夏の色が
ニュースをつければ、最高気温を更新だとか耳にしたくないような出来事ばかりが嫌でもわかる。太陽は容赦なく強い日差しを地上に注いで、蝉は短い命を存分に謳歌するようにけたたましく合唱を繰り広げる。陽炎がゆらめいて、花火が打ちあがって。盆踊りを踊って、祭囃子に耳をすませて。縁側で線香花火が燃えて、団扇で微かな風を得て。
そんな季節を人は夏と呼んだ。
そんな夏が何より僕は嫌いだった。
そんな夏に、夏休みに外に出るなんてことはしたくなかった。灼熱の熱線に身を晒すなんて、自殺行為もいいとこだ。だから僕は今もこうして、一人部屋にこもって黙々と絵を描いている。クーラーが存分に己の仕事を果たしている涼しい部屋で、絵の具の独特の臭いを撒き散らしながら。
描いている絵は、我が学校の誇る――ほどでもない美術部の夏休み課題のものだ。夏休みに一枚、絵を仕上げて提出すること。テーマは夏。抽象的で曖昧なテーマだからこそ、想像の余地があり作者の妄想、もとい想像力が試される難しい課題だ、と顧問の先生はのたまっていた。
けれど、僕はまったくもってそんなことは感じない。夏は嫌いだけれど、嫌いだからこそ、その情景は至って容易く浮かんでくるし、浮かんできたイメージをセンチメンタルなカンバスに描き込むのは、簡単だった。
描いているのは、海の絵。砂浜があって、少し人工物もある、ありふれたようなものだった。でも、それは色を工夫すれば、言い方は悪いけれどどうにでもなってしまう。
色と色が混ざり合って、まったく違う色になるプロセスは見ていて楽しい。自分の手で作品を作り上げているという実感が持てるし、何より、夢中になれる。
・・・センチメンタルなのは、僕の方かもしれない。いや、前者の意味が明らかに誤用なのは理解したうえで、だ。
気を取り直し、絵の具を陵辱するみたいにぐちゃぐちゃに混ぜ合わせる。一見すると子供でもできそうな作業だけれど、これが案外、難しい。
やっと自分の納得できそうな色ができて、カンバスに筆で自分の思い描いている情景を描いてく。・・・が、どこか納得がいかない。なんだろう。こう、ずれているような感覚がする。たぶん、これはきっと。
「そうね、もう少し海と砂浜のコントラストを強くしてみたらどう?」
ええ、そうですね。僕もちょうどそう思・・・・・・・・・・・・・・・・・。
自分の背後から、突然声がした。今、この部屋にいるのは僕一人のはずなのに。オーケー。冷静に、極めて冷静になろう。こういうときに驚いてしまっては相手の思うつぼだ。ホラー映画とかでよく主人公がパニックを起こしてしまい、さらに危機的状況に追い込まれ、恐怖をさらに増長させる悪循環を起こすけど、まさにこれはその典型的な例だ。落ち着こう。僕は決して驚かない。
まずは現状把握だ。部屋の状況から整理していこう。
僕は絵を描くとき、その時間は家族ですら干渉されるのが嫌いで、窓は閉め切り、ドアの鍵はきちんと施錠している。僕の部屋に鍵をつけてほしいという要望を聞き入れてくれた家族に感謝すると同時に、こんな不法侵入を許すひ弱な鍵を取り付けた家族を恨みたくもなった。
だがそれはもういい。侵入を許してしまった時点で、鍵の安全性を話題にしている場合ではない。
僕がやるべきことはただ一つだ。僕は冷静にズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。無事高校に入学できたときに、両親が祝いに買ってくれた感慨深い物だけれど、今は思いを馳せているときじゃない。
画面のロックを外し、冷静に電話の機能を起動させる。やることは簡潔だ。冷静に1のボタンを二回、0のボタンを一回押す。
最近は不祥事や遅れた対応が目立つものの、比較的早くコール音が途切れ、若い人の事務的な声が聞こえてきた。あとは僕は事の現状を伝えるだけでいいだろう。
警察ですか?不法侵入で――
「待って!私よ!?仮にも美術部部長よ!?」
僕から強引にスマートフォンを取り上げ、慌てて通話を切る我が校の美術部部長、ユウ先輩はいつも通りのようだった。いつものように白磁のような長い白髪をたゆたわせ、いつものように異形の翼を背に生やし、いつものように禍々しい尻尾を揺らしながら、ユウ先輩はそこに、僕の部屋にいた。
リリムという、言うなれば王女の特徴をしっかりと受け継いだ姿。
「いつも通りって、私だとわかってたんなら警察に通報しないで!この歳でお巡りさんのお世話にはなりたくないの!」
魔物娘の時点で、この歳という定義は凄くぼやけたものになっている気がするけど、そこは突っ込むべきところじゃないだろう。マナーというやつだ。いや、それよりも。
人の家に不法侵入してきた輩にとやかく言われる筋合いはないですよ。
「部員の作品の進行状況を把握しておくのは部長のつとめでしょ?」
時と場合と手段を考えてくださいね。まったく。夏くらい魔物娘らしくいちゃいちゃと退廃的に過ごしたらどうなんですか。
「過ごさせてくれないのはいったい誰なのよ」
