読切小説
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とろけて、ぼくはうまれかわった


 今夜、ぼくは死ぬことにしました。

 丸い月が浮いている静謐な夜に、一人でこっそり、生き恥を晒し続ける人生に止符を打とうと考えたのです。
 家の近くの暗い森。その一番深くまでいって、太い幹の大樹の枝に持参した縄を括り付けます。頑丈な荒縄の輪っかは、地面に置いたランタンの灯りに照らされながら、ぷらんと宙に浮かんでぼくを見下ろしました。
 一番太い枝を選んで結びつけたので、途中で解ける心配はないでしょう。

 思い残すことはありません。
 あとは一思いに首を輪にかけるだけ。
 なのにぼくは震えていました。この後に及んでまだ、生への執着があったのです。
 灰色の人生でも、今際の際には幾らかの後悔を思い浮かべてしまうようです。


 ぼくは愚かな男でした。
 生まれてからずっと今に至るまで。
 間抜けで、愚鈍で救いようの無い阿呆でした。

 ぼくの生家は裕福な商品の一家でした。
 食べるものに困った事はなく、着る服も十全で、きちんと勉学を学ぶ暇もありました。ぼくは恵まれていました。
 けれどその幸運に報いることはできなかったのです。

 兄は数才と優れた判断力をもって、家業を一層大きくしました。
 姉は剣の才に恵まれ、男勝りな性格で騎士団に入りあっという間に隊を率いるまでになりました。

 ぼくは二人の背中をただじっと見つめていました。
 ぼくには何もありませんでした。
 兄のような怜悧も、姉のような屈強も、持ち合わせてはいませんでした。
 勉学も運動も、商才も芸才も、篤実な人格も、何一つとして無かったのです。

 それなりに努力をしました。けれど、それなりしかできませんでした。
 どんなことも長続きせず、結果は出せず、時間と労力と金銭だけをいたずらに消費するばかり。

 そんなぼくを兄姉は、家族は、優しく見守ってくれました。
 きっとお前にも一つくらいは良い所があるはずだ。と、慰め励ましてくれました。
 春の光のように優しく、温かな心がぼくの周りには沢山ありました。

 それが、ぼくには、何よりも辛かったのです。
 慈愛に満ちた眼差しが、優れた者が愚者を見下す視線が、ぼくへ鋭い槍のように突き刺さったのです。

 皆、ぼくを見捨てないでくれました。でも時折、落胆と軽視がその瞳に現れていました。
 役立たずのぼくは、彼らのお荷物なのだと。その目が雄弁に語っていました。
 彼らの本心はわかりません。ぼくの歪んだ思考がそう思わせているだけなのかもしれません。

 けれど、ぼくは心が折れてしまいました。
 ぼくの脆弱な精神はそんなことにすら耐えられなかったのです。
 無能な自分が、優しい家族が。
 その優しさを疑うようになった性根が、何よりもぼくの心を砕き、腐らせました。

 生きていくことが億劫になり、死の安らぎに想いを馳せる。 
 そんな時間が多くなって、遂に僕は腹を括り、この世界から消えてしまうことを決断したのです。


 夜風が吊るしたロープを小さく揺らしています。
 薄暗い思い出に浸っている間に、ぼくの震えは止まりました。これならば躊躇する事はないでしょう。

 ぼくは輪を掴み、つま先で立って、それを首にかけようとしました。
 首の皮に硬い縄が触れます。輪に頭を通して、腕の力を抜けば、全ては終わることでしょう。
 死出の旅までは少し苦しむことになりそうですが、それもこれから生きていくことへの倦怠と苦痛に比べれば微々たるものです。

 これで、終わる。楽になれる。
 ぼくは手を縄から離しました。

 なのに、どうしてか。
 ぼくの首に縄は食い込まず、ぼくの身体は夜の闇の中に浮いていたのです。

「──ダメよ、そんなことをしては」

 ぐちゅぐちゅ。音がします。
 ぼくの身体は柔らかいモノに包みこまれていました。
 脇の下から2本の細い腕が伸びてきて、ぼくをきゅっと抱き締めます。
 ランタンの光がぼくの身体を照らすと、無数の黒い触手が手足に蛇のように絡まっているのが見えました。

