世界一汚く綺麗な縫い目
「うぅ……寒い、朝から釣り糸を垂らしているのに一匹も釣れやしない」
朝早くから雪景色の中、湖のほとりで一人さみしく魚を狙っていた。漁師として働いている身としては魚が釣れなければ儲けがないのだ。
「ここまでいて釣れないなんて……釣り場を変えるか……」
釣り場を変えようとして道具を片づけていると突然何かが水に落ちる音が聞こえた。
「な、なんだ?大きな魚でも跳ねたか」
「あばばばば、ゴフッ、おぼれっ」
「人じゃないか!大丈夫だ、今助けるぞ!」
「ばやぐ、ゴホッ、たすけっ」
急いでおぼれている人のもとに向かい胸のふくらみになるべく目をやらないように陸に引き揚げた。水中にいるときは気付かなかったがおぼれていたのは人間ではなく金髪でモフモフの毛皮を身につけているセルキーだった。
「だ、大丈夫かい?」
「けほっ、余計なことを、けほっ、してくれたな!」
「どうしたんだよいきなり、助けてあげたんじゃないか!」
「それが余計なことと言っているのだ!」
「……君、分かってる?溺れていたんだよ?」
「ふっ、お前はなにも分かってないな。あれは溺れた時の対処法の練習をしていたのだよ!」
「でも、助けてって俺は聞こえたよ」
「あれは助けないでって言ったのだ」
「そうか、俺は悪いことをしちゃったね」
「うむ、分かればいい」
「じゃぁ、お邪魔みたいだからさっさとどこかに行きますよ。ゆっくり、溺れたときの練習してください」
「もう邪魔しないでね〜」
助けてあげたのに文句をいわれ少しイラつきながらその場を離れ、20mもしない時にまた水に物が落ちる音が聞こえた。バシャバシャとあがくような音が聞こえた後、その音が消えあたりが静かになった。一応振り返ってみると水面にさっきの子が浮いていた、プカプカと。
「お〜い大丈夫か〜?」
少し意地悪のつもりで声をかけたが
「……」
「おい!」
「……」
さっきのように反応が全くなかった。これは誰からみても明らかに気を失っていた。
「やっぱり溺れてるじゃないか!すぐ助けるぞ!」
彼女を再び陸に引き揚げ仰向けに寝かした。人工呼吸をしようと顔を近づけていくと彼女の目がパチッと開いた。
「な、何をする!」
思いっきり顔を平手で叩かれた。
「痛っ!お前こそ何するんだよ!」
「私の唇を奪おうとするとは良い根性だ」
「この子は何度も……君はまた溺れていたんだよ!しかも、気を失っていた」
「ふっ、また私が溺れていたというか、ヘックチュン!」
「あ、毛皮に穴あいているよ。簡単にだけど直してあげるよ貸しなさい」
「これぐらい大したこと、ヘックチュン、ない、ヘックチュン」
「ここまで強がらないの!」
そう言って彼女の毛皮を半ば無理やりにとった。
「うわっ!それをとられたら、ヘックチュン!」
「代わりに俺のコート貸してあげるから、はい」
「あ、ありがとう。でも、全然あったかくない」
無言で毛皮を治していると彼女が小さな声で話しかけてきた
「ねぇ、なんで私を助けてくれたの」
「俺は昔から困っている人は見捨られないの、人間でもそれ以外でも。てか、溺れていたのは認めるんだね」
「私はセルキーだけど泳ぎが得意じゃないの……仲間からはバカにされるし……だからこっそり泳ぐ練習をしようとしていたの」
「別に泳げなくても良いんじゃないかな」
「なんでよ、水の中を飛ぶように泳ぐそれが私たちの普通なの,泳げない私は異常なのよ……」
「俺には君たちの事情なんて分からないけど、それは個性だと思うよ。泳げない分それ以外の事でほかの子に負けないようにしたらいいんだよ」
「それ以外のことね……」
「はい、直ったよ」
「うむ、やっぱりこれが一番しっくりくるし何より暖かい」
「それは良かったよ。じゃぁ、俺はこのへんで」
「待ってくれ、お前に言うことがある。さっき、人よりも負けないことを考えろって言っただろ」
「うん」
「私は決めたぞ!私はお前の事を誰よりも愛する!!」
「なんでそうなるんだよ!」
「その優しさ、正義感、私はお前に惚れたぞ!」
* *
「今思ったら私たちの出会いはおかしなものよね」
「ははは、ロマンチックなものじゃないよね。ロマンチックな方が良かった?」
「そんなことは無いわ、今が幸せだから出会いなんてどうでもいいわ」
「そうだね、じゃぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
お世辞でもきれいとは言えない縫い目がある毛皮は今日も二人を温かく包む。