あ、・・・・・・・・・・・・・・・・すいません。
「ガチトーンで謝らないで、泣きたくなるから」
事実だけを端的に話すなら、僕とユウ先輩は恋仲だった。詳しい経緯を話すと長くなるので、かいつまんで説明すると・・・。
僕の方から告白して、それが叶った形だ。リリムという王女の風格に物怖じせずに告白したその気骨が認められたのか、はたまた以前からお互いにお互いが好きだったのか、その辺は曖昧なところだけれども。
兎も角、魔物娘としては最高峰に位置して、容姿やその他も申し分ないユウ先輩と付き合えているということは、男子としてはもう男冥利に尽きるのだけれども。
けれども、少しだけ、僕と先輩の間には問題があった。
些細だけれど、れっきとした問題が。
「はぁ・・・・・・・・・・・・・・」
聞いている者まで憂悶の海に沈めそうな溜息を吐く先輩。
「この悲しみをみんなにもわけてあげたいわね」
どうせカップルの笑みに打ち消されるでしょうけどね。
「ねぇ、私をいじめて楽しい?」
不法侵入してきた罰です。そもそも作品の進行状況を見るだけなら、もう用事は済んだでしょう。一分一秒一刹那でも早くお帰りください。
「私のこと嫌いになったんでしょ!そうなんでしょ!?」
慮外者、もとい先輩が若干涙目になりかけていたので、僕は大げさに溜息を吐き、少しだけ先輩がここにいることを許可した。それだけで子供のように大喜びする先輩はなんというか、だらしないというか、純粋というか。とりあえず、リリムとしての風格は雲散霧消していた。
そんな先輩に、一応の礼儀として(不法侵入した人に礼儀も何もあったものじゃないとは思うけれど)わざわざ台所まで赴いて、冷蔵庫の中に入れてあったジュースを献上した。ちなみに120円。僕が絵ができた後に飲もうと、とっておいたものだ。
そのジュースを堪能した先輩は、か細く途切れるような息をふぅっと吐いた。その仕草が色っぽくて、思わず見とれそうになる。
リリムとしての風格は消えることがあっても、妖気のような色っぽさは消えることがない。それは恋人としてはもうたまらないところだったけれど、同時に精神衛生上はあまりよろしくなかった。主に集中力が途切れるという点で。
「ああ、悪くないわ。こうして冷房の効いた部屋で冷えた飲み物を飲めるのって、もうまさに健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を享受してるわよね」
ええ、その権利を人の家で貪っている点を除けば本当に最高なんでしょうね。
「ごめんなさい」
先輩が珍しくしゅんとして謝った。確実に悪いのは先輩なのだけれど、こうして実際に反省されるとなんだかこっちが悪いことをしたような、弱いものいじめでもしているような罪悪感に襲われてしまう。なんだかずるい。
いや、悪いのはそもそも不法侵入してきた先輩なのだから、ここは同情なんてする余地はないだろう。
「なんで恋人なのにここまで冷たいのかしら・・・」
自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか。
「セクハラね」
どうぞお帰りください。今すぐご帰宅してください。
「ひどい!」
やれやれと肩をすくめながら、自分の絵を少し離れて見てみる。まだまだ色褪せたような雲の色合いに関しては塗りこみができるだろう。それに、湿度を感じさせるような自然物、海や雲、砂浜と人工物との対比がまだまだできていない。ゆらめいているような、視界が屈折しているような夏の空気の表現も、だ。
まだまだ課題は山積みだけれど、僕の集中力は正直なところ、先輩が来て途切れてしまったし、今日はもう作業を中断した方がいいだろう。
「!」
そして予想通り、作業が止まったことで、先輩の目の色が変わる。
「ねぇ、終わったの?終わったの?」
多分これに答えると僕の予想通りの結末を迎えることになる。なので、僕は口を真一文字に結んで応答を拒否するつもりでいたのだけれど。
「んふふふふふふ♪」
この先輩の様子を見る限り、どうやらそれも骨折り損になりそうだ。
「ねぇ♪」
やけに機嫌がいいですね、先輩。
「そりゃそうよ♪だって約束は作業をしている間と休日以外は禁止、だもの。今日は休日だし、今は作業してないでしょう?」
そういいながら、先輩の背後では魔力がどんどん集まり、簡易ベッドを形成し始めている。ことを運ぶ気まんまんだ。
僕と先輩の問題。それは、いつでもどこでも先輩が体を求めてくること『だった』。
付き合い始めた頃、その頃先輩は本当に(僕なんかで申し訳ない気持ちが湧くのだけれど)魔物娘で言う夫ができたことが嬉しかったらしく、四六時中性行為を求めてきた。性行為、なんてお堅い言い方なのは、僕なりの羞恥心の表れだと理解して欲しい。羞恥心が湧くくらいには、それぐらいには激しく求められたのだから。
出会えばひと気のない場所へと引きずられて、喘ぎ声が響く日々が続いた。トイレで体育館倉庫で図書室で視聴覚室で階段の踊り場で屋上で誰もいなくなった教室で理科室で自宅で野外で森の中でプールで更衣室で美術室で。もう目が合ってしまっただけで誘拐同然の勢いであらゆる場所に連れ込まれて。
