読切小説
[TOP]
君のことは
 親友兼幼なじみ兼同級生、葛木あげはのことを一言で説明するのなら、彼女はダンピールだった。幼い頃、つまりは僕が幼稚園に通っている時に隣に引っ越してきたお隣さんの一人娘だった。普通の人間の価値観もちゃんとあるダンピールということだけあって、僕とあげははファーストコンタクトからすぐに仲良くなった。やっぱりお互いの根本的な価値観にずれが少なかったのが要因だったと今でも思う。まあ、それ以外にも要因はあるけれども。
 その要因とは、僕とあげはが住んでいるところにあった。決して田舎というわけではないけれど、都会なんて単語に該当させるには巨人のようなビルの群れがない。どっちつかずの中途半端な、所謂、町というやつだった。で、そんな町に同い年の友達はそんなにいる訳ではなくて、自然と僕とあげは悪友みたいになっていた。悪友。
 親友とも言える。いや、親友は冒頭で言っていた。
 お互い友達作りが下手なのも起因して、なにかと一緒に行動していたからかもしれない。
 兎も角、今日も今日とて一緒に行動する例に漏れることなく、町ならではの車が一台通るのがやっとのような広さの道路のど真ん中を二人、堂々と歩いていた。
 季節は秋。
 夏が過ぎ去っても、その暑さはまだしつこく残滓を残していた。僕とあげはは二人、お互い口にアイスを咥えて、のんびりと帰路につく。

「暑い・・・」
「ひょうふぁはいほ。ふぁんはらほほふふへへはふぇほぅふぁ?」
「いや、アイス咥えながら喋らないでしょあげは。何言ってるのかさっぱりわかんないよ」
「しょうがないよ。なんなら僕が涼めてあげようか?」
「う〜ん、僕は遠慮しとくよ。帰ってシャワーでも浴びることにする」
「残念だねぇ。僕の涼みのテクニックはかなりのものなんだけど」
「いや、涼みのテクニックって何」
「全裸になると開放感と涼しさの両方を得られるんだ。効率的だろう?だからほら、善は急げと言うし君も早く」
「誰もしないよそんなの・・・。善でもないしどっちかと言えば、それ確実に悪の部類だよ」
「おっと偏見は良くない。ずっと昔、遥か太古には人間は全裸で過ごしていたんだから。そう考えると、先祖のことを忘れない日本人としては、ご先祖様に倣わないわけにはいかないだろう?さあ早く!」
「いや、早くじゃないよ。何世代前の先祖をリスペクトすればいいの」
「つべこべ言わずに脱ぐんださあ早く!」
「嫌だ」
「二文字で拒否した!」

 こんなやり取りをしながら、僕とあげは。二人でいつも同じ道を帰っていた。アスファルトの縁に雑草が生えていて、自然と人との境界が曖昧に、あやふやになったようなそんな道を。
 まあ、二人いつも同じ道なのは、二人とも帰る方向が一緒なだけなんだけど。当たり前だ。隣に住んでいるんだから。でも、だからこうしてくだらないことを言いながら一緒に歩ける。

「そういえばさ、あげは」
「ん?なんだい?情欲でも催したのかい?仕方ないな、親友の僕が文字通り一肌脱ごうじゃないか。シチュエーションが野外という、中々マニアックな場所になるけどいいかい?」
「君はもう少し自分が女の子って自覚を持ったほうがいいと思うんだ」

 やれやれと肩を竦めて見せるあげはだったけど、竦めたいのは僕の方だった。なんだか、自分の行動を先取りされた気分だ。不愉快極まりない、なんて程じゃないけど、少しむっとしてしまう。
 そんな感情も、歩幅を揃えてあげはと歩いている帰路の数歩の中に、消えてしまったけど。所詮その程度の、むっとした感情だったけれど。

「で、なんだい?そういえばの続きは」
「いや、三連休、何か予定とかあるのかなって」
「三連休ねえ。そういえば明日からか」
「うん。良ければ遊ばない?」
「いいねえ。勿論」

 即答だった。
 三連休。とっても甘美な響きを感じるこの言葉が純真無垢のような存在に見えたのは、学校の模試の日程に潰される時までだったけど、今回の三連休は純粋な三連休だった。学校の予定もなく、特にこれと言って僕自身入っている予定もない。本当に本当の何も無い三連休。
 そんな日に遊びたいと思うのは、決して罪なことじゃないだろう。

