第五話 歓迎会(前編)
「よしっ、これで一通り買い物は済ませたわ。悪いわねあなた達の歓迎会なのに、手伝ってもらっちゃって。」
リアとレンの二人はさすがにヒナを外に連れ出すこともできず、ヒナを大家さんのところに置いて一緒にスーパーで買い物をし、今戻ってきたところだ。
「いえ、せっかく開いてもらうんだしせめて荷物持ちくらいはしないとっ。――にしてもこのお酒の量はすごいですね…。そんなに飲まれる方がいるんですか?」
レンは、重そうに右手に提げているスーパーの袋をしげしげと見て言う。袋の中には缶ビールに混じってウイスキーやウォッカ等の度の強い酒が何本も入っていた。
「えぇ、何人かはそれを水のように飲み干すからたぶんその量だともたないわね。」
「へぇ…、そうなんですか……。」
ウイスキーは普通ショットグラス等でチビチビ飲むものではないのか。レンはそれを水のように飲むという言葉に若干引きつつ、改めてここが魔物が住むアパートだという
事を再認識する。
「さぁ、着いたわよ。部屋は大家さん所が一番広いんだ。だから今日はそこでっ。」
「了解です。」
一階のつきあたりにある105号室のチャイムを袋を持ちつつ頑張って鳴らすと、パタパタと足音を立てて大家さんが現れた。
「いらっしゃいっ。さ、上がって下さい。部屋の準備は私とヒナちゃんで先にやっておきましたから。」
「二人ともおかえりっ!なんかすっごい色々買って来たね。」
大家さんの横からひょこっとヒナが顔を出す。どうやら大家さんにも慣れたみたいで何よりだ。
「あぁ、あれも良いねこれも良いねと話していたらこんなになっちまった。」
「今日は風も強くて寒いしどうせだから鍋にしちゃいましたよ。人数多いですしねっ。」
「まぁ、それは良い考えですわね。ではさっそく準備しましょう。」
中に通されると角部屋のせいか、レンの部屋よりも全体的に空間が広くなっているようだ。部屋からは女性の香水のような少しだけ甘い香りが感じられ、レンはちょっと恥
ずかしくなる。
「では私とリアさんが準備しますので、お二人は奥のお部屋で待っていて下さいな。」
手伝おうかと聞きかけたところを、今日はおとなしく歓迎されなさいとリアに制され、レンはしぶしぶ部屋に戻った。
「―――なんかこういうのってとっても良いよねっ!」
部屋の中央にある炬燵に冷えた足を突っ込みぬくぬくしていたところに、不意にヒナがしゃべりかける。
「ん…?何が?」
「大勢の人でワイワイ何かをすることっ。私、こういうのホントに久しぶりだから……。」
何のことだろうとしばし考え、彼女が幽霊であったことを思いだす。それほどまでに今の彼女は生き生きとしていた。
「――だからありがとうね、レンくんっ。精力くれて。」
ヒナは目をキラキラさせてを言った。最後のさえなければとっても良い話だったのにと思い、思わず苦笑してしまう。
「お、おうっ、じゃあ今日はせっかく開いてもらったんだしめいいっぱい楽しまなきゃね!」
「そうですよ?」
大家さんが大きな土鍋とカセットコンロを持ってきて炬燵の上に置いた。
「魔法使っちゃった方が手っ取り早くないですか?」
と、リアが指先から小さな炎を出して言う。
「`郷に入っては郷に従え`というでしょう?しかもこの方が風情があっていいじゃないですか。」
リアの指先から出ている炎も十分気になったが、大家さんの人間界への適応っぷりにびっくりする。
「じゃあ先にお酒頂いちゃいましょうか、後二人は遅れて来るそうなので。その頃にはお鍋も煮えてくるでしょう。」
「――はいっ、レンさんはビールでいいんだよね?」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
レンはリアから冷たく冷えた缶を受け取る。
「ヒナさんは…お酒飲まれます?」
「どうしようかなぁ。じゃあ…レンくんと同じのでっ!」
「じゃあ、はいっ。これで皆持ったかな?それでは……」
「ぬあぁぁ〜、ちょ〜っと待ったあぁ〜!!」
玄関が開いた音と同時に大声を上げながら、背丈が高くて頭に角の生えたスポーティな風合いの女の人が部屋に転がり込んできた。
「あら?`コスモス`ちゃんじゃない?もっと遅くなると思ってたのに意外と早いのね。」