これだけ話を聞くと、おやおや惚気話とはご馳走様だねとクラスメートに言われ、仕舞いには呪詛の言葉を投げかけられるのだけれど、誤解しないで欲しい。惚気話ではなくて、勘弁してくれという僕の悲痛な叫びだ。
そりゃあ、僕だって健全な男子だから、そういう事は好きだ。好きだけれど。
何事にも限度というものがある。
先輩が求めすぎたお陰で、僕の生活に支障が出たのだ。具体的には、絵が描けなくなってしまったり、勉強が疎かになってしまったり。もう好きなもののカーストは一位に先輩が君臨してしまっているけれど、それでも絵だって勉強だって手を抜きたくはなかった。
ただ、問題だったのはその意思をどうやって先輩に伝えるかだった。が、もうそれは悩みに悩みぬいた結果、堂々とはっきり先輩に告げることにした。
そして僕と先輩との間にできた決まりごとが、作業をしている間と平日は性行為禁止というものだった。
今にして思えば、これはかなり先輩にとって残酷だった気がする。が、勘違いして欲しくないのは、これは僕が提案したものではなくて、先輩自身が決めたことだ。先輩自身が、真綿で首を絞めるような苦しさを味わうような提案をした。
先輩自身が、緩慢な茨を歩むような選択をした。
そして、今。
その決まりごとに反していない今。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
怖いくらい綺麗な笑顔を浮かべた先輩がこちらにじりじりと迫っていた。いや、性行為自体の度が過ぎていたから制限を設けただけで、僕もエロいことは好きなのだけれど。
笑顔が怖かった。半端なく。いやもうオーラが滲み出ていると錯覚するくらいに。
その迫力に、思わず僕は一歩後ろへと後退した。
「あらあら?どうして逃げちゃうの?」
いや少し迫力が。
「迫力?ああ、もっと少女趣味に溢れたベッドの方が良かったかしら♪」
いやそうじゃなくて。
「ん〜。じゃあ胸?もっと大きいのが実は好みだったの?」
いやそうじゃなくて。
「じゃあいいじゃない。ねぇ」
その『ねぇ』に淫靡な響きが含まれていて、思わず僕は苦笑いを浮かべたまま――
「んっ♪」
押し倒された。
■ ■ ■
「んむっ、ちゅ、れるっ、・・・ふふふっ♪るる、れ、あむっ」
ん・・・・・・・・・・・・。
先輩の舌が別の生き物のように僕の口の中を蹂躙する。蹂躙。そう、蹂躙と言っていいほど、その舌の動きは貪欲だった。
「むちゅ、れろっれろっ、ちゅっ♪」
柔らかい唇は触れているだけでいつまでもこうしていたいくらいに気持ちがいい。それに加えて久しぶりキスを堪能しようとする舌の動きが、どこまでもいやらしかった。
そんな動きに負けまいと、僕も積極的に舌を絡ませる。
「・・・!んんんっ、ふふっ、ちゅ、ちゅ、ちゅ」
ざらざらとした舌の感触が心地いい。歯茎をなぞられるくすぐったい感覚がたまらない。それだけで、後頭部にぞくぞくとした快感が這い上がってくる。ぴりぴりとした電気的な刺激が、たまらない。
先輩の頬の感触も、お互いに感じる甘ったるい匂いも、全て脳に焼き付けていたい。そんな欲望だけで、僕は先輩の舌へと自身をからめて、唾液を塗りたくった。
べったりと粘ついた、粘液の交換。けれど、その粘液は甘い。味として認識するような甘さじゃなくて、脳がそうだと認識しているような、わけのわからない甘さ。
魔物娘はみんなそうなのか、それとも先輩がリリムという高次の種族だからなのか。それはわからなかったけれど、けれど。
もうそんなことどうでもよくなるくらいには、理性はどろどろと音をたてて溶けていた。
キスをしながら、そっと手を先輩の胸へと伸ばす。しっとりと肌に吸い付いてくると同時に、水風船みたいな弾力が掌に伝わる。その心地よさは、麻薬にも似ていた。病み付きになって、愛しさすら覚えてしまって、手放せない。
「んっ、ちゅ、れるっ・・・もう、おっぱい好きなのね♪」
おっぱいが嫌いな男子なんていませんよと頭の中で返事を返しつつ、さらに指が喰いこむくらいに手の力を強める。自然の弾力に逆らって肌に指が沈んでいく感覚がもう、たまらなかった。
ずぶずぶ。ずぶずぶずぶずぶ。
沼みたいに、羊水のように沈んでいく。シズンデイク。
沈んでいっているのは、きっと指だけじゃない。
「もう、おっぱいの形変わっちゃったらどうするの・・・?」
まんざらでもない先輩の顔を確認して、僕はねっとりとした濃厚なキスを止めた。
そして、そっと赤くなった先輩の乳首を口に含む。
「んんんんんんんっ♪」
口に含んだだけで、嬌声をあげる先輩が可愛らしい。その甘えた声をもっと聞きたくて、ぼくは傷つけないように細心の注意をはらいながら、そっと乳首を甘噛みした。
「んにゃあああぁあぁあぁあああっっっ!!!」
こりっとした歯触りに、ほんの少しだけ口腔に伝わる先輩の匂い。そして耳を劈きそうなほどに大きい先輩の声が、心地いい。