朝早くから雪景色の中、湖のほとりで一人さみしく魚を狙っていた。漁師として働いている身としては魚が釣れなければ儲けがないのだ。
「ここまでいて釣れないなんて……釣り場を変えるか……」
釣り場を変えようとして道具を片づけていると突然何かが水に落ちる音が聞こえた。
「な、なんだ?大きな魚でも跳ねたか」
「あばばばば、ゴフッ、おぼれっ」
「人じゃないか!大丈夫だ、今助けるぞ!」
「ばやぐ、ゴホッ、たすけっ」
急いでおぼれている人のもとに向かい胸のふくらみになるべく目をやらないように陸に引き揚げた。水中にいるときは気付かなかったがおぼれていたのは人間ではなく金髪でモフモフの毛皮を身につけているセルキーだった。
「だ、大丈夫かい?」
「けほっ、余計なことを、けほっ、してくれたな!」
「どうしたんだよいきなり、助けてあげたんじゃないか!」
「それが余計なことと言っているのだ!」
「……君、分かってる?溺れていたんだよ?」
「ふっ、お前はなにも分かってないな。あれは溺れた時の対処法の練習をしていたのだよ!」
「でも、助けてって俺は聞こえたよ」
「あれは助けないでって言ったのだ」
「そうか、俺は悪いことをしちゃったね」
「うむ、分かればいい」
「じゃぁ、お邪魔みたいだからさっさとどこかに行きますよ。ゆっくり、溺れたときの練習してください」
「もう邪魔しないでね〜」
助けてあげたのに文句をいわれ少しイラつきながらその場を離れ、20mもしない時にまた水に物が落ちる音が聞こえた。バシャバシャとあがくような音が聞こえた後、その音が消えあたりが静かになった。一応振り返ってみると水面にさっきの子が浮いていた、プカプカと。
「お〜い大丈夫か〜?」
少し意地悪のつもりで声をかけたが
「……」
「おい!」
「……」
さっきのように反応が全くなかった。これは誰からみても明らかに気を失っていた。
「やっぱり溺れてるじゃないか!すぐ助けるぞ!」
彼女を再び陸に引き揚げ仰向けに寝かした。人工呼吸をしようと顔を近づけていくと彼女の目がパチッと開いた。
「な、何をする!」
思いっきり顔を平手で叩かれた。
「痛っ!お前こそ何するんだよ!」
「私の唇を奪おうとするとは良い根性だ」
「この子は何度も……君はまた溺れていたんだよ!しかも、気を失っていた」
「ふっ、また私が溺れていたというか、ヘックチュン!」
「あ、毛皮に穴あいているよ。簡単にだけど直してあげるよ貸しなさい」
「これぐらい大したこと、ヘックチュン、ない、ヘックチュン」
「ここまで強がらないの!」
そう言って彼女の毛皮を半ば無理やりにとった。
「うわっ!それをとられたら、ヘックチュン!」
「代わりに俺のコート貸してあげるから、はい」
「あ、ありがとう。でも、全然あったかくない」
無言で毛皮を治していると彼女が小さな声で話しかけてきた
「ねぇ、なんで私を助けてくれたの」
「俺は昔から困っている人は見捨られないの、人間でもそれ以外でも。てか、溺れていたのは認めるんだね」
「私はセルキーだけど泳ぎが得意じゃないの……仲間からはバカにされるし……だからこっそり泳ぐ練習をしようとしていたの」
「別に泳げなくても良いんじゃないかな」
「なんでよ、水の中を飛ぶように泳ぐそれが私たちの普通なの,泳げない私は異常なのよ……」
「俺には君たちの事情なんて分からないけど、それは個性だと思うよ。泳げない分それ以外の事でほかの子に負けないようにしたらいいんだよ」
「それ以外のことね……」
「はい、直ったよ」
「うむ、やっぱりこれが一番しっくりくるし何より暖かい」
「それは良かったよ。じゃぁ、俺はこのへんで」
「待ってくれ、お前に言うことがある。さっき、人よりも負けないことを考えろって言っただろ」
「うん」
「私は決めたぞ!私はお前の事を誰よりも愛する!!」
「なんでそうなるんだよ!」
「その優しさ、正義感、私はお前に惚れたぞ!」
* *
「今思ったら私たちの出会いはおかしなものよね」
「ははは、ロマンチックなものじゃないよね。ロマンチックな方が良かった?」
「そんなことは無いわ、今が幸せだから出会いなんてどうでもいいわ」
「そうだね、じゃぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
お世辞でもきれいとは言えない縫い目がある毛皮は今日も二人を温かく包む。
13/03/12 18:58更新 / うぐいす