本日の業務:昨日作成の会議資料、最終チェック
黒田 史郎。28歳。童貞。
彼はとてつもない社畜体質であった。
中学時代には先輩に言われて部活の後片付けを夕方までかけて一人でやった。
高校時代には先生に言われて手伝いを黙々とやりすぎて夜まで学校にいた。
バイト時代にはヘルプで呼ばれまくって週1休みが珍しいレベル。
そして転りこんだ小さな会社では上司の命でスーパー社畜戦士となって毎日書類と闘っていた。
気づかぬうちに日を過ぎ、月を過ぎ、年を過ぎ。
酸いも甘いも辛いも苦いもなにも嗅がず、労働の味に流されて知らずに育ってしまった。
目にはクマを。
頬にはやつれを。
口癖には「あぁ、はい」を。
そんな傍から見たら『なにが楽しみで生きてんだこいつ』と心配される彼は今・・・
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
『リーンゴーン♪リーンゴーン♪』
『セイレーン放送でーす。お昼の時間ですよー。皆さん、お昼休みですよー』
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
「いや昼じゃと言うとろーがバカタレーーー!!!やすめーーーーーー!!!」
魔王城、庶務関連部署の一室で、上司の胃をギリギリ言わせていた。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「・・・えー、儂からの報告は以上じゃ・・・何か質問がある者は?」
『はい』×5
「じゃろうなー・・・」
魔王城。
円卓を囲んでの幹部たちの会議。
六人の幹部が円卓を囲んで会議をしているので『六芒会議』(魔王旦那命名)と称される会議の場で、パルンは他幹部からの質問責めに会おうとしていた。
「まず、人間を連れてくるのはいいだろうけど、事務職に就職させるってのは初めてだわ。私たちを通さずにやるのはちょっとどうかしら」
魔王城、総括管理部のエキドナ・メルディア。
現魔王の元乳母でもあり、優秀な魔物たちを育てあげてきた彼女は、組織の中に異端児が混じることをまず懸念した。
ちなみにみんなから『母親のような存在』ともされているが、まだ独身である。あと、案外若い。
「確かに知識・能力が突出したものは採用してもいいだろうが、見るに凡庸の極みではないか。されば子を産ませて育てさせるのが筋だろうが」
「・・・私も、同意見だ」
こちらは軍部のツートップ、軍団指揮のドラゴン・リュグレスと、魔王親衛隊のデュラハン・アルトはその本人の才を見て、採用する価値なしと見ているようだ。
「しかも本人は結婚願望どころか女性との交際時点から興味がないとのこと。そのまま城内にいさせておくのは、結婚推奨・交際必須の我々の風紀に違反するでしょう」
「インフラ担当のワタシの発言。インキュバス化していないニンゲンがいるならば、そのニンゲン用の施設・設備の増設が必要。しかし個数は1。そのためにかかるコストとリターンを考えると、不釣り合い。結論、ニンゲンのまま就職は、不要」
風紀・看護関連管理のアヌビス・クリティウス、インフラ担当のオートマトン・A-アルガティオム3型(通称:えいちゃん)も苦言を呈し、5/6が反対を提示していた。
「いやー・・・あのー・・・じゃなー・・・確かに類を見ないし、ぱっと見はメリットないし、色々面倒ごとが付きまとうんじゃが・・・ここに置いてやりたいと言うか、なんというか・・・」
「確かに貴様の部署は庶務関連ではあるから、書類仕事に人員は必要だが、なにもそいつでなければならんという理由はないだろう」
「いやぁ、理由はー、ないんじゃー、けどもー・・・」
「珍事。パルンの言葉選びとイントネーションに安定さ皆無。平時はもっと鬱陶しさと喧騒さを兼ね備えた歯切れの良い発言」
「・・・事情が、あるのか」
アルトの首を傾げながらの発言に、パルンはまだ「いや、事情というかー・・・情というか・・・なんというか・・・」と歯切れの悪い返答を返す。それを聞いていたメルディアが、パンと手を叩いた。
「なら、こうしましょう。ここ数日の、彼の行動を聞かせてちょうだい」
「・・・えっ」
「それはいいですね。その内容から、その者がここに居ていいものか判断材料を探しましょう。書記は私、クリティウスが受け持ちましょう」
「文字での記録はクリティウス。音声記録はワタシ。録音機能の稼働準備、開始」
「いや、あの、ちょっと待っ」
「待たぬ。このように議題として取り上げられているのだ。言い訳は聞かん。事実を述べろパルン」
「・・・公平な、判断を心がける」
「う、う・・・」
「さぁ、パルン。話しなさい。彼・・・クロダの動向を」
5人(4人と1体)に見つめられたパルンは、苦虫を噛み潰したような顔をしたまま、ぐるりと全員の顔を見た。
「・・・後悔、するんでないぞ」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「とりあえず明日から、お前はここで働いてもらう」
黒田は、庶務担当の部署に連れてこられていた。
魔王城は魔界でも秩序を保った場所であることは自明である。さらに外の世界から連れてこられた夫たちのノウハウを使い、内部組織は大きく分けて6つの部署に分かれていた。
すべての部署を管理運営し、そして経理を兼任する総括部署
ゴーレムや精霊による設備の整備や、環境保全を行うインフラ管理部署。
比較的理性的な魔物たちによる風紀取り締まり、衛生管理を行う風紀・看護部署。
いざという時のための軍部訓練と、適度な運動による健康と夫婦円満(意味深)を推進する軍事部署。
魔王親衛隊から発し、魔王並びに魔物娘の素晴らしさを広報する、親衛隊広報部署。
そして。
魔術研究の傍、様々な手続きや申請を仲介し、魔王城と付近町村の管理を行う庶務部署がある。
ぶっちゃけた話、この庶務部署が一番忙しい。
何生活に関わる手続きだけでなく、新魔術考案の提案、軍部訓練や運動会等のイベント申請、施設の増設、規則の立案、etc.etc...