胸も唇も堪能した僕は、とうとう最後の段階まで踏み入ろうとしていた。
穿いていたズボンを乱暴に下ろし、自分自身を曝け出す。先輩も意図を汲み取ったのか、こちらに背中を向けると、四つん這いになり、その豊満なお尻を高々と上げた。
既に下着は脱ぎ捨てられていて、ぐっしょりと愛液を滴らせる女性器が快楽を求めてひくついていた。その様子が扇情的以外のなんでもなくて。
王女の尊厳も何もない。全て踏み躙って文字通り蹂躙するような体位。知性ある動物から繁殖するくらいしかない獣に成り下がる体位。
そんな格好を自分からする先輩に、我慢なんてできなかった。
「ひゃあああぁぁぁああぁああぁあぁぁあああああんっ!!!きたぁ♪久しぶりのおちんちんきたぁっ♪」
うわっ・・・・・・。
挿入しただけで果てそうになるのを、なんとか気力で踏ん張る。先輩の膣内は、入ってきた肉棒に食らいつくように絡んできて、頭が弾けそうになる快感が押し寄せてきた。
その感覚をもっと楽しむために、焦らずじっくりと腰を動かす。その度に、腰を押し出せば子宮口へと誘うように招いてくる肉のヒダが僕を柔らかく包んでくる。腰を引こうとすれば、それを嫌がるようにきつく締まってくるから、どっちの行動をとろうと、快楽の渦に僕は投げ込まれる。
焦らすような動きでも先輩は快感を極めているらしく、さっきからか細い吐息が漏れていた。
ただ、挿入した時の様な大きい声を出すことがなくなっている。だから、僕は。
「んっ・・・!!!!??ひゃあっ♪らめっ♪いきな・・・・・・あぁぁぁぁああぁ♪」
焦らすようなゆっくりとした動きから、思いっきり激しく先輩を突いた。
ごつん。と先に何かが当たる感触がして、頭の中で火花がバチバチと弾ける。ひたすらに感じていたい欲望に逆らわず、ひたすらに自分自身が抜けそうなところまで腰を引いて、そして思いっきり貫くように突く。
単純な動作をリズミカルに。腰の骨と先輩のお尻の肉がぶつかりあう音も、にちゃにちゃと粘着質なまとわりつく音も。何もかもが原始的で、興奮した。
ぞわぞわと腰の奥から何かが、いや欲望が快楽を伴って這い上がってくるのを感じた僕は、さらに激しく先輩の体を貪った。
ずんずん。ずんずんずんずん。
もう既に先輩は突かれる度に短い悲鳴のような声をあげるだけになっていたのだけれど、それが、恋人に抱くにはおかしい感覚かもしれないけれど、無理矢理犯しているようで、・・・・・何思ってるんだろう。
いよいよ頭の許容量を越えた快感が、脳でも壊しているのかもしれない。そう思った。
思ったけど。
「やっ、あっ、あっ、ああぁっ」
なんだっていいや。
「ふぇ?なにいって・・・やぁん♪はぁっ、にゃ、ひゃあぁぁぁああぁ」
スパートへ向けてどんどん荒々しくなる僕の腰の動きに合わせて、声を上げる先輩に答えるように、僕は自分を先輩の子宮口に押し付けると。
「んぁあああああああぁああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」
こみ上げてきた真っ白な欲の塊を吐き出した。
■ ■ ■
気がつくと、僕も先輩も冷房の効いた部屋で汗まみれになって、お互い寄り添うようにして倒れていた。ふかふかの柔らかい感触は、魔力で作られたベッドなんだろうか。
体を包み込む心地いい疲労感に、それを確かめさせるのは少し酷だったので、確かめはしなかったけど。
先輩は息も絶え絶えになりながらも、ご満悦といった様子で、甘えるように僕の体に腕を絡ませてきた。
「ふふふ、ありがとう。久々に幸せな気持ちいっぱいに満たされちゃった」
幸せそうでなによりです。
「うん、本当に久しぶりのエッチだったんだもの。幸せ」
ちくり。と胸に縫い針を刺されたような仮想の痛みが走る。
久しぶり。その言葉が乱反射するようにして僕自身を苛むような気がして。その理由なんて、もうとっくにわかっていた。
約束が、『僕がはっきりと伝えたせいで』先輩が自らした約束が。魔物娘にとっては苦痛になってるんじゃないか。そんな自己嫌悪のぬかるみに、足をとらわれる。
魔物娘にとって、エッチは生きがいで、夫となる男性との性行為が大切なこと。なのに、それに制限をかけて、幸せで束縛するならまだしも苦痛にもなりかねない制約で束縛している。
きっと先輩も、以前のように淫楽の日々を送りたいと、心の底で思っているに違いない。そう思えるのに、僕は未だに言い出せない。
一言、きっと一言で終わることなのに、だ。
「大丈夫」
そんな僕の考えていることを見通すように、先輩が子供をあやすような声で言ってきた。
「つまらないこと考えてるでしょう」
つまらないってわけじゃ。
「ううん。つまらないこと。回数が少ないせいで、辛い思いさせてないかなとか、そんなこと考えてるでしょ」
図星だった。
「私は大丈夫。ちゃんと休日には愛してもらえてるんだし、それにね、いつもエッチしてばっかりだった日より、ずっと楽しい。ずっと嬉しいの」
嬉しい?
