読切小説
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bloomin’ feeling
そよそよと、微かな風が頬を撫で、草を靡かせる。ぽかぽかと暖かい陽気が降り注ぎ、俺達の体を包み込む。日の光を存分に吸収した黄色い花が、野原一面に咲き、輝く。
安息日には、家の前のそんな草原で日向ぼっこをするのが、俺たち夫婦の習慣だ。

「良い気持ちですねぇ〜」
この陽気に当てられたのか、溶けたような声で、俺の横に寝転ぶ妻が言う。
「そうさねぇ〜。何にもする気がなくなっちまうなぁ」
返す俺も、大概ボケた声。陽気にやられたのは妻だけじゃないようだ。
「こんな日はこうやってごろごろしてるのが一番です〜」
「お前は何時だってごろごろしてるだろ」
「そんなことないですよ〜。このところ忙しかったじゃないですか〜」
「殆ど俺が働いてたじゃないか」
苦笑して答えた。

俺たち夫婦はこの草原で牧場を経営している。牧場、と言っても、ホルスタウロスである妻の乳を細々と売っているだけの小さなものなのだが。
最近、健康ブームとかなんとかで、街でホルスタウロスの乳の需要が高まっているらしく、引っ切り無しに注文の電話がかかってきていたのだ。おかげで俺達しかいない牧場は対応だけでてんやわんや。のほほんとしている妻に営業は不可能、となると、殆ど全ての電話に俺が応対することになる。お陰で徹夜な毎日。二人でのんびり、細々と暮らすためにわざわざ都会を離れてこの郊外の草原に移住したというのに・・・。まあ、我が愛しき妻は俺が四苦八苦している横でグースカ寝てらっしゃったけれども。

「そうでしたっけ〜?まあ、忙しい事は良い事ですし〜」
「適度に、なら良いんだけどねぇ。こっちの体が持たないっての」
ふああと、大きなあくびをひとつ。当たり前だが少し眠い。
妻はエヘヘ、と嬉しそうに笑うと、俺の体をひしと抱きしめた。
「遅くまで頑張ってくれましたもんね〜。いいこ、いいこ」
言いながら、妻は、その豊かな胸の中に抱きとめた俺の頭を撫でる。
まるで子供にするかのような扱い。しかし、不快感は全く湧きあがってこない。
むしろ、心地よい。本当に母親にあやしてもらっているような安心感を感じられる。抱きしめてもらったような温かみを感じられる。
・・・やっぱり、妻にはかなわないな。

「でも〜、頑張りすぎると体に毒ですよ〜。疲れたらゆっくり休まないと〜。ね?」
俺を抱きしめたまま、妻は体を横たえる。俺も、彼女の体に腕を回しながら、地に全身をゆだねる。
「リラックスして〜、頭の中カラッポにして〜、何も考えずに〜」
妻が小声で俺に囁くごとに、今まで溜めこんできた疲れが、ジワリジワリと体を包み込んでいく。同時に、言いようもないくらい強い眠気が、俺の体内に広がっていく。
そして、広がった眠気は、肌に与えられる温かさと、背中をそよそよと撫でる風の心地よさで、一気に倍増する。
「エヘヘ、おやすみなさい、あなた」
この言葉とともに、抗いがたい睡魔に身を任せ、気持ちのいい暗闇に意識を投じた。

――――――――――――――――――――――

すーすー、と、規則正しい寝息が私の胸から聞こえる。
少しだけ体をそらして、旦那様の寝顔を覗きこむ。ああ、かわいい寝顔。
じっと見とれていると、少しだけ体を離したのが気に入らないのか、かわいい旦那様は、私の体をぐいと引きよせ、顔を胸に押しつける。
まるで子供みたいな彼のしぐさに、エヘヘと思わず笑みが漏れる。

・・・暫く彼の温かさを楽しんでいるうち、体が熱を帯びていくのに気づいた。そういえば、最近ご無沙汰だったなぁ・・・。てんやわんやしている旦那様に抱いて、ともいえなかったし・・・。
意識すればするほど熱くなっていく体。飛びそうになる理性。

えーい、襲ってしまおうかと再び体をそらすも、さっきと変わらない彼の気持ちよさそうな寝顔が目に飛び込んできて、飛んでいきそうになった理性が戻ってくる。
いけない。旦那様の久々の熟睡をじゃましちゃいけない。

・・・けれど、魔物としての本能が、彼を欲している。
いけいけ、やっちゃえ。精がなければ、私たちは生きていけないんだから、と。
・・・いやいや、と、私の中の理性の天使が囁きかける。
だめですよ。疲れている夫を休ましてあげるのが、良き妻でしょう、と。

二つの声が頭の中でぶつかり合う。
いけ、だめだ、いけ、だめだ、いけだめいけだめいけだいけいけいけいけいっちゃえ・・・・・・・

――――――――――――――――――――

ふわりふわりと、沈んでいた意識が浮上してくる。
まだ肌に感じる温かみ。どうやら、妻は俺が寝ている間ずっと抱きしめてくれていたらしい。
おはよう、と声をかけようとすると、頭の上のほうから、すーすーと、規則的な呼吸が聞こえてきた。
どうやら、彼女も寝てしまったらしい。
少しだけ顔を胸から離し、妻の顔を覗き込む。
かわいらしい、何時もの寝顔。フフ、と顔がゆるむ。
こうなると彼女はもう起きないだろう。
・・・いや、俺が体をひっぺがしたら流石に起きるか。
それは忍びなく感じられたので、再び胸に顔をうずめる。
ぼうっとしているうちに、先ほどまで寝ていたというに、またも眠気が湧きあがってきた。
ホルスタウロスには眠気を誘引する能力でもあるのだろうか、なんてぼうっと考えながら、再び目を閉じる。

妻のてらてらと光る唇から、エヘヘ〜という閉まりない声が発せられる前に、俺の意識は再度途切れた。
11/09/02 00:56更新 / akaituti

■作者メッセージ
魔物娘初SS。
やっぱ最初はあちきの好きなほのぼの系書きたいべな〜とか思って(なぜかかなりの難産の末)できた当作品。
見事にヤマなしオチなしイミなしな作品に仕上がりました。

まあ、そのかわり作者の願望は少ない字数にきっちり詰め込めましたので、一応満足。
・・・まあ、至らないとこなんて挙げ出したらキリないけど。
後半雑だし、会話噛みあってねーなー、とか思ったりするとこあるし。なら直せよ。

とまれかくまれ、楽しんでいただけたらこれ幸い。

最後に一言。

誰かもっとホルスタウロスさんのSS書いてくれ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!111

お粗末。

【追記】リクエストある方は気軽に感想欄でお申し付けくださいませ〜。

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