「死んでしまったら、すべて消えてしまうわ。それはとても悲しいこと。そしてとても、もったいないことよ。喜びも、悦楽も。アナタはまだ、味わい尽くしてはいないでしょう?」

 右の耳に声が聞こえてきました。
 艷やかな女の人の声です。熱い吐息が耳たぶに触れ、ぞくりと背中が震えました。

「絶望に満たされたあなた。かわいそうなあなた。死を選んでしまうくらい、自分が嫌いなあなた。だからこそ、愛おしい人」
 
 ぐちゅぐちゅ。音が響いてきます。
 ぼくの身体は余す所なく、暗い色の触手に絡め取られていました。
 何本ものうねる触手が、ぼくの肌の上を這い回ります。服の中に入り込み撫で回してきます。

「私が教えてあげる。あなたの空虚を快楽で埋めてあげる。だから、ね。私にその身体を預けて? たくさん気持ちいいことしてあげるから……♡」

 蠱惑の囁きにぼくは頷くしかありません。
 これは夢なのでしょうか? 死の間際の人間が見ている淫猥な空想なのでしょうか?
 魔物の沢山の手足が巻き付いた身体を見下ろしながら、しかしてぼくは恐怖や嫌悪を覚えること無く、夢の中を揺蕩うような心地よさに包みこまれていました。

「ふふっ。いい子ね♡ そう、そのまま、私に身体を預けて。私のことは寝具だとでも思ってくれればいいわ。柔らかくて、気持ちいいベッド。寝そべるあなたを受け止める存在。ほら、力を抜いて、リラックスリラックス♡」

 彼女に言われるがまま、ぼくは手足を投げ出して背中を預けてしまいました。
 ぼくの体重はすべて彼女の肢体と触手に吸われてしまいます。

 触手から滴るぬるぬるの体液が、ぼくの身体に塗りたくられ、その度に蠢く触手達は艶めかしさを増していきます。

「じゃあ、早速始めましょうか。あなたも待ち切れないみたいだしね……♡」

 触手がぼくの太ももを撫でました。
 柔らかく弾力のある先端が、つうと肌の上を登っていき、股の付け根をくすぐると、熱を持って硬くなっていたぼくの陰茎に巻き付きます。

 ぐちゅり。と粘液で泡立つ触手がぼくの勃起を絡めとり、ゆっくりと動き出しました。

「ああ、すごぉい。あなたのおちんちん、こんなに立派に膨らんで……熱く、張り詰めてる♡」

 彼女は陶酔の熱い息を、ぼくの耳元で漏らしました。
 触手がゆっくりとぼくの肉茎をしごきます。そのストロークの心地よさに、ぼくは何度も震えました。

「おちんちん、ぴくぴくって動いてる♡ 私の触手、気持ちいい?」

 彼女の問いにぼくは頷きを返しました。
 頭の奥が痺れて、思考が上手く回りません。元から愚鈍であったぼくの脳みそは、彼女の与えてくる甘美な刺激に打ち震えることしか出来なくなっていました。

 さっきまで死ぬ事だけを考えていたのに、今では彼女の刺激から逃げ出そうとも思えません。
 僕の身体は、屹立をゆるく締める触手の感触に、ただ悶えているだけでした。

「そう、気持ちいいのね♡ よかった。あなたが悦んでくれて私も嬉しいわ。愉しくなって、もっとシてあげたくなっちゃう♡」

 彼女は僕の右の耳を優しく食みました。
 唇が耳の穴にくっついて、淫靡な声が直接鼓膜を揺らします。
 彼女が操る触手は、どんどんぼくを飲み込んで、ぼくの身体はもう、硬くそそり立つ肉棒以外見えなくなってしまいました。

