これならすんなり挿れられそうだ。
「ひぇっ！？ あっ、んわぁ！」
さすがにキツく、話に聞いたように彼女の体も精を搾り取るようにできているらしい。でも今の様子だと彼女が精を絞るために襲っているというより、お仕置きされているようにしか見えない。
「そうだ！ これはお仕置きだ！ 主神様の名前を騙るなんて、許されるわけがないだろっ！」
「ひゃ、あぁ、ごめん、なひゃ、ああっ！」
「許さないって言っただろ！」
激しくピストンを繰り返し、続けてバックに姿勢を変える。親魔物領での見様見真似だが案内役に立つ。僕は彼女の大きな尻尾を抱きしめながら、腰を振り続けた。
「あぁぁぁぁそれいぃぃぃぃ、いいよぉぉぉぉ尾っぽとおまんこいっしょすごいぃぃぃぃ」
彼女の嬌声が、感じているという何よりの情報が頭に入ってきて、反射的に興奮を促す。もう体の中に納まりきらなくなって、一部が彼女の小さな穴の中へと飛び出ていく。その瞬間ひときわ大きく響いたかわいらしい声は、僕のモノをさらに固くさせる。
「君、名前は？」
「ら、りゃる。らたとしゅくの、りゃる」
「よく言えましたっ！」
膣を突くのを再開し、彼女の喘ぎが講堂中に伝わる。もふもふとした尻尾も触り心地抜群だが、すべすべとしたお尻も揉み心地がいい。
「あっちょっ、やだっ、やだっ、お尻のすじなでちゃやあぁぁぁ」
アソコを責めつつお尻を撫でつつ、更に尻尾を抱きしめる。リャルは声と体を震わせてイったことを僕に伝え、僕も一度リャルの中からモノを引き抜く。床にうつ伏せになるリャルはコロンと寝返りを打つと、僕に向かって手を広げてきた。
「ちゅー、ちゅーして、ぎゅーしてぇ」
とろけて甘える表情に僕は吸い寄せられ、小さな唇を吸い舌と舌を絡み合わせた。柔らかい尻尾がふかふかで、まるで二人で同じベッドの上にいるような感覚。いつしか体を擦りつけてくるようになった彼女に、僕は病みつきになっていった。
翌日、ネーべガルフの一番大きい広場には多くの人が集まっていた。たった一日でこんなに集まったのは、リャルの情報網と宣伝術のおかげだ。ステージの上で僕は左右に教団員の方を控えさせて、特別高貴に見える服装で覚悟を決めた。
「今日はお忙しい中お集まりいただき、本当にありがとうございます。早速ではありますが、主神様から授かった言葉を皆様に伝えたいと思います」
僕の声が遠くの通りからも聞こえるのは、そういう機械を作る魔物娘にお願いしたからだそうだ。ともかく、僕はリャルに用意してもらった原稿を広げる。もちろんこれは主神様の言葉ではなく、それっぽく書いただけの“聞いている人の情欲を煽る文章”だ。僕はできるだけ大きな声で、できるだけ丁寧に読み上げていく。聞いている人の一部がもぞもぞと動き始める。話も中盤に差し掛かると、少しざわざわとし始めた。内容は淫靡だが主神様の言葉の途中で去るわけにもいかず、各々は自身の劣情に恥じらっている。ふっとステージの部隊袖を見ると、シスターが口の端に笑みを浮かべてどこかへと消えていった。
話も終盤になり、もうまともな人はいなかった。聞いていた人たちは手当たり次第に相手を見つけ、公衆の面前だとか関係ないと言わんばかりに交わっている。大乱交の世界記録が目指せるんじゃないかと思いながら、僕は原稿を読み上げる。でも既にどこを読んでいるか分からない。ステージの上で僕のモノを咥えるリャルの頭を撫でながら幾度目かの射精。森の方角から小さな黒い少女が魔物娘の大群を率いて押し寄せてくるのが見えた気がしたが、もう気にすることはない。僕はリャルを抱きしめ、広場の誰よりも激しく愛し合った。
「もうすぐ着きますが、その前にお昼にいたしましょうか？」
道案内をしてくれているのは、今日訪れることになっている教会のシスターだ。僕より僅かに背が低いがそのすらりとした外観は天が遣わせたエンジェルのようにも見える。このような方に透き通った声でお食事を誘われたとあらば願ってもない話だが――、
「いえ、先に神父様にご挨拶に向かいます。ここの教会は魔物を退け孤児を保護する、すばらしい活動をされている。早くお話を伺いたい」