様々なものが全部庶務部署に一度は回されるために管理すべきものが多種多様で、人手がいつまでも足りない。しかも下手すると窓口の魔物娘がいきなり寿退役とかになって余計に減る。
申請系で特に多いのが別世界出張届けだ。
『出張』とは言うが完全に『婚活』であり、みんな行きたがる。しかも帰ってきたら結婚して育児休暇、なんてザラである。
なので、この申請には一定の規則があり、ある程度のチェックが入る。それでも申請は増えるので、パルンは正直、頭を悩ませていたのだ。
そこへ飛びいり社員?の黒田が来て、パルンはさっそくそこに回すことにした。ちらちらと魔女たちが黒田を見ているが、パルンがじろっと見つめると慌てて手元の仕事に向かう。
ちなみにサリアとマーリィは、黒田の住む部屋の手続きに行っており、別行動である。
「まー、やることはチェックじゃし、マニュアルもある。最初は慣れんと思うから、サリアを監視につけて研修とする。明日の朝からじゃ。遅刻するなよ」
「・・・今やらなくていいんですか?」
「いやなんで今からやるっていう選択肢があるんじゃ」
「・・・転勤1日目から仕事があるのは当たり前では?」
「けんしゅう!儂、研修って言ったの!というか最初は仕事覚えるのが仕事じゃろうが!!!」
「・・・あぁ、はい?」
「なんで小首傾げてんのこいつ・・・まぁ、いい。とりあえず、今は仕事せんでいいから・・・えーとそれじゃあ・・・」
「パルン様〜。総括部署から連絡です〜」
黒田に他の説明をしようとした時、離れた場所にいる魔女から声がかかった。
「なに?・・・ちょっとそこで待ってるが良い」
「・・・あぁ、はい」
パルンはそう指示すると、パカポコと蹄を鳴らして連絡係の魔女の元へ向かっていった。
そして取り残された黒田は・・・
「え〜と、え〜と・・・よし、おーけー!」
「・・・・・・」
「・・・あ、ここミスある。これはダメだから却下印を〜・・・」
「・・・・・・」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「儂、仕事するなって言ったよね!!!?」
数十分に渡り連絡が長引いて、パルンが帰ってきたら時には、黒田はすでに書類のチェックを始めていた。
「しかもなんか速度負けてない!?マニュアル見ながらのこやつの方がチェック速度速くない!!?」
「パルン様!すごいんですよこのお兄さん!私たちより仕事正確で早くて、いひゃい、いひゃい、いひゃい!!」
「儂の話を横で聞いてなかったのかお主はぁぁぁ!?あと自分が新人より遅いことを恥じろぉぉぉ!!!」
黒田に席を譲った魔女の口を左右にびよんびよん伸ばすパルンの肩を、ポンポンと黒田が叩いた。
「えと・・・ぱるん、さん?」
「なんじゃ!?」
「この書類、誤字を訂正して訂正印はしてるんですが、訂正印と提示されてる印が微妙に違うんですが」
「えっ、本当か?いるんじゃよな〜、適当に判子代用しようとするお馬鹿がたまに・・・仕事すんなってばーーーーーー!!!」
パルンの絶叫とともに、昼休みの鐘が鳴った。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「お主には休みたいという欲望はないのか?」
「・・・人並みにはあるかと」
「人並みにあったら初日から昼休み返上して仕事しようとはせん」
昼休み。
仕事しようとする黒田を魔術でふんじばって食堂まで引きずってきたパルンは、黒田と昼食を取ろうとしていた。
ちなみにパルンは幹部ランチ(パルン用お子○ランチ)、黒田はパルンの奢りでホットサンドイッチセットだった。
「しっかり食べるのじゃぞ。ここのホットサンドイッチセットは野菜も肉も入ってて美味いからの」
「・・・あぁ、はい」
「では、いただきまーす♪」
「・・・いただきます」
パルンはオムライスを口に運んで満面の笑みを浮かべ、黒田はサンドイッチを頬張る。焼いて綺麗な茶色になったパンから、サクッといういい音がする。
(もぐもぐもぐ・・・)
「ん〜、んまいっ!やはり我らが魔王城の食事は格別じゃ!」
(もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・)
「本来なら魔界特産の食べ物を勧めるんじゃが・・・まぁ、最初はニンゲンが普段食べてるものに近いものからがいいじゃろ・・・ん?」
(もぐ・・・もぐ・・・もぐ・・・)
「・・・なんじゃ?嫌いなものでも入っていたか?一口目から進んでないぞ?」
すると、黒田はごくんと口の中を飲み込んだ後、自分の頬をさすった。
「・・・久々にしっかり噛んだせいか、顎が疲れました」