 ぐちゅぐちゅ。ぼくの全身を触手達が舐め回します。
 足の指を、脇の下を、へその穴を、なぞるように触手が優しく撫でます。
 その刺激と快楽に跳ねた肉竿には、幾本もの触手達がへばりついて常に蠢いていました。
 亀頭を巻き付いた太い触手が、きゅっと締め上げ吸い付きます。その下には細い触手達が何本もいて、絶妙な力加減で竿を搾り続けます。
 膨らんだ陰嚢はぬめる触手に揉まれ続け、下半身から送られてくる法悦の感覚に、ぼくの脳髄はすっかり焼かれてしまいました。

「あはっ♡ おちんちん、すごいビクビクし始めた。射精、しちゃいそう? おちんちんの先から精子ぴゅーって出したい? 私の触手の中で、気持ちよく果てたいでしょ?」

 彼女は妖しく尋ねてきます。ぼくは頷くしかありませんでした。
 触手達の愛撫で溜まった熱が、出口を求めてぼくを苦しめていました。早くコレを吐き出さなければ、気が狂ってしまいそうです。

「うふふっ。素直なお返事ありがとう。快楽に悶えるあなたの顔、さっきまでの虚ろな表情の何百倍も素敵よ♡ だから……」

 触手が激しく蠢きます。
 その振動、感触、刺激。すべてがたまらなく気持ちいい。我慢など出来そうもありません。
 
「いっぱい射精して? あなたが絶頂を、悦楽に浸る淫靡な声を、私にたくさん聞かせてね♡」

 声に誘われるまま、ぼくは昇天しました。
 びくんと肉茎が跳ねて、白濁の体液を吐き出します。
 快楽に悶え、苦悦にぼくは呻きます。
 自慰行為なんて比べ物になりません。彼女の触手はぼくの性感を弄びながら、射精の悦楽を無理矢理引き伸ばそうとしてきます。

「ああ……すごい♡ 熱くて、濃厚な子種が噴水みたいに噴き出してる……♡ ふふっ。ほーら、びゅっびゅー♡ いっぱい射精する偉いおちんちん、いっぱい扱いてあげる。嫌なことも辛いことも忘れて、ただひたすら気持ちよくなって……♡」

 陰茎に巻き付いた触手がさらなる吐精を促すようにゆっくりと上下に動きます。
 陰嚢が触手に揉まれ、その激しい催促に屈するようにぼくの身体は子種を飛ばし続けました。

「ああ、ああ……♡ あなたのその顔、その快楽に蕩ける瞳が見たかったの。虚ろなあなたも素敵だったけど、私の手の中でどろどろになっていく様は比べ物にならないくらい素敵よ♡ こんな甘い精の匂いを嗅いでしまったら、私もどうにかなってしまいそう」

 長い時間止まらなかった射精が、ようやく終わろうとしています。
 未だ巻き付いた触手の中で、ぼくの陰茎は弱々しく最後の汁を吐き出しました。彼女の触手はそれも今まで出した精液も、残さず触手に絡めて食べてしまいます。

「はぁ、はぁっ♡ この味、この匂い。甘美で、極上のオスの精……♡ ぜんぶ、ぜんぶ私のものよ。一滴たりとも、零さない。残らず、私のナカに……♡」

 黒い触手の上にあった白濁の雫は、いつの間にか綺麗になくなっていました。
 触手達はぼくを一頻り撫で回すと、ゆっくりと身体を地面に降ろしてくれます。
 ぼくは振り返りました。ランタンの弱い光が、闇の中に浮かぶ彼女の顔を照らします。

「ふふふ。すっきりしたところで、改めて挨拶をしましょうか。はじめまして。さっきはいきなり襲ってしまってごめんなさい。でもお兄さん、すぐに止めないと死んじゃいそうだったから。ちょっと強引にアプローチさせてもらったわ」