主神教団の特命布教員として責務を果たさなければならない。という理由と共に、僕が好奇心を抑えられないというもっと強い理由が僕を喋らせる。新魔物領が増えていく中、旧体制で運営を行うネーべガルフ支部。あまり注目されないこの街が実はとても熱心に活動をしていると情報を掴んだのは幸運だった。一部では過激とも称されるが、それは一般に理解が及んでいないからだ。だから僕が実態をこの目で確かめ、この耳で真意を聞き、この手で情報を広め人々に理解を深めてもらうことで、きっとこの支部の素晴らしさは世界中に広まることだろう。そう思うとわくわくする。
「こらっ！ 大人しくしろ！」
「違う！ 違うんだ！ 俺は別に」
通りの先で教団員二人が男を取り押さえている。その周囲にわらわらと人が集まりつつあって、程なくして人込みで見えなくなってしまった。
「アーヒェル様。先を急ぎましょう」
「えっ、でも」
「早く神父様のお話を伺いたい。のでしょう？」
シスターに手を引かれて僕は通りの角を曲がる。背中にワイワイと声が聞こえるが、確かに今から取材することに比べればあれは些細な事件でしかない。しかしなるほどあの光景だけ見ると過激だと思われても仕方がない。でもきっとそうするだけの理由があるのだろう。
「近頃この街は気を張り詰めすぎています。来るときに森がありましたでしょう？ あそこはよく子供が入り込んだまま帰ってこないことがありまして」
「帰ってこない？」自分でも驚くほど真剣な声で尋ねると、彼女は立ち止まり僕の顔を見た。
「はい。あの森は魔物の温床なのです。反魔物領のすぐ隣になんて信じられないかもしれませんが、実際私が世話を見ていた子供たちの何人かも未だ帰ってきません」
悲痛な表情を俯かせる彼女に同情しつつハンカチを取り出して手渡すと、彼女は目に涙が滲んでいたことに気づいていなかったようで驚いた顔を見せてから受け取ってくれた。でも泣き顔を見せるのが恥ずかしいのか返す時は一切こっちを見てはくれなかった。すっと歩き出す彼女はまっすぐ進行方向に目を向けたまま話を続ける。
「すみません。それで、それでですね。森へ出入りする者は私達教団員の許可を受けるように通達したのです。さっきのはおそらく、許可が必要であると知らずに入ろうとした者だったのかと」
なるほど、魔物はその姿を見るだけでも危険な存在。ならば事が起こる前に生息地に人々を近づけさせないようにすればいい。彼女達は人々を正しい方向へ導こうとしているんだ。
「それにしても、白昼堂々街中で取り押さえるなんて」
「確かに多少強引ではありますが、魔物に食い殺されるよりはマシでしょう。それに、情報を伝える手段は文字や言葉だけではありませんよ」
森に近づいた者が乱暴に捉えられる様を見れば、そりゃ森に近づこうとはしなくなる。でも同時に教団の悪い噂も広まってしまう。善し悪しだけど、教団の名よりも人を守ろうとする姿勢は他の支部にも知ってもらうべきかもしれない。
「着きましたね。さぁどうぞ」
いつの間にか目の前にあった大きな扉を開くと、ステンドグラスから取り入れた日光に照らされる講堂が広がっていた。教会自体の造りはよくあるものだ。奥には講壇があり、そのさらに奥の壁には主神教団の印が掲げられている。でもその空間には違和感があった。昼間だというのに誰もいないからかもしれない。きっと誰もいないからこそ、人が立ち入るべきでない神聖な空間だと認識してしまったのだろう。
「神父様は告解の最中のようですね。やはり先にお昼に……」
「そうですか……ではせっかくなので先にお祈りを」
「わかりました。私は支度をしてまいりますので」
シスターが去った後、広くて厳かな講堂に一人残った僕は、その場に跪いて祈りを捧げた。地域によって祈りの捧げ方が違うが、僕はどこへ行っても自分のやり方を貫く。主神様に対する僕なりの、一心なる思いの表現だ。できればネーべガルフ式のお祈りがどんなんものかも見ておきたいが、この街にはしばらくいるつもりだから意識しなくても機会を逃すことはないだろう。
『アーヒェル。よくぞここまで来ました』
僕の名前を呼ぶ声が聞こえて、ふっとあたりを見回した。でも周りには誰もいない。
『私は主神。今日あなたをここへ導いたのは、あなたが為すべきことを伝えるためです』
行動中に反響するその声はとても美しく、恐れ多くも人に例えるなら穢れを知らない幼子のように耳に心地いい。僕は姿勢を崩さず、主神様の言葉を待つ。