次の瞬間、パルンがランチプレートに頭を突っ込んだ。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「もうやじゃこいつ・・・」
「・・・昼食、ごちそうさまでした」
「認めないよー!?『牛丼は混ぜてかっこんでたのであまり噛んでませんでした』とか言う奴のご馳走様は認めないよ儂ー!!」
昼休みの後。
ちょっとやることがあるからと部署に戻って色々やった後、さらりと仕事を始めてる黒田と、仕事を渡して「あっ、やべっ」て顔してる魔女に怒鳴った後、パルンは黒田を部屋に連れて行っていた。
「今からお前の部屋に行く。まぁ、あれじゃ、シャタク?というやつじゃな」
「・・・社宅ですか?・・・自分、荷物がまだですが・・・」
「あー、サリアに命じて転送させるから気にするでない」
「・・・あぁ、はい?」
「てんそう?」と首をかしげる黒田に、ふと思ったパルンは話を変えた。
「そういやお主、あの職場で平気か?」
「・・・どういうことです?」
「周りは魔女だらけじゃからな。お主から見たら幼女に囲まれとるじゃろ、気にならんか?いや、なってくれた方が儂はありがたいが」
「・・・そう、でしたか?周りに誰がいるか、あまり気にしてませんでした」
「そう、か?なんかおかしいのぅ、お主」
「・・・仕事中に、仕事以外に気を向けてられません」
その言葉にまたパルンは「ん″んっ」とかいう嗚咽を漏らしたが、とある部屋の前で「あぁ、ここじゃ」と止まった。
「ここがお前の部屋じゃ、入ってみ」
「・・・はい」
黒田が開けた扉の中の部屋は、綺麗な1LDKだった。
ピカピカのフローリングに、小さなシステムキッチン。洗面所にトイレ、風呂もあり、広めのリビング。さらに寝室部屋には据え置きのベッドがあった。
「インフラ係のトップが『生命活動に必要、質の高い睡眠』と豪語していてな。ベッドは彼奴が研究を重ねて作り上げた最高級品じゃ。今晩はぐっすり眠ると良い」
「・・・はぁ・・・」
「さて、今日はもうゆっくりすると良い。仕事は休みじゃ。休みじゃからな。休みじゃぞ!」
「・・・あぁ、はい」
「うむ、では夕方になったら夕食に誘いに来る。ゆっくり休んでおけ・・・絶ッッッッッッ対じゃぞ!!!」
パルンが超強調した後に、バタンと閉じた扉を見送り、黒田はぐるりと部屋を見渡した。
(・・・広いな)
彼が元いた部屋は家賃が極端に安いボロアパートだった。狭い1Kで、燻んだ色をした畳に煎餅布団より薄い万年床が敷かれ、滅多に使われないシンクにはいつから洗ってないかわからない食器が水に浸かっていたものだ。
確か、一週間だか二週間だか前に見た部屋はそんな感じだったと。黒田はうすらぼんやりと思い出していた。
(・・・休めと言われたが、なにをしようか)
パルンが聞いたら卒倒しそうなことを思いつつ、黒田はキョロキョロと周りを見渡していた。いつもであれば、溜まりに溜まった洗濯物や、放置しすぎていた食器を片すのだが、それもない。
疲れを取るには風呂にゆっくり浸かったりするのもいいはずだが、いつもシャワー族の彼は、風呂場でゆっくりするという考えがなかった。
(・・・寝るか)
いい具合に、すでにベッドはある。黒田はスーツの上着とズボン、ワイシャツを脱いでベッドに入った。
ベッドは素晴らしいものだった。
マットレスはスライムゼリーをモデルに作られたジェルを内包しており、ゆっくりと体を包み込むように沈みこむ。
敷きパッドはアラクネ種の糸を編み込んだ通気性の良いもので、必要以上に蒸すこともなく、肌触りも抜群である。
極めつけは掛け布団と枕。ハーピー種の羽毛と魔猪の毛をふんだんに使い、暖かく、かといって重くない、まるで暖かい空気をそのまま身に纏うような夢ごごち気分を味わえる。
そんなベッドに横になった黒田は・・・
「なにこれ、寝づらい」
十数秒でベッドから降りて、フローリングにごろりと寝っ転がって眠りこけ、夕食に呼びに来たパルンとサリアとマーリィを卒倒させた。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「・・・以上が1日目じゃが・・・二日目聞くか?」
「待ってくれ。私が悪かったから、ちょっと待ってくれ」
死んだ目で語るパルンに、目頭を押さえたリュグレスが待ったをかけた。
「いや、あの、なんなんだ。そいつはなんなんだ」
「知らん。儂が知りたい。怒鳴るまで仕事やめないし、言動の端々で儂らの正気度削って来るし。もぅあたしやだあのひとのはなしききたくない。けどほっとけないの、ほっといたらおしごとしちゃうの。たすけて」
