海上遭難記

『不老不死』

それは時の権力者が夢見てはついに叶うことがなかった
老いることも、死ぬこともない永遠という存在。

だが今現在、俺はそれに最も近い存在であるようだ。
俺の年齢は、かれこれ400歳を超える。
「400歳」という言葉に誤解をしないでほしい。
俺の見た目も心も17前後の若い少年である。
間違っても白髪でシワだらけのじいさんを想像しないことである。

事の発端は何世紀も前。
俺が漁船の手伝いをしていた頃に遡る。



およそ400年前  海上にて



「おい、清太!さっさと網を揚げろ!」
今日も頭(かしら)の声の張り上げる声が海の上に響く。
鍛え上げた体に立派なあごひげ、いかにも船の長といった感じを出している。
「へい、ただ今!」

清太(セイタ)とは俺の名だ。
幼い頃は漁村で暮らしていたのだが、両親は流行り病で死んでしまった。
引き取り先も無く、俺はこの船に預けられた。
俺が雑用としてこの船に乗ってから、かれこれ5年が経つ。
洗濯・船の修理・掃除・食事の支度・・・・
他の乗組員に認めてもらうため、必死になって働いていた。


ある日、船は大雨に見舞われた。
「急げ!帆をたため!」
「水をかき出せ!しずんじまうぞ!」
男たちの怒号が響く。
しばらくして、嵐はやんだが
どうやら俺たちはだいぶ流されてしまったらしい。
海に出て7日目の災難。
食料庫はいつ尽きるかも解らない。
見渡してみても四方八方、大海原。
海、海、海、島、海、海・・・・・・ん!?
「島!?」
思わず俺は叫んだ。
海の真ん中に島があったのだ。
「お頭!島です!島がありやした!」
「何!?そうか、そこに上陸だ!」

浜に船を泊め、男たちは浅瀬にいる魚を捕っていた。
木の実を採りにいった男もいる。
一方、俺は見張り番。
雑用としては当然の扱いであり、当然の仕事である。
青い空を見上げて大きな欠伸をしたとき向こうから大声が聞こえた。
「お〜い!人魚が、女の人魚がいるぞ〜!」
人魚!?
話によると腰から上が人間で下が魚の格好をした伝説の生き物!
見張りなんかしている場合じゃない。
俺は声のした方向へと走っていった。

男たちの目線の先には人魚がいた。
美しい身体に、淡く光る鱗。
その美貌を惜しげもなく見せつけ、俺を含めた男たちを釘付けにしていた。
岩の上に座り、蒼い髪の毛を撫でながら彼女達は美しい歌声を響かせていた。
この世に生を享けて4世紀余り、後にも先にもあのような光景は無い!
ペンを使っても、ブラシを用いても伝えることの出来ないまさに男の夢だ!
俺はまるで何かに魅せられ、憑かれたかのように彼女のもとに歩いていった。
他の男たちも同じだった。
俺は海の色とも、空の色とも、青とも藍とも表せない
美しい色の髪をなびかせた彼女の顔しか見ることが出来なかった。
距離が無くなり、俺は口づけをした。
長く、ゆっくりと・・・
それから俺は浜辺に寝かせられ、彼女は俺の上に覆いかぶさる格好になった。

彼女の一番盛り上がっている部分を触ると、彼女は喜んだ。
彼女が俺の一番大事な部分を撫でると、俺はそれだけで天国へ逝きそうだった。
俺は彼女の敏感な部分を触った。
液が溢れ、ドロドロだった。
俺はたちきっていたイチモツを煮えたぎった釜のようなそこへゆっくりと挿入した。
あっと言う間に射精した。
当然だ。
女性との関係を一切持ったことの無い童貞が我慢できるはずも無かった。
それからはよく覚えていない。
ただ、今まで味わったことのない快楽がそこにあった。
湿ったものが擦れ合う淫らな音。
そして男女の喘ぎ声。
俺は彼女をきつく抱き、彼女は俺を優しく受け止めてくれた。
今考えてみれば、あれが最初で最後の「普通のセックス」だった。





「誰だ」

「私と交わり続けなさい。永遠に」

「いやだ」

「楽しいわよ。あの思いをもう一度したくないのか?」

「いやだ」

「どうして?気持ちいいわよ」

「もう誰かに指図はされたくない!止めろ!!」

「あっそ。じゃあ、いいわ」





目を覚ますと、俺は暗く冷たい浜辺に仰向けになっていた。
頭の上には月が光り輝いている。
辺りには誰もいなかった。
岩の上に一匹の人魚がいた。
「おい、お前!他の仲間をどこにやった!?」
彼女は海のほうを向いたまま、
「彼ら自身の選択よ。彼らは快楽を求め私達の『夫』なったの。
 覚えてないでしょうけど、あなたはそれを拒んだ。
 これからあなたには多くの出来事にあうことになるわ。
 何世紀も生き続け、多くの者と出会うことになる。
 お行きなさい、坊や。また会えるといいわね」
と人魚は冷たく、そしてどこか悲しげにそう言った。

あれから時が流れ、俺が歳を取ることなく生き続けている。
俺は旅をし、さまざまな化け物を見てきたが、あの日のことを忘れることはないだろう。
だが、俺はさまざまな化け物と出会うことは、あの日に運命付けられていたのだと思う。


※以前、本館に投稿した作品に手を加えたものです。

6月17日 登場人物の名前を変更しました。

10/06/17 23:27 荒木

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