連載小説
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春風、舞洲、夢の島
「495っ…496っ…」

汗と涙とをほとばしらせ、一心不乱に棒っきれをふりこみ球を打つ。
いえいえ下ネタじゃありゃせんです、こう見えてこの仕事で700万もらってます。

「500っ…!」

「おし、上がってええぞ。明後日の鳴尾浜のゲーム、サードで行ってくれ。トミが月のモンでダウンしとるでな…」

「ウッス!ありがとうございました!」

俺、岸慎太郎が大坂タウラスから指名を受け、文字通り魑魅魍魎が棲むジパングプロ野球の世界に飛び込んではや4年。
最初の頃こそ一軍で使ってもらえてたけど…
今ではすっかり2軍が仕事場の四番手キャッチャーです。
それどころか、最近じゃキャッチャーとしてすら試合に出してもらえなくなりつつあるよーな…

みぃぃぃん…みゅぃぃぃいぃいいん…

「おわっ!俺のしみったれたモノローグの邪魔すんな!」

みゅぅ〜ん…

「はぁ、ブルペンのロジンがなくなった?それぐらいマネージャーに頼んでよ….」

みゅぅぅぅ…

「あー、わかった。あとで持ってってやるからサ…」

こっちの世界はプロ野球選手のうち7割が魔物ですから、まぁいろんなことが起こります。
さっきの超音波な彼女は恩田鳴。ややコミュ障なワーバット。
あんな子ですが、マウンドじゃしっかりやってくれるんです。
ひとまずアクエリで一服して、持っていってやるか。

「って、空じゃねーか!誰だよ!飲んだやつ!」

「あら、いややわあ。間接キスしてしもたかなあ。」

ロッカーの影から淫靡なしっぽがひーらひら。

「どーせまたわざとでしょ、桟敷先輩。」

この人からは入団以来イジられっぱなしだ。
妖狐の桟敷吉乃さん。
幻惑派投手として我がチームのローテの一角を担う主力だ。

「まだ5月入ったばっかなのにもう落ちてきちゃったんですか?」

「ううーん、先週のハーピーズ戦の後から腰がいとーていとーて。誰かがマッサージしてくれたらすぐにでも治るんやけどなあ。」

「またまた。ウエスタンで投げる時はお供しますから、トレーナーにでも頼んでください。」

「ああん、いけずぅ。」

さて、エロ狐先輩はさておき、お使いを…

「おい、慎太郎!午後の交流試合外野で行けるか!?」

「へぇ!?いや、行けますけど!どうしてまた急に」

「風谷なんやが…海風に乗ってどっか飛んで行ってもーた…」

「ふーちゃん鳥頭だから、今日の先発忘れてるな…ってあいつセンターでしょ!いくらなんでもやったことないとこをぶっつけはキツいっすよ!」

「ライトの森本をセンターに回す…お前はライトを頼む…」

「心中お察しします…わかりました。」

タウラスの若手選手が夢を見て汗を流す舞洲はいつもドタバタです。


……………………………〒


「なんとか勝てたな…」

「ははっ、プロがそう簡単にアマに負けるわけには行きませんから。」

「飛び入りで3打数2安打、十分合格や。よくやってくれたわ。ご褒美ってわけちゃうけど、明日の遠征はお前行かんでええぞ」

「1日前倒しのオフですか?」

「明日は大坂ドームに行け。一軍や!」


23/03/04 23:20更新 / ランディ
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