読切小説
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ユニコーンさんにゲットされるまでのお話
ユニコーンの腕の中で、ただ温もりを楽しんでいる。その時の中で、愛する者との出会いを思い出す。




魔物娘の存在が公表されてから3年。彼女らは社会に溶け込みつつあった。まるで何年も準備していたかのようであったが、一介の高校生に過ぎない自分には真実を知る由もない。

また彼女らは社会の改善にも積極的であり、その成果は私にも実感できるほどだ。もはや「世界平和」は綺麗事ではない。それは喜ばしいことであると同時に、人類はもはや「万物の霊長」ではないのだと思わせるものでもあった。





田舎であれ都会であれ、魔物娘は数こそ少な目ではあるが、どこにでもいるような印象をうける。高校への通学中も、もちろん見かける。

「あら、おはようございます。」

このように、魔物娘は基本的にフレンドリーだ。そうでない種族でも、問題を起こすことはほぼない。
ちなみに今挨拶してきたのはユニコーンだ。ときどき通学中に会う程度の関係でも挨拶してくれる。

俺が在籍するクラスにも、魔物娘がいる。うち一人はオーガで、最近彼氏ができたらしい。同じクラスの奴だ。魔物娘の公表直後には、オーガなどの力自慢がその身体能力で世間を沸かせた。当初はスポーツの分野で色々あったらしいが、現在は男女と同じように魔物娘とそれ以外を分けるようになっている。

魔物娘は人類と同等の知能と人類以上の力を持つ。これでは人類の立つ瀬がない。文句を言っても仕方のないことだから、ひたすら心の奥に押し込む。ストレスが溜まる一方だ。
――このような者は、大抵は何かしら行動に心情が表れ、そのうち魔物娘の彼女ができることになる。目立つからだ。彼はどうであろうか。

そんなある日、久しぶりに立ち寄った公園で妙な珠を見つけた。ビー玉のようだが、どこか心がひかれる。落としものかもしれないが、ビー玉一つなら困る者もいないだろうと思い、持ち帰ろうと掴んだ。

まだ小学生であった頃、ビー玉に力が宿っているように感じて遊んでいたことを思い出す。確か、ビー玉から力を取り入れるイメージで――その時、珠が体に入っていった。驚いたがどうすることもできず、そのまま帰宅した。何となく、力がみなぎる感じがする。この力があれば、魔物娘にだって勝てるだろう。何の解決にもならないだろうが、多少の自信回復はできる。その晩はほとんど寝付けず、仕方なく勉強した。

翌日、普通に学校で授業を受けながらも、戦うことで頭がいっぱいだった。誰か喧嘩でも吹っ掛けてくれないものだろうか。

昼休み、同じクラスのオーガが話しかけてきた。そういえば、今日もこの人の彼氏は休んでいる。病気らしいが、もう一週間近い。

「今日の放課後、アタシと戦え。柔道場で待ってる。」

驚いた。彼氏持ちの魔物娘が、喧嘩で有名でもない俺と戦いたがる理由が分からない。どうしようか。

「このまま放っておくと、何かしでかしそうな気がする。心当たりがないならそう言ってくれ。」

大いにある。勘づかれているようだが、こちらとしても都合が良いので、受けることにした。

放課後、約束通り柔道場でオーガが待っていた。手早く準備を終え、彼女に話しかけた。

「ルールはどうしますか?」

「柔道のルールでいきたいところだが、それじゃあお前が納得しないだろ。相手が地面に胴体をつけて十秒したら勝ち、ということにしよう。あと、なるべく大怪我をさせないこと。それでいいな。」

頷くと、

「じゃあ、行くぞ。」

その声と共に、オーガは走り出した。
なるほど、魔物娘は人を傷つけたがらないのは本当らしい。俺を掴もうとしてくる。地面に押し付けて勝とうとしているのだろう。――イライラしてくる。殴らずに勝てる、と見くびられているようだ。
いつもの自分なら数秒もしないうちに負けが決まるだろうが、今日は例の珠の影響だろうか、身体能力の上昇を感じる。難なく彼女の手を弾ける。
そうこうしているうちに、彼女は痺れを切らしたのか、強引に両手で掴みにくる。それをかわして、左手を引く。力の高まりを感じる。顔は良くないと思い、腹を正拳突きのように殴った。クリーンヒットだ。
オーガが倒れた。気を失っているようだ。十秒数えるまでもなく、俺の勝ちが決まった。