「わかった、お前の言語能力が凄まじく低レベルになる程度にまずいのはわかった。正気度はすでに二人が削りきられてるしな」
リュグレスがちらりと二人を見る。その二人は、片や書記を辞めて会議中なのに部下と連絡を取り、片や魔術式モニターを起動して設計図とにらめっこしていた。
「・・・ですからすぐに食堂メニューに柔らかい系の栄養食を追加するのです。麺類はダメです。多分飲み込んでしまいます。ライス系統も怪しいでしょう・・・はい?注文が漠然すぎる?魔界豚の肉はどうか?そんなもん使ったら顎外れるでしょうガァ!!!」
「・・・不可解不可解不可解。人体工学の叡智を集めた寝具を否定。過去アンケート満足度100%の寝具よりフローリング優先?硬度が大事??しかし硬度が高いと肉体の疲労回復の妨げ、しかし睡眠導入に失敗??睡眠導入後に寝具硬度緩和するならば意識レベルをモニター?しかし余計な付属品はさらに睡眠導入の妨げ・・・」
部下が何か失言したのか、クリティウスが連絡機片手にガチギレし、えいちゃんは頭から黒煙をぶすぶすあげながら設計図になにか書き加えては消し、書き加えては消しを繰り返している。
「もうやだよぅ、あのひとあたしがいわなくてもかってにしごとさがしはじめるんだもん。きょうのこのかいぎのしりょうだって、うちのおばかまじょがたのんだらぺらっとつくっちゃうんだもん」
「なんか今日の貴様の部署の資料、いつもとレイアウト違うし内容まとまってて見やすいなとか思ったらそいつか!!クロダが作ったのかこれ!!!」
慌ててリュグレスが会議資料を見直すと、いつもだと乱雑にやったことが並んでたり、要点が絞りきれてなかったりとしてたのが、今回はキチンと整理され、要点と現状、予測と対策が分けられて書かれており、今までの資料と雲泥の差だった。
「こ、これはどうだ・・・なんか、最初とは違う意味で、城で働かせてはいけない気が・・・いやしかし放置するとさらに仕事を・・・アルト、貴様はどう思」
「・・・・・・」
「・・・アルト、なんで天井を見てる」
「・・・泣いてない」
「いや、私はなぜ上を見てるのかと」
「(ぼろん)泣いでないっでいっでるでじょう馬鹿、涙腺崩壊じぞうなんだがらぼっどいでよぉ!!!」
「安心しろ!手遅れだ!頭外れて本音が出でどっばどばに涙出てるから!!!」
アルトがわんわん泣き始めて、パルンが死んだ目でひらがなを喋り、クリティウスはギャーギャー喚き、えいちゃんはエラーを起こして突っ伏してしまった。
「じ、地獄だ・・・」
なんとか正気度を保って入られたリュグレスは、助けを求めるようにメルディアに視線を向け・・・
『我が子をあやしに行ってきます』
「・・・・・・」
座席に貼られた書き置きに、今回の会議の閉会を決意するのだった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[六芒会議議事録]
・今回の決議
庶務部署に新人有
少々、癖のある人材
各部署へ通達
この新人に仕事与えることなかれ
特に庶務部署
仕事を新人に回すことを強く禁ずる
規則制定の必要性・緊急性あり
「・・・・・・え?どーゆーことよ、これ?」
彼はとてつもない社畜体質であった。
中学時代には先輩に言われて部活の後片付けを夕方までかけて一人でやった。
高校時代には先生に言われて手伝いを黙々とやりすぎて夜まで学校にいた。
バイト時代にはヘルプで呼ばれまくって週1休みが珍しいレベル。
そして転りこんだ小さな会社では上司の命でスーパー社畜戦士となって毎日書類と闘っていた。
気づかぬうちに日を過ぎ、月を過ぎ、年を過ぎ。
酸いも甘いも辛いも苦いもなにも嗅がず、労働の味に流されて知らずに育ってしまった。
目にはクマを。
頬にはやつれを。
口癖には「あぁ、はい」を。
そんな傍から見たら『なにが楽しみで生きてんだこいつ』と心配される彼は今・・・
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
『リーンゴーン♪リーンゴーン♪』
『セイレーン放送でーす。お昼の時間ですよー。皆さん、お昼休みですよー』
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
「・・・・・・」
『カリカリカリ・・・カサッ、ペタン』
「いや昼じゃと言うとろーがバカタレーーー!!!やすめーーーーーー!!!」
魔王城、庶務関連部署の一室で、上司の胃をギリギリ言わせていた。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「・・・えー、儂からの報告は以上じゃ・・・何か質問がある者は?」