『私がこうして直接言葉を授けられるのはこのネーベガルフの地のみ。それもあなたのような信仰の強い者にしか授けることができません。あなたは特命布教員。私の言葉を代わってこの街の人々に伝えてはくれないでしょうか』
主神様直々の頼みに恐縮しながらも、それを上回る興奮が僕の中を駆け巡っていた。
『できれば口述の方がいいですね。近いうちに人を集め、そこであなたが私の言葉を伝えるのです。内容についてはまた今夜お伝えしましょう。期待していますよ』
これほどの喜びがあるだろうか。今僕の手は喜びに震え、心臓の音が何度も耳に響く。今でも信じられないが、僕は主神様の声を聴いたんだ。
「アーヒェル様もお聞きになったのですね」
ぎょっとして振り返ると、昼食を持ってきたシスターが嬉しそうに微笑んでいた。興奮しすぎて彼女が入ってくるのに気が付かなかったようだ。重大な使命を負ったのだから気持ちを落ち着けないと。
「そうですか。そんな大切な使命を」
講堂横の小さな部屋で昼食をとりつつ、さっきのことをシスターに話す。黙っているべきかもしれないけどそうもいられない。主神様の声を聴いたことがある彼女なら喋っても構わないだろうと思って話すと、彼女も最初は全く同じ状況だったという。
「その時私は、あなたをここまで案内するよう使命を授かりました。きっと主神様はこの街を拠点に何かを始めようとしているんだと思います。それにしても主神様の口となるなんて、羨ましい限りです」
“主神様の口”その言葉に体が重くなる。興奮が少し収まって事の重大さに気づいた僕の皮膚はじわっと一気に汗が噴き出し、パンをちぎる手が震え始める。でもこの緊張感も主神様が僕に必要だと考えて授けてくださったものに違いない。そう考えるとなんだか乗り越えられる気がした。
「では明日の夜、この街で一番大きな広場に人を集めるよう手配いたしますね。ところで……アーヒェル様はどのような女性がタイプなのですか？」
咀嚼しきれていないパンが喉につっかえる。随分と急な質問に、それも予想もしなかったその内容に息が苦しくなる。いや、パンが詰まってるからなんだけども。少し咳き込みシスターが持ってきてくれたミルクを飲んで九死に一生を得る。
「好きなタイプ、ですか！？」
「はい。将来のことを考えると、アーヒェル様もそういうことを考えるべき時期に入っているかと。人間を殖やせるのは人間だけなのですから」
本当に驚いた。そういう俗な話がまさかこのネーべガルフの教団員から出るとは。しかし神聖な教会で話す話題がこれというのも主神様に悪いし、そうでなくとも答えるのは気恥ずかしい。
「答えられませんか？」
「その、勘弁してください」
「そうですか……でも、私は同じ教団員として、あなたを理解したいと思っています。そのためにも、できるだけあなたのことは教えていただければと思います」
申し訳ない気持ちになりながら、チーズを一齧りしてパンをちぎった。彼女の言うとおりだ。僕はこの支部への理解を広げるために取材に来た。同じ教団員とは言え相手に心を開いてもらうには、僕の方から開く必要がある。特命布教員として反省すべきだ。
「その、好きなタイプと言いますか、活発な子が、いいですね。もし相手がいればですけど」
「相手なら心配ありませんよ。アーヒェル様ならきっとすぐに見つかります」
「そうだといいんですが……」
そううまくいくとは思えない。立場上いろんな土地へ旅することになる僕に付き合ってくれる女性なんているのだろうか。
「活発な子……こう言っては何ですが、少し子供っぽい感じでしょうか」
「そう、ですね。世話を焼くのは好きなので、面倒見がいのある子はいいかもしれませんね」
「なるほど、“子供っぽい”……ピッタリですね」
ピッタリ？ 首をかしげると彼女はじっと僕の目を捉えて続けた。
「すみません。あなたの隣に未来のお嫁さんの姿をイメージしてみたら、つい言葉が漏れてしまいました」
彼女の言葉にはいちいち驚かされる。結局昼食を終えるまで、僕は彼女に根掘り葉掘り聞かれて振り回されっぱなしだった。
夜が来た。神父様は未だに告解を続けている。熱心な信者が多いのはいいことだなんて思いながら、僕はまた主神様の声を聴くべく講堂へと向かった。月のおかげで何とか物の輪郭が捉えられる講堂の中央で僕は跪き、祈りの姿勢をとる。