「うん、嬉しい。待たされたぶん、愛されてるって実感がわくの。それに、辛いのはあなたも同じでしょ?なら、私も待てるわ。二人で一緒の時間を耐えて、二人で一緒の時間を楽しんで。それって、とっても素敵なことだと思うの。だから、だからね。あなたも、同じ」
あなたも同じ。
僕も同じ。
先輩も同じ。
一つ一つ口にする僕を見て、先輩は少しだけ微笑んだ。
「まだ夏休みは始まったばかりよねぇ。夏祭りに海、肝試しに・・・・・絵。素敵な日を作るわよ」
にっこりと笑う先輩を見ていたら、今まで考えていたことぜんぶ。
罪悪感とか、後悔とか、虚しさとか、そういったもの全部。
どうでもよくなってしまっていた。
その代わり。
先輩と二人であの絵を完成させてみたいなんて、場違いな感傷癖が、僕の中で少しだけ、古ぼけたフィルムのような光景として、浮かび上がった。
鮮明とはまだほど遠いけど、絵筆でいくらでも極彩色にも彩れそうな、そんな光景が。
夏はまだ、終わらない。
そんな季節を人は夏と呼んだ。
そんな夏が何より僕は嫌いだった。
そんな夏に、夏休みに外に出るなんてことはしたくなかった。灼熱の熱線に身を晒すなんて、自殺行為もいいとこだ。だから僕は今もこうして、一人部屋にこもって黙々と絵を描いている。クーラーが存分に己の仕事を果たしている涼しい部屋で、絵の具の独特の臭いを撒き散らしながら。
描いている絵は、我が学校の誇る――ほどでもない美術部の夏休み課題のものだ。夏休みに一枚、絵を仕上げて提出すること。テーマは夏。抽象的で曖昧なテーマだからこそ、想像の余地があり作者の妄想、もとい想像力が試される難しい課題だ、と顧問の先生はのたまっていた。
けれど、僕はまったくもってそんなことは感じない。夏は嫌いだけれど、嫌いだからこそ、その情景は至って容易く浮かんでくるし、浮かんできたイメージをセンチメンタルなカンバスに描き込むのは、簡単だった。
描いているのは、海の絵。砂浜があって、少し人工物もある、ありふれたようなものだった。でも、それは色を工夫すれば、言い方は悪いけれどどうにでもなってしまう。
色と色が混ざり合って、まったく違う色になるプロセスは見ていて楽しい。自分の手で作品を作り上げているという実感が持てるし、何より、夢中になれる。
・・・センチメンタルなのは、僕の方かもしれない。いや、前者の意味が明らかに誤用なのは理解したうえで、だ。
気を取り直し、絵の具を陵辱するみたいにぐちゃぐちゃに混ぜ合わせる。一見すると子供でもできそうな作業だけれど、これが案外、難しい。
やっと自分の納得できそうな色ができて、カンバスに筆で自分の思い描いている情景を描いてく。・・・が、どこか納得がいかない。なんだろう。こう、ずれているような感覚がする。たぶん、これはきっと。
「そうね、もう少し海と砂浜のコントラストを強くしてみたらどう?」
ええ、そうですね。僕もちょうどそう思・・・・・・・・・・・・・・・・・。
自分の背後から、突然声がした。今、この部屋にいるのは僕一人のはずなのに。オーケー。冷静に、極めて冷静になろう。こういうときに驚いてしまっては相手の思うつぼだ。ホラー映画とかでよく主人公がパニックを起こしてしまい、さらに危機的状況に追い込まれ、恐怖をさらに増長させる悪循環を起こすけど、まさにこれはその典型的な例だ。落ち着こう。僕は決して驚かない。
まずは現状把握だ。部屋の状況から整理していこう。
僕は絵を描くとき、その時間は家族ですら干渉されるのが嫌いで、窓は閉め切り、ドアの鍵はきちんと施錠している。僕の部屋に鍵をつけてほしいという要望を聞き入れてくれた家族に感謝すると同時に、こんな不法侵入を許すひ弱な鍵を取り付けた家族を恨みたくもなった。
だがそれはもういい。侵入を許してしまった時点で、鍵の安全性を話題にしている場合ではない。
僕がやるべきことはただ一つだ。僕は冷静にズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。無事高校に入学できたときに、両親が祝いに買ってくれた感慨深い物だけれど、今は思いを馳せているときじゃない。
画面のロックを外し、冷静に電話の機能を起動させる。やることは簡潔だ。冷静に1のボタンを二回、0のボタンを一回押す。
最近は不祥事や遅れた対応が目立つものの、比較的早くコール音が途切れ、若い人の事務的な声が聞こえてきた。あとは僕は事の現状を伝えるだけでいいだろう。
警察ですか?不法侵入で――
「待って!私よ!?仮にも美術部部長よ!?」
僕から強引にスマートフォンを取り上げ、慌てて通話を切る我が校の美術部部長、ユウ先輩はいつも通りのようだった。いつものように白磁のような長い白髪をたゆたわせ、いつものように異形の翼を背に生やし、いつものように禍々しい尻尾を揺らしながら、ユウ先輩はそこに、僕の部屋にいた。
リリムという、言うなれば王女の特徴をしっかりと受け継いだ姿。
「いつも通りって、私だとわかってたんなら警察に通報しないで!この歳でお巡りさんのお世話にはなりたくないの!」
魔物娘の時点で、この歳という定義は凄くぼやけたものになっている気がするけど、そこは突っ込むべきところじゃないだろう。マナーというやつだ。いや、それよりも。
人の家に不法侵入してきた輩にとやかく言われる筋合いはないですよ。
「部員の作品の進行状況を把握しておくのは部長のつとめでしょ?」