「で、何して遊ぶんだい?」
「今度出る新作のゲームさ、予約したんだ。よければ一緒にやらない?」
「喜んで。泊まりでいいかい?」
「うん」

 泊まり、というと異性が同じ屋根の下で一晩を過ごすなんて不健全極まりない!と誰かが告げ口をしなくても(告げ口をするような友達がいないけれど)PTAが騒ぎそうだが、そこは幼なじみ。
 そういうデリケートな気遣いは無用だった。いや、これはあげはにとっては微妙なのかもしれないけれど。
 少なくとも、間違いが起きることはない。あげはが言っている品のない言葉の大半は冗談だし、間違ってそんな展開が起きようとも、僕が我慢するか、その場から逃げればいいだけだ。
 二人で三連休の過ごし方の段取りを決めている内に、僕達の家は目の前にあった。本当にすぐ傍にお互いの家があるから、お別れ、なんて気がしない。
 二人、自分の家に帰宅すると、まず僕はすぐさま二回に上がると、自分の部屋の、ベッドのすぐ傍にある窓の鍵を開けておいた。理由はとても単純だけど、今説明するほどのことでもないだろう。三連休という夢のような期間を楽しむためには、学校から出された課題もしっかりとやっておかなきゃならない。流石に課題を放棄してまで夢のような期間を享受しようとは思わない。
 そんな訳で、まずは国語の課題から手をつけようとして、

「やあおまたせ」

 しかしそれはあげはの来訪によって拒まれた。
 思ったよりも説明する時が早く来たけど、まぁご覧の通り僕が窓を開けたのはあげはがこうして窓から僕の部屋に入れるようにするためだった。屋根伝いに部屋を行き来できるようなお隣さんならではの移動方法だ。
 そう、お隣さんと行っても、物理的にも僕とあげはの家はとても距離が近い。屋根ならちょっと勇気を振り絞れば相手の部屋にいけるくらいの距離だ。傍から見れば泥棒か何かと勘違いされそうだ。セキュリティ面でも大丈夫なのかと言われそうだけれど、そもそもそんな一家なら僕は仲良くなっていない。
 と思うのは、偏見だろうか。

「おやおや真面目に課題なんてやって・・・。なんのための三連休だい?」
「いや、ちゃんと課題はしとかないと」
「相変わらず君はお堅いねえ。下半身はそうでもないのに」

 とんでもない暴言を吐かれた気がする。いや、確かにお互い小さい頃には一緒にお風呂に入って・・・その、大事な部分も目にしたかもしれないけれど。確かに僕の性機能は未発達だったかもしれないけれど。
 いや違うそういうことじゃなくて。というかどこまで記憶をフラッシュバックさせているんだ、僕は。

「ほらほら、お堅くならずにリラックスしなって。あ、ごめんふにゃふにゃだった?」

 悪友というのは、悪鬼のような友人の略ではないのかと思えてきた。
 挫けそうになった心をなんとか繋ぎ止め、なんとか返事をしよう。

「課題はやらなくちゃダメだよ。あともう少しあげはは恥じらいを持った方がいい」
「そんなもの産まれたときに捨ててきたね!」
「それを捨てるなんてとんでもない」
「いいかい?よく考えるんだ。そもそも人間も魔物も、生まれた直後から衣服を着こなしているのかい?いいやいない。そもそも衣服を着ることから恥じらいというものは生じてくるんだよ。衣服を来て、文化的な集団生活の一部に自身を組み込むことによって、そこで初めて恥じらいというものが生まれてくるんだ。つまり生まれた時にはみな恥じらいなどない状態で生まれ、そして僕はその時に恥じらいを拾わずにそのまま育っただけのことなんだよ!」
「今すぐ母胎に戻って拾いなおして来たほうがいい」
「冷静な突っ込みありがとう。おかげで一人空回りした気分だ」