『はい』×5
「じゃろうなー・・・」
魔王城。
円卓を囲んでの幹部たちの会議。
六人の幹部が円卓を囲んで会議をしているので『六芒会議』(魔王旦那命名)と称される会議の場で、パルンは他幹部からの質問責めに会おうとしていた。
「まず、人間を連れてくるのはいいだろうけど、事務職に就職させるってのは初めてだわ。私たちを通さずにやるのはちょっとどうかしら」
魔王城、総括管理部のエキドナ・メルディア。
現魔王の元乳母でもあり、優秀な魔物たちを育てあげてきた彼女は、組織の中に異端児が混じることをまず懸念した。
ちなみにみんなから『母親のような存在』ともされているが、まだ独身である。あと、案外若い。
「確かに知識・能力が突出したものは採用してもいいだろうが、見るに凡庸の極みではないか。されば子を産ませて育てさせるのが筋だろうが」
「・・・私も、同意見だ」
こちらは軍部のツートップ、軍団指揮のドラゴン・リュグレスと、魔王親衛隊のデュラハン・アルトはその本人の才を見て、採用する価値なしと見ているようだ。
「しかも本人は結婚願望どころか女性との交際時点から興味がないとのこと。そのまま城内にいさせておくのは、結婚推奨・交際必須の我々の風紀に違反するでしょう」
「インフラ担当のワタシの発言。インキュバス化していないニンゲンがいるならば、そのニンゲン用の施設・設備の増設が必要。しかし個数は1。そのためにかかるコストとリターンを考えると、不釣り合い。結論、ニンゲンのまま就職は、不要」
風紀・看護関連管理のアヌビス・クリティウス、インフラ担当のオートマトン・A-アルガティオム3型(通称:えいちゃん)も苦言を呈し、5/6が反対を提示していた。
「いやー・・・あのー・・・じゃなー・・・確かに類を見ないし、ぱっと見はメリットないし、色々面倒ごとが付きまとうんじゃが・・・ここに置いてやりたいと言うか、なんというか・・・」
「確かに貴様の部署は庶務関連ではあるから、書類仕事に人員は必要だが、なにもそいつでなければならんという理由はないだろう」
「いやぁ、理由はー、ないんじゃー、けどもー・・・」
「珍事。パルンの言葉選びとイントネーションに安定さ皆無。平時はもっと鬱陶しさと喧騒さを兼ね備えた歯切れの良い発言」
「・・・事情が、あるのか」
アルトの首を傾げながらの発言に、パルンはまだ「いや、事情というかー・・・情というか・・・なんというか・・・」と歯切れの悪い返答を返す。それを聞いていたメルディアが、パンと手を叩いた。
「なら、こうしましょう。ここ数日の、彼の行動を聞かせてちょうだい」
「・・・えっ」
「それはいいですね。その内容から、その者がここに居ていいものか判断材料を探しましょう。書記は私、クリティウスが受け持ちましょう」
「文字での記録はクリティウス。音声記録はワタシ。録音機能の稼働準備、開始」
「いや、あの、ちょっと待っ」
「待たぬ。このように議題として取り上げられているのだ。言い訳は聞かん。事実を述べろパルン」
「・・・公平な、判断を心がける」
「う、う・・・」
「さぁ、パルン。話しなさい。彼・・・クロダの動向を」
5人(4人と1体)に見つめられたパルンは、苦虫を噛み潰したような顔をしたまま、ぐるりと全員の顔を見た。
「・・・後悔、するんでないぞ」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「とりあえず明日から、お前はここで働いてもらう」
黒田は、庶務担当の部署に連れてこられていた。
魔王城は魔界でも秩序を保った場所であることは自明である。さらに外の世界から連れてこられた夫たちのノウハウを使い、内部組織は大きく分けて6つの部署に分かれていた。
すべての部署を管理運営し、そして経理を兼任する総括部署
ゴーレムや精霊による設備の整備や、環境保全を行うインフラ管理部署。
比較的理性的な魔物たちによる風紀取り締まり、衛生管理を行う風紀・看護部署。
いざという時のための軍部訓練と、適度な運動による健康と夫婦円満(意味深)を推進する軍事部署。
魔王親衛隊から発し、魔王並びに魔物娘の素晴らしさを広報する、親衛隊広報部署。
そして。
魔術研究の傍、様々な手続きや申請を仲介し、魔王城と付近町村の管理を行う庶務部署がある。
ぶっちゃけた話、この庶務部署が一番忙しい。
何生活に関わる手続きだけでなく、新魔術考案の提案、軍部訓練や運動会等のイベント申請、施設の増設、規則の立案、etc.etc...