時と場合と手段を考えてくださいね。まったく。夏くらい魔物娘らしくいちゃいちゃと退廃的に過ごしたらどうなんですか。
「過ごさせてくれないのはいったい誰なのよ」
あ、・・・・・・・・・・・・・・・・すいません。
「ガチトーンで謝らないで、泣きたくなるから」
事実だけを端的に話すなら、僕とユウ先輩は恋仲だった。詳しい経緯を話すと長くなるので、かいつまんで説明すると・・・。
僕の方から告白して、それが叶った形だ。リリムという王女の風格に物怖じせずに告白したその気骨が認められたのか、はたまた以前からお互いにお互いが好きだったのか、その辺は曖昧なところだけれども。
兎も角、魔物娘としては最高峰に位置して、容姿やその他も申し分ないユウ先輩と付き合えているということは、男子としてはもう男冥利に尽きるのだけれども。
けれども、少しだけ、僕と先輩の間には問題があった。
些細だけれど、れっきとした問題が。
「はぁ・・・・・・・・・・・・・・」
聞いている者まで憂悶の海に沈めそうな溜息を吐く先輩。
「この悲しみをみんなにもわけてあげたいわね」
どうせカップルの笑みに打ち消されるでしょうけどね。
「ねぇ、私をいじめて楽しい?」
不法侵入してきた罰です。そもそも作品の進行状況を見るだけなら、もう用事は済んだでしょう。一分一秒一刹那でも早くお帰りください。
「私のこと嫌いになったんでしょ!そうなんでしょ!?」
慮外者、もとい先輩が若干涙目になりかけていたので、僕は大げさに溜息を吐き、少しだけ先輩がここにいることを許可した。それだけで子供のように大喜びする先輩はなんというか、だらしないというか、純粋というか。とりあえず、リリムとしての風格は雲散霧消していた。
そんな先輩に、一応の礼儀として(不法侵入した人に礼儀も何もあったものじゃないとは思うけれど)わざわざ台所まで赴いて、冷蔵庫の中に入れてあったジュースを献上した。ちなみに120円。僕が絵ができた後に飲もうと、とっておいたものだ。
そのジュースを堪能した先輩は、か細く途切れるような息をふぅっと吐いた。その仕草が色っぽくて、思わず見とれそうになる。
リリムとしての風格は消えることがあっても、妖気のような色っぽさは消えることがない。それは恋人としてはもうたまらないところだったけれど、同時に精神衛生上はあまりよろしくなかった。主に集中力が途切れるという点で。
「ああ、悪くないわ。こうして冷房の効いた部屋で冷えた飲み物を飲めるのって、もうまさに健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を享受してるわよね」
ええ、その権利を人の家で貪っている点を除けば本当に最高なんでしょうね。
「ごめんなさい」
先輩が珍しくしゅんとして謝った。確実に悪いのは先輩なのだけれど、こうして実際に反省されるとなんだかこっちが悪いことをしたような、弱いものいじめでもしているような罪悪感に襲われてしまう。なんだかずるい。
いや、悪いのはそもそも不法侵入してきた先輩なのだから、ここは同情なんてする余地はないだろう。
「なんで恋人なのにここまで冷たいのかしら・・・」
自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか。
「セクハラね」
どうぞお帰りください。今すぐご帰宅してください。
「ひどい!」
やれやれと肩をすくめながら、自分の絵を少し離れて見てみる。まだまだ色褪せたような雲の色合いに関しては塗りこみができるだろう。それに、湿度を感じさせるような自然物、海や雲、砂浜と人工物との対比がまだまだできていない。ゆらめいているような、視界が屈折しているような夏の空気の表現も、だ。
まだまだ課題は山積みだけれど、僕の集中力は正直なところ、先輩が来て途切れてしまったし、今日はもう作業を中断した方がいいだろう。
「!」
そして予想通り、作業が止まったことで、先輩の目の色が変わる。
「ねぇ、終わったの?終わったの?」
多分これに答えると僕の予想通りの結末を迎えることになる。なので、僕は口を真一文字に結んで応答を拒否するつもりでいたのだけれど。
「んふふふふふふ♪」
この先輩の様子を見る限り、どうやらそれも骨折り損になりそうだ。
「ねぇ♪」
やけに機嫌がいいですね、先輩。
「そりゃそうよ♪だって約束は作業をしている間と休日以外は禁止、だもの。今日は休日だし、今は作業してないでしょう?」
そういいながら、先輩の背後では魔力がどんどん集まり、簡易ベッドを形成し始めている。ことを運ぶ気まんまんだ。
僕と先輩の問題。それは、いつでもどこでも先輩が体を求めてくること『だった』。
付き合い始めた頃、その頃先輩は本当に(僕なんかで申し訳ない気持ちが湧くのだけれど)魔物娘で言う夫ができたことが嬉しかったらしく、四六時中性行為を求めてきた。性行為、なんてお堅い言い方なのは、僕なりの羞恥心の表れだと理解して欲しい。羞恥心が湧くくらいには、それぐらいには激しく求められたのだから。
出会えばひと気のない場所へと引きずられて、喘ぎ声が響く日々が続いた。トイレで体育館倉庫で図書室で視聴覚室で階段の踊り場で屋上で誰もいなくなった教室で理科室で自宅で野外で森の中でプールで更衣室で美術室で。もう目が合ってしまっただけで誘拐同然の勢いであらゆる場所に連れ込まれて。