 僕とあげはの仲のよさを分析するなら、きっとこれも、要因の一つなんだろう。
 僕とあげははファーストコンタクトからすぐに仲良くなった要因の一つ。あげは、彼女は、あまり喋らない。
 と言うと嘘をつけと否定されるのだけれど、これは本当のことだ。もっと踏み込んで言うのなら、僕以外とあまり喋らない。
 彼女は、友達がいない。
 僕以外。
 普通の人間の価値観もちゃんとあるダンピールということだけあって、普通の人間みたいな悩みを抱えてしまっていた。友達ができないという悩みを。

「ところでどうだろう。冷静に突っ込んでくれたのだからいっそのこと下半身の方にも突っ込んでは」
「何一つ上手いこと言えてないし、もうおっさんの下品な台詞にしか聞こえないよ」
「おっさんにおっぱいはない」

 だから、こんなくだらない会話でもあげはは本当に楽しそうにする。こんな顔を普段の学校生活ではあげはは全く見せることがない。信じられないだろうけど、能面のように変わらない無表情で日々を過ごしている。
 そんな彼女が目まぐるしくころころと浮かべる表情を変えるのは、僕との会話だけだった。それも、二人っきりの時だけ。あげは曰く、そんな表情を見せるのは、恥ずかしいらしい。それなら僕との会話も恥ずかしいんじゃないかと思ったけれど、それは考えてみればわかることだ。
 もう、お互い気をつかわなくても済むような年月を過ごしているんだから。小さい頃から学校生活まで。十何年。ちょっとした夫婦が離婚するよりも長い。例えが悪いけれど、僕の少ない語彙で説明するならそうだった。
 だから、その僕と過ごした年月がきっとあげはをほぐしたのだろう。気の許せる相手の前では、色んな顔を浮かべてくれるくらいに。
 ただ、それはいいことばかりじゃない。

「さて、それじゃあ一緒にお風呂に入るとするか」
「突っ込みどころはどこなの?」
「もう突っ込むとは、・・・。さすがに学生となると性欲旺盛なのはわかるけど、少し待ってくれるかい?身体を洗ってからの方が情事は盛り上がるというものだからね」
「いやそうじゃなくて」
「まさかここで強引に押し倒そうと!?いや・・・君を誤解していた。草食系の皮を被った肉食系だったと言うわけか」
「だからそうじゃなくて」
「ふむ、なら突っ込む場所の話か。生憎僕の頭には口、お尻、性器と三つしか場所が浮かんでこないけど、君のことだ。かなりマニアな場所を選ぶのだろう!このややこしいやつめ!」
「ややこしくしてるのはあげはだよ」

 あげはからは、いつの間にか僕に対する遠慮がなくなっていた。それこそ、今の会話で十分わかるだろう。女子が男子相手にする話じゃない。と、友達が少ない中での精一杯の一般常識を振り絞って、そう思う。
 そこら辺を、もう少し自重するようにとあげはには口が酸っぱくなるほど言っているけれど、なかなか聞いてもらえない。
 気持ちはわからないことはない。あげはにとっては、きっと素の自分というものを曝け出せるのがこの僕といる時間なんだろうし、それすら制限されるのは、たまったものじゃないんだろう。自分が曝け出せないことは、結構ストレスが溜まるものだ。
 でも、だからと言ってそれを抑えない訳にはいかない。あげははきっと意識をしていないんだろうけれど、僕だって性別上男だ。頑張って自制はしているけど、それでも時々手を出しそうになる。それくらいに、あげはは僕に対して無防備だった。
 いつまで経っても僕と風呂に入ろうとして、時々抱きついてきて、僕がいるのに着替えようとして、下ネタばかりふってきて。何度その誘惑、もとい無防備な姿に抗ったかわからない。そんな苦しみ、あげはにはきっとわからないのだろうけど。

「う〜ん、なら目隠しして入ろう」
「余計に倒錯的な絵になるよ」
「はあ、冷たいね。まあいいさ。前もってお風呂には入ってきたし」

 なんで誘ってきたんだ。
 いやそれよりも、僕の記憶が正しければ、お互い家に帰ってすぐにあげはは僕の家にやってきたはずだ。あげはの入浴はカラスの行水を上回るとでも言うのだろうか。
 と、その発言を聞いてから、微かにだが、錯覚ではない確かに香るシャンプーの臭いに気がついた。人工的な、甘い香り。毒にも似たその香りが、蠱惑的で、意識しないようにしても、無理矢理僕の視線をあげはへと縫い付ける。
 小さい頃以来、見ていないあげはの身体。
 服の上からでもわかる、大きな胸はその存在感たるや尋常ではなく、窮屈そうにしているその様子を見ると、あげはの着ている服が拘束用のそれではないのかと思えてしまう。そしてその胸とは対照的に美しい流線型を象った腰のライン。そしてまた存在を堂々と知らしめるその臀部。
 きっと、世相万端、隅から隅まで評価は満点をつけられるだろう、その身体。
 魔性とも言えるようなその身体つきから、必死に視線を逸らして僕は参考書の何ページかを注視した。いつもなら理解できるはずの数列の意味が、今はわからない。