「ぜーはー、ぜーはー……おいっリア、俺をそれで呼ぶなよっ。俺には`秋桜`(シュヨウ)って名前があんだから。」
彼女、コスモス(?)は元々赤みがかっている顔をさらに赤くして、息を切らしつつもリアを睨んで言った。
「ん?この二人が新しい住人か、あたいは秋桜ってんだ、よろしくな!」
「はぁ、よろしくお願いします…。」
二人は彼女の勢いに圧倒されつつも、挨拶と自己紹介をする。
「はいっ、じゃあ秋桜も来たことだし始めますかっ。――それではこのアサガオ荘に新しく来た二人を祝して…、カンパ〜〜イ!!」
「「「「カンパ〜〜イ!!」」」」
乾杯の掛け声で酒を持った手を高く上げた後、皆それぞれに自分のお酒を飲んでいく。
「んぐっ、んぐっ…プファ〜!やっぱ酒はうめぇなぁ。――レン、って言ったっけ?お前もガンガンいきな!」
「は、はぁ、それじゃ…頂きますっ。」
レンは秋桜の言葉に圧倒されて缶をもう一度ぐいっと飲む。
「おぉ、イイ飲みっぷりじゃんか。気に入った!今日は一日中あたいが付き合ってやるよ。遠慮せず飲みなっ。」
秋桜は言うが早いか、レンの腕に自分の腕を絡ませて逃げられないようにすると、どこから持ってきたのかコップをレンに渡し、中に自前の日本酒をなみなみと注いでいく
。形の良い胸を腕に感じ、ちょっと気の緩んでいたレンは、目の前にみるみる注がれていく酒の量に相反してどんどんと青くなっていた。
「うわぁ……。」
そんな様子をヒナが心配そうに、しかし遠目に見ていると、
「――あちゃあ、あれはひどいね、完全に潰されるよあれ。」
と、リアがレンの助けてという目線にはまったく気付かないふりをして、まるで他人事に言う。
「レンくん、大丈夫なのかなぁ?」
「さぁ?でも彼強そうだし、きっと大丈夫だって。こっちは三人でゆっくり行こう。」
「そろそろお鍋が煮えてきましたし頂きましょうか。――はいっ、ヒナちゃん。」
後ろから鬼ぃっ!というレンの悲壮な声が聞こえた気がしたが、リアが、きっと秋桜の事を言ったのだろうというので、スルーしてできてきたお鍋を楽しむことにした。
後編へ続く
リアとレンの二人はさすがにヒナを外に連れ出すこともできず、ヒナを大家さんのところに置いて一緒にスーパーで買い物をし、今戻ってきたところだ。
「いえ、せっかく開いてもらうんだしせめて荷物持ちくらいはしないとっ。――にしてもこのお酒の量はすごいですね…。そんなに飲まれる方がいるんですか?」
レンは、重そうに右手に提げているスーパーの袋をしげしげと見て言う。袋の中には缶ビールに混じってウイスキーやウォッカ等の度の強い酒が何本も入っていた。
「えぇ、何人かはそれを水のように飲み干すからたぶんその量だともたないわね。」
「へぇ…、そうなんですか……。」
ウイスキーは普通ショットグラス等でチビチビ飲むものではないのか。レンはそれを水のように飲むという言葉に若干引きつつ、改めてここが魔物が住むアパートだという
事を再認識する。
「さぁ、着いたわよ。部屋は大家さん所が一番広いんだ。だから今日はそこでっ。」
「了解です。」
一階のつきあたりにある105号室のチャイムを袋を持ちつつ頑張って鳴らすと、パタパタと足音を立てて大家さんが現れた。
「いらっしゃいっ。さ、上がって下さい。部屋の準備は私とヒナちゃんで先にやっておきましたから。」
「二人ともおかえりっ!なんかすっごい色々買って来たね。」
大家さんの横からひょこっとヒナが顔を出す。どうやら大家さんにも慣れたみたいで何よりだ。
「あぁ、あれも良いねこれも良いねと話していたらこんなになっちまった。」
「今日は風も強くて寒いしどうせだから鍋にしちゃいましたよ。人数多いですしねっ。」
「まぁ、それは良い考えですわね。ではさっそく準備しましょう。」
中に通されると角部屋のせいか、レンの部屋よりも全体的に空間が広くなっているようだ。部屋からは女性の香水のような少しだけ甘い香りが感じられ、レンはちょっと恥
ずかしくなる。
「では私とリアさんが準備しますので、お二人は奥のお部屋で待っていて下さいな。」
手伝おうかと聞きかけたところを、今日はおとなしく歓迎されなさいとリアに制され、レンはしぶしぶ部屋に戻った。
「―――なんかこういうのってとっても良いよねっ!」