 うねうねと蠢く触手は、彼女の身体から生えていました。
 その姿は人間ではありません。よく似た顔、身体をしていますが薄い紫色の肌と無数の触手を見れば一目瞭然です。

「まあでも、気持ちよかったでしょう? 私たちはそうやって殿方から精を貰って生きているの。だから人間の女の子よりずっと上手なのよ? こういうこと♡」

 おそらく彼女は魔物娘。
 人間の精を啜る淫魔の一人でしょう。

 猫のような丸いツリ目。暗い色の頭髪はよく見ると触手のようで、ぬらぬらと粘液に濡れながら妖しくうねっています。
 肢体は髪と同じように粘液で濡れていて、丸みを帯びた女性らしい色香が、さらに濃くなっています。
 魅惑的で、美しく。昏い、抗い難い情欲の香りが彼女からは漂ってきていました。

「さて。私としては沢山精を頂けたし、お兄さんも元気になったみたいだから、このままサヨナラしてもいいんだけど……」
 
 ちらりと彼女がぼくを見やります。
 その艷やかな視線に射すくめられたぼくの目は、濡れた唇を、紡ぎ出す言葉を、夢中になって追いかけていました。

「……お兄さんはまだ、私とシたい? きもちいいこと……♡」

 くすりと彼女が笑います。
 ぼくはほとんど無意識に、首を縦に振りました。ぼくは彼女の官能の虜になっていたのです。

「そう。……うふふ♡ ならシましょうか。私ともっと、もっと。ふかく、繋がりましょう?」

 彼女は笑みを浮かべたまま、両の足を開きました。背中の触手に支えられ地面から浮いたまま、ぼくに股座を見せつけてきます。

「ほら、ここ♡ ここに、私のおまんこに、お兄さんのおちんちん入れるの。触手よりもずっときもちいいわよ……♡」

 彼女の指が、その孔を広げます。
 ぐちゅり。と、音を立てて空いた孔は透明な体液でしとどに濡れていました。
 薄いピンクの花弁が、ぼくを誘うようにひくひくと動いています。

 なんとも魅力的で、淫靡な光景なのでしょう。
 ぼくは夢遊病者のように、あるいは光に誘われる蛾のように、ふらふらと彼女へ歩み寄ります。

「遠慮はいらないわ。あなたの思うがまま、好きなように。私を犯して、精を吐き出して……♡」

 ぐちゅり。と粘り気のある水音が鳴ります。ぼくの陰茎の先端が彼女の孔の入口に触れました。
 それだけで射精してしまいそうなほどの快感でした。湿潤で熱を帯びた肉の壁は、硬い勃起をすんなり飲み込んでいきます。
 温かな底なしの泥濘に腰を突き入れている、そんな感覚と共に耐え難い甘美な刺激が僕の下半身に広がりました。

「ああんっ……♡ 一気にぃ、奥まできたぁ……♡ 硬いおちんちん、勃起したあなたのおちんちん。とっても素敵よ……♡」

 ぼくは、また彼女に抱擁されました。 
 陰茎が根元まで入り込むと自然と身体は密着した状態になります。ぬるぬると心地よい粘液に塗れながらぼくも、彼女の腰を抱き締めました。

「はぁ、はぁ……♡ んっ、ちゅぅ。むぅぅ……♡」

 お互いに硬く繋がりあったぼく達は、口づけを交わせました。
 唇を合わせ、開いた隙間から舌を入れ、舌を絡ませ吸い合います。

 ぐちゃくちゃと音が口の中で響きます。
 官能の刺激が頭を蕩けさせ、没我の快楽にぼくは沈んでしまいました。

 この森に来た理由も、枝にかかった縄のことも、灰色の人生のことも。
 今のぼくには考える余裕なんてありません。
 ただひたすらに、彼女の身体を味わいたい。その一番奥で精を吐き出したい。

 そんな獣欲にぼくは支配され、彼女との激しい交尾を開始しました。

「あっ、んぅ……。いいわぁ……♡ そうよ、そうやって腰を振っておちんちん、ずぼずぼするのよぉ……♡ 私のおまんこにぃ、硬いおちんちん、いっぱい擦り付けてぇ……♡」