保健室に運ぼうか迷っているうちに、彼女が目を覚ました。そして、悔しそうに去っていった。自分も帰ろうと持ってきていたリュックサックを持ち上げたとき、異変に気付いた。
殴った左腕が痛い。しかし折れてはいないし触っても大丈夫なようだ。病院に行けば珠のことがバレるかもしれない。家に帰り、安静にして過ごした。

翌日、オーガとその彼氏は学校を休んだ。謝罪に行くべきか悩んでいたのだが、結局行けなかったようだ。

帰り道、例の挨拶してくるユニコーンに会った。行きはよく会うが帰り道は珍しい。

「何だか元気がなさそうですね。よろしければ相談してみてください。」

「いえ、大したことではありませんから。」

「そう遠慮なさらずに。」

フレンドリーを通り越して馴れ馴れしい。振り切るのは申し訳ないので、ぼかして話そう。

「知人に対して少しやり過ぎてしまったのですが、謝りに行く踏ん切りがつかなくて。」

「案外、自分は重く考えていても相手は軽く考えているものです。また機会があれば、でもいいかもしれませんね。」

ためになるような気がしないでもないが、今回は状況が異なる。いつか活用しよう。

さらに次の日。この日はオーガとその彼氏が登校していた。彼氏の方は若干元気がなさそうだ。一週間の闘病がこたえたのだろう。一方でオーガは元気ハツラツといった感じだ。そしてしばしばこちらを見てくる。

昼休み、彼氏の方が話しかけてきた。

「おとといはアイツが迷惑をかけた。代わりに謝るよ。ごめん。本当に申し訳ないんだけど、アイツがどうしても再戦したいみたいなんだ。もう一度、戦ってくれないか?」

まだ左腕が痛む。断ろうとすると、

「おとといアイツが話してたんだ。人間ではあり得ないほど速く動いていた、って。」

確実に気づいている。これではほとんど脅迫だ。断ればどうなるか分かったものではない。

「わかったよ。前回と同じようにやる。」

「ありがとう。アイツも喜ぶよ。」

放課後、再び柔道場でオーガと向かい合った。今度は彼氏が観戦している。期待のこもった視線をオーガにむけており、オーガはそれに気づいているようで、見るからに闘志があふれている。

「お前はアイツと似てる。だから同じように教えてやる。」

そう言ってオーガは走り出す。
前回と同じように掴もうとしてくるが、その速度は明らかに増している。こちらも負けじと弾くが、その度に体が痛む。
オーガは両手で一気に掴みに来る。全力で避けようとするが、痛みで一瞬動きが鈍った。
その隙を突かれ、右腕が掴まれる。そして、一本背負いで畳に叩きつけられた。痛みはさほどないが衝撃が強い。
そのまま寝技に持ち込まれ、必死にもがいたが解けずに十秒がたった。俺の負けが決まり、力がぬけた。
オーガが叫ぶ。

「これが愛の力だ!」

あまりに唐突に感じたが、オーガは言いたいことを全て言ったような態度で彼氏の下へ向かった。抱き締めたりキスしたり、一通りイチャついた後、彼氏の男がこちらに歩いてきた。

馬鹿にでもしに来たのかと思ったが違うようだ。

「どうして戦おうと思ったんだ?」

挑まれたから、では質問の意図とは異なるだろう。

「魔物娘に勝ちたかった。力で。」

全てを語る気にはなれず、断片的に理由を話した。

「俺と同じだな。俺は一回目で負けたけど、気に入られて、こうなった。」

話したのはあくまで理由の一部に過ぎないが、それでも意外だった。オーガの彼氏に目を向けると、まだ質問があるようだが、少々のためらいが見える。それを振り切り、意を決して口を開いた。