「どうしたんだい?やけに熱い視線じゃないか」
「どうもしないよ」
「いや、参考書をそこまで凝視しといてどうもないはないと思うんだけどね?」
「どうもしない」

 参考書を注視していても、鼻腔にくぐもったように留まる香りのせいで落ち着かない。少しでも意識してしまった、あげはの身体が脳裏を過ぎって落ち着かない。
 心なしか、身体が熱い。微熱を孕んだようなそんな言葉にできないものが、腹の底で蠢いているのがわかる。最悪の事態にだけはならないように、それが上手い具合に自沈してくれることを、ひたすら参考書を眺めながら祈っていたけど、自分の衝動を御し易いはずもなく。
 やがて、下半身に嫌な熱が集まっていくのがわかった。
 まずい。
 直感だけで素早く立ち上がり、部屋から出ようとしたが、しかしそれは素早く僕の手を掴んだあげはによって阻止された。幸い、あげはが僕の手を掴んだ時には僕はもう後ろを向いていたので、生理現象を見られずに済んだ。

「おいおい、そんなに慌ててどこ行くんだい」
「お風呂」
「いや、それにしてやけに顔が赤いじゃないか。熱でもあるんなら無理しちゃいけない」
「大丈夫だよ」
「僕には全然大丈夫には見えないね。熱じゃないと言うならなんなんだい」
「ほんと、大丈夫だからさ」
「つれないね、これでも僕らはそれなりの仲だと思っていたんだけど、それは僕の早とちりだったのかい?」

 違う。それは違うと言える。言えるけど今は一刻も早くこの部屋を立ち去りたかった。

「何か嫌なことでもあったのかい?よければ話してくれ。僕でも力になれるはずだ」
「わかった、話すから放してよ」

 話すのは、適当な嘘だけど。

「だめだ、逃げるだろう。放す前に話してくれないと」

 今日のあげははいつもよりしつこい気がした。

「むう、だんまりとは面白くない。それになんで背中を見せたまま会話してるんだい。奇妙なことこの上ないよ。話す時にはお互いの目を見て話すのが常識だろう。君が動かないなら僕が動こう」
「あっ・・・」
「・・・?あっ」

 あげはの視線は一点に注がれていた。主に、僕の下半身に。沸騰したような血液が一気に頭に上ってきて、思考ができない。違うんだよ、そうじゃないんだ。そう言いたかったけど、僕の口から出るのは乾いた呼吸音がただ漏れるだけだった。
 幻滅されてしまっただろうか。それとも呆れてしまって言葉も出ないんだろうか。もう、どっちでもいい。どっちでもいいから、早く何か言葉を口にして欲しい。罵倒でも、嘲笑でも、揶揄でもなんでもいい。
 そう思っていたけれど、あげはが発した言葉はそのどれでもなく、僕の予想を、想像を遥かに上回るものだった。

「・・・・・・・嬉しいよ」
「へっ?」

 嬉しい?親友の姿を見て、勃起しておきながら、それを嬉しい?怒りや呆れやら悲しみやら、負の感情でもなんでもなく?