『アーヒェル、よく来ましたね。あなたにこれから、皆に授けるべき言葉を伝えます。』
主神様の声は昼間と変わらず、純粋無垢な子供のようでかつ凛として厳かに響く。僕は主神様の言葉を一字一句逃さぬよう、神経を研ぎ澄ませた。
『人間にとって魔物という存在がいかに危険か。人々はまだ十分に理解していません。魔王が変わってからというもの、魔物は女性の姿を模し人を襲って繁殖する、魔物娘へと姿を変えました』
それは知っている。僕だっていろんなところを旅してきて、魔物娘に魅了された人々を見てきたし、視野を広く持つために親魔物領にも行ったことがある。犯されそうになったけど。
『人間の男性の精液を糧とする彼女達は、男をさらっては生かさず殺さずの性的な拷問を続けています。例えば近くの森に棲みつく土の精霊、いえ、そのなりぞこないとでも言いましょうか。彼女は自身の泥の体をもってまだ年端もいかない少年に快楽を植え付けました。戦士として鍛錬を積んでいた少年でしたが軟泥の体は力を受け止めてしまい、幼い身体の全身をもてあそぶように愛撫して精通を迎えさせたのです。またある女の子はアルラウネにつかまり、そこで同性への興味を抱いてしまいました。卑劣にも甘い香りで少女を誘い、蔦を小さな胸や太もも、全身に這わせて服をはぎ取り、花びらの中のネバネバとした蜜につけていいように弄んだのです。大の大人が屈してしまうほどの悦楽を、どうして幼気な彼女が耐えられるでしょうか。姉妹には憎悪すべきアルラウネを“お姉さま”と呼ぶ始末。さらに重大なことに、今挙げた二人は両方ともこの施設で私の教えを受けていた子たちなのです』
話を聞きながら、“なんて酷い”と思うと同時に何故か顔が熱くなっていくのを感じた。胸がドキドキして、息を吐く頻度が増えている。
『魔物娘の脅威は現実だけに留まりません。例えば夜、男性の夢の中に理想の女性の姿で現れては精を絞っていく、ナイトメアという種族がいます。非常に執着心の強い彼女達は好みの男性を見つけると毎晩夢の中にあらわれるのです。あなたの夢であれば、やんちゃな女の子があなたの衣服を脱がし、大きくなっているあなたの性器を見て舌なめずりをする。そして悪戯っぽく笑みを浮かべるとその先をペロッと舐めるのです。夢の中はナイトメアの思うがまま。チロチロと舐められ続けた快感があなたの体に蓄積し、程なくして絶頂を迎えてしまうでしょう。噴き出した精液があどけない顔にかかり、それをいちいち指にとって舐めとるのを見せつけながら、あなたのモノが再び固くなるのを観察するのです。そして彼女は動けないあなたに対して、まだ毛も生えていない性器を両手で広げてみせるのです。もぎたての果実のように爽やかながらも愛液はとろりと滴って、淫靡な匂いがあなたの鼻をくすぐって理性を奪っていく。どうです？ 魔物娘が蔓延ると、夢の中でさえ支配されてしまうのです』
恐ろしい内容に身を震わせながら、ふと僕は自分のモノがすっかり固くなっていることに気が付いた。神聖な主神様が言葉を授けてくれていると言うのに、僕は内容に性的興奮を覚えてしまっている。ダメだダメだ！ 真剣に話を聞かなくては。なのに真剣に聞けば聞くほど下の疼きが強くなり、息も上がっていく。ただの布でさえ魔物となって柔らかく相手の体を包み込み、死んだ魔物でさえ蘇ってより貪欲に腰を振る。魔物への理解が深まっていく度に、僕の理性がかき消えていく
『このように、魔物娘は大変危険な存在なのです。話すよりも実際に襲われるのが一番わかりやすくはありますが、それでは本末転倒ですからね。だからあなたにはこうして話を――』
ガタン――講壇の辺りで音が響いた。何だろう？ 僕は股間を抑えながら恐る恐る近づいて覗き見る。そこには、
「ひっ」
すっかり暗がりに慣れた目ではっきりと確認できたその大きな尻尾。ふわふわとした手足の毛並みにぴょこんと出た獣の耳。胸元にはドングリのアクセサリーが成長途中の胸の代わりに存在感を放っている。
そういえば主神様の声が聞こえない。いや、ついさっき聞いたかもしれない。つい目の前で“ひっ”と言ったその声はさっきまでの主神様の声だ。この子が主神様の名を騙って僕に語っていたことは、彼女がいる場所とすっかり青ざめた少女の顔が証明している。
「アーヒェル。元の位置に戻りなひゃい」