「ところでさ。お前、童貞?」

急に変なことを言いだした。やっぱり馬鹿にすることにしたのだろうか。

「調子に乗るな。お前が勝ったわけじゃない。」

「別に馬鹿にしたわけじゃないさ。ただ聞いておく必要があっただけだ。」

返答から俺が童貞であることを察したのだろう。オーガとその彼氏は柔道場を去った。

学校からでると、日が沈みかけていた。身体中が痛むが、珠のことがバレては困るため、病院には行けない。痛みを隠しつつ、家に向かった。ダメージが大きいのか、少しクラクラする。

完全に夜になり、あと数分歩けば家に着こうというところで、背後から馬の蹄の音がした。振り返ると、そこにはあのユニコーンがいた。服がいつもと違ったため、一瞬判別できなかった。服には疎いためよく分からないが、上品な白い服を着ている。微笑みと美しい瞳は柔和な印象を与え、敵意のないことを示している。白い姿は暗い夜によく映える。いつもとは全く印象が異なり、神秘性すら感じさせた。
あまりの美しさに見とれそうになるが、来た理由が分からない。

「あなた、傷ついていますね。」

隠していたはずの痛みを気づかれた。

「放置すれば悪化します。医者にかかれない事情があるのでしょう。私の角には癒しの力があります。あなたの傷を癒させてください。さあ、こちらへ。」

敗北し、傷ついた体。心身共に疲弊しており、ユニコーンとの出会いはまさしく救いであった。

「私の家に行きましょう。そこの方が癒すのに都合が良いですから。」

ユニコーンの家は俺の家からそこまで遠くないようで、普通の一軒家だった。中の部屋まで案内され、ソファーに座るよう促された。座ると、

「何があったのか、教えていただけますね?」

ここまで来ておいて隠すのもどうかと思い、珠の発見から事情を全て話した。

「どうして戦おうと思ったのですか?」

ユニコーンの目は慈愛に満ちていた。この人なら話しても大丈夫、全てを受け入れてくれる、そう思えた。

「不安だったんです。人類の上位互換みたいな種族が出てきたから、もう人類は淘汰されるんじゃないかって。インキュバスになれるとしても、それでも元は人類です。……だから、人類は魔物娘に劣ってないって思い込みたかった。」

我ながら器の狭いことだ。あまりに情けなくて、言いながら涙が出てきた。
言い終わると、ぎゅっ、と抱きしめられた。
甘い香りがして、心が安らぐ。抱きしめられたことなんてなかったから、つい力が抜けてしまう。ユニコーンがささやく。

「これからは、私があなたを守ります。だから、安心してください。愛しいひと。」

そう言って、俺に口づけをした。心を癒すための、優しいキス。幸福が精神を洗いながし、安堵のあまり、意識を手放した。

いつの間にか眠っていたようだ。気がつくと、俺は抱きかかえられた状態で自宅の前にいた。体は既に治っていた。ユニコーンは改めて俺を抱きしめ、

「今日はもうお別れしないといけません。明日は土曜日ですから、どうかあの場所に来てください。また、あなたを抱きしめさせてください。今度は、キスの続きをしましょう。」

顔が赤くなりながら、俺は何度も頷いた。
押し込めていた負の感情は消え失せ、心は晴れやかだった。

その晩、誰かが家を訪ねてきた。扉を開けると、刑部狸が立っていた。

「君が持っていったアレを回収しに来た。アレはまだ開発段階でね、本来は男性器を強化するものなんだ。危ないからね、持っていかれたままにはできないんだ。」

あえて触れなかったのだろうが、落としものを勝手に自分のものにするのは違法である。俺は大人しく返すしかなかった。

翌朝、約束通り「あの場所」に向かった。着いてすぐ、背後から蹄の音が聞こえた。あえて振り向かずに待っていると、ぎゅっ、と抱きしめられた。昨日と同じ甘い香りがする。

「幸福であなたを満たしてあげます。今日こそ全部受け止めてもらいますからね。」

優しく、それでいてどこか期待のこもった声。互いの鼓動が、共鳴するかのように高まっていた。












18/11/18 04:25更新 / レイド

■作者メッセージ
全くの初心者なもので、非常に緊張しております。

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