「やっと僕のことを女として見てくれたわけだ。今まで散々誘ってきた甲斐があったと言うものだよ。そうとなればさあ、善は急げだ。さあさあ!」

 あげはが、僕の親友が今まで見たことがない獰猛な表情をしていた。それはきっと、獲物を目の前にした猛禽類のそれによく似た・・・。
 そして猛禽類も平伏すような勢いであげはは僕に飛び掛り、押し倒して服を強引に脱がしてきた。

「ちょ、へっ、え!?」
「大人しくするんだ。もうこの展開はみなまで言うものじゃないだろう!」
「言いたいよ!どう言うことなのあげは!」

 そこであげはは、ぴたりと動きを止めた。止めただけで、押し倒したこの体勢から解放する気はさらさら無いらしいけれど。
 けれど、その表情はさっきまでの猛禽類のような表情とは違い、真剣そのものだった。意を決したような、そんな顔。

「君は、本当に鈍いね」
「・・・?」
「僕はなんだい?」
「し、親友」
「それ以前にもっと根本的なものでだよ」

 根本的なもの。あげは。悪友。幼なじみ。
 ダンピール。
 ・・・魔物。

「いくら僕が人と同じ価値観も持ってるからって、だからっていつも一緒でいて、何もないわけがないだろう」
「・・・発情期?」
「そうとも言い換えれるかもね。ずっと前からだけど」
「・・・ずっと前?」
「出会ってから」

 出会ったとき?
 僕とあげはのファーストコンタクト。引越ししてきたお隣さん。お互いに友達が作れず、いつも一緒だった。そう、いつも。
 いつも。

「まだわからないなら、言ってしまおうか?最初に出会ったときから、君のことが好きになったんだよ。好きで、好きで、好きなんだ」
「・・・あげ、むぅっ!?」
「んっ、んんっ♪ちゅ、ふふっ♪」

 何かを言おうとした僕の口をキスすることで強引に封じたあげはは、そのまま舌を滑らせるようにして口内に舌を入れてきた。
 そして、あげはの手が僕の両耳をぴったりと塞ぐ。すると。
 ぴちゃ、くちゅ、ぺちゃ、ちゅぷ。

「っっっっ!!!!」
「・・・♪」

 脳に、鼓膜に、細胞に染み入るような、唾液がかき混ぜられる音が響いてきた。舌の細かい動きにも唾液は音を立て、その度に僕の頭にそれが響く。残響する。
 馬鹿らしい。何が間違いが起きたら我慢か逃走か、だ。
 どちらも、できるわけがない。
 キスしながら、こんなに幸せそうな顔をするあげはを見て、逃げることも、我慢することもできるわけがない。何より、ずっとあげはの気持ちに気づかなかった僕がそんなことを言う資格が、あるはずがない。
 ごめんとは言わずに、僕はそっとあげはの大切な場所を撫でた。ぴくんと可愛らしく身体を一瞬震わせたあげはだったけど、その意図を察したのか、すぐに蕩けた笑みを浮かべた。

「意外とせっかちなんだな、君は」
「もう準備できてるくせに」

 どの口が言うのだろう。ついさっきまであげはの気持ちなんて知らなかったくせに。でも、きっと、こう言った方があげはは喜ぶはずだ。
 今までずっと堪えていたんだから、それなら僕は。

「入れるよ」
「ふふ、急に積極的になったね。やっぱりこういうことと普段の態度は別物なのか・・・んんんっっっっ!!!!」

 初めて入るあげはの中は、未知の感覚だった。ぬるぬるとした肉の襞が、入ってきた異物をさらに深く深く、ずっと奥へと誘うように吸い付いてくる。
 敏感な粘膜同士の触れ合いがもたらす快感は、僕が想像していたものよりもずっと大きくて、ずっと凄かった。
 腰をゆっくりと抜くように動かす度に、柔肉は竿に纏わりついて、裏筋もカリも尿道もくまなく刺激を与えてくる。逃さないように吸い付いてくる肉壁を強引に掻き分けるように、今度は思いっきり腰を突き出すと、また、あの奥へと誘うような快感が竿を刺激する。こつんと先端に何かがあたる感覚がして、それと同時に、ひゃうん、とあげはが可愛い声を上げた。その声に嗜虐心を掻き立てられて、僕は腰の動きをさらに激しいものにする。
 喘ぎ声と、水音と、切羽詰った息遣いだけが部屋に響く。

「んあぁっ、いい、おまんこいいっ!!!」

 あげはの口からそんな言葉が出てくる度に、僕はさらに膨張していく下半身を、無造作にあげはに打ち込んでいた。背中を反らしてびくびくと震えるあげはを見ても、まだ衝動は止まらない。深々と挿入している自分自身の動きにも変化をつけて、浅いところで何度も獣のような腰使いで犯して、深いところをじっくりと焦らすような動きで愉しんで。
 そんな動きに連動して、あげはの嬌声は僕の耳に届いて、さらに興奮を高めた。
 そして、僕はとうとう限界に近くなってきていた。