様々なものが全部庶務部署に一度は回されるために管理すべきものが多種多様で、人手がいつまでも足りない。しかも下手すると窓口の魔物娘がいきなり寿退役とかになって余計に減る。
申請系で特に多いのが別世界出張届けだ。
『出張』とは言うが完全に『婚活』であり、みんな行きたがる。しかも帰ってきたら結婚して育児休暇、なんてザラである。
なので、この申請には一定の規則があり、ある程度のチェックが入る。それでも申請は増えるので、パルンは正直、頭を悩ませていたのだ。
そこへ飛びいり社員?の黒田が来て、パルンはさっそくそこに回すことにした。ちらちらと魔女たちが黒田を見ているが、パルンがじろっと見つめると慌てて手元の仕事に向かう。
ちなみにサリアとマーリィは、黒田の住む部屋の手続きに行っており、別行動である。
「まー、やることはチェックじゃし、マニュアルもある。最初は慣れんと思うから、サリアを監視につけて研修とする。明日の朝からじゃ。遅刻するなよ」
「・・・今やらなくていいんですか?」
「いやなんで今からやるっていう選択肢があるんじゃ」
「・・・転勤1日目から仕事があるのは当たり前では?」
「けんしゅう!儂、研修って言ったの!というか最初は仕事覚えるのが仕事じゃろうが!!!」
「・・・あぁ、はい?」
「なんで小首傾げてんのこいつ・・・まぁ、いい。とりあえず、今は仕事せんでいいから・・・えーとそれじゃあ・・・」
「パルン様〜。総括部署から連絡です〜」
黒田に他の説明をしようとした時、離れた場所にいる魔女から声がかかった。
「なに?・・・ちょっとそこで待ってるが良い」
「・・・あぁ、はい」
パルンはそう指示すると、パカポコと蹄を鳴らして連絡係の魔女の元へ向かっていった。
そして取り残された黒田は・・・
「え〜と、え〜と・・・よし、おーけー!」
「・・・・・・」
「・・・あ、ここミスある。これはダメだから却下印を〜・・・」
「・・・・・・」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「儂、仕事するなって言ったよね!!!?」
数十分に渡り連絡が長引いて、パルンが帰ってきたら時には、黒田はすでに書類のチェックを始めていた。
「しかもなんか速度負けてない!?マニュアル見ながらのこやつの方がチェック速度速くない!!?」
「パルン様!すごいんですよこのお兄さん!私たちより仕事正確で早くて、いひゃい、いひゃい、いひゃい!!」
「儂の話を横で聞いてなかったのかお主はぁぁぁ!?あと自分が新人より遅いことを恥じろぉぉぉ!!!」
黒田に席を譲った魔女の口を左右にびよんびよん伸ばすパルンの肩を、ポンポンと黒田が叩いた。
「えと・・・ぱるん、さん?」
「なんじゃ!?」
「この書類、誤字を訂正して訂正印はしてるんですが、訂正印と提示されてる印が微妙に違うんですが」
「えっ、本当か?いるんじゃよな〜、適当に判子代用しようとするお馬鹿がたまに・・・仕事すんなってばーーーーーー!!!」
パルンの絶叫とともに、昼休みの鐘が鳴った。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「お主には休みたいという欲望はないのか?」
「・・・人並みにはあるかと」
「人並みにあったら初日から昼休み返上して仕事しようとはせん」
昼休み。
仕事しようとする黒田を魔術でふんじばって食堂まで引きずってきたパルンは、黒田と昼食を取ろうとしていた。
ちなみにパルンは幹部ランチ(パルン用お子○ランチ)、黒田はパルンの奢りでホットサンドイッチセットだった。
「しっかり食べるのじゃぞ。ここのホットサンドイッチセットは野菜も肉も入ってて美味いからの」
「・・・あぁ、はい」
「では、いただきまーす♪」
「・・・いただきます」
パルンはオムライスを口に運んで満面の笑みを浮かべ、黒田はサンドイッチを頬張る。焼いて綺麗な茶色になったパンから、サクッといういい音がする。
(もぐもぐもぐ・・・)
「ん〜、んまいっ!やはり我らが魔王城の食事は格別じゃ!」
(もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・)