これだけ話を聞くと、おやおや惚気話とはご馳走様だねとクラスメートに言われ、仕舞いには呪詛の言葉を投げかけられるのだけれど、誤解しないで欲しい。惚気話ではなくて、勘弁してくれという僕の悲痛な叫びだ。
そりゃあ、僕だって健全な男子だから、そういう事は好きだ。好きだけれど。
何事にも限度というものがある。
先輩が求めすぎたお陰で、僕の生活に支障が出たのだ。具体的には、絵が描けなくなってしまったり、勉強が疎かになってしまったり。もう好きなもののカーストは一位に先輩が君臨してしまっているけれど、それでも絵だって勉強だって手を抜きたくはなかった。
ただ、問題だったのはその意思をどうやって先輩に伝えるかだった。が、もうそれは悩みに悩みぬいた結果、堂々とはっきり先輩に告げることにした。
そして僕と先輩との間にできた決まりごとが、作業をしている間と平日は性行為禁止というものだった。
今にして思えば、これはかなり先輩にとって残酷だった気がする。が、勘違いして欲しくないのは、これは僕が提案したものではなくて、先輩自身が決めたことだ。先輩自身が、真綿で首を絞めるような苦しさを味わうような提案をした。
先輩自身が、緩慢な茨を歩むような選択をした。
そして、今。
その決まりごとに反していない今。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
怖いくらい綺麗な笑顔を浮かべた先輩がこちらにじりじりと迫っていた。いや、性行為自体の度が過ぎていたから制限を設けただけで、僕もエロいことは好きなのだけれど。
笑顔が怖かった。半端なく。いやもうオーラが滲み出ていると錯覚するくらいに。
その迫力に、思わず僕は一歩後ろへと後退した。
「あらあら?どうして逃げちゃうの?」
いや少し迫力が。
「迫力?ああ、もっと少女趣味に溢れたベッドの方が良かったかしら♪」
いやそうじゃなくて。
「ん〜。じゃあ胸?もっと大きいのが実は好みだったの?」
いやそうじゃなくて。
「じゃあいいじゃない。ねぇ」
その『ねぇ』に淫靡な響きが含まれていて、思わず僕は苦笑いを浮かべたまま――
「んっ♪」
押し倒された。
■ ■ ■
「んむっ、ちゅ、れるっ、・・・ふふふっ♪るる、れ、あむっ」
ん・・・・・・・・・・・・。
先輩の舌が別の生き物のように僕の口の中を蹂躙する。蹂躙。そう、蹂躙と言っていいほど、その舌の動きは貪欲だった。
「むちゅ、れろっれろっ、ちゅっ♪」
柔らかい唇は触れているだけでいつまでもこうしていたいくらいに気持ちがいい。それに加えて久しぶりキスを堪能しようとする舌の動きが、どこまでもいやらしかった。
そんな動きに負けまいと、僕も積極的に舌を絡ませる。
「・・・!んんんっ、ふふっ、ちゅ、ちゅ、ちゅ」
ざらざらとした舌の感触が心地いい。歯茎をなぞられるくすぐったい感覚がたまらない。それだけで、後頭部にぞくぞくとした快感が這い上がってくる。ぴりぴりとした電気的な刺激が、たまらない。
先輩の頬の感触も、お互いに感じる甘ったるい匂いも、全て脳に焼き付けていたい。そんな欲望だけで、僕は先輩の舌へと自身をからめて、唾液を塗りたくった。
べったりと粘ついた、粘液の交換。けれど、その粘液は甘い。味として認識するような甘さじゃなくて、脳がそうだと認識しているような、わけのわからない甘さ。
魔物娘はみんなそうなのか、それとも先輩がリリムという高次の種族だからなのか。それはわからなかったけれど、けれど。
もうそんなことどうでもよくなるくらいには、理性はどろどろと音をたてて溶けていた。
キスをしながら、そっと手を先輩の胸へと伸ばす。しっとりと肌に吸い付いてくると同時に、水風船みたいな弾力が掌に伝わる。その心地よさは、麻薬にも似ていた。病み付きになって、愛しさすら覚えてしまって、手放せない。
「んっ、ちゅ、れるっ・・・もう、おっぱい好きなのね♪」
おっぱいが嫌いな男子なんていませんよと頭の中で返事を返しつつ、さらに指が喰いこむくらいに手の力を強める。自然の弾力に逆らって肌に指が沈んでいく感覚がもう、たまらなかった。
ずぶずぶ。ずぶずぶずぶずぶ。
沼みたいに、羊水のように沈んでいく。シズンデイク。
沈んでいっているのは、きっと指だけじゃない。
「もう、おっぱいの形変わっちゃったらどうするの・・・?」
まんざらでもない先輩の顔を確認して、僕はねっとりとした濃厚なキスを止めた。
そして、そっと赤くなった先輩の乳首を口に含む。
「んんんんんんんっ♪」
口に含んだだけで、嬌声をあげる先輩が可愛らしい。その甘えた声をもっと聞きたくて、ぼくは傷つけないように細心の注意をはらいながら、そっと乳首を甘噛みした。
「んにゃあああぁあぁあぁあああっっっ!!!」
こりっとした歯触りに、ほんの少しだけ口腔に伝わる先輩の匂い。そして耳を劈きそうなほどに大きい先輩の声が、心地いい。
胸も唇も堪能した僕は、とうとう最後の段階まで踏み入ろうとしていた。
穿いていたズボンを乱暴に下ろし、自分自身を曝け出す。先輩も意図を汲み取ったのか、こちらに背中を向けると、四つん這いになり、その豊満なお尻を高々と上げた。
既に下着は脱ぎ捨てられていて、ぐっしょりと愛液を滴らせる女性器が快楽を求めてひくついていた。その様子が扇情的以外のなんでもなくて。
王女の尊厳も何もない。全て踏み躙って文字通り蹂躙するような体位。知性ある動物から繁殖するくらいしかない獣に成り下がる体位。
