読切小説
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今日も彼は夜空を見上げていた
彼はいつも夜空を見上げていたわ。
「そんなにいつも夜空を見上げていて楽しい?」
「楽しいよ、楽しくなかったら見ないさ」
「ふーん……私にはわからないわ。あの光る点々の価値なんて」
「俺はきれいだと思うよ。この世界で一番きれいだ」

こんな会話を毎日のようにしていたわ。彼と私は同じぐらいに生まれて育てられたと聞いたけど、私が物心ついた時から彼は夜空を見上げていた気がするわ。私は騎竜としての訓練を受けるのは好きだったのだけど、彼が騎士としての訓練を受けているときの顔はとてもつまらなそうだったわ。でも、彼が夜空を見上げているときの顔は言うのは恥ずかしいけどかっこよかった、その時かしらね彼を男として意識し始めたのは思わず彼の頬にキスをしてしまったのその時の彼の顔と言ったら顔を真っ赤にして怒っていたのを今でも覚えているわ。だって私の初キスでもあったからね。

いつだったかは覚えていないけどこんなことがあったわ……
「あんな光る点々見ていて楽しい?」
「楽しいよ、君にはわからないかい?」
「わからない、それよりも私の相手してよ!」
「君も僕もまだそんな年じゃないよ、そういうことは大きくなってからするんだ」
「遅いも早いもないよ!私はしたいの!」
「じゃぁあの光る点々を取ってきてくれたら君のしたいことを好きなだけしていいよ」
「ほんとに!!」
それで私は自慢の翼で光る点に向かって飛んで行ったわ。でも、いくら飛んでも全く近くならなかったの、彼はきっとあれは取れないものだと私よりも早く知っていたんだわ。でも、私はあんまりにも取れないのが悔しかったから帰りに見つけた光るキノコを彼に持っていったら大笑いされて、私の顔が赤くなっていたのが自分でもわかったわ。

それからお互いが精神面も体も一人前になったころかしら、彼が私に言ったの『今より深い関係になりたい』ってね。私はすごくうれしかったわ。だから、つい抑えがきかなくなって……普段彼が私の背中に乗っているのにあの時ばかりは私が彼に乗ってしまったわ。

それから私たちは仲良くやっていたのだけど一度だけ大喧嘩をしたの。彼が夜空を見るときに使っていた遠くを見る筒を壊してしまったの、彼は顔を真っ赤にして怒ったわ。そこで私は謝らずに逆に怒ってしまったの。それから二日ぐらいはお互い口を一切聞かなかったわ……でも、ちゃんと仲直りをしたのよ。私が育ての親に『ごめんなさい』って文字の書き方を教わって紙に書いて彼に渡したの。なんで口で言わなかったかって?そんなの面と向かって謝るなんて恥ずかしいじゃない、でも彼は私の字を見て笑ったのよ汚い字だって、だって仕方がないじゃない、鉤爪じゃどうしても綺麗に書けないもの、ペンを上手に持てないから鉤爪の先にインクをつけてかいたのよ。

それから長い年月がたったわ……私はワイバーンだけど彼は人間、わかってはいたけど生きられる年月が違うのよ……彼のほうが早くこの世からいなくなることになったのよ。日に日に彼の体調は悪くなって弱い声で私に言ったの。
「僕は君よりも早くこの世からいなくなるけど、完全にいなくはならないよ。僕はあの空へ行って君の言う光る点々になるんだ。だから夜になったら僕がしていたように夜空を見上げてくれ、君の顔が見たいから」ってね……それから数日後彼は光る点々になったわ。彼のいない今でも彼が夜空を見ていたお気に入りの場所に行くと彼のぬくもりを感じるの。もし、私が光る点々になる時が来たら彼を探してみせるわ。そして、彼の横で一緒に光り『私は一番高く飛んだ一番幸せもののワイバーンだ!』って大きな声で言うわ、彼が横で止めようが知らないわ。

また愛する人と会えたら幸せじゃない?ね?
13/03/15 13:27更新 / うぐいす

■作者メッセージ
人間と魔物の間には寿命の差は大きいのかなぁと思い書いた小説です

死んでもまた夫婦でいたい、そんな仲はいかがでしょうか?

もう少し文章でワイバーンらしさを出せればよかったのですが......

読んでいただきありがとうございます!

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