「本来なら魔界特産の食べ物を勧めるんじゃが・・・まぁ、最初はニンゲンが普段食べてるものに近いものからがいいじゃろ・・・ん?」
(もぐ・・・もぐ・・・もぐ・・・)
「・・・なんじゃ?嫌いなものでも入っていたか?一口目から進んでないぞ?」
すると、黒田はごくんと口の中を飲み込んだ後、自分の頬をさすった。
「・・・久々にしっかり噛んだせいか、顎が疲れました」
次の瞬間、パルンがランチプレートに頭を突っ込んだ。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「もうやじゃこいつ・・・」
「・・・昼食、ごちそうさまでした」
「認めないよー!?『牛丼は混ぜてかっこんでたのであまり噛んでませんでした』とか言う奴のご馳走様は認めないよ儂ー!!」
昼休みの後。
ちょっとやることがあるからと部署に戻って色々やった後、さらりと仕事を始めてる黒田と、仕事を渡して「あっ、やべっ」て顔してる魔女に怒鳴った後、パルンは黒田を部屋に連れて行っていた。
「今からお前の部屋に行く。まぁ、あれじゃ、シャタク?というやつじゃな」
「・・・社宅ですか?・・・自分、荷物がまだですが・・・」
「あー、サリアに命じて転送させるから気にするでない」
「・・・あぁ、はい?」
「てんそう?」と首をかしげる黒田に、ふと思ったパルンは話を変えた。
「そういやお主、あの職場で平気か?」
「・・・どういうことです?」
「周りは魔女だらけじゃからな。お主から見たら幼女に囲まれとるじゃろ、気にならんか?いや、なってくれた方が儂はありがたいが」
「・・・そう、でしたか?周りに誰がいるか、あまり気にしてませんでした」
「そう、か?なんかおかしいのぅ、お主」
「・・・仕事中に、仕事以外に気を向けてられません」
その言葉にまたパルンは「ん″んっ」とかいう嗚咽を漏らしたが、とある部屋の前で「あぁ、ここじゃ」と止まった。
「ここがお前の部屋じゃ、入ってみ」
「・・・はい」
黒田が開けた扉の中の部屋は、綺麗な1LDKだった。
ピカピカのフローリングに、小さなシステムキッチン。洗面所にトイレ、風呂もあり、広めのリビング。さらに寝室部屋には据え置きのベッドがあった。
「インフラ係のトップが『生命活動に必要、質の高い睡眠』と豪語していてな。ベッドは彼奴が研究を重ねて作り上げた最高級品じゃ。今晩はぐっすり眠ると良い」
「・・・はぁ・・・」
「さて、今日はもうゆっくりすると良い。仕事は休みじゃ。休みじゃからな。休みじゃぞ!」
「・・・あぁ、はい」
「うむ、では夕方になったら夕食に誘いに来る。ゆっくり休んでおけ・・・絶ッッッッッッ対じゃぞ!!!」
パルンが超強調した後に、バタンと閉じた扉を見送り、黒田はぐるりと部屋を見渡した。
(・・・広いな)
彼が元いた部屋は家賃が極端に安いボロアパートだった。狭い1Kで、燻んだ色をした畳に煎餅布団より薄い万年床が敷かれ、滅多に使われないシンクにはいつから洗ってないかわからない食器が水に浸かっていたものだ。
確か、一週間だか二週間だか前に見た部屋はそんな感じだったと。黒田はうすらぼんやりと思い出していた。
(・・・休めと言われたが、なにをしようか)
パルンが聞いたら卒倒しそうなことを思いつつ、黒田はキョロキョロと周りを見渡していた。いつもであれば、溜まりに溜まった洗濯物や、放置しすぎていた食器を片すのだが、それもない。
疲れを取るには風呂にゆっくり浸かったりするのもいいはずだが、いつもシャワー族の彼は、風呂場でゆっくりするという考えがなかった。
(・・・寝るか)
いい具合に、すでにベッドはある。黒田はスーツの上着とズボン、ワイシャツを脱いでベッドに入った。
ベッドは素晴らしいものだった。
マットレスはスライムゼリーをモデルに作られたジェルを内包しており、ゆっくりと体を包み込むように沈みこむ。
敷きパッドはアラクネ種の糸を編み込んだ通気性の良いもので、必要以上に蒸すこともなく、肌触りも抜群である。
極めつけは掛け布団と枕。ハーピー種の羽毛と魔猪の毛をふんだんに使い、暖かく、かといって重くない、まるで暖かい空気をそのまま身に纏うような夢ごごち気分を味わえる。
