帽子屋の悩み
不思議の国某所。
自らが経営する帽子屋にてため息をつきながら紅茶を口にするマッドハッターがぽつりと呟いた。
「私の店は不思議の国の人口増加に伴って売り上げが伸びたのだが、最近になって人手が足りなくなって店員を1人雇ったんだ」
「なんにゃ藪から棒に……」
その隣には呼んだ筈のない不思議の国の案内人チェシャ猫が茶菓子のクッキーを堂々と盗み食いをしている。
食べてすぐ消えない辺り、当の本人も暇なのであろう。厚かましく紅茶まで強請る始末だ。
「マーチヘアなんだが中々にやり手でな、覚えも早いし接客も文句なし。きっと良い嫁さんになるだろうと思ってたんだ」
チェシャ猫の分の紅茶と一緒に4杯目のおかわりを注ぎ、茶菓子のクッキーを追加する。
「悪い男にでも奪われたにゃか?心中察するにゃ――男の」
マーチヘアと言えば性欲を形にしたような魔物。
何も知らない男が食って掛かれば確実に返り討ちにあうことは目に見えている。
「いや、確かに処女は散ってしまったが男に奪われたわけじゃない」
「誰が処女の話をした……んじゃ玩具かにゃ、この国のにはお世話になってるし」
「あぁ――切り取ったのではないかとの噂もあるあれか……いや違う、そもそも道具じゃない」
男でも玩具でもない。
となると魔物の尻尾というもの考えられるが、挿入できる尻尾持ちは少なく、尚且つ女好きという条件を加えると、そのマーチヘアだけをピンポイントで狙う魔物となる。
そんな限定的な魔物、きっと探しても居ないだろう。
「もったいぶらずに教えるにゃ――おかわり」
「まぁ待ちたまえ、推理小説の禁忌は犯人を教える事だ――ケーキはどうだい」
苺の代わりに卑猥な形の茸が堂々と突き刺さってるケーキが目の前に置かれた。
それを何の躊躇もなく口に運びながら頬張り始める。
「おいしいかい?その茸は私のお手製でな、ケーキに合うように甘く調整したんだ」
「どうせクリームを精子に見立ててとかいうんにゃろ」
図星だったらしい。苦笑いを浮かべたまま茸にフォークを突き刺す。
「そ……それもあるけど、この茸は男根を模していて、尿道には練乳のような甘い汁が溜まっている」
そう言うと茸の鈴口を咥え、愛おしそうに舐めたかと思えば一気に噛み千切った。
「茸には白い乳液を分泌する種類も居るため何ら不思議じゃないよ」
「おみゃーさん今おっそろしいこと平然としたにゃ……共食い」
男根を模している茸とはいえ、フォークで刺し何の躊躇いもなく噛み千切る。
男が見たら股間を抑えることは間違いないだろう。
「これは私の一部だからね、還元されてると思えばいいし、直接これを生やすことだって出来る」
「生やす……おみゃーさんまさかとは思うけどこいつで――」
男根そっくりな茸を体に直接生やせる。
茸故に自分で発生させ、もし体の一部としてそれが本物のように使えるとしたら。
嫌な予感が脳裏に走る。
「まさか股を返り血で濡らすとは思いもしなかっ――ぶふぁ!!?」
マッドハッターの頭を掴み、渾身の力で彼女の食べかけのケーキの上に叩きつける。
「やっぱおみゃーかいいぃぃぃぃーーー!!」
「誤解だ、弁解をさせてくれ!」
クリームでベタベタな顔を持ち上げ言い訳を述べる姿は、往生際が悪い推理小説の犯人のようだ。
「閉店後に昨日あったお茶会のケーキの残りがあったのを思い出してだな――」
「さしづめバイトをお茶に誘って媚薬入りのと間違えて食べさせたってオチにゃろうが!!」
完全に図星を突かれ、ぐうの音も出ずケーキの上に撃沈した。
「仕方ないだろう……私も魔物だ。例え向こうから来なくてもこっちから飛び掛かったさ」
「まったく……引き延ばしておきながら酷いオチ――」
その時、チェシャ猫に嫌な予感が走る。
お茶会で残ったお菓子はケーキ、そして今自分が食べているのもケーキ。
種類にもよるがケーキの保存期間は長くて3日。その3日目が今日。
マッドハッターの口ぶりから擦るに、お茶会から今日までの日数は短くて3日。
予感が外れることを祈りつつ、恐る恐る質問する。
「にゃあ……お茶会っていつあった」
「……3日前だが?」
「っ――余ったケーキどこに直した」
「どこって……っあ」
悪い予感が的中し、もしかしてがあるかもしれないと保管場所も聞いたが無駄に終わった。
この先の展開が容易に想像できる為、急いで逃げだした。
しかし辺り一面蜘蛛の巣のように菌糸が張り巡らされ逃げるに逃げ出せない。
「にゃってにゃってにゃってにゃって!」
菌糸を爪で裂こうとするも、ゴムの様な伸縮性のせいで裂くことができない。
「二度あることは、と言うが……君も発情してるし良いよね」
焦りで呂律が回らず、「待って」という言葉になっていない。
むしろ発情した猫のように鳴きわめいているようにしか聞こえない。
「……っ見抜きは――」
「無理」
次の日、帽子屋の店員が1人増えたことは言うまでもないだろう。
