読切小説
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「フォックスベーカリー」
調理場らしき場所に仁王立ちしている男と正座している女がいた。

女のほうは頭に耳、腰に尻尾の様な物がついている。

「ねぇ・・・?聴いて頂戴・・・?」

「なんだ・・・?」

男は女の言う事に耳を傾けた。

「果物・・・それは聖なる息吹・・・喜びの象徴・・・

 病める者や飢えし者はその香りで息を吹き返し、

 争いし者もその前では手を組み膝をつき、

 人間の始祖をも魅了しそれを堕としめた・・モノ・・・」

「そうなのか・・・」

「そう・・・アレはそういう恐ろしいものなの・・・」

「あぁ・・・・」

「恐ろしいわね・・・本当に・・・」

「そうだな・・・」

「ね、・・・分かって・・・くれたでしょう・・・?」

「ああ、分かった・・・」

「ふふっ・・」

男は女を見て微笑み、すうっと息を吸った。

そして口を開いた、

「だが、材料のつまみ食いは断じて許さん」

「あぁぁん!!!!!」

---そんな昼下がりのパン・洋菓子のお店「フォックスベーカリー」の光景---



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---九年前、とある高校の放課後---

「なぁ・・・沙希・・」

「うん・・?」

通学路の途中で少年は少女に喋りかけていた。

「将来の夢のアンケートなんて書いた・・・?」

「えっ?私?」

「うん・・・」

「へっへーん!聴かしてしんぜよう!キャリアウーマンか富豪の妻だ!!!」

「ごめん・・・お前に聴いた俺が間違いだった・・・」

「何よーそれー!」

「いやだってお前の発言バカ丸出しだぜ・・・」

「そんな事ないよーこの魅惑のぼでーと迸る淫気で社長とか富豪とかを
 
落としちゃうんだからー!」

「ソウデスネー」

「くぅっ、聴く気が無いなー!

・・・まぁ、科学者って書いたけどさ・・あの紙には・・・」

「はじめからそう答えろよな・・・。

 まぁ、俺もそう書いたんだけどさ・・・」

「でもなんで修治はそんな事聞いてきたのよ?何かあったの???」

「うん・・・、実はさ・・・」



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---フォックスベーカリーにて---

正座を解いた女が男に話していた。

「それにしてもなんであんなに『食べてください』って言ってるみたいに

 果物が積まれてたの?」

「お前・・・さてはまだ反省していないな・・・?」

「ち・・違うのよ・・・。何でかなーって。じ・・純粋な疑問よ!」

「はぁ・・・まあいい。今日はあれをやろうかなと思ってな・・・。

 ほら・・最近やってなかったろう?」

「あぁそれで・・・。ごめんなさい。つまみ食いなんかしちゃって」

「まぁ起こったことは仕方ない・・。幸い材料は多めに仕入れてあったし、

 足りるだろう。」

「あたしも手伝うわ」

「あぁ。じゃあ、そこの戸棚から・・・」



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「えっ!お店を継がなきゃならないって?」

「ああ、あのクソ親父がうるさいんだよ」

帰り道も中盤に差し掛かった所にある公園でベンチに座りながら二人はそんな事を話していた。

「全く!自分の将来なんて自分で決めていい筈だろ!

 何で親にああなれこうなれ言われにゃならんのだ!」

「それは一理あるけど・・・親父さんはなんて言ってるの?」

「なんでも『お前にはケーキ作りの才能がある!

 今はまだ原石だが磨けば宝石になる!』なんだのかんだの・・・

 俺は科学者になりたいんだ!

 何だってそんなものにならなきゃいけないんだよ!!!」

「・・・でも、親父さんは修治のためを思ってそんな事を言ってくれてるん

 でしょ?」

「それだから余計に面倒なんだよ。まったく」

「世の中ままならないねー。どう?抱きしめてよしよししてあげようか?」

「言ってろ。俺はアイス食い終わったからもう帰るぞ」

「えぇっ!いつの間に!ちょっと待ってよーモゴモゴ」

「さっさと食わなきゃ置いていくぞ沙希」

「まっふぇっふぇわー(モゴモゴ)」



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---数時間後---

女と男の前には大きなケーキが出来てきていた。

「これ、この『ドラゴンフルーツ』と『エキドナの実』ここでよかったっけ」

「あーもうちょっと右。そうそこ!その端においてくれ!

