読切小説
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さよならカリュブディス
暗い暗い海の底。光も届かぬ海の底。名前もない海の底。私は静かに水中を漂う。

クジラさんこんにちは。ダイオウイカさんこんにちは。手のひら程の大きさの彼らは私に小さくお辞儀した。

ふと、嗅いだことのある嫌な匂いが海の上からする。私はその匂いを消すべく、ゆっくりとゆっくりと上がる。

憎き神の匂いのする海の上へ。神の加護を受けた人間を沈める為に海の上へ。

でもその必要はなかったみたい。嵐で船が沈没したみたい。神は彼らを見捨てたのね。

…あれ?おかしいな。神の匂いのしない人間の子供がいる。神の加護のない人間の子供がいる。

彼は私と同じ人?神に捨てられ沈んだ人?

私はそんな彼に同情し、近くの島へ届けてあげた。もう二度と会う事はないのだけれど。あなたに私の加護をあげよう。この深い蒼の宝石を。「航海の加護」を。

……幾年が過ぎ、私は未だに海の底を漂っている。光の見えない海の底を。クジラさんもダイオウイカさんもおじいちゃんになった。

私は年をとらないのに、みんなは年をとるのね。あの人もそうなのかしら?ねぇ、どうなの?

だけど私にはどうもできない。怪物の私には何もできない。ただただあの人の事を想うだけ。

これって恋?馬鹿馬鹿しいわ。私は怪物。あの人は人間。怪物は人間に嫌われるモノ。怪物は人間に恐れられるモノ。結ばれるハズがないもの。

おや?また海の上から神の匂いがする。忌々しい匂い。だけれどその中に、私と同じ匂いがする。気のせい?どうでもいいわ。

私はあの時と同じように海面へ向かう。今日は嵐じゃないのね。嫌になるくらいの快晴なのね。

…。

海の上。立派な木の船だこと。だけれど私からすればただの葉っぱ船。船の上の人間達は私を見上げて恐れ慄く。

どうやら海賊か何かなのかしら?船の先には男の人間が1人、縄で縛られていた。その男は私を見て驚いていた。だけどその驚きは恐怖の驚きではなかった。まるで探し物を見つけたかのような驚いた顔。

私は怪物。恐ろしき怪物。

私はその船を大きな手で粉々にする。人間達は悲鳴をあげて助けを呼ぶ。あなた達に神の加護なんてないのね。あの時と同じなのね。

だけど1人。たった1人。こっぱ微塵になった船の残骸。その残骸の上に、さっきの縄の男がいた。どうやらさっきので縄は千切れたらしい。

「やっと会えた!」

縄の男は顔を明るくして私を見上げる。すると、男は懐から深い蒼の宝石を見せる。それは私が幾年も前に授けたもの。

「あの時はありがとうございました!」

男は私を恐れない。それどころか感謝をしてくる。あの時の私は同情で彼に宝石を渡したのだ。

神の加護がないのなら、私の加護を授けようと。

私は涙が出てきた。大粒の涙が沢山。男はそれを優しく見守っていた。

するとどうだろう。私の体はみるみる小さくなった。忌々しき神のかけた呪いが解けたのだ。

私はカリュブディス。海の悪魔カリュブディス。神を憎み、船を沈める怪物。

だけど私は怪物を止める。彼の側に居たいから。彼と一緒に居たいから。

さよなら。私(カリュブディス)。
14/12/30 10:56更新 / なる

■作者メッセージ
こちらの作品をお読み頂き、ありがとうございます!初めての作品だったのですが、小説っぽいですかねー(汗 まぁこれからも書いていこうと思うので、よろしくお願いしまーす!

追記:今思ったけど、あらすじと内容が一致してなかった…(泣

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