そんなベッドに横になった黒田は・・・
「なにこれ、寝づらい」
十数秒でベッドから降りて、フローリングにごろりと寝っ転がって眠りこけ、夕食に呼びに来たパルンとサリアとマーリィを卒倒させた。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「・・・以上が1日目じゃが・・・二日目聞くか?」
「待ってくれ。私が悪かったから、ちょっと待ってくれ」
死んだ目で語るパルンに、目頭を押さえたリュグレスが待ったをかけた。
「いや、あの、なんなんだ。そいつはなんなんだ」
「知らん。儂が知りたい。怒鳴るまで仕事やめないし、言動の端々で儂らの正気度削って来るし。もぅあたしやだあのひとのはなしききたくない。けどほっとけないの、ほっといたらおしごとしちゃうの。たすけて」
「わかった、お前の言語能力が凄まじく低レベルになる程度にまずいのはわかった。正気度はすでに二人が削りきられてるしな」
リュグレスがちらりと二人を見る。その二人は、片や書記を辞めて会議中なのに部下と連絡を取り、片や魔術式モニターを起動して設計図とにらめっこしていた。
「・・・ですからすぐに食堂メニューに柔らかい系の栄養食を追加するのです。麺類はダメです。多分飲み込んでしまいます。ライス系統も怪しいでしょう・・・はい?注文が漠然すぎる?魔界豚の肉はどうか?そんなもん使ったら顎外れるでしょうガァ!!!」
「・・・不可解不可解不可解。人体工学の叡智を集めた寝具を否定。過去アンケート満足度100%の寝具よりフローリング優先?硬度が大事??しかし硬度が高いと肉体の疲労回復の妨げ、しかし睡眠導入に失敗??睡眠導入後に寝具硬度緩和するならば意識レベルをモニター?しかし余計な付属品はさらに睡眠導入の妨げ・・・」
部下が何か失言したのか、クリティウスが連絡機片手にガチギレし、えいちゃんは頭から黒煙をぶすぶすあげながら設計図になにか書き加えては消し、書き加えては消しを繰り返している。
「もうやだよぅ、あのひとあたしがいわなくてもかってにしごとさがしはじめるんだもん。きょうのこのかいぎのしりょうだって、うちのおばかまじょがたのんだらぺらっとつくっちゃうんだもん」
「なんか今日の貴様の部署の資料、いつもとレイアウト違うし内容まとまってて見やすいなとか思ったらそいつか!!クロダが作ったのかこれ!!!」
慌ててリュグレスが会議資料を見直すと、いつもだと乱雑にやったことが並んでたり、要点が絞りきれてなかったりとしてたのが、今回はキチンと整理され、要点と現状、予測と対策が分けられて書かれており、今までの資料と雲泥の差だった。
「こ、これはどうだ・・・なんか、最初とは違う意味で、城で働かせてはいけない気が・・・いやしかし放置するとさらに仕事を・・・アルト、貴様はどう思」
「・・・・・・」
「・・・アルト、なんで天井を見てる」
「・・・泣いてない」
「いや、私はなぜ上を見てるのかと」
「(ぼろん)泣いでないっでいっでるでじょう馬鹿、涙腺崩壊じぞうなんだがらぼっどいでよぉ!!!」
「安心しろ!手遅れだ!頭外れて本音が出でどっばどばに涙出てるから!!!」
アルトがわんわん泣き始めて、パルンが死んだ目でひらがなを喋り、クリティウスはギャーギャー喚き、えいちゃんはエラーを起こして突っ伏してしまった。
「じ、地獄だ・・・」
なんとか正気度を保って入られたリュグレスは、助けを求めるようにメルディアに視線を向け・・・
『我が子をあやしに行ってきます』
「・・・・・・」
座席に貼られた書き置きに、今回の会議の閉会を決意するのだった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
[六芒会議議事録]
・今回の決議
庶務部署に新人有
少々、癖のある人材
各部署へ通達
この新人に仕事与えることなかれ
特に庶務部署
仕事を新人に回すことを強く禁ずる
規則制定の必要性・緊急性あり
「・・・・・・え?どーゆーことよ、これ?」
17/09/20 00:42更新 / みきりお
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