自らが経営する帽子屋にてため息をつきながら紅茶を口にするマッドハッターがぽつりと呟いた。
「私の店は不思議の国の人口増加に伴って売り上げが伸びたのだが、最近になって人手が足りなくなって店員を1人雇ったんだ」
「なんにゃ藪から棒に……」
その隣には呼んだ筈のない不思議の国の案内人チェシャ猫が茶菓子のクッキーを堂々と盗み食いをしている。
食べてすぐ消えない辺り、当の本人も暇なのであろう。厚かましく紅茶まで強請る始末だ。
「マーチヘアなんだが中々にやり手でな、覚えも早いし接客も文句なし。きっと良い嫁さんになるだろうと思ってたんだ」
チェシャ猫の分の紅茶と一緒に4杯目のおかわりを注ぎ、茶菓子のクッキーを追加する。
「悪い男にでも奪われたにゃか?心中察するにゃ――男の」
マーチヘアと言えば性欲を形にしたような魔物。
何も知らない男が食って掛かれば確実に返り討ちにあうことは目に見えている。
「いや、確かに処女は散ってしまったが男に奪われたわけじゃない」
「誰が処女の話をした……んじゃ玩具かにゃ、この国のにはお世話になってるし」
「あぁ――切り取ったのではないかとの噂もあるあれか……いや違う、そもそも道具じゃない」
男でも玩具でもない。
となると魔物の尻尾というもの考えられるが、挿入できる尻尾持ちは少なく、尚且つ女好きという条件を加えると、そのマーチヘアだけをピンポイントで狙う魔物となる。
そんな限定的な魔物、きっと探しても居ないだろう。
「もったいぶらずに教えるにゃ――おかわり」
「まぁ待ちたまえ、推理小説の禁忌は犯人を教える事だ――ケーキはどうだい」
苺の代わりに卑猥な形の茸が堂々と突き刺さってるケーキが目の前に置かれた。
それを何の躊躇もなく口に運びながら頬張り始める。
「おいしいかい?その茸は私のお手製でな、ケーキに合うように甘く調整したんだ」
「どうせクリームを精子に見立ててとかいうんにゃろ」
図星だったらしい。苦笑いを浮かべたまま茸にフォークを突き刺す。
「そ……それもあるけど、この茸は男根を模していて、尿道には練乳のような甘い汁が溜まっている」
そう言うと茸の鈴口を咥え、愛おしそうに舐めたかと思えば一気に噛み千切った。
「茸には白い乳液を分泌する種類も居るため何ら不思議じゃないよ」
「おみゃーさん今おっそろしいこと平然としたにゃ……共食い」
男根を模している茸とはいえ、フォークで刺し何の躊躇いもなく噛み千切る。
男が見たら股間を抑えることは間違いないだろう。
「これは私の一部だからね、還元されてると思えばいいし、直接これを生やすことだって出来る」
「生やす……おみゃーさんまさかとは思うけどこいつで――」
男根そっくりな茸を体に直接生やせる。
茸故に自分で発生させ、もし体の一部としてそれが本物のように使えるとしたら。
嫌な予感が脳裏に走る。
「まさか股を返り血で濡らすとは思いもしなかっ――ぶふぁ!!?」
マッドハッターの頭を掴み、渾身の力で彼女の食べかけのケーキの上に叩きつける。
「やっぱおみゃーかいいぃぃぃぃーーー!!」
「誤解だ、弁解をさせてくれ!」
クリームでベタベタな顔を持ち上げ言い訳を述べる姿は、往生際が悪い推理小説の犯人のようだ。
「閉店後に昨日あったお茶会のケーキの残りがあったのを思い出してだな――」
「さしづめバイトをお茶に誘って媚薬入りのと間違えて食べさせたってオチにゃろうが!!」
完全に図星を突かれ、ぐうの音も出ずケーキの上に撃沈した。
「仕方ないだろう……私も魔物だ。例え向こうから来なくてもこっちから飛び掛かったさ」
「まったく……引き延ばしておきながら酷いオチ――」
その時、チェシャ猫に嫌な予感が走る。
お茶会で残ったお菓子はケーキ、そして今自分が食べているのもケーキ。
種類にもよるがケーキの保存期間は長くて3日。その3日目が今日。
マッドハッターの口ぶりから擦るに、お茶会から今日までの日数は短くて3日。
予感が外れることを祈りつつ、恐る恐る質問する。
「にゃあ……お茶会っていつあった」
「……3日前だが?」
「っ――余ったケーキどこに直した」
「どこって……っあ」
悪い予感が的中し、もしかしてがあるかもしれないと保管場所も聞いたが無駄に終わった。
この先の展開が容易に想像できる為、急いで逃げだした。
しかし辺り一面蜘蛛の巣のように菌糸が張り巡らされ逃げるに逃げ出せない。
「にゃってにゃってにゃってにゃって!」
菌糸を爪で裂こうとするも、ゴムの様な伸縮性のせいで裂くことができない。
「二度あることは、と言うが……君も発情してるし良いよね」
焦りで呂律が回らず、「待って」という言葉になっていない。
むしろ発情した猫のように鳴きわめいているようにしか聞こえない。
「……っ見抜きは――」
「無理」
次の日、帽子屋の店員が1人増えたことは言うまでもないだろう。
14/02/16 23:53更新 / 天パ王