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その2 |
俺はアミュに道案内されながら、丘を降りた先の町へとたどり着いた。
「ここが町か...まあ、予想は出来てたが町の外から見ても妙な建物が目立つな」 外から見える限りでも、トランプのスートの形を模した家や、やたら色使いが鮮やかな家、ねじれにねじれまくっている家など、俺達の世界では考えられないような建築物が目立つ。 まあ、この世界じゃあれが普通な建築様式なのだろう。そう自分を無理矢理納得させ町へと入っていこうとした。 すると突然、俺は何者かに肩を掴まれた。ぷにぷにとした感触、間違えなくアミュの物では無いだろうが一応聞いておく。 「おいアミュ、俺の肩掴んだか?」 「掴んでないよ?きっと他の娘じゃないかな?」 俺の横にいたアミュは、首を横に振って否定した。 一体何者だろうと思い振り向くと、俺の後ろにはいつのまにか紫色の猫耳少女が、ニヤニヤとした笑みを浮かべて立っていた。 「じーー・・・」 「本物の猫の方が良かったな...」 ぼそりと呟く。実際俺は本物の猫は好きだが、猫耳って言うのは好きかと言われればいいえと答える。なぜ猫の独占権利であるあの耳を人間がつけるのか。そういう強い疑問点がある。ちなみに軍事学校の級友は誰一人理解してくれなかった。 俺の嗜好の話はここまでにしておいて、先ほどの呟きは聞こえてないと思ったのだが聞こえていたらしく、彼女は頬を膨らました。 「んもう、あたしだって立派な猫にゃ!」 本当かよ...よし、ここは一つテストしてみよう。 俺はおもむろに彼女の体を引きはがし、彼女の顎を撫で始めた。経験則、猫は顎の下を撫でられると喜ぶ。それが彼女に通用するかどうかでこいつは猫かどうかを判別するのだ。 撫で始めると、彼女の笑顔は先ほどまでとは違う、どことなく嬉しそうな顔をしていた。 この顔を見てると、もっと撫でたくなる。しかし、このままだと本来の目的を忘れてしまいそうなので適当なところで撫でるのをやめた。 「いや、さっきは疑って悪かったな。お前は確かに猫だ」 「...よかった、猫だと思い込ませられたにゃ...」 「何か言ったか?」 「い、いいいいや!?何でもないにゃ!」 あからさまな動揺の後、彼女は咳払いする。 「そういえば自己紹介がまだだったね。あたしはチェシャ猫のカルデラ。あなたの名前は?」 「俺は丹寺奏。俺に何か用だったのか?」 「あたしたちチェシャ猫は、この国に迷い込んだ旅人の案内を行っているのにゃ。奏くんはこのあたりでは3ヶ月ぶりの旅人だにゃ」 「ほーん、それでいつ俺を見つけた?」 「おっきな塊から君が出てきた時」 「つまり俺が迷い込んできてすぐじゃねーか!!」 「誰かが迷いこんできたって勘が当たったのにゃ。魔物の勘をなめちゃいけないにゃ♪」 勘...ねぇ。 ―――― そんな会話を3分くらい続けてたら、アミュにせかされてしまったので町の中に入った。 カルデラはある人物に用事があるらしく、俺達のグループとは一旦別行動になる。 「意外とすぐ広場についたな...」 「あそこの入り口はこの町で一番広場に近い入り口なんだよ」 とりあえず広場に来てみた。広場には何人かの(余談だが相当少ない、町のあちこちにバラけているのか住民が少ないのか...)女の子がこちらを見ている。 (しっかし、なんでこいつらみんな俺を見てるんだろうな...) そう思いながら、俺はやたらと歪んだベンチの真ん中に腰掛けた。アミュはその横に腰掛けたが、いきなりカルデラが広場に戻ってきた。一旦別行動になったと思ったら5分くらいで戻ってきたぞあいつ... そのあと、「アミュちゃんアミュちゃん!ちょっとデュークさんに道案内してあげてにゃ!」とアミュを呼んできた。 どうやらある人物とはデュークという名前の人らしい。 この場所では初の男に会えそうだ。 「よっしゃグッド4!新記録だ!」 俺がしばらく娯楽端末で(時々女の子に逆ナンされながら)遊んでいると、カルデラとアミュが駆け足でこちらに向かってきた。