そんな格好を自分からする先輩に、我慢なんてできなかった。
「ひゃあああぁぁぁああぁああぁあぁぁあああああんっ!!!きたぁ♪久しぶりのおちんちんきたぁっ♪」
うわっ・・・・・・。
挿入しただけで果てそうになるのを、なんとか気力で踏ん張る。先輩の膣内は、入ってきた肉棒に食らいつくように絡んできて、頭が弾けそうになる快感が押し寄せてきた。
その感覚をもっと楽しむために、焦らずじっくりと腰を動かす。その度に、腰を押し出せば子宮口へと誘うように招いてくる肉のヒダが僕を柔らかく包んでくる。腰を引こうとすれば、それを嫌がるようにきつく締まってくるから、どっちの行動をとろうと、快楽の渦に僕は投げ込まれる。
焦らすような動きでも先輩は快感を極めているらしく、さっきからか細い吐息が漏れていた。
ただ、挿入した時の様な大きい声を出すことがなくなっている。だから、僕は。
「んっ・・・!!!!??ひゃあっ♪らめっ♪いきな・・・・・・あぁぁぁぁああぁ♪」
焦らすようなゆっくりとした動きから、思いっきり激しく先輩を突いた。
ごつん。と先に何かが当たる感触がして、頭の中で火花がバチバチと弾ける。ひたすらに感じていたい欲望に逆らわず、ひたすらに自分自身が抜けそうなところまで腰を引いて、そして思いっきり貫くように突く。
単純な動作をリズミカルに。腰の骨と先輩のお尻の肉がぶつかりあう音も、にちゃにちゃと粘着質なまとわりつく音も。何もかもが原始的で、興奮した。
ぞわぞわと腰の奥から何かが、いや欲望が快楽を伴って這い上がってくるのを感じた僕は、さらに激しく先輩の体を貪った。
ずんずん。ずんずんずんずん。
もう既に先輩は突かれる度に短い悲鳴のような声をあげるだけになっていたのだけれど、それが、恋人に抱くにはおかしい感覚かもしれないけれど、無理矢理犯しているようで、・・・・・何思ってるんだろう。
いよいよ頭の許容量を越えた快感が、脳でも壊しているのかもしれない。そう思った。
思ったけど。
「やっ、あっ、あっ、ああぁっ」
なんだっていいや。
「ふぇ?なにいって・・・やぁん♪はぁっ、にゃ、ひゃあぁぁぁああぁ」
スパートへ向けてどんどん荒々しくなる僕の腰の動きに合わせて、声を上げる先輩に答えるように、僕は自分を先輩の子宮口に押し付けると。
「んぁあああああああぁああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」
こみ上げてきた真っ白な欲の塊を吐き出した。
■ ■ ■
気がつくと、僕も先輩も冷房の効いた部屋で汗まみれになって、お互い寄り添うようにして倒れていた。ふかふかの柔らかい感触は、魔力で作られたベッドなんだろうか。
体を包み込む心地いい疲労感に、それを確かめさせるのは少し酷だったので、確かめはしなかったけど。
先輩は息も絶え絶えになりながらも、ご満悦といった様子で、甘えるように僕の体に腕を絡ませてきた。
「ふふふ、ありがとう。久々に幸せな気持ちいっぱいに満たされちゃった」
幸せそうでなによりです。
「うん、本当に久しぶりのエッチだったんだもの。幸せ」
ちくり。と胸に縫い針を刺されたような仮想の痛みが走る。
久しぶり。その言葉が乱反射するようにして僕自身を苛むような気がして。その理由なんて、もうとっくにわかっていた。
約束が、『僕がはっきりと伝えたせいで』先輩が自らした約束が。魔物娘にとっては苦痛になってるんじゃないか。そんな自己嫌悪のぬかるみに、足をとらわれる。
魔物娘にとって、エッチは生きがいで、夫となる男性との性行為が大切なこと。なのに、それに制限をかけて、幸せで束縛するならまだしも苦痛にもなりかねない制約で束縛している。
きっと先輩も、以前のように淫楽の日々を送りたいと、心の底で思っているに違いない。そう思えるのに、僕は未だに言い出せない。
一言、きっと一言で終わることなのに、だ。
「大丈夫」
そんな僕の考えていることを見通すように、先輩が子供をあやすような声で言ってきた。
「つまらないこと考えてるでしょう」
つまらないってわけじゃ。
「ううん。つまらないこと。回数が少ないせいで、辛い思いさせてないかなとか、そんなこと考えてるでしょ」
図星だった。
「私は大丈夫。ちゃんと休日には愛してもらえてるんだし、それにね、いつもエッチしてばっかりだった日より、ずっと楽しい。ずっと嬉しいの」
嬉しい?
「うん、嬉しい。待たされたぶん、愛されてるって実感がわくの。それに、辛いのはあなたも同じでしょ?なら、私も待てるわ。二人で一緒の時間を耐えて、二人で一緒の時間を楽しんで。それって、とっても素敵なことだと思うの。だから、だからね。あなたも、同じ」
あなたも同じ。
僕も同じ。
先輩も同じ。
一つ一つ口にする僕を見て、先輩は少しだけ微笑んだ。
「まだ夏休みは始まったばかりよねぇ。夏祭りに海、肝試しに・・・・・絵。素敵な日を作るわよ」
にっこりと笑う先輩を見ていたら、今まで考えていたことぜんぶ。
罪悪感とか、後悔とか、虚しさとか、そういったもの全部。
どうでもよくなってしまっていた。
その代わり。
先輩と二人であの絵を完成させてみたいなんて、場違いな感傷癖が、僕の中で少しだけ、古ぼけたフィルムのような光景として、浮かび上がった。
鮮明とはまだほど遠いけど、絵筆でいくらでも極彩色にも彩れそうな、そんな光景が。
夏はまだ、終わらない。
15/11/11 22:36更新 / 綴