「あげはっ、そと」
「だめぇっ♪中でないと、ゆ、ゆるさないっ♪僕を待たせたば、ばちゅなんらぁ♪」

 呂律も回っていないあげはが、がっしりと僕の腰を足で押さえ、逃げ場所はなくなっていた。
 尿道を伝って噴出す欲望が、あげはを中から蹂躙するのを、確かに僕は残っていた少ない理性で感じていた。
 みっともなく、腰を何度もびくびくと震わせて、目の前の雌に種付けでもするかのようにしながら。


■                 ■                ■


 お互い精魂尽き果てた時には、もう空は真っ黒になっていた。一回目の射精の後からずっと、僕とあげはは必死に求め合うようにして狂ったようにまぐわっていた。
 その結果が、息も絶え絶えになったこの現状だ。
 でも、悪い気分じゃない。

「君が・・・あそこまで激しいとは思っていなかった・・・・・長い付き合いでも、わからないことがあるものだね」
「そう・・・・・・・・・・」
「・・・ずるいと、思うかい?」
「な、なにが?」
「こうやって身体を武器にして、無理矢理セックスしちゃった僕のことをだよ」
「・・・思わない」
「そうかな?結構、我ながら強引だったとは思うけど」

 ずるいのは、きっと僕の方だ。その場の勢いに身を任せて、あげはの身体を貪った。

「思わないよ」
「・・・そう。君が言うならそうだね」
「そうだ」
「・・・夏は海に行って、冬はクリスマスとして、春はお花見。秋は行楽シーズンだから、やるべきことはたくさんあるねえ」
「まずはどれから?」
「そうだな、とりあえず・・・」

 そう言って、あげはは、目を閉じて唇を突き出した。

「今は、もう一回キスして欲しい」
「うん」
「んっ・・・」

 短いキスが終わって、あげはは再び目を開く。

「君は何か言いたいこととか、ないのかい?」
「なんで」
「なんでって、君にも言い分とかがあるんじゃないかと思ってさ」
「・・・そうだなあ」
「あるならもったいぶらずに言いたまえよほらほら」
「あげは」
「ん?」
「今まで酷くて、ごめん。・・・こんな最低な僕だけど、僕は」
「ストップ。・・・まったく君らしいと言えば君らしいけど、もう少し男気溢れる言葉でもいいじゃないか。言っただろう。僕はそんなこと気にしちゃいないのさ。好きなんだから。それでも気にするなら、そうだな・・・・・今日はこのまま手を繋いで寝てくれるかな」
「うん、わかった」

 そう言って、ぼくはあげはの手をしっかりと握った。温かくて、柔らかな、女の子の手だった。僕の手の感触を確認すると、あげはもしっかりと僕の手を握り返してきて、それから少しだけ微笑んだ。

「おやすみ」
「おやすみ」

 あげはの思いに今まで気づかないでいた僕からすれば、こんなの容易いことだった。この親友のことだ、結局、結婚まで進んでいくんだろう。でも、それでいい。自分の身体には、まだあげはのぬくもりが残っている。情熱的で、野性的だったさっきまでの熱が。その中で、何度も僕の名前を呼んで、嬉しさで涙まで流した君を、裏切ることなんて出来ないし、しない。
 だって、そうだろう。
 僕だって、君を好きになったんだ。君と比べると、もう月とすっぽんくらいの年月の差があるけれど。それでも。
 目が覚めたら、あげはに、この恋人になんて言おう?
 そんなことを考えながら、僕は小さな決心を胸にして、眠りに付いた。
 目が覚めたら、あげはに、言い返してやろう。
 僕だって、好きで、好きで、好きなんだ。
15/11/11 22:35更新 /

■作者メッセージ
そんなお話でした。楽しんで頂ければ幸いです。
青春してるものを書く度に僕のライフゲージが真っ赤になっていってる気がします。主に真っ暗だった青春時代を思い出しry
また糖分が(たぶん)多いのでエスプレッソでも飲みながらどうぞ。
連載のドラゴンはもうちょっと待ってください(小声)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33