 あっ・・・、『ホルクリーム』も少し切れてきたな・・・・・。

 ちょっと買い出しに行ってくるから作業はそこでいったん止めといてくれ。

 念のために言っとくがつまみ食いはもうするなよ・・・?」

「しないって!いってらしゃい!!!」

「あぁ・・・いってくる」



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---九年前、修治家にて---

食卓で修治と父親が向かい合っていた。

「お前の言いたいことは分かった。だが、科学者になるのは許さん」

「なんでだよっ!!!」

俺はテーブルに両手を叩きつけて叫んでいた。

父親は、そんな俺を見下ろした後こう言った。

「お前は我が家の長男でありパティシエの素質を持った者・・・。

 俺の跡を継ぐのは当然の義務だ・・・。しかも、ウチは長年地域の

 パン、洋菓子のお店として定着してきている・・・。

 ・・・それを科学者などというわけの分からん物に為に潰す・・・?

 我侭も大概にしろよ修治」

「親父に俺の何が分かるんだよっ!死んじまえクソ親父!!!」

「親に向かってなんだその口の聞き方は!」

パーン!!!

「お父さん!」

「母さんは黙ってろ!!さぁ・・修治・・・謝るんだ・・・さぁ早く!!!」

ダッ!

「修治!!!」

「母さん。放っておけ・・・」

「でも・・・」

「母さん・・・」

「はい・・・。あなた・・・」



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ザァァァ・・・


「ちくしょー急に降って来やがったぜ」


タッタッタッタッ・・


「ヘイッ!そこのナイスガイ!」

その声に振り向くと、傘を持って来てくれた沙希の姿が目に映った・・・。

「はい!どうぞ!」

そういって沙希は傘を差し出してきた。

「あぁ・・・。そういえばこんなこと前にもあったな・・・」

「?」

俺は、少しだけ昔のことを思いだしていた・・・。


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俺は雨の中を走って走って走った。

そうすれば、こんなイライラが雨の中に溶けていく気がしたから、

そうすれば、俺の今いる立場も洗い流してくれると思ったから。


・・そうやって走っているといつの間にか例の公園に着いていた。

全てがどうでもよくなってベンチに座り込んでしまった。


・・・それから少し経ってから、


「ヘィッ!そこのナイスガイ!」

その声に顔を上げると目の前に傘を持った沙希がいた・・・。

「はい!どうぞ!」

そう言って沙希は傘を差し出してきた。

「いらない・・・」

俺がそう答えると、

「そんなことしてちゃ気分まで暗くなっちゃうよっ。はいっ!」

そう言って沙希はズイズイと傘を突き出してきた。

「いらねぇっていってるだろっ!」

俺がそういって傘を持った手を振り払うと、彼女は体勢を崩して

地面に尻餅をついてしまった。


「ッッッ!・・・すまn・・・もう帰れよ・・・」


差し出しかけた手を引っ込めて俺は謝ることをせずに

そんな事を言ってしまった。


するとあいつは、


「テテーっ!パンツ見えちゃったかな?キャッ♪」


そんな事を言いながら立ち上がって俺に近づいてきた。


「こ・・・こっちに来るな!帰れよ!」


そう言って俺がその場で回れ右をしてから駆け出そうとすると、


「またそうやって逃げるの!?」

沙希はそう叫んだ。


・・・俺は思わず立ち止った。


その間にあいつが近づいてきて、俺の頭を正面から胸に抱きしめた・・・。








「修治ってさ・・・本当に優しいよね・・・

 私・・修治のこと大好きだよ・・・。

 さっき私を突き飛ばした時も私が尻餅をついたことを心配してくれたし

 ・・・。

 修治のお父さんも本当は修治のことが大好きで優しいんだよ?