部屋の中央にある炬燵に冷えた足を突っ込みぬくぬくしていたところに、不意にヒナがしゃべりかける。
「ん…?何が?」
「大勢の人でワイワイ何かをすることっ。私、こういうのホントに久しぶりだから……。」
何のことだろうとしばし考え、彼女が幽霊であったことを思いだす。それほどまでに今の彼女は生き生きとしていた。
「――だからありがとうね、レンくんっ。精力くれて。」
ヒナは目をキラキラさせてを言った。最後のさえなければとっても良い話だったのにと思い、思わず苦笑してしまう。
「お、おうっ、じゃあ今日はせっかく開いてもらったんだしめいいっぱい楽しまなきゃね!」
「そうですよ?」
大家さんが大きな土鍋とカセットコンロを持ってきて炬燵の上に置いた。
「魔法使っちゃった方が手っ取り早くないですか?」
と、リアが指先から小さな炎を出して言う。
「`郷に入っては郷に従え`というでしょう?しかもこの方が風情があっていいじゃないですか。」
リアの指先から出ている炎も十分気になったが、大家さんの人間界への適応っぷりにびっくりする。
「じゃあ先にお酒頂いちゃいましょうか、後二人は遅れて来るそうなので。その頃にはお鍋も煮えてくるでしょう。」
「――はいっ、レンさんはビールでいいんだよね?」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
レンはリアから冷たく冷えた缶を受け取る。
「ヒナさんは…お酒飲まれます?」
「どうしようかなぁ。じゃあ…レンくんと同じのでっ!」
「じゃあ、はいっ。これで皆持ったかな?それでは……」
「ぬあぁぁ〜、ちょ〜っと待ったあぁ〜!!」
玄関が開いた音と同時に大声を上げながら、背丈が高くて頭に角の生えたスポーティな風合いの女の人が部屋に転がり込んできた。
「あら?`コスモス`ちゃんじゃない?もっと遅くなると思ってたのに意外と早いのね。」
「ぜーはー、ぜーはー……おいっリア、俺をそれで呼ぶなよっ。俺には`秋桜`(シュヨウ)って名前があんだから。」
彼女、コスモス(?)は元々赤みがかっている顔をさらに赤くして、息を切らしつつもリアを睨んで言った。
「ん?この二人が新しい住人か、あたいは秋桜ってんだ、よろしくな!」
「はぁ、よろしくお願いします…。」
二人は彼女の勢いに圧倒されつつも、挨拶と自己紹介をする。
「はいっ、じゃあ秋桜も来たことだし始めますかっ。――それではこのアサガオ荘に新しく来た二人を祝して…、カンパ〜〜イ!!」
「「「「カンパ〜〜イ!!」」」」
乾杯の掛け声で酒を持った手を高く上げた後、皆それぞれに自分のお酒を飲んでいく。
「んぐっ、んぐっ…プファ〜!やっぱ酒はうめぇなぁ。――レン、って言ったっけ?お前もガンガンいきな!」
「は、はぁ、それじゃ…頂きますっ。」
レンは秋桜の言葉に圧倒されて缶をもう一度ぐいっと飲む。
「おぉ、イイ飲みっぷりじゃんか。気に入った!今日は一日中あたいが付き合ってやるよ。遠慮せず飲みなっ。」
秋桜は言うが早いか、レンの腕に自分の腕を絡ませて逃げられないようにすると、どこから持ってきたのかコップをレンに渡し、中に自前の日本酒をなみなみと注いでいく
。形の良い胸を腕に感じ、ちょっと気の緩んでいたレンは、目の前にみるみる注がれていく酒の量に相反してどんどんと青くなっていた。
「うわぁ……。」
そんな様子をヒナが心配そうに、しかし遠目に見ていると、
「――あちゃあ、あれはひどいね、完全に潰されるよあれ。」
と、リアがレンの助けてという目線にはまったく気付かないふりをして、まるで他人事に言う。
「レンくん、大丈夫なのかなぁ?」
「さぁ?でも彼強そうだし、きっと大丈夫だって。こっちは三人でゆっくり行こう。」
「そろそろお鍋が煮えてきましたし頂きましょうか。――はいっ、ヒナちゃん。」
後ろから鬼ぃっ!というレンの悲壮な声が聞こえた気がしたが、リアが、きっと秋桜の事を言ったのだろうというので、スルーしてできてきたお鍋を楽しむことにした。
後編へ続く
10/10/22 05:44更新 / アテネ
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