アミュは飛んでいるのでこの表現が正しいのかは疑問だが... 「んもー、私速く飛べないんだからそんな駆け足で走らないでよー!」 アミュの抗議をよそに、カルデラはこちらに話しかけてきた。 「奏くん奏くん!ちょっと来て!」 「走って何分だ?」 「4分!」 「オーケー。向かう。アミュ、速く飛べないなら背負ってやる」 「ありがとう、お兄さん!」 俺はカルデラと共に、アミュを肩車して走り出す。後ろからは広場にいた女の子が声を上げながら俺達を追ってくる。お前ら用事無いだろ! ―――― 「ふふっ」 いやー...男装麗人って本当にいるものなんだな... 今俺は目の前の男の服を着た女と向かい合わせにテーブルを囲み座っていた。うなじにはアミュの愛液の感触があり気持ち悪い。肩車されながら自慰を行っていたようだ、あの性欲野郎め。 「私の名前はデューク。マッドハッターだ。以降よろしく頼む」 「俺は丹寺奏。俺に一体何の用事で?」 「色々聞きたい事があってね。君は今まで来た旅人とはずいぶん違うみたいだ」 「ふーん」 「あ、君も聞きたい事があったら遠慮なく聞いてくれ。カルデラから聞いた話だと、君は教団で教えられる基礎知識すら持ち合わせていないみたいだから」 「そうか、ありがとう。まずは...」 「ま・ず・は?」 「ここは一体どこだ?今日だけで人間の体の構造とはかけ離れた女性を6人ほど視認したが何者だ?君も彼女達の同類か?教団とは何だ?この世界には...」 「ストップ!ストーーーップ!!一つずつ!全部答えてあげるから落ち着いて一つずつ!」 質問をする直前にはニヤリとした笑みを浮かべていた彼女の顔は、なぜか青く染まった。いかん、つい質問の時に早口で問い詰める癖が... ―――― その後、俺はデュークに色々とここや彼女達について聞き、様々な事が分かった。 重要な分かった事に関しては以下の通りだ。 一、ここは『不思議の国』という世界だそうだ。しかし名は体を表すとはよく言った物だがこの世界の住民もこの世界について分からないものがあるような名前だな 二、彼女達は『魔物娘』であり、その全てが人間の女性の姿をしている。そして彼女たちは人間、特に人間の男性が大好きである 三、この世界にはたびたび別の世界(俺のいた世界ではない、また別の異世界。不思議の国との繋がりは深いそう)から旅人が迷い込んでくる。それは俺のように偶然である場合もあれば、この世界を統治する女王の気まぐれだったりする事もある また、デュークにこちらの世界や俺の事を色々と聞かれ、その問いに答えると、彼女はとても驚いたような反応を見せていた。やはりどの世界の者でも、未知の世界への興味というのは共通なのだろう。 「はい、これで君や君の世界についての質問は全部おしまい。最後にもうひとつ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」 「ああ」 「君は、元の世界に戻るつもりはあるのかな?」 「...現在の状況では、ノーだ」 「うんうん」 ん?デュークがちょっとご機嫌っぽい顔をしている。何でだろうな。 「エンジンが修復不可能なレベルにまでイカれているし、もし戦闘機が動いたとして再びワープアウトを行っても元の世界に帰れる保証はない。それならこの世界で助けを待ちながら暮らすほうが安全だろうし、幸い君達は俺に敵対的ではない。まあ救援信号を送る試みはネットワークへの接続段階で失敗しているし、この世界で余生を過ごす事になりそうだがな」 「うーん、ちょっとよく分かんないな...さっき言ってた『だぶりゅーえいちじぇねれーた』という物をもう一回使うより、ここで助けを待った方がいいからって感じかな?」 「そんなとこだな」 俺が答え終わるや否や、彼女はこちらに話しかけてきた。 「ねえ、ここの隣の建物、君にあげよっか」 「えっ、いいのか?」 「うん。ただし、私や他の娘たちと一緒に住むっていう条件つきで」 「まあ別にいいけど」 「やったあ!