 私が事情を聞いて修治を探しに行こうとした時に

 傘を渡してくれたのお父さんだもん・・・。

 二人とも優しいんだからきっと分かり合えるはずだよ・・・。

 だからちゃんと向き合って自分達の考えを話しあってみようよ・・・・・。

 今は・・誰にも何も言わないから・・・私の胸で泣いてもいいからさ

 ・・・。」

「・・・・・ぐぅっ・・・ごめん・・っ・・俺っ、俺っ、ごめんなっ

 ありがとう・・っ沙希っ・・・・・俺も・・・お前が・・・

 大好きだ・・・!」


俺は、沙希の背中を抱きしめ彼女の胸の中で泣き続けた・・・。

沙希は、何も言わずにぎゅっと抱きしめ続けてくれていた・・・・・



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カランカランッ


「いつもいろいろとありがとうな・・・」

「な・・・なんなの・・・何だか気味が悪いわ」

「うっせ・・・。もうちょっとで完成するな」

「うん。もうちょっとだね」

「さぁ、最後の仕上げに入るか!」

「うんっ!」


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それから、親父と面と向かって話し合った。

途中で何度か意見がぶつかったりしたが、最終的に、

大学を出た後の3年間家で働き、最後に俺が満足できるケーキを作れれば

科学者としての道を認めてくれるという話になった。

「よかったね修治っ!」

そう言ってくれた沙希も大学を卒業後、うちの店を手伝ってくれていた。

沙希とは、あの一件の後から恋人関係になっていた。



・・・・・



そして、3年の歳月が流れついに最後の試験の日・・・

















親父が子供をかばって車に撥ねられたという一報が入った・・・。

















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「ここに『黒ビネガー(甘い!)』を少しかけて」

「かんっせー!やったね!!!」

「・・・持っていこうか・・・親父のところへ・・」

「・・・うんっ!」


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それから、親父は何度か峠を越えてを繰り返した後、逝ってしまった。

母さんと沙希は泣いていたが俺には到底今の状況を受け入れられず、

たちの悪い冗談にしか思えなかった。

「おい・・・、親父・・。起きろよ・・。起きて俺の作ったケーキを

 食ってみろよ。なぁ、親父・・・」

親父の亡骸はなにも言わなかった。

親父の葬儀が早々と終わり、俺はこれからの事について思い悩んでいた

・・・。

すると、母さんが俺に最後の試験のことについて話してきた。

話によると、親父は最後の試験に俺を合格させるつもりでいたらしい。

それでまだ本当に科学者になりたいと言うならば、それは本物だと。

親父は、

「あいつに俺の仕事とは違う他の何かになる覚悟があるならば、

本当になりたいものにならせてやりたい」

と言っていたらしい。

俺は、それから数日かけて自分の答えを出した。

俺は、この店を新装して新しい店にしてケーキ職人として

やっていくことにしたのだ。

沙希も店を一緒に営んでくれることになった。



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「ここでいいー?」

「ああ、そこでいい」

墓前にケーキというのも奇妙な光景だが、気が向いたときにこのお供え物をしている。

「ふふっ、お父さんは天国でこのケーキ認めてくれるかなー?」

「どうだろうな。『まだまだだな』とかいいそうだけどなー」

「でも、笑いながら食べているだろうねー」

「あぁ・・・」

実はもう一つ、俺にはあの雨の中用事があったのだ。

その用事とは、

「お義父さんーおいしいですかー?なんちゃって♪お父さんだねっ♪」

この傍にいてくれている稲荷のためのもの。

「あのさ・・・」

「んー?どしたの?」

「こんなときになんだが・・・」

「なになに?何隠してるの?」

「これ・・・もらってくれないか・・・?」

頼んであったもの・・・箱の中で銀色に輝くそれ・・・。

「えっ!?」

それに目の前の稲荷は驚いて、その後顔を俯かせた。

「だめ・・か・・・?」

俺がそういうと、

沙希は涙でぬれた顔を上げて、

「へへっ!・・・遅いよ・・・ばか・・っ!」

そう言って左手をそっと前に出してくれた。

俺は、その薬指にそっとそれ・・・銀の指輪をはめた後、

静かに沙希とキスをした・・・。

その後、顔を少し離してから俺は沙希に言った。



「俺と結婚してくれ・・・」

「うん・・・」











---それから数年後---


その後、すぐに俺たちは結婚し子供にも恵まれた。

その子『静葉』が通う高校で進路調査が実施されたらしい。

俺はあの子に言ってやろうと思っている。

「試験をしてみないか?」・・・と・・・。








11/07/06 00:53更新 / apparel

■作者メッセージ
初投稿です。読みにくい所。不自然な所。誤字、脱字等あるかもしれません。

読んで下さった皆様本当にありがとうございました。

ドラゴン:「ところで、お前は人気投票で私を一位にしていなかったか?

      なぜ稲荷の小説をを書いているんだ・・・?」

  筆者:「いやードラゴンが主役のシリアスなのを書いていたんですが、

      パソコンの不調で消えてしまったんです・・・ああ残念・・・」

ドラゴン:「ほほぅ・・・余程死にたいと見える・・・」

  筆者:「ちょっ!ブレスはやめ・・・」

ドラゴン:「問答無用だ!」

ゴォォッ・・・

ギャーッ・・・

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