 彼女は恍惚の表情を浮かべ、ぼくの耳元で囁きます。
 ぼくの腰は彼女の誘惑に逆らえず、更に激しく抽挿を繰り返すようになりました。
 解けた肉の壁は突き入れる度なねっとりと竿に纏わりつき、腰を引くぼくの動きを許しません。それを無理矢理引き剥がしながら、痺れる快楽をこらえて、ぼくは彼女を犯します。

「はぁ、ぁぁっ。んっ、あぁぁっ……♡ いいっ、いいわぁ……♡ あなたの目、情欲に濡れた熱い瞳……♡ 肌に滴る汗も、んんっ……。火照る身体をもぉ、あっ、あぁ……♡ すべて、ぜんぶ、私のものよぉ……♡」

 触手がまた、ぼくの身体に纏わりついてきます。
 ぬるぬると皮膚の上を這われる感触に、ぼくはもうすっかり虜になっていました。彼女の愛撫の心地よさは、ぼくの空虚な心を埋めてくれます。ぼくを慰め、満たしてくれます。

「あらぁ……♡ おちんちんが、ぴくんぴくんって震えてるわよぉ……。もう、我慢できない? 私のおまんこに射精したい……?」

 ぼくの限界は容易く彼女に悟られてしまいました。
 勃起した肉竿は一層激しく彼女のナカで弄ばれ、爆ぜそうなくらいに膨らみます。
 腹の奥から、陰嚢からせり上がってくる脈動を堰き止めることはできないようです。
 
「いいわよ、射精して♡ 私のおまんこ、その一番奥に。赤ちゃんを作る場所に、あなたの種をびゅうって出して♡」

 淫靡な赤い瞳がぼくを見ました。
 期待と悦楽に歪んだ、見つめられた肌が粟立つほどの鋭く淫猥な視線。
 触手達が一斉にぼくの身体を締め上げて、腰が股座から離れないように固定します。

 ぼくは彼女の身体と癒着しながら、その最奥に精を吐き出しました。


「はあぁぁぁぁぁっ……♡ すっごぉい
……♡ ナマ射精、子宮に直接精液注がれるのぉ……きもちいいぃぃっ♡ あなたの熱に、子種に、蕩けてしまうわぁ……♡」

 ぼくの陰茎は激しく脈打ちながら溜まった精を彼女の子宮に押し込みます。肉の孔に根元まで深く肉茎は、ぴたりと繋がって彼女を穿ったまま、膣の肉に揉みしだかれて種を吐き出し続けます。

 ぼくはあまりの快楽に気を失いそうでした。
 触手に出した時とは別物の悦楽。
 女に種を植え付け子供を孕ませるという雄の激しい獣欲は、眼の前の女体に食い込んで離そうとしません。

「ああ、ああ……っ♡ わかるわ、感じるわ。あなたが、私を孕ませようとしてるのを♡ このおちんちんがぁ、私のおまんこを屈服させようと必死にぃ♡ 種を、吐き出してるぅぅ……♡」
 
 そんなぼくの欲望の熱を、彼女は喜色と恍惚を以って受け入れました。
 種を吐く肉茎を膣肉で労るように舐り、もっともっと、と精をねだってきます。
 
「そんなにされたらぁ……♡ 赤ちゃん出来ちゃう♡ あなたの、子供。この種でぇ、孕んじゃうぅぅっ……♡」

 彼女の艷声を聞くと頭が真っ白になります。その言葉の通りに、ぼくは彼女を孕ませられるようただ精液を噴射するだけの存在でした。

 永遠にこうしていたい。
 彼女から離れたくない。
 でも、夢は覚めるものです。幸福には終わりがあります。

「はぁ、あぁぁ……♡ んっ、んぅぅ……♡ すてきよ、あなた。とっても気持ちよかったわ♡」

 射精のあとの倦怠感は、ぼやけていたぼくの思考をはっきりと覚醒させます。
 ぞっと背筋が震えました。
 触手だらけの魔物娘との交合。その背徳的で甘美な時間が終わってしまえば、ぼくに待っているのは昏い現実だけです。
 またあの世界に帰ることを思うと、ぼくは幼子のように涙が溢れて止まらなくなってしまいました。