それじゃあ外に待機している娘たちと一緒に、隣の建物に荷物を運んでくれるかな」 一瞬それまでの大人びた中性的な声からは予想もできないほどの明るい声で叫んだデューク。俺は椅子から立ちつつ「オーケー」と返事をした。 今のテントでは耐久性に不安があるからな。人の好意にはとことん甘えておかなければ。 俺は建物から出ると、こちらをにこやかにじっと見つめる4人の魔物娘と出会った...何だこいつら、トランプから上半身が生えてやがる!? 「え、え?どういう事だ?」 よく分からない状況への畏怖で俺は倒れこみ尻を打った。あっけに取られていると、一番右端の子が困惑したような顔をして話しかけてきた。 「あ、あの、どうかなさいましたか?」 「いや、何でトランプから体生えてるんだ?」 「あ、これですか?驚かせてごめんなさいねー、気にしないでくださいね」 右から2番目の子が俺を立たせながら答える。 「君達が引越しを手伝ってくれる人で間違えないのか?」 「はい、事前に待機してました。ちなみに、さっきの会話もしーっかり聞いてましたからね」 「だろうな。ところで、仮に俺がこの家に引っ越さなければどうしてたんだ?」 「そりゃあもちろん、みんなでテントに引っ越すまでですよー」 「はあ...」 何で一緒に暮らしたがるんだろうな、こいつらは。やはり男性を好む性質ゆえか。 「まあ、ここで立ち話もなんだ、さっさと引越しを始めるか」 「了解!みんな行くよ!」 「「「えいえいおー!」」」 元気そうで何よりだな。しかし、あのテントは中々重いから構築・撤去共々面倒くさい。あいつらのこの元気がいつまで続く事やら... |
前回「作者メッセージが書けない」と言っていましたが、執筆完了後見てみたところ正常に執筆されてました。プレビューではなぜか名前のところに作者メッセージが書かれてるんですよね...
というわけで改めましてこんにちは、どっかの5方向の矢印ゲーが好きなAiramiroです。今回はチェシャ猫とトランパート、そしてマッドハッターの3種族が登場しました。 今回で奏は自力では元の世界に帰る事ができない事が判明しました。また、彼は新たな住居も手に入れる事が出来ました。彼はまだ女性に興味を抱いていないようですが、はてさて魔物娘との同居でどうなることやら... 今回はエロ要素がありませんでしたが、たぶん次回はあります。 この作品の登場人物の名前は大半が様々なものからの引用および改変となっています。 たとえば、ジャブジャブのアミュちゃんは某鉄道会社の駅ビルから、チェシャ猫のカルデラちゃんは某ペットフードを頭の2文字だけ残して別の言葉に、といった感じです。 たぶん今後もそういった感じになる予定です...ネーミングセンスないんだよ俺... 次に製作する作品は魔物娘と現代の仕事みたいなエロなし読みきりか、何かの魔物娘だけで読みきり一本(エロあり、なしかは未定)を予定しています。その後はしばらくこの作品と短編を交互に作っていく予定です。 次回は引越し、からの最初の一夜。次々回にはドーマウス、マーチヘア、ジャバウォックの3人が出てくる予定です。 ハンプティエッグは第6回で登場する予定です、ストーリー進行の都合上少し他の娘より遅れます。 奏の元いた世界での話は、いつか魔物娘たちに奏が話を聞かせてあげるという形式で番外編で出す予定です。(たぶん) 至らない点も多々あると思いますが、どうかよろしくお願いします。 ◆裏設定とか小ネタとか愚痴とか◆ ・第一回での奏の台詞は、実在しているゲームのバグ(およびそれを利用した作者のプレイ)が元ネタ ・奏は護身用の武器を持っているため、(自分の身体能力ではないとはいえ)教団の勇者3,4人くらいなら軽く倒せる。しかし魔物娘には通用しない上に敵対意思もないゆえ劇中で出る予定もない ・妙名判断で奏を診断したらやたら極端だった ・不思議の国の常識に奏が汚染...?されていく描写はどうすれば ・というか不思議の国の変な常識とかそういう描写今回全然だな... 18/08/16 18:55 Airamiro |