主神様だと思っていた声はそういうが、様々な魔物娘の話にじらされた僕はもう限界だった。目の前の少女を引きずり出して尻尾ごと力いっぱいに抱きしめ、自分のモノを股間に押し当てるように腰を振る。しかし少しして服を脱がす必要があることに気づくと、少し理性が戻ってきた。神聖な講堂の、しかも神父様が立つ祭壇で僕は忌むべき魔物娘に獣のように腰を振っている。これはまずい。しかしそんな思いは彼女のとろけ切った顔を見て吹き飛んでしまった。彼女を仰向けに寝かせ下着を脱がすと、アソコから糸を引いている。この子もあの話で興奮していたのか、それともこうなることを期待していたのかは定かではないが、これならすんなり挿れられそうだ。
「ひぇっ！？ あっ、んわぁ！」
さすがにキツく、話に聞いたように彼女の体も精を搾り取るようにできているらしい。でも今の様子だと彼女が精を絞るために襲っているというより、お仕置きされているようにしか見えない。
「そうだ！ これはお仕置きだ！ 主神様の名前を騙るなんて、許されるわけがないだろっ！」
「ひゃ、あぁ、ごめん、なひゃ、ああっ！」
「許さないって言っただろ！」
激しくピストンを繰り返し、続けてバックに姿勢を変える。親魔物領での見様見真似だが案内役に立つ。僕は彼女の大きな尻尾を抱きしめながら、腰を振り続けた。
「あぁぁぁぁそれいぃぃぃぃ、いいよぉぉぉぉ尾っぽとおまんこいっしょすごいぃぃぃぃ」
彼女の嬌声が、感じているという何よりの情報が頭に入ってきて、反射的に興奮を促す。もう体の中に納まりきらなくなって、一部が彼女の小さな穴の中へと飛び出ていく。その瞬間ひときわ大きく響いたかわいらしい声は、僕のモノをさらに固くさせる。
「君、名前は？」
「ら、りゃる。らたとしゅくの、りゃる」
「よく言えましたっ！」
膣を突くのを再開し、彼女の喘ぎが講堂中に伝わる。もふもふとした尻尾も触り心地抜群だが、すべすべとしたお尻も揉み心地がいい。
「あっちょっ、やだっ、やだっ、お尻のすじなでちゃやあぁぁぁ」
アソコを責めつつお尻を撫でつつ、更に尻尾を抱きしめる。リャルは声と体を震わせてイったことを僕に伝え、僕も一度リャルの中からモノを引き抜く。床にうつ伏せになるリャルはコロンと寝返りを打つと、僕に向かって手を広げてきた。
「ちゅー、ちゅーして、ぎゅーしてぇ」
とろけて甘える表情に僕は吸い寄せられ、小さな唇を吸い舌と舌を絡み合わせた。柔らかい尻尾がふかふかで、まるで二人で同じベッドの上にいるような感覚。いつしか体を擦りつけてくるようになった彼女に、僕は病みつきになっていった。
翌日、ネーべガルフの一番大きい広場には多くの人が集まっていた。たった一日でこんなに集まったのは、リャルの情報網と宣伝術のおかげだ。ステージの上で僕は左右に教団員の方を控えさせて、特別高貴に見える服装で覚悟を決めた。
「今日はお忙しい中お集まりいただき、本当にありがとうございます。早速ではありますが、主神様から授かった言葉を皆様に伝えたいと思います」
僕の声が遠くの通りからも聞こえるのは、そういう機械を作る魔物娘にお願いしたからだそうだ。ともかく、僕はリャルに用意してもらった原稿を広げる。もちろんこれは主神様の言葉ではなく、それっぽく書いただけの“聞いている人の情欲を煽る文章”だ。僕はできるだけ大きな声で、できるだけ丁寧に読み上げていく。聞いている人の一部がもぞもぞと動き始める。話も中盤に差し掛かると、少しざわざわとし始めた。内容は淫靡だが主神様の言葉の途中で去るわけにもいかず、各々は自身の劣情に恥じらっている。ふっとステージの部隊袖を見ると、シスターが口の端に笑みを浮かべてどこかへと消えていった。
話も終盤になり、もうまともな人はいなかった。聞いていた人たちは手当たり次第に相手を見つけ、公衆の面前だとか関係ないと言わんばかりに交わっている。大乱交の世界記録が目指せるんじゃないかと思いながら、僕は原稿を読み上げる。でも既にどこを読んでいるか分からない。ステージの上で僕のモノを咥えるリャルの頭を撫でながら幾度目かの射精。森の方角から小さな黒い少女が魔物娘の大群を率いて押し寄せてくるのが見えた気がしたが、もう気にすることはない。僕はリャルを抱きしめ、広場の誰よりも激しく愛し合った。
18/05/18 07:05更新 / 小浦すてぃ