 なんと情けない男なのでしょう。
 不甲斐なくて、悔しくて、涙は止まりません。
 こんな時に大泣きするような自分が、ぼくは昔から醜くて悍ましくて、大嫌いでした。

「……あらあら。辛いこと、思い出しちゃったのね。よしよし。大丈夫よ」

 そんなぼくを彼女が優しく抱き締めてくれました。ぼくの頭を撫で、頬に口づけをして彼女は甘い声で囁きます。

「私がぜんぶ、無くしてあげる。辛いことも、悲しいことも。後悔も、絶望も。みんな塗りつぶしてあげるわ。──快楽と幸福で、ね♡」

 ちくり、と耳元をナニカがくすぐります。
 くちゅくちゅ。粘質な音が耳の近くで聞こえます。

「もっと、もっと気持ちよくなりましょう? それしか考えられないくらい、気持ちよくて幸せな世界を私が作ってあげる……♡」

 耳の中に、ナニカが入ってきます。
 痛みはありません。むしろその侵入はとても気持ちが良いものでした。
 脊椎に静電気のような微弱な快楽が奔ります。それはどんどん増幅され、触手がぼくの耳に埋まると、まるで雷に打たれたと錯覚してしまうほど身体は大きく震えました。

「なにも心配はいらないわ。世界がどうであろうとも、私はあなたを離さない。私達は睦み合うの。永遠に、二人で」

 世界から音が無くなりました。
 ぼくに聞こえるの彼女の声と、身体の中から響く淫靡な水音だけです。

 ぐちゅり、ぐちゅり。と音がします。
 ゆっくりと脳髄が撫でられています。
 彼女の触手がぼくの身体のナカで蠢きます。

「きもちいいでしょう? 頭の中、くちゅくちゅされるの。嫌なことを考えちゃう脳みそを、今から私がぐちゃぐちゃにしてあげる♡ そうしたらきっと、あなたは全てを忘れられるわ」

 くちゅくちゅ、くちゅくちゅ。音がします。頭の中で音がします。
 彼女の瞳がぼくを見ます。唇がぼくの唇に吸い付きます。

 音が、します。とてもきもちいい、です。
 頭の中を撹拌されて、ぼくの身体はぶるぶる震えます。
 ああ、幸せです。幸せです。
 他にはありません。幸せです。
 ぼくはこの為にあったのです。
 彼女と結ばれる為に生きていたのです。
 
「くちゅくちゅ。くちゅくちゅ♡ こうやってかき混ぜられるの、きもちいいでしょ?」

 脳が溶けていきます。ぼくはその快楽に、悶えるしかありません。
 抗うことも、逃げ出すことも、考えられません。意味がありません。

 だってこんなにも、きもちいいのだから。
 もっと、もっと。

 ぼくをこわしてくれ。
 もうあんな人間には戻りたくないんだ。

 そう言うと彼女は笑いました。

 それは怖気を放つ悪魔の顔でした。
 それは救いを齎す天使の顔でした。

 それはとてもとても美しく、艶やかで、愛おしい顔でした。

「ああ、ああ。本当に可愛い人。愚かで、空虚で、それ故に美しいひと。愛してる。好きよ、大好き……♡」

 くちゅくちゅ、おとがします。
 音が、します。それしか、聞こえません。

 とても、きもちいいです。すごく、嬉しいです。
 ぼくはかたちを失います。
 ぼくはそれを望みました。

「んっ……♡ ちゅぅぅ、ぷっ、はぁぁ……♡ ふふふ。ああ、素敵……♡ あなたがどんどん、逞しく艶やかになっていく。私とつがい、子を作るための、私との生殖に適したカタチに、変わっていく……♡」

 ぼくは手をのばして、彼女を触ります。
 ぬるぬると蠢く触手が、彼女の乳房を捕らえました。硬い彼女の先端を、ヌメついたぼくの先端で弄びます。

「ああ……んっ♡ いいわぁ……すごく、きもちいい……♡ あなたの手、五本の指も美しかったけど。私はこの方が好き……♡」

 彼女はぼくの手をとって、頬擦りをしました。
 
「んんっ、あっ、はぁっ……♡ あなたの触手が、たくさん私に絡みついてくる……♡ んぅぅっ、ああっ、いぃぃ……♡」

 ぼくは彼女を愉しませたくて、気持ちよくしたくて、増えた腕でその身体を愛撫しました。
 
「ぬるぬるの触手がぁ……私を抱き締めてぇ……んんっ♡ あっ、あぁ……♡ もっとぉ、キツく縛って。私達が解けないように、ぎゅうっと……♡」

 ぼくの手が彼女を縛り上げます。
 彼女の触手が、ぼくの手をとって蛇のように絡まり合います。

「ああっ……♡ おまんこにもきたぁ♡ あなたの太い触手おちんちん、ぬぷぬぷって入ってぇ……♡ おっ、おぉぉ、いっ、いいぃぃ……♡」

 再び彼女の中へ潜り込んだぼくの陰茎は、その形を大きく変えていました。
 触手のようにぐねぐね動き、彼女の膣の奥、子宮の入口へ吸い付きます。
 
「あっ、あぁぁっ、んぅぅぅっ……♡ はぁ、ぁぁぁっ。すっごぉ……♡ これぇ、このおちんちん、きもちよすぎるわぁ……♡ 私のおまんこのぉ、んふぅっ。弱いとこ、全部刺激しながら……あっ♡ また種付け、しようとしてるぅぅっ……♡」

 彼女は端整な顔を歪ませて、ぼくの与える快感に喜悦を感じていました。
 熱く蕩ける胎の中は、さらなる精を求めてぼくの触手を貪ります。

 求められる快感にぼくの触手が踊ります。
 ぴたりと蓋をするように、他の物が入れないようにした彼女の最奥へ、大量の子種を吐き出しました。

「おっ、おおおおぉぉぉっ……! きたぁ、せーしきたぁ……♡ きもちいいっ、いいぃぃっ………♡ こんなのぉ、耐えられない……♡」

 ぼくの触手の中で彼女は絶頂しました。
 その震える身体を掴んだまま、ぼくは執拗に精を吐き出します。美しく魅力的な雌を孕ませようとするオスの情欲が、めらめらとぼくの中で燃えたぎって、吐精の勢いは止まりません。

「わたしの、ナカぁ……♡ 子宮が、あなたの精液でぇ、満たされていく……♡ 熱い種で、いっぱいになる……♡ ああ、ああ……♡ たまらないわぁ……♡」

 ぼくは彼女の腰にへばりつき、挿し入れた陰茎から種を送り続けます。
 触手と触手をロープのように結んで、決して離れないように、ぼく達は繋がります。

 ぼくのすべてが、彼女に触れています。
 なんという快楽でしょう。
 この世界にこんな幸福があったなんて。夢にも思いませんでした。

「ふふっ♡ ずっとずっとこうしていましょう? いかなる時も離れず、まぐわい、精を注いで。私に元気な赤ちゃんを孕ませてね? ──愛しいアナタ♡」

 ぼくは幸せです。
 人間では無くなりました。人のカタチは捨てました。

 けれど後悔はありません。
 彼女が一番気持ちよくなれる姿に、ぼくは変わったのだから。

 今夜、ぼくは生まれ変わりました。
 大きな月が浮かんだ暑い夜に、最愛の彼女と生きるために、新たな人生を始めることにしたのです。

24/09/19 02:27更新 / 煩悩マン

■作者メッセージ
懲りずに二作目を書き上げたので投稿します。
前作へのご感想、投票、ありがとうございます。拙作と共に筆者を歓迎していただき嬉しく思います。
これからも煩悩と性欲とムラムラを吐き出しながら書きたいと思いますので、目